運送業の経営と安全管理

トラック運送業の経営戦略

  ■運送業の基本戦略

   長引く不況による受注量の低迷に加え、平成15年の「改正貨物自動車運送事業
   法」「貨物利用運送事業法」の改正「物流二法」の施行によって運送業への参入
   が容易になったこともあり、企業間競争は激しさを増す一方です。

   平成28年12月16日付けで「道路運送法及び貨物自動車運送事業法の一部を
   改正する法律」が公布され、平成29年1月16日付けで施行されました。

   また、運送業は厳しい労働条件、低賃金などのために労働者不足が深刻化して
   おり、
    ・サービス向上ができない

    ・仕事に遅れが生じる

   などの問題が起こっています。

   さらに、大手運送業者は、その資金力・組織力を活かし、こうした問題にいち早く
   対応し、中小運送業者の顧客層にまで踏み込んできているところもあり、中小運
   送業者にとってはますます厳しい状況にあるといえます。

   このような環境にあって、中小規模の運送業者の採るべき基本戦略は、

    ・経営の合理化・効率化

    ・取引の改善

    ・競争力の強化

    ・人材の確保・育成

   が主なものになると考えられます。

  □経営の合理化・効率化

   運送業には、「労働時間の短縮」「労働条件の改善」「環境問題への対応」などの
   さまざまな経営課題が存在しています。

   そして、それらに対する取り組みが運送業の合理化・効率化を着実に進めるもの
   であるといわれています。

   こうした中、各社ともさまざまな取り組みを進めていますが、ここでは、「同業他社
   との関係強化」と「荷主との関係強化」に関してまとめてみます。

   保有車両の回転率の向上とドライバーの労働時間短縮を目的に、異なる地域の
   事業者同士が業務提携し、

    ・着地での配送業務を委託しあう輸送体制

    ・中継点で車両を乗り継ぎあう輸送体制

   を採用することが増えてきました。

   物流の合理化に本格的に取り組むには、荷主に対してその必要性をアピールし、
   理解を求めることも必要になってきます。

   自社の実状や労働時間短縮の必要性などを荷主に訴え、同時に合理的な輸送・
   配送システムを荷主に提案することで、両社の関係が物流合理化という時代の
   流れに沿って深まっていくと考えられます。

   たとえば、このための施策として、

    ・荷主企業の計画出荷に合わせた計画的な配車

    ・複数荷主企業に対する機動的な配車

   などの運行管理を行なうことがあげられます。

   これにより、受注産業という意味合いが強かった体質を徐々に取り除き、運送業
   者サイドの主導でサービスを提供していくというシステムに移行することが可能に
   なると考えられます。

  □取引の改善

   運送業におけるコストアップ要素が増加していることを考えると、これを適正に回
   収するための運賃・料金建ての工夫ならびに荷主との運賃交渉能力を強化して
   いく必要があります。

   まず、コストを適正に回収するためには、
    コストのかさむ「ジャスト・イン・タイム」には割増料金を設定するなど、
    「コストに見合った運賃水準の設定」を行なう

   必要があります。

   また、輸送の効率化を促進するために、

    「閑散時と繁忙期における運賃・料金の格差の設定」などを組み入れる

   必要もあるでしょう。

   これに対する具体的な方策として、

    ・繁忙期割増の設定

    ・休日割増の設定

   などが考えられます。

   逆に、荷主を固定客化するために、
    ・貨物の引き取りと輸送を定期便化できる場合には一定の割引率を適用する
    ・待ち時間のロスをなくす方策を提言する

   など相互にメリットを生む方向へ誘導することも必要です。

   さらに、きめ細かい運賃交渉計画のもとに説得材料としての原価策定資料や輸
   送改善案を作成し、説得力のある運賃交渉を実施していくことも重要となります。

  □競争力の強化

   運送業は基本的には地域産業です。

   したがって、営業地域を中心にして荷主を確実に確保するための施策をとる必要
   があります。

   まず、荷主のニーズを引き出し、自社がそのニーズに対応できるかどうか検討
   し、最終的に「合理的かつ効率的なやり方」でのサービスを展開することになる。

   自社の領域で特徴あるサービスを計画し、提供することが競争力強化のポイント
   となります。

   具体的施策としては、

    ・荷主の配送センター管理機能を代行し、センター業務から配送までの
     業務を一括提供するサービス

    ・自社で物流センターを設置し、複数の荷主に対する物流をすべて請け
     負う物流一貫サービス

    ・その他のサービスとして混載輸送サービスや納品代行サービス

   などがあげられます。

   また、特殊な機能や技術を装備することで他の業者に頼めない業務を獲得すると

   いう視点で、

    ・「危険物の運送許可」を取得する

    ・「広大なバックヤード」をもち、問屋のような在庫管理の機能をもつ
    ・特殊な「積み降ろし機」を保有することで差別化する

   などの方法によるサービス力強化の方向性の検討も必要となります。

  □人材の確保・育成

   運送業は、一般的に労働集約型産業と位置付けられ、労働力確保が不可欠とい
   われています。

   しかし、労働条件の整備・改善が遅れていることや定着率の低下などから慢性的
   な人材不足状態にあるため、年間を通じて募集(公共職業安定所、求人誌、口コ
   ミなど)を行なっている状況です。

   そのため、採用や教育にコストや時間がかかり、負担が大きくなっています。

   次に、こうしたことを踏まえて、運送業の人材面における、

    ・人材の質的・量的充足

    ・人材の多面的活用

    ・研修体制の強化

    ・福利厚生制度の充実

    ・労働条件、社内制度の整備・改善

    ・職場環境の充実

    ・自社の魅力向上とP R活動

   などの課題を解決していくための視点をまとめます。

   1.計画的かつ安定的な雇用体制

     従来の運送業の多くが、欠員が生じた際に単発的な雇用計画を採ってきた。

     そのため、ドライバーの定着率や質が向上しないといった問題を抱えていた。

     そこで今後は、

      ・中期経営計画に即した要員計画の策定

      ・募集活動の体系化

      ・将来の経営幹部候補としての新規学卒者の採用

      ・教育研修制度の充実
      ・労働条件の見直し

      ・作業環境の改善と整備

      ・企業イメージの向上とアピール

     などを行なうことにより問題を解決することが必要となります。

     これらの点については、2以下で具体的にご説明しましょう。

   2.教育・研修体制の強化

     自社の経営方針と教育体制を明らかにし、これに沿ったドライバーの教育訓
     練、能力開発、さらに帰属意識や労働意欲を引き起こすための教育研修を実
     施します。

     教育マニュアルや教育研修スケジュールに沿った月単位・年単位での行動計
     画を個人(あるいはグループ)で作成させると効果的です。

     また、研修時以外でも、日常的に従業員の「提案制度」を導入し、業務のロス
     をなくすアイデア、業務の生産性向上や効率化のアイデア、顧客サービスや
     売上向上のアイデアなどを提言させ、効果を上げた提案については「社長賞」
     「部長賞」などの表彰や報奨金の支給、あるいは給与待遇改善など論功行賞
     で報いることも、定着率や帰属意識を高めるのに大きな効果があります。 

   3.福利厚生制度の整備

     労働力の確保のためには、福利厚生の充実を図り、職場を魅力あるものにす
     ることも必要です。

     賃金以外の具体的な福利厚生面での例としては、

      ・独身寮、社宅の整備

      ・住宅手当の支給や持ち家援助制度の導入

      ・フィットネスクラブの法人契約

      ・保養所の確保

      ・人間ドックなど健康面でのサポート

     などを実施することが考えられます。   

   4.中高年・女性の活用

     労働力確保が難しいなか、中高年や女性に目を向ける必要もあります。

     しかし、これらの人々を採用するには、労働環境についていくつか整備しなけ
     ればならない点もあるでしょう。

     中高年であれば、若年層と同一の作業条件で労働させることは困難なので、
      ・仕事量の軽減

      ・労働時間の短縮

     などといった点を配慮する必要があります。

     また、女性を採用する場合、

      ・育児を行なう際の労働時間の短縮

      ・女性専用トイレ、ロッカー室などの整備

      ・男性と区別のない評価制度の採用

     などを考慮しなければなりません。

   5.イメージの向上

     クリーンで活動的なイメージを与えることを目的に、社名を変更する企業が増
     えています。

     これは、CI(コーポレート・アイデンティティー)の一環として行なわれることが
     多く、自社のイメージをプラス方向に転じさせ、雇用確保や社員定着率の向上
     に大きな効果が期待できます。

     いかにクリーンな企業イメージを作っていくかが、雇用確保の面でも重要に
     なってくると思われます。

   以上、トラック運送業の一般的な経営ポイントを取りまとめました。

   経営ポイントにはこの他にも

    ・営業構造をどう作り上げるか

    ・財務体質をどう強化するか

    ・情報収集管理力をどうつけていくか

   など、さまざまな課題があります。

   今後の事業展開に合わせ、順次検討されることをお勧めします。

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運送業の経営と安全管理

運輸業の安全衛生チェックリスト

運輸業の安全衛生チェックリスト

 安全で健康な職場づくりのためには、まず職場の安全衛生に関する状況について、把握する
 ことが大切です。
 チェックリストを活用して、職場や個々の労働者の状況をチェックし、安全衛生活動を
 強化しましょう。

   陸上貨物運送業 (出所:青森労働局)
   

運送業の経営と安全管理

輸送品質向上の取り組み

輸送品質向上の取り組み

■輸送品質向上の取り組み
 物流企業にとって輸送品質向上取組は基幹業務の改革であり、経営陣の決断のもと会社を
 挙げて取り組むべき課題のひとつといえます。
 正品輸送の観点から輸送品質向上の取組を組織的・体系的に実施していくためのポイントを
 整理しました。
 自社の取組推進のための資料としてご活用ください。

 1.方針・計画の策定に関するチェックポイント
  □輸送品質向上を目的とした会社の方針・計画を策定している。
   経営陣による輸送品質向上取組の意思が表明され、統括管理部門(管理担当者)が
   取組方針・実行計画を具体的にまとめ、これに基づき各部門の責任者がそれぞれ
   の部門としてより具体的な取組方法・実行計画をつくり、計画的・体系的に実行
   していくことが重要です。

  □輸送品質向上を目的とした数値分析と数値目標策定がなされている。
   誤配・紛失・破損・濡れ損等の事故について、発生頻度・発生額・発生件数・原因
   などを分析し、実態を把握した上で、中期目標・年間目標を定め、これに向けて
   対策を検討・実行していくことが望まれます。

  □原因の追究を行い、対策を即実施している。
   事故報告書を作成しているケースは多いようですが活用できていない会社が多い
   ようです。
   事故の多くはヒューマンエラーによるものですが、「フォークリフトのスピードの
   出しすぎが原因でした。今後気をつけます。」といった報告内容ではなく、
   「ギアがセカンドに入らないようにチェーンを巻きロックし、今後同様の事故が
   発生しないようにします。」といったヒューマンエラーを回避するための対策を
   即実施していくことが大切です。
   ヒューマンエラーはちょっとした工夫とそのための従業員の意識付けによって回避
   できるものも多数あります。

 2.作業方法の標準化に関するチェックポイント
  □重要事項を業務規定としてとりまとめている。
   「輸送品質向上」対策の管理・実行の組織体制(例えば、社長−役員会−担当役員
   −品質管理部門−各部門−各部店−作業責任者−各従業員 といったものの詳細)や、
   各作業責任者の業務内容・役割など、「輸送品質向上」対策を実施していく上で
   基礎となる事項を業務規定として明確化し従業員に徹底しておくことが重要です。
   また、これにより各担当の責任と権限が明確になり体系的な取組を推進していく
   ことができるようになります。

  □業務内容毎に会社としての作業マニュアルを作成している。
   貨物受託/集配車積み付け・荷卸し/ターミナル等仮置き・倉庫保管・単純加工
   作業/路線便積み付け・荷卸し/貨物引渡し/事故対応・伝票管理・貨物の種類や
   梱包毎の荷扱い方法など業務内容に応じた自社の作業方法に関して標準化して
   マニュアルを作成することが求められます。
   これを活用することによって全従業員が同等に「あるべき作業方法」を理解し、
   また作業責任者が従業員を指導教育するべきポイントも明確になり、さらに
   「輸送品質向上」への意識付けに役立ちます。

 3.教育研修のチェックポイント
  □各階層に求められる業務水準を策定している。
   新入社員・中堅・作業責任者・現場管理者・管理部門等、各階層に求められる
   業務水準を明確化し、それぞれに必要な教育研修内容を検討していくことが必要です。

  □計画的な教育研修を実施している。
   管理部門が教育研修の年間計画を策定し実行するとともに、現場管理者がOJTに
   よる研修・訓練の具体的な実行方策を検討・実施していくことが求められます。

 4.組織・要員配置のチェックポイント
  □責任と権限をもった輸送品質管理部門(管理担当者)がある。
   輸送品質向上対策は部門横断の取組となります。
   従って、横断的な調整役・管理役となる組織もしくは担当者が必要になります。
  □各作業責任者の役割を明確にし、責任と権限を与えている。
   作業責任者が管轄する範疇(根本的な枠組)について「輸送品質向上取組」の成果
   達成のために果たすべき役割を明確にすると同時に、一定の責任と権限を与え実行
   を推進していける体制を構築していくことが望まれます。
   これには、現場管理者が作業責任者をしっかりと統括することが求められ、さらには、
   輸送品質管理部門が現場管理者を指揮していく体制構築が必要です。

 5.リスク管理・自然災害対策のチェックポイント
  □自社と取り巻くリスクを把握し対策を策定している。
   自社の物流業務を業務毎に分割し、各パートに関わるリスクを洗い出し、保険
   手配するもの/自社保有するものを整理し、保険手配するものは必要十分な内容を
   手配するよう保険会社と打ち合わせていくことが求められます。

  □自然災害対策を策定している。
   近年、台風・集中豪雨・地震などの自然災害による損害が多く発生しています。
   万一の時に取るべき行動を整理した上で、役割分担を明確にし、そのための準備を
   計画的に行っておくことが重要です。
   初期動作の誤りは会社経営を揺るがす損害拡大に繋がりかねません。

 6.自主検査・社内監査のチェックポイント
  □各作業・施設管理について自主点検台帳を整備・活用している。
   各作業責任者の役割に基づいて、会社標準の自主点検台帳を作成し、これに記載
   された項目について定期的に自主点検することが望まれます。
   また、自主点検の結果は現場管理者が点検状況をチェックし、自主点検が正しく
   機能しているかを確認・指導していく必要があります。

  □明確な監査項目に基づく社内業務監査が行われている。
   輸送品質管理部門が統括するもとで、各管理部門が監査項目を明確にし、これに
   基づき定期的に現場監査を行い、「輸送品質向上取組」が機能しているかを確認
   していくことが求められます。

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運送業の経営と安全管理

荷物事故防止と経営

荷物事故防止と経営

■荷物事故防止と経営
 事故防止の本当の効果を挙げるためには、“方法”はともあれ、社員一人ひとりが事故防止
 という仕事に熱意をもって真摯に取り組む、何よりもそんな状況を作り 出す必要があります。
 こうした真摯な取組姿勢の向かうところは何も事故防止だけに限りません。
 これらは会社のあらゆるものを対象とし、会社全体の改革にも通じるものです。
 ではどうしたらそんな状況を作りだせるのか。

□ホーソン効果
 少々旧聞に属しますが、 かつてアメリカに実在した電機会社、ウェスタン・エレクトリック社
 のホーソン工場で実際に観察されたもので、従業員に対する気配りがいかに大切かを語る
 ものとして有名なものです。
 経営の改革に熱心なこの工場では、あるとき作業環境の改善が生産性の向上にどれだけ
 寄与するか調べるため職場の照明を明るくしたところ、予想どおり全体の生産性が向上
 したそうです。

 そして同じ観点から別の要素と生産性との関係を探るため今度は照度をもとの水準にまで
 引き下げたところ、意外にもその生産性はさらに向上したというのです。
 こうした、実際の明るさとは関係なく生産性が向上するという不思議な結果がもたらされた
 原因について、アメリカでは種々論議されました。

 そして今では、全く逆方向の対応により都度生産性の向上をもたらされたのは、普通
 考えられるように物理的な状況の改善が実現したからではなく、そこに、職場の環境や
 従業員の状況に注目し、その向上に前向きに取り組む会社の姿勢を従業員が読み取った
 からだ、と考えられるようになったのです。

 その後このことは各方面からも注目され、いまでは“ホーソン効果”という名で知られる
 ことになった訳ですが、ここから読み取るべき教訓をあるアメリカの高名な経営コンサル
 タントは、次のような言葉で表現しています。
 「(企業の)生産性に対して主要な意味をもつのは、労働条件それ自体でなく、従業員に
 対する経営者の配慮なのだ」と。

 もちろん、賃金水準だとか、労働時間といった問題を置いといていいといっている訳では
 ありません。
 しかし、経営的なプライオリティからいうと従業員の立場を常に考えるということが
 これらに優先されるべきだ、というのがこの言葉です。

 仮に労働条件にそれなりに満足がいっているとしても、会社、すなわちそれを構成している
 従業員を活性化するためには、事故防止活動なども基本的に同じです。
 従業員が何に困っているのか、常に気を配りそれにすばやく対応していく姿勢を保つ
 ことが何よりも大切だ、というのが、この“効果”の教えるところなのです。

 こうした効果がもたらされた背景には、仕事を通じて自らの存在感ややりがいを求めている
 従業員の存在を見ていいように思います。
 さらに踏み込んで、そうした存在だと認識して従業員と接することが従業員を励まし力づけ、
 結果として会社を前進させた、そんな見方をとることも許されるのかも知れません。
 しかし、現実をみるとどうでしょう。

 環境は非常に厳しく労働条件面で従業員に報いていくのはこれまで以上に難しくなって
 います。
 そうした厳しい状況のなかで、この点はより一層配慮されるべきなのではないでしょうか。

□あなたの会社のトイレはきれい?
 前項で、従業員に対する配慮が大切といいました。
 実際に配慮が行き届いているかどうか、そのことを端的にチェックしてみるところとして、
 案外こんなところもあってよいのではないでしょうか。
 運送会社というとそれほど外来のお客さんが来る訳ではありません。
 そのため、こうしたどちらかといえば従業員用の施設は後廻しにされがちです。

 しかし、社長が従業員のことに十分気を配れているかどうか、それを測るある意味では
 格好のバロメーターになります。
 社長がいかに従業員のことを思っていると“思い込んで”いても、トイレがキレイでない
 場合には、その思い込みを疑ってみるべきです。

 つまらないことですが、こんなところに会社の本質が表れ、そのレベルを従業員は敏感に
 感じとります。
 「神は細部に宿る」、です。
 もちろんトイレがき れいだからといって、活力のあるいい会社とは限りません。

 しかし、“いい会社”のトイレはおしなべて“キレイ”なはずです。
 それは、そこが従業員を大切にし、誇りをもって仕事に向かう気にさせる大切な場所の
 ひとつだからです。
 従業員が会社にプライドを持ち、より一層仕事に目を向けられる環境を作りだすこと。

 そのためには、会社は常に自分たちに注目し、配慮してくれているのだ、という実感、
 信頼感といった方がもっと適切かもしれません。
 この言葉を生み出すことが、何よりも優先されて考えられるべきです。
 会社の付加価値を生み出すのは従業員以外にはないからです。

 その従業員の力を引き出すには、目に見えるところで常に従業員のことを配慮し、大切に
 されていることが感じられるよう、そして会社のことを誇りに思えるよう最大限努力すべき
 でしょう。
 こうしたことはどんな言葉を費やすよりも、雄弁にそのことを実感させてくれることは
 確かです。

 ある意味では取るに足らない、おざなりにされていることが、従業員と会社の信頼関係を
 築いていくうえでとても大きな意味を持っているからです。
 言葉で語ることはもちろん大切です。
 しかし、日頃口にしている言葉を実際に目に見える形で表現する。

 要は首尾一貫。
 そのことが、従業員一人ひとりの仕事振りをどれだけ鼓舞することにつながるか。
 事故防止を考えるにあたって、そのことをもう一度思い起こす必要があります。

□管理はだれがするの?
 管理というと、何となく経営者が必要な物事を決めて、従業員がそれに従って行動する。
 そんなイメージが色濃く残っています。
 ここで再度思い起こしていただきたいのは、会社としての価値を生み出しているのは誰か、
 という点です。
 言うまでもなくそれは現場、すなわち従業員です。

 会社が抱えている問題に答えを出してくれるのも、従業員に他ならないのです。
 では、その従業員が答えを出すために最も 前向きになれるのは、一体どんな時でしょうか。
 人に指示されて動く時? それとも 、自ら決めた方針に従って動く場合? その答えは
 言うまでもないでしょう。

 しかし、経営とは難しいもので、現場から突き付けられる様々な条件が、こんな簡単な
 ことも実際には見えにくくしてしまいます。
 また、一定の成果を得るための時間にも限りがあります。
 そのため、これとは違った考え方から政策を決めたり、その実行を強制したり、というのが
 残念ながら通例となっているように思えます。

 しかし、経営者がどんなに優れていても、現場の第一線が優秀でない限り、優れた業績を
 残すことはできません。
 優れた成果は、優れた従業員がいて初めてもたらされるのです。
 経営者がひとりドタバタしたところでどうしようもないのです。

 その点からいうと、優れた経営者とは現場を優秀なものとすることに長けた人、そう定義
 することだって可能でしょう。
 では、現場を優秀なものとするためには一体どうすればいいのでしょうか。
 これにはいろいろなアプローチの仕方が考えられますが、大きく分けて方法は次の2つの
 見方に分けられるように思えます。

 ひとつは、従業員の本質は不真面目で、きめ細かく“管理”しないとすぐさぼる、とする
 見方です。
 もうひとつの見方は、従業員は仕事に“給料” や“生活” といった面だけでなく、自己の
 実現を求める信頼できる存在だ、とするものです。

 どちらも100%正解でないとともに、100%誤りというものでも ありませんが、
 問題はその点にある訳でなく、どちらの見方により比重を置いてアプローチするか、そして、
 どちらの見方を取った方がより大きな成果を期待できるか、ではないでしょうか。
 上の見方は視点を変えて見ると、前者は管理を優先する見方、後者は管理よりも自主性を
 尊重する見方と言い換えてもいいでしょう。

 管理することの限界は、決められたことの着実な実行をある程度担保するものの、決められた
 こと以上に大きな成果は期待できない点にあるとされます。
 また、従業員の「決められたこと」に対する打込み度合いも、必ずしも十分な水準とは
 ならない、という 点が懸念材料です。

 これに対して、自主性を尊重する見方は、実現したいと思うことの実現可能性を十分担保
 してはくれません。
 しかし、実現したいと思うこと以上の成果がもたらされることが期待されます。
 また業務に対する十分以上の献身を引き出す可能性ももっているのがこの見方です。

 さて、ここで先の設問に戻りましょう。
 現場を優秀なものとするためにはどうすればいいか。
 答えは簡単ではありませんが、上の考え方をベースとして次のような在り方を考えることが
 できないでしょうか。

 すなわち、信頼をベースに従業員の“やる気”を引き出すことを優先的な課題とし、何を
 どうやるかについては基本的に従業員に委ねる。
 そして、その営みが会社を誤った方向に導く恐れがある場合について限定的に管理する。
 つまり、目標に向かって従業員の自主性を尊重し十分な打ち込み引き出すとともに、その
 ブレだけを管理する。

 そんな在り方です、言葉にすると「やる気の管理」とでもいうのでしょうか。
 事故防止になぞらえて考えてみましょう。
 その方策として、経営者が幾つかの方法を採用し、その徹底を図り、進捗状況を逐一
 管理する。
 従業員のやる気を十分引き出せる方法といえるでしょうか。

 初めの方でも触れましたが、人間は人に指示されて動く場合より、自ら決めた方針に従って
 動く場合の方が信頼されているという実感を背景としているのであれば尚更のこと
 より積極的になれるものです。
 またより深い充実感を感じながら行動できるものです。
 もともとだれだって主人公になりたいのですから。

 この積極性、充実感が、管理することより、より優秀な現場、そしてより大きな成果を
 もたらすと考えるのは、果たして考えが甘いのでしょうか。
 管理はだれがするの?
 それは基本的には従業員自身。
 これがこの設問に対する最初の答えです。

□ビジョンって大切?
 前項では、一方的に管理することより、従業員への信頼、そして自主性の尊重を通じて
 やる気を引き出すことの大切さを直接的な言葉で話しました。
 ですが、成果が上がらなければどうするんだ、そんな声が聞こえて来そうです。
 ここで自社の取組みを振り返ってください。
 これまでの取組みではどちらかというと、管理を前面に押し出していたはずです。

 事故発生率などの目標に基づいてきめ細かく行動や成果をチェックする。
 その上で足りない点、改善を要する点について改めて従業員に指示を下す。
 期待した以上の成果が上がったといえるでしょうか。
 やるべきことは、やった。
 結果は今一つだけど、それなりに満足!?

 でも、ひょっとしたら満足しているのは、“管理する仕事”が一応できたことで、成果が
 上がったことではない、なんてことはないでしょうか。
 そして、一番大切な従業員は、この間何より信頼され充実した仕事ができていたので
 しょうか。

 さらに、そうした管理を実際にしなかったとしても、これは調べようもないのですが
 似たりよったりの結果が得られたなんてことは本当にないのでしょうか。
 事故を減らすというと、私たちはつい“管理する“ことに頭が先に行きがちです。
 何かしなければという思いが、方針を決め、目標を掲げ、定期的に実態をチェックする
 という、いわゆる“管理の道”をたどらせる。

 それはそれで当然です。
 そして厳しく従業員を指導する?
 もちろんこうしたことが必要ないということでは、全くありません。
 むしろこれまで十分計画的にできていないようでしたら、改めてその必要性を再認識する
 必要があるといっていいでしょう。

 しかし、ここでいいたいのは、こうした直接的な管理よりももっと大切な“管理”があり、
 その管理を措いて、“いわゆる管理”だけで成果を得ることを期待しても限界があるのでは
 ないか、という点です。
 その大切な管理が何かというと、先にも触れた「やる気の管理」です。

 従業員の自主性が最大限発揮できるような状況、仕事に対する十分な献身ややる気を
 生み出すような状況。
 そうした状況作りをないがしろにして、日常的な管理をいかに強化しても、 その成果が
 限定したものにとどまるのは想像に難くありません。
 事故防止のテーマは非常に明解です。

 とにかく事故を減らすこと。
 その達成に向けた管理、すなわち何をどうするかは、その仕事が一番進めやすい従業員の
 やる気をいかに動員するか、その点に照準を絞って考えなければなりません。
 “いわゆる 管理”はその次の問題です。
 これでは、管理にならない。

 第一何の成果ももたらせなかった場合どうするんだ。
 その疑問に対する答えはこうです。
 どんな会社にしたいか明確なビジョンです。
 会社の基本的な価値を指示する夢や目標と言い換えてもいいかも知れません。

 そのビジョンで管理する、すなわちそれを従業員に徹底してはたらきかけ理解を得、
 プライドをもって仕事に臨めるようにすること。
 ことばを換えていうと、会社で働く人を“従業”員という立場でなく、経営者とビジョンや
 価値観を共有するパートナーに引き上げること、そういっていいのかも知れません。
 すぐれたビジョンは、こんな言葉で形容されます。

 「ビジョンは・・・組織の様々なレベルにおいて上司に相談せずに決定を下すことを
 可能にする。また決定を早めると同時に、部下のミスを確実に減らす原則集にもなる。
 解決法がビジョンの目標に合致しているか否かを判断すればいいのだ。」
 ビジョンが明確で、従業員の真の共感を得たものになれば、ビジョンそれ自体が管理の
 役割を担ってくれるようになるのです。

 従業員はただビジョンの指し示すところに従ってみずからの行動指針を具体化し、目標の
 実現に向かって邁進する。
 すぐれたビジョンはそうした主体的な活動を生み出す源泉になるはずです。
 その際細々したことは一切言う必要はありません。

 目標が事故防止であれば、社長は様々な手法を基に細々と管理するのではなく、何よりも
 先に事故というものがどれだけ会社のビジョンや従業員のプライドをだめにすることに
 つながるのか、従業員に気付いてもらうことから始めるべきです。
 ビジョンの示す価値観が本当の意味で共有されていれば、後は従業員自身がみずから考え、
 その自由な選択に基づきそれこそ試行錯誤ででも答えを見つけ出してきてくれるはずです。

 繰り返しになりますが、やるのは社長ではなく、あくまで従業員です。
 その従業員の“やる気”やその出どころを問題にしないで、やり方だけを云々しても、真の
 意味で目標が達成されることはありません。
 これまでの事故防止の取組みが十分な成果を生み出していないとしたら、この点を疑って
 いいのかもしれません。

 日常的な管理をいかに徹底しても、その成果が限定したものにとどまるのは、自律的に
 やるべき従業員が、“管理される項目”をただ“やらされている”だけで、目標の実現に
 本気で努力する主体性ややる気を生み出すことに、それはつながっていないからかも
 しれません。

 IBM を“現在の IBM”に引上げたとされる トーマス・ワトソン・ジュニアはこの辺りの
 事情を次のような言葉で語っています。
 「企業が成功するか失敗するかの真の違いは、組織がそれに属する人びとのエネルギーと
 能力を十分に生かしきっているかどうかという問題に結局行き着くのではないかと考えて
 いる。

 人びとが相互の共同目標を見つけるのを助けるために組織はなにをするのか?」日常的な
 管理を越えた管理、ビジョンを通した管理。
 管理という言葉は相応しくないかもしれないが必要な事情をお分かりいただけたでしょうか。

□それ以外に大切なもとは?
 社長のやることは、明確なビジョンを作り、それをあらゆる機会を通じて従業員に理解
 してもらうこと。
 そしてみずからがその最大の実践者として終始首尾一貫した行動をとること。
 事故防止に何よりも大切なことは、事故防止とは一見何の結び付きもないようなこうした
 ことだと思います。

 ではこれだけやれば、後は従業員まかせでよいのでしょうか。
 社長の仕事はある意味ではここから始まるといってもいいかもしれません。
 もちろん“管理”することではありません。
 それは何か。
 それは従業員の熱烈なサポーター、応援団となることです。

 もちろんすべての従業員の、という訳にはいきません。
 前向きに、熱意をもって仕事、すなわちビジョンが示す価値の実現に打ち込む献身的な
 従業員のです。
 そして、そうした取り組みを進めている従業員を見逃さず、時に仕事を思う余り失敗する
 としても熱意をもって支持し、称揚することです。

 その際、結果ではなく、その取組みに対する熱意や創造性、そして革新性といった面で
 評価することも忘れないでください。
 そうした支援を継続的に行うことが、ビジョンの示す価値を会社がどう考え、どのような
 仕事を従業員に期待しているかを明確に物語ることにもなるはずです。

 そして、もう一つ。
 多少時間とお金がかかるかも知れませんが、従業員を徹底的に教育することです。
 といって、従業員を会議室に集めて、技術的なことを伝えることだけが教育ではもちろん
 ありません。
 教室はむしろ日常の現場の方がずっと優れているかも知れません。

 教える内容も技術的なことにとどまらず、むしろ会社の価値観、ビジョンといったものに、
 もっと重きを置く必要があるでしょう。
 要は社長とおなじ目線でみずから考え、やる気を起こして仕事に打ち込む従業員を生み出す
 ために必要な教育や訓練を、できるだけ多くの機会を通じて従業員に行うことです。
 それも徹底して。

 何といっても、会社の最大の資産は従業員であり 、最も大切な会社のパートナーだからです。
 そのパートナーたるべき従業員の質の向上を抜きにして、事故が減ることも、会社が
 前進することもあり得ないからです。

□最後に
 いままでの話を簡単にまとめると次のようになります。
 ○会社の最大の資産は従業員であり(建物でも車両でもありません)、その従業員を
  信頼し、プライドをもった仕事の重要なパートナーとして目に見える形で大切にして
  ください

 ○従業員を一定の方向にはめこむような管理をやめ、その自主性を最大限尊重し、高い
  次元での管理を考えてください

 ○会社をどんな会社にしたいのかを明確なビジョンとして掲げ、熱い気持であらゆる
  機会をとらえ従業員に飽かず語り共感を克ち得てください。
  そしてみずからそのとおり行動してください

 ○そのビジョン、夢?に沿って一生懸命努力している従業員を精一杯励まし、応援して
  ください

 ○管理ではなく、教育する機会をもっとふんだんに用意してください
  どれもが事故防止のための土台を作るために欠くことのできないものです。
  こうした土台作りを抜きにして、短兵急に事故防止の様々な取組みを進めても、その
  成果は予想外に小さいものにとどまるのではないでしょうか。
  いい作物をつくるには、いい土作りから。
  これは農業の基本ですが、もっとも迂遠に見えることが、成果につながるもっとも
  近道になっていることを教えてくれる一つの考え方です。
  事故防止についても 、全く同じことがいえるのではないでしょうか。

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運送業の経営と安全管理

運送業の人材活用

運送業の人材活用

  ■長く働いてもらえる職場づくり 
   運送業は、社員の大半が運転者で占められていますが、他の産業と比較して、
   運転者の高齢化傾向が近年目立ってきています。
   このような傾向は、運送業において、若い世代の人材を確保することが難しい状況
   を示しています。 
   この他、運送業の中で目立ってきた傾向として、1つの職場に比較的長い間とどまる
   運転者が増加してきたこと、および女性の進出が指摘されています。
   今後の経営においては、このような傾向の変化を踏まえ、運転者にとって長く
   働ける職場をつくること、すなわち
    ・教育育成制度の整備 
    ・中高齢者や女性でも快適に勤務できるような業務の再設計
   などの施策が重視されるようになります。 
   また、変化の激しい時代に対応するためには、サービスの品質向上への取り組み
   が欠かせません。
   そのため、サービスを提供する社員自身につねにサービス向上について意識して
   もらうような環境づくりも大切です。 次項以降、こうしたことを踏まえ、運送業
   において配慮すべき人材の活用策を紹介します。

  □社員個人を把握する
   1.努力や成果を認めているか 
    会社がどのような人材をもっとも好ましいと考えているのかというあるべき姿
    を理解させ、同時に、それに近づく努力をした者にはきちんとした評価を行なう
    ことにより、従業員の意欲を喚起することができます。
    逆にこのようなことが行なわれていない会社では、社員は徐々に、努力を継続
    しよう、成果をあげようという気持ちを失ってしまいます。 
    このような状態を防ぐには、
     ・会社はどのような視点から人材の評価を行なっているか 
     ・会社は、各社具に対してどのような評価を下し、どのような期待をもって
      いるか
    ということを、社員一人ひとりにきちんと知らせることが必要です。
    具体的には、自社の評価制度の仕組みを明確に説明し、評価結果を本人に対して
    フィードバックする、また、その評価結果と貸金などの処遇とを連動させる
    といった制度面の整備を行ないます。
    その際、重要なのは、評価の透明性を高めるように配慮することです。

   2.社員がどのような希望、価値観をもっているか 
    業績や業務遂行上の技能に対する評価はもちろんのこと、個々の社員の成長の
    度合いや彼らが将来的にどのような人生設計、キャリアプランをもっでいるか
    ということに関心をもつことも、非常に重要です。 
    社員各人の事情や希望・計画と、企業が社員に対してもっている期待・計画
    とをすり合わせることが、人材活用の基本であり優秀な人材をつなぎ止める
    ポイントでもあります。 
    特に、社員を新たに採用したり、新しい業務につけたりする場合には、十分
    本人と話し合いを重ね、その希望をきめ細かく聞き出し、それを踏まえて配置や
    諸々の処遇を考える必要があるでしょう。 
    また、既存の社員に対しても、新年を迎える際などの機会を利用してそれぞれの
    人生設計を考えさせたり、「自己申告制度」を設けて配属に対する希望を出させる
    ことも社員の価値観を把握する上でよいことと思われます。

   3.従業員満足を考慮しているか 
    前述のほかにも、社員が快適に、安全に、やりがいをもって仕事ができる環境
    をつくる方法はいろいろ考えられます。 
    自社に合った施策を打つためには、まず社員に対して 
     ・やりがいをもって仕事をする妨げになるのは何か 
     ・具体的に会社に対してもっている不満は何か
    を尋ね、自社でできる範囲のことは改善し、また、対応できない部分についても
    何故できないのかを説明し、理解を求めるようにするとよいでしょう。 
    アンケートなどの手段で社員の意識やニーズを把握することを、「従業員満足度調査
    と呼びます。 
    貸金体系の整備や、福利厚生策の検討、また設備・機械類の導入などの場合にも、
    こうした社員のニーズを取り入れるようにすると意識向上に役立ちます(とくに、
    人手不足に悩んでいる企業においては、人材確保のための施策としてもこうした
    活動が重要になります)。

  □社員にやる気になってもらう 
   社員が、個々の仕事に着手する前に、 
    ・この仕事の目的は何か 
    ・どのような成果が求められるのか
    ・この仕事によって、誰にどのような影響がでるのか 
    ・それは誰がどのように評価するのか
   ということを明確に意識できるかできないかで仕事に対する社員の心構えは、
   大きく変わります。
   そうした仕事に対する意識を高め、心構えをつねに思い起こさせるために、自社独自
   の心構えを簡潔な言葉にまとめ、「社訓」などとして日常的に斉唱・暗諭させる
   ことも一定の効果をもたらします。
   これらの情報をまったく与えられない状況では、社員はただ、指示された手順を
   機械的に実行するよりほかありません。 
   上司や会社の指示による仕事ばかりで、「この仕事はこう工夫してはどうか」と
   各自が考えられないような状態では、仕事に面白さを感じることはできません。
   そこで、社員にやる気を出してもらえるような対策を考えます。 
   その手段として、
    ・提案制度を利用する
    ・TQC活動のような改善運動を行なわせ、そのなかから会社に対する要望が
     出てくるように仕向ける
    ・社長、上司が社長と直接コミュニケーションをはかる機会を増やし、日頃
     からどのような不満があるか企業側に伝えやすい弄囲気をつくる
   などの方法が考えられます。

   1.提案制度の導入
    提案制度は、業務改善に関する現場の声をすくい上げ、サービス品質の向上や
    コストダウンに結びつけることなどを狙いとします。
    実際に効果のあった提案には、評価上のポイントとして加点したり、報奨金を
    出すなどしてモチべ−ションの高まりを期待します。
    提案制度実施の際は、漠然とよいアイデアを募集するのではなく、「コスト削減」
    「事故防止」「納期短縮」などのテーマごとに目標数値を定め、それを達成する
    方法を募集するなどのほうが効果的でしょう。 
    こうした提案運動は、評価する側に公平かつ適正な視点が求められます。
    審査の過程や審査基準も明らかにするべきでしょう。
    そのためには、提案活動を推進する部門または委員会のような組織の設置や
    評価者に対する指導・訓練などを検討する必要があります。

   2.TQC活動の実践 
    社員に現サービスにおける問題点の発見とその改善策を考えてもらう手法として、
    TQC(トータル・クオリティー・コントロール=全社的品質管理)活動があります。 
    TQCの実践により、グループで共通の改善目標に向かって作業を分担し、従業員
    一人ひとりが自分の仕事の品質改善に取り組むという習慣づけがなされます。
    しかも、問題発見能力や問題解決能力など、個々の能力の向上により、自社の
    サービスの品質も向上していくことになります。 
    また、TQC活動では、通常業務ではかかわらない部署や社員との接触もある
    でしょうから、お互いの相互理解にも寄与することでしょう。 
    TQC活動の結果生まれた業務改善案の例をご紹介します。

    ◎業務によって受ける肉体的な負担が大きい 
     →運転席には楽な姿勢がとれ、かつ振動を軽減するシートを採用する 
     →針灸師などと提携し、社員が格安に、あるいは全額企業負担で
      治療を受けられるような体制をとる
    ◎交通災害の危険性が大きい 
     →改善運動によって、運転者のなから「あのカープは対向車がとくに
      見えにくい」、「ここは休憩・仮眠をとるのに最適」という情報を
      集めさせ、それらの情報を盛り込んだ地図を作り、配付する 
     →体調の悪いときは運転を交代したり、適宜休息をとってから仕事に
      臨めるように、目安となるような「体調チェックシート」を作る

   3.コミュニケーションの浸透を図る 
    スムーズな意思疎通や快適な職場づくりのためには、上司・部下のコミュニ
    ケーションが非常に大切です。 
    特にドライバーの場合、1日のほとんどを社外で活動することになるため、
    上司とのコミュニケーションは非常に大切です。
    電子メールが普及したとはいえ、定期的に面談を行なうなどしてお互いの理解を
    深めることの重要性は変わりありません。 
    面談では話しやすい雰囲気づくりに心がけ、業績に対する評価よりも
     ・顧客とのやり取りのなかで気付いたこと
     ・会社が示した方針や新しく始まった取り組みに対して考えること 
     ・業務改善に対するアイデア
    など、社員が考えていることを把握することに重点を置くようにするとよい
    でしょう。 
    業務改善のアイデアなど積極的に提案しない社員には、提案を促すなど適切な
    アドバイスを行なうようにします。 
    また、ドライバーの育成という面では、ベテランドライバーが経験の浅い
    ドライバーや事故・クレームの多いドライバーをマンツーマンで指導するという
    制度を導入しているケースもみられます。
    指導される側の運転技術や安全に対する意識の高まりが期待されるほか、指導する
    側にとってもプロのドライバーとしての意識を再確認してもらう良い機会にも
    なるでしょう。 
    ただし、ベテランドライバーのすべてが指導に向いているとは限りませんので、
    指導するドライバーの人選には注意が必要でしょう。

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運送業の経営と安全管理

荷役作業の事故対策

ターミナルでの荷扱い作業


  ■ターミナルでの荷扱い作業

   集配ターミナル・ハブターミナルは、「荷卸し」「仮置き」「積込み」と作業員の手作業を伴う
   場面が多くあるため、ヒューマンエラーによる貨物事故が多発しやすい場所です。

   そうした事故防止のため、以下の通りターミナルでの荷扱い作業のチェックポイントの一部を
   まとめてみました。

   現場でフォークリフトの実作業に携わる方の日頃の点検や社内教育の資料としてご活用
   ください。 

   1.作業全般のチェックポイント

    □荷卸し・仮置き・積込み作業方法に関するマニュアルを作成し活用している。
     会社として「荷卸し・仮置き・積込み作業」のやり方を標準化し、全作業員が理解
     できるようにマニュアル化することが望まれます。

    □作業責任者を配置している。
     明確な役割を与えた作業責任者を任命し、その責任と権限のもと、作業員の
     作業方法を実地で指導していくことが必要です。 

    □貨物の種類・梱包等に応じた取扱い方法についての研修を行っている。
     貨物の種類や梱包によって取扱い方法はさまざまです。
     作業マニュアルの徹底のためにも集合研修や実地教育を実施していくことが
     望まれます。

    □貨物の数量・外観のチェックを受け渡し両方の作業員により行っている。
     ターミナルでは1つの貨物に対して多数の作業員が荷役作業に関わります。
     従って、貨物に損害が発生しても責任の所在が分かりづらいのが一般的です。  
     そのため、作業員の正品輸送に対する意識も低下しやすくなります。
     各作業員の作業開始/終了時の貨物の状況を受け渡し両者によって確認
     する体制作りが大切です。

   2.荷卸し・積み付け作業時のチェックポイント

    □荷卸し待ち車両の荷台は閉じた状態にしている。
     駐車帯などでの荷卸し待ちの間に荷台後部のドアを開けたり幌を外していると、
     盗難事故や雨濡れ損害を誘発します。必ず閉じた状態で待機することが望まれます。

    □荷卸し・積み付け時には車両荷台が明るい状態で作業している。
     特に箱型車の場合には、荷台の中が暗い状態になりがちです。
     荷台備え付けのライトがあれば点燈し、なければターミナルに引き込み照明を
     配備し必ず明るくすることが求められます。
     暗い環境では「みなし作業」とならざるを得ず、必然的に誤配や破損事故が生じます。

    □荷台とホームとの高さを正しく調節している。
     荷卸し時にはホームが荷台よりも10㎝程度高いほうが荷卸し時に荷役機器の
     取扱いが楽だといえます。
     この程度の高さになるようタイヤ下の高低調節機器の高さを調整することが
     望ましいです。
     但し、バースが前傾斜になっている場合には、荷台が前傾斜になりすぎないよう
     高さを調整する必要があります。

    □荷台とホームとの間には鉄板等の渡り板と固定用ゴムマットを敷設している。
     事故多発時点のひとつに荷台からホームへの搬送中があげられます。
     渡り板(コーハンボード)を固定用ゴムマット上に正しく敷設しておかなければ
     いけません。

   3.仮置き作業中のチェックポイント

    □4S(整理・整頓・清掃・清潔)を励行している。                
     汚い環境では作業員の正品輸送に対する意識も低下します。
     (心理学上ブロークンウィンドゥ理論といいます。)管理者が作業員に4Sを義務
     付け、励行される体制を構築することが大切です。

    □仮置き場所には極力緩衝材を敷いている。
     貨物を床に直置きすると、濡れ損・汚損・漏れ損の原因になりますし、硬い梱包
     材の場合には床を傷める原因となります。
     一方、廃棄待ちのパレットを山積みにしてスペースをとられている場合なども
     散見されます。
     こうしたパレットを床敷き緩衝材に活用するなどの工夫を検討してみて下さい。

    □仮置き場所と荷役機器の通路との間には緩衝材を立てている。
     台車などの荷役機器が仮置き貨物に接触してカートンがへこむようなヒューマン
     エラーはどうしても発生します。
     近年ではカートンダメージだけでも受取拒否される貨物も多くなってきました。
     こうした事故を防ぐために緩衝材を活用することが望まれます。
     廃材のパレットやベニヤ板などを補修して活用したり、廃ダンボールを立てる
     だけでも効果があります。

    □ケアマークに従った荷扱いをしている。
     近年、荷主によりケアマークが乱発される傾向にあり、これを意識しない作業
     員も散見されます。
     しかしながら、内容物の特性が分からないケースでは数少ない貨物取扱いの
     情報源です。
     作業責任者がその責任と権限において作業者を指導し正しい取扱いがなされる
     体制を構築することが必要です。

    □1.8m以上の高積みをしない。
     仮置き時には最上段の貨物に背伸びせずに手が届く程度の高さまでしか高積み
     しないようにすることが大切です。
     また、高積みする場合には、必ずレンガ積みなど貨物が一体化しやすい組方を
     して上から2段目〜3段目あたりにハチマキを施し荷崩れを防止します。

    □異形・異種貨物を積み上げない。
     ドラム缶の上にカートンを置いたり、小さなカートンの上に大きなカートンを積む
     など、不安定な仮置きをしてはいけません。

    □ローラーコンベヤー上に仮置きしない。
     ローラーコンベヤー上は不安定であり、かつ落下時の衝撃は破損に繋がります。 
     必ずコンベヤーから下ろして仮置きすることが必要です。

    □台車・ロールボックスパレットのまま仮置きする。
     台車やロールボックスパレット等、数に余裕がある場合には荷卸時に使用した
     荷役機器にそのまま仮置きすることをおすすめします。
     但し、ハチマキを施すなどに崩れ防止対策は実施して下さい。
     これにより、ハンドリングの回数が減りヒューマンエラーを回避できます。

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運送業の経営と安全管理

輸送事故の防止軽減 〜荷主企業編〜

輸送事故の防止軽減 〜荷主企業編〜

■品質に対する取引先の要求
 商品の品質に対する取引先の要求は厳しくなる一方ですが、その「品質」の中には、
 納期に関する要求も当然含まれます。
 その納期に関する大きな障害の一つが、いうまでもなく「輸送事故」です。
 事故により、経済上の「実損」や事故処理にかかわる新たな「事務負担」が生じるのは
 いうまでもありません。

 しかし、それらと合わせて、あるいはそれら以上に問題となるのは、事故に  より商品の
 納期に遅延が生じることです。
 事故によって納期が守れなくなることにより、お取引先に余計な負担が発生し、大切な
 「信用」も同時に傷つくことになるからです。 

 では、そうした品質向上の阻害要因ともなる「輸送事故」を防ぐ手立てとして、どのような
 方 策が考えられるのでしょうか。
 以下はそのことを考える際の簡単なヒントです。

□アプローチのいろいろ
 1.何が起きているかを把握する 
  自社の事故がどのように発生しているのか、分かっているようで、案外正確には分かって
  いないものです。
   その点からすると、輸送事故に対処する端緒として先ず必要となるのは、自社の事故が
  どのように起きているか、その実態を可能な限り統計的な形で把握することかと
  思われます。

  現実問題として事故が増えているのか、減っているのか、どんな事故が増え、どんな事故が
  減ってい るのか、それを商品、取引先、事故種類、輸送形態(自社・委託輸送の別、
  専用輸送・積合わ  せ輸送の別など)、委託運送会社、輸送経路、発生時期など様々な
  切り口で、把握してみてください。

  すると、今まで感覚的に捉えていたものと案外違った実態なり傾向がそこに浮かび
  上がってきているかも知れません。 
  こうすることによって、事故の発生実態が捉えられるとともに、自社にとって何が
  問題か、漠然とかもしれませんが、浮かんでくるものと思います。
  ここからが事故防止活動のスタートといえます。   

 2.輸送環境の中のリスク要因を把握する 
  実際の貨物の輸送は、静態的な穏やかな環境ではなく、路面から受ける激しい振動、
  乱雑な荷扱いや荷崩・落下、危険回避のための急ブレーキによる厳しい衝撃、さらには
  衝突などの交通事故など、様々なリスク要因を合わせ持つ厳しい、それだけにいつ
  事故が起きてもおかしくない環境の中で行われています。

  だからといって恒常的に事故が起きる訳では勿論ありませんが、こうしたリスク要因が
  顕在化した場合が事故であることは、言うまでもありません。 
  その意味で、貨物が実際どのようなリスク環境の中で輸送されているか知っておく
  ことは、事故防止を考える意味でとても大切なことといえます。

  しかし、どのようなリスク環境にあるか探るにしても、運送会社に輸送を委託している
  場合には、その輸送中にどのような状況が考えられるのか、そもそも荷主企業としては、
  貨物が自社の手の中にないだけに、把握する作業は決してやさしいものではありません。
  また、仮に貨物が自社管理下にあるとしても、日常見慣れているだけに、案外問題を
  見過ごしてしまう、といったこともないではありません。

  ここでは、リスクの代表指標の一つとして実際の輸送方法に着目し、陸上運送分野の
  輸送方法が持つリスク要因を簡単にみてみましょう。

   ①運送事業形態による輸送特性の違い
   事故を抑止する大きな決め手の一つは、事故の「蓋然性(がいぜんせい)」が
   少ない安全な輸送方法を選択していく、ということです。   
   これに関しては、実際に採用いただいている輸送方法が持つ安全上の問題点を正しく
   理解しておくことが、欠かせません。

   しかし、現代企業の一般的な輸送方法が外注、すなわち運送会社への委託輸送である
   ことを考えた場合、このことは、運送会社がとっている輸送形態の違い、および
   そこからもたらされる安全上の問題点を理解していくことと、ある程度共通している
   といってもいいのかもしれません。

   しかし、一口に運送会社といっても、その事業形態は表のように大きく分かれており、
   事故発生の蓋然性を決定する要素もそれぞれで微妙に異なっています。
   この辺りを理解したうえで、輸送方法や運送会社を正しく選択していくことが、事故
   防止にとって実はとても大切なこととなっているといえます。

  ②リスク要素から見た各運送事業の特徴  
   上記表の事業形態の中で、一般消費財輸送で大きな役割を担っているのが、2番目
   に掲げた「特別積合せ事業」(以下「特積運送事業」といいます)で、一般の運送
   事業と異なる独特な輸送形態をもっているものです。 
   この業態で運送業を営んでいる企業の数は必ずしも多くありませんし、運送量全体に
   占める割合も必ずしも多いわけではありせん。

   しかし、大手の運送企業はいずれもこの事業形態を中心に業務を行っており、全国
   ネットの配送網を持ち、少量の貨物を輸送する場合、必要とされる輸送コストも
   他の2業種に比べ相対的に低いこともあって、国内各地に高頻度で貨物を配送する
   のに便利なものとなっているのがこの事業形態です。

   しかし、広範に利用されている割には、どのような輸送が実際に行われ、リスク
   要素から見てどのような事情を抱えているか、案外分かりにくいのもこの事業形態
   の特徴といえます。

   特積運送事業は、「事故」という観点からみると、積み替え機会が多いなど独特な
   輸送形態がとられていることもあって、形だけでいえば、他の2業種に比べ相対的に
   事故を招きやすい要素、いわば弱みといったものをより多く抱えているといえなくも
   ありません(ただし、これは特積運送事業の事故率が他の業種に比べ相対的に高い
   ということを意味する訳ではありません。

       そこで、ここでは利用することの多い、その割にその輸送事情が案外知られていない
   特積運送事業を例にとって、特有の輸送形態がどのようなリスク要因をかかえているか、
   それらについて他の業種とも対比しながら以下で見てみましょう。

  ③特有の輸送形態がもたらすリスク
   上表で掲げた特積運送事業の「リスク要因から見た特徴」は、大量の貨物を高速、
   かつ廉価に捌くための同事業のそれこそ特徴的なもので、他の2つの事業には基本的
   に見られないものですが、実はそれぞれが次のとおり輸送過程のリスクと微妙に関係
   しています。

       イ)積替機会の多さ 
     後でも触れますが、輸送過程で記録される異常な衝撃値の背景として貨物の
     落下や投荷といったことがあげられます。
     勿論適正な荷役作業が常に行われば問題は無い筈ですが、「積込・荷卸」と
     いった過程だけでなく輸送途中で行われる「積替え」といった過程が、そうした
     状況を招く機会になることは残念ながら否定できません。

     積替機会が多ければ多いほど「積込・荷卸」といった機会が増加し、一般論
     としては、異常な衝撃を受ける機会もそれに比例して増えると考えられる
     わけです。

         他の2業種が直送を原則とし、積替えが基本的にないのに対し、特積運送事業
     では、積替えが行われるのが原則となっており、最近はトラック単位の輸送効率
     を上げるため、全般にターミナルでの積替機会も増える傾向にあります。
     近年のトラック自体の緩衝性能の向上を考え合わせると、この「積替機会の
     多さ」は、事故発生要素としてやはり無視できないものといえます。

     また、積替えに関しては、他に仕分けミスによる不着、行方不明事故の誘因と
      なっている側面もあり、不着事故の発生が多い場合にはこの面も考えておく
     必要があります。

    ロ)積み合わせ 
     特積運送事業は、1台のトラックに他の荷主の貨物と混載される点も大きな
     特徴となっています。
     これも他の2業種にはない点です。 
            幅の広さを示す表現で「カップラーメンから原子力まで」といった表現をよく
     見受けますが、特積運送事業で取扱われる貨物の範囲はまさにこれです。

     重い、軽い、大きい、小さい、トップへビー、易損性が低い、極めて高い、
     長尺、でこぼこ。
     それこそ千差万別の貨物が運送会社に持ち込まれます。
     しかも大量に、かつ、中に何が入っているか全く分からない貨物も少なくない
     中で、です。

         これを高速、かつ安全に運ぶことを求められるのが、現在の特積運送事業
     ですが、取扱量が膨大なだけに、貨物の易損度を常時正確に把握し完璧な
     作業を、といっても正直限界があるのも事実です。

     実際、サイズや形状や重量の異なる種々雑多な大量の貨物を1台のトラックの
     荷台に、易損性といった貨物の特性に応じて常に正確に積み付けることがいかに
     難しいか、容易に想像できようというものです。
     こうした難しさはいわば“専用輸送”である他の一般運送業や軽貨物運送業の比
     ではありません。 

          この結果、軽く易損性の高い貨物の上に重く壊れにくい貨物が積み込まれたり、
     3段積みしかできないカートンが4段積みされたり、といった事故防止の観点
     から適切といえない積付実態がごく稀にではありますが、現実には生じて
     しまいます。

     これがトラックでの高速走行中に振動にさらされ続ければ、中には「破損」と
     いった事態に発展するものがあっても不思議とまではいえません。 
     こうした点は、「特積み」を選択する限り、ある程度避けることができない
     問題と考え、その対応策を考えておく必要があります。

    ハ)複数の人を介した輸送
         事故を回避するための重要な手順の一つとして、貨物の危険度に則した輸送を
     行うということがあげられます。
     自家輸送を行う場合にはこの面での問題が殆どありませんが、輸送を外部に
     委託する場合には、この面の懸念があります。

     そのため、運送会社に輸送を委託する場合には、実際に貨物をハンドリングする
     ドライバーに貨物の危険度を十分認知してもらった上で、運んでもらうことが
     対応として考えられます。

         一般運送業や軽貨物運送業の場合、貨物の輸送を引受けたドライバーが最後まで
     輸送を担当するため、そのドライバーに貨物の危険度を十分知らせておけば、
     この面での問題は基本的に軽減できると考えられます。

     これに対し特積運送事業の場合には、貨物の輸送を最初に引受けたドライバーが
     最後まで輸送を担当する訳でなく、当該ドライバー以降、複数のドライバー
     および荷役担当者の手を介して貨物が最終目的地に運ばれます。
     そのため、最初に担当したドライバーと同じ認識で貨物が取り扱われるかどうか、
     その徹底には正直不安が残ります。

         この面での不徹底から、本来その貨物に求められるものと異なる好ましからざる
     荷扱いが生じる可能性があります。
     これも事故の誘因を構成する大きな要素の一つといえます。 

          勿論運送会社側でもこうした事情から事故が起らないよう、一つひとつの貨物を
     常に丁寧に取扱うよう日ごろから従業員への指導を行ってはいますが、とにかく
     大量の貨物をすばやく捌く必要がある中での話です。

     そこには、人為を超えた限界があることを残念ながら認めざるをえないのも事実
     かと思われます。
         特積運送事業を選択した場合、こういう問題が存在していることも認識して、
     輸送の安全性を守る工夫が必要となってくる訳です。 

   ニ)機械による仕分作業
     大手の運送会社では、日々大量の貨物を全国に向けて配送していますが、その
     行き先別仕分作業をターミナルに設置した「自動仕分機」といった名称の機械を
     利用して行うケースがあります。

         この機械は短時間に大量の貨物を処理する優れた機械で、貨物を守るそれなりの
     装置も有してはいるのですが、それでも人間の丁寧な手作業に比べると安全度は
     相対的に高いとはいえず、その仕分ライン(滑り台様になっている)上から
     貨物が落下したり、ライン上で貨物同士が衝突したり、といった事態が発生
     する可能性が若干ながらあることは否めません。

         そのため、易損度の高い貨物の仕分に関しては、この機械の使用を避けるのが
     同業界では原則となっています。
         しかし、集荷ドライバーに対する荷主の指示や説明が十分でない場合など、
     貨物の危険度が十分認知されていない場合、この自動仕分機が利用されてしまう
     ことがありえないことでもありません。

     それでも、事故にならない確率の方がずっと高いとは思われますが、こうした
     実態が事故の蓋然性を高めていることは間違いなく、危険度の高い貨物については、
     可能な限りこうした処理が行われないよう配慮していくことが望まれます。 
        この点への配慮も、専用輸送で、運送会社のターミナル等での積み替え作業の
     ない他の業種では基本的に必要のないものです。

 3.梱包改善の要否をチェックする 
  事故を防ぐ更なる手立ての一つは、いうまでもなく貨物の梱包を強化することです。 
  商品の輸送は上でも触れたような厳しい条件のもとで行われるため、その過程で
  想像外の衝撃を受けることがあるからです。

   「衝撃記録計」と呼ばれる簡単な装置を複数のサンプル・カートンに装着し、輸送過程で
  貨物がどのような衝撃を受けるのか、それを科学的、統計的に調べるテストが行われる
  ことがありますが、こうしたテストでも、異常といえる水準の衝撃値がごく稀では
  ありますが輸送過程中で記録され、その事実が裏付けられています(因みにそうし
  たテストで記録される衝撃値の大部分は一定範囲内に収まることが確認されています)。

  商品の落下や転倒、投荷、輸送中の急ブレーキ、車両の衝突といった実態が、こうした
  異常な衝撃値をもたらす原因と考えらますが、頻度はごく僅かにせよ、これらがもたらす
  「異常な衝撃」が、事故に少なからず関係するのは間違いないところです。 

  そうしたごく稀な状況に備え、すべての貨物に強力な包装を施せば、確かに事故の発生を
  一定数軽減することは“理論的”に可能と思われます。
  しかし、残念ながらそのような対応には、経済合理性の観点から大きな「?」マークが
  つくことは否めません。

  そこで、代替的な対応として前掲の調査から判明した事故頻度の高い商品や事故を
  絶対に避けなければならない貨物を主な対象に、梱包の適否をチェックし、「適正な包装」
  のレベルを引上げることの要否を、そのコストや方法を含め、改めて見直してみることが
  考えられます。 

  最近では、より低廉でかつ高い強度が期待できる合理的な包装の在り方について、研究を
  深めている梱包資材業者も少なくありません。
  また、梱包が適正かどうかという点に関し、様々な角度からチェックしアドバイスして
  くれるコンサルタント的な機関も存在しています。

  実際に採用するかどうかはともかく、そうしたところに事故防止の観点から包装
  (カートンのサイズ・構造、包装材の材質、填隙方法、保護・緩衝材の在り方やカートン等
  への封入方法、ケアマーク・重心位置の表示方法など)の適否やその改善、さらには
  その包装を基準とした荷扱い上の注意点等について提言を求めたり、一緒に研究を進め、
  コスト負担が少なく、かつ期待される“より高い強度”を得る効果的な方法があり得る
  のか、事故の防止の一環としてご検討いただいてもいいように思われます。  

 4.事故の軽減に向けて措置する 
  リスク要因が把握できたら、いよいよそれに沿って対応について一定の仮説をたて、
  実践に移します。
  その点について、ここでも利用頻度が高いと思われる特積運送を例にとり、考え
  られる対応を簡単に見てみましょう。 

  特積運送事業は、大量の貨物を、いつでも、どこにでも、廉価に輸送する優れた輸送
  形態といえますが、「事故」という観点から見た場合、上述のとおり弱みが全く無い
  訳ではありません。

  それでも、様々な利点から特積みといった事業形態の利用が望ましいという場合、
  問題は、こうした「特積み」特有の輸送形態が持つ一般的な弱みをどう補正し利用して
  いくか、という点にあるといえます。 
  確かに、特積みを選択する限り、上述の問題に抵触する可能性は否定できません。 

  しかし、先にも触れましたが、特積事業を営んでいる運送企業には、日本を代表する
  運送企業が少なくなく、特別の工夫もなしに様々な貨物をただパターン的に取扱って
  いる訳ではありません。

  特積運送は、基本的にはレディメイドですが、特積運送を利用しつつ「事故防止の
  観点から」ある程度オーダーメイド的に輸送を委託することが、現実には可能となって
  いる場合が少なくないのです。

   これには、当然お取引いただいている運送会社の協力が必要となりますが、その際の
  ポイントは、専用輸送でないことからくる弱みを補正すること、具体的には事故防止の
  観点から担当者ごとに荷扱内容にバラツキがでないよう貨物の取扱い方法、とりわけ
  以下の点について徹底してもらうことかと思われます。

  ご覧になってお分かりのとおり、これらが上で述べた特積み特有の問題点を補正する
  方策であることは言う迄もありません(その一部は、大なり小なり他の運送業種に
  ついてもあてはまるものと思われます)。

  まとめに代えて  輸送事故のかなりの部分は、残念ながら事故がいつ、どこで、どの
  ように生じたか、その原因  関係が正確には分からない中で起きています。
  外装上全く異常がなく、貨物到着後カートンを開けてみて初めて壊れていたことが発見
  されるといったケースも、決して珍しくありません。 

  それだけに、事故原因を探り、それについて対処するという標準的なアプローチだけで
  事故の防止・軽減を考えることには限界があります。 
  もちろん、原因関係がはっきりしていれば、その是正策を講じるといった対応を行う
  ことがとても大切なのはいうまでもありません。

  しかし、これと並んで、日常の輸送環境の中で事故発生の蓋然性を少しでも引き上げて
  いる実態を洗い出し、その解消を漸進的に図っていくというアプローチも、輸送事故
  の抑止にとって欠かせないことといえます。

  この点に関し、総ての輸送を自前で遂行している場合は別ですが、運送会社を広範に
  利用している一般荷主企業の場合、自社だけで、そのアプローチを進めても自ずから
  限界があります。 
  何より、事故は貨物が自社の手にない間、すなわち運送会社の管理下にある間に起きて
  いるからです。 

   他方で、運送会社の輸送方法や梱包資材業者が提供する梱包の概念は日進月歩で、
  ちょっと前の常識と随分と違ったものになっていないとも限りません。
  その意味で、一連の“輸送事業に参加する”各関連企業の協力を得て、より安全な輸送
  方法を模索する、といったアプローチが、事故防止にとって特に重要な意味を持つ
  ことは論を待ちません。 

  中でも運送会社はその中心的な位置を占めており、その協力なしに事故防止を進める
  ことは事実上不可能といえます。
  他方で運送会社は、優れた企業であればあるほど事故の少ない、”輸送品質”の高い
  企業になることを事業の中心テーマに掲げており、事故頻度が高い場合には、そのことを
  大いに問題視しているものと思われます。

  従って、そうした点に関心がある会社で あればあるほど、喜んで協力を申し出て
  くれるものと思います。
  その運送会社に、自社で把握している事実等をもとに、必要な問題提起なり提案を
  してもらう、ということは事故防止のアプローチとしてとても大切なことと考えられます。

   最初に触れたとおり、自社のニーズに適った安全な輸送方法を確立していくことは、
  とりもなおさず、自社商品の品質を高めることにつながっています。 
  この面でそれなりに成果を上げていくことは、想像以上に簡単な作業ではないと思われ
  ますが、輸送に携わる各関連企業を、いわばひとつの輸送事業の“大切なパートナー”と
  して、そのノウハウおよび協力を引き出しつつ、最終の目的である事故の抑止、軽減に
  いかにつなげていくか。

  そのことは、自社の品質改善を図る大切なアプロ−チの一つとして研究してみる価値が
  十分あるでしょう。


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運送業の経営と安全管理

荷物事故防止チェックシート

荷物事故防止チェック


  ■荷物事故防止チェックシート

   事故は何時でも起こり得ます。

   事故をゼロにすることが不可能といわざるを得ないのも事実かもしれません。

   しかし、事故を減らすことはできます。

   このチェックシートは、事故防止に関し何が問題なのか、また各現場の作業実態がどのような
   水準にあるのか、といったことを把握いただき、そのことを通じ事故を減らすための取組方法を
   探っていただくためのものです。

   このチェックシートが皆様の日常の事故防止上の問題点や取り組み方法に照明を当て、
   再点検を進める際の参考として、お使いください。

  □チェックシートの利用に当たって

   各項目について出来ている、出来ていないを基準にYES・NOを判定し、NOの場合のみ
   マークでチェックしてください(関係ない事項もそのままで結構です)。

   チェックマークを打たれた点が潜在的に問題となっている部分と考えられます。

   このまま放置して差支えないのか、何らかの対応を必要とするのかを実態をもとに判断して
   ください。

   チェックされた点に関しては、単に「出来ている」、「出来ていない」という観点だけでなく、
   「どの程度出来ていないか」を定量的に把握するとともに、次のような角度からも検討して
   みてください。

    (1)なぜ出来ていないか

    (2)出来るようにするにはどうすればよいのか

    (3)出来ないとすれば、代替する方法がないか

   これをもとに「どの程度すべきか」を検討し、この検討を基に一定の目標を設定のうえ、
   目標達成に向けた進捗状況を定期的にモニターしていく方法などを考えてください。

   1.事故防止体制のチェック

    ◎ポイント

     事故防止に向けた取組みの中心は言うまでもなく社員です。

     しかし、そうした社員の人たちの取組みに一定の方向性を与え、その意志を結集し、より
     効率的に取組みを進めるためには、会社として事故防止を推進していく体制を整備して 
     いくことが欠かせません。

     ここでは、日常の取組みを方向性を持った活動にしていくために求められるこうした
     体制面の整備が進んでいるかチェックし、今後の会社としての事故防止体制の在り方を
     探っていってください。

   2.教育体制のチェック

    ◎ポイント

     事故を減らしていくためには、荷物をどのように取り扱うか、どのような点に注意して
     いけばいいのかといった点に関する知識を、社員個々に的確に持ってもらう必要が
     あります。

     勿論こうした知識は、実務に従事する中でも一定の蓄積が見込めます。

     しかし、より早く、より効率的にそうした知識を身に付け作業に従事してもらうためには、
     様々な形での従業員の教育体制を整備していくことが欠かせません。

     ただし、こうした教育研修は、いわゆる“講義調”をできるだけ避け、発生した事故の背景
     や事故防止に関し成果があった方策など、実務に即した具体的な情報を共有できるような
     内容であることが望ましく、そうした形で研修機会が設けられ、教育が進められて
     いるか、といった視点からもチェックしてください。

   3.問題点把握のチェック

    ◎ポイント

     事故防止のアプローチを確実に進めるために必要なことは、「何が問題か」を正確に
     把握し、その問題認識をベースに、具体的な解決方法を模索していくことです。

     そのアプローチの起点ともいうべき問題点をあぶり出すためのアクションが着実にとられて
     いるか、そして、それに沿って求められる解決への対策が検討されているか を、ここで
     チェックしてください。

   4.指導項目についてのチェック

    ◎ポイント

     荷物事故の防止軽減は、各お店での地道な取り組みを通じ荷物の取扱に関する作業
     品質を向上させていくことでしか実現することができません。

     ここで挙げた 項目は各作業現場で事故防止に求められる作業がどのくらいできて
     いるのか、その取組みの現況をチェックしていただくものです。

     それぞれの項目が確実に履行されていれば破損事故などの大幅な軽減が図れる筈で、
     ここに列挙されているすべての取組みがなされているのが理想的と言えます が、ここでの
     チェック内容を基に、各お店で今後どのような活動を進めていけばいいのか、その計画
     づくりの参考として現況がどのような状況なのか把握してください。

     1)送り状

      ◎ポイント

       集荷時に基本動作が確実にできているかどうかを含めてここでチェックしてください。

       基本的な荷物情報は送り状に盛り込まれますので、各事項が確実に履行されて
       いない場合、事故の導因になるばかりでなく、事故発生後の対応も遅れることとなり、
       お客様に大きな迷惑をかけてしまうことにつながります。

     2)集荷・配送

      ◎ポイント

       破損事故発生の蓋然性は、梱包の適切性を含め、荷物そのものが持っている危険度
       を集荷時正確に測定し、それに沿って集荷の段階で的確な荷扱方法を選択していける
       かどうかで大きく変わります。

       易損性の高い荷物や特殊なケアを必要とする荷物を正確に把握し、荷物取扱指示
       ステッカーを的確に貼付するなどして、輸送担当者全員に取扱上の注意を促していく
       ことは、事故の軽減に確実につなげて行く大切な基本動作といえます。

       また、こうした一般的な取扱いとは別に、こうした特別な注意を必要とする荷物の
       取扱いがチェックに基づき明かに多いことが判明した場合は、荷扱上の注意事項を
       カートン上に表示してもらうなど、抜本的な措置を講じ事故防止を進めるような
       アプローチも考えてください。

     3)車両への積付け

      ◎ポイント

       荷物事故の大半を占める破損のかなりの割合は、走行中の荷崩れや荷物の移動
       によって起きていると考えられます。

       荷物スペースに空間があったり、荷物固定のためにロープ掛けをきちんとして
       いなかったり、トラックの荷物スペースを有効に使おうとするあまり、荷扱い指示に
       反し上下さかさまに積み込むなど、積込方法が適正でない場合、事故の蓋然性は当然
       大きく高まります。

       また、運行途中での荷卸などにより荷台上の荷物の様相は刻々変化していきますが、
       そうした変化に対応して確実に注意が払われているかといった点も大切なチェック
       ポイントといえます。

       要は基本に忠実な積付作業が常態的に行われているかどうか、ここではそうした
       積付実態の現況チェックを進めてください。

     4)ホーム作業

      ◎ポイント

       プラットホームでの作業は、荷卸、現認、仕分、仮置・保管、再積み込みといった
       荷物の状態が連続的に変化する一連の作業が、荷扱いスペースや時間的余裕の
       ない中で連続的に進められるため、衝突、落下などにつながる恐れが常にあります。

       ここではそうした事故の潜在的な原因となっている作業内容の有無をチェックし、
       それらをどこまで軽減していけるかといった視点で見ていってください。

       人間工学的に一梱包27Kgを超える荷物、地上122cmより高い位置にある荷物は
       一人で運ぶのに適さないとされていますが、こうした物が少なからずあるのも実態
       なので、大量にあるような場合には、どのように取扱っていくか、その方法も確立
       する必要があります。

     5)リフト・台車作業

      ◎ポイント

       フォークリフトや台車作業に伴う破損事故は大変多く、高額の損害もあります。

       ここでは、フォークリフトや台車の安全操作に係るチェック項目をまとめてみました
       ので、これらの作業中に接触、落下、転倒などにより破損事故が生じる作業実態が
       ないかどうかチェックしてください。

       また、誰もが気付くものの、つい見過ごされてしまいがちな点として、破損し釘が露出
       しているパレットの存在やフォークリフトのフォークを中途半端な状態で止めている
       実態などがあります。

       これらは荷物の事故につながるばかりでなく、作業に従事する方の安全を脅かす
       ことにつながることも考えられるので、点検の責任者を設けるなどして実態の改善を
       図ることを検討してください。

     6)車両関係

      ◎ポイント

       輸送に用いられる車両そのものが事故の原因となっていないか、事故防止のための
       準備が適切になされているかをここでチェックしてください。

       該当する項目がある場合、輸送荷物の内容などに基づき必要な手配が必要となります。

   5.施設整備面のチェック

    ◎ポイント

     ホーム上が整然と整備されていると、荷役作業が進めやすく、作業を効率的に進め
     られると同時に、紛失、破損、誤配などの荷物事故防止にもつながります。

     また、作業環境の良さは各作業員のモラルの向上にもつながり、見えない部分での
     事故防止にも効果的です。

     ここでは、こうした安全で作業しやすい環境を維持するための対応が、ホーム施設の
     保守管理者を専任化するといった点を含め、とられているかチェックしてください。

   6.その他の事故防止のチェック

    ◎ポイント

     事故につながりそうな実態で、これまでに触れられていない事項をリストしましたので、
     こうした点についての対応も漏れていないか、チェックしてください。

     リスト中で触れた屋外での作業については、最近の不安定な気象状況からゲリラ豪雨
     など想定外の損害に巻き込まれる恐れがありますので、しっかりチェックし徹底して
     ください。

   7.荷物の異常現認のチェック

    ◎ポイント

     荷物の異常現認を的確に行うことは、事故をできるだけ早く荷主に知らせるといった
     荷主対応上大切なだけでなく、事故発生場所や事故原因を特定し、店所間の事故責任を
     明確化させることを通じ、その後の再発防止を進めるため大切な手順となっています。

     ここでは、そのための手順が的確に実践されているかどうかチェックしてください。

   8.事故処理体制のチェック

    ◎ポイント

     事故が起きてしまった場合の処置が、荷主の満足のいく適切なものだったか、大きな
     不満をもたらすものだったかにより、その後の取引関係は大きな影響を受けます。

     運送業もサービス業として、事故防止に努めるだけでなく、お客様が持つこうした
     イメージにも十分配慮して行く必要があります。

     マイナスのイメージを持たれないために、スムーズな事故処理ができる態勢ができて
     いるかここでチェックし、十分ではない場合には改めて対応を検討してください。

     特に荷主からの事故対応を進める専任の係が特定されていない場合、タライ回し的な
     取扱いを受けた印象を荷主が抱く原因となりますので、専任の係を設け対処する事の
     要否なども検討してください。

   9.荷主対応のチェック

    ◎ポイント

     荷物事故はお客様(荷主)と安定的な関係を流動化させる最も大きな要素といえます。

     そのため、事故が起きてもお客様との関係への影響を最小に留められる状態を維持
     していけるよう配慮していくことは、事業を安定的に運営していくことに欠かせない要素
     となっています。

     ここでは、そうした面での手当が確実になされているかどうか、そして事故防止に向けて
     荷主との協力体制が構築できているかどうかといった面をチェックし、足りない点がないか
     見て行ってください。

   10.荷扱い標準化のチェック

     ◎ポイント

      標準的な作業手順を確立し、その徹底を通じ作業品質の偏差をなくしていくこと。

      事故の発生確率を押し下げていく第一の手順として一般に言われることはこのことか
      と思いますが、事故につながりやすい荷扱いに関し、作業マニュアル等の整備を通じ
      作業標準を確立していくことは、事故防止に向けた作業品質の底上げを実現していく
      ため欠かせないものとして、特に重視していく必要があるものと思われます。

      ここでは、そうした面でのアプローチが進んでいるかチェックしてください。

   11.災害対策面のチェック

     ◎ポイント

      台風、集中豪雨、地震など、大量の荷物に損害が発生し得る災害に対する損害防止・
      処理体制が予め整っているかどうかは、実際にこれらが起きた時の混乱を防ぎ、
      円滑に対処できるかどうかを大きく左右します。

      また、こうした損害防止・処理体制が出来ていても、各社員に根付いていない場合には、
      「いざ」という時機能しないものです。

      その体制が予定通り機能するか予めチェックしておいてください。

      また、大きな災害に巻込まれた場合、本社や他店の応援も必要となります。

      その際の連絡系統をどうするかなど、緊急時対応体制が明確になっていることが
      スムーズな処理を進める際の重要なポイントになります。

      災害防止用具は、普段は全く使用しないため忘れてしまいがちですので、定期的な
      点検を忘れないでください。
 

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運送業の経営と安全管理

荷物事故防止 〜貨物ターミナル(1)

荷物事故防止 〜貨物ターミナル(1)
 

  ■作業基準(標準)に関連して

   荷物事故の一定部分は「荷物を具体的にどう取り扱えばいいか」、すなわち荷物の取扱
   基準が全社で明確になっていないことから、作業に従事される方の作業精度に差異が
   生じ、その結果発生していると考えることができます。

   複数の手、複数の会社(店)、複数の輸送車両を介して荷物が輸送される特積み事業の
   事故の特徴は、それぞれの事故が様々な原因、様々な背景の中で、散発的に何の
   脈絡もなく起きる点にあります。

   事故が特定の事由を原因として集中的に発生している場合、考えられる事故軽減の
   ためのアプローチは単線的で、取組みも比較的容易なものです。

   もちろん実際に求められる対応は想像する程単純ではないにせよ、とにかく事故を
   もたらしている原因を取り除く方向に向かって真っすぐに対応を進めていけば、ある程度の
   成果が望めるものといえます。

   これに対し、上述のような特徴を持つ特積み事業の事故の軽減については、こうした
   アプローチはあまり効果的といえず、事故を軽減していくには、より面的、網羅的な
   取り組みが求められます。

   別言すると、会社全体の作業品質を向上させない限り大きな成果は望めない。

   特積み事業での事故の軽減には、先ずもってそうした認識が強く求められます。

   標準的な作業手順を確立し、その徹底を通じ作業品質の偏差をなくしていくこと。

   事故の発生確率を押し下げていく第一の手順として一般に言われることはこのことかと
   思いますが、特積み事業にとってこの手法は、上で触れた面的・網羅的なアプローチを
   進め、会社全体の荷物の管理水準全般、すなわち事故防止に向けた作業品質の底上げ
   を実現していくための有力な手段として特に重視していく必要があるでしょう。

   特積み事業の事故の特徴は上述のとおり散発的で脈絡がない点にありますが、こうした
   事情に対処し事故のより一層の軽減を図るためには、全社に共通する標準的な作業手順、
   すなわち作業標準の確立を細かい点についても徹底していくことが何よりも求められ
   ます。

   勿論、各社(店)毎に業務の特性が異なるため、本社組織で作成した作業標準を一律的に
   全店に適用することには弊害もなく、各お店毎に、その実情にじた作業手順を確立して
   もらうことを基本とすべきとは思います(作業の種類によっては全社統一した取扱いが
   必要なものもあるのは勿論ですが)。

   しかし、全社的な作業標準を作成し提示していくことは、そうした店所独自の作業手順の
   確立を支援していく大きな役割をもちます。

   別記に掲げた諸点は、そうした標準化を考える際、事故の確率を高めている荷扱いとして
   十分考慮していく必要のある事項の例といえます。

   お気付きのとおり、これらの大部分については、既に一定の問題意識を持っていると
   思います。

   しかし、その中で、そうした認識から意外に漏れ、事故防止面での対として標準化を
   考える際改めて注目していく必要があると感じられる項目がいくつかありました。

   それらについて別記した内容について、以下のとおり補足します。

   1.荷物到着時の荷物異常確認

    会社の違いにかかわらず、荷物事故に関しては、到着荷物の事故割合が高いことが
    特徴としてあげられますが、この点に関して、運行車の到着時に立会い、着荷の状態を
    点検する手順が励行されていない点、および運行車ドライバーからの荷物受渡し時点
    での異常チェックの手順が、細かい異常まで見逃すことがない程には徹底している
    ようには思われません。

    当然のことながら、到着時にこうした異常確認が十分なされていない場合、事故調査が
    十分進められず事故実態の把握が正確に行えなくなるだけでなく、個別のお店で見た
    場合、本来自店の帰責事故でないものを自店の事故として処理せざるを得なくなる
    など、事故の真相に基づいた真の事故防止対の進展を阻害する恐れがあります。

    事故発生のないお店ではこうしたことから、発送荷物について事故を起こさないよう
    注意するだけでなく、到着荷物についてこの異常確認を徹底し、ほんの僅かな異常でも
    見逃さず、「異常現認」に係る書類を作成するといった取組みを強化し、成果を上げて
    います。

    このことは、自店の帰責事故を抑制していくのに大きな効果が期待されるだけでなく、
    事故の早期発見を通じた処理の迅速化、即ち対荷主サービスの向上(コンピュータ
    等を通じ荷主に事故情報も提供するようになった場合はなお一層)や事故原因の把握を
    通じた再発防止に資する点が少なくないと思われますので、どこまでどのような形で
    徹底するか明確な基準を設け、強力に取組む必要があります。

   2.異常現認手順

    作業実態調査で気になることは、中身に異常があるかどうかは別として、打痕がある
    もの、カートンがつぶれているもの、木枠等に異常があるもの等、要するに外見に異常が
    ある荷物がなくないにもかかわらず、これらへの対が必ずしも十分には見えないこと
    です。

    細かい例で言うと、スーパー店頭に並べられる食品が入れられたカートンがつぶれて
    いるケースや家具の包装に明らかな打痕があるケースなどがこれです。

    このような場合、中に入れられている商品の包装がつぶれたり、家具に傷が入ったり
    して商品として扱えない可能性が小さくないと思われますが、こうしたケースについて
    特段のチェックがなされず、そのまま仮置きされ、次の工程に送られる例が少なく
    ありません。

    輸出入貨物の場合には、こうした外形上の些細な異常でも、自らの権利を留保する
    意味で次のような記録(当該荷物を扱う業界では「リマーク」と呼ぶ)を書類で必ず
    残すような実務があります。

    「One Case Broken(1ケース破損)」「Two Cartons Wet(2カートンぬれ)」  
    事故発生場所の特定と店所間の事故責任の明確化、そして作業に従事する方 
    の事故に対する感度を引き上げるため、ある程度これになぞらえた実務を導入
    しても良いでしょう。

    勿論すべてのお店に、こうした手順を完全な形で導入するのは難しいかもしれませんが、
    余裕のある店所から次第に導入を検討することをお勧めします。

    ただ、掛け声だけで異常現認を行うといっても、派遣、アルバイト社員が多用されている
    現在の環境を考えると、「どこを」、「どのように注意するか」とまどわれる人もいるのも
    現実です。

    そのため、破損の蓋然性の高い家具・木工製品、プラスチック製品、袋入り荷物、その他
    ガラス製品、陶器、ビン・缶類といった易損貨物に対象を絞るなどして、効率よく異常を
    嗅ぎ分けるコツを、研修会などを通じて伝えていくといった取組みも必要でしょう。

    作業手順の標準化はこうした意味からも求められるものです。

   3.フォークリフトの構内走行・留意点の徹底

    作業実態から、フォークリフトの走行スピードが、特定の人のみ早い、全般に早いなど
    状況に多少の違いはあるにせよ、全体として早いのが気になります。

    荷物事故だけを考えれば、荷物の移動中だけスピードを抑えれば良いようにも思えるが、
    荷物を落としたりする心配がないせいか、空走時のスピードが全般に早く、荷物事故は
    もちろん、人身に絡む事故も懸念されます。

    現場で作業されている人は、こうした実態に馴れてしまっているようですが、取り返しの
    つかない重大事故を避ける意味で、このスピードの制限についてきちっと「基準」の形で
    確認・徹底しておく必要があるでしょう。

    事故のうち、これに関連した損害も大きなものとなっています。

    こうした場合の事故品には特注品もなく、代替品がないことから、荷主の事業にも大きな
    影響を及ぼすことが懸念されます。

    こういった点にも留意し、フォークリフト作業の作業標準の確立を是非実施してい
    ただきたい。

   4.手渡荷物の制度化、明確化

    易損度や価値が高く、一般的な荷物以上の注意を必要とする荷物の事故防止については、
    店所/運行ドライバー/集配ドライバー間に、荷物取扱上の注意を伝達しながら輸送を
    行うことができる「手渡し」の作業が有効とされます。

    こうした手渡し作業を行うことの負担は決して小さくはありません。

    しかし、事故の防止には大変有効な荷扱いと考えらるので、この取扱いが確立して
    いない場合には、その制度の導入や確立の要否やその際の方法などについて、是非
    検討していただきたい。

    また既にこのルーティンを導入している場合には、その徹底を図る意味で、手渡しを
    必要とする荷物について、明確に示していく必要があります。

    これまでの調査でも、同じ荷物にもかかわらず、手渡荷物として取り扱われている場合と
    一般の荷物として取り扱われている場合が併存しているケースがしばしは観察されて
    います。

    こうした同種類の荷物でも扱店所が異なるとその取扱いが異なるという実態は、そもそも
    手渡しを必要とするかどうかの判断がお店毎に異なることから発生しているものと思われ
    ますが、こうした実態を放置した場合、手渡し作業そのものの必要性に対する共通
    理解を損ない、手渡し作業に期待される作業精度を低下させることにつながる恐れが
    あります。

    その意味で、こうした点に関する全社的な理解の統一を改めて図る必要があるでしょう。

    そのためには、このような手渡し対象となっている荷物を全店的に調査し、挙げられた
    個々の荷物のリスクを評価し、上記の標準的な作業手順の中で統一的な社内基準
    として明確化していくことをお勧めします。

   5.機械卸荷物と手卸荷物の峻別

    荷捌き(にさばき)のための自動仕分機を導入されているお店がありますが、こうした
    お店で必ずといっていい程観察されるのが、「ワレモノ」「取扱注意品」「精密機器」
    「衝撃厳禁」品など、破損が心配される荷物が少なからずこうした機械に乗せられている
    ことです。

    また、一定重量以上の荷物が自動仕分機に乗せられ、シューター上をかなりのスピードで
    滑り落ち(重量荷物についてはせっかくの滑落スピード緩和装置があまり役に立たない)、
    シューター端末で他荷物と激しく衝突して他荷物を押しつぶしたり(実際にカートンが
    アコーデオン状態になっているケースがよく観察される)、ホーム上に落下させたり、
    といった例が決して珍しくありません。

    荷捌き効率化の観点から、自動仕分機の利用率を引き上げることも重要なテーマです。

    しかし、シューター部分での荷物同士の衝突や落下が少なからずある現状を考えた場合、
    こうした状況が不安要素になります。

    考えられるひとつの対応は、言うまでもなく「自動仕分機利用不可荷物」を明確に示し、
    それを徹底していくことです。

    しかし、お店によってはこれが必ずしも明確になっていないところもあり、荷扱いする
    各担当者の裁量に委ねられている所もあるようです。

    個別のお店ごとに要注意荷物の構成が異なるため、全店一律的に「利用不可荷物」の
    範囲を特定し強制していくには問題の方が大きいように思われますが、標準的な荷物を
    示し、それをもとに各店所の裁量でお店ごとの取扱基準を作成し、繰り返し徹底を図って
    いくことが、自動仕分機に係る事故を軽減するために必要です。

    この機械に関連しては他に、集荷荷物・荷卸部分のコンベアの早い走行スピードが
    荷物を投げるといった作業を誘発したり、シューターを挟んで反対側に荷物が投げ荷される
    荷役実態なども見受けられ、この機械に関連する荷役実態を改めて調査した上で、
    シューター周辺への要員配置のあり方を含め、自動仕分機に係る荷扱手順を改めて
    検討することをお勧めします。

  □現場指導の強化

   事故を起こさないために荷物をどう取り扱えばいいか。

   作業マニュアル等に書かれているこれらのことについて、ほとんどの社員は頭では
   分かっているはずです。

   しかし、「頭で分かっている」ことと「実際にできている」ことは必ずしも一致しません。

   実際に各ターミナルでの作業では、その距離を縮めることが如何に容易でないかが
   分かります。

   ここで気づいた点は、基本動作に反する作業(例えば、台車からはみ出して乱雑に荷物を
   積んだり、高く積み過ぎたり、重量のある荷物を他の貨物の上に置き下荷をつぶしたり、
   さらには荷物を投げたり、「天地無用」の指示マークに反してトラックに積み込んだり、
   といった)。

   これらについては残念ながら多かれ少なかれ、どのお店でも観察されるのですが、
   これらを問題にしてその場で注意ないし指導されているシーンがあまり見受けられません。

   朝・昼礼等の集合時にこうしたことの注意を促すことも大切です。

   しかし、問題が生じているその場、その時そして問題を起こしているその作業員に注意を
   促していくことは、それ以上に大切です。

   どんな上手な講話や指示より具体的で分かりやすいからです。

   忙しい中で常時こうした指導を行うことは大変難しいでしょうが、日を決めるなどやり方を
   工夫して“現状に即して逐一”指導していくことは、上記の距離を縮めて行くためには
   避けて通れないことです。

   言うまでもなく「頭で分かっている」ことを「実際にできる」ようにすることを除いて、事
   故を減らすことはできません。

   逐一指導していくことは、そのための最重要の手段のひとつであることに間違いはなく、
   その意味で時間等の制約があるでしょうが、継続して取り組むことが大切です。

   また、まとまった教育機会を設けにくい派遣社員やアルバイトについてはさらに、「頭で
   分かっている」ことさえ十分分かっていない恐れがあります。

   その意味で、彼らにはこうした機会を捉えて細かく指導教育していくことが、何よりも大切に
   なります。

   あるお店ではプラットホーム全体の貨物が整然としていることから、他店運行車や
   協力会社のドライバーなどもこれに感化され、結果としてお店全体で丁寧で確実な荷役が
   確保できている状況が実際に観察されています。

   日常のきめ細かい指導を通じて、普段から整然とした荷積みを行っているという事実を
   積み上げ、「○○支店は荷物の管理が厳しい」というイメージを作り出していくことが、
   結果としてそのお店の関係者だけでなく、それ以外の方たちの丁寧な荷役を促していく
   ことに大きな効用をもつことも見逃せません。
 

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運送業の経営と安全管理

荷物事故防止(2)

荷物事故防止〜貨物ターミナル(2)


  ■荷物事故防止意識の涵養(かんよう)

   1.上からの働き掛け

    事故を減らしていけるかどうか、それは最終的には、各社員にどこまで事故防止意識を
    浸透させることができるか、にかかっているものと思われます。

    その意味で各会社では、外部からは必ずしもこうした面での取組みが理想どおりに徹底
    している場合ばかりではありません。

    事故防止に関しては、管理職の立場の人が“モグラたたき”のように問題点を発見し、指摘を
    行う中で是正を促すだけでは充分でなく、十分な情報の共有を基礎として、社員一人ひとりが
    主体性を持って、本気で事故防止に取り組む、そんな状況を作り出す必要があります。

    こうした状況を「社員の経営参加」と位置付けて実践している運送会社もありますが、
    そうした“参加意識”を生み出すものが、先ずもって情報の共有化といえます。

    貴社での各社員の荷物事故に関する関心度は、果たしてどういった水準にあるのでしょうか。

    こうした関心度を引き上げるものとして、個々には次のようなことが考えられますが、
    こういった日常的に事故ないしその防止に目を向けさせるものが、各会社とも総じてない
    ように思われます。
  
     ○荷物事故に関する荷主のクレームの概要を分かりやすく掲示するなど、
      事故の後ろに荷主がいることを示す情報を数多く提供すること

     ○店所の事故発生状況をグラフ等で分かりやすく表示し、現況が
      どうなのか、どういう方向に向かっているのか、何が問題なのか、
      などについて各社員に問題意識をもってもらいやすくすること

     ○事故防止に関する当年度目標を数値化し、目標数値との関係から
      みた自店の現況を同様にグラフなどで分かりやすく表示すること

     ○事故と関連の深いスキャン率、付保率の動向などについても上記と
      同様の表示を行うこと

    各会社、各お店によっては事故の実績を書き込むための掲示板が備え付けられている
    所もありますが、残念ながらあまり利用されていないばかりか、埃をかぶっているような
    ところも現実には見受けられます。

    しかし、こうした掲示板に毎日の事故件数が掲示され、その累計が日々増えて行くような
    実態を毎日目の当たりにするような状況と、それがただ埃をかぶり放置されている状況とが
    同じ結果に終わることはありえません。

    社員各自の関心度も随分と違ったものになるのではないでしょうか。

    勿論こうしたものだけでは十分ではないでしょう。

    しかし、考えられるあらゆるものを動員していかない限り、事故のより一層の軽減は
    望めません。

   2.下からの取組み

    事故防止意識の涵養に関しては、上で述べたように、“上から”の働きかけ、すなわち
    管理職が目を配り、必要な指示なり情報を上から出すことが大切なのは述べたとおりですが、
    やはりこれだけでは限界があります。

    言うまでもなく大部分の事故は日常のちょっとしたことから生じています。

    その“ちょっとしたこと”を取り除くには上から働きかけることと合わせて、実際に作業に従事
    している社員個々の自覚なそして自発的な事故防止努力を促すような新たな仕組みが
    どうしても必要だからです。

    そうしたいわば“下から”の事故防止活動を活発化させる仕組みとしてすぐ思いつくのは、
    社員自身が日常の作業での問題点を自ら発見し、それを自分達の問題として自らの
    創意工夫で解決する仕組みである「QCサークル(小集団活動)」や「班」などをベース
    として事故防止に関する成果を競ってもらい、結果として事故防止への注意レベルを
    引き上げる報奨制度などですが、こうした仕組みの導入も、より大きな成果を生んで
    いくためには必要であると思われます(実際会社によっては、小集団活動を積極的に
    展開し、これを通じ業務の改善を図っているところもあります)。

    勿論、こうした取組みには実践するための障害もあり、また報奨制度の持つ弊害などに
    ついても十分配慮して行く必要があります。

    上で触れた事故発生水準からみると、既にこのような高次の取組みが必要な段階にあるのも
    確かです。

   3.教育・研修機会の確保

    よくスローガンに掲げられるような「事故ゼロ」を実現するのは現実的には不可能と
    思われます。

    しかし、事故をある程度の水準にまで低下させることは可能です。

    そうした水準にまで事故を減らしていけるかどうか、それは繰り返しになりますが、自覚的な
    社員をいかに多く生み出すことができるかにかかっています。

    上述のQCサークル等はその為の重要な手段になりうるものですが、教育、研修機会を
    積極的に設けていくことは、これと並ぶ重要なアプローチであるのは言うまでもありません。

    この点に関しては、時間的な制約から事故防止関連の研修機会を十分持てない実情にある
    お店が少なくないようですが、一方的に話を進めるいわゆる講義調の研修ではなく、全員
    参加型の、そして日常の問題点の洗い出しや論議を通じて事故防止意識の高揚を図れる
    ような研修機会をいかに設けて行くかは、やはり事故防止を考える際避けては通れない
    重要なテーマとなります。

    こうした教育を通じ、事故防止に関して店所経営者と同じ目線で考えられる社員をどれだけ
    育成すことができるかが、最終的には荷物の安全管理水準を決めていくと言っても過言
    ではありません。

    その意味でさまざま制約はあると思いますが、その意義に改めて着目し、十分な教育・
    研修機会を用意することが望まれます。

    各会社では、事故を減らしたいと真面目に考えている社員が多いはずです。

    そうした意欲を実際の成果に結び付けていく機会として、教育をいかにお座なりででない、
    実効あるものにできるか、事故防止に関してはこの点も大きな分かれ目になるものと
    考えられます。

   4.協力会社の作業精度の向上

    傭車会社の社員やアルバイトによる荷役は、社員の荷役に比べ丁寧さにおいて差があると
    特徴づけられます。

    アルバイトに社員同様の丁寧な荷扱いを期待するには難しい点もあるでしょうが、彼らが
    関与して起きた事故も、結局は会社の事故であることに変わりありません。

    全体的なコスト削減の観点から、彼らスタッフが業務の中で今後ますます重要な役割を
    演じていく事は間違いなく、それだけに、彼らの作業精度如何によって、会社の評価を
    今まで以上に大きく左右する重要な要素になっていくでしょう。

    そのため、こうした人材をいわゆる補助でなく、会社のスタッフの一部として業務の一環に
    どう組み込み、どう有機的に機能させていくか、そして社員と同等の質の高い荷役をどう
    確保していくかは、事故の防止軽減の観点からも重要な課題の一つであることは間違い
    ありません。

    その意味で、こうしたスタッフや個々の傭車会社に会社の荷物事故防止に対する姿勢を
    日頃から十分伝えていくとともに、それぞれの荷扱い実態を細かく調査し、問題が認められる
    場合には、種々協力しながらその是正を求めていくなど、その作業精度の向上および
    そのための仕組みづくりに今まで以上に配慮していく必要があるのは言うまでもありません。

    実際数多くのアルバイト社員で会社業務の枢要部が構成されていながら、サービス品質の
    よさで高く評価されているファーストフードの会社の例もあります。

    徹底したマニュアル化およびそのサポート体制の充実により高品質がもたらされている
    実例といえますが、問題がアルバイト社員を多用しているところにはないことを実証する例
    ともいえるでしょう。

    例えば、あなたの会社は荷物の安全を確保するため、アルバイト社員や傭車会社用の
    作業マニュアルを作成しているでしょうか?

    自社の業務の仕組みをこうした観点から見直して行く必要があります。

  □作業場の整理整頓・維持管理

   この点に関してまず気がつくことは、フォーク・台車の走行路を示すラインの保守が十分でない
   ことや未整理の台車、荷物が走行路を塞ぎ、作業の効率性や安全性を殺いでいるという
   ことです。

   この他にも車輪のタイヤ部分が破損し運行に支障がある台車が用いられていたり、破損し、
   釘が露出しているパレットが使われていたり、さらにはホーム照明用のランプが切れて
   作業スペースに暗がりが生じ、作業の支障になっていたり、ホーム上にタバコの吸い殻が
   落ちていたり、ホームの床が欠損し、台車などの走行に支障をきたしていたり、といった
   実態も観察されています。

   問題は、こうした実態もさることながら、なぜこうした実態が生じているかです。

   感じられるのは、作業の支障をもたらしているこうした実態を取り除くべく、積極的に行動
   している人が残念ながらあまり目に付かないことです。

   確かに扱うべき荷物の総量が多く、その処理に追われている事は十分わかるのですが、
   それでも作業しやすいように作業場を保つことが、荷物を取扱うのと同様に大切だという
   ことを社員の方にもっと理解してもらう必要があるでしょう。

   品質管理の第一歩は現場の作業環境を良好に保つことです。

   高品質の製品・サービスは整備された作業環境の中からしか生まれません。

   そのため製造業の品質管理担当者はいかに作業場を清潔で、機能的な状態に保持するかに
   最大限の注意を払います。

   作業場を清潔で整備された状態にしておくことが、高品質の製品やサービスを生み出す重要な
   条件となっているからです。

   一見違うように見えますが、輸送品質の管理についても同じことが言えます。

   運送の事故防止というと、つい荷物そのものをどう取り扱うか、その管理にだけ目が行って
   しまいがちですが、作業環境の整備にも、もっと目が配られてよいはずです。

   作業環境が良好に整備されていると、作業が効率よく進められるだけでなく、荷物管理にも
   目配りができる余裕が生まれ、結果として事故防止への注意レベルの向上も図ることができる
   ようになります。

   その意味で作業環境を整備することの意義にも、改めて目を向ることができるはずです。

  □目標管理手法の導入

   事故を減らす取組みで大切なことは、事故防止のポイントとなる事項、例えば賠償費水準、
   事故発生率、スキャン率等について明確な目標を定め、その達成のための具体的な施策や
   取り組み方法を掲げ、計画的に取組みを進めていくことです。

   着実に成果を挙げていくためには、到達すべき目標を設定し、その目標を明示し社員の
   意思の結集を図るとともに、目標を達成するための施策や取組みの進捗度合いや施策の
   有効性を絶えず検証し、取組み上の不具合を取り除いていくという目標管理がどうしても
   欠かせません。

   事故が少なければ少ない程いいのは言うまでもありません。

   そのため、目標もつい高く掲げてしまいがちですが、あまりにも無理な目標設定は、かえって
   目標に対する意志結集を阻み、取組みに対する志気を阻喪し兼ねません。

   その意味で目標設定は慎重に行う必要がありますが、これには次のような配慮も必要です。

    ○目標は本社や主管支店から強制するのではなく、できればお店ごとの特性
     が反映できその自主性が尊重されるよう、各お店で自主的に設定できるよう
     にすること

    ○一般的な目標はあくまで抽象的な数値を示すだけなので、それのみでの
     意志結集は難しく、何をやることによって目標達成するか、そのための
     手順を具体的に示すこと

    ○数値的な目標の達成度合だけを問題にするのではなく、むしろ達成のため
     に策定した手順や施策がどの程度有効に実践できているか検証することに
     重きをおくこと

    ○中期的なゴールを示す中期目標とその達成のための短期目標とを分けて
     捉え、短期目標については項目を絞り、もうし努力すれば十分達成可能、
     そのような範囲で設定すること(真のゴールは決して近くなく、そこに至る
     までの取組みの継続にはそれを支える目標達成感が是非必要)

    ○設定した目標については、できれば本社や主管支店などに登録してもらい
     (本社ないし主管支店といった外部も進捗度合いをチェックする)“不言
     実行”ではなく“有言実行”の形をとり、その達成に向けての責任意識を
     持ってもらうこと

   いずれにせよ、取組みの深度を深め、事故の防止軽減に向けより大きな成果を結ぶためには、
   こうした側面からの取組みもお考えいただく必要があるものと考えられます。

  □終わりに

   IBMを“現在のIBM”のような会社に引き上げたとされる2代目社長、トーマス・ワ
   トソンJr.はある本の中で次のようなことを語っています。

   「企業が成功するか失敗するかの真の違いは、組織がそれに属する人びとのエネルギーと
   能力を十分に生かし切っているかどうかという問題に結局は行き着くのではないかと
   考えている。」

   そして、彼は、そうした人びとのエネルギーを結集するため、人びとが相互の共同目標を
   見つけることを会社が支援していくことが大切だと続けるのですが、ここで注目すべきは、
   組織の役割に関する彼の認識です。

   つまり企業が成功するためには、組織、すなわち会社が前面に出るのではなく、それを
   構成する「人びと」を前面に押し立て、その能力を十分発揮できるよう会社が配慮し、支援して
   いくことが大切だと説いているのです。

   このことは荷物の事故防止を考える際、大変示唆的といえます。

   運送事業は、労働集約的な産業といわれています。

   それだけに、そこで働いている一人ひとりの質そのものが輸送品質を直接規定する重要な
   要素となっているといっていいでしょう。

   その品質を構成すべき従業員一人ひとりが実際の業務にどう参画しているか、その内容次第で、
   企業の品質水準は大きく異なったものになってしまうことは想像に難くありません。

   翻って、事故防止の成果を得ていくには、実際の作業現場の実態や問題点を観察し必要な
   改善策を打っていくというだけでは十分ではありません。

   そこで働く人々が実際にどのようなことに関心を持ち、どのようなことに悩み、どのような
   ことを目指して仕事に従事しているのか、そしてやりがいを持って仕事に向き合えているのか。

   その辺りもじっくり観察し、人々が抱えている障害を取り除き、必要な支援を行い、より
   本格的に仕事に向き合ってもらえるようにするため企業として何をなすべきなのか、
   その点をじっくり考え、対していくことも上記と合わせて、実践していくことが求められます。
 

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運送業の経営と安全管理

荷物の安全輸送(企業編)

荷物の安全輸送〜企業編(1)

 

  ■荷物の安全輸送に向けて

   「輸送品質」という言葉があります。

   輸送サービス一般をふつうの商品と同じようにとらえ、その質的な向上を図るために導入された
   概念ですが、経済の停滞が長引き、全体的な売上げが伸び悩む中で、荷主の運送業者を見る
   目が一層厳しくなっていることは確かです。

   荷主が運送業者を選ぶ際の判断ポイントは、さまざまですが、一に運賃水準の高低、二に輸送の
   安全・確実性です。

   ほかに輸送以外の付帯サービスが充実しているかどうか、融通がきくかどうかと言ったポイント
   もあるのですが、この二つがダントツと言ってもいいでしょう。

   これら二つはいわば運送のサービス内容そのものですから当たり前ですが、輸送の安全・確実性
   への強い要請が、在庫を余り持たないなど荷主の商売の仕方の変化からきていることを、
   忘れてはいけません。

   こうした荷主の要請に応え輸送の安全性・確実性、別な言葉で言うと「輸送品質」の向上を
   図っていくことが、これからの運送業者の競争力を大きく左右していくでしょう。

  □取組みの基本

   事故防止にまず必要なことは、社内の意思結集を図ることと具体的な成果をあげるための
   道筋をつけることです。

   いうまでもなくこれには色々な方法がありますが、まず次の対策ができていなければ、
   きちんとした取組みは現実にはできないでしょう。

   その意味でこれらは取組みの基本ともいうべきものです。

   1.現状の把握

    自分の会社の事故がどんなふうに起きているのか、分かっているようで案外分かって
    いないものです。

    そこで、過去何カ年か遡って、事故がどのように起きているのか、できれば統計的な形で
    確認してみてください。

    事故が増えているのか、減っているのか。

    どんなタイプの事故が減り、どんなタイプの事故が増えているのか。

    今まで感覚的に捉えていたものと案外違った実態なり傾向がそこに浮かび上がって
    きているかも知れません。

    こうすることによって事故の実態が捉えられると同時に、会社にとって何が問題か漠然かも
    しれませんが浮かんでくると思います。

    ここからが事故防止活動のスタートです。

   2.基本方針の確立

    事故防止に何よりも必要なのがこれです。

    事故が起きるというのは、とりも直さず荷扱い作業に問題があることを意味します。

    これに対し精神的な呼び掛けを行うだけでは恐らく何も解決できないでしょう。

    交通事故の安全スローガンの実効性を考えてみれば分かると思います。

    ところが企業が行っている実際の事故防止活動は、洗練度に多少の違いは あっても
    この段階で止まっているケースが少なくありません。

    具体的な成果をあげるためには、会社としての方針を「目標」の形でできるだけ具体的に
    定め、それを分かりやすく社員に伝える必要があります。

    ただ、目標を定め、それを発表するだけでは何の意味もありません。

    目標に説得的な意味を持たせ、社員一人ひとりがそれに納得し、自分の課題として取り込もう
    とする態度を生み出すようになっていなければ、本当の意味で方針を確立したことに
    なりません。

    そのためには繰り返しになりますが、目標は分かりやすく、具体的になものである必要が
    あります。

    また説得力を持つためには、現実性も十分持っていなければなりません。

    理想に傾けば傾く程、響きは美しくなりますが、響きとは裏腹に説得力を失います。

    ないほうがましになってしまいます。

    「何のためにいつまでに何をやる。」です。

    そして係数的に達成度合いが検証できる。

    難しいですが、そんな目標設定ができるよう努力してみてください。

    この作業がうまくできれば、別な言い方をすれば、目標に求心力を持たせることができれば、
    事故防止はある意味で半分できたも同じです。

    ついでに言うと、こうした目標は、会社の「理念」の延長にあれば言うことなしです。

    サービス分野で優れた業績をあげている会社は、おしなべて社員に受け入れられている
    明確な企業理念をもち、その理念に裏打ちされた目標をもっています。

   3.管理体制の整備

    上で触れた事故防止上の問題点の把握をし、それに基づいて事故防止の対応方針を
    定めそれに向かって社員のベクトルを一つに揃えていくこと。

    こうしたことを継続的かつ効率的に行っていくためには、これらの進捗度合を常にモニター
    し、予定どおり順調に進捗していない場合には、必要な措置を折々に講じ、全体の進捗を
    目標に向けて管理していく、そういった組織がどうしても必要といえます。

    勿論会社規模等の関係で、こうした事務を専門的に所管する部署を設けることが難しい
    場合もあります。

    しかし、ここでの課題をより細かく見ると、問題は、部署を設けるかどうかではなく、
    そうした管理を進めていく機能を会社に持たせることができるか、どうかだといえます。

    その意味で、専門部署を設けるのが難しい場合には、その機能を担う人材を特定するなど
    して対応すれば問題はないでしょう。

    要は、会社の事故実態を把握し、経営者とも連携しながら継続して問題への対応措置を
    打ち出していく機能、そうした機能を会社に持たせることが体制整備の実質的な意味と
    言えます。

  □取組方法の実際

   さて、明確な目標や体制の整備ができたら次は、その実現のためにどんな手法をとるか、
   です。

   以下に、このためにできる事を書き出してみます。

   それぞれの運送会社ごとの実態が必ずしも同じではないため、どれもが参考になるとは
   思えませんが、どれをやってどれをやらないか。

   自社の実情に照らし合わせ、自分の会社ではどんな取組みができるか、あるいはできて
   いるかチェックしてみてください。

   1.事故防止運動(キャンペーン)期間の設定(取組重点項目の設定とその改善)

    過去の事故調査をもとに改善を要するポイントを取組重点項目として設定し、その改善を
    期間を限って強調していくものです。

    取組成果が係数的に評価できるものについては、表彰制度を併設することも考えられます。

   2.事故防止に係る年次方針の策定、年間取組結果の統括・成果確認と次年度方針の策定

    当たり前ですが事故防止は“言うは易く行うは難し” です。

    そのためあらゆる事に取り組んでもすべて中途半端ということも考えられます。

    事故が起こる背景は決して単純ではありません。

    それだけに短兵急に成果を急ぐことは避けなければなりません。

    じっくり取り組む必要があります。

    仕事の進め方についてプラン・ドゥ・チェック・アクション(PDCAサイクル)がよく使わ
    れます。

    しかし何故か、事故防止については目先の成果を追うあまり、これが余り顧みられない
    ように思います。

    事故防止に係る年次方針の策定、年間取組結果の総括・成果確認と次年度方針の策定は
    まさにこのPDCAサイクルのスタート地点そのものですが、施策を総花的に羅列する
    のではなく、やる事を絞り込み計画的に進めることが、遠回りのように見えますが、
    結果として全体的な事故防止の一番の近道になるものと思います。

    こうした方策はいわば品質管理そのものと言えます。

    事故防止とどう取り組むかについて大変参 考となるので、少々面倒ですがこの品質管理の
    手法について以下に書き出してみます。

    ついでに現在の自社の取組みがこうした形になっているか、チェックしてみてください。

    (1) 問題点を把握し、目標を設定する。問題点は極力データで把握する
      (問題点が係数的につかめ、改善の傾向が統計的手法で把握できる)。

    (2) 改善のための組織を作る(どこに、どのような組織を作るか決める)。

      ①特別のチームを作るか

      ②スタッフによるか

      ③QC(クォリティコントロール;品質管理)サークル(小集団)によるか

      ④現行の職制によるか

    (3) 改善計画を立てる(実施事項、担当者、日程などを決める)。

    (4) (問題の)要因を列挙する。

    (5) (問題の)要因を解析する。

    (6) 改善案を作る。作業規程・標準などの改訂を行う。

    (7) 新作業規程・標準に基づき作業する。

    (8) 結果の確認を行う。

   3.事故率の管理(目標値の設定)

    事故に関し係数的な目標を設定し、これとの関係を継続的にチェックし活動の成果、
    進捗状況を正確につかんでおくことは、自社のサービス品質水準の把握や取組みそのもの
    の在り方を検証するためにも是非とも必要です。

    また、社内で事故防止に向けた指導を行うにしても、こうしたものがないと説得力を持たない
    のは言うまでもありません。

   4.優績店所・個人の報奨

    年間あるいは数年間の事故発生率等を基準に、その水準ないし改善が顕著なお店や個人を
    報償することを通じ事故防止へのインセンティブ(誘因)にするものです。

    実際に実施している会社は少なくありませんが、あまり極端な報奨内容とすると報償を
    受けられない支店・個人を中心に逆の効果を生む恐れがあり、公平な評価を行うことと
    合わせて、こうした点に十分留意していく必要があるのは言うまでもありません。

   5.社内の検査体制の整備

    検査規準などの作成を通じ、ターミナルなど現場の作業レベルを定期的にチェックし、
    問題点の指摘および改善の勧告を行うものです。

    もちろんそのための組織および基準が整備されていればベストですが、そうなっていなければ
    できないというものでもありません。

    要は、日常性の中で見えにくくなっている現場の問題点を、言わば第三者的立場から
    気が付かせてあげることがここでのポイントですので、こうした仕組みをとることだけでも
    いいでしょう。

    第三者がチェックするということで、マンネリに陥る事を防ぎ、現場の注意レベルもそ
    れなりに維持されることが期待されます。

    これに関しては、ターミナルでの作業内容を中心にチェックのポイントをまとめた
    「荷物事故防止チェックシート」の資料をご覧ください。

   6.個別問題店所・個人との協議・指導

    どこでも会社全体の水準から見て、問題や弱点を抱えている個人や会社はあるものです。

    その解決をそれぞれの自主性に任せるのもひとつの手ですが、こうした場合何が真の問題で、
    どう解決していけばよいか気が付きにくくなっているケースが少なくありません。

    その解決を図る手立てがこれです。

    こうしたケースを個別問題としてとらえ、専門的な立場からアシストできるスタッフが、
    協議ないし指導していくことにより、問題の早期解決を図るそんな制度を持つ会社も少なく
    ありません。

   7.品質管理技法(作業標準化、TQCの推進)の導入、実践

    事故防止には様々な手法がありますが、運送業だけでなくさまざまな産業分野で試みられ、
    確立さしてれているのが作業標準化とTQC(トータルクオリティコントロール)の推進
    です。

    どちらも本格的に行うには、作業手順を確立したりマニュアルを整備したり、更にはその
    ための組織作りを進めたりで相当の手間と覚悟を必要としますが、会社の仕事の在り方
    そのものを土台から変えることにより、事故防止や人材育成にも大きな効果を期待でき
    るものです。

    それだけに時間もかかりますが、大きな成果を得るために研究してみる価値はあります。

   8.事故防止提案制度の設置

    衆知を集めて実態を改善していくものとして、TQCより気軽にできるので検討しても良い
    方法です。

    事故防止というと、つい大掛かりな取組みを想定しがちですが、基本的には身の回りの
    細かい問題の改善とその集積がものをいいます。

    その意味でTQCといった大掛かりな装置を考えることが大切かも知れませんが、この方法で
    手近なところから始めてみる方が実際的かも知れません。

   9.荷主との事故防止提携関係の強化

    事故防止は運送会社だけの問題ではありません。

    現実には運送会社サイドで解決すべき問題が多いのは事実ですが、運送会社だけで解決を
    図るより、荷主との提携関係の中で梱包や荷扱いの在り方に関し「共通の問題」として
    解決を図っていくほうが望ましいケースも少なくないといえます。

    そのようなケースが現実になければ別ですが、ある場合には積極的に取り組むことを
    おすすめします。

    事故で損害を被り困っているのは賠償負担を余儀なくされている運送会社ばかりでは
    ないからです。

    まじめな荷主であればある程、そうした取組みを歓迎してくれるはずです。

    こうした取組みが荷主との信頼関係を深め、営業的にも資する点が少なくないのは言うまでも
    ありません。

   10.高頻度事故発生荷主の事故防止具体策の策定および実施

    事故頻度が高いケースについては何等かの個別的な理由があり、理論的にいえばその点を
    改善できれば一定の成果につながるはずです。

   11.事故防止情報の提供(社内外)

    情報を色々な面でどう活用するかは、企業活動の行き着くところを大きく決めていくもの
    ですが、事故に関する情報も同じです。

    事故に関する一つの情報は、同時に事故を防ぐための一つの方法を示唆しているかも
    知れません。

    ここで忘れていけないのは、実際に事故を防止軽減していくのは、店所長などの管理職
    ではなく実際に荷物を取扱う各社員だという点です。

    これら各社員が、事故防止の意義、必要性さらにはその問題点に気付き、事故防止意識に
    目覚めてくれなければ、事故の軽減は望むべくもありません。

    「事故を減らせ」という一方的な呼び掛け、指示だけでは、社員は十分納得し、自主的に
    事故防止に臨んではくれないでしょう。

    そのためには、下記の点を含め、日頃からのきめ細かい情報提供を欠くことはできません。

    もちろんどんな情報でもいいという訳ではありませんが、通達でも、掲示でもいいでしょう。

    必要な情報を的確に流し、関係者で共有する中で全員が事故と向き合うことの意味をもっと
    考えていいように思われます。

    (1)事故の発生状況をグラフなどで分かりやすく表示し、何が問題なのかについて
      社員各位の理解を得やすくすること

    (2)事故防止の目標数値から見た現況を同様にグラフなどで分かりやすく表示する

    (3)事故と関連の深い指標、例えばスキャン率、付保率などについても上記と同様の
      表示を行う

    (4)他支店、他社などの取組状況などを解説を添えて簡単に掲示する

    共有する範囲は社内だけに限る必要はありません。

    運送業もサービス業として、荷主への情報提供を積極化すべきでしょう。

    提供先を荷主まで広げる事には難しい点が少なくありませんが、こうしたサービスができる
    事もこれからの運送会社の差別化策として大切な要素になっていきます。

   12.事故処理方法の確立と社内徹底

    事故後の処理が悪いと、必要以上に荷主との関係を悪化させることがあります。

    事故はある程度やむを得ないとしても、事故後の処理は人為そのもので、処理が悪いのは
    その会社の怠慢そのものと映るからです。

    あなたの会社では事故処理の体制、つまり事故が起きたとき何をどうするか明確になって
    いるでしょうか。

    また社員全体にこのことが徹底しているでしょうか。

    心もとない場合には、マニュアルなどを整備し早急に改善を図ってください。

   13.荷主アンケートの実施

    自社のサービスの欠点というものは、なかなか自身では気がつきにくいものです。

    このため最近では「顧客満足調査」を、お客様に直接自社のサービス内容を評価してもらい、
    これをもとに業務の改善を図ろうとする会社が増えてきています。

    さらに取引先に社員一人一人の仕事ぶりを評価してもらい人事考課に反映させている会社
    さえあります。

    こうした調査は、お客様の本音を十分引き出せるか難しい面もあるのですが、自社の実態
    をつかむ上である程度参考にして良いものであることは間違いありません。

    どんなポイントについて調べるかについては、例えば「日経ロジスティクス(1990〜
    1995)」の荷主満足度調査の調査項目が参考となるので掲載しておきます。(この調査
    では全10項目について非常に良いから、良い、ふつう、悪い、非常に悪いまでの5段階で
    評価することになっています。)

     ・運賃が安い

     ・配達までの時間が短い

     ・集荷時刻・配送時刻をきちんと守る

     ・貨物の正確な輸送状況を提供してくれる

     ・受発注・運賃請求などのシステム化が進んでいる

     ・荷物の破損・誤配送などの事故が少ない

     ・事故があった時迅速に対応する

     ・会社が必要とする輸送ルートに強い

     ・運転手や営業所員のマナーがよい

     ・業務の改善要求を出すとすぐとり入れる

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運送業の経営と安全管理

荷物の安全輸送〜企業編(2)

荷物の安全輸送〜企業編(2)

  □事故防止関連資料

   次は取組みをおこなうための道具です。

   これについては、先進的な取組みをしているところが実際に用いている資料がどんな
   ものか、見てみます。

   以下はその内容です。

   どれもが必要という訳ではありませんが、事故防止の観点からはこんな資料の作成・
   整備が必要です。

   ① 事故の統計管理資料

   ② 事故防止・作業マニュアル(規程)(各種作業の標準化を進めるための資料)

     ・作業編(作業基準)

     ・教育編(教育担当者用)

     ・検査編(検査規準)

   ③ 事故防止ニュース(事故関連情報の提供により事故防止意識の高揚を
     図るための資料)

   ④ 運搬機器ガイド(先端機器導入によりハード面の改善を図るための資料)

   ⑤ 包装カタログおよび品質基準資料(荷物周辺知識向上のための資料)

  □付随的な体制の整備

   最後に取組みを円滑に進めるための推進体制について見てみましょう。

   事故防止に関し、上で触れたように会社としての取組施策を実施するため本社機能を充実
   したり本社と提携して現場の活動を管理するスタッフを配置する。

   こうしたことは、いわば全体の体制を整える意味で基本に相当するものとして冒頭の
   部分で触れましたが、こうしたことから少し離れ、現場の改善といった角度から、新たに
   次のような役割を今いるスタッフに付与することを通じ、推進体制を側面から強化する
   ことを考えていく必要が一方であるでしょう。

   (1)作業管理責任者機能

     荷役多忙時、各担当者は目の前の荷役に追われ作業を安全かつ円滑に進める
     ための注意が十分行き渡らないことが予想されます。

     こうした点を補い、作業全体の秩序を維持するため、「作業の管制官」ともいうべき
     担当者を設け、作業場の整理整頓、作業環境のチェックおよび維持、各作業員の
     作業内容の点検・指導を通じて全体作業を円滑に進めることにより安全を確保する。

   (2)事故処理専任機能

     事故を円滑に処理したかどうかは、荷主の運送業者に対するイメージ形成に大きな
     影響を及ぼします。

     それだけに、事故の初期段階から下記のような実務を通じ専門的な立場で解決を図る
     専任者的なスタッフを設け、円滑な処理を集中的に進めていくことは意味あること
     です。

     また、こうすることで同時に事故の情報も集中することになり、事故防止上の
     問題点もつかみやすくなります。

      ・荷主からの事故通知の集中処理

      ・事故処理実務(各種報告書の作成 etc.)の実践

      ・事故処理書類の管理

      ・集配運行担当者等への事故処理指導

      ・荷主クレームに対する対

  □事故防止教育

   1.教育の管理体制

    事故防止について、最も大切な点である事故の防止は教育の充実抜きにして語る
    ことはできません。

    そこで、この教育について考えてみましょう。

    先程の荷主アンケートでの調査項目をご覧いただいてお分かりのとおり、現在の荷主は
    運送会社に対し、単に荷物を運ぶだけでなく非常に広範なサービスを期待しています。

    これに応えていくのは大変ですが、大変だからといって最初から諦める訳にもい
    きません。

    ではどうするか。

    その答えは、最終的には教育の充実以外にありません。

    それでは教育をどう充実するか。

    国内の大手運送会社は教育体制を整備し、その活動を推進・管理して行くために
    「教育部」「能力開発グループ」など、名称は異なるものの従業員教育のための専門
    部署を設けています。

    事故防止教育もこうした中での中心項目の一つになる訳です。

    勿論これと同じように組織を整備することは現実には困難な場合も少なくありません。

    しかし、この活動に関し誰がどのような責任を負っているか明確にし、その責任を
    スタッフの誰かに負担してもらうといった方策をとることは、ある程度可能かと
    思います。

    こうした専門スタッフを中心に少しずつでも教育カリキュラムを作ったり教育器材や
    資料を整備していければ、社内の教育体制も随分と違った姿になるはずです。

    勿論これで十分と言う訳でなく、事故の防止体制と同じように、こうしたスタッフと
    現場が一体となって教育を行っていく環境ができないと、いわゆる「絵にかいた餅」と
    言うことになりかねません。

    その意味で現場での教育の実践に責任をもってもらう人を作っておくことも大変重要
    です。

    こんな形で教育を管理していく体制ができたとして、では次にどうするか。

    次に教育の方法、そして一体誰が教えるのか、について見ていきましょう。

   2.教育の方法

    教育の方法は、通常OJT*(職場内教育)、Off-JT(職場外教育)、自己啓発
    への支援の3つに分けて考えられます。

    荷物事故防止に限って言えば、次のような理由からOJTが最も大きな効果を期待
    できる方法といえます。

     *“on the job training”の略です。

    (1)実務に即した実践的な内容を、個別に指導できる

    (2)教えられる側のレベルにじてきめ細かい指導ができる

    (3)教育内容に関する理解度が確認でき、そのフォローがリアルタイムでできる

    (4)教育のための経費がかからず、場所や時間といった面での制約も受けない

    しかし、OJTには次のような欠点もあり、この点をOff-JT(特に集合教育)など
    別な教育方法と組み合わせることで解消することも考えておく必要があります。

    (1)一度に多人数が教育できないため教育密度に個人ごとの偏りが出る恐れがある

    (2)教育内容が、教える側、すなわち上司の経験、能力などにより制約される

    (3)実務中心の教育のみになりやすく、広い視野を持った教育を行いにくい

   3.OJTの進め方

    OJTが事故防止教育に最も向いている方法だとして、さてこれをどう進めるか。

    これに関して言えば何といっても実技指導・添乗指導があります。

    これは言うまでもなく、指導にあたって、実際の作業をもとに重要なポイントを教
    えたり、疑問に答えたり、模範を示したりして教育するものですが、集合教育などの
    口頭での説明や指導だけでは理解の徹底が難しい実務の教育に適していると
    いっていいしょう。

    先に触れたとおり、教える過程で実践的な知識や技能の理解度をチェックしながら
    指導を進められるため、実務をほぼ完全に近い形で会得することが期待できます。

    また、事故多発者などの問題社員、中堅社員の悪癖の発見やその是正にも効果が期待
    できるので、荷物事故防止教育には最も適しているのがこの方法だと言えます。

    先にOJTの欠点をいくつか指摘しましたが、

     1.教育カリキュラムをしっかり組む

     2.教育担当者を特定する

     3.その効果をしっかり確認する

    ことで、この方法の持つ欠陥を補うとともに、効果的な教育を進めることができます。

    更に、この方法は運転操作、安全管理、接客マナー、営業推進といった項目にも大きな
    教育効果を期待できるものでもあります。

    問題はこれをどう実践していくかということになりますが、これについては次の項 を
    ご覧ください。

    OJTにはこの他、点呼運転日報点検といった機会を捉えて教育を進める方法が
    考えられます。

    しかし、これらは主に繁雑時に実施しなければいけないため、荷物事故に関する十分な
    教育効果を期待するのは難しそうです。

   4.教育を実践する人

    さてOJTをどう進めるかですが、これにはOJTを行う人、即ち教育する側の人を
    しっかり決めていくことをお勧めします。

    例として次のような形で特定することが考えられます。

    (1)OJT教育担当者およびチューターの特定

      ①チューター

       日本語では個人指導員といった意味になりますが、要は教えられる側の
       社員の先輩社員を教育担当者(チューター)として指名し、後輩社員の
       相談相手的な立場から一定期間教育指導する方法で、主に新入社員の
       教育にお勧めできます。

       チューターには、年次の接近した優良社員を選ぶこと、選ばれた社員に
       その役割や教育の要点を十分理解してもらうことに一定の配慮をする
       ことが会社に求められます。

       この方法は、教えられる側の社員に十分な教育効果が期待できるだけ
       でなく、教える側にも「教えること」を通じて十分な問題意識を植え付ける
       大きな教育的効用を期待でき、全社的なレベルの引上げにも一定の
       貢献を期待することができることから、採り入れているところも少なくあり
       ません。

      ②OJT教育担当者

       名称はともかく、事故多発者などの問題社員や中堅社員の悪癖の発見や
       その是正を主な目的として、主に班長といった立場の方に兼務してもらう
       もので、日頃の作業実態のチェックをもとに問題点を指摘し、具体的な
       改善の指導を行うことを教育のテーマとします。

       実際にこうしたやり方をとっているケースが少なくありませんが、はっきり
       「担当者」と位置付けることおよび任せっぱなしにせず、問題点などを会社
       と共有していくことがこの場合のポイントです。

    (2)教育指導員(インストラクター)の特定

      現場でのOJTについては、その方法・内容が、指導する立場の人によりまち
      まちになることが懸念されます。

      こうした懸念を取り除く意味で、指導する人のレベルを一定にするための方策も
      考えておく必要があります。

      カリキュラムをきっちり決めたり、教育器材を整えていくのもその方法ですが、
      例えば一般社員の教育を担当しつつ、教える側の社員の教育も同時に行う社員
      (教育指導員)を作ることなどもその一案です。

      各現場での実際の教育活動を担っていく人材を育てていくことの中心的な役割は、
      こうした社員に期待されることになります。

   5.OJT実施状況の確認

    こうした体制を作っても、最終的に各現場で当初の目標どおりOJTが実施され
    なければ何の意味もありません。

    忙しい現場では教育といった面はつい後回しにされがちですが、その実施状況を
    チェックシートなどで確認していくことも忘れないようにしてください。

   6.教材その他

    最後に教育を推進するために、具体的にどんなものを準備すれば良いか見て
    みましょう。

    (1)教育カリキュラム

      当たり前ですが早い段階で何を教えるか、「カリキュラム」の形で決めておく
      必要があります。

      このカリキュラムについてはさまざまなところでそのモデルが発表されていま
      すので、これらを参考にしてください。

      この中には当然、事故防止の関連項目も含まれることになりますが、こうした
      モデルを鵜呑みにすることなく自社の実情に沿って決めないと現実離れして、
      被教育者の教育ばなれを招きかねないので注意が必要です。

      また、こうしたカリキュラムを決めるにあたっては、集合教育、OJTといったそ
      れぞれの教育方法に教育項目のどの部分を割り当てるか、予め決めておくことも
      大切です。

    (2)作業マニュアル

      事故防止教育についていえば、現在ある各種マニュアルに加え、実際の作業の
      標準を記した作業マニュアル(作業手順書等)があると教育を進めやすくなり
      ます。

      特に変則時間勤務が多い運転者に関して教育時間を確保するのが大変難しい
      現状を前提とした場合、この種のマニュアルがあることは、各教育担当者に教育の
      指針となる具体的教材(教科書)を提供すると共に、社員ごとの教育効果を平準
      (均質)化していくため大きな意味を持ちます。

    (3)その他教材

      日ごろ忙しいこともあって、集合教育などではつい瞼が重くなりがちになるのは
      無理からぬことです。

      忙しい中せっかく集まってもらった集合時間が休養時間になってしまっては何の
      意味もありません。

      そこで話の内容が観念論、抽象論に傾いたり、一方的になったりしないよう配慮
      していくことは当然であり、極めて大切なことです。

      その意味で事故防止に関しては、荷扱い上の問題点が目に見える形で把握できる
      ビデオや話題のきっかけを提供する目に見えるグラフなどの資料、さらには現実に
      破損している荷物などを教材として用意するとよいでしょう。

      要は具体的に、ひたすら具体的に、です。
 

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運送業の経営と安全管理

運輸事業者の安全管理

運輸事業者の安全管理
 

  ■運輸事業者に求められる安全管理

   運送事業者は、会社全体の安全意識を高めるため、交通労働災害防止の観点から
   安全衛生に関する方針を表明し、従業員に周知することが求められます。

   この方針に基づき、労働災害防止対策を組織的に実施するため、目標を設定し、
   一定期間に達成すべき到達点を明らかにすることが大切です。

   そして、目標を達成するため、次の事項を盛り込んだ具体的な安全衛生計画を作成し、
   確実に実施するとともに、内容を評価(チェック)、改善していくようにしましょう。
    ・適正な労働時間等の管理および走行管理等に関する事項
    ・教育の実施等に関する事項
    ・交通労働災害防止に対する意識の向上等に関する事項
    ・健康管理に関する事項

   1.後を絶たない運輸事業者の事故・トラブル
     「運輸の安全性の向上のための鉄道事業法等の一部を改正する法律」(以下
     「運輸安全一括法」)が2006年に施行され、運輸事業者に対して、絶えず、経
     営トップ主導による輸送の安全性の向上に向けた取り組みを求めるとともに、
     安全最優先の方針の下、経営トップから現場まで一丸となった安全管理体制
     の適切な構築を図るため、安全管理規程の作成などが義務付けられている。

     しかし、運輸事業者の事故・トラブルは後を絶ちません。

      国土交通省運輸安全委員会

      国土交通省自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会

   2.運送の安全確保に向けた基本スキーム
     運輸事業者の事故・トラブルの中には、ヒューマンエラー(人間の誤認識や誤
     動作によって引き起こされるミス)が原因と考えられるものも少なくありません。

     ヒューマンエラーによる事故・トラブルを防止するために、国土交通省では、運
     輸安全一括法の施行により「運輸安全マネジメント評価」を実施しています。

     「運輸安全マネジメント評価」では、国土交通省の運輸安全調査官や地方選
     輪局の評価担当官が、運輸事業者の経営トップ・安全統括管理者・運行管理
     や経営企画部門の担当者に対してインタビューを行います。

     インタビューを通じて、運輸事業者の安全管理体制がシステムとして適切に機
     能しているかどうかについて、関連資料などの確認が行われ、同時に、安全に
     対するより一層の取り組みを促進するため、状況に応じて改善策などの助言
     が行われます。

     国土交通省「運輸安全マネジメント制度に関する参考資料」などによると、輸
     送の安全確保に向けた基本スキームは次の通りです。

     ここでのポイントは、運輸事業者による安全管理体制の構築です。

     安全管理体制とは、輸送の安全を確保するために運輸事業者が実施する各
     種の取り組みで、具体的な内容は安全管理規程(出所:国土交通省)に定め、
     国土交通大臣に届け出ることになっています(安全管理規程の内容は、各事
     業法とその規則で定められています)。

     つまり、安全管理体制を実施する上では、安全管理親程が重要な役割を果た
     すことになります。

     安全管理規程の作成と届け出が義務付けられる運輸事業者は次の通り。

   3.対象事業者と非対象事業者の違い
     「安全管理規程の作成と届け出が義務付けられている運輸事業者」(以下「対
     象事業者」)は、各事業法などの定めに従って適切に安全管理規程を作成し、
     それに基づいて安全管理体制を実施しなければならない。

     一方、車両保有台数が300両未満のトラック運送事業者などのように「安全管
     理規程の作成と届け出が義務付けられていない運輸事業者」(以下「非対象
     事業者」)に対しては、対象事業者ほど多くのルールが設けられていません
     (取り組みが求められていないわけではない)。

     トラック運送事業者を例にとると、対象事業者と非対象事業者の義務は次の
     通りです。

     非対象事業者に義務付けられている具体的な項目は「安全情報の公表」だけ
     になっていますが、これだけに取り組めばよいというわけではありません。

     注目しなければならないのは、基本的な項目として、非対象事業者にも輸送
     の安全の確保が義務付けられていることです。

     対象事業者と非対象事業者との大きな違いは、非対象事業者には安全管理
     規程の作成と届け出や安全統括管理者の選任と届け出の義務がないなど、
     安全管理体制を実施する上での細かなルールが定められているか否かという
     ことです。

     また、国による運輸安全マネジメント評価は現行の監査と連動して実施され
     る。

     そのため、非対象事業者の場合、現行の監査に合わせて安全管理体制の実
     施状況がチェックされ、未実施の場合は改善指導が行われます。

  □PDCAサイクルによる安全管理体制
   国土交通省では、運輸事業者による安全管理体制の導入を支援するため、運輸
   事業者が取り組むべき内容をまとめた「運輸事業者における安全管理の進め方
   に関するガイドライン〜輸送の安全性の賃なる向上に向けて〜」(以下イガイドラ
   イン」)を公表しています。

   ここでは、国土交通省のガイドラインを参考に、PDCAサイクルによる安全管理体
   制のポイントを紹介していきます。

   ガイドラインは、国土交通省のウェブサイトで閲覧することができます。

    国土交通省「運輪安全マネジメント制度に関する参考資料」

    PDCAサイクルによる安全管理体制 

   1.前提条件:経営トップの責務
     輸送の安全を確保するために、経営トップは強いリーダーシップを発挿しなけ
     ればならない。

     ガイドラインでは、経営トップが次のような項目に主体的に関与することを求め
     ています。
      ・関係法令などの順守と安全最優先の原則を事業者内部へ徹底する
      ・安全方針を策定する
      ・安全統括管理者などに指示するなどして、安全重点施策を策定する
      ・安全統括管理者などに指示するなどして重大な事故などへの対応を
       実施する
      ・安全管理体制を構築・改善するために、かつ、輸送の安全を確保する
       ために、安全統括管理者などに指示するなどして、必要な要員、情報、
       輸送施設など(車両、船舶、航空機および施設をいう)が使用できる
       ようにする
      ・マネジメントレビューを実施する

   2.Plan(計画:安全方針の作成)
     PDCAサイクルの「Plan(計画)」に該当する項目です。

     安全方針とは、経営トップの主体的な関与を通じて決定された、輸送の安全の
     確保に関する基本理念を指します。

     ガイドラインでは、「関係法令等の順守」「安全最優先の原則」「安全管理体制
     の継続的改善等の実施」の3点を安全方針に明記すべき内容としています。

     安全方針は、経営管理部門だけでなく、現業部門も含めた安全に携わるすべ
     ての従業員を対象に周知徹底させることが求められています。

     また、安全方針を受け、会社が安全について目指す目標(到達レベル)および
     その目標を達成するための具体的な手段を安全重点施策として設定します。

     安全重点施策の設定に当たっては、次のような点に注意すべきとされている。
      ・目標年次を設定すること
      ・可能な限り、数値目標などの具体的目標とすること
      ・輸送現場の安全に関する課題を具体的かつ詳細に把握し、それら
       課題の解決、改善に直結するものとすること
      ・取り組み計画の実施に当たっての兼任者、手段、実施期間などを
       明らかにすること
      ・現場の実態を踏まえた改善効果が高まるよう配慮すること
      ・従業員が理解しやすいよう配慮すること

   3.Do(実施)
     PDCAサイクルの「Do(実施)」に該当する項目は次の通りです。

     (1)安全統括管理者の選任と届け出
       安全統括管理者は、中心的に安全管理体制を実施する「キーマン」です。

       経営トップの直下に位置し、安全管理体制に改善の余地がある場合など
       は、経営トップに直接報告するなどします。

       経営トップは、次の事項に関する責任と権限を安全統括管理者に与えるこ
       とが求められます。
        ・安全管理体制に必要な手順および方法の確立、実施、維持、改善
        ・安全重点施策の進捗状況や事故の発生状況など、安全管理体制
         の適切な運営のために必要な情報の経営トップへの報告
        ・安全方針の事業者内部への周知徹底

       経営トップはその責務において安全統括管理者を選任し、国土交通省に届
       け出なければならない。

     (2)要員の責任・権限の明確化
       安全管理体制を適切に実施する上で、各要員の責任と権限を明確にして、
       事業者内に周知徹底させることは非常に重要です。

       ガイドラインでは、安全管理体制の運営上必要な責任・権限の他、関係法
       令などで定められている責任・権限を、必要とされる要員に与えることとさ
       れている。

     (3)情報伝達およびコミュニケーションの確保
       情報の偏在などを防止するために、「経営管理部門と現場」と「現場同士」
       の上下左右の情報伝達とコミュニケーションの実現が重要となります。

       コミュニケーションは、経営管理部門から現場に対するトップダウンのコミュ
       ニケーション、現場から経営管理部門に対するボトムアップのコミュニケー
       ションの双方を確保することが重要です。

       ガイドラインでは、具体的な方法として、次を挙げています。
        ・情報のデータベース化とそれに対する容易なアクセス手段の確保
        ・経営トップなどへの目安箱などのヘルプラインの設置

     (4)事故、ヒヤリ・ハット情報などの収集・活用
       実際に発生した事故に関する情報だけではなく、事故につながりかねない
       ヒヤリ・ハット体験など「事故の芽」情報も適時適切に経営トップに報告され
       る体制を構築することは、安全管理体制を適切に実施する上で非常に重
       要です。

       また、収集された情報は、一定の観点(類似事例を集めるなど)から分類・
       整理した上で、その結果を踏まえて情報を分析し、対策を検討・実施するこ
       とが求められます。

     (5)重大な事故などへの対応
       重大な事故などが発生した場合の対応方法をあらかじめ定めておくこと
       で、万一の際に適切かつ柔軟に必要な対応が取れる体制を構築します。

       ガイドラインでは、具体的な方法として「責任者の選任」「対応手順などの設
       定と周知」「全社的な事故対応訓練の実施」などを挙げています。

       なお、ガイドラインでは、対応手順が過度に緻密なものにならないように注
       意すべきとしている。 

     (6)関係法令などの順守の確保
       輸送の安全を確保するためには、関係法令などを順守し、適切に業務を遂
       行することが不可欠です。

       ガイドラインでは次の事項などについて、安全統括管理者が定期的に確認
       するなどして、関係法令を順守することを求めています。
        ・輪送に従事する要員の確保
        ・輸送施設の確保や作業環境の整備
        ・安全な輸送サービスの実施およびその監視
        ・事故などへの対応
        ・事故などの是正措置および予防措置

     (7)安全管理体制の構築・改善に痺要な教育・訓練などの実施
       安全管理体制を適切に実施するためには、経営管理部門の要員、内部監
       査の担当者、各部門の責任者などに「ガイドラインの内容」「安全管理規程
       の内容」「関係法令など」について教育・訓練することが非常に重要となる。

   4.Check(評価:内部監査の実施)
     PDCAサイクルの「Check(評価)」に該当する項目です。

     安全管理体制が適切に実施され、機能していることを確認するために、少なく
     とも1年ごとに内部監査を実施することか必要です。

     基本的に、内部監査の対象は、安全管理体制の実施に直接的に関わる経営
     管理部門となりますが、必要に応じて現場も対象となる。

     内部監査を実施する内部監査員として適しているのは、安全管理規程を熟知
     し、(7)の教育・訓練を受けた者となる。

     なお、内部監査の客観性・独立性を確保するために、ガイドラインでは、内部
     監査を受ける部門の業務に従事していない者が監査を実施することを求めて
     いる。

   5.Act(改善:マネジメントレビューと継続的改善)
     PDCAサイクルの「Act(改善)」に該当する項目です。

     安全管理体制の段階的な向上を実現するための取り組みであり、「マネジメン
     トレビュー」と「継続的改善」に分かれます。

     「マネジメントレビュー」は、内部監査の結果や安全統括管理者からの報告な
     どを踏まえ、安全管理体制の適切性・妥当性、達成の度合い、改善の機会、
     変更の必要性などを検討するものです。

     ガイドラインでは、経営トップは、安全管理体制の機能全般に関し、少なくとも
     1年ごとに「マネジメントレビュー」を行い、「今後の取り組み目標や計画」「取り
     組み方法の見直しや改善」などを決定することとされています。

     「継続的改善」は、「マネジメントレビュー」などを通じて明らかになった安全管
     理体制の課題への対応であり、「是正措置(顕在化した課題の再発防止のた
     めに、その原因の除去などを行う)」と「予防措置(潜在的課題の顕在化防止
     のために、その原因の除去などを行う)」の2つに大別されます。

     是正措置、予防措置ともに、ガイドラインでは、具体的な手順として、次を挙げ
     ている。
      ・課題の内容の確認
      ・原因の特定
      ・措置の必要性の検討
      ・措置の検討・実施
      ・措置の有効性の評価

   以上、安全管理体制の構築に当たって必要な各項目についてみてきました。

   安全管理体制は全体としてPDCAサイクルを基本としていますが、個々の項目に
   ついてもPDCAサイクルを意識して実施することが必要です。

  □参考リンク
   国土交通省では、事業者から報告を受ける情報や事業改善命令に関わる事項な
   どについて、輸送の安全に関する情報をウェブサイトで公表しています。

    鉄軌道輸送の安全にかかわる情報の公表について 

    ○索道輪送の安全にかかわる情報の公表について 

    事業者が取り組む安全対策 

    船舶運航事業における運輸安全マネジメントの実施等について 

    航空輸送の安全にかかわる情報


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運送業の経営と安全管理

運送業の安全確保

  ■運運送業の安全管理

   厚生労働省の「平成29年における労働災害発生状況」によると、陸上貨物運送
   事業(以下、運送業)における労働災害による死傷者数(死亡および休業4日以
   上)は、平成21年で1万4706人(うち死亡者数は、137人)となっています。

   また、同省の「平成21年における死亡災害・重大災害等発生状況」によると、運
   送業における死亡事故の6割は交通事故(以下、交通労働災害)によって占めら
   れています。

   交通労働災害は、従業員である運転者自身だけでなく、一般の市民も巻き込んで
   しまうことが多いことから、運送事業者には、「絶対に事故を起こさない」という社
   会的な責任が課せられており、災害の減少に取り組む必要があるといえます。

  □安全管理体制の整備

   1.管理者の選任

     運送事業者は、交通労働災害の防止を図るため、積極的な安全管理体制を
     確立しなければなりません。

     運送業では、交通労働災害の防止に関係する管理者(安全管理者、運行管
     理者、安全運転管理者等)を選任し、その役割、責任、権限を定めることが必
     要です。

     なかでも運行管理者は、運送業における交通労働災害防止にとって重要な役
     割を担います。

     運送業では、自動車運行の安全確保に関する業務を行わせるため、試験を受
     けて運行管理者資格者証の交付されている者のなかから、運行管理者を選
     任し、各営業所の所在地を管轄する陸運支局長に届け出なければなりません。

     運行管理者は、営業所における自動車台数に応じて一定人数以上を選任しな
     ければなりません。

     選任しなければならない運行管理者数(国土交通省)は次のとおりです。
      *30車両以上は1+(車両数÷30)=運行管理者数(端数切捨て)

        ※1 被牽引自動車とは、貨物自動車の形態のひとつ

        ※2 運行車とは、集貨された貨物を積み合わせて運送する経路に
            配置する車両のこと

                              出典:国土交通省

   2.安全衛生に関する方針の表明、目標設定、計画実施

     運送事業者は、会社全体の安全意識を高めるため、交通労働災害防止の観
     点から安全衛生に関する方針を表明し、従業員に周知することが求められます。

     この方針に基づき、労働災害防止対策を組織的に実施するため、目標を設定
     し、一定期間に達成すべき到達点を明らかにすることが大切です。

     そして、目標を達成するため、次の事項を盛り込んだ具体的な安全衛生計画
     を作成し、確実に実施するとともに、内容を評価(チェック)、改善していくように
     しましょう。

      ・適正な労働時間等の管理および走行管理等に関する事項

      ・教育の実施等に関する事項

      ・交通労働災害防止に対する意識の向上等に関する事項

      ・健康管理に関する事項

   3.安全(衛生)委員会等の設置

     安全(衛生)委員会等(労使で話し合う会議)において、交通労働災害の防止
     に関して調査し、審議することが必要です。

     また、安全委員会等のなかに交通労働災害防止部会を設置することにより、
     交通労働災害の防止について、重点的に取り組むことが望ましいとされています。

     なお、安全委員会は、道路貨物運送業・港湾運送業では50人以上、それ以外
     の運送業では100人以上で設置、衛生委員会はいずれの運送業でも50人以
     上で設置が義務づけられています。

  □現場における安全管理

   交通労働災害事故を発生させないためには、現場における徹底した安全管理が
   必要です。

   以下に具体的な内容を解説します。
 
   1.労働時間等の管理

     運送業では、拘束時間(労働時間および休憩時間(仮眠時間を含む)の合計
     をいう)が長くなりがちなため、疲労の蓄積による交通労働災害を防止すること
     が重要です。

     そのためには無理のない運転時間を設定した走行計画を作成することによ
     り、運転者の十分な睡眠時間の確保に配慮した労働時間管理および走行管
     理を行うことが大切です。

     走行開始または終了の地点と運転者の自宅の間の移動に要する時間を考慮
     し、十分な睡眠時間を確保するため、必要に応じて、より短い拘束時間の設
     定、宿泊施設の確保等の措置を講じることがポイントです。

     運送業における拘束時間を適正化するため、厚生労働省では「自動車運転者
     の労働時間等の改善のための基準」というガイドラインを定めており、運送事
     業者はこれを遵守しなければなりません。

     表は、トラック運転者の基準(全日本トラック協会)です。

   2.乗務前後の対面点呼の実施

     運転者の乗務前および乗務後に、運行管理者は対面による点呼を行い、その
     状況を点呼記録簿に記録し、1年間保管しておく義務があります。

     ただし、長距離の運行で乗務前、乗務後のいずれも対面点呼ができない場合
     は、乗務の途中に少なくとも1回、電話や運転者と直接対話できる方法で点呼
     を行い、健康状態について報告を求め、安全を確保するために必要な指示を
     しなければなりません。

     また、2011年4月より対面点呼時に飲酒の有無を確認する際には、目視等に
     よる確認のほか、アルコール検知器を用いて行わなければならなくなった。

   3.安全衛生教育の実施

     (1)雇い入れ時等の教育及び作業内容変更時の教育

       運送事業者は、運転者に対して、雇い入れ時および作業内容変更時に、
       次の事項を含む教育を行わなければなりません。

       また、必要に応じて、安全運転の知識や経験が豊富な運転者が添乗する
       ことにより、実地指導を行うことが大切です。

        ・交通法規、運転時の注意事項、乗務前点検の励行等の運転者が
         遵守すべき事項

        ・「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の遵守、運転
         日前日の十分な睡眠時間確保、飲酒による運転への影響、睡眠時
         無呼吸症候群等の適切な治療、体調の維持等の必要性

     (2)日常教育

       運送事業者は、運転者に対して、安全な運転を確保するため、社内教育の
       実施や関係団体が実施する講習会への参加により、次の事項について指
       導することが必要です。

        ・「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の遵守、運転日
         前日の十分な睡眠時間確保、飲酒による運転への影響、睡眠時
         無呼吸症候群等の適切な治療、体調の維持等の必要性

        ・警察等からの交通事故発生情報、交通事故の危険を感じた事例、
         デジタル式運行記録計の記録、ドライブレコーダーの記録等から
         判明した安全走行に必要な情報

        ・情報や記録に基づいて判明した危険な個所、注意事項等を示した
         交通安全情報マップの提供・交通労働災害に関する法令等の改正
         に関する行政機関からの情報

     (3)交通危険予知訓練

       運送事業者は、運転者に対して、実際の運転場面を想定したイラストシー
       ト、写真等を用いて、潜在的危険を予知させ、その防止対策を立てさせるこ
       とにより、安全を確保する能力を身につけさせる交通危険予知訓練を継続
       的に行うことが必要です。

   4.健康診断等の実施

     運送業における労働時間は長時間になりがちです。

     健康障害を防止するためには、健康診断等により、健康状況を総合的に把握
     したうえで、適切な保健指導を行うことが重要です。

     (1)健康診断の実施

       雇い入れ時および1年以内ごとに1回、定期に健康診断を行うことが義務
       づけられています。

       また、深夜に乗務する運転者に対しては、6カ月以内ごとに1回、定期に健
       康診断を行うことが義務づけられていますので注意が必要です。

     (2)面接指導等

       長時間(1カ月100時間)にわたる時間外や休日労働を行った運転者に対
       しては、医師による面接指導等を行い、必要がある場合には、労働時間の
       短縮等の適切な措置を取ることが大切です。

     (3)運転時の疲労回復

       運転者の疲労による交通労働災害を防止するため、走行経路の途中で、
       肩、腕および腰部のストレッチや体操等により、運転時の疲労回復に努め
       るよう指導するようにしましょう。

   5.交通労働災害防止のためのチェックリスト


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