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ロジカルシンキングを行う際のツール

 ロジカルシンキングには、結論を導くために使用する技術、すなわち思考を具現化させるための
 ツールというものがあります。
 (ここで言う「ツール」 とは、思考を進めていく際、思考経路や結論を効率よく、わかりやすく
 整理・分析・提示するための技術や、それを具体化するための図や表のことを指します)。

 ここでは、様々なツールの中でも代表的な3つのツールについて紹介します。

■思考を具現化させるための3つのツール

 ◎ロジックツリー

  ロジックツリーとは、様々な情報や事実を階層別にまとめ、樹状化することで問題を整理して
  いく方法のことを指します。

  この手法は、もっとも表層にある課題や情報を細分化させていくことで、全体像の把握・問題
  の本質化・解決策の具体化などを目的としています。

  抽象的な課題や目的から、具体的な手段や解決策を見つけ出すことができる有用性に加え、その
  構造の分かりやすさや情報の網羅性の高さから、ロジカルシンキングには欠かせないツールです。 

  ロジックツリーを作成するには、まず最上位(第一階層) にある情報を起点、あるいは帰結点
  とし、その情報に関連する複数の情報(因果関係・比較要素・構成要素など)を第二階層として
  設定します。

  さらに第二階層の各情報に対して、同じ手順で処理していき、細分化していきます。

  そして第一階層に関する情報がMECEになった時点で、N階層を持ったロジックツリーの完成
  です(3階層を基本とし、必要に応じて第4階層、第5階層を作っていく)。

  完成後、それらの情報の正否や相互の関連性を評価していきます。

  前項『ロジカルシンキングの基本的な考え方』の冒頭で説明した「車の部品メーカーA社」を
  例にしたロジックツリーの具体例とそのポイントについて以下にまとめました。

 ◎マトリックス分析

  マトリクス分析とは、ある課題や事象を、異なる2つの軸(縦軸(Y軸) と横軸(X軸))で
  作られた領域内でざっくりと整理・分類する方法のことです。  

  ビジネスの世界では、自社の事業や製品などの市場における位置を分析する際によく使われます。

  いわゆるセグメント分析やポジショニング分析と呼ばれるものがそれで、具体的な例としては、
  「PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント) 」や「SWOT分析」などが代表的です。

  マトリックス分析は、複数の商品や思考結果などの相関関係を見る時や、それらの情報が全体の
  どの部分をカバーし、どの部分が欠けているかといった漏れの発見などに役立ちます。

  また、通常の視点では特に関係ないように見えていたものが、切り口を変えることで新たな
  相関関係が見つけられることもよくあります。

  単なる「現在の評価」にとどまらず、「新たな発想の発見」にも応用できることが大きな
  特徴だと言えるでしょう。

  (ポジショニング分析での) 注意点は、軸の設定に注意すること。

  似通った2つの切り口で分類しても、当然これといった相関関係は見つかりません。

  マトリクス分析の成否は、軸の設定にあるといってもいいでしょう。

  マトリックス分析のポイントをまとめました。

 ◎プロセス

  プロセスとは、仕事や計画を進める際の方法・過程・手順などを表す言葉で、思考の経過や
  ワークフローの進行などを表す時にも使います。

  ここで理解しておいていただきたいのは、「プロセスとは「時間軸」を中心にした概念である」
  という点です。

  前述のロジックツリーやマトリックス分析は、その評価項目やカテゴリー分けについては基本
  的に自由でした。

  しかしプロセスでは、どんなツールにも「時間軸」という項目が存在しています。

  具体的な企業戦略を生み出すツールがロジックツリーやマトリックス分析だとすれば、その
  戦略を実行するフェーズやステップアップの時期などについて分析するツールがプロセスだと
  言えるでしょう。

  プロセスを表すフレームワークとしては、「AIDMAモデル 」 や「PLC(プロダクト・
  ライフサイクル) 」などが有名です。

  前述のように、プロセスではこれまでの思考過程でチェックしてきた漏れやダブりを、時間
  という概念で洗い出していきます。

  あるツールでは完ぺきに見えた分析でも、別のツールで見直してみると、実は穴だらけだった
  ということは現実においてもよく見かけます。

  時間軸という1つの項目で分析するプロセスは、他のツールに比べてやや単純に見えるかも
  しれませんが、単純であるがゆえに見落としているポイントをチェックしやすいということを
  忘れないようにしてください。

  ここで説明した各ツールは、ロジカルシンキングを行う上ではどれも欠かせないものばかりです。

  ロジカルシンキングを進める場合、複雑な情報を整理する際にはロジックツリーを、それらの
  情報を分析・評価したり、企業戦略や商品開発のコンセプトを設定する際にはマトリクス
  分析を、そしてそれらの結果を時間軸を中心に再構築したり、具体的なタスクに落とし込んだ
  りする際にはプロセスを使うようにすると、思考が飛躍的にスムーズになることが期待できます。

  しかしツールを使うことばかりに目がいってしまい、基本的な考え方や本質論をないがしろに
  してしまっては本末転倒です。

  ツールはあくまで知識の一つにすぎません。

  ツールを使いこなすことがロジカルシンキングの最終目標ではないことを肝に銘じておきましょう。

  ロジカルシンキングを身につけるための近道は、常に「なぜ?」という視点を持つ習慣と、
  「次はもっといいものを」という心構えを持つことです。

  成功に浮足立つことなく、失敗にくよくよすることもなく、常に事実だけを見つめ、そこから
  何かを生み出そうと心掛けていれば、いつの間にか正しい論理性が身についているでしょう。

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ロジカルシンキングの基本的な考え方

■「論理的に考えること」の意味
 ロジカルシンキングの本来の意味は、 「複雑かつ膨大な情報を、論理的に分析・構造化すること」
 と解説されています。

 
 上記の説明は非常に簡潔でわかりやすいように見えますが、実は非常に曖昧で不親切な説明である
 ことに気づいたでしょうか。
 
 もし上記の説明を聞いた人が、「「論理的に分析する」とはどのような意味ですか?」 と質問して
 きたとしたら、おそらくたいていの人が言葉に詰まっ
てしまうのではないでしょうか。
 
 具体例で考えてみましょう。
 例えば、 「長年車の部品を作っている製造業A社がありました。
 A社は長年事業を行っており、市場シェアも上々。
 ユーザーからの評判も良く、返品も少ない優良メーカーですが、ここ数年は売上高も利益もいまいち
 ぱっとしません。
 
 どうすればこの現状を打破できるでしょうか?」 という命題が与えられたとします。
 かなり漠然とした質問ですが、このような曖昧かつ漠然とした命題を日常的に与えている、もしくは
 与えられているビジネスマンは
少なくありません。
 
 このような命題に対し、あなたはどのように考えるでしょうか。
 アプローチの方法はいろいろありますが、よくある回答例としては、
  1.現在の問題点を列挙し、総合的に、あるいは個別に改善策を提示・実行する
  2.A社が置かれている環境・市場・製品・競合といった事実を比較検討する
  3.既存ラインや市場はとりあえずおいておき、新規製品や市場などを開拓する

 
などが挙げられます。
 
 また、このような命題を会議などの議題として出した場合、ブレインストーミング的にあらゆる
 方向性から情報を集め、そこから解決策につなげていくという方法がとられるケースもあります。
 
 しかしこれらのアプローチは、結果的には有効な手段にはありえても、その過程は決して論理的
 とは言えません。
 ロジカルシンキングの前提として「MECE」という概念を説明しました。
 その観点に立って上記の回答例を見てみると、そのどれもが、 MECEから外れている、もしくは
 外れやすい可能性があります。


 1や2のように、最初に情報(問題点や事実) を集めて、その後それらの情報を整理・分析して
 いく方法は、そもそ
も情報を列挙する時点で、「漏れ」や「ダブり」 が出る可能性があります。
 また3のような考え方は論外で、希望的観測を根拠にした問題の先送り、すなわち単なる思考停止に
 過ぎません。


 さらに、会議などで複数の人間から自由に意見を出してもらうという方法は意見が拡散しやすく、
 同時に「漏れ」や「ダブり」が多く出てしまい、時間的なロスにつながります。
 上記のようなアプローチは一見もっともらしく見え、また情報を多く分析すればするほど「やった感」
 はありますが、ロジカルシンキングという観点からすれば
非常に非合理で、無駄がある方法だと
 言えるでしょう。
 
 つまり「論理的に分析・構造化する」ということの本質は、このような「漏れ」や「ダブり」を
 なくし、誰にでも分かりやすい筋道に沿って再構成することにあるの
です。

□前提となる3つの視点 
 では、前段のような命題を論理的に考えるにはどうすればいいのでしょうか。
 論理的思考を阻害する要因はいくつかありますが、代表的なものは「課題の本質化の欠如」「帰結
 点の欠如」「誤謬および先入観」などが挙げられます。
 これらの要因があると、情報の客観性が失われたり、思考が偏ったりしてしまい、正しい論理性が
 得られません。


 そこでロジカルシンキングでは、それらを防ぐための3つの前提が存在します。
 3つの前提とは、「ゼロベース」「結論(目的) 設定」「フレームワーク」 。
 これらの視点(キーワード) は、ロジカルシンキングを正しく行う上では欠かせない概念であり、
 これらを身につけずして思考ツールを使っても、それらの効果は半減す
るどころか、まったく
 意味をなさなくなる可能性もあります。

 
次回、具体的な思考ツールについて詳しく説明しますが、その前にこの3つのキーワードをしっか
 理解しておいてください。
 それぞれの詳しい説明を以下にまとめました。

□3つの視点(キーワード)
 1.ゼロベース
  固定観念や先入観をなくし、様々な問題を白紙(ゼロ) の状態から考えることです。
  論理性を阻害する要因の最たるものが、「先入観(固定観念・既成概念・常識等)」
  です。


  過去の経験で培った「思考の枠」 は、ある面では非常に有効に機能します。
  しかし、少なくとも「新たな発想を生み出すための思考」という観点からすると、
  それらは自由な発想や客観的な分析などを歪めるだけの存在だと言っても過
言では
  ありません。

  ロジカルシンキングは情報を客観的に分析することを目的と
しています。
  にもかかわらず、情報を集めたり、分析したりする際に「先入観」というフィルター
  を通してしまっては、大前提である「客観性」や「正確性」が失われ
てしまいます。
  また、日々変化する現代において、「過去の成功」はある意味では成長の妨げにも
  なりかねません。

 
 このゼロベースという概念は、それらの阻害要因を打破するためには欠かせないもので
  あり、特に過去に数多くの成功体験をしてきた年配の方にはぜひ身につ
けていただき
  たいキーワードです。
  また、ロジカルシンキングに限らず、新しいものを生み出す際にもゼロベースが基本と
  なります。


  しっかり身につければ、固く、狭くなった枠を破壊し、新たな可能性を生み出すこともあります。
  思考の妨げとなるさまざまな足かせをなくすためにも、ゼロベースで情報に接するように心がけ
  ましょう。

 
2.結論(目的) 設定
  思考の帰結点を最初に明確に設定することです。
  会議などで意見が拡散してしまうのは、集約すべき点が明示されていないために他なりません。
  そこで、意見の拡散を防ぐため膨大な情報や大人数の思考経路に一つの道筋(議論の帰結点)を
  
与えてあげれば、その道筋にそって意見が流れていくようになります。
  こうすることで思考の方向をシンプル化し、無駄な議論を省けるようになります。

 
 日本企業を外国企業と比較する際、しばしば「(無駄な)会議が多い」「会議の時間が長い」
  というポイントを指摘されることがあります。
  こう言われてしまう理由は、 「議論の帰結点を用意していない」、もしくは「帰結点は用意
  しているが、
その内容が抽象的で明確ではない」 という場合が少なくありません。
  議論や思考が行きつく先には、なるべく具体的で客観的な帰結点を用意しておきましょう。

 
 例えば前段の命題での「現状を打破する」という目的は包括的な言葉であって、思考の具体的な
  帰結点にはなりえません。
  また、言葉の取り方によっては、そのプロセスや結果が大きく異なってしまうことも考えられ
  ます。

  それらを防ぐため
にも、最初に結論を定義し、無駄な思考の拡散や時間的ロスをなくすことが
  必要
です。
  また他者に思考結果を提示する際にも、最初に結論を示し、後にその論拠を詳しく説明する
  という方法は、他者にとってわかりやすく、強い説得力が示せると
いうメリットがあります。
  こちらも合わせて覚えておきましょう。

 
3.フレームワーク
  膨大な情報を整理する際、(情報を入れるための)大きな枠を最初に設定し、その枠に情報を
  入れていくこと、またはその枠そのものを指す言葉です。
  わかりやすく言えば、 「情報をカテゴリー別に分類したり、すでに用意されている思考ツール
  に情報を落とし込んだりすること」となるでしょうか。


  ビジネスにおけるフレームワークとしては、「経営戦略の3Cのフレームワーク、 Customer
  (顧客・市場・買い手環境)、Company (自社環境)、Competitor (競合他社・競合商品・
  ライ
バル環境) 」が代表的です。

  フレームワークは、大きく「アウトプットのフレームワーク」 と「インプットのフレームワーク」
  という2つに分類できます。
  前者は、他者に伝える、あるいは他者を説得する際に用いるフレームワークで、具体的には
  「プレゼン」 や「ビジネス
文書」 などがそれにあたります。
  後者は、情報を整理・分析する際に用いるもので、「PPM(プロダクト・ポートフォリオ・
  マネジメント) 」や「プロダクト・ライ
フサイクル」などが代表的なフレームワークです。

  また、インプットのフレーム
ワークは、設定する目的や分析する情報によって「要素」「構造」
  「時系列」「位置」
「階層」 といったカテゴリーに分類されます。
  フレームワークは、膨大な量の情報をより大きな視点で俯瞰することで情報分析を単純化し、
  思考にかかる時間を短縮化することを目的としています。


  フレームワークを使う場合は、「設定するフレームワーク自体がMECEであること」「各フレーム
  ワークに入った情報から得られる解釈や傾向を、包括的に付与すること」「フレームワークを
  最初から細かく設定しないこと(カテゴリーは大きくとら
える)」 といった点に注意しましょう。

 
 上記で説明した3つのキーワードを守って、初めてロジカルシンキングを行うためのスタート
  ラインに立てるようになります。
  若い人や経験の浅いビジネスマンはこれらの前提を飛ばして技術論に傾倒しがちですが、それでは
  真の意味でロ
ジカルシンキングを身につけたとは言えません。

 
 繰り返しになりますが、ロジカルシンキングとはあくまで「結論やそこに至るまでの過程をわかり
  やすく整理するための思考的な技術」であって、決して「与え
られた情報を起承転結の形式に
  まとめること」や「思考ツールを使いこなすための
技術論」ではありません。
  確かにそれらの方法はロジカルシンキングの類型の一つです。

  しかし、それだけがロジカルシンキングだと思い込んでしまうと、思考がその方向に凝り固まって
  しまい、論理的な思考や自由な発想を阻害する原因になってしまいます。
  もし上記のような勘違いや思い込みがあった場合は、改めてロジカルシンキングが持つ意味や
  正しい方法論をしっかり理解し、本来情報を整理するロジカルシ
ンキングというツールに振り
  回されないように心がけてください。


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リーダーの『教えるスキル』


■自社が生き残るには 
 あなたはすでに、実感されているかもしれませんが、従来のやり方では、企業が生き残る
 ことは大変難しくなってきています。
 今の時代は、経営方針改革の他、企業が発信する価値観や理念といったものが、かつてない
 ほど重要になってきています。

 そこで欠かせないのは、組織のトップのみならず、それぞれの部門のリーダーや、組織を
 構成するすべてのメンバーが、ゆるぎない信念や強さを持つことです。 
 そのためにも、「人材教育」が重要なカギを握ることになります。

 自分の会社の理念にどう共感し、上司・先輩たちから何を学び、それを自分の部下や後輩へ
 いかにして伝えていくのか。
 これからのリーダーにとって、「教える技術」はますます重要なものになっていきます。

 自分1人で目標を立て、意欲的に働きながら、自分で考え、行動できる自立型の人間を
 育てることです。 
 現在、多くの企業において「部下にどう教えるのか?」ということは、その部下を受け持つ
 リーダー個人の能力や力量にかかっているのが現状です。

 もしリーダーが「教え方」を知らないのであれば、当然ながら部下は望み通り育っては
 いきません。
 あなたも「部下に仕事を教える」「人材を育てる」ことに大変苦労した経験や、今現在
 苦労している立場の人もいるでしょう。

 昔から、全体の2割の社員が、売上げ全体の8割を形づくると言われます。
 言い換えると、企業は2割の「できる人」と8割の「できない人」によって構成されている
 ということです。

 「教え方」に磨きをかければ、8割の人を確実に、しかも今までより明らかに短い時間で
 成長させることが可能になります。
 このレポートを通じて「教える技術」が高まり、1人でも多くの優秀な人材が育つことを
 願っております。

□「教える」前の心構え 
 私たちは職場でもプライべートな生活のなかでも、毎日のように「教える」という言葉を
 使っています。
 また、「人に何かを教える」「誰かから何かを教えてもらう」ということも日常的に行って
 います。

 例えば、「仕事を教える」「勉強を教える」「料理を教える」「道具の使い方を教える」
 「目的地までの道順を教える」など、です。 
 では、「教える」とは何でしょうか。

 「教える」とは、「相手から『望ましい行動』を引き出す行為である」、と定義づけ
 しましょう。 
 仕事を教える場合、営業の新人研修を例にとってみましょう。

 まずは、ビジネスマナーに則した名刺交換の手順や好感度の高い挨拶の仕方、相手の話を
 聞くときの相づちのうち方、顧客のニーズを聞き出すための話し方など、さまざまな「行動」
 が伝授されます。

 つまり、望ましい行動を身につけさせる、実践させる、間違った行動を正しく変える行為
 です。
 加えて、理解する、覚える、考えるといったことも「行動」として分類しています。 

 また「教える」際に、部下や後輩を成長させたいと心から望んでいるのなら、仕事の
 「結果」だけに注目するのではなく、部下や後輩の仕事ぶり(行動)を「認める」ことの
 大切さを認識してください。

 さらに仕事の話以外にも、プライべートの話をするなど、社内コミュニケーションも大事
 です。
 ビジネスパーソンの離職率は、上司とのコミュニケーションの量が少ないほど高いことが
 わかっています。 

 普段は意味を深く追求することなく、当たり前のように使っていた「教える」という言葉を、
 「行動」というキーワードを軸にして見つめ直すと、「教える」をめぐるさまざまな問題の
 解決に向けて、大きく1歩を踏み出すことができるはずです。

□リーダーがやるべきこと 
 人材を育てることは、確かに大変なことです。
 しかし、ビジネスというカテゴリーの中で部下を「1人前に育てること」は、それほど
 困難ではありません。

 なぜならビジネスは、とても明快なもの。
 どんな業種・職種でも、それぞれのプロジェクトにははっきりとしたミッションや目標の
 数字があり、部下はそれを達成すればよいわけです。

 よって、社長やリーダーがすべきことは、「決められた会社のミッションや数字を達成
 できる人」に部下を近づけていく、ということになります。
 ゴールが明確ですから、その道筋や行動も明確に割り出すことができるのです。

 もちろん教育にはそれなりの時間がかかりますが、「教える技術」を使えば、誰でも
 「教える」を着実にスキルアップすることができ、育成にかかる時間を大幅に短縮する
 ことができます。 

 その育成で何より重要なのは、社長やリーダーの立場であるあなたが「聞く習慣」「社員の
 話を聞くという行動」をしっかり身につけ、部下の今の考えを引き出すことです。
 1つの報告が終わる前に、「こうすればいいんだ」と話し始めてしまう社長やリーダーは
 多いのではないでしょうか。

 聞き出し方は、最初に「お昼は何を食べた?」「会社に来る電車は何線だっけ?」と容易な
 質問を投げかけます。
 とにかく、相手に話をさせることです。 

 また、部下に仕事を教えても、その成果が思うように上がらない時、「本人にやる気が
 足りないのが原因だろう」「情熱がない」「根性を叩き直す必要がある」と考えるのは、
 大きな誤りです。
 その誤った考えに共通する問題点は大きく分けて2つあります。

 1つは「部下の気持ちや性格に原因がある」と考えてしまうこと。
 日々の行動の集積=仕事の結果ですから、常に注目すべきなのは気持ちや性格ではなく
 「行動」です。

 もう1つは「悪いのは部下のほうだ」という発想。
 指導がうまくいかなかった理由・原因を見つけて、的確な改善を加えることができれば、
 部下は必ず成長して成果を上げられます。

 部下の責任と決めつける前に、まず自分のスキルで、どこが足りなかったのか考えて
 みましょう。

□行動を具体化するために 
 仕事を教える時、その内容をあらかじめ整理できていますか。
 最初に求められるのは、教える内容を「知識」と「技術」に振り分けることです。
 「知識」は聞かれたら答えられること、「技術」はやろうとすればできること、と分ける
 ことで、指導手順の決定や、その人に教える範囲の見極めが、体系化できます。

 また、もしも指導がうまくいかなかった場合にも、チェックできるため原因が見つけやすく、
 補強することで狙い通りの成果や成長が見込めるのです。 
 では、そもそも仕事のやり方や手順がわからない部下に対して、どう対応すればよいので
 しょう。

 その際の「教える技術」は、チェックリストを使った「行動の分解」です。
 例えば、「ペットボトルからコップに水を入れて飲む」という行動の手順を、できるだけ
 細かく分けてみてください。

 いかがですか。
 よく出る結果は、10ステップくらいでしょうか。
 実はこの行動、「ペットボトルを見る」「手を伸ばす」から始めて、27ステップにも分解
 することができるのです。

 何かの仕事(業務)を分解して書き出すと、教えるべきことが明らかになります。
 分解の対象にするのは、優れた成果を収めている社員の「行動」です。
 例えば営業の仕事であれば、その人の日々の行動を事細かく書き出すなど、1つひとつを
 細かくピックアップすることが重要になります。

 複数の優秀な社員の仕事ぶりを分解し、仕事の「チェックリスト」を作成すれば、具体的な
 指導が可能になるのです。 
 そして、チェックリスト作成の次に行うのは、該当する部下がその仕事について「どこまで
 知っているか?」「どこまでできているか?」の確認です。

 特に、他の部署から異動してきた社員や、中途入社の人など、これまでに経験を積んでいる
 人ほど入念なチェックが必要になります。

 「知っていること」「できること」が把握できたら、チェックリストと照らし合わせる
 ことで、教えることが明確になります。
 あとは、反復練習させることで、1つの行動が可能になっていきます。

□確実に行動させるワザ 
 行動を具体的に言語化しようとする時、大切なのは4つの条件です。
 「計測できる」=カウントできる、あるいは数値化できる。
 「観察できる」=誰が見ても、どんな行動をしているのかがわかる。
 「信頼できる」=どんな人が見ても、それが同じ行動だと視できる。
 「明確化されている」=文字通り何をどうするか明確になっている、の4点。 

 例えば、「親密にコミュニケーションをとる」というあいまいな行動表現は、「すべての
 顧客に対し3カ月に一度電話をかけ、当社のサービスに対する感想を聞く」「2週間に一度、
 メールマガジンを送る」と具体的に書き出せば、教えるべきことがはっきりし、教えられたか
 どうかのチェックも客観的に行うことができます。 

 この「言語化」は、長期的な指導のゴールや目標に対しても必須です。
 社長やリーダーが「社員に対する指導」が成功したかどうかを確かめるべく、「いわゆる
 目標」であるスローガン的な文言とともに、「身につけておくべき知識」「できるように
 なっていなければいけない行動」を具体的に書き出しておく必要があります。 

 なお、この目標は少し高めに設定することです。
 さらに、長期的な目標を達成するには、当然ながら長い時間がかかるため、必要になるのが
 スモールゴール(小さな目標)です。

 達成感が得られ、また1個1個クリアすることで、
 着実に本来のゴールに近づくことができるため、その努力や「行動」の原動力となります。 
 ここで注意したいのは、部下に指示を出したり指導したりする際、絶対に欲張らないこと
 です。

 一度に伝える量の限界は、「具体的な行動で3つまで」にしましょう。
 例えば新人営業であれば、「1日4件訪問すること」「挨拶はこのようにしなさい」「忘れずに
 パンフレットを渡す」といったレベルの3点が限界です。 

 くわえて、伝える側におすすめなのは、優先順位を決めるのではなく、「劣後順位」を
 決めることです。
 例えば、今日やろうと思っている業務が10個あった場合、なかでも特に重要だと思う2~3個
 の仕事に絞り、残りは全部やらないと決めてしまいます。

 つまり業務に関して、「やらなくていいこと」を明確にするのです。
 「チェックリスト」とは別の「やらないことリスト」を作って、無駄なことをチェック
 しましょう。

□継続を力にする方法 
 定期的に部下の行動をチェックし、達成を確認したらしっかりと「ほめる」ことが重要です。
 なぜ、「ほめる」ことが必要なのでしょうか。
 人は何かの「行動」をした直後にほめられると、その「行動」を継続できる可能性が飛躍的に
 伸びます。

 その際に、仕事がわかっていない人、教えてもなかなかできない人を引き上げるには、確実に
 できる課題を与えて100点をとらせ、成功体験を積ませることです。
 そこから徐々に、レベルの高い課題を与えていく。
 この過程を、社長やリーダーは意識的に作っていくことです。 

 ここで、人間の行動原理を論理的に説明している「ABCモデル」という因果関係の概念が
 あります。
 先行条件(A)のために行動(B)をした時、得られた結果(C)が望ましいものであれば、
 (C)から(A)へ循環されるため、その人は行動(B)を継続できるということです。 

 例えば、「お菓子をすすめられた」(A)ので、「1つ食べた」(B)、その結果「おいし
 かった」(C)であれば、もう1つもらって食べる可能性も高いのですが、「苦手な味
 だった」(C)という望ましくない結果になった場合は、もう二度とそのお菓子を口に
 しないはずです。

 よって、ABCの因果関係をコントロールすることが、望ましい「行動」をさせるには
 効果的だというわけです。 

 仕事に対して、部下の動機づけや自発性を上げる方法としては、部下に向かって「その仕事の
 意義を語る」「その業務を成功させたら、どんなに素晴らしいことが待っているか、鮮明に
 イメージさせる」などがあります。

 これはABCモデルでいうA(選考条件)を後押しするものです。 
 ところがビジネスの場において、実行させたい「行動」の多くは、すぐに結果が出ない
 ものです。

 そこで効果を発揮するのが、「行動」の直後に望ましい「結果」を意図的に与える、
 ごほうびを与えるという方法。

 このことを行動の「強化」と呼び、ビジネスパーソンにとって何より効果的なのは「社長や
 リーダーからほめられること」「認められること」なのです。科学的にも専門家により
 数多くの実験によって立証され、理にかなっています。

□あらゆる場面で使える 
 もう1つ紹介します。
 言葉だけでなく、目を見てうなずく、肩をボンと叩く、といった方法でも「自分のこの
 行動は社長やリーダーに評価されている」ということが実感できれば、部下にとって立派な
 「評価」となります。

 また、その「評価」による「行動の強化」をさらに確実なものにする方法があります。
 それは「計測する」こと、行動した回数を数えるのです。 
 営業の例で言えば、訪問リストに掲載されている会社を1件訪問したら 「1」とカウントし、
 部下自身に計測させその回数の記録をさせます。

 リーダーはそれをチェックし、着実に行動できている場合は「評価」を加えます。
 努力の跡がはっきりと目に見えるよう、数値化・グラフ化するのが部下の励みにもなるため、
 おすすめです。

 その際には、求める結果に直結する「行動」をピックアップすることが極めて重要です。
 優先順位の低い行動を一生懸命教えても意味がありません。 
 また、行動の「強化」は、その行動の直後「60秒以内」に行うのが最も理想的です。

 さらに少なくとも、2週間に1回は部下と一緒に記録をチェックする機会を設けるなど、
 定期的な共有をすることで、部下との信頼関係は強化され、「教える技術」も向上して
 いきます。 

 たとえ部下が自分より年上、あるいは仮に外国人であっても、その「行動」に焦点を当てる
 ことで効果的な指導ができます。
 ただし、特定の立場や場面に合わせた配慮や気遣いは必要です。

 部下に対する敬意を常に持ちながら、育成を行うことです。 
 ちなみに、春の時期の新人社員には、理想と現実のギャップに悩み、働く意欲を失わせない
 ためにも、企業理念と日々の業務との関連性についてことあるごとに、少々しつこいほど
 説いておく必要があります。

 やがてリーダー層になる人のためにも徹底した指導をしてください。 
 繰り返しになりますが、人を育てられるかどうかが本物の経営者やリーダーになれる人と
 なれない人の分岐点です。
 「教える」技術を通じて、大いに充実感が得られることを願っています。

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メンター制度

メンター制度

■メンター制度が必要とされる背景
 近年、若手社員の離職率は「七・五・三」のキーワードで語られることが多いようです。
 これは入社後3年以内に、せっかく就職した企業を退職してしまう割合が、中学卒で7割、
 高校卒で5割、大学卒で3割といわれていることによる。

 厚生労働省によれば2019年3月に大学を卒業した新入社員は、1年目に 15%、2年目で
 約12%、3年目で約9%が退職している。
 卒業後3年以内に離職する率は36%にのぼり、バブル崩壊後の1992年入社組と比べると
 12%も上昇していました。

 また、このように転職に抵抗を感じない層の増加による離職率の上昇以外にも、従来日本
 企業の強さの根源であった育成風土や職場環境が、以下のように変化していったことが
 あげられます。

  ①組織や要員のスリム化により、マネージャーがプレイヤーになる必要が生じ、
   それにあわせて職場の人間関係が希薄となり、世代間のコミュニケーションの
   疎遠化が進んできた。
  ②年功序列制度の崩壊、成果主義の導入により、先輩・後輩が師弟ではなく、むしろ
   ライバルになってしまい、後輩を育成しようという文化が薄れてきた。
  ③同じ理由から、会社がポストを与える時代ではなくなり、自らキャリアを取りに
   行く必要が生じ、経験未熟な若年層がロールモデル(お手本となる人物)を
   求めるようになった。
  ④若年層の価値観の多様化や、コミュニケーション能力の低下が顕著になってきた。

□メンター制度とは
 このような社会的背景の中、主に若年層の定着や能力開発の施策として、メンター制度
 (企業によってはチューター制度、メンタリング制度等、様々な呼称があるが、文中では
 「メンター制度」に統一する)。

 今ではこの制度を導入する取り入れる企業は増えてきています。
 ご存知の方も多いでしょうが、メンターの語源は古く、ギリシャ神話のホメロスによる
 叙事詩、オデュッセイアの登場人物である「メントル」という男性の名前に由来されている。

 メントルは、親友であるオデュッセウス王の息子テレマコスの教育を託された賢者で、
 王の息子にとって、良き指導者・良き理解者・良き支援者として、次の王にふさわしい
 人間となる教育を施した人物だったそうです。

 その後、ヨーロッパに大学という高等教育機関が誕生し、学生を個人的に指導する役割を
 担う教員をメンターと呼ぶようになった。
 現代、アメリカの企業がコーチングなどと同様に、 1980 年代から人材支援策として
 メンター制度やメンタリングを導入し、発達・機能させてきました。

 一般的なメンター制度では、直属の上司以外の支援者(メンター)が被支援者(メンティ
 ということが多い)を支援し、その成長を支える制度であるため、直属の上司が行う教育
 指導(OJT)はメンター制度とはいえない。

 またメンターは、メンティ(指導される側)とは違う部署に所属する者から選抜される
 ことも多いようです。

 メンターが行うメンタリングは、まずメンティを担当するメンターを決めることから始まり、
 続いて月に数回、二人で話し合う機会を設ける。メンターはメンティにとって気軽に相談
 でき、素直にアドバイスが聞ける先輩が良い。

 またメンタリングを効果的に行うために、事前にメンターに対してトレーニングを実施
 することが望ましいでしょう。

□メンター制度への取り組み
 新入職員を対象にしたメンター制度の特徴としては以下の 2 点があげられます。
  ①メンターは指名制ではなく、“公募制”で自ら応募してきた者であること。
  ②所属以外の遠隔地の先輩がメンターになるので、メンタリングは“電話”に
  よる活動が主であること。

 メンター制度を成功させるには、メンターとしての資質よりも、むしろ積極的に活動に
 参加しようという熱意が重要と考え、あえて一般的な指名制ではなく公募制がよいでしょう。
 公募制の最大のメリットは、制度にかかわる前からモチベーションの高いメンターが集まる
 ことです。

 制度の運営に際しては、多くの企業がこの点で一番苦労されているのではないでしょうか。
 特に人事部が推奨しているわけではないが、自宅に呼んで食事をご馳走したり、休日に
 わざわざメンティの配属先の地方まで会いに行ったりと、それぞれのメンターが自主的に
 工夫して活動に取り組んでいる例もあります 。

 1年間にわたり真剣にメンティと向きあったメンターの勲章は、卒業セレモニーで
 渡される新入職員による手書きの文集です。
 本当に嬉しそうに手にとり、お礼の文書を読んだ途端、感極まって泣き出す者も少なく
 ないようです。

 制度運営の面で工夫する点としては、何でも率直に相談できるよう、業務上の評価を
 行わない先輩をメンターにしているが、出身地や大学が同じ者同士を組ませ、話の
 きっかけになる共通項が多くなるように配慮していることや、遠隔地ゆえ電話による
 メンタリングを行うなど、高度なスキルが要求される点を考慮し、メンタリングのスキル
 アップのために、コーチングを中心とした研修を1年間にわたりメンターに受講させて
 いる例もある 。

 特にこの研修は、メンター同士の結束力の強化や、メンティ対応上の情報共有のためにも、
 大変重要な場です。
 メンター制度は新入職員の成長はもちろんだが、メンター自身の成長や若年層の人的
 ネットワーク構築によるモチベーションアップ、さらには企業風土、企業文化等の明文化
 できないDNAを引き継いでいくという点からも、人材育成制度の大きな柱になります。

□最後に
 メンター制度を形骸化させないためには、制度の仕組みよりも、メンター当事者が高い
 意識をもって制度に取り組む“熱意”と、メンティに対する“愛情”こそ、一番大事なことです。
 言い換えれば、制度自体はシンプルなものでも構わないが、いかにしてその制度に
 “命(ハート)”を吹き込んでいくのかが、メンター制度運営の最大のポイントでしょう。

 効果的にメンター制度を運営すれば、世代から世代への人材育成の連鎖をもたらすことは
 間違いありません。
 若年層の組織への定着は、その結果として付いてくるものと割り切る位でちょうど良い
 と思います。

 すなわち、メンター制度は全く新しい制度の導入というより、かつては自然にできていた
 日本企業の良さを現代風にアレンジし、オフィスを“人の集まり”に取り戻す活動といえる
 かもしれない。

 “私的なメンタリング”が自然発生的にできる文化が根付いた組織こそ、“公的なメンタリング”
 である「メンター制度」が進化した理想の姿なのでしょう。
 メンター制度とは、会社や配属部署における上司とは別に指導・相談役となる先輩社員が
 新入社員をサポートする制度のことをいいます。

 メンターとはもともと助言者という意味であり、年齢や社歴の近い先輩社員が、新入社員の
 仕事における不安や悩みの解消、業務の指導・育成を担当します。
 新入社員は上司とは別の相談相手ができることで、必要なスキルや技術を身につけながら、
 会社に馴染むことができます。

 指導・育成にあたる先輩社員にとっても、マネジメントの技術を身につけるための場であり、
 大手企業を中心に活用されています。
 職場における人材育成法の一つ。

 知識や経験の豊かな先輩社員(メンター:mentor)と後輩社員(メンティ:mentee)が、
 原則として 1対1の関係を築き、後輩社員のキャリア形成上の課題や悩みについて、先輩
 社員がサポートする制度で、メンタープログラムともいいます。

 メンターは優れた指導者、助言者などを意味する英語です。
 メンターはメンティの直属の上司以外の人物であることが一般的で、二人は定期的に
 面談(メンタリング)を重ねながら、メンティ自身が課題を解決し悩みを解消するための
 意思決定を行うようにします。

 メンティが次のメンターとなって支援する側にまわり、人のつながりを次々に形成していく
 ことをメンタリングチェーン(mentoring chain)という。
 メンタリングは、 1980 年代のアメリカにおいて今日のような制度になったとされる。

 日本では、新入社員に対する支援体制として同様の教育制度を実施することがあり、
 幹部候補の女性社員を育成する制度として導入する企業も増えている。
 厚生労働省では 2012 年度にポジティブ・アクション展開事業の一環として、女性社員の
 活躍を推進するための「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」を作成しました。

 女性の管理職候補が経営感覚や判断力を養いながら、人間関係を構築していくための制度
 として、企業が導入することを後押ししています。


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コーチングスキル

人材育成はコーチングが決め手

人材育成はコーチングが決め手

■コーチとコーチング
 コーチングの基本になるのは、相手の可能性や能力を信頼することです。
 多くの場合、ゴールを達成したり、障害を打開するための答えや能力は相手自身がもって
 います。
 それらの能力を引き出し、相手の自発的な行動を促進することがコーチングであり、その
 コーチングを行う人をコーチと呼びます。

 つまり、コーチは相手とコーチング・カンバセーションと呼ばれるコミュニケーションを
 交わすことによって相手が実現したいゴールを明確にし、短時間で達成できるように
 サポートする人のことなのです。

□コーチングの基本は双方向のコミュニケーション
 上司と部下のコミュニケーション方法の一つである「コーチング」はすっかり定着した
 感があります。
 上司(教える側)が持っている経験や知識などを部下(教えられる側)に教育する
 ティーチングに対し、コーチングでは、部下に質問を投げかけて考えるきっかけを与え、
 部下自身の答え・アイデア・本音を引き出すようにアプローチします。

 コーチングは上司から部下への指揮・命令による一方通行のコミュニケーションではなく、
 部下に質問を投げかけて考えさせ、部下自身の答えを引き出し、それに基づいて自発的な
 行動を取るきっかけを与える「双方向のコミュニケーション」であるといえます。
 コーチングに成功すれば、部下に強いモチベーションを与えることができるだけでなく、
 自ら考え、行動することができる「自立型人材」を育成することができます。

 コーチングは、「人材を育てるのが上手な経営者」「部下のやる気を引き出すのが上手な
 マネジャー」「多くの名選手を育て上げた名コーチ」といった人たちの行動を研究し、
 そのコミュニケーションの特徴を体系化した考え方です。
 そのため、コーチングは、企業が人材育成(上司と部下のコミュニケーション)の方法
 として導入するのに適した実践的な手法といえます。

 特に、自ら考え、行動することができる「自立型人材」の育成が急務とされる中小企業に
 とって、コーチングの実践は非常に重要となってくるでしょう。
 以降では、コーチングが注目されるようになった背景を整理するとともに、コーチングを
 実践する際のポイントとなる「質問のスキル」について紹介していきます。

□コーチングが注目される背景
 1.外発的モチベーションの限界
  「業績を上げれば昇進・昇給する」「企業のルールを破ればしかられる」といったような、
  「アメとムチ」によって人材を動機づけする方法を「外発的モチベーション」と呼びます。
  外発的モチベーション(アメとムチ)は人材育成の基本であり、部下を教育する立場に
  ある多くの管理職が実践しています。

  しかし、現在では、外発的モチベーションだけを用いて部下のモチベーションを上手に
  管理することは難しくなってきました。
  その理由の一つは、特に若者が昇進・昇格などを「アメ」とは感じなくなってきている
  ことです。

  個人差はあるものの、「頑張って出世するよりも、もっとプライベートを充実させたい」
  と考える若者が多くなっています。
  こうした人材に成果主義を適用して外発的モチベーションを与えようとしても、大きな
  効果は期待できないでしょう。

  昇進・昇格などを「アメ」と感じない部下に対して、外発的モチベーションだけで
  アプローチすることには限界があります。
  外発的モチベーションに加えて、部下の精神的な充足感・満足感を上手に引き出し、
  それによって動機づけしていく「内発的モチベーション」が重要となってきます。
  そして、これを実践できるのがコーチングです。

 2.自立型人材の育成
  今、企業経営を取り巻く環境は急速に変化しており、企業はそれに対応するための
  革新を続けています。
  例えば、営業の現場では、製品やサービス本位のスタイルから、顧客本位のスタイル
  へと変化してきています。

  これは「新商品を作れば売れる」「足繁く通えば売れる」という時代ではないことを
  多くの企業が実感しているからです。
  言葉を換えれば、「顧客が求めているもの」「顧客が課題に感じているもの」を的確に
  把握し、迅速に応えることができなければ、競合他社に打ち勝つことが困難になって
  きているということです。

  企業が経営を取り巻く環境の変化に迅速に対応するための重要なポイントは以下の2つで、
  これらを実現するための一つの手法がコーチングです。

   (1)情報のボトムアップ
    顧客情報・現場情報がトップにまで上がっていくには、「上司が部下の声に耳を
    傾ける風土」を組織に浸透させる必要があります。
    そのためには、部下に「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」のやり方
    (技術)を教えるだけではなく、上司側にも「部下から情報を引き出すスキル」が
    強く求められます。

   (2)自立型人材の育成
    自立型人材とは、情報に高くアンテナを張り、収集した情報を自ら分析し、
    その結果に基づいて臨機応変に行動することができる人材です。
    急速に環境が変化する現在、指示されたことだけを行うマニュアル型人材では
    対応に限界があるため、自立型人材の育成が重要となってきます。

□人材育成と質問力の関係
 1.「質問力」は「人材育成力」
  コーチングを実践する上で必要となる主なスキルには「質問のスキル」「聴くスキル」
  「承認のスキル」があります。
  コーチングを実践する上司はいずれのスキルも習得しなければなりませんが、基本と
  なるのは「質問のスキル」です。

  なぜなら、コーチングは上司と部下の双方向のコミュニケーションによって成立する
  ものであり、そのきっかけとなるのが上司から部下への「質問」だからです。
  「古今東西を通じて、人材育成が上手な人は誰ですか?」という質問をしてみると、
  幕末の指導者である吉田松陰と答える人が意外と多くいます。

  その理由は、吉田松陰の私塾である松下村塾から、高杉晋作など明治維新の原動力に
  なったキーパーソンが何人も輩出されているからです。
  驚くべきは、吉田松陰が松下村塾で教え始めたのは弱冠27歳の時で、しかも、教えた
  期間はわずか2年間と伝えられていることです。

  どのような教育法を用いれば、吉田松陰のように短期間で優秀な人材を育成することが
  できるのでしょうか。
  吉田松陰の教育法の特徴は「対話形式」を重んじたことだといわれています。
  つまり、一方的に教え込むことをせずに、「これについては、どう考えますか?」
  という質問を多用し、対話によって門下生自身が自発的に考えることをサポートした
  といわれているのです。

  これは、コーチングに近い人材育成法といえます。
  また、吉田松陰と同様に優秀な弟子を育て上げた歴史上の偉人としては、古代ギリシャ
  のソクラテスが有名です。
  ソクラテスは、後の思想家に多大な影響を与えた哲学者で、プラトンなどを育てて
  います。

  ソクラテスは、弟子を指導する際に、相手に質問を投げかけ、相手と問答を繰り返す
  ことによって、相手が自分で答えを見つけ出せるように援助する「産婆術」という
  方法を用いたといわれています。
  吉田松陰が松下村塾で用いたのと同様に、ソクラテスの「産婆術」も、コーチングに
  近い人材育成法といえます。

  吉田松陰とソクラテスの人材育成法に共通しているのは、「質問」を使った対話を
  重んじたことです。
  指導者(上司)の経験や知識に基づく一方的な命令(一方通行のコミュニケーション)
  ではなく、対話によって質問を投げかけ、相手(部下)に考えるきっかけを与えた
  のです。

  こうした方法は、相手の「思考力」や「問題解決能力」を育てるのに有効です。
  また、部下は教え込まれたのではなく、自分で考えた末に導き出した答え(解決策)に
  納得しています。
  そのため、「よく分からないけど、上司から指示されているし…」といった半信半疑
  ではなく、強い意志で答えを行動に移すことができるのです。

  さらに、質問を重んじた双方向の対話では、相手の本音を聞き出しやすくなります。
  本音の対話を続けることで、互いの信頼関係が強固なものとなり、上司と部下の関係は、
  指揮・命令による上下関係から、対話によるパートナー関係へと変化していきます。

  上司と部下である以上、業務を進める上で上下の規律は必要です。
  しかし、上から下への一方的な指揮・命令だけでは、いつまでたっても部下と本音で
  対話することができず、本当に良好な信頼関係を築くことは難しいのです。

 2.効果的な「質問内容」
  ここまで紹介してきたように、人材育成において「質問」は非常に重要であり、
  コーチングを実践する際に基本となるのも「質問のスキル」です。
  ただし、「質問は、投げかけさえすればよい」といったものではないことに留意が
  必要です。

  質問の内容によっては、かえって部下を萎縮させてしまうこともあります。
  なぜなら、質問には「効果的な質問」と「逆効果を生む質問」があるからです。
  アインシュタイン博士は「もし、自分が死にそうな状況になって、助かる方法を
  考えるのに1時間あるとしたら、最初の55分は適切な質問を探すのに費やすだろう」と
  言ったと伝えられています。

  このアインシュタイン博士の言葉は、最良の答えを生み出すには、効果的な質問が
  必要であることを教えてくれています。
  以降では、コーチングを実践する上で「効果的な質問」の投げかけ方について紹介
  していきます。

□効果的な3つの質問方法
 1.質問の種類
  コーチングを実践する際に効果的な質問は、拡大質問・肯定質問・未来質問の3つです。
  また、これらはそれぞれ対になっています。
  例えば、拡大質問は特定質問とセットの関係です。
  コーチングでは、特定質問ではなく拡大質問を用いることになりますが、すべてのシーン
  で特定質問が問題というわけではないので、状況に応じて使い分けることが大切です。

   拡大質問⇔特定質問
   肯定質問⇔否定質問
   未来質問⇔過去質問

 2.拡大質問と特定質問
  特定質問とは、「はい」や「いいえ」で答えられる質問や、正解が一つしかないような
  質問です。
  相手がそれほど考えなくても、すぐに答えられる質問でもあります。
  例えば、

   ・君は将来、●●になりたいんだよね?
   ・今回のトラブルの原因は●●じゃないの?

  といった質問です。

  一方、拡大質問とは、多様な答えがあるような質問で、相手は深く考えなければ
  なりません。
  例えば、

   ・君は将来、何をやりたいんだい?
   ・今回のトラブルの原因を君はどう考える?

  といった質問です。

  コーチングでは、後者の拡大質問を重視します。
  拡大質問によって、部下に深く考えさせるきっかけを提供できるからです。
  部下は、自ら深く考えて、答えを導き出します。
  その答えについて部下は納得しているため、例えばそれがトラブルの原因究明に
  ついての答えであれば、次に同じ状況になった時に適切な対応をとることができる
  可能性が高くなります。

  また、拡大質問の場合、質問した上司が予想もしていなかった答えが部下から返って
  くることが少なくありません。
  こうした答えは的外れなこともありますが、時には新しいアイデアや発見を上司に
  与えることがあるかもしれません。

  一方、特定質問では、部下に十分に考えさせることができないので、表面的な答えしか
  返ってこないのが通常です。
  特定質問は、必須事項の確認や単純な選択を促す時などに用いるようにしましょう。

  <拡大質問の効果を確認>
   仕事でミスをした部下に対して、「○○○はチェックしたのか?」「取引先に確認
   したのか?」「ミスの原因は△△じゃないのか?」という特定質問ばかりを投げ
   かけると、部下は「責められている」と感じます。
   そうなると、部下は原因や解決策を前向きに考える余裕がなくなるばかりか、
   シドロモドロになり、判明している事実すら正確に伝えられなくなってしまいます。

   一方、「今回のミスの原因は何だと思う?」などの拡大質問を投げかければ、
   部下は自分で深く考えて答えを出します。
   それが的外れな答えでも構いません。
   なぜなら、部下は自分が一生懸命に考えて導き出した答えに、責任と興味を持って
   います。

   そのため、いつも以上に、自分の答えに対する上司の反応をうかがっています。
   仮に部下が的外れな答えを出し、上司がそれを修正したとしても、部下はそれを
   素直に聞き入れて、その後の行動に生かしていくでしょう。
   もし、上司の修正案に部下が十分に納得できていないようであれば、次に紹介する
   肯定質問を投げかけてコミュニケーションを続けていきましょう。

 3.肯定質問と否定質問
  あるプロジェクトを部下に任せたところ、結果として、そのプロジェクトの80%は
  失敗に終わりました。
  そして、失敗に意気消沈している部下が、恐る恐る上司であるあなたのところに
  報告にやってきました。

  このような時、上司であるあなたは、部下にどのような質問を投げかけるでしょうか。
  中には、

   ・なぜ失敗したんだ?
   ・どんな失敗をしたんだ?

  といった質問を投げかける人もいるでしょう。
  こうした、物事の否定的な側面(失敗した事柄)に焦点を当てる質問を否定質問と
  いいます。
  否定質問を投げかけられた場合、多くの部下は「言い逃れモード」になります。

  「言い逃れモード」になった部下から前向きな解決策や創造的な改善案を期待する
  ことはできず、逆に部下は自分の保身のために、苦し紛れの言い訳を並べてくるかも
  しれません。
  あるいは、言い訳を言えるならマシなほうで、シドロモドロになったり、黙り込んで
  しまうかもしれません。

  いずれにしても、コミュニケーションはここで終了してしまいます。
  コーチングでは、否定質問ではなく、肯定質問を投げかけます。
  これは、物事の肯定的な側面に焦点を当てる質問です。
  例えば、
   「80%失敗したということは、残りの20%は成功したということだね。
   どんなことが成功したんだい?」

  といった質問です。
  肯定質問を投げかけられた部下は、成功したことを話しているうちに思考が前向きに
  なっていきます。
  この状態を、先の「言い逃れモード」に対して「解決思考モード」と呼びます。
  肯定質問によって、部下を「解決思考モード」にしてから、8割の失敗の話をすれば、
  部下から前向きな解決策などを引き出しやすくなります。

  <肯定質問の効果を確認>
   プロジェクトに失敗した部下は大きく落ち込んでいます。
   その部下に対して、「なぜ、失敗したんだ?」「損害はどれくらいだ?」
   という否定質問をすると、部下は上司の怒りを鎮めるための言い訳を見つけ始めます。
   コーチングにおいて重要なことは、部下に失敗の原因を深く考えさせることですが、
   否定質問をされた部下は「言い逃れモード」になり、冷静に考えることができなく
   なってしまいます。

   これでは何の解決にもなりません。
   上司は、初めにプロジェクトの成功した部分を肯定して、部下を「解決思考モード」
   にした上で、部下に「成功した20%」と「失敗した80%」の違いを深く考える
   きっかけを与えます。

   コーチングについて学んだある予備校の講師から、このような話を聞いたことが
   あります。
   以前は、生徒から「先生、分かりません」と言われた時に、「どこが分からないんだ?」
   という否定質問を投げかけていました。

   これが、コーチングを学んだ後は、「どこまで分かっているんだ?」という肯定
   質問を投げかけられるようになりました。
   すると、生徒は分かっていることを答えているうちに、さらに考えを整理する
   ことができ、中には自ら正解を導き出せたこともあったそうです。
   これと同じことが、プロジェクトに失敗した部下にも応用できるわけです。

 4.未来質問と過去質問
  プロジェクトを任されたものの、その80%を失敗してしまった部下の話に戻りましょう。
  肯定質問の投げかけにより、落ち込んでいた部下は「解決思考モード」になっています。
  ビジネスにおいて重要なのは、同じ失敗を繰り返さないためにも(あるいは、プロジェクト
  を成功させるためにも)、失敗の原因を聞き出して解決策を講じることです。
  そのために、上司のあなたはどのような質問を投げかけるでしょうか。

  ここで、
   ・なぜ、もっと早く報告してこなかったんだ?
   ・なぜ、早期に改善策を講じなかったんだ?

  といったような、過去に向けて問う過去質問を投げかけるのは得策ではありません。
  ここでのポイントは、「解決思考モード」になっている部下のモチベーションをさらに
  高め、将来に向かって解決策を考えさせることにあるからです。
  そのため、部下に投げかけるとよいのは、

   ・この先、このプロジェクトの計画をどのように修正していこうか?
   ・次回成功させるためには、どうすればいいと思う?

  といったような、未来に向けて問う未来質問です。
  過去質問を投げかけた場合、部下の意識は過去の記憶に集中します。
  よくも悪くも、過去の記憶は固定されているため(記憶違いもありますが)、新たな
  創造力が働きにくくなってしまいます。

  一方、未来質問を投げかけた場合、部下の意識を未来に向けられます。
  未来にはプロジェクト成功などさまざまな可能性があり、新たな創造力が生まれて
  きます。
  上司が未来質問を投げかける際、部下の心情に配慮した聞き方をしていれば、「この
  問題さえクリアすれば、プロジェクトが成功する可能性があります」といった前向きで、
  建設的な意見を導き出すことができるのです。

  <未来質問の効果を確認>
   コーチングの目的は、自ら考え、行動することができる「自立型人材」の育成に
   あります。
   これを実現するためには、部下本人が自らの可能性を信じて自信を持って業務に
   取り組み、成功体験を積み重ねていくことがポイントとなります。

   自分を信じることができなければ、「今、チャンス(ピンチ)かもしれない」と
   思っても、なかなかそれを行動に移すことができないからです。
   部下によい意味で自信を持ってもらうため重要となるのが未来質問です。

   つまり、常に先(未来)に目を向けさせ、
    ・過去に失敗した時は、未来は成功
     →次回成功するためには、どうすればいいと思う?
    ・過去に成功した時は、未来はもっと大きな成功 
     →次に、今の売り上げを2倍にするにはどうしたらよいだろう?
   を意識させるような質問です。

   こうした質問を継続することで、部下は未来に向かっての明確な目標を持つことが
   できます。
   そして、部下が目標を実現するために考え、行動することを習慣づけていけば、
   「自立型人材」の育成というコーチングの目的は達成されたといえるでしょう。

□実践上の3つのポイント
 1.留意点 
  ここまで、コーチングを実践する上で重要な拡大質問・肯定質問・未来質問といった
  3つの「質問のスキル」について紹介してきました。
  これらを実践すれば、部下とのコミュニケーションがより円滑なものとなるでしょう。

  ただし、実際に拡大質問・肯定質問・未来質問を投げかける場合、
   ・どのようにして部下の話を聞けばいいのか?
   ・沈黙の時間が続いた場合にどうすればよいのか?

  など、実践してみなければ分からない問題もあります。
 ここでは、拡大質問・肯定質問・未来質問の主な留意点を紹介します。

 2.「質問のスキル」と「聴くスキル」はセットで実践
  「質問のスキル」は、部下の話を上手に聴くこととセットでなければなりません。
  つまり上司は、質問に対する部下からの答えについて、相手の真意を理解しようと
  いうスタンスで耳を傾ける必要があるということです。
  仮に、部下が答えているのを途中で遮り、相手の真意が定かでないうちに、上司から
  一方的なアドバイスや提案をしてしまったとしたら、部下はどのように感じるでしょうか。

  部下は、
   ・自分が言いたいことは、そういうことではなかったのに…
   ・結局、最後までは聴いてくれないんだ…
  などの不満を持つでしょう。

  そうなると、部下は上司の質問に対して、真剣に考えて答えを導き出そうという意欲を
  失い、当たり障りのない回答をして、その場をしのごうとします。
  これでは、上司が質問をする意味が薄れ、コーチングは成立しなくなってしまいます。
  上司は、自分の答えを部下に分からせるための誘導尋問などではなく、あくまでも
  「部下の話を聴く」姿勢を貫いてコミュニケーションを取っていかなければなりません。

 3.沈黙を怖がらない
  拡大質問・肯定質問・未来質問は、いずれも相手(部下)に深く考えてもらうための
  質問です。
  それが故に訪れるのが“沈黙の時間”です。
  拡大質問などをすると、部下が考え込んで沈黙することがよくあります。

  “沈黙の時間”が訪れた時に、沈黙に耐えられずに「今の質問は難しかったかな。
  それでは、質問を変えてみよう」などと話題を切り替えてしまう人が少なくありませんが、
  これは正しいアプローチとはいえません。
  沈黙しているということは、部下は深く考えて答えを探っている可能性が高いといえます。

  ここで質問を変えてしまうと、部下の思考を中断させてしまいます。
  しかも、こうしたことが何度かあると、部下は「質問をされても、黙っていれば切り
  抜けられる」と考え、今後上司から質問されても真剣に考えなくなってしまう可能性も
  あります。

  そのため、部下が沈黙している時は、こちら側(上司)も沈黙して待つことが大切です。
  あまりに沈黙が長いようであれば、ゆっくり考えていいんだよ。答えが出るまで私も
  待っているからと一声かけて様子をうかがってみましょう。

 4.「なぜ(why)?」ではなく「何(what)?」を使ってみよう
  例えば、「なぜ、そのような対応を取ったの?」「どうして着手しなかったの?」
  などの質問は拡大質問に該当し、コーチングを実践する上で重要なポイントとなります。
  しかし、「なぜ(why)?」を使った質問をされた部下は、自分自身が責められている
  ように感じてしまうことがあります。

  確かに、「なぜ(why)」という疑問詞は相手を問いただす時に使われることが多く
  あります。
  そのため、部下によっては、言い訳をしてその場をしのごうと考え、前向きに考え
  ようとしなくなってしまいます。

  そこで、「なぜ(why)」で始まる疑問文を、「何(what)」を使った疑問文に替える
  ことを試してみましょう。
  例えば、

   ・何が君にそうさせたのかを教えてほしい。
   ・やらなかった理由には何があるの?

  といった質問の投げかけ方をしたほうが、やわらかい感じがするため、部下は精神的に
  安定するのです。

□人材育成の基本は教える側と教わる側のコミュニケーション 
 多くの上司は、部下とコミュニケーションを取る際に拡大質問・肯定質問・未来質問が
 重要であることを頭の中では理解しているはずです。

 しかし、実際に部下から報告を受ける時には、
  ・自分の経験上、部下の話を最後まで聴くまでもなく、明らかに部下の報告内容に
   問題がある
  ・しかられるのを恐れた部下が遠回しな表現で報告してくるため、何を言っている
   のか分からない

 などの状況に遭遇することがよくあります。
 あるいは、そもそも自分(上司)の機嫌が悪いといったこともあるかもしれません。
 このような状況では、肯定質問などをしている余裕はないはずですから、イライラした
 態度で部下の報告を途中で遮り、一方的に自分の話を始めるかもしれません。

 上司は気が付いていないかもしれませんが、こうした上司の態度は部下を萎縮させ、
 深く考えることをやめさせてしまっているのです。
 時には、長い時間をかけて部下に拡大質問・肯定質問・未来質問をしたり、部下からの
 シドロモドロの報告を最後まで聴いたりすることを苦痛と感じることがあるかもしれません。

 しかし、そのような時には、人材育成においては、「教える側」と「教わる側」の円滑な
 コミュニケーションが不可欠であることを思い出し、冷静に拡大質問・肯定質問・未来
 質問を投げかけながら、部下の報告を最後まで聴いてみましょう。
 こうすることが、コーチング実践の重要な第一歩となるのです。


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コーチングスキル

ビジネスコーチングによる部下育成

ビジネスコーチングによる部下育成

  ■ビジネスコーチング
   ビジネスパーソンの間では、「ビジネスコーチング」という言葉が広く浸透して
   います(広く一般的には「コーチング」といいますが、ビジネスシーンで使う
   「コーチング」は「ビジネスコーチング」といいます)。
   多くの雑誌でビジネスコーチングが取り上げられ、ビジネスコーチングをテーマ
   としたセミナーが数多く開催されています。 
   ビジネスコーチングとは、
    主に1対1で行う人材育成・指導方法の手法の一つ
   です。 
   ビジネスコーチングを行う相手(以下「相手」)のよさを引き出し、能力を伸ばす
   ことに重きを置いているのが大きな特徴です。
   このような特徴を持つビジネスコーチングは、ビジネスコーチングを実践する側
  (以下「ビジネスコーチ」)と相手との十分なコミュニケーションが不可欠です。 
   ビジネスコーチングを実践することで、ビジネスコーチと相手との人間関係が
   深まり、信頼関係を築くことができるというメリットがあります。
   結果として、相手は前向きに、そして気持ちよく業務に取り組むことができる
   ようになります。 
   このように、ビジネスコーチングの実践における最も大きな効果は、相手が
   気持ちよく業務に取り組むことができるようになることにあります。
   ビジネスコーチングの実践は「一人ひとりが気持ちよく業務に取り組める
   働きやすい職場環境を実現する」という大きな意味を持っているといえる
   でしょう。 
   また、気持ちよく業務に取り組むことができれば、業務を覚えるスピードが
   速くなります。
   相手がより速く業務を覚えれば周囲の人の業務負担が軽減されるようになり、
   周囲の人はその分ほかの業務を遂行することができるようになり、職場全体の
   生産性向上につながります。 
   以降では、課長などの管理職にある者がビジネスコーチとしての役割を担い、
   それを実践するために押さえておきたい基本的なステップと話法を紹介します。

  □ビジネスコーチングの基本ステップ 
   人によってノウハウは異なりますが、一般的にビジネスコーチングは以下の
   4つの基本ステップに沿って実践します。
   4つの基本ステップのそれぞれの考え方や留意点などを紹介します。

   1.準備する 
    準備する段階で実践したほうがよい点は、主に、
     a.ビジネスコーチングの目的と方法について計画を立てる
     b.相手のことをよく知る
    といった2つです。

    a.ビジネスコーチングの目的と方法について計画を立てる 
     ビジネスコーチングを実践する際には、行き当たりばったりで行う
     のではなく、初めに「何について、いつまでに、どこまでできるよ
     うにビジネスコーチングを実践するか」という目的を決定し、その
     目的を達成するための方法について具体的な計画を立てることが重
     要です。

    b.相手のことをよく知る 
     ビジネスコーチングでは、相手のことをよく知り上手にコミュニケ
     ーションを図る必要があります。
     そこで、事前に、相手の性格・考え方・長所と短所・得意分野など
     を把握しておくと、スムーズです。
     性格や考え方だけではなく、相手の学び方の特徴を把握し、その特
     徴に合ったビジネスコーチングの方法を選択するとより効果的でし
     ょう。
     学び方の特徴とは、例えば、まず自分で実践してみて、そこから業
     務を身に付けていく「まず実践してみるタイプ」、説明を聞き頭の
     中で筋道を立てて業務を理解して身に付けていく「まず考えるタイ
     プ」などがあり、それぞれ、より業務が身に付きやすい方法、ある
     いは能力が伸びる方法が異なります。 
     仮に、「まず実践してみるタイプ」の相手に対して、実践する機会
     を与えず業務を何度も言葉で説明するだけでは相手の理解が不十分
     な可能性があるでしょう。
     一方、「まず考えるタイプ」の相手に対して、業務の流れを軽く説
     明しただけですぐに実践させてみようとすると、頭の中でうまく整
     理できておらず混乱を来してしまう恐れがあります。
     また、相手が、「ある程度説明した後は放っておいたほうが能力を
     発揮しやすいタイプ」なのか、「多くの助言や指導があったほうが
     能力を発揮しやすいタイプ」なのか、などによっても効果的なビジ
     ネスコーチの接し方や業務の任せ方が異なるでしょう。

   2.説明する 
    準備が整ったら、ビジネスコーチは、実際にビジネスコーチングする業務の
    内容について相手に説明することになります。
    このとき大切なのは、
     相手が自発的にやる気になるようにする
    ことです。
    そのためには、ビジネスコーチは、
     ・相手が、自分が必要とされていると実感できる状態
     ・相手が、自分でその業務の遂行の必要性を納得できる状態
    を実現する必要があります。
    人は、多くの場合、「自分は周囲に必要とされている」あるいは「自分が
    これを成し遂げるのは必要なことである」と実感できると、自発的にやる気
    になるものです。
    そこで、ビジネスコーチは、相手に対して初めに、
     a.その業務を遂行すること(身に付けること)が職場全体にとっ
      てどのような意味があるか

     b.その業務を遂行すること(身に付けること)が相手自身にとって
      どのような意味があるか
     をきちんと説明することが大切です。
    例えば、ビジネスコーチングの目的が「新商品のプレゼンテーション
    能力を身に付けること」である場合、上記a.を考慮して、「営業部門では
    新商品の売り上げを伸ばしたい。
    そこで、君がプレゼンテーション能力を身に付けて商品販売力を向上させれば、
    売り上げ増につなげることができる」といったように説明します。
    その上で、今度は上記b.を考慮して、「君の立場から考えると、今ここで
    新商品のプレゼンテーション能力を身に付けることによって、君自身の
    プレゼンテーション能力を向上させることで営業力強化を図ることができ、
    結果として業務の幅を広げることにつながるし、一歩ステップアップする
    ことになる」といったように、相手自身にとっての意味を説明するように
    します。  
    これによって、相手は、自分が業務を遂行する(身に付けること)の意味を
    理解し、「自分がこの業務を遂行すること(身に付けること)は、周囲から
    必要とされていることである」「自分自身の能力向上という、自分のためになる
    ことである」と実感することができます。
    相手自身にとっての意味を伝えるためには、ビジネスコーチは常に相手の立場
    に立って業務遂行の意味を考えるようにすることが大切です。

   3.任せる 
    十分に説明し、相手が自発的にやる気になったら、今度はその業務を任せる
    段階にあります。
    この段階でのポイントは、
     a.思い切ってやらせてみる
     b.必要なときにはアドバイスを行う
    ことです。

    a.思い切ってやらせてみる 
     「思い切ってやらせてみる」からには、基本的にはビジネスコーチ
     は相手の言動を見守る黒子に徹します。
     相手にも、その業務についての主役は自分自身であるという自覚を
     持ってもらい、できる限り自力で業務に取り組んでもらうように工
     夫します。 
     例えば、相手の新商品のプレゼンテーション能力の向上を図るので
     あれば、ビジネスコーチは、顧客訪問時に相手を顧客と相対する位
     置に座らせるようにします。
     さらに、新商品の説明は相手が行い、どうしても足りない部分だけ
     をビジネスコーチが補足するなど、常に相手がメーンとなるように
     心がけます。

    b.必要なときにはアドバイスを行う 任せる段階では、思い切ってや
     らせてみると同時に、必要なときは適宜アドバイスを行うことも重
     要なポイントです。
     「任せる」という行為は、「任せっぱなしにして放っておけばよ
     い」というわけではありません。
     ビジネスコーチは、口は出さないものの常に相手を見守り、必要だ
     と判断した場合はアドバイスを行うようにします。 
     ビジネスコーチが必要だと判断する場合とは、例えば、
      ・納期(期日)が近づいている場合
      ・相手が行き詰まっているような場合
     などです。
     納期(期日)が近づいている場合には、進ちょく状況を確認し、そ
     れに応じて今後の進め方をアドバイスします。 
     このほか、相手に「進み具合はどう?」などの声をかけ、行き詰ま
     っているようならアドバイスをします。
     このとき、「○○の部分は、〜という観点から改良の余地がある気が
     するのだが」などのような言い方でヒントを与えるだけにとどめて
     おき、相手が自分で考えるようにさせたほうがよいでしょう。 
     このように、任せる段階では、思い切って業務をやらせてみる、そ
     の上で相手を見守り、適宜アドバイスを行って全面的にサポートす
     ることが大切です。

   4.評価する 
    業務を任せた後は、評価する段階です。
    この段階では、
     相手自身にとって次(今後、あるいは、ほかの業務)につながるように
     評価すること
    がポイントとなります。
    そのため、評価する際には、
     a.相手が納得できるよう客観的な事実を挙げて評価する
     b.課題を挙げて評価する
    ことを心がけます。

    a.相手が納得できるよう客観的な事実を挙げて評価する 
     相手が業務を遂行したときには、まず「よくやった」とほめ、認め
     ることが大切です。
     それによって相手のモチベーションは高まるでしょう。
     ただし、ほめる場合でも、「何がよかったのか」が分かるような客
     観的な事実を挙げて評価するようにします。
     例えば、
      「今日行ったプレゼンテーションの中で、○○について述べたと
      き、お客様は大きくうなずいて費用について質問をしてきたね。
      君の案がお客様のニーズに即していたんだと思うよ」というよう
      な言い方で、ビジネスコーチ自身が思ったことだけではなく、ほ
      かの人からの評価を伝えるようにすると相手は納得することがで
      きます。

    b.課題を挙げて評価する 
     ほめるだけではなく、課題を挙げることも大切です。
     例えば、「今回は綿密な計画を立案し、それに沿ってよくがんばっ
     たと思う。
     ただし、この部分については、もう少し工夫が必要ではないかと感
     じた。君はどう思う?」というような言い方であえて課題を挙げる
     ことで、相手は次につなげることができます。
     自らがメーンとなって業務を遂行した後、相手は、達成感を感じて
     いるはずです。
     その達成感を大切にしながらも、一つひとつの業務は遂行したらそ
     れで終わりというわけではなく、自ら振り返って改善点などを考え
     る習慣をつけてもらうようにしましょう。 
     課題を挙げる際には、相手の性格や考え方などを十分に考慮するこ
     とが大切です。
     例えば、相手が打たれ弱い性格である場合、業務遂行後すぐにビジ
     ネスコーチが次に改善すべき課題を挙げてしまうと、相手が自信を
     なくしてしまう場合があります。 
     そこで、相手が打たれ弱い性格である場合には、ビジネスコーチか
     ら評価したり課題を挙げる前に、
      「まず、自分ではどう思った?うまくいった点・改善点を考えて
     みようか」というような言い方で、相手に自己評価してもらうよう
     にします。
     自己評価の中で相手自身が挙げたよくなかった点を次の課題にすれ
     ば、相手は「自分自身が考えた課題である」と認識することができ
     るため、自信を失うことはないはずです。 
     このように、評価する際には、相手の性格・考え方についても考慮
     することが重要なポイントとなります。 

    これまで紹介してきた4つの基本ステップを繰り返し行うことで、ビジネス
    コーチと相手との間で業務に対する考え方・進め方・姿勢・時間などを共有
    することができます。
    これは、ビジネスコーチと相手との間の信頼関係の構築につながります。

  □基本ステップを効果的に行うための話法
   1.「質問」と「発問」 
    これまで紹介してきた4つの基本ステップ「準備する」「説明する」「任せる」
    「評価する」を実践する上で、ビジネスコーチには、相手に対して上手に
    コミュニケーションを図る話法が求められます。
    ここでは、ビジネスコーチが基本ステップを効果的に実践するために必要な
    話法を紹介します。 
    ビジネスコーチは、単純にビジネスコーチ自身の考えや業務遂行のノウハウを
    一方的に相手に教えるだけではなく、相手に「自分自身の頭を使って考えて
    もらう」ようにしなければなりません。
    そこで重要となるのが「ビジネスコーチから相手への問いかけ」です。
    ここでは、ビジネスコーチから相手への問いかけの方法として、「質問」と
    「発問」の違いを考えてみます。 
    一般的に、「質問」と「発問」は次のように整理されます。

    (1)質問 
     相手がすぐ答えられる「事実」などを聞くもので、単純にビジネスコーチが
     答えを知ることを目的に行う問いかけ 
     例:「午後に業務の説明をしたいのだが、時間はある?」
       「この業務、何時に終わる予定?」
       「明日のプレゼンテーション資料の準備は整った?」

    (2)発 
     相手がすぐには答えられない「考え」などを聞くもので、ビジネスコーチが
     相手に考えてもらうことを目的に行う問いかけ
     例:「この業務を遂行するために最も重要なポイントは何だと思う?」
       「今、私が君にこの業務を依頼しているのはなぜだと思う?」
       「もっと短時間でこの業務を遂行するとしたら、どのような点を
       改善したらよいだろうか?」 

     上記で「質問」と「発問」の違いを紹介しましたが、ビジネスコーチングで
    重要なのは、相手に考えてもらうことを目的とした「発問」です。
    ビジネスコーチは「発問」を上手に活用することで、基本ステップ 「説明する」
    で紹介した「相手が自発的にやる気になるようにする」や、「評価する」で
    紹介した「相手が業務を振り返って改善点などを考えること」を実現する
    ことができます。

   2.肯定形・未来形の「発問」 
    「発問」は、肯定形の言葉で行うことが大切です。
    業務が相手のうっかりしたミスでうまくいかなかったときや、相手がいよいよ
    切羽詰まってから相談してきたときなど、ビジネスコーチは、つい
    「なぜできなかったんだ?」「なぜもっと前に聞いてくれなかったんだ?」
    と言いたくなるでしょう。
    腹を立てたビジネスコーチがそう言ってしまうのは仕方のないことです。
    しかし、相手の立場に立って考えると、「なぜできなかったんだ?」など
    のように言われると、「発問」ではなく「詰問」と感じ、相手は、ただ、
    「申し訳ありませんでした」と謝るだけになってしまうでしょう。
    そこで、こうした場合、ビジネスコーチは、肯定形・未来形の「発問」への
    変換を行ってみましょう。
    「なぜできなかったんだ?」「なぜもっと前に聞いてくれなかったんだ?」は、
    どちらも「〜しなかった」という言葉が入っているため、否定形・過去形です。
    それを肯定形・未来形にしてみると、
     「なぜできなかったんだ?」 
      →「どのようにすればうまくいくのだと思う?」
     「なぜもっと前に聞いてくれなかったんだ?」 
      →「どのようなフォローがあればうまく進めやすい?」
    のように、「発問」に変換することができます。

   3.「聞く」と「聴く」 
    ビジネスコーチングでは、「発問」することと同時に「傾聴」が重要と
    いわれています。
    ビジネスコーチングを実践する上で「傾聴」は、どのように実践すればよいのか
    を考えるために、ここではまず、「聞く」と「聴く」の違いを考えてみます。 
    一般的に、「聞く」と「聴く」は次のように整理されます。
     (1)聞く 
      音や声などを耳で感じて知ることで、人の話を「耳に入れる」
      状態
     (2)聴く 
      注意して耳にとめる・耳を傾けることで、人の話を「理解しよ
      うと心を入れている」状態 

    ビジネスコーチは、「発問」した場合や、相手が相談してきた場合などに
    「聴く」ことを心がけるようにします。 
    ビジネスコーチングで重要とされる「傾聴」は、注意して耳にとめる「聴く」を、
    さらに発展させて「耳を傾けて熱心に聴く」という行為です。
    つまり、相手が言っていることを耳に入れると同時に、表情・話し方・
    声のトーンなどにも注意し、言葉だけではなく、考え・感情までも含めて
    「相手を理解しようとする」こと、それが「傾聴」です。

   4.「傾聴」のポイント 
    「傾聴」は、相手の話に相づちを打ったり、「質問」や「発問」をはさむなど
    して実践します。
    ただし、「傾聴」で大切なのは、そうした話の聴き方だけではありません。
    ビジネスコーチングにおける「傾聴」のポイントは、
     (1)「相手の話を聴こう」という気持ちを持ち、それを伝える
     (2)沈黙を恐れない
    ことにあります。

    (1)「相手の話を聴こう」という気持ちを持ち、それを伝える 
     ビジネスコーチは、「自分は話を聴く用意があるから、いつでもどんな
     ことでも気軽に相談してほしい」ということを相手に伝えることが大切です。  
     さらに重要なのは、外出や会議の直前など、ビジネスコーチが時間がない
     場面で相手が相談などをしてきたときの対応です。 
     時間がない場合には、
      「申し訳ないが、今、外出前で時間がない。でも2時間後に
      戻ってからなら時間が 取れる。それでもいいか?」
     と尋ねてみるとよいでしょう。
     そうすれば相手は「今は時間がないが、後で時間を取ってちゃんと話を
     聴こうと思ってくれているのだな」と理解するはずです。
     また、相手がどうしても今、緊急にお願いしたいということであれば、
      「申し訳ないが、今、外出前で10分間しか時間が取れない。
      だから、要点だけまとめて話してもらえるととても助かる」
     というように言ってみましょう。
     大切なのは、「聴こうという意思があることを表現する」ことです。

    (2)沈黙を恐れない 
     「傾聴」のもう一つのポイントは、
       沈黙を恐れない
     ことです。 
     相手に考えさせるために「発問」をすると、相手は考えてから答えるため、
     沈黙が続く場合があります。
     このときビジネスコーチが沈黙を恐れて、あるいは、相手を助けようと
     思って「自分だったら・・・」「例えばね・・・」と話し出してしまうケースが
     あります。 
     ビジネスコーチは、なるべく、「発問」した後、沈黙を恐れて答えを
     急かせてしまうことのないよう、相手の表情などを観察しながら相手に
     ペースを合わせることを心がけましょう。
     相手は「自分が考える時間を待ち、話を聴いてくれようとしているのだな」
     と感じ、ビジネスコーチへの信頼が強まるでしょう。 

     ここまで、「発問」「傾聴」のポイントを紹介してきましたが、ビジネス
     コーチは、「発問」「傾聴」以外にも、相手の性格・考え方に応じて
     問いかける方法や話の聴き方などを工夫していく必要があります。
     そのため、ビジネスコーチは、常に相手を観察し、相手の立場に立った
     コミュニケーションを心がけなければなりません。

  □ビジネスコーチングを成功させる重要なポイント 
   これまで、ビジネスコーチがビジネスコーチングを実践する際に押さえておきたい
   基本ステップや話法を紹介してきました。
   それらをまとめると、ビジネスコーチは、
    ・相手が自発的にやる気になるようにすること
    ・相手に「考えさせる」こと
    ・常に相手の立場に立つこと
   などを心がける必要があります。
   こうしたことを心がけるために、ビジネスコーチは、
    答えはビジネスコーチではなく常に相手が持っている(相手の中にある)
   ことを肝に銘じておくことが大切です。
   ビジネスコーチングは、ビジネスコーチの思う通りに相手の考え方や行動を
   修正しようとするものではありません。
   ビジネスコーチは、「自分の役割は、相手が持っている答え・能力・素質を
   引き出すサポートをすることである」と認識しましょう。 
   また、ビジネスコーチングは、一朝一夕に完結するものではありません。
   「準備する」「説明する」「任せる」「評価する」という基本ステップを進めて
   いくのは、手間も時間もかかります。 
   ビジネスコーチングは、ビジネスコーチにとって大変な負担となる業務でもあり、
   重荷に感じることがあるでしょう。
   そのようなとき、ビジネスコーチはビジネスコーチングがもたらす次のような
   効果を思い出してみましょう。
    ・相手が成長するだけではなく、相手の成長を手助けすることに
     よってビジネスコーチ自身も成長することができる
    ・相手とビジネスコーチの信頼関係が強固なものとなり、互いに
     気持ちよく業務を遂行できるようになる 
   相手とビジネスコーチが互いに気持ちよく業務を遂行できるような環境が整えば、
   お互いのモチベーションの向上・生産性の向上にもつながるはずです。
   また、このような環境が職場に浸透することで、職場全体の生産性の向上や
   雰囲気の活性化が実現できるでしょう。 
   ビジネスコーチは、ビジネスコーチングが相手だけではなくビジネスコーチ自身
   のため、ひいては職場全体のために必要な取り組みであり、そしてそれを実践
   するビジネスコーチ自身は、相手のため、職場全体のために不可欠な存在である
   ことを忘れてはなりません。

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コーチングスキル

コーチングスキル

   
  ■コーチング

   「コーチング」は、スポーツの分野で用いられてきた言葉で、選手の潜在能力を高める
   ことを目的とした「質問型」の指導方法である。

   近年、人材育成の一環である上司と部下のコミュニケーション方法として「コーチング」
   はすっかり定着した感があります。

   スポーツにおいてもビジネスおいてもメンタルな部分が大切であることから、現在の
   厳しい経営環境のなかで求められている人材は、自ら考え、自ら行動する「自立型」の
   人材です。

   コーチングの効果は部下の人材育成のみならず、セールススキルのアップにも効果的
   です。

   通常はティーチングで指導したほうが、上司も部下も楽ですし、短い時間で成果につな
   げることができます。

   しかし、企業の多くで行われているティーチングによる指導では指示待ち社員を生み、
   上司の一方通行の指示に終始してしまいます。

   あえてコーチングを行うことで、部下は自分で考え主体性をもって働く習慣が身につ
   きます。

   また、ティーチングですべてに答えをもらっていた頃の「やらされ感」から解放されて、
   よりやる気をもって働けるようになります。

   質問型のコーチングによって、自ら考え実行できる人材を育てることができます。

   コーチングは、当然のことながら、コーチする側と受ける側に分かれます。

   しかし、コーチを受けるべき人材は多くても、適切なコーチングができる人材は少ない
   のが現状です。

   適切なコーチをするためには、コーチングの手法を学び、それを実践していく人材を育成
   することからはじめなければなりません。

   しかしコーチングを含め、社内の教育体制は今問題を抱えています。

   それは中小企業の多くが場当たりで無計画な教育が横行していることです。

   その原因に教育担当者の人数と能力の不足が挙げられます。

   この問題を解決しなければ、社内教育制度の内製化は不可能です。   


   コーチングとは相手の目標達成をサポートするためのコミュニケーション手法のひとつ
   です。

   今では、コーチングは人材育成におけるモチベーションアップ、セールススキルの向上
   など双方向のコミュニケーション手法として大きな力を発揮します。

   コーチングには技術面をコーチする「スキルコーチング」と、心や精神面をサポートする「メン
   タルコーチング」の2つに分けることができます。

   ここでは「スキルコーチング」について解説します。

   コーチングを学ぶべき人材は、経営者、マネージャー、リーダー、など、後輩や部下を指導す
   る立場にある経営陣・管理職・部門長になります。

   相手がすでにもっている能力・意欲・経験などを引き出して、部下自らが主体的に取り組むよう
   にサポートすることがコーチングのおもな目的です。

   コーチングは部下の目標達成をサポートするためのコミュニケーション手法のひとつで、
           社員の自立性やモチベーション向上に効果的です。

   コーチングを行うことで、部下は自分で考え主体性をもって働く習慣が身につくように
   なり、問題点のすべてに答えをもらう「やらされ感」から解放されて、よりやる気をもっ
   て働けるようになります。

  □コーチングの目的

    ・自分でものを考える自立型の人材を育成のため

    ・上司が自分の知識や体験を効果的に部下に伝えるため

    ・上司がそれぞれの部下に合った指導方法をみつけるため

    ・部下から仕事の手順などについて積極的な提案ができるようにするため

    ・さまざまなアイデアや意見を多く集めるため

    ・社内での会話量(コミュニケーション)が増え、その結果、問題発生を未然に防
     ぐため

    ・質問力の強化による営業力強化のため

   コーチングは決して難しく、高度なテクニックを要するものではないと理解すること 
   です。

   正しい「聴く」、「質問する」、「認める」を習得することで部下、お客様とのコミュニ
   ケーションアップに欠かせないスキルとなります。


  ■コーチングスキル

   コーチングでは、相手のことをよく知り上手にコミュニケーションを図る必要があり
   ます。

   事前に、性格・考え方・長所と短所・得意分野などを把握しておくと、スムーズで
   す。   

   コーチングに必要なスキルのなかで基本となるのは「傾聴」、「質問」、「評価(認
   める)」です。

   話を丁寧に聞いて適切な質問をし、相手をきちんと認めることがコーチングの原則
   です。

  傾聴 

   傾聴とは聞くではなく、徹底的に相手の話を「聴く」ことです。

   コーチングの目的は上司ではなく、部下自身に解決策を考えさせることにあります。

   部下には問題の事実関係だけではなく、それに対して部下自身がどのように感じてい
   るかについても話してもらわなければなりません。

   部下は自分のなかにある情報をいったん外に出すことで、情報のもつ意味を認識でき
   るようになります。

   部下が当初話そうとしていた以上の話をするように仕向けることも必要です。

   タイミングよくうなずいたり、相づちを打つなどして、自分が相手の話をきちんと聞いて
   いることをわかってもらわなければなりません。

   日頃から「部下が話しかけやすい雰囲気」をつくっておくことも大切です。

   部下は威圧的・拒絶的な印象が強い上司にはそもそも相談しようという気になりません。

   つねに笑顔で接し、上司の側からあいさつするなどを心掛けることです。
  
  □詰問ではなく質問

   コーチングにおける質問は「相手が気付いていないことをわかってもらう」目的で、「相
   手のために」行うものです。

   したがって、途中で自分がわかったとしても、相手がわかっていなければ質問を続けな
   ければなりません。

   そして、質問に対する答えにはきちんと傾聴します。

   質問は「なぜ(why)?」ではなく「何(what)?」を使う。

   「なぜ(why)」で始まる疑問文を、「何(what)」を使った疑問文に替えることを試し
   てみましょう。

   日々の部下との業務に関する会話においても、今までの質問の冒頭に「なぜ?」、
   「もっと」「どうして!」といった詰問をしないことです。

   例えば、

    ・何が君にそうさせたのかを教えてほしい。

    ・やらなかった理由には何があるの?

   といった質問の投げかけ方をしたほうが、やわらかい感じがするため、部下は精神的に
   安定するのです。

    ・なぜ、受注に失敗した? ⇒ 失敗した理由はなんだと思う

    ・できない理由は何だ? ⇒ おもな障害はなんだと思う

    ・どうしてもっと早く報告しないんだ ⇒ どうすればすぐに報告できると思う

   このようなスタンスで質問を続けることは、まどろっこしく、面倒に感じます。

   しかし、考える主体はあくまで部下であり、上司は答えをもっていたとしても先回りして
   それを示してはなりません。

   部下が正しい答えにたどり着くようにサポート役に徹する必要があるのです。

   質問した後には、相手が十分に考えられるよう、時間をおくことが大切です。

   その時間を惜しんで立て続けに問いかけると、質問ではなく「詰問」になってしまい
   ます。

    <質問の留意点>

    ・意見を論理的に聞く

     一般的に、人間は頭の中で思考を組み立て、その筋道に沿って相手に分かりや
     すいように意見を伝えようとします。

     しかし、会話を通じて相手の意見や態度に即応して自身の意見が変化していき、
     その結果、意見の整合性が崩れてしまう場合も多々あります。

     このような場合、意見を聞く側も相手につられて自分の意見を流されてしまいがち
     です。

     互いがそのような状況に陥ると論理的な質問はできなくなってしまいます。

     このため、論理的な質問をするためには、相手の意見を論理的に聞き、自分の意
     見と対比させながら「何を質問するのか」を常に明確にしておくことが必要となり
     ます。

     また、相手が発言をしている途中で質問を差しはさむと、その質問に答えるために
     相手の思考がいったん中断することとなります。

     このようなことが度々重なると、相手の思考がこま切れとなり、意見のポイントと
     なる部分にズレが生じてしまう可能性があります。

     従って、即時に確認をしなくてはならない問題などを除いては、相手が意見を発言
     している最中に質問することは基本的には避けたほうがよいでしょう。 

    ・マナーを守る

     質問の条件として、「論理的かつ具体的でなくてはならない」ということを説明して
     きましたが、それに加えて質問をする際には守るべきマナーがあります。

     例えば、「なぜそのように考えるのですか?」「何が原因ですか?」「ほかにはどの
     ような要因が挙げられますか?」などと矢継ぎ早に質問を繰り返すと、その質問が
     論理的であればあるほど相手は問い詰められているような気持ちになり、心のガ
     ードが堅くなってしまいます。

     そうすると、それ以上相手から情報を引き出すことが困難になり、正確なコミュニ
     ケーションがとれなくなってしまいます。

     このため、質問をする際には、相手の答えを論理的かつ真摯に受け止めて、相手
     に自分の論理を押し付けることのないよう配慮しなくてはなりません。

     また、いくら論理的かつ具体的であっても、顧客に対して、

       「〜という考え方は改めるべきではありませんか?」

     といった質問をすると、顧客との間に感情的な対立を起こしてしまうことになり
     ます。

     このような場合は、

       「〜というような考え方もできるのではないでしょうか?」

     といった肯定的な提案の形式をとった質問が有効です。

     質問とは相手の意見を正確に理解し、正確なコミュニケーションをとるための基本
     的な手段です。

     従って、質問は論理的かつ感情を排して行われなくてはなりません。

     しかし、コミュニケーションの基本は、人間と人間との「相互対話」です。

     これは、会話のうえでは言葉のキャッチボールであり、このキャッチボールをうま
     く行うためには、自分が相手のボールを正確に受け止めると同時に、相手が受け
     取りやすいボールを投げてあげなくてはなりません。

     質問は相手の意見の本質に迫るものであるため、時として相手にとってはデッド
     ボールとなる危険性を持ち合わせています。

     このため、質問をする際には、正確であることに加えて、「相手に自分の論理を押
     し付ける」といったことのないよう、マナーを守って円滑なコミュニケーションをと
     ることが重要であることを常に念頭に置く必要があります。

    □評価(承認)

    業務を任せた後は、評価する段階です。
    この段階では、相手自身にとって次(今後、
    あるいは、ほかの業務)につながるように
    評価することがポイントとなります。

    そのため、評価する際には、

    (1)相手が納得できるよう客観的な事実を
      挙げて評価する

    (2)課題を挙げて評価する

    ことを心がけます。

    (1)は、相手が業務を遂行したときには、ま
    ず「よくやった」とほめ、認めることが大切
    です。

    それによって相手のモチベーションは高まる
    でしょう。

    ただし、ほめる場合でも、「何がよかったのか」
    が分かるような客観的な事実を挙げて評価するようにします。

    例えば、
    「今日行ったプレゼンテーションの中で、○○について述べたとき、お客様は大きく
    うなずいて△△について質問をしてきたね。君の案がお客様のニーズに即してい
    たんだと思うよ」というような言い方で、ビジネスコーチ自身が思ったことだけでは
    なく、ほかの人からの評価を伝えるようにすると相手は納得することができます。

    (2)は、ほめるだけではなく、課題を挙げて評価することも大切です。

    例えば、

    「今回は綿密な計画を立案し、それに沿ってよくがんばったと思う。ただし、この部
    分については、もう少し工夫が必要ではないかと感じけど、君はどう思う?」という
    ような言い方であえて課題を挙げることで、相手は次につなげることができます。

    <評価(承認)スキル>

     評価(承認)とは相手の存在そのものを認める「存在承認」、さらに、相手の変化や
     結果に気付いてそれを言葉としてきちんと伝える「変化承認」、「成果承認」の3つ
     の要素で考えることができます。

     (1)存在評価(承認)

       相手の存在を認めるとは当たり前のことのようですが、実はできていない場合
       も多いのです。

       たとえば、あいさつやちょっとした声がけは相手を承認するための大切な行為
       です。

       「あいさつしても上司が返してくれない」、「業務指示以外は−切声をかけてく
       れない」という状況では、部下は自分の存在を認めてもらっているとは感じま
       せん。

       そんな上司には相談事をしたくない、むしろ相談したら怒られるとさえ思うかも
       しれません。

       日頃からあらゆる機会を捉えて、相手のことを大切に思っていることを伝えて
       おかなければなりません。

     (2)変化への評価(承認)

       いっもとは違う変化を認めることです。

       変化には「遅刻がなくなった」、「ミスが減った」などのプラスの変化もあれ
       ば、「最近元気がない」、「言葉遣いが乱れてきた」などのマイナスの変化も
       あります。

       いずれの変化も日頃から相手に関心をもっていなければ、気付くことができま
       せん。

       また、気付いたとしても言葉に出さなければ相手にはわかりません。

       プラスでもマイナスでもそれをきちんと伝えることで、相手は「つねに自分のこ
       とを気にかけてくれている」という安心感を得ることができます。

     (3)成果の評価(承認)

       「成果の評価(承認」)とは相手が成果を上げたときに、それをしっかりと認
       めることです。

       これは単純に成果を賞賛することとは少しニュアンスが違います。

       このように成果承認で大切なのは、「成果そのものだけではなく、成果を上
       げるために努力した点も十分に理解していること」を言葉で伝えることで
       す。

       そのためには「○○の能力がアップした結果だね」、「業務設計が優れていた
       ね」といったプロセスも含めて成果承認することが必要です。

       また、相手によっては、「あなたは頑張ったね」という、あなたを主語にした
       言い方(あなたメッセージ)だけではなく、その結果「私はこう思った」という
       「私メッセージ」による評価(承認)も効果的です。

       たとえば、「君の頑張りは私も心強いよ」という承認の仕方です。

       あなたメッセージだけでは、それを相手が素直に受け取らない可能性が
       あっても、私メッセージでは「私自身」の気持ちを素直に表現しているため、
       相手に伝わりやすいのです。

  ■コーチングの基本ステップ

   以下のステップで上記記載の「傾聴」、「質問」、「評価(承認)」のスキルを活用し
   ます。
   

   1.目標の明確化

     目標の明確化において大切なのは、達成したときの自分の姿をイメージさせるこ
     とです。

     たとえば、営業マンの受注目標額を設定する際には、たんに「受注目標300万円」
     で終わらせずに、それを達成したら「営業マン自身がどのような能力を獲得
     しているか」、「その先にどんな道が開けるか」なども意識させます。

     また、目標を部下に考えさせることで、与えられたノルマではなく、自分自身で決め
     た目標と認識することができます。

   2.現状と問題の把握

     現状把握は「客観的事実そのもの」と「客観的事実をどのように認識しているのか」
     の2つの視点から行います。

     たとえば、営業マンの受注額が過去3ヶ月間連続して200万円だった場合、その
     受注額は客観的な事実です。  

     問題はこの金額を営業マンがどのように認識しているかです。

     「十分実力を発揮した結果」と満足している人もいるでしょう。

     逆に不満だと思っている人のなかには「まだまだ努力不足」と自責と捉えている人
     もいれば、「顧客に恵まれていない」と言い訳している人もいるはずです。

     これらについて十分に話を聞いて、質問を重ねるなかで事実誤認やたんなる思い
     込みを修正していきます。

     そして、目標達成のためにどのような能力アップや業務姿勢改善が必要かを気付
     かせます。

   3.行動計画 

     「目標の明確化」と「現状と問題の把握」を踏まえて、目標達成のために実際に何
     をやるのかを明確にしていくステップです。

     ここでも何をやるのかについて相手自身に気付かせます。

     まずは相手にできるだけ多くの選択肢を考えさせます。

     過去の自分の成功体験・失敗体験、周囲の優秀な営業マンの事例、営業関連の
     書籍から仕入れた知識など考える材料はたくさんあります。

     また、それらを組み合わせてオリジナルの方法を考えることもできます。

     ある程度明確になってきたら、それを実際の行動レベルに落とし込んでいきます。

     たとえば、「見込み客数を倍にする」ということになったら、「そのために明日から
     どのような行動が必要だと思う?」といった質問で、より具体的にしていきます。

     その際には「アポを何件取る」といった成果ではなく、「アポ取りの電話を何件
     する」といった、やる意思があれば必ず達成可能な行動を重視します。

   4.フォローと振り返り 

     実際に行動を起こしているかどうかを確認します。

     もしまだであれば、その障害となっている要因を再度考えさせます。

     また、行動している場合には、その結果としてどのようなことが起こったか、どのよ
     うに感じたかについて話を聞きます。

     行動がうまく成果につながっていない場合の失敗要因だけではなく、成果につなが
     った場合の成功要因についても考えさせます。

     場合によっては行動計画の一部見直しも必要になるかもしれません。

     フォローと振り返りは、相手の行動そのものを確認・修正するだけではなく、相手に
     対して「変化承認」、「成果承認」を与えるためにも重要なステップです。

     必ず実施しましょう。



   コーチは、コーチングが相手だけではなくコーチ自身のため、ひいては職場全体のために
   必要な取り組みであり、そしてそれを実践するコーチ自身は、相手のため、職場全体の
   ために不可欠な存在であることを忘れてはなりません。

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コーチングスキル

コーチングによる人材活用


  ■コーチングの概要

   1.コーチとコーチング

     コーチ(Coach)という言葉が登場したのは1500年代で、馬車という意味があ
     りました。

     その馬車という言葉から、「大切な人をその人が望むところまで送り届ける」と
     いう意味が派生します。

     さらに、1840年代には英国オックスフォード大学で、学生の受験指導をする
     個人教師のことをコーチと呼ぶようになりました。

     われわれになじみの深いスポーツの分野で使われるようになったのは1880
     年代のことで、ボート競技の指導者がコーチと呼ばれていたようです。

     こうした背景をもつコーチという概念から、1980年代のアメリカにおいて、クラ
     イアント(相手)の潜在的な能力を最大限に引き出し、自発的な行動を促進す
     るためのコミュニケーション技術としてのコーチングが生まれました。

     コーチングの基本になるのは、相手の可能性や能力を信頼することです。

     多くの場合、ゴールを達成したり、障害を打開するための答えや能力は相手
     自身がもっています。

     それらの能力を引き出し、相手の自発的な行動を促進することがコーチングで
     あり、そのコーチングを行う人をコーチと呼びます。

     つまり、コーチは相手とコーチング・カンバセーション(普通の会話とは異なる 
     コーチングのための会話)と呼ばれるコミュニケーションを交わすことによって
     相手が実現したいゴールを明確にし、短時間で達成できるようにサポートする
     人のことなのです。

   2.コーチングのポイント

     コーチングの目的が「相手の潜在的な能力を引き出し、自発的な行動を促進
     すること」にあるということは前述しました。

     それでは、そうした相手の行動を促すコーチングのポイントとはどういうものな
     のでしょうか。

     コーチの育成や企業へのコーチング研修で実績のある企業によると、コーチン
     グには100種類ものスキルがあるそうです。

     そして、これらの多くのスキルのべースは、

      ・聞くこと

      ・質問すること

     です。

     つまり、コーチは相手の話を聞き、適切な質問を繰り返すというコーチング・カ
     ンバセーションによって、

      ・相手に新しい視点を与える

      ・相手のなかから答えを引きだす

      ・相手に安心感と自信を与える

      ・相手に未来への夢を抱かせる

      ・相手に自発的な行動を促す

     ことを実現するのです。

     もちろん、相手に場当たり的な質問をしてもこうした効果は望めません。

     相手に気づきや前向きな変化をもたらすような効果的な質問を行うことがコー
     チングの最大のポイントになるのです。

  □ビジネスへの活用

   コーチングの考え方は、コミュニケーションの存在する場、職場や学校、家庭、各
   種サークルなどあらゆる場面で導入されています。

   とりわけ、最近は職場において自分のビジネスにいかしている方が増えているよ
   うです。

   コンサルタント、医師、弁護士、税理士といった専門職の方から、教師、企業経営
   者、管理職など幅広い分野の方がコーチングを活用しています。

   ここでは、とくにコーチングがビジネスの場で活用されるようになった背景や、コー
   チングを導入している企業事例を紹介しましょう。

   1.指示・命令型マネジメントの限界

     これまでの日本の企業でみられたマメネジメントスタイルは、どちらかといえば
     上司による指示・命令型が中心でした。

     このマネジメントスタイルは、上司が正解をもっている場合、つまり過去の成功
     体験がいかせる場合には、ある程度有効に機能しました。

     しかし、1990年代以降の「低成長でありながら変化のスピードが速い」時代に
     は、指示・命令型のマネジメントの有効性に陰りがでてきました。

     なぜなら、必ずしも上司の判断が正解とは限らなくなってしまったからです。

     逆に、過去の成功体験に縛られる上司の判断が間違っているケースが多く
     なったのかもしれません。

     さらに、この指示・命令型マネジメントには、「やらされる」「しなければならな
     い」といった感覚がついて回り、部下の創造的なアイデアや自発的な行動を阻
     害してきた面があります。

     こうした状況のもと、一部の企業経営者や経営幹部が「指示・命令型マネジメ
     ントの限界」に気づき、部下のやる気や能力、アイデアを引き出すスタイルの
     マネジメントを模索するようになりました。

     そこで、多くの企業で導入されるようになったのがコーチングの考え方を取り
     入れた双方向の質問型マネジメントだったのです。

     アメリカでコーチングがビジネス界に積極的に取り入れられるようになったの
     は、同国が不況にあえぎ、過去のマネジメントスタイルが疑問視されるよう
     になった1980年代後半でした。

     こうしてみると、現在の日本でコーチングが注目される理由が分かります。

   2.ビジネスの現場への導入

     コーチングの考え方を用いた質問型のマネジメントは、経営者や部下をもつ管
     理職であれば、誰にでも必要なものです。

     最近では、多くの企業のさまざまな部門でコーチングの手法が導入されるよう
     になっています。

     ここでは、比較的導入されることの多い営業部門においてコーチング手法を用
     いて業績・組織風土の改善に成功した事例を紹介します。

     (1)導入経緯

       建築業のA社では、売上高の低下に苦しんでいました。

       景気の影響もさることながら、営業マンの伸び悩みが売上高低下の大きな
       要因と考えた社長が、コーチの資格をもつコンサルタントに相談したこと
       が、コーチング導入のきっかけとなりました。

     (2)導入の流れ

       A社におけるコーチング手法導入の流れは、以下のようなものでした。

        ①コンサルタントが営業マネージャーに対してコーチングを実施

        ②2カ月目からコンサルタントが営業マネージャーに対しコーチング
          スキルを指導

        ③3カ月目から営業マネージャーが部下に対し、コーチング手法を
          用いたミーティング開始

         ※営業マネージャーと部下とのミーティングにはコンサルタントが同席し、後で
            その内容をテーマとしてコーチングを実施

        ④7カ月目からはコンサルタントの手を離れ、営業マネージャーによる
          質問型のマネジメントが定着

        ⑤10カ月目から他部門での導入開始

     (3)コーチングによる改善の概要

       コーチング導入前のA社における営業マネージャーのマネジメントは、各営
       業マンに対して毎月目標を割り振り、数値の進捗状況をチェックしながら
       日々アプローチ方法やセールストークを指導するというものでした。

       「このA社の営業マネージャーは、少なくとも数値だけしか詰めない古いタイ
       プではなかった。しかし、プレイングマネージャーであるため、すべての営
       業マンに同行する時間がなく、異なる顧客に対してもアドバイス内容が画 
       一的になっていた。営業マンは熱心に顧客訪問を行い、アドバイス通り行
       動しているため、成果につながらなくても仕方ないという空気が強くなって
       いた」のです。

       専門家のコーチングにより、営業マネージャーは自分自身でマネジメントス
       タイルを変えることにしました。

       変更のポイントは次のようなものです。

        ①目標を営業マン自身に決定させる

         →営業マン個々の収入や将来像を想い描かせることでモチベー
          ションが高まり、全員の目標合計はそれまでの全社目標を上回った。
          なお、営業成績によるインセンティプ制度は以前から存在した
          ものを維持し、とくに変更はしなかった。

        ②数値の進捗確認を営業チームで共有する

         →営業マンのアイデアをいかしてボードに進捗数値と活動内容を
          掲示し、お互いの業績や行動状況を共有化した。

        ③営業活動の方法を営業マン自身で考えさせ、決定させる

         →これまでの「こうやってみなさい」という指導から、どうするのかを
          営業マンそれぞれに考えさせるようにした。
          アドバイスするときも、あくまで提案のひとつというスタンスを貫いた。

        ④上記を徹底するためにコーチング手法を取り入れ、営業マンとの
          コミュニケーションを密にする

         →とにかく、営業マネージャーは個々の営業マンの力を信じ、営業
          マンの能力やアイデアを引き出せるようなサポートに徹した。

       このような営業マネージャーのマネジメントスタイルの変化により、営業マン
       も変わっていきました。

       営業マンの言葉を拾ってみると「任されている、信じてもらっているという実
       感がある」「仕事に自信がついた」「やる気が出てきた」「自分のアイデアを
       取り入れてもらえるので頑張ろうと思った」という前向きなものがほとんどで
       した。

     (4)質問事例

       なお、こうした変化を生みだした営業マネージャーが意識して行ったという
       質問の事例をいくつか紹介します。

       ①目標設定のコーチング時

         「C君にとって自分自身の理想の姿って、どういうものだろう」
         「C君が持てる力をすべて出し切ったら、どの程度できるかね」
         「C君にとって達成したときに心から満足できる目標ってどの
         程度だろうね」
         「3年後のC君の○○○という目標を達成するために、今どうするのが
         よいだろう」
         「この目標をやり遂げたときに、C君はどんな状態になっているかな」

       ②営業マンとの個別営業のコーチング時

         「明日の訪問の後、何が実現していれば成功といえるだろうね」
         「このお客さんの状況は、ゴールに対し、あと何%まできている
         んだろうね」
         「この提案をしたとき、お客様はどんなことを考えるだろうね」
         「お客様に確認しておくことは何だろうね」
         「次の営業ステップに進むためには何が必要だろうね」
         「何か必要な資料・ツールはあるかな」
         「お客様が悩んでいることは何だろうね」
         「N君がお客さんだったらどうして欲しい」
         「もしも明日クロージングするとすれば、何が必要だろう」
         「私に何かサポートして欲しいことはあるかい」
         「メンバーに協力を依頼することはないかい」
         「N君の強みをいかすにはどういうアプローチがよいだろうか」
         「今日(今週・今月)のN君の活動は何点だったかな」
         「今日の活動でよかったこと(悪かったこと)は何かな」
         「来週の今頃はどういう状況になっているかな」
         「私と立場が変わったら、N君は私にどういうアドバイスをすると思う」
         「N君ほかにアプローチする方法(準備すること)はないかい」
         「ライバルB社の営業マンは何を考えているだろうね」
         「この提案を実行するときにお客様の障害になるのは何かね」
         「あと、何%頑張れる」

     (5)コーチング導入の効果

       A社の社長によると「まず、営業マネージャーが明るくなり、続いて営業部
       門全体に活気が出てきた。

       そして、半年経った頃から景気は悪化しているにもかかわらず、営業成績
       が上向いてきた。

       何より営業部門の社員の発言が前向きになったことが大きな変化だ」とい
       うことです。

     (6)自社にコーチングを導入する

       ここでは、コーチングという手法の存在を紹介したものにすぎません。

       もう一歩進んで、よりコーチングという考え方について学んでみたいという
       方は、書籍をおすすめします。

       コーチングに関する書籍は現在多数出版されているので、これらの書籍を 
       読んだうえで具体的な導入方法について検討するというステップがよいで
       しょう。

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コーチングスキル

社長に必要なコーチングスキル


  ■コーチングとは

   ビジネスの分野で「コーチング」の重要性について取り上げられることが増えてき
   ました。

   社長自らが専門家からコーチングを受けたり、社内全体に手法を導入しようという
   動きも盛んです。

   導入した会社の多くでは社員の自立性やモチベ−ション向上などの成果を上げ
   ています。

   ここでは、社長自身が身につけておきたいコーチングスキルについて解説しま
   す。

   1.答えはつねに相手のなかにある

     コーチングとは、相手の目標達成をサポートするためのコミュニケーション手
     法のひとつです。

     プロ野球には投手コーチや打撃コーチなどがいますが、彼らの本来の仕事は
     すでにプロ選手としての一定の実力をもっている選手たちが、それぞれの特徴
     をいかして最大の成果を出せるようにガイドしていくことにあります。

     特にベテラン選手に対しては細かい技術指導などは行わず、選手自身に問題
     点を気付かせて、答えを見つけるように指導します。

     このようにコーチングにおいては、目標達成に向けた答えは相手のなかにあ
     ると考えます。

     相手がすでにもっている能力・意欲・経験などを引き出して、相手自らが主体
     的に取り組むようにサポートすることがコーチングのおもな目的です。

   2.コーチングとティーチング

     (1)両者の違い

       コーチングと対比される言葉にティーチングがあります。
       ティーチングとはティーチャーが自分の知識や技術などを生徒に教えること
       です。

       コーチングは双方向のコミュニケーションによって成立しますが、ティーチン
       グではティーチャーから生徒への一方的なコミュニケーションとなります。

       また、コーチングでは答えはつねに相手のなかにあると考えますが、ティー
       チングでは答えはつねにティーチャーの側にあります。

       つまり、コーチとティーチャーは役割や立場がまったく違う。

       部下に対しての指導は状況に応じてコーチングとティーチングを使い分け
       る必要があります。

     (2)主体性を育てるコーチング

       たとえば、お客さまとすぐに仲良くなれるのに、最終的な契約の一歩手前で
       いつも止まってしまう営業マンがいる場合、ティーチングであれば上司は
       「もっと商品のメリットが伝わる資料を作成して説明しなさい」といった指示
       (答え)を与えます。

       一方、コーチングでは「契約に向けてほかに何か必要な資料はないか
       な?」という具合に質問を繰り返し、部下自身から答えを引き出します。

       通常はティーチングで指導したほうが、上司も部下も楽ですし、短い時間で
       成果につなげることができます。

       しかし、あえてコーチングを行うことで、部下は自分で考え主体性をもって
       働く習慣が身につきます。

       また、ティーチングですべてに答えをもらっていた頃の「やらされ感」から解
       放されて、よりやる気をもって働けるようになります。

     (3)上司のわからないことにも対応できる

       また、コーチングでは上司が答えをもっていない場合でも、部下に答えを見
       つけさせることが可能になります。

       上司は基本的に自分の過去の経験から答えを見つけますが、部下が抱え
       ている顧客のなかには、上司が接したことがないまったく新しいニーズを
       もっている顧客もいるでしょう。

       すべての答を上司が見つけるのは困難であり、その顧客のことを一番知っ
       ている部下自らが導き出した答えが正しいことも多いのです。

       さらに、専門知識が必要な分野で上司にそれがない場合でも、専門知識の
       ある部下に自ら考えさせることで、答えを引き出すこともできます。

    3.社長にとってのコーチング

     社長のなかには外部の専門家のコーチングを受けて、自分自身の気付きや
     意思決定に役立てている人が多くいます。

     自分がコーチングを受けることで、手法そのものについて学ぶこともできます。

     さらに、一定の経験を積めば、自分自身に対する「セルフコーチング」も可能に
     なります。

     また、社長は経営幹部たちに対してコーチングを行う立場でもあります。

     従来型の業務指示やティーチングによる指導に加えて、コーチングによって彼
     ら自身が答えを見つける習慣を身につけさせることで成長が加速します。

     受け身的な幹部を自発的な幹部へと脱皮させることも可能です。 

     コーチング手法を体系的にきちんと理解するためには、相応の勉強時間が必
     要ですが、「コーチング的な発想」を身につけて、日頃の幹部たちへの対応に
     いかすだけでも、大きな効果が期待できるでしょう。

  □基本となるスキル

   コーチングに必要なスキルのなかでベースとなるのは「傾聴スキル」、「質問スキ
   ル」、「承認スキル」です。話を丁寧に聞いて適切な質問をし、相手をきちんと認め
   ることがコーチングの原則です。

    1.傾聴スキル

     (1)事実だけではなく相手の認識を聞き出す

       傾聴とは、徹底的に相手の話を聞くことです。

       たとえば、普通は部下が仕事上の問題を相談してきた場合に、上司は起
       こっている問題の事実関係を詳細に聞き出し、自らの判断で早急に手を打
       とうとするでしょう。

       短時間での問題解決を優先する場合には仕方ないが、これは傾聴ではあ
       りません。

       コーチングの目的は上司ではなく、部下自身に解決策を考えさせることに
       あります。

       部下には問題の事実関係だけではなく、それに対して部下自身がどのよう
       に感じているかについても話してもらわなければなりません。

       部下は自分のなかにある情報をいったん外に出すことで、情報のもつ意味
       を認識できるようになります。

     (2)自分がきちんと聞いていることをわかってもらう

       また、最後まで黙って耳を傾けるだけでは十分ではない。

       部下が当初話そうとしていた以上の話をするように仕向けることも必要で
       す。

       タイミングよくうなずいたり、相づちを打つなどして、自分が相手の話をきち
       んと聞いていることをわかってもらわなければならない。

       さらに、話の内容だけではなく、声のトーン、表情、しぐさなどから相手の感
       情を読み取ることも重要です。

     (3)日頃からの言動に注意する

       そして、コーチングを行うときだけではなく、日頃から「部下が話しかけやす
       い雰囲気」をつくっておくことも大切です。

       部下は威圧的・拒絶的な印象が強い上司にはそもそも相談しようという気
       になりません。

       つねに笑顔で接し、上司の側からあいさっするなどを心掛けましょう。

    2.質問スキル

     (1)コーチングにおける質問とは

       通常、質問とは「自分が知らないことをわかる」目的で「自分のために」行う
       ものです。
       したがって、自分がわかってしまえば質問はそこで終了になります。

       しかし、コーチングにおける質問はその逆であり、「相手が気付いていない
       ことをわかってもらう」目的で、「相手のために」行うものです。

       したがって、途中で自分がわかったとしても、相手がわかっていなければ質
       問を続けなければなりません。

       そして、質問に対する答えにはきちんと傾聴します。

       <通常の質問>

         ・なぜ、受注に失敗した?

         ・できない理由は何だ?

         ・どうしてもっと早く報告しないんだ?

       
       <コーチングにおける質問の例>

         ・失敗した理由は何だと思う?

         ・おもな障害は何だと思う?

         ・どうすればすぐに報告できると思う?

       このようなスタンスで質問を続けることは、まどろっこしく、面倒に感じます。

       しかし、考える主体はあくまで部下であり、上司は答えをもっていたとしても
       先回りしてそれを示してはならない。

       部下が正しい答えにたどり着くようにサポート役に徹する必要があるので
       す。

       また、質問した後には、相手が十分に考えられるよう、時間をおくことが大
       切です。

       その時間を惜しんで立て続けに問いかけると、質問ではなく「詰問」になっ
       てしまいます。

     (2)オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン

       質問にはオープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの2種類がある。

       オープンクエスチョンとは「この仕事のポイントは何だと思う?」といった自
       由に答えられる質問であり、クローズドクエスチョンとは「関係者との調整が
       一番重要だと思うんだね?」といったイエスかノーの答えを求める質問。

       オープンクエスチョンで相手から考えや気持ちを幅広く聞き、クローズドクエ
       スチョンで重要点を確認するというのが通常の流れです。

       オープンクエスチョンでは、いわゆる「5WIH」(Who:誰、Wha t:何、
       Whe n:いつ、Whe r e:どこ、Why:なぜ、How:どうやって)の疑問詞を
       活用しながら質問を組み立てます。

       これにクローズドクエスチョンを組み合わせた例として、次のような
       質問の流れが考えられます。

    3.承認スキル 

      承認とは相手の存在そのものを認める「存在承認」、さらに、相手の変化や
      結果に気付いてそれを言葉としてきちんと伝える「変化承認」、「成果承認」
      の3つの要素で考えることができます。

     (1)存在承認

       相手の存在を認めるとは当たり前のことのようですが、実はできていない
       場合も多いのです。

       たとえば、挨拶やちょっとした声がけは相手を承認するための大切な行為
       です。

       「あいさつしても上司が返してくれない」、「業務指示以外は一切声をかけて
       くれない」という状況では、部下は自分の存在を認めてもらっているとは感
       じません。

       そんな上司には相談事をしたくない、むしろ相談したら怒られるとさえ思う
       かもしれません。

       日頃からあらゆる機会を捉えて、相手のことを大切に思っていることを伝え
       ておかなければなりません。

     (2)変化承認

       「変化承認」とはいっもとは違う変化を認めることです。

       変化には「遅刻がなくなった」、「ミスが減った」などのプラスの変化もあれ
       ば、「最近元気がない」、「言葉遣いが乱れてきた」などのマイナスの変化も
       あります。

       いずれの変化も日頃から相手に関心をもっていないと気付くことができま
       せん。

       また、気付いたとしても言葉に出さなければ相手にはわかりません。

       プラスでもマイナスでもそれをきちんと伝えることで、相手は「つねに自分の
       ことを気にかけてくれている」という安心感を得ることができます。

     (3)成果承認

       「成果承認」とは相手が成果を上げたときに、それをしっかりと認めることで
       す。

       これは単純に成果を賞賛することとは少しニュアンスが違う。

       たとえば、私たちはなでしこジャパンが2011年ワールドカップで優勝したと
       きにその偉業に対して、賞賛を惜しみませんでした。

       世界最高の場での金メダル獲得について「とにかくすごい」と感じたからで
       す。

       その賞賛が彼女たちの励みになったことは間違いない。

       しかしながら、なでしこジャパンの厳しいトレーニングや節制ぶりを近くで見
       守ってきた監督や関係者たちは、金メダルそのものよりも、むしろそこに至
       るまでの彼女たちの努力に対して、心から「よく頑張った」と感じたことでしょ
       う。

       相手のことを深く理解しているからこそ、たんなる賞賛ではない成果承認が
       できるのです。

       そして、彼女たちの心により響いたのは、賞賛よりも成果承認でしょう。

       このように成果承認で大切なのは、「成果そのものだけではなく、成果を上
       げるために努力した点も十分に理解していること」を言葉で伝えること。

       そのためには「○○の能力がアップした結果だね」、「業務設計が優れていた
       ね」といったプロセスも含めて成果承認することが必要です。

       また、相手によっては、「あなた(YOU)は頑張ったね」という、あなたを主語
       にした言い方(YOUメッセージ)だけではなく、その結果「私(Ⅰ)はこう思っ
       た」という「Ⅰメッセージ」による承認も効果的です。

       たとえば、「君の頑張りは私も心強いよ」という承認の仕方。

       YOUメッセージだけでは、それを相手が素直に受け取らない可能性があっ
       ても、Ⅰメッセージでは「私自身」の気持ちを素直に表現しているため、相
       手に伝わりやすいのです。

  □ステップ

   コーチングは基本的に次のようなステップで行います。

    1.目標の明確化

    2.現状と問題の把握

    3.行動計画

    4.フォローと振り返り

   それぞれのステップで「傾聴」、「質問」、「承認」のスキルを活用します。

   ここでは、ある営業マンに対するコーチングを例にして話を進めてみます。

    1.目標の明確化

      目標の明確化において大切なのは、達成したときの自分の姿をイメージさせ
      ることです。

      たとえば、営業マンの受注目標額を設定する際には、たんに「受注目標300
      万円」で終わらせずに、それを達成したら「営業マン自身がどのような能力を
      獲得しているか」、「その先にどんな道が開けるか」なども意識させます。

      また、目標を部下に考えさせることで、与えられたノルマではなく、自分自身
      で決めた目標と認識することができます。

    2.現状と問題の把握

      現状把握は「客観的事実そのもの」と「客観的事実をどのように認識している
      のか」の2つの視点から行います。

      たとえば、営業マンの受注額が過去3カ月間連続して200万円だった場合、
      その受注額は客観的な事実です。

      問題はこの金額を営業マンがどのように認識しているかです。

      「十分実力を発揮した結果」と満足している人もいるでしょう。

      逆に不満だと思っている人のなかには「まだまだ努力不足」と自責と捉えて
      いる人もいれば、「顧客に恵まれていない」と他責にしている人もいるはずで
      す。

      これらについて十分に話を聞いて、質問を重ねるなかで事実誤認やたんなる
      思い込みを修正していきます。

      そして、目標達成のためにどのような能力アップや業務姿勢改善が必要かを
      気付かせます。

    3.行動計画

      「目標の明確化」と「現状と問題の把握」を踏まえて、目標達成のために実際
      に何をやるのかを明確にしていくステップです。

      ここでも何をやるのかについて相手自身に気付かせます。

      まずは相手にできるだけ多くの選択肢を考えさせます。

      過去の自分の成功体験・失敗体験、周囲の優秀な営業マンの事例、営業関
      連の書籍から仕入れた知識など考える材料はたくさんある。

      また、それらを組み合わせてオリジナルの方法を考えることもできます。

      ある程度明確になってきたら、それを実際の行動レベルに落とし込んでいき
      ます。

      たとえば、「見込み客数を倍にする」ということになったら、「そのために明日
      からどのような行動が必要だと思う?」といった質問で、より具体的にしてい
      きます。

      その際には「アポを何件取る」といった成果ではなく、「アポ取りの電話を何
      件する」といった、やる意思があれば必ず達成可能な行動を重視します。

    4.フォローと振り返り

      実際に行動を起こしているかどうかを確認します。

      もしまだであれば、その障害となっている要因を再度考えさる。

      また、行動している場合には、その結果としてどのようなことが起こったか、
      どのように感じたかについて話を聞きます。

      行動がうまく成果につながっていない場合の失敗要因だけではなく、成果に
      つながった場合の成功要因についても考えさせます。

      場合によっては行動計画の一部見直しも必要になるかもしれない。 

      フォローと振り返りは、相手の行動そのものを確認・修正するだけではなく、
      相手に対して「変化承認」、「成果承認」を与えるためにも重要なステップで
      す。

      必ず実施しましょう。

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