医療・福祉の人材育成と危機管理

形骸化しているヒヤリハット活動

■ヒヤリハット情報の共有が問題を解決する

 多くの施設でヒヤリハット 活動が形骸化しています。 

 「たくさん書けと 言われるから仕方なく 書いている」「内容のチェックなんてされないから適当に
 書いている 」「書いて提出しても事故防止対策を検討したことがない」というのが、多くの施設の
 現状です。

 これでは、ヒヤリハット 活動の意味がありません。

 労力のムダと 紙のムダです。

 なぜこんな非効率的なことが行われているのでしょうか?

 答えはカンタンで、ヒヤリハット 活動の目的を間違えているからです。

 ヒヤリハット 活動が形骸化している施設は、例外なく 「監査で指摘されないため」「法人のリスク
 マネジメント 委員会がヒヤリハットシートの枚数を集計して、この数で評価されるから」という
 ことがヒヤリハット 活動をやっている理由なのです。

 利用者のため、利用者を事故から守るため、という 目的が見失われているのです。

 ですから、このような施設では「ヒヤリハットシートは提出されると 、主任が読んで、相談員、
 事務長、施設長と次々 の回覧印が押されて、最後は施設長のバインダーに綴じられて終わり 。

 施設長からも誰からもヒヤリハットの内容について何のコメントもない」という 状態なのです。

 では、どうしたら良いのでしょうか?

 ヒヤリハットシートを活用して事故の未然防止につなげれば良いのです。

 しかし、現実はそれほど甘くありません。

 現場の介護職員は時間がありませんから、原因究明会議やヒヤリハットカンファレンスをやっている
 ヒマが無いのです。

 多くの職場では、ヒヤリハットカンファレンスをやっては見たものの、特に目新しい成果もないので
 長続きしないのです。

□ヒヤリハットカンファレンス(原因分析)はカンタンではない

 ヒヤリハットカンファレンスはただ職員が集まって、「このヒヤリハットの原因は何だろう 」と
 漫然と討議をしても成功しません。

 意外に難しいのです。

 では、なぜ職員でカンファレンスをしても建設的で具体的に討議にならないのでしょうか?

 問題解決につながる意見が出ないのでしょうか?

 実はヒヤリハットカンファレンスで、問題解決につながるような意見が出てこないのは理由が
 あります。

 介護職員は日頃利用者を良く見ていないのです。

 なんて言ったら怒られるかもしれませんが、事実です。

 仕事が忙しく 利用者の表情すらみていない職員も多いのです。

 ですから、「Aさん(患者)の転倒のヒヤリハットの原因は何だろう ?」なんて言われても、心当た
 りがないのです。

 さて、そこで施設主任のアイディアが当たりました。

 「まずヒヤリハットが起きた利用者の情報を共有して、職員がその利用者を良く見るところから始め
 よう 」というのです。

 考えてみればもともとおかしいのです。

 Xさんという職員がある利用者の転倒のヒヤリハットを書いたとします。

 Yさんという 職員が同じ利用者の転倒のヒヤリハットを書いても、職員はお互いに同じ利用者の
 ヒヤリハットを書いたことすら知らないのですから。

 ヒヤリハット 情報を職場で共有することで、たとえ原因を見つけられなかったとしても、職員は
 自然に「○○さんは転倒の危険が高い人」と頭に刷り込まれますから、多少でも注意を向ける
 くらいの効果は期待できます。

 そして、注意を向ける回数が多くなると 、様々な動作や表情の変化に気付くようになります。

 このように職員が情報共有した上で、利用者をよく 観察し気づきを持ってカンファレンスを開けば
 また違う意見がたくさん出るでしょう 。

□ヒヤリハットシートは目的ではなく 出発点

 施設では、問題のない利用者、つまり 職員の手を煩わせない利用者のほうが、職員の意識が向き
 ません。

 認知症が重く職員の手がかかる利用者が、体調を崩してもすぐに職員は気付きますが、認知症もなく
 性格も温厚な手のかからない利用者が体調を崩してもなかなか気づかないのです。

 それくらい、職員にとっては、注意が向く利用者が決まっていると言えます。

 ですから、「○○さんに転倒のヒヤリハットが起きて次は骨折につながるかもしれない」という
 情報が共有されれば、職員の注意が向くようになり様々なリスク要因に気付くようになるのです。

 その意味で、ヒヤリハット情報の職員間の共有は事故防止対策検討の出発点かもしれません。

 まず形骸化しているヒヤリハット 活動、つまりただ書いて施設長に提出するだけという活動を何でも
 良いから変えるところから始めれば良いのです。

 この施設主任の職場では、今おもしろいことが起こっています。

 ある利用者のヒヤリハットが提出されると 、主任が看護師に細かい医療情報を要求します。

 看護師は医療情報をまとめたシートを主任に渡し、これをヒヤリハットシートの裏に貼ります。

 ここで初めてヒヤリハット 情報と服薬や疾患の情報がつながりました。

 主任と看護師はここで服薬の影響や疾患の影響について話をします。

 栄養士やPT・STなどにも情報提供を依頼します。

 多職種のスタッフが意見を出し合うと 、様々な角度から原因分析が可能になります。

 材料が集まればこれらをつなぎ合わせることで、リスク 要因が明らかになることがあります。

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医療・福祉の人材育成と危機管理

介護のヒューマンエラー要因分析

■介助中にミスをすると必ず職員の不注意と原因に書かれるが…

 どんな仕事でも注意力を絶やさずに緊張感を持って仕事をしてもらうことは大切なことです。

 しかし、注意力を高めることが事故防止につながるかというと、それは古い事故防止活動の考え方
 です。

 従来は、「職員個々 の注意力を高めればミスが減り事故も減る」と考えられてきましたから、
 「もっと 慎重に」「もっと 注意深く」と連呼していたのです。

 しかし、ヒューマンエラーの研究者によれば「人は注意力が足りないからミスをするのではなく、
 人にミスを犯させる要因があるからミスを犯すのであり、ミスの要因を除去しなければ何度も同じ
 ミスをする」のだそうです。

 すると、「もっと 慎重に」「もっと 注意深く」という 注意力高揚型のマネジメントは、ただの
 気合論でしかないということになります。

 例えば、ベッドから車椅子への移乗介助中に利用者がバランスを崩して転倒したのであれば、なぜ
 バランスを崩したのかその要因を究明して、これを改善する 努力をしなくてはなりません。

 たとえば、この事故を引き起こした間接的な要因として次のようなものが挙げられます。

  ①ベッドが高すぎて端座位で足が床に着いていないので、抱え込んだ時にバランスを崩す。

  ②マットレスの端がベッド枠とずれている とお尻が滑り落ちるカタチでバランス崩す。

  ③上半身を腕で抱え上げるような“吊り上げ式移乗介助”では、ムリな力がかかりバランスを崩す

  ④車椅子のアームレストが跳ね上げ式でない場合、利用者のお尻を高く上げようとしてバランスを
   崩す。

 他にも、早朝であれば前夜の睡眠剤の影響や脱水・低血糖などでもふらつきが起こりますし、臥位の
 状態から急に端座位にしてすぐに移乗すれば、起立性低血圧でふらつきも起こります。

 このように、一見職員のミスが原因に見えるような事故でも、実は様々 な要因が絡んでミスに
 つながっているケースが多いのです。

 このように、「ミスを引き起こす要因がある 」という 考え方で、再検証すると 介助ミスの要因で
 最も多いのが、環境要因であることが良く分かります。

 つまり 、無理をせざるを得ないような環境で無理をして介助をしていれば、いつかミスにつながる
 のです。

ヒューマンエラーの要因を分析する手法

 このような多角的な原因分析の手法のうち、ヒューマンエラーの要因分析については様々 な手法が
 あります。

 かなり 昔にSHELモデルと言ったものが、近年SHELLとなって L が一つ増え、その後4M4E
 などという 手法も出てきました。

 いずれもどのような側面で原因を捉えるかが異なるだけで、業種や業務の特性によって異なります。

 ただし、4M4Eはどちらかと 言うとメカニカルなシステムのエラーなどに当てはまり 、SHELLは
 一般的でしょう 。

 そこで、一番ポピュラーなSHELLモデルを介護用に簡潔なフォーマットに変えて、いろいろな
 事例を当てはめて原因究明をしてみました。

 この SHELL モデルの介護への応用では、SHE の 3 つの要素を「施設側の要因」としてひとまとめに
 して、設備や福祉用具などのハードから業務手順を同じ入れ物入れてしまいました。

 なぜなら、介護というのは人が人を支援するというアナログな仕事なので、利用者と職員に関連する
 要因を重要視してほしいからです。

 また、利用者がふらついた原因に安定剤の変更が絡んでいれば、服薬の影響全般も2次要因として
 要因改善の対象として行くというように、現実の対策に直接結びつくように作ってみました。

 いろいろな営業担当者・取扱者向け解説事故を当てはめて、要因を探り出してみると 役に立つと
 思います。

□個人責任で終わらせてしまう 風土を変える

 さて、このように分析手法などと高度な手法をいくら工夫しても、現実は介護施設の原因分析は
 ほとんどが、直接原因とその当事者責任で済まされています。

 まずは、エラーの当事者の責任はさておき、事故を引き起こす間接的な要因やその要因を作り出し
 ている組織の仕組みなどを改善することが効果的なのです。

 まだまだ、施設管理者は事故を引き起こした当事者を処罰したりと 、個人責任に押し付けて済ませ
 てしまい、ミスの要因が施設の仕組みや環境に内在していることを認めようとしません。

 実はこの「事故の責任を個人に負わせて原因や再発防止策は二の次にしてしまう 」という、組織内
 での事故の扱い方は施設だけの問題ではなく 、日本企業の悪しき風土なのです。

 興味深い話が2つありますのでご紹介します。

 1つ目の話は日航ジャンボ機墜落事故の話です。

 1985 年に日航ジャンボ機の墜落事故が起きて、520名という 尊い命が失われました。

 その後、この事故の原因究明のために日本では事故調査委員会が調査を行いました。

 一方アメリカでは司法省がボーイング社の開発や整備に関わった社員の刑事責任を一切免除する
 代わりに、全ての情報を提出するよう“司法取引”を行ったのです。

 この時、日本国内では「日本人が520 名も命を落としているのに、責任を問わないとは何事だ!
 日本人蔑視だ!」 という 論調が多かったのです。

 しかしアメリカでは事故原因究明のための司法取引は当たり 前なのです。

 自分の刑事責任が問われると 分かっていて、全ての事実を公表する人が居る訳はないのですから。

 圧力隔壁と金属疲労という 言葉を私たちが皆知っているのは、ボーイング社の情報提供によって
 原因が明らかになったからなのです(ただし、隔壁下の油圧系統の欠陥については遂に明らかに
 されませんでしたが)。

 2つ目の話はJR西日本の福知山線脱線事故の話です。

 2005 年 4 月 25 日、JR西日本の福知山線で急カーブで速度オーバーをした列車が脱線事故を
 起こし、運転士を含む 107 名が犠牲になりました。

 運転士が亡くなっていたため、どのようなことが運転士自身に起こったのかは明らかになりません
 でした。

 しかし、当時過密ダイヤの中で停止線のオーバーランなどのダイヤを遅らせるミスをすると 、
 日勤教育と称して懲罰的な教育(線路周辺の清掃など)を科していたことが、報道でも問題と
 なりました。

 当時23 歳だった運転士は何度もこのミスを犯し、懲罰的な日勤教育を受けていてダイヤ遅れに
 過度に神経質になっていたと 言います。

 その後遺族は、JR西日本に対して労災事故の給付申請を行い、世間の論調は賛否両論ありました。

 本来組織的に解決すべき 問題を、個人責任にすり替えることがもたらす害は大変大きいという
 典型的な事故だったのです。

 JR西日本では、その後策定した「安全基本計画」 5 ページの事故の概念の見直しの中で次の
 ように述べています。

 「ヒューマンエラーは結果であり 原因ではないとの観点から、従来の“社員の取扱い誤り”という
 事故 区分を廃止します」と。

 組織にとって不都合な事故や事件が起こると、誰か個人の責任に押し付けて解決したように勘違い
 をして、その本質を見極めようとしない体質が、残念ながら日本の組織に染み付いているようです。

□こんな事故のミスの要因は何か?

 ここで職員のミスで起こった事故の事例を2つ挙げますので、その奥に隠れたミスを誘発する要因を
 分析してください。

 【事故事例①】

  介護職のAさんは利用者のBさんの排泄介助のためトイレにお連れしました。
  便座への移乗介助を終えると 、トイレ内のおむつストック 入れに M 様に合うサイズのオムツが
  無かったため、汚物室に取りに行きました。
  20 秒~30 秒後にトイレに戻ると 、B さんが便座の左側床に左側臥位で転落していました。
  AさんはBさんを起こして車椅子へ乗せてベッドに運び、ナースを呼び対処を要請しました。
  ナースはすぐに受診と判断し病院に搬送しましたが、左大腿骨の骨折で入院となりました。
  介護職のAさんは、事故報告書に「事故原因:見守りを怠ったこと 。
  再発防止策:介助中は側を離れないように注意する 」と記載しました。
  本当にこの対策で再発が防止できるのでしょうか?

   ・なぜ側を離れたのか?その原因は?
    この事故で起こったことだけ表面的に見れば、介護職のAさんがトイレ介助中に利用者の
    側を離れたというミスが原因です。
    しかし、なぜ側を離れたのかというミスの要因、つまりオムツの不足が起きた要因が放置
    されたままですから、同様の状況が必ず再発し他の職員が同じように側を離れるでしょう 。
    ですから、この事故の再発防止策は「オムツの不足をなくす」という“根本要因改善策”を
    講じなければなりません。
    職員にこのオムツ不足の防止策を考えてもらうと 、様々 な意見が出てきました。
    「定時にオムツストックをチェックする 」「最後の 1 枚を使った職員が補給する 」
    「便座に移乗する前にストックを確認して補給する」などです。
    最終的に採用された案は、「早朝と昼食前にオムツストックの定時チェックを行なう 」
    ことでした。
    その上、ある職員の提案によりトイレの壁に取り付けてあるオムツストックの棚の扉を
    外すことにしました。
    トイレに入るとオムツの在庫が一瞬で目に入り、いやでもオムツの数が気になります。

 【事故事例②】

  ある老健で入浴介助中に「ほんの 10 秒間だけ」浴室から出て戻ってみると 、利用者が浴槽で
  溺れていました。
  職員は泣きながら「たった 10 秒だけだったのに」と繰り返しました。
  浴槽内の利用者の見守りを怠るという大きなミスが事故原因ですから、「入浴介助中に浴室から
  出てはいけない」という規則の徹底が図られました。

   ・この職員は何のために浴室の外へ出たのか?
    良く聞いてみると 「T字カミソリが浴室に無かったので取りに行ったんです。
    MさんはT字じゃないとダメなんです」と言うのです。
    入浴介助に必要な備品が無くなれば取りに行かなくてはなりません。
    この事故の隠れた要因は「入浴介助に必要な備品をチェックするルールがなかったこと 」
    だったのです。

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医療・福祉の人材育成と危機管理

医療機関へのクレーム対策

医療機関へのクレーム対策

トラブル解決マニュアル
 医療事故対策に積極的に取り組んでいるある病院では 、事故防止のためのマニュアル類も
 充実しています 。
 このマニュアルの作成においては 、“それを読んで理念が伝わる”ものにすることを第一に
 考えたといいます 。

 実際、その種のマニュアルは読み物としても面白く 、内容がよく頭に入る 。
 逆に、何の理念もないマニュアルは 、面白くもない芝居の台本のようで 、現場の担当者
 に伝わるものが何もなく 、実用性に乏しい 。

 「トラブル解決マニュアル」の作成においても 、それは同じです 。
 ここでは 、「トラブル解決マニュアル」の総論として 、その理念あるいは 基本的な
 考え方という観点から 、厚生労働省の検討会などがまとめた 例を紹介します 。

□クオリティーインプルーブメントを視点に
 これまで 医療機関に不足していた民間企業的サービス精神を踏まえてのマニュアル作りの
 基本として、

  ・民間企業が多数参入している介護の分野でのサービスを念頭におくこと。
  ・QC( 品質管理)の概念とほぼ等しいクオリティーインプルーブメント(QI、質の
   改善)を基本的視点とする。

 この理由は、次のようなものです。
  ①これまでは、ともすると、リスクマネジメント = 損害賠償対策・ 対応というように
   とらえられがちでした 。
   しかし、特に福祉サービスにおいては 、そのように矮小化した捉え方は適切では
   ない 。

   福祉サービスにおけるリスクマネジメントは 、「より質の高いサ ービスを提供
   することによって多くの事故が未然に回避できる」という考え方で取り組むことが 、
   重要です 。

  ②「利用者が自立歩行中に転倒した」という事故があったとすると、これまでは 、
   例えば「しっかり見守っていなかった担当職員が悪い」、「利用者が声をかけずに
   勝手に移動してしまった 」といった要因分析で終わっていました 。

   このような要因分析からは 、例えば「担当職員を呼んで厳重に注意した」といった
   防止策しか出てこないので 、また同じような事故が起こってしまう。
   つまり、同様の事故を防ぐには、その利用者の状態像を的確に把握するとともに、
   それに対して実施するサービスの内容を明確にすることです。

   言い換えれば、利用者全体をマスとしてとらえてきた福祉サービスを、利用者一人
   ひとりに着目した個別的なサービス提供へと変えていくことです 。
   そのための取り組みとは 、まさに、クオリティーインプルーブメント そのものです 。

□QIからMQI
 QIの概念は 、医療界にもすでに導入されている 。
 例えば 、何らかの形でQC あるいは TQM( Total Quality Management、総合的品質
 管理、総合的質経営、 かつてTQCと呼ばれたもの )に取り組んでいる医療機関は 、
 200以上あるでしょう 。

 また 、QCあるいはTQMに取り組んでいる医療機関などが集まり 、医療の TQM推進協議会 
 という組織が平成11年1月に設立されている 。
 一般に 、いわゆるQCサークル活動を活発に行っていれば TQM(総合的品質管理、総合的
 質経営)である、と思われがちです 。

 しかし 、それは大きな間違いである 。 
 すなわち 、QCサークルは 、現場の問題は解決できるが 、組織的な問題には対応できない 。
 また 、“ 仲良しクラブ ”的なサークルあるいは強制的参加型のサークルであっては、
 いけない 。

 あくまでも 、自主的なチームであることが望まれる 。
 つまり 、TQMの「T」(トータル)は 、全員という意味ではなく 、全組織を挙げてという
 ことなのです 。

□苦情解決体制を整備する
 「福祉サービスにおける危機管理( リスクマネジメント )に関する取り組み 指針 〜
 利用者の笑顔と満足を求めて〜」では 、苦情解決体制を整備するにあたってのポイント 、
 苦情対応の基本原則について、具体的に述べている 。

 まず、苦情解決体制を整備するにあたっては 、「苦情はサービスの質の向上に向けた
 取り組みを促進するための貴重な情報源となる」、という発想をする 。
 また、職員の創意工夫や提案を大切にすることを前提に 、次のような取り 組みをする 。

  (1)苦情を収集するチャンネル を多角化する 。
   例えば 、苦情受付担当者や、第三者委員のほか、意見箱の設置、利用者や家族との
   懇談会、匿名性を確保したアンケートなどを実施する。
  (2)苦情情報の共有化を図る 。
  (3)「 声なき 声」を積極的に聞き出す。
  (4)苦情内容を十分に記録する。
  (5)苦情内容を分類・整理する。
  (6)苦情内容の詳細な検討、多角的な要因分析をする 。
  (7)改善策や対応策の立案をする。
  (8)改善策・対応策を実施し、検証する。

□苦情対応の基本原則
 苦情対応の基本原則として 、『公平性 公正性 迅速性 透明性 応答性』の5 つを挙げて
 います。
 それぞれ、ポイントは次のとおりです。

 【公平性】
  対応の基本は、利用者の立場に立つことである。
  情報の非対称性、交渉力の不均衡性、判断能力の不十分性などの面において、利用者は、
  施設と完全に対等な関係となっていないことがある 。
  それを認識しておく必要がある 。

 【公正性】
  第三者委員という客観的かつ公正な存在が、解決の方向性を正当化することになる 。
  この第三者委員は、事業者から選任されているという側面、利用者の立場に立つ
  ことが期待されているという側面が均衡していることによって、公正さを高めていく
  ことになる 。

 【迅速性】
  苦情を受けた際に「 後で調べます 」という対応をすると、ますます利用者の感情を
  損ねることになりかねない 。
  つまり、対応の迅速さの程度によって、利用者との信頼関係形成に大きな差が生じる
  ことがある。
  より迅速に対応することによって、利用者との円滑なコミュニケーションがとれて、
  一層の信頼関係を形成することができる 。

 【透明性】
  プライバシーを侵害しない範囲内で苦情情報を公開するなど、組織として 対応している
  という姿勢を示すことが大切です。
  苦情の隠蔽、苦情の申立人の詮索などは、厳に慎まなければならない 。

 【応答性】
  苦情は「利用者の 声」としてとらえ、有効なコミュニケーションの手段だと考える
  ようにする。
  苦情に対する応答、双方向のやり取りを継続的に行うことは、サービスの質の向上に
  つながる 。

□事故に対応する際の基本姿勢
 その苦情が事故に基づくものであるなど、事態が深刻な場合もある。
 事故の場合における当初の対応の原則は、次のようなものである 。

 ◎当事者意識を持ち、個人プレーでなく、組織として一体的な対応する。
 ◎事実を正確に整理・調査し、それを踏まえて対応する 。
  この場合、正確な記録が残っていることが重要であり、日頃のサービス提供記録の他、
  事故が発生した際にどのような記録を整備するかについて、ルール化しておく。
 ◎事故発生時の対応責任者をあらかじめ決めておくなど、窓口を一本化しておく。
  また、十分なコミュニケーションを図りながら対応し、訴えの内容を十分に見極める 。

 以上は、介護など福祉サービスにおける苦情対応のポイントとして厚生労働省の検討会が
 まとめたものだが、ほとんどそのまま医療に応用できる。

 特に介護保険制度に積極的にかかわっている医療機関においては、重要な指針となる
 でしょう 。
 そこで述べられていることを柱として、現場の者が中心となってマニュアルを作って
 いけばよい。

 また、マニュアルの作成において大事なのは、医療の質を向上させる(QI、MOI)という
 基本的な視点を忘れないことです。

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医療・福祉の人材育成と危機管理

医療機関の緊急時マスコミ対応

 医療機関の緊急時マスコミ対応

■危険と危機の違い  
 一般的に、
 「危険」の意味は
   1.「生命に関わったり、事故や災害などが生じる可能性があること」で、直接
     身に降りかかる災いのこと。
   2.「悪い結果を招く可能性があるものごと」。

   「危機」は「悪い結果をもたらす突発的な出来事のこと」。
   このままいけば悪い結果につながると誰もが予測できる不安定なできごとや
   状態に陥ることを言います。

 昨今の医療事故や医療過誤の頻発は目に余るものがあります。
 「医療事故事例集」(厚生労働省)
 関係各方面に送付し、リスクマネジメントの重要性を呼びかけています。

 ところで、リスクマネジメントという言葉はよくいわれますが、医療界はこ のリスク
 問題に、システムとして対応してきたでしょうか。
 個々への注意の呼びかけはあったでしょうが、リスクを経営課題として取り組んできた
 のでしょうか。

 「人は誰も過ちを犯す」という考えを、誰も否定することはできません。
 この原則に沿った教育訓練が行われてきたでしょうか。
 リスクマネジメントは「危険」を「危機(危険の発生した状況)」に至らせない危機予防
 運動、言い方を変えれば、医療の品質をより良いものに高めていく「品質管理運動」と
 いえます。

 リスクマネジメント論の冒頭に「リスクの確率」という言葉があります。
 正三角形を底辺から上辺に横に三等分します。
 リスクの要因の総数が330として、一番広い底辺の300の要因が「ヒヤリ、ハット」、
 真中の部分29の要因が「事故」、残りの最上部分1の要因が「死亡、重大事故」と分類
 されています(ハインリッヒの法則)。

 民間企業はこの最上部分の「死亡、重大事故」の追放をめざしてリスクマネジメント体制の
 確立を急いでいますが、病医院の場合は、噂や口コミで事故が大きくなるだけに
 「29件の事故」をも追放の対象とする必要があります。

 そのためには300件の「ヒヤリ、ハット」や、それに含まれないもっと小さなリスク要因
 (ハザード)を各職場でキメ細かく拾い上げ、分析・検討して「危険」を「危機」に
 いたらせない医療の品質管理運動を行っていきましょう。

 病医院はいつも危険にさらされています。
 リスクと隣り合わせで動いていることになります。
 医療は人の命を扱う職業だけに、細心の注意が必要です。


□広報上の緊急事態 
 広報上の緊急事態ということもあります。
 公表したくない情報や公表できる状況にない情報が記者にキャッチされ、取材が開始される
 という場合があります。

 それが世に知られたくない、知られれば大きな問題に発展しかねない時、 広報上の緊急
 課題といえます。
 広報上の緊急事態にはいくつかのケースがあります。

 記者は通常、事件の第一報を警察なり消防署から聞くわけで、これを確認するため病医院
 には電話が殺到します。
 責任者が一人で対応できず、対応の遅さに対する苦情や、責任者が誰なのか不明で、取材の
 電話をタライ回しにされたという苦情が多く聞かれます。

 これが単に苦情で終わればいいのですが、記者の感情を刺激して、過激な一行の記事から
 問題が大きくなることもあります。
 また、企業には新製品、新規事業計画、新人事など、企業秘密に属する情報 があります。

 病医院にも公表したくない情報、知られたくない情報は少なくありません。
 ところが、記者の取材によって事前に情報がキャッチされ、取材の申し込みがあったり、
 あるいは取材もされないままに突然報道されてしまうこともあります。

 記者の取材活動は基本的には報道の自由に裏付けされた正当なものですから、その行為
 自体を非とすることはできません。
 内容に不満がある場合は抗議するとか、記事の訂正を文書で要求すべきです。

 また、事実に反する悪いニュースとして報道されてしまうこともあります。
 この場合も文書で記事の訂正を促し、何故こういうことになったのか、その理由を文書で
 もらうようにしましょう。

 これらの対策としては、情報管理と機密の保持を厳密に行うしかありません。
 これと記者とのつき合いを上手に調和させるのも広報の技術といえるでしょう。 
 記者会見などでは、大切なことは事実の確認を必ず取ること、堆測や第三者 の伝聞を自分の
 発言としないようにしましょう。

□適切なマスコミ対応を
 病医院で事故が起きたり、社会的不祥事が発生した場合、対応次第によって 大きな社会
 問題に発展してしまう場合があります。
 緊急事態が発生した場合、最初に適切なマスコミ対応をすることが大切です。

 これを間違えると事故の原因や被害の内容について、事実と違う報道をされるなど病医院の
 大きなイメージダウンになりかねません。 
 このためには常日頃、次の点について留意しておくとよいでしょう。

  ①マスコミ対策の担当者を決めること。
   基本的には院長がその任にあたり、広報マンは補佐官となります。
   緊急事優に関する一切の情報発表については、広報マンが院長と同席して
   記者発表に臨むとか、院長代理としてこれを行います。
  ②発表する内容は、事実関係の裏付けをとること。
   そして、WHAT(何が)=緊急事億の種類、WHEN(いつ)=時刻、
   WHERE(どこで)=発生地点および施設名、WHY(なぜ)=事故の発生理由、
   HOW(どのように)=現在の状況とその応急対応、そのほか人身事故などの
   場合、氏名、年齢、住所、所属などを関係部署と連絡を取り合い、事実を確認
   して発表します。
   プライバシーに関する配慮も必要です。

 発表の際、言い開違いや言い落としがないよう、メモにしたのちに発表するとよいでしょう。
 その時点で、不明なものはあくまでも「不明」と発表することも大切なことです。 
 電話による問い合わせにも即座に応じ、不明な点は、後日連絡を取るために、相手の
 電話番号を控えておくようにしましょう。 
 広報担当も責任者も決めず、また電話をタライ回しにして、マスコミの不評を買い
 イメージダウンを大きくした例は数多くあります。
 日頃から対応のトレーニングをしておきたいものです。

□棄てたいマスコミヘの被害者意識
 ある大手新聞社の医療担当記者は、「マスコミと病医院との関係は、今後も大変冷ややか
 なものになるだろう」と指摘しました。
 また、「新聞社の立場は不偏不党という基本的立場にありながらも、患者サイドもしくは
 行政サイドに立つことはあっても、病医院を守るサイドには立ちにくい」とも言って
 います。 

 この原因は医療界の経営体質、あまりにも多い不祥事件にあります。
 たしかに、いまのマスコミは医療界を追及する立場にあるようです。
 最近、マスコミヘの不信の念が強いといわれています。
 この場合、不信というより被害者意識といったほうが当たっているかもしれません。

 つまり、マスコミが加害者で、病医院が被害者という構図になるわけです。
 これではダメです。
 医療界再出発の第一歩は、病医院関係者の自己批判から始めなければならないのです。
 病医院は病んだ人の手助けをする弱者保護の機関だったはずです。

 しかし、病医院はこれまでこの弱者保護の視点を見失う傾向になかったでしょうか。
 日常業務を終えてから、病医院経営者として、マーケテイング的視点から弱者(患者)とは
 何かを原点に立ち返って考えたことがあるでしょうか。

 いまこそ、病医院は地域住民を中心とした弱者保護という視点で経営戦略を立て直す
 べきです。
 この視点から考えていくと、明日の病医院経営は明るくなります。

 地域住民の要請に応える健康情報サービス機関として地道な日常活動を続けていけば、
 病医院とマスコミの関係は良好なものになっていくでしょう。
 マスコミと病医院は弱者保護という点で、本来握手できるはずです。
 病医院関係者のマスコミに対する被害者意識からは、前向きのものは何も生まれてこない
 ことを心に銘記しましょう。

□マスコミの病医院への目は巌しい  
 これまでマスコミは、医療界を大切な領域と考え、意図的なキャンペーンの 対象外として
 きました。
 病んだ人の回復の手助けをする施設であるだけに、例外とされてきたわけです。  

 ところが近年のマスコミは、医療界に懐疑的です。
 近年の医療事故や医療過誤は目に余るものがあります。
 マスコミは、これらの事件や事故は医療界全体の体質に起因すると考えています。

 病医院経営のアブノーマルな体質を危険視しているのです。  
 このままでいくと病医院の経営は悪化し、その結果、地域住民は劣悪な医療 サービスしか
 受けられなくなるのではないかと、マスコミは不安視しています。 

 病医院はこれからも諸々の社会的事件を生みかねないとして、医療界を‘‘監視の日’’で捉えて
 います。
 医療界に不穏な動きがあれば、これを徹底的にキャンペーンとして追及していく姿勢を
 強めています。

 すでに述べたように、現在の病医院経営は、医師一人の力では成立しません。 
 医師中心の病医院経営から、専門家に経営を任せる、あるいは有能な人材に経営を依頼
 することが病医院を活性化させる方法です。  
 そうなれば、マスコミの見る目も違ってくるでしょう。

 極論するならば、マスコミの批判に耐えられる経営体質に改善しなければならないとも
 いえます。 
 とするならば、広報を重視する経営がおのずと必要となってくるはずです。

 たとえばリクルート事件は、神奈川県川崎市での疑惑を朝日新聞社の一記者 が追及して、
 日本の政界全体を混乱に陥れた社会的事件でした。
 医療界はリクルート事件を他山の石として、原点に立ち返りたいものです。

□「禍い転じて福となす」の心を大切に 
 ある病院で火災事故が発生しました。
 火災発生時刻は、夜9時35分。
 鎮火した時には第二痛棟は全焼。
 幸いにして入院患者35名は全員無事避難し、他の病棟への類焼はありません。

 損害額は5000万円ほどとのこと。
 原因はタバコの火の不始末と見られています。
 この病院の場合、死傷者が出なかったことは不幸中の幸いといえます。
 ではなぜ死傷者が出ないですんだかを、広報マンは分析しておく必要があります。 

 出火して早い時期に、医師、看護師が全員をスピーディに誘導でき、事なきを得ました。
 避難にあたっては、患者Aさんが献身的に全員を励ましたことも功を奏したといえます。 
 これは日頃の火災訓練の賜物で、病院の防火対策の良さをマスコミにPRするチャンスに
 なったわけです。

 また、避難時の患者Aさんの行動も特筆すべきもので、これも合わせてマスコミに強調する
 必要があります。 
 また、原因をよく調べて、今後このようなことが二度と起こらないようにしたいという
 ことも強調すべきです。 

 なぜなら、マスコミ関係者は基本的にはチャレンジする姿勢には拍手を贈る革新的気質を
 持っていて、多少失敗しても、新しい前向きの姿勢には好意的だからです。
 事故が発生したあと、マスコミが求めるのは事態解決のための具体策です。

 火災が報道された場合、事後の具体策まで含めて報道したほうが印象が良いことは明らか
 です。 
 このように緊急時のマスコミ対応には事実関係のチェック、お詫び、反省、それに具体的
 対応策の提示が求められます。

 起きてしまったことは仕方がないとして、この経験を広報にどう清用するか、今後の
 経営に生かしていくか。
 「禍い転じて福となす」の心を持つことはよいことです。

□緊急事態に陥る要因を洗い出す 
 病医院にとって緊急事態とは何を指すのでしょう。 
 一般的に緊急事態とは、不測の災害、事故・事件を言います。
 しかし、患者や 地域住民が病院に抱いている不満や批判を新聞に投書した場合なども、
 病医院のマイナス材料となる緊急事優に発展しかねません。
 そういう意味では、どんなささやかなトラブルも軽視することができないといえます。

 それでは、病医院にとって緊急事態になる要因とほ何でしょうか。 
 かつてF産婦人科病院が乱診、乱療を継続的に行って社会事件になったように、手術、
 検査、診断、投薬など医療ミスによる緊急事態がその代表的なものです。
 これが死亡事故にまで発展して、法廷闘争にまでもつれ込むとやっかいなことになります。 

 次は火災、爆発、薬物などによる災害。
 これも地域住民を巻き込むおそれがあるだけに、大きな社会事件に発展する可能性が
 あります。
 地震や風水害などの天災も大きな事件につながります。 
 さらに病医院関係者の犯罪。

 たとえば、職員の業務上横領や自動車事故、医師と看護師との男女関係のもつれなどが
 社会事件、刑事事件に発展した場合は、緊急事態として対応すべきです。 
 また、労使間のトラブルなど労働争議も大きな事件に広がるおそれがあります。
 それに、経営不安から来る経済的な危機は、まさしく緊急事態と言えるでしょう。

 職員にしかわからない不正、スキャンダルなども注意すべき項目です。 
 緊急事態への対応を1つ間違えると、柄医院の存亡をも左右しかねない重大な問題に
 なります。 
 マスコミは緊急事態が発生した場合、病医院の一挙手一投足を注意深く見ています。
 心して対処しましょう。

□緊急時の6つの発表情報  
 病医院がマスコミに対応する場合、発表する情報の内容は次の6項目に一応 限定すべきです。
 緊急事態に対してはマスコミも興奮状態なので、数多くの情報を提供するより、緊急事態
 に関連の深い情報に限定するほうがいいでしょう。

  ◎何が起こったのか、災害の種類はどんな内容か。
   例えば火災、浸水、人身傷害、地震などによる病棟倒壊。
  ◎いつ起こったのか、いつ発生したのか、誰がいつ発見したのか。
  ◎どこで発生したのか、緊急事態が発生した地点、院内ならどこの個所で発生したか。
  ◎現在の状況はどうなっているのか、まだ緊急事態にあるのか、危険は去ったのか、
   どのような応急対策が取られているか。
  ◎人身傷害の有無は、人数と怪我の程度、種類、氏名、年齢、所属、きわめて軽症
   の場合以外は、医師の診断があるまでは症状について触れないほうが よい。
  ◎損害を受けた施設があれば具体的に発表、損害を受けた施設の場所、金額、通院
   患者と入院患者への影響、病医院業務への具体的な影響 など

 を発表します。 
 推測を交えなければ言えない内容については、発表すべきではありません。
 これは事実を隠そうということではなく、あくまでも情報の正確を期すということです。 
 発表を控えた部分は、事実関係を確認して早い時点でマスコミに発表すると約束しましょう。

 類推や推測で発表して、後から取り返しがつかなくなったケースはよくあります。
 確実に裏づけを取った事実のみを発表しましょう。 
 後日発表するものとしては、損害の程度と金額の見積り、復旧措置とそれに要する期間、
 病医院の本来業務への影響とその対策、関係者への補償問題などが挙iヂられます。

□情報公開は時代の要求 
 2001年3月に第四次改正医療法が施行され、広告規制が緩和されました。
 今後も医療界の規制緩和は否応なく進んでいくでしょう。
 広告の規制緩和とはどういう意味があり、将来どう読むべきでしょうか。

 改正医療法では、合計13項目が広告可能事項として追加されています。
 その主なものは次のとおりです。
  ◎日本医療機能評価機構が行う審査を受けた結果、認定を受けた旨。
   個別具体的な審査項目は広告できません。
  ◎医師・歯科医師の年齢、性別および略歴(生年月日、出身校、学位、医籍登録
   年月日、勤務した医療磯尉(診療科、期間を含む)等)
  ◎診療録その他診療に関する諸記録に係る情報を提供することができる旨
  ◎費用の支払方法及び領収に関する事項(使用できるクレジットカードの種類、
   費用の内訳の明細に関する事項等) 

  医師の経歴がある程度詳しく表示できるのは一つの前進ですが、医師の経歴の中に
  「ヘルニアの内視鏡手術に400の症例を経験」といった踏み込んだ表現まではできない
  とされています。

  患者や家族にとっては、そこが知りたいところなのです。 
  中途半端な規制緩和としかいいようがありません。 
  今後、いちばん問題になるのは広告表現の問題。

  広告表現やアイキャッチャーなどについて、日本医師会や厚生労働省からの注文は
  多いと考えなければならないでしょう。
  ここで留意したいことは、広告は誰のためのものかという問題です。

  病医院サイドのメリットだけではありません。
  病医院の情報公開は、時代の要請から時代の要求に変わってきています。
  こうした点を考えると、医療界の規制緩和は自由競争への一本道であり、広告もまた
  同じ道を走っています。 

  自由競争の道、それは試練の道ですが、医療人にとっての道はこの道しかありません。 
  「在宅マーケットをどう掘り起こしていくか」「市町村との連携のなかで健康管理・
  健康増進業務にどう関わっていくか」「異業種の知恵と企画をどう活用していくか」
  「一時予防策の具体化のために異業種や他の病医院とどう提携していくか」病医院の
  トップが、勇気を持って決断しなければならない経営課題は少なくありません。

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医療・福祉の人材育成と危機管理

介護職員におけるヒューマンエラー

介護職員におけるヒューマンエラー

 介護施設におけるサービス提供の基本は、利用者やその家族の安心・安全を確保すること
 であり、そのためには、利用者の介護事攻防止と万一事故が発生してしまった際の対応
 までを考慮したリスクマネジメント体制の確立が必要です。 

■ミスの要因分析
 介助中にミスをすると必ず職員の不注意と原因に書かれるが…。
 どんな仕事でも注意力を絶やさずに緊張感を持って仕事をしてもらうことは大切なことです。
 しかし、注意力を高めることが事故防止につながるかというと 、それは古い事故防止活動
 の考え方です。

 従来は、「職員個々の注意力を高めればミスが減り事故も減る」と考えられてきましたから、
 「もっと 慎重に」「もっと 注意深く」と連呼していたのです。
 しかし、ヒューマンエラーの研究者によれば「人は注意力が足りないからミスをする
 のではなく 、人にミスを犯させる要因があるからミスを犯すのであり 、ミスの要因を
 除去しなければ何度も同じミスをする」のだそうです。

 すると 、「もっと 慎重に」「もっと注意深く」という注意力高揚型のマネジメントは、
 ただの気合論でしかないということになります。
 例えば、ベッドから車椅子への移乗介助中に利用者がバランスを崩して転倒したのであれば、
 なぜバランスを崩したのかその要因を究明して、これを改善する努力をしなくてはなり
 ません。

 たとえば、この事故を引き起こした間接的な要因として次のようなものが挙げられます。
  ①ベッドが高すぎて端座位で足が床に着いていないので、抱え込んだ時にバランス
   を崩す。
  ②マットレスの端がベッド枠とずれているとお尻が滑り落ちるカタチでバランスを崩す。
  ③上半身を腕で抱え上げるような“吊り上げ式移乗介助”では、ムリな力がかかり
   バランスを崩す
  ④車椅子のアームレストが跳ね上げ式でない場合、利用者のお尻を高く上げようと
   してバランスを崩す。

  他にも、早朝であれば前夜の睡眠剤の影響や脱水・低血糖などでもふらつきが起こり
  ますし、臥位の状態から急に端座位にしてすぐに移乗すれば、起立性低血圧でふらつき
  も起こります。
  このように、一見職員のミスが原因に見えるような事故でも、実は様々な要因が絡んで
  ミスにつながっているケースが多いのです。

  このように、「ミスを引き起こす要因がある 」という考え方で、再検証すると介助ミス
  の要因で最も多いのが、環境要因であることが良く分かります。
  つまり 、無理をせざるを得ないような環境で無理をして介助をしていれば、いつか
  ミスにつながるのです。

□ヒューマンエラーの要因分析手法
 移乗介助中に利用者を転倒させたら、誰が見ても明らかに“介助ミス”と考えてしまいます。
 しかし、この介助ミスを「なぜこのようなミスが起きたのだろう?ミスが起きた要因は
 何か?」と考えて様々な角度から分析し隠れたミスの要因を改善すれば、ミス(ヒューマン
 エラー)の防止につながります。

 このような多角的な原因分析の手法のうち、ヒューマンエラーの要因分析については様々な
 手法があります。

  <ホーキンズのSHELLモデル>
   S:Software(ソフトウェア)手順書やマニュアル、規則など
   H:Hardware(ハードウェア) 機器や機材、設備、施設の構造など
   E:Environment(環境) 温度や湿度、照度など
   L:Liveware(当事者) インシデントに関与した本人
   L:Liveware(当事者以外) 当事者以外のチーム、同僚など
   (KLMオランダ航空フランク・H・ホーキンズ機長が提唱したSHELLモデル)

  <4M4(5)E分析手法>
   事故の具体的要因をあらわすもの
    4M:「Man」(人間)
       「Machine」(物、機械)
       「Media」(環境)
                  「Management」(管理)

   事故の対策をあらわすもの
    4(5)E:「Education」(教育)
         「Engineering」(技術・工学)
         「Enforcement」(指示・強化・徹底)
                        「Example」(模範・事例)
                        「Environment」(環境:社内・船内組織など)

  いずれもどのような側面で原因を捉えるかが異なるだけで、業種や業務の特性に
  よって異なります。
  ただし、4M4Eはどちらかと言うとメカニカルなシステムのエラーなどに当てはまり 、
  SHELL は一般的でしょう 。

  そこで、一番ポピュラーなSHELLモデルを介護用に簡潔なフォーマットに変えて、
  いろいろな事例を当てはめて原因究明をしてみました。
  このSHELLモデルの介護への応用では、SHE の3つの要素を「施設側の要因」として
  ひとまとめにして、設備や福祉用具などのハードから業務手順を同じ入れ物に入れて
  しまいました。

  なぜなら、介護というのは人が人を支援するというアナログな仕事なので、利用者
  と職員に関連する要因を重要視してほしいからです。
  また、利用者がふらついた原因に安定剤の変更が絡んでいれば、服薬の影響全般も
  2次要因として要因改善の対象として行くというように、現実の対策に直接結びつく
  ように作ってみました。
  いろいろな事故を当てはめて、要因を探り出してみると役に立つと思います。

□個人責任で終わらせてしまう
 風土を変えるさて、このように分析手法などと高度な手法をいくら工夫しても、現実は
 介護施設の原因分析はほとんどが、直接原因とその当事者責任で済まされています。
 まずは、エラーの当事者の責任はさておき、事故を引き起こす間接的な要因やその要因を
 作り出している組織の仕組みなどを改善することが効果的なのです。

 まだまだ、施設管理者は事故を引き起こした当事者を処罰したりと 、個人責任に押し付けて
 済ませてしまい、ミスの要因が施設の仕組みや環境に内在していることを認めようと
 しません。
 実はこの「事故の責任を個人に負わせて原因や再発防止策は二の次にしてしまう 」という 、
 組織内での事故の扱い方は施設だけの問題ではなく 、日本企業の悪しき風土なのです。

 興味深い話が2つありますのでご紹介します。
 1つ目の話は日航ジャンボ機墜落事故の話です。
  1985 年に日航ジャンボ機の墜落事故が起きて、520名という尊い命が失われました。
 その後、この事故の原因究明のために日本では事故調査委員会が調査を行いました。
 一方アメリカでは司法省がボーイング社の開発や整備に関わった社員の刑事責任を一切
 免除する代わりに、全ての情報を提出するよう“司法取引”を行ったのです。

 この時、日本国内では「日本人が520名も命を落としているのに、責任を問わないとは
 何事だ!日本人蔑視だ!」という論調が多かったのです。
 しかしアメリカでは事故原因究明のための司法取引は当たり前なのです。
 自分の刑事責任が問われると分かっていて、全ての事実を公表する人が居る訳はない
 のですから。

 圧力隔壁と金属疲労という言葉を私たちが皆知っているのは、ボーイング社の情報提供
 によって原因が明らかになったからなのです(ただし、隔壁下の油圧系統の欠陥に
 ついては遂に明らかにされませんでしたが)。

 2つ目の話はJR西日本の福知山線脱線事故の話です。
 2005 年 4 月 25 日、JR西日本の福知山線で急カーブで速度オーバーをした列車が
 脱線事故を起こし、運転士を含む 107 名が犠牲になりました。
 運転士が亡くなっていたため、どのようなことが運転士自身に起こったのかは明らかに
 なりませんでした。

 しかし、当時過密ダイヤの中で停止線のオーバーランなどのダイヤを遅らせるミスを
 すると 、日勤教育と称して懲罰的な教育(線路周辺の清掃など)を科していたことが、
 報道でも問題となりました。
 当時23 歳だった運転士は何度もこのミスを犯し、懲罰的な日勤教育を受けていてダイヤ
 遅れに過度に神経質になっていたと言います。

 その後遺族は、JR西日本に対して労災事故の給付申請を行い、世間の論調は賛否両論
 ありました。
 本来組織的に解決すべき 問題を、個人責任にすり替えることがもたらす害は大変大きい
 という典型的な事故だったのです。

 JR西日本では、その後策定した「安全基本計画」5 ページの事故の概念の見直しの中で
 次のように述べています。
 「ヒューマンエラーは結果であり 原因ではないとの観点から、従来の“社員の取扱い誤り”
 という事故区分を廃止します」と。

 組織にとって不都合な事故や事件が起こると、誰か個人の責任に押し付けて解決した
 ように勘違いをして、その本質を見極めようとしない体質が、残念ながら日本の組織に
 染み付いているようです。

□このような事故のミスの要因は何なのか?
 ここで職員のミスで起こった事故の事例を2つ挙げますので、その奥に隠れたミスを
 誘発する要因を分析してください。

 【事故事例①】
  介護職のAさんは利用者のBさんの排泄介助のためトイレにお連れしました。
  便座への移乗介助を終えると 、トイレ内のおむつストック入れにM様に合うサイズの
  オムツが無かったため、汚物室に取りに行きました。
  20 秒〜30 秒後にトイレに戻ると 、Bさんが便座の左側床に左側臥位で転落して
  いました。

  AさんはBさんを起こして車椅子へ乗せてベッドに運び、ナースを呼び対処を要請
  しました。
  ナースはすぐに受診と判断し病院に搬送しましたが、左大腿骨の骨折で入院となり
  ました。

  介護職のAさんは、事故報告書に「事故原因:見守りを怠ったこと 。
  再発防止策:介助中は側を離れないように注意する 」
  と記載しました。
  本当にこの対策で再発が防止できるのでしょうか?

   ・なぜ側を離れたのか?その原因は?
    この事故で起こったことだけ表面的に見れば、介護職のAさんがトイレ介助中
    に利用者の側を離れたというミスが原因です。
    しかし、なぜ側を離れたのかというミスの要因、つまりオムツの不足が起きた
    要因が放置されたままですから、同様の状況が必ず再発し他の職員が同じように
    側を離れるでしょう 。

    ですから、この事故の再発防止策は「オムツの不足をなくす」という“根本要因
    改善策”を講じなければなりません。
    職員にこのオムツ不足の防止策を考えてもらうと 、様々な意見が出てきました。
    「定時にオムツストックをチェックする 」「最後の 1 枚を使った職員が補給
    する 」「便座に移乗する前にストックを確認して補給する」などです。

    最終的に採用された案は、「早朝と昼食前にオムツストックの定時チェックを
    行なう 」ことでした。
    その上、ある 職員の提案によりトイレの壁に取り付けてあるオムツストックの
    棚の扉を外すことにしました。
    トイレに入るとオムツの在庫が一瞬で目に入り、いやでもオムツの数が気に
  なります。

 【事故事例②】
  ある老健で入浴介助中に「ほんの10秒間だけ」浴室から出て戻ってみると 、利用者が
  浴槽で溺れていました。
  職員は泣きながら「たった10秒だけだったのに」と繰り返しました。
  浴槽内の利用者の見守りを怠るという大きなミスが事故原因ですから、「入浴介助中
  に浴室から出てはいけない」という規則の徹底が図られました。

   ・この職員は何のために浴室の外へ出たのか?
    良く聞いてみると「T字カミソリが浴室に無かったので取りに行ったんです。
    MさんはT字じゃないとダメなんです」と言うのです。
    入浴介助に必要な備品が無くなれば取りに行かなくてはなりません。
    この事故の隠れた要因は「入浴介助に必要な備品をチェックするルールが
    なかったこと 」だったのです。

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医療・福祉の人材育成と危機管理

経営改革は事務部門の活性化から

医療機関の経営改革は事務部門の活性化から

■日常業務の改善や現場の意識改革
 現在、病院の機能分化に応じた医療経営や患者ニーズの多様化に応える診療制度が求められ
 ています。
 言い換えれば、病院や医院を中心とした医療サービス事業は新たな政策転換の岐路に
 立っています。

 そこで今後の医療経営には、思い切った合理化戦略や経営転換策が求められていることは
 いうまでもありません。
 もともと、病院では、日常の診療業務を中心として医療サービスを提供しています。
 そして、医療サービス事業は、診療の質向上、効率化と精度向上、経営の効率化などが、
 相乗的に機能してこそ、健全な経営体質を生みだすものです。

 いまこそ、こうした医療経営の基本テーマに立ち戻り、新たな医療経営に着手して
 いかなければ、勝ち残ることができない時代を、すべての医療機関は迎えつつあるのです。
 そのためにはどのような視点で、これからの経営を考えていけばよいのでしょうか。
 マクロ的な経営方針の明確化はもちろんのこと、今後は病院業務を日常レベルで見直し、
 合目的な患者指向のサービスを目指すことが最も重要なテーマになります。

 つまり、
  ・診療技術の練磨および診療体制の充実を無駄なく
  ・部門間の情報の共有化や連絡業務の円滑化を早急に
  ・業務ミスの解消や事故リスク対策を組織的に
  ・それらを、全体業務の効率化とともにをスタッフ全員の指針とする
 ことなどを、基本方針として全員で推進していくことが必要条件となります。

 さらに、そうした業務改革を進めるために、スタッフ全員が共通の価値観を持つことが
 必要になります。

 すなわち、医療者として、各人が
  ・医療における付加価値とはなにかを追求、創造し
  ・患者をつねにサービスの中心に置き
  ・医療体制と経営における長期的目標を明確にして
  ・診療行為に対して正当な評価(リスクマネジメントも含めて)を下しつつ
  ・経営に参画していく意識を持ち続ける
 ことを理念として共有していくことが条件になります。

 そして、そうした理念形成を前提に、医療における市場原理の確立、すなわち患者を
 消費者として位置付けて対応することを通じて、実効のある経営戦略を組み直していく。
 それも、そのスタンスを、日常業務の合理化・効率化に直結するかたちで形成していく
 ことが、これからの医療機関に求められる経営指針となるのではないでしょうか。

 そうした日常業務の改善によって、どのような効果を生むのか。
 医療機関におけるスタッフ部門の観点から、ここでは 、医事部門における意識改革や
 日常の業務改善の例をもとに考察してみたいと思います。

□事務部門は診療の最終統括部門
 我が国の医療保険制度では、医療機関がどんな優れた医療を提供しようとも、それが
 診療報酬という形で反映されなければ、病院の経営は成り立ちません。
 当たり前のことではありますが、こうし た基本認識や原点に対する意識は、確実に医療
 マネジメントレベルに直結するものです。

 すなわち、医師や医療スタッフの経営参加意識やコスト意識のない病院では、少なからず
 こうした認識を離れてしまい、(偏狭な)独善的な、ある意味では自らの職業倫理のみ、
 職業意識だけで医療に従事しているケースが多いのも事実です。

 例えば、診療報酬の想定される未請求についても、一般的に返戻率は0.5%が限度と
 いわれますが、それにしても収入2億円レベルの請求額なら約100万円となってしまい、
 それは一医師の給与分ともいえる金額となります。
 そうした事実を、具体的に認識できない医事課のスタッフでは、職業意識があるとは
 いえません。

 まして、スタッフの経営参加感覚など持ちたくとも持てないことになってしまいます。
 また、診療内容の理解度ひとつをとっても、医事部門のプロとも言うべきスタッフなら、
 カルテの診断病名やそれに 対する薬剤の処方、疾患臓器の働き、診断内容程度なら、
 本来は理解すべき事柄といえます。

 さらに、関連した検査や手術の内容といった看護担当者レベルまでの理解は、カルテを
 チェックしレセプトを作成しなければならない部門である医事課では、経験的に判断
 できなければなりません。
 もし、できなければ 経営責任者はそうした知識を研修させていく必要があるでしょう。

 言い換えれ ば、そうした仕事は医事課の日常業務であり、それが診療の最終統括、評価部門
 である医事課のスキルにならなければ、病院経営はなりたたないといえるでしょう。

事務部門のマネジメントデータが経営を左右する
 医事課の仕事として、経営基礎資料の作成が重要になっています。
 すなわち、「病院の診療内容が経営目標に対して妥当性があるか」を判断する診療データを
 提供することが、前述のレ セプト作成以上に、医事課スタッフの主たる役割になって
 います。

 例えば、日常の診療行為を、入院、外来、在宅という風に分類して、
  1)診療科別  2)医師別  3)疾患別
 などで、単価や件数、生産性、費用対効果(治癒率)などを収集、分析して、期末や
 月末に診療データを経営者に提供することは、パソコン等の普及により多くの病院で
 行われています。

 しかし、これだけでは、現場を統制することはできません。
 ある施設では、この集計を1カ月に3回行っているといいます。
 つまり、レセプトの集計を10日ごとのタイムスタディとして実施して、院内の経営
 会議に提出し、医師別収益の上昇や下降や検査件数の出来高、外来の日当点の推移などの
 変動指標を、リアルタイムに報告しているのです。

 この方法で、医師に対するモチベーションを高めているというのです。
 通常、病院の経営会議は半期や通期で実施されていることが多く、例えば、経営会議で
 昨年同期と比べた医師や診療科の収益を報告しても、「あっ、そうですか」で済んでしまう
 ものです。

 しかし 、前述したような月ごとのタイムスタディに基づいた収益分析は、診療報酬の月別
 請求が基本である我が国の医療機関では、経営に直轄する根拠のあるデー タになります。
 医師や医療スタッフへのこうした働きかけができるのは、統括者である病院長を除き、
 事務部門を置いてほかありません。

□医師や管理者に物言う事務スタッフになるべき
 医療機関における、収益部門(プロフィット部門)は医局と看護部であることは言うまでも
 ありません。
 その他の部門は管理・スタッフ部門(すなわちコスト部門)です。
 すなわち、一般的に、医療機関の収益構造は、医師の指示や看護部の指示ですべてが決定
 するものです。

 一例ですが、ある病院に派遣されてきた医師が、病院の特性や経営資源を無視して、
 効率の悪い診療を行ったとしたら、それだけで病院の経営は成り立ちません。
 また、非常勤の医師が看護部門やその他の間接部門との連携を図れなかったならば、重大な
 医療ミスや医療訴訟に繋がる危険性もあります。

 そうしたリスクは、すぐさま病院の経営に跳ね返り、病院経営の危機に繋がることもある
 のです。
 ある病院では、派遣医師の業績を大学の医局に報告し、大学側からも歓迎されている
 といいます。

 大学の医局人事に おいても、派遣先病院での大学の実績や本人の成績は、今後の医学部での
 教育指針の一つとして参考になる資料だからです。
 さらに、その病院の医事課では 、医師ごとに手術の件数や治癒率、救急への対応、検査の
 件数、処方件数と薬剤消費などを集計し、一日当たりの生産性まで詳細でわかりやすい
 個人別ドクターデータを提供しているといいます。

 そうした、医師のパフォーマンスを管理していくことに抵抗を示す医師も決して少なくない
 と思いますが、正しく分析されたデータには、裁量権の多い医師といえども納得するのでは
 ないでしょうか。
 むしろ、医師から文句が出たら、医師もそれだけ真剣になってきたと考えるべきでしょう。

 医事課スタッフといえども、病院経営の場においては、医師と同じレベルの発言権をもつ。
 こうした当たり前の論理を、これからの医療機関では展開していくべきではないでしょうか。

□看護部門にコスト意識を植え付ける
 日常診療において、医師の指示は、ほとんどが看護部門でフォローされるものです。
 医師が正当な検査の指示を出しても、看護スタッフがテキパキと指示に従わなければ、
 医師のほうでも細かなオーダーは出しにくいものです。
 それが病棟婦長の抵抗にでもあえば、医師のパフォーマンスは徐々に縮小、低下し、
 医業収益の低下にも繋がりかねません。

 例えば、看護スタッフが、高価な医療材料を破損したり、浪費してしまうことが案外に
 大きな経費ロスとなり、収益低下につながっていることが現場では問題になるケースが
 あります。
 医療材料や医療器具の在庫は、緊急時を想定して常時補充される性格をもっています。

 しかし、このことがスタッフのコスト意識を阻害していることは認識されてしかるべき
 ではないでしょうか。
 医事部門や総務部門で、こうした医療材料のロスについてどれほど管理されているか。
 本人が申告して診療記録に掲載しないかぎり、もちろん、カルテにはこうした材料や器具、
 例えば高価な注射アンプルなどのロスは記載されません。

 まして、看護記録にこうした事柄が反映されるわけではありません。
 一個10万円もする器具を、無駄にしたり、破損したりしても、謝って済ましてしまう
 スタッフが多くいる、そんな 医療機関があれば、それは由々しき事態といわねばなりません。
 医師やその他のスタッフにしても、その2〜3個の器具が、自分の給与の一月分にあたる
 高価なものだと実感していれば、原価意識やコスト意識も芽生え、おそろしくてロスを
 生じさせることはないでしょう。

 ある病院の医事課では、高額医療材料のリストをつくって病棟などに配布し、さらに、
 物品自体に価格シールを貼って 、スタッフのコスト意識を目覚めさせようと努力されて
 います。
 その効果は、カルテや看護記録にも反映され、薬剤や注射の本数が正確に記載されるように
 なります。

 さらには、材料や用具の破損、ロスが発生時点で記載されることで、最近では、院内の
 リスク回避、医療過誤の防止にも役立つようになってきたといいます。
 これなどは、コスト意識や原価意識がその他の意識改革に成長した良い例といえるでしょう。
 最初に述べたように、医療は診療報酬に転換されなければ、収益とはなりません。

 その意味で、医事課や事務部の責任は重大であり、いわば経営レベルの発想がつねに
 求められるセクションとい えます。
 いわば、診療の最終統括者として、診療全体を把握するべきスキルが 、今後はさらに
 求められるといっても良いでしょう。

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医療・福祉の人材育成と危機管理

医療機関の新人研修

医療機関の新人研修

■育成
 教育とはそれ自体が目標ではありません。   
 それは、あくまで手段や方法であって、目的はその教育によって自院の健全な経営において
 何を実現するのかを明らかにすることです。
 教育研修はつねに事業年度の計画のひとつに位置付けて、個別スタッフおよび部門スタッフ、
 管理者別の階層を分けて、研修後のフォローアップまでもプログラム化していくことが
 大切です。

□受付業務
 ここでは医療機関初体験の人向けの研修について掲載します。
 ですから、あまりにも“当たり前”のことも記載されていますが、意識の整理のためにも、
 医療業務に関わるベテランの人も、ぜひ今一度目を通してください。
 いくつかの事項は、「新鮮な気づき」になるかもしれません。

□医療機関勤務の基本
 ①受診する側(患者)の立場になる
  医療機関を受診される人は、当然のことながら、肉体に不調を感じて来院するのですが、
  同時に精神的にもナーバスになっていたり、落ち込んでいたりするものです。
  だからこそ、自分自身が患者になった場合や、自分の家族が来院したと想定して、
  何をしてほしいのか、何をしてあげることができるのか、と考えてみる必要がある
  でしょう。

  ポイント
   ⅰ.患者さんに対して「優しい気持ち」を持ち続けること
   ⅱ.患者さんにわかりやすく説明すること
   ⅲ.患者さんが待たされている間の肉体的・精神的苦痛をいかに低減するか
  の努力をすること。

 ②医療はサービス業
  という意識で来院している患者は、その医療機関の医師や看護師のみならず、事務職
  まで含んだ全職員を「医療のプロ」として信じて、頼りにされている場合があります。
  だからこそ、医療機関としての「秩序」や「信頼感」が、患者との間で保たれている
  のでしょう。

  しかし、ここで気をつけたいことがあります。
  「頼られている」ということを、「上下関係」のように錯覚してしまう人もいます。
  いくら患者がへりくだって接してきても、「診てあげる」ではなく、「診させていただく」
  姿勢を忘れないようにしましょう。

  このことは、常に意識していなければ忘れてしまいがちです。
  気をつけましょう。
  しかし、だからといって、患者さんに媚びたり、卑屈になる必要はありません。
  大切なことは、患者さんの立場に立って、患者さんの尊厳を大切にする気持ちを持つ
  ことなのです。

  なにも、患者の身勝手や無理難題にむやみに応じる必要はありません。
  また、当然のことながら、患者さんを職業や経済状態などで区別するようなことは
  してはいけません。

 ③すべてを正確に
  医療の現場は、人の命に係わっているだけに、正確さを要求されることは言うまでも
  ありません。
  患者さんの情報に誤りがあれば、医療過誤が起きてしまうことは避けがたい事実です。
  また、保健医療をしている場合は、保険証のデータを読み違えると、保険請求が無効に
  なってしまいます。

  このことは、民間医療機関にとっては死活問題です。
  ベテラン職員になれば、同時に二つのことを完璧にこなせるかもしれません。
  しかし、新人のうちは雑念を振り払わないと、きっと正確な作業はできないでしょう。
  つまり、同僚としゃべりながらの勤務などは、間違いをもたらす大きな要因になります。

  このことは、結構忙しいときよりも、閑な時間帯にミスがよく起こることからも裏付け
  られます。
  結局、気持ちの緩みがミスを起こすわけなのです。
  しかし、ここで大切なことが、もうひとつあります。
  それは、「ミスは必ず起こる」ということです。

  いや、「人は、必ずミスを起こす」と言ったほうがいいでしょう。
  人は、いくら注意していても間違いを起こす可能性があることを、しっかりと自覚して
  おくことが大切です。
  自覚していれば、ミスを最小限に抑える努力、具体的な対応策を考える努力を、
  惜しまないでしょう。

  たとえば、間違いにくい、または、わかりやすい表示方法を考えたり、他人とダブル
  チェックするように決めるとか、その作業の実行者が必ずサインをするとか、さまざま
  な工夫ができるでしょう。
  それでも間違いが起こってしまった場合は、どうすればよいのでしょうか?
  もちろん、うやむやにしたり、「証拠隠滅」はやめてください。

  すぐに上司に報告し、間違いの原因を分析して、的確な対応をすることが大切です。
  また、患者から間違いを指摘された場合には、内心では自分が正しいと感じていても、
  よほどはっきりした確証がない限り、患者さんのクレームを素直に受け入れるべきです。

  まずは、丁寧に謝り、訂正する姿勢を見せることです。
  その後、間違っていなかったことに気づけば、患者さんから詫びてもらえるはずですから、
  それでよいではないでしょうか。

□重要な“日ごろの意識”
 ①臨機応変
  「マニュアル人間」を悪く言う場合もありますが、 基本的には 「作業の標準化」は
  大切なことだと思います。
  なぜかというと、特に、新人の頃は、慣れないことをするわけですから、先輩たちの
  教えに沿うべきです。

  とりあえず「マニュアル人間」になってから、もう一歩成長していただきたいのです。
  それでは、その「もう一歩の成長」とは、どのようなことでしょうか?
  来院する患者は、いろいろな意味で千差万別です。
  病気の種類もその程度も、個々の性別・年齢・体力など違う事だらけで、同じ患者など
  ひとりもいないのです。

  なかには、一刻を争うほどの救急患者が来院される場合もあります。
  この場合、自分で判断するのは難しいでしょう。
  交通外傷などで、素人でも「急患!」とわかる場合もあるでしょうが、とにかく、
  医師もしくは看護師にすぐ相談してください。

  受付担当者としては、ここまででよいのです。
  医学的な判断を下してはいけません。
  これも大切な「教え」です。
  医学的な知識は大切です。

  でも、そのことは、患者さんの異常に気づいて、医師等に判断を仰ぐために必要なのです。
  臨機応変というタイトルにしては、新人にはきびしい話をしていますが、日々の気配り
  である、と考えてください。
  たとえば、待合室が満杯になって、外で並んでいる患者を見た場合、どのようなことが
  できるかを考えてみてください。

 ②守秘義務
  医療従事者の常識でもあるのですが、仕事を通して知り得た、患者さんやその家族の
  個人情報を、第三者に漏らしてはいけないということです。
  病気の内容のみが、個人情報ではありません。
  職業や家族関係など、すべてが「漏らしてはいけない大切な情報」です。

  通院していることさえ、他人に話してはならないのです。
  また、よく陥る間違いは、患者本人の了解を得なければ、たとえ患者の家族に対して
  であっても、同様に「守秘義務」を守らねばなりません。
  家族だから、とついうっかりしゃべってしまいがちなものです。

  特に、患者の勤務先などからの「誘導的質問」には要注意です。
  十分に気をつけてください。
  不特定多数の人物(患者だけではありません)が出入りする医療機関では、受付で
  応対している患者さんとの会話や、診察室でのやり取りなどが、他人に聞かれている
  こともしばしばあります。

  常に、患者のプライバシーを守ることに注意を払わねばなりません。
  中待合を廃止して、診察室を完全な個室にしたり、マスキングノイズ理論で、音楽や
  環境音を流すなどして、診察中の会話が部屋の外で聞き取れないように工夫しましょう。
  ただし、他人に聞こえることを意識しすぎて、患者さんに正確な情報を伝えられ
  なかったり、誤解を生むようなことがあっては本末転倒です。

  受付では、「筆談」も奥の手でしょう。
  文字で見たほうが記憶に残りますし、そのメモ用紙を患者さんに渡すことも、検討して
  みてはいかがでしょう。
  たとえ「走り書き」であったとしても、患者にとっては重要な情報かもしれません。

 ③チーム医療
  医療行為を行っていくうえで、避けて通れないのがチームプレーです。
  たしかに、医療行為自身は「まず医師ありき」でしょう。
  しかし、医師のみでは、患者さんが求める「良い医療(治療)」はできません。
  ホテルに宿泊する際、ベッドさえ素晴らしければ満足ですか?
  そんなことはありませんね。

  すべてのホテルマンの対応が、満足度に係わってきます。
  医療機関でも同じことです。
  また、満足度アップのためだけではありません。
  正確な情報管理・伝達、各部署の連携がうまく取れてこそ、「よい治療」につながる
  のではないでしょうか。

□受付での実務、その「いろは」
 ①気配り
  受付にいる者は、先の「臨機応変」の項でもふれましたが、受付内の仕事だけではなく、
  待合室やエントランスの外側にも、絶えず気配りをしていてほしいものです。
  前項でも触れていますが、患者さんの緊急性にいち早く気づくことは、もっとも大切です。
  また、順番どおりに呼び出しているはずなのに、ずっと待っている患者がいないかや、
  呼び出しに気づかない・聞こえない患者さんを誘導することなど、気配りすべきことは
  たくさんあります。

 ②保険証確認
  毎月の保険証確認は当然のルーチン業務ですが、月初は特にレセプト作成で疲れていて、
  患者からの提示がなければ、「まあいいか!」で済ませていませんか?
  保険が切れていないかどうかは重要です。
  他府県の国保の場合は、市町村名も必ず書いておいてください。
  請求先がわからないと、どうしようもありません。
  保険請求に直接関係なくても、勤務先の会社名も書きとめておくとよいでしょう。

 電話対応
  電話での会話は、相手の表情が見えないだけに、実際に来院されたときよりもさらに、
  十分に気をつけてください。
  特に気をつけたいのは、医学的な相談になったときです。
  自分で解決できる問題ではありませんので、早めに医師に替わってもらわないと、
  時間の無駄になります。

  患者も同じ事を2回説明することになりますので、早めに医師を呼びましょう。
  患者以外からの電話も、注意して対処しましょう。
  医師会や大学医局などからの連絡は、大切な伝達事項かもしれません。
  医師に替わるか、しっかりと正確にメモに書き取りましょう。
  それと、営業の電話は、診察中なら断ってよいと思いますが、自己判断せずに、師長
  などのベテランに相談してください。

 ④患者対応の工夫
  ⅰ.診察待ちの番号札
   順番を間違えられると不愉快です。
   銀行などでも同じですよね。
   検査等の都合で、「順番が変わる」という注記も、記載しておきましょう。
  ⅱ.受診申込用紙
   記載内容は、どこの医療機関でもほぼ同じだと思います。
   院内で協議し、患者さんにもスタッフにも見やすいフォームを考えてください。
   特に個人の名前などは、漢字の読みにくいものも多く見られます。
   フリ仮名を忘れずに書き込めるようにしましょう。
  ⅲ.健康保険証等の預かり
   初診の患者さんや、月初には保険証を確認します。
   このとき、一旦患者さんから保険証を預かるわけですが、紛失などはもっての
   ほかです。
   コピーをとってすぐに患者へ返却するとか、決まった一時保管場所に“必ず置く”
   など考えてみてください。

   カウンターの上に置きっ放しは絶対にいけません!
   さて、病院と診療所では、異なる対応もあるでしょう。
   しかし、所々に書いた「医療人魂(精神)」は、同じだと思います。
   また、今回は触れませんでしたが、「言葉遣い」に関するトレーニングも必要だと
   思います。

   アメリカなどでは、医師に対して“接遇訓練”をする専門家もいるほどです。
   新人のあなたは「プロの医療人」とはなにか……それをしっかり哲学としてください。
   そうしなければ生き残れません。

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医療・福祉の人材育成と危機管理

医療機関のクレーム対策

医療機関のクレーム対策

■トラブルの予防
 クレームあるいはトラブル対策の最も基本となるのは、トラブルの予防をすることである。
 その予防を忘れ、トラブルが起きた後のクレーム対策についての素晴らしいマニュアルを
 作ったとしても、本末転倒と言うべきです。

 厚生労働省が平成13年10月から始めた、医療安全対策ネットワーク整備事業として
 収集しているインシデント(ヒヤリ ・ハット)事例が、かなり蓄積されてきたのです。
 ここでは、それを基にクレームの予防についてまとめておきます。

□医療安全対策ネットワーク整備事業に注目
  “ヒヤリ ・ハット報告”を制度化している病院も多い。
 ただし、具体的にどのような事例が 「ヒヤリ ・ハット」で、事故(アクシデント)と
 どう区別するかについては、必ずしも明確ではない。
 また、「ヒヤリ ・ハット」と「事故」の間に、「ミス ・トラブル」という概念を設け、
 3 種類の報告書を用意している病院もあります。

 それらのおよその概念は、実施する前にミスに気づいたような事例が「ヒヤリ ・ハット」で、
 ミスを少し実施してしまったような事例が 「ミス ・トラブル」である。
 一方、厚生労働省の医療安全対策ネットワーク整備事業(ヒヤリ ・ハット事例収集事業、
 前述)は、ヒヤリ ・ハット事例を「患者に傷害を及ぼすことはなかったが、日常診療の
 場で “ヒヤリ”としたり “ハッ”とした事例」と定義し、特定機能病院、国立病院・療養所
 などを対象に事例を収集してきました。

 平成 16 年度からは、全医療機関を対象に事例を収集する方向で準備が進められて来ました。
 また、「ヒヤリ ・ハット」の概念を少し拡大し、「誤った医療行為等が実施され、その結果、
 軽微な処置・治療を要した事例」も加わった。
 厚生労働省においてヒヤリ ・ハット事例を分析しているのが、医療安全対策検討会議の
 ヒヤリ ・ハット事例検討作業部会です。

□季節・時間帯を意識する
 医療界におけるQC(品質管理)に積極的に取り組んでいる主要な病院がテーマの一つ
 として挙げているのが、患者の転倒・転落対策です。
 転倒・転落の発生を年間でみると 、4月〜6月が多く 、7月〜9月に少ない。
 7月〜9月は、4月〜6月の半分の水準になっている。
 他のヒヤリ ・ハット事例も4月〜6月に多い傾向が見られます。

 それを1日で見ると 、 転倒・転落の発生は深夜0時〜1時台、 朝6時〜7時台の2つの
 時間帯にピークがあるのです 。
 それらの時間帯に多いのは 、 患者が覚醒して排尿・排泄のために動くため、とみられて
 います。

 また 、発生する場所は 、病室と病棟内で約8割を占めているが 、トイレと廊下もそれぞれ
 数%を占めています。
 つまり、転倒・転落対策は、事務部門も含めてさまざまな部門の職員が積極的にかかわる
 必要があります。

□患者の尊厳を傷つけない
 患者の側からすれば、医師や看護師に本当は言いたくても、どうしても隠しておきたい
 こともあります。
 このような事例で少々トラブルがあったとしても、患者本人からはあまりクレームが出ない
 かもしれません。

 しかし、重大事故が起これば、家族から大きなクレームが出てくるおそれがあります。
 これはカツラをつけていた事例で、手術のため患者に麻酔をかけた後、その患者はカツラを
 つけていることがわかった。
 看護師の申し送り書にはカツラについての記載はなく、それを担当医も知らなかった。

 そのカツラは患者の髪と紐で結ばれていて、金属の留め金を取り外せませんでした。
 電気メスを使う手術であり、その留め金に電気メスが触れると火傷を起こすおそれがある。
 そこで、執刀医と確認したうえで、留め金の金属部にガーゼを巻いて手術をした。
 この事例については、患者の性別が報告されていないが、おそらく男性でしょう。

 これからの高齢社会では、女性を含めてカツラをつけている患者が増えてくるでしょう。
 しかも、そのカツラは精巧で、ちょっと見ただけではわからない。
 そのようなことも踏まえて、カツラの使用も念頭に問診をする必要がある。
 また、カツラをつけていることに医療者側が気づいたら、最大限、患者の尊厳を傷つけない
 ように配慮して対応する必要があります。

□男女別の対応
 ヒヤリ ・ハット事例検討作業部会で最も話題になったことの一つは 、ヒヤリ ・ ハット
 事例では、男性が6 ,268件、女性が4 ,624件で、男性のほうが女性より多い。
 男性が58%、女性が42%となる。
 もちろん、患者に男性が多いのであれば、そのような結果が出ても不思議ではない 。

 しかし 、病院における入院患者は明らかに女性が多い。
 そのような背景を踏まえて、ヒヤリ ・ハット事例は男性に多く出現する傾向がある、と
 見られている。
 このように 、男性に多く見られる理由について同部会で議論がなされ、次のような興味深い
 見方が、委員の間から出された。

 男性は良くも悪くも 「社会性」があるので、医師や看護師から指示を受けると、よくわから
 なくてもあまり質問をせず、指示に従う。
また、身体に何らかの異常が発生しても、我慢をして訴えない傾向がある。
そのためヒヤリ ・ハット事例が発生しやすい。ヒヤリ ・ハットやクレームの予防対策は、男女一律に考えるのではなく、その背景となる 「社会性」も十分に念頭においておく必要がある。

□物言わぬ小児への配慮と対応
 コミュニケーション能力が未発達であるため、訴えがあまり期待できないグループに
 小児がある。
 その小児において、アレルギー体質の者が増えているという。
 このアレルギーという観点からも、さまざまな対策が必要になります。
 実際、そのような事例がヒヤリ ・ハットとして報告されている。

 例えば、
  ◎昼の配膳時、患児の母親が 「サラダにマヨネーズが入っているが、卵除去のものか」
   と聞いてきた。
   そこで、栄養部門に確認すると、卵が入っていることがわかり、サラダを交換した。
   また、それについて、栄養士が謝罪した。 
  ◎完全卵除去であるにもかかわらず 、アレルギー食としての食事箋が出ていない
   ことに気づいた 。
   これは 、口頭指示による情報伝達のミスが原因であった。
  ◎乳児卵アレルギー食と乳児軟飯食を間違えて配膳し 、二人とも食べてしまった。
   これは、食札を確認せずに配膳してしまったためである。

 このようなヒヤリ ・ハット事例への対策について 、ヒヤリ ・ハット事例検討作業部会では、
  ・入院時に確実に確認する 
  ・アレルギーに関する情報を的確に伝える
 などを挙げています。
 病棟と栄養部門との情報伝達について、再検討しておきたいものです。

□意外にいる同姓同名に注意
 意外と感じることでも、確率論的にはかなり高い頻度で起こる可能性を持っているものが
 あります。
 クレームの予防では、そのようなことも認識しておきたい。
 例えば、ある日の同じ時間帯に、同じ診療科に同姓同名の患者が受診に来ているなどと
 いうことは 、 確率論的には極めて低いと思われるかもしれません 。

 しかし、患者の名前は漢字であって、実際、その漢字はさまざまな読み方ができます。
 そのように同姓同名の意味を音のレベルまで拡大すると、実際にはかなり多くなる。
 ちなみに、ヒヤリ ・ハット事例検討作業部会で公表されたデータによると、横浜市立大学
 医学部附属市民総合医療センターでは、1年間に同センターを受診した患者6万466人
 のうち、姓名ともに読み方が一致する人が他に1人でもいた人は1万784人(4,245種類)
 に上っているという。

 また、同姓同名のケースでのトラブルが、医療安全対策ネットワーク整備事業で報告
 されています。
 それは次のような事例です。
 同じ科に、同姓同名の患者が受診していました。

 患者A氏が医師に呼ばれた時、同姓同名の患者B氏が診察室に入り、患者A氏の病状の
 説明を受けました。
 そして、患者B氏は患者A氏の診察券・会計票を持って会計を済ませ、帰宅しました。
 その後、別の医師が、患者B氏を呼ぶと、患者A氏が入室した。その後、何度呼んでも
 違う患者(A氏)が診察室に入ってきました。

 こうして初めて、同姓同名の患者がいたことに気づいたのです。
 ちなみに、患者のカルテには、同姓同名の印はなかった。
 そのような患者取り違えを防ぐ第一歩は、同作業部会では、患者確認の基本として「氏名」
 ではなく「患者ID」を使用して処理・手続きを行うことにある、としています。

 また、具体的な方法の一つとして、診察室等に患者が入室した際、まず診察券を提示して
 もらうとともに、フルネームを名乗ってもらい、IDおよび氏名を診療録と照合する
 としている。
 もちろん、そこにITを活用する方法も考えられます。
 このあたりは、クレーム防止という観点からも、病院の事務部門が積極的に関与すべき
 でしょう。

□重要事例の情報データベースが公開される
 これまで見てきたように、トラブルとクレームの予防には、季節や時間、社会性なども
 念頭に入れて対策を立てる必要があります。
 何かトラブルがあるにもかかわらず、訴えようとしない患者、あるいは訴える能力がない
 患者への配慮も重要である。

 その対応が不適切な場合、患者に代わって家族から強いクレームが出るおそれもあります。
 また、トラブルとクレームの予防は、事務部門も含めて全組織を挙げて取り組む必要がある。
 なお、厚生労働省はヒヤリ ・ハット事例(重要事例)情報データベースをインターネット
 で公開しています。

 そこに記録・保存されているのは、これまでに収集されたヒヤリ ・ハット事例の中の一部
 ですが、「重要事例」であり、無視できないものです。
 トラブルの予防について検討する時、あるいはトラブル解決マニュアルを作成する際には、
 同データベースを活用することをお薦めします。


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医療・福祉の人材育成と危機管理

医療機関職員のモチベーションを高める

医療機関職員のモチベーションを高める

■意識改革
 政府の医療保険政策は、ほとんどの医療機関に対して、これまでの医の論理(パターナリズム
 に基づく医療)から、市場原理に基づく医療へと、意識変革を迫っています。
 そして今後は、医療資源の適性配分を前提として、患者サービスの向上や医療の質の向上
 が求められてきました。

 これは、市場(マーケット)に立脚する企業の論理と同じく、医療を経済性と倫理の
 オフバランスを按配しつつ、病院経営をしていくということに他なりません。
 すなわち、医療機関といえども提供したサービスと対価、適正な利潤という経営要素が、
 その組織の存続を可能にしていくことになるのです。

 一般の会社では、昔から「企業は人なり、人は企業なり」ということがよく言われます。
 医療機関は言うまでもなく、労働集約型かつ技能集約型組織です。
 そこではあらゆる医療サービスが組織力、ないしは人材(労働)により提供されています。
 つまり、患者サービスにおいてもその最も大きなファクターは、医療機関が十分なサービス
 提供に耐えうる人材を確保しているかどうかによって、医療提供能力の大半が決まって
 しまうものです。

 一般的に、組織の使命は、設定された経営目標を達成することであり、組織とは、そうした
 経営目標や経営方針を実現させるためのツール(手段)です。
 決して経営者の持ち物でも、組織のための組織(従業員の持ち物)でもありません。
 いわば、それは目的を具現化するために、ストックとフロー、システムとスタッフという
 要素を有機的に運用し、組織を維持・発展させるための事業体にすぎないのです。

 しかしながら、このことは、経営者やスタッフの思い込みやエゴにより、しばしば混同
 され、組織がうまく働かず、経営を危機に陥れているケースが数多く見られます。
 組織を上手く働かせるためには、ほぼ次のような条件を満たすことが必要になります。

  ・人材の適性配置および適性評価
  ・組織運営の根幹にエゴイズムではなく、ポリシー(経営理念)をおくこと
  ・経営目標達成の主役を組織やシステム自体にすること
  ・問題解決を弾力的かつ自主的に実践するために、組織を目的指向型(オブジェクト
   指向)とする

 もちろん、これら柔軟な組織形態の主体となるのは、経営者自身でありスタッフ一人ひとり
 であることはいうまでもありません。
 とくに医療機関の場合、医の論理(医療倫理)が、他業種の職業倫理に比べて厳格に
 求められており、スタッフの自主性や自由な発想は、時に疎外されがちになります。

 しかし、医療機関といえども、良質で適性な医療を提供し続けるためには、適正な利潤は
 必要です。
 そのために医療倫理と医療の採算性のバランスを意識しつつ、スタッフは医療行為を行って
 いく必要があります。
 そのためにも、人材の確保と育成は非常に重要な課題となるのです。

□人材確保、人材育成の条件
 前述したように、現代医療は、経営トップの考え方だけで成り立つものではなくなりつつ
 あります。
 チーム医療ということが叫ばれていますが、これは「役割分担」ということを言い換えたに
 すぎません。

 医療サービスというものは、医師や看護職を含めた病院に勤務するすべてのスタッフが、
 患者の健康維持という無形サービスを提供することで成り立つものです。
 そこには、上下関係や職種による差別は存在してはなりません。
 そして、それぞれのスタッフの能力評価についても、客観的な判断が働くべきです。

 そこで、これからの人材確保・育成においても、こうした認識が組織全体で共有され、
 風通しのよい組織風土がなければ不可能であり、最終的に、総合的なチーム医療の実践も
 できないといえるでしょう。

 また、経営者はそうした組織風土を形成するよう実践して、スタッフのやる気を起こす
 ための、客観的評価(能力給制度や職能基準)、自由にものが言える環境、能力を開発する
 ための教育制度、などの条件整備をしていくことで、明るく闊達な組織が形成されて
 いくよう、サポートするわけです。

 いたずらに、評価の不明な、主観に基づく待遇(給与)を与え、ニンジンを目の前に
 ぶら下げるような経営手法では、いずれスタッフや患者から疎外され、経営すら立ち行かなく
 なっていくと認識すべきでしょう。
 次に人材確保の条件について考えてみましょう。

 ちなみに、これらは、あくまで自由で明るい職場環境をつくるための必要条件にすぎない
 ことを理解してください。

 すなわち、
  ・医療機関の医療理念や経営方針が明確に内外に開示されている
  ・管理者の意識や管理組織がオープンマインドである
  ・組織規則や就業規則が整備され、公開(明文化)されている
  ・スタッフのためのアメニティ(福利厚生・労働環境・設備など)が実現されている
  ・勤務や給与などの労働条件が公正かつ魅力的である
  ・リスクマネジメント(医療ミス対策、訴訟対策)が担保されている
  ・職能や職域の特性に応じた勤務環境が整備されている
  ・教育研修のプログラムやシステムが整備されている
  ・職務基準に基づく公正で平等な能力査定システムが確立している
  ・近代的な労働関係法規に基づいて経営されている

□管理体制を見直し、有機的組織を構築する
 これまでの経営者(管理者)の役割は、一種の制限や規制に基づくトップダウン的な
 管理体制の構築にありました。
 医療という分野では、特に外部にさまざまな監視や規制が存在し、それらは、内部に
 おいては個人の倫理と結びつき、時に医療スタッフの自由な発想や建設的な意見具申を
 疎外することもあります。

 そのため、スタッフ(医師レベルまでも)のほとんどが一種の閉塞状況に陥り、最低限の
 職務以上には何もしないといった “モラルハザード” や “セクショナリズム”が横行する
 ことがあります。
 また、経営者の独断的な判断により、スタッフの職務を制限し、さらには、医師を頂点と
 する医療機関特有の“縦割り型組織”がスタッフ間の横断的な連携を疎外させることも
 ありがちです。

 話は少しそれますが、 一般的な規制(もしくは職務権限) の考え方として、「ポジティブ
 リスト」と「ネガティブリスト」というものがあります。
 ポジティブリストとは、最大限「やっていいことを明示するもの」であり、一方、
 ネガティブリストとは、最低限「やってはいけないことを明示するもの」です。

 では、医療や病院組織の場合、規制とはどうあるべきでしょうか?
 これまでの経営者は一般に、ネガティブに規制するばかりで、ポジティブなスタッフの
 意欲を抑えてきたきらいはなかったでしょうか?
 スタッフに対して権限を委譲し、スタッフの創意工夫を引き出したり、現場スタッフの
 意見を経営に取り入れたりすることに、消極的になってはいなかったでしょうか?

 また、スタッフを恣意的に評価し、平等な処遇を図っていなかったのではありませんか?
 これでは、経営者とスタッフの信頼関係は築けません。
 医療サービスは極めてリスクの高い仕事です。
 当然、質の高いスタッフが存分に能力を発揮して取り組まなければ、人々に多大な悪影響を
 与えかねない仕事でもあります。

 これからの医療経営は、経営者が近代的な管理手法に基づきスタッフのやる気と能力開発
 をサポートし、スタッフと一体化した有機的組織による医療を実践していくことが求め
 られています。

 近代的な管理手法とは、たとえば会計における管理会計の導入であり、サービスにおける
 患者満足の追求であり、医療技術におけるガイドライン(GL)やEBM(Evidence-Based
 Medicine)の追求、さらには、現場における能力主義の活用、その他さまざまな方法が
 あります。

 これらは、ひとえに経営者の独走や独断を排除した経営方針や、経営目標を設定するスタート
 地点での方針管理が前提となります。
 そして、経営方針を経営者のこれまでのトップダウン的な実践にするのではなく、スタッフ
 全員の総意の中から生み出されたものにすることは、これからの医療経営にとって大きな
 モメントとなることは言うまでもありません。

 これは単に民主的経営というレベルの話ではなく、経営情報の開示や共有化は、有能な
 人材を確保するうえで大きなモチベーションを形成することに寄与します。
 以下は、医療機関における経営方針策定の一般的なフローです。
 これらの過程を、スタッフを巻き込んだ形で行うのです。

 現状分析と目標設定をしていき、経営者(理事会)がオーソライズした上で、中間管理
 部門でさらに評価・検討がなされていくような、理想的な進行が求められます。
 そして、この過程で集約された意見が、経営者層にフィードバックされ、最後に全スタッフ
 に開示され、スタッフの理解と協力を要請していく。

 これら一連の方針決定のプロセスにスタッフが関与していくことで、実行可能性の高い
 方針管理と目標管理(MBO)のさまざまなノウハウが積み重ねられていくわけです。

□人材確保と定着率の向上とは
 人材確保の大きな条件の一つに、スタッフのアメニティ対策があります。
 アメニティとは「快適性」と直訳できますが、職員のアメニティとは「みじめな気持ちに
 ならずに、誇りを持って快適に仕事ができる」条件と考えてよいでしょう。
 スタッフに対して十分な労働環境や雇用条件を提供することは、医療機関のみならず、
 あらゆる経営者に課せられた責務と言えます。

 ましてや、医療機関の組織そのものが人材(スタッフ)で機能していくものであれば、
 スタッフアメニティの重要さは、医療経営の最大テーマとも言えるわけです。
 スタッフアメニティへの配慮はスタッフのやる気を引き出し、医療に計り知れない効果を
 生みます。
 しかし、反面、それがマイナスに働けば、計り知れない事業の停滞を生み、医療機関の
 存続をも危うくします。

 また、それは、人材確保の重要なファクターになるとともに、人材の定着への大きな
 インセンティブになります。
 以下に掲げた条件は、そうしたスタッフアメニティを構成している要素から、スタッフの
 定着を疎外する要因を示しています。

  ・医療理念、医療倫理、経営方針が不明確で不透明である
  ・管理体制が専横的で厳しすぎる
  ・関係する諸規則が未整理で開示されていない
  ・労働条件や給与条件に魅力がほとんどない
  ・働くための施設や福利厚生設備が整っていない
  ・就労条件や制約への柔軟な対応ができていない
  ・教育研修システムがない
  ・職能要件制度などの平等な査定システムが未確立
  ・危機管理システムが未確立
  ・関係する労働法への対応がない

 これらの要因を整備・改善していくことは、最近の企業や事業所ではごく当たり前のことに
 なりつつあります。

 しかし、本当のスタッフアメニティを評価する場合の最も早い評価法は「貴方の家族を
 この施設で勤めさせたいか」「貴方の妻子をこの施設に入院させたいか」という、昔から
 言い古されている方法です。
 経営者の方々が、自分の子どもを自分のスタッフとして迎え入れられるか否か、ご自身の
 経営方針をその地点から考えてみてください。

□教育研修のあり方および課題優先度
 医療技術の進歩には、目を見張るものがあります。
 高度なX線断層撮影装置や透析装置、心臓カテーテルを用いたPTCA検査や治療など、
 デジタル技術を用いた非侵襲治療が広く行われるようになり、スタッフや医療チームに
 とっては、絶えず新しい技術や知識の習得が必要になってきています。

 また、医療事故や医療過誤の増加にともない、現場スタッフによるリスクマネジメントの
 一環として、職員能力の再開発、再教育システムの実践が不可欠となってきています。
 職員に対するこうした教育研修の場を提供することは、医療経営者にとって当然の責務に
 なっています。

 一般的に、教育研修に充当すべき費用は医業収益の 1〜1.5%程度が望ましいと言われて
 いますが、投下した費用に対する効果をきちんと得るためには、教育研修のプログラムは
 画一的であってはなりません。

 教育研修はつねに事業年度の計画のひとつに位置付けて、個別スタッフおよび部門スタッフ、
 管理者別の階層を分けて、研修後のフォローアップまでもプログラム化していくことが
 大切です。
 研修の効果を高めるためのポイントとしては、次のようなものが挙げられます。

  ・経営参加の意識をつける意味で、医療理念や経営方針を徹底して教育する
  ・全体と、所属する各部門の方針や職務基準、業務管理の仕組みを徹底して教育する
  ・医療者としての倫理や認識を高めるために、患者の立場に立つことを理解させる
  ・自己研鑽と自己啓発の機会を与えて、方向づける
  ・研修結果と評価と現場業務へのフィードアップの手法を取り入れる
  ・人事考課制度や報償制度へリンクさせて、履修に対するインセンティブを担保する
  ・リスク管理の手法を徹底して教育する

 また、教育研修の意義付けについては、次のように、重要性や緊急性、有効性や実現可能性
 の視点から、各々の教育プログラムの課題と優先度を考慮して、その病院や施設の特性、
 教育予算と教育スタッフの実力等との整合性を図りつつ、順次実践していくことが必要です。
 いずれにしても、専門技術者の集団である医療機関における教育研修は、“総花的な内容では
 効果は得られない”ことを理解し、個別指導していくことが大切です。

 たとえ、人材の流出があったとしても、有能な人材は必ず地域医療のリーダーとなって
 いくものです。
 しかし、地域医療全体のメリットを考慮した先行投資的教育は、現場での実地研修によって
 しか効果が得られません。

 このことも十分に理解して、各医療機関で連携・協力し合って、相互の得意な分野を
 持ち寄った教育研修を実施していくことも、費用対効率の面で有意義であると思われます。


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医療・福祉の人材育成と危機管理

病医院活性化のためのパブリシティ活動

病医院活性化のためのパブリシティ活動


■取り巻く経営環境

 病院を取り巻く経営環境は急変しており、限られた経営資源を有効に使い、組織全体を
 構造変革する必要性が高まっています。

 かつてのように設備を拡大すれば単純に収入が増加することはなく、逆に無計画に機器を
 導入し病院を拡張して経営が悪化している例もあります。

 一方、地域の需要を調査し、その要望に応え質の高い医療サービスを提供し繁栄している
 病院もあります。

 このような状況のなかで病院を経営していくためには、自院はどのような医療サービスを
 どのように提供するのかを明確にする必要があります。


□広報は地域への情報提供活動
 民間の企業では、工場や研究所などを中心に地域とのコミュニケーションを良好なものに
 するため、専任の広報担当者を配置したり専任の担当役員を決めて地域社会対策を行って
 います。
 病医院では、地域社会の住民がそのまま顧客となります。

 病医院が厳しい競争に打ち勝ち、生き残りを図っていくには、地域社会とのコミュニ
 ケーションを活発にして地域住民との連帯意識を強めていかなければなりません。
 病医院が地域の社会的・文化的イベント、スポーツ・健康イベントにどう参画できるかを
 考えてみましょう。

 駐車場、講堂、運動場などの無料開放も一つの例です。
 また、地元のレクリエーションや催し物(運動会、講演会、講習会)に協賛したり、
 講師を派遣するのも大切な地域活動です。
 病医院にしかできない「健康友の会」を結成し、健康情報を流して地域住民の健康づくりに
 役立ててもらうのもいいでしょう。

 独自の健康講演会や文化講演会を開催したり、病医院が中心になって地域で禁煙運動を
 提唱するのも、社会的に意義あることです。
 いずれにしても、病医院は地域社会との友好的な交流なしに存続していくことは難しく
 なります。

 これからは地域の人たちに門戸を解放して、心の交流を上手に図っていきたいものです。
 地域住民と上手につき合っていくには、まず、相手の心を知らなければなりません。
 いくつかのテーマを決めて、アンケート調査で地域住民の考え方、要望を統計的に把握
 しておきましょう。

 病医院が地域社会とコミュニケーションを図る場合、地域のマスコミ(地方紙、ローカル
 民放)を活用するのが最も効果的ですが、地域に無料で配布されるタウン誌(紙)、情報誌(紙)なども重視すべきです。


□弱者保護の経営姿勢を持つ
 これから病医院が生き残っていくためには、明確な経営姿勢を打ち出さなければなりません。
 それには弱い者の味方、つまり弱者保護の姿勢が必要となります。
 東京・聖路加国際病院のチャペルには、 「キリストの愛をもって奉仕せよ」という創設者
 トイスラー博士の言葉があります。
 患者へのやさしさと思いやり
が漂ってくるのがわかり、心の安らぎを覚えます。

 このように病医院は本来、病んでいる者の味方、弱い者の味方でした。
 しかし、マスコミはこの 10 年、医療界のさまざまな出来事に触れた結果、病医院には
 弱者保護の姿勢が失われつつある、と考えるようになりました。
 というより、病医院はむしろ厳しく取材すべき対象と考えているのです。

 大手新聞社のある記者は「マスコミは病医院の権利を守る立場には立てない」と言い
 切っています。
 それは今日の病医院の経営姿勢から、弱者を守るというイメージが薄らいだからです。
 それでは、病医院は具体的に何を打ち出していったら良いのでしょうか。
 世の中をあえて強者と弱者に分けるとするなら、地域住民は弱者に属するといえるでしよう。

 高齢のお年寄りは、年金生活をどう送ったらいいか、不安な毎日を送っています。
 お母さん方は子どもの教育問題で日夜頭を悩ませ、仕事に出かけていくお父さんは、職場の
 人間関係でストレスがいっぱいです。
 子どもの生活でさえ、イジメなどにより不安な毎日と言えます。
 現代人は半病人とさえ言われています。

 こうした不安や健康を蝕むものから、地域住民を守る姿勢こそが必要ではないでしょうか。
 病医院は地域住民の健康に積極的に手を貸すべきです。そ
 のためにも、まずは地域住民の不安や不満にじっと耳を傾ける。
 この姿勢が、弱者保護の出発点であることを銘記しましょう。


□住民の声を吸い上げるシステムを
 これまでの病医院経営は、院長(医師)を中心に行われてきました。
 いい治療さえしていれば患者がやってきた時代の病医院経営は、これでもよかった
 のでしょうが、病医院の数が増え、患者が病医院を選ぶ時代に入ってくると、医師のみが
 中心の病医院経営ではやがて行き詰まってしまいます。
 病医院はいま、数々の経営課題を抱えています。

 その一つとして、良質の看護体制をどう整えていくかという看護師のリクルート問題が
 あります。
 また、ほかの病医院との違いを明確にするために、接遇などの患者サービスをどう徹底
 していくか、外注作業を効果的に進めていくための外部との折衝など、事務部門の課題を
 どうクリアーしていくか。

 このように医師が担当していない分野の課題のほうが、医療分野の課題よりも多くなって
 きています。
 病医院経営の中心は医療だとする意識だけは依然として残っていますが、経営課題の中心は
 医療以外にあるというのが現実なのです。

 そのうえ地域住民の声をも経営に反映させなければ、 病医院は生き残っていけない、
 そんな時期に今はあるのです。
 病医院を健康サービス産業と位置づけた場合、地域住民の要望を反映させず
に病医院は
 成り立ちません。

 地域住民がいま何を悩み、苦しみ、自分の病医院にどんな要望を持っているのか、常時、
 そのニーズをつかんでいかなければなりません。
 民間企業では、女性の声を吸い上げるための「女性社外重役制度」や、若い人たちの人気を
 得るため「社外青年重役」などの制度が話題を呼んでいます。

 病医院も、地域住民の声を制度的に吸い上げていくためのシステムをつくって、地域住民
 重視の体制をつくってほしいものです。
 どんな内容を知りたいかによってモニターの対象が決まってきますが、大切なことは、
 長く地道に続けていき、本当に地域の住民の生の声が経営に反映されることです。


□見直したい地域広告のムダ
 駅のプラットホームに立っていると、病医院の広告板が目につきます。
 試しに数えてみたら、1 つの駅で 25 の広告看板がありました。
 そのほかホームのベンチにも病医院の広告があります。
 もちろん市街地の電柱にも広告がよく見受けられます。
 そのうえ道路わきにも野立て広告看板があります。

 バスの後尾広告や、電話帳広告も病医院はよく利用するようです。
 こうした病医院の地域広告に、ムダはないのでしょうか。
 広告活動を行う場合には、 当然目的があります。
 たとえば新設会社の広告は、社名をアピールするのが目的です。

 鉄鋼製造会社が新規事業として住宅事業に乗り出す場合、なぜ鉄から住宅なのか、将来
 展望とビジョンを示す説得広告を出します。
 また、新製品を発表する場合、商品の特徴とメリットを強調する販売促進を狙った広告も
 あります。

 新設の病医院の場合、所在地と病医院名を強調するために、それぞれの地域で実施する
 広告活動はそれなりに意味があります。
 ところが病医院がすでに一定のところで 10 年も 20 年も医療を営んでいる場合、前述の
 広告活動には意味があるでしょうか。
 ムダとはいえませんが、惰性の広告は意味がありません。

 広告はいつも目的をもっていなければなりません。
 現在利用している地域広告をひとつひとつ洗い直しましょう。
 院内にコミュニケーション委員会を設け、広告がこれでいいのか徹底的に議論してほしい
 ものです。
 検討してみると、意外にもっと効果的な媒体があることがわかります。

 少なくとも目的と効果を絞った地域広告を考えるべきです。
 広告という発想より広報的発想で対応してみるのがよいでしょう。
 地域住民に喜ばれる情報とコミュニケーション手段が発見できるに違いありません。


□院内活動はすべてニュースになる
 病医院には意外にマスコミの喜びそうな情報があります。
 表に出てくる情報は少ないのですが、ちょっと味をつけ、方向づけするとニュース性が
 付加されて、生きた情報になります。
 病医院の規模が大きいからニュースになる情報が多いということはありません。
 中小病院にもニュースになる情報はかなりあるものです。 

 病医院の情報で、マスコミがニュースとして取り上げるのは何でしょうか。
 ひとことで言えば、それは「積極的活動」ということになります。
 だから、病医院が来院する患者をじっと待っている待ちの姿勢の経営をしていては、
 マスコミは何も取り上げてくれません。
 それでは、マスコミが取材の対象とする情報とは何でしょうか。

 それは、病医院のヘルス・エンタープライズとしての経営情報です。
 たとえば、CI(コーポレート・アイデンティティ)の導入を決めた病院の地域に根ざした
 新経営戦略、経営戦術はマスコミも注目するところですし、お母さんモニター制度を導入
 した病医院もニュースになります。

 この場合、お母さんモニターのレポートはマスコミも関心を持つし、お母さんモニターの
 採用によって病医院がこう変わったという点が現われてくれば、 「お母さんの視点を
 大切にする病院」としてニュースにすることができます。
 また、自院で禁煙運動を提唱したのち、禁煙者が 10 名以上になったらマスコミにそっと
 知らせましょう。

 面白い社会ニュースとして取り上げてくれることでしょう。
 減塩運動、友の会活動など、一定の実績があがったものがあれば、これらもパブリシティ
 対象となる情報となることでしょう。
 どんな面白いニュース素材をつくり上げるか、それが広報担当者の腕の見せどころです。
 情報の味つけ、方向づけをどうするかが、ニュースになるかどうかのポイントです。


□病医院広報の基本は地域への貢献
 病医院広報の基本は、地域社会にどう貢献するかということです。
 広報の語源を探っていきますと、アメリカから持ち込まれたPR=パブリック・リレイ
 ションズに由来することがわかります。
 本来、広報(PR)とはどんな意味なのでしょうか。

 日本ではPRといえば「広告、宣伝」の代名詞のように使われていますが、本来、もっと
 公共的色彩の強い情報活動なのです。
 広義のPRが意味するところは、「法人または個人の生存、繁栄のために自己を取り巻く
 環境との間に良好な関係を打ち立て維持するための諸活動」とされています。

 病医院広報は、地域との交友関係を打ち立て、維持していくための「PR活動」なのです。
 「お金をかけないで自院のPRをしたいのですが、どうしたらいいんでしょうか」と
 よく開かれますが、 「PR」の原点に立ち返るようにお勧めします。
 基本的に言って、広告・宣伝を少し行っても「何千万円、何億円」の費用がかかります。

 その点、広報は一桁下の経費で活動できるわけで、広報活動のほうが間違いなく費用の
 点でも有利です。
 それでは、病医院が地域社会のなかでどんな貢献ができるのか。
 まず、病医院にできる事柄から考えてみます。

 病医院は患者の診療業務だけをやっていればいいのでしょうか。
 そうではないでしょう。
 行政も地域住民も、病医院には健康の維持・増進に役立つ活動を期待しています。
 病医院の業務分野は「医療・保健・福祉」にまで拡大されているのです。

 厚生労働省は「健康日本 21」で強力に進めているように、今後、疾病の一次予防策の
 具体的な提案を求めています。
 疾患別の予防策、たとえば、ガンの早期発見法、アルツハイマーや脳血管性痴呆症の
 早期健診法の実用化を求めています。

 医療界はこれにどう応えられるのでしょうか。
 もちろん地道な日常の健康相談や総合的健診、訪問看護・介護など、保健・福祉活動への
 積極的な取り組みも期待しています。


□メディアが取り上げるイベント
 健康講演会やシンポジウムなどのイベントも、広報活動の有力な手段です。
 メディアが取り上げるようなイベントをどう組み立てたらいいでしょうか。
 例えば古い例ですが、沖縄のある産婦人科・小児科の周年記念事業、特別講演および
 シンポジウム「語り合おう十代の性、考えようわたしたちの性」のイベントから学んで
 みましょう。

 このイベント開催の意図は、十代の若者たちとその父母、学校関係者などとともに性に
 ついて考える場を提供しょうというものでした。
 医療の現場で十代の性の不道徳が急増し、希望しない妊娠の増えていることに注目、
 十代の性の危機に対して警鐘を鳴らすために行われました。

 このイベントは地方紙の沖縄タイムス、琉球新報でそれぞれ7段の特集記事として大々的に
 報道されました。
 一つの医療機関の記念事業が沖縄県単位の高いレベルの健康講演会になりました。
 イベントでは、だれに対して何を訴えたいのか、という基本的なことをきちんと整理する
 ことが大切です。
 そこには、社会性、話題性、映像性、ニュース性が求められます。


□HI活動とは「心を洗う運動」
 民間企業の経営戦略としてCIが導入され、病医院でもHI(ホスピタル・アイデン
 ティティ)として注目されています。
 アイデンティティ(IDENTITY)という言葉は、心理学的には「同一性」 、社会学的
 には「存在証明」 、哲学的には「自己主張」という意味ですが、「病医院の自己主張」
 「病医院の存在証明」と理解しておきましょう。

 病医院の掲げる「自己主張と存在証明」は、時代の要請に合致したものでなければ
 なりません。
 民間企業がCIを導入する動機は、経営者の交代、経営方針の変更、社名変更、事業の
 多角化・拡大などのケースが考えられます。
 経営環境が激変し、時代に合った経営戦略の再構築をCIという手法で行ってきたわけです。

 「健康日本 21」は疾病の一時予防を強く求め、病医院にも保健・健診事業への前進と
 変化を求めています。
 業務は単に医療にとどまらず、保健・福祉の分野に多角化して、それに関連するサービス、
 情報、システムをいかに事業化していくかが大きな経営課題です。

 Hlとは、病医院関係者一人ひとりの「心を洗う運動」と言えます。患者が病医院の玄関を
 入ったら、まず、受付の女性が病医院の代表であり、胸に聴診器をあてられ医師と対面
 している場合は医師が病医院の代表です。
 看護師が注射を打っているときは、看護師が代表です。
 電話で病医院を呼び出せば交換手の女性が病医院の代表です。

 病医院関係者一人ひとりがそれぞれの役割で病医院を代表しており、これら病医院関係者
 が新しい時代の要請をどのように理解し、要請にどう応えられるかを点検することです。
 HIとは、地域の人たちに喜ばれる病医院とはどうあるべきか、どんな心の持ち主で、
 どんな理念をもっているのか、どんな心と顔の病医院とするかを再構築する作業です。


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医療・福祉の人材育成と危機管理

医療機関の接遇マナー

医療機関の接遇マナー

医療機関のサービス
 医療機関に対する患者の不満の原因はさまざまです。
 大別すると、医療そのものに対する不満、人的サービスに対する不満、次に、施設
 アメニティなどの物的サービスに対する不満、などに分けられます。
 また、患者が病院を選ぶ判断基準には、表のようなものがあります。

 これは、都市圏の大病院を対象にアンケート調査を実施したものですが、ここでは通院
 アクセスの問題は別として、医療設備や技術への関心、待ち時間の問題と同程度に、
 応対や接遇に関するもの、つまり、病医院スタッフが親切で、話をよく聞いてくれる
 ことに対して高い関心を示していることがわかります。

 要するに、患者さんと多く接触する医師やスタッフの対応の仕方そのものが、病院選びの
 大きなファクターとなっているわけで、病院スタッフの患者さんに対する接遇の良し悪しは、
 医療サービス業としての病院経営のあり方として、重要なテーマでもあるわけです。
 病医院を訪れる患者さんは、他の業種とは異なり、サービスを享受する消費者としての
 お客様ではありません。

 あえて言うなら、不安や迷い、苦痛や悩みを抱え、やむを得ずに訪れてきた弱者です。
 昨今、言われている医療サービスにおける「患者=顧客主義」については、あくまで
 その一面を表しているに過ぎません。
 つまり、医療機関での接遇は、患者さんが一種の弱者であることを認識して、思いやりや
 労わりの心を持ち、きめ細かな気配りを前提として成立しなければなりません。

 すなわち、医療機関での接遇とは、気配りに始まり、気配りに終わるといっても過言では
 ありません。


接遇や応対のあり方とは
 前述の通り、患者さんへの接遇マナーは、医療機関という特殊性を考慮しても、患者サービス
 の原点と言えるものです。
 次に、その基本的なポイントを挙げてみます。


 1.望ましい接遇マナ ー あり方
  ・相手の立場に立って、話を良く聞く。
   治療への橋渡しをする意味で、相手の話の腰を折ったり、誘導したりしないこと。
  ・誰にでも平等に共通の応対を心がける。それが結果的に相手に安心感を与える
   ことになる。
  ・敬語はほどほどにする。
   あまりにもいんぎんな態度は患者さんの気持ちを硬化させることになりかねない。
  ・いつでも変わらない平静な態度を保つ。スタッフの態度が急変すると患者さんの
   不安が増す。


 2.キーワードは3つの<S>
  ・いつも笑顔を絶やさない応対 <Smile>を絶やさない
  ・動作は機敏にテキパキと応対する <Speedy>に行動
  ・いつも誠実な応対を保つ <Sincerity>を心のなかに

接遇マナーにおける気配りの具体例
 医療機関では、患者さん以外にも、ご家族や親戚、見舞い客、さらには仕事上の関係者
 など、さまざまな人々が来院し、そこで職員との接触が繰り返されます。
 接遇マナーにおいても、ちょっとした気配りで、コミュニケーションが円滑になります。
 その事情は、医療の現場においても変わりません。
 ここでは、各部門や診療現場における気配りのある接遇のあり方を具体的に列挙して
 みます。


 1.受付での対応
  ・来院された方には全てこちらから 先に声をかけるようにする。患者さんのプライバシー
   を守るため、質問は口頭で行わず問診表を使って行う。
  ・受付に手間取る場合は、放置しな いで事前にその事情を伝えて、了解していただく。
   その後で患者さんを呼ぶとき には「お待たせしました」の一声をかける。
  ・職員同士の私語は慎む。


 2.待合室での対応
  ・患者さんへの目配りを忘れず、常に一声かけるなどして、患者さんの気持ちを
   やわらげるように努める。
  ・診察の順番間違いは極力なくし、起こったときは素直に謝罪する。
  ・待合室の備品(新聞、雑誌等)は整理し、テレビなどの音量にも配慮する。


 3.診察室での対応
  ・医師や看護師は自らの氏名を名乗ってから、診察に入ることを基本とする。
  ・長時間お待ちになった患者さんだ けでなく、全ての方に「お待たせしました」の
   挨拶が必要。
  ・インフォームドコンセントは判り やすく、できるだけ専門用語は使わないように、
   できれば図表などを活用して説明する。
  ・患者さんへの支持は命令するので はなく、患者さんの自己決定を促すように
   していく。
  ・スタッフ同士の私語は、診療に関わる事柄以外は一切禁止する。
  ・説明するときは必ず患者さんの顔と向き合い、患者さんの心の状態も観察する
   ようにする。


 4.検査室での対応
  ・検査に来られた患者さんには、事前に検査の内容を説明し、不安を除くように
   努める
  ・採血や侵襲のある検査の場合など は、手順や苦痛の程度を詳しく説明しておく
  ・検査が終わった患者さんの状態を 観察し、介助が必要な場合は適切に付き添い
   等を手配する。


 5.会計部門での対応
  ・医療費明細や領収書を必ず発行し、質問があれば丁寧に説明する。
  ・診療報酬制度が変わったときや、 自己負担が変わったときは、その内容をその場で
   説明する。
  ・「お待たせしました」「お大事に」などの挨拶の基本動作は、ひとりひとりに
   徹底しておくこと。


 6.その他
  ・院内表示はわかりやすく、色分けなどして、数ヶ所に表示する。
  ・病院の入り口付近に総合案内を必ず設けておく。
  ・掲示物等は患者さんの目線の位置に配置し、文字もできるだけ大きくしておく。
  ・薬袋や診察券などは、用途や診療部門に応じて色分けするなどして、使いやすく
   なるように配慮する。

  上記のような工夫や気配りは、接遇以前の配慮でもあります。
  しかし、患者さんは職員の態度や応対だけでなく、来院して診察を受け、帰るまでの
  すべての印象から、その病医院の接遇のあり方を判断するわけです。
  経営者は教育だけでなく、医療環境全てが接遇の良さに繋がることを充分に理解する
  必要があります。


□接遇教育のポイント(良いスタッフの資質や条件)
 最後に接遇マナーの向上を図っていく上で、スタッフに求められる条件(資質)をまとめて
 おきます。
 これは、接遇教育を行っていくための目標設定と能力判定の評価項目としても大切な
 ポイントでもあります。


 職員やスタッフの接遇の良さは、その場しのぎであってはなりません。
 そのためには継続的な教育研修の徹底により、 人材育成を図っていく必要があります。
 その指針として、以下のような活動が日常的に実践されていることが重要になります。


  ①接遇マニュアル等により、院内コ ミュニケーション・スキルの共有化を図っていく。
  ②定期的な教育研修のなかで、接遇や患者対応の問題も改めて評価し、再検討していく。
  ③上司や指導者が身をもって規範と なり、患者対応の基本動作を周知させていく。
  ④接遇や患者対応のよい職員への評価(顕彰規定や査定基準)を明確にして、職員の
   意識を啓発していく。


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医療・福祉の人材育成と危機管理

医療事故防止マニュアル

医療事故防止マニュアル

■マニュアル作成について
 このマニュアルは、医療事故の防止に取り組んでいくための“基本的な考え方”を示して
 います。
 各部署の詳細な手順に関しては、各病院ごとに異なって当然ですので、ここでは、全国
 共通と考えられる基本構想のモデルを紹介します。
 ぜひ参考にしていただき、医療事故を最少にするように心がけてください。

 市民の身体、生命を守る使命を持つ病医院として、医療事故は絶対に起こしてはならない
 ことです。
 しかし、人間の営みに「完璧」などありえません。
 だからこそ、意識の統一・知識の整理に、このマニュアルを活用しましょう。
 特に留意していただきたい項目は、最終項の“事故発生時の対応”ではないかと思います。

 注意していても、いつか事故は発生します。
 そのときの対応如何によって、その後の病院の運命(評判とか職員の士気向上など)が
 左右されます。
 そのためにも、全職員が徹底して、マニュアルの内容を頭に叩き込むことが、必要に
 なります。

 病院運営の第一歩として、これらの作業を進めてみましょう。
 以下に、基本モデルとしてお使いいただけるものをご紹介いたします。
 参考資料としてご確認ください。


□基本的事項
 1.用語の定義
  (1)医療事故(アクシデント)
   医療の過程において、予期しなかった悪い結果(患者の死亡、生命の危険、病状の
   悪化等の身体的被害及び苦痛、不安等の精神的被害等)が生じること。
   医療従事者の過誤、過失の有無を問わず、又、不可抗力的な事故も含む。
   ※「医療の過程」とは、医療行為に限らず、 病院内で起きる全ての事象をいう。


  (2)医療過誤
   医療事故のうち、医療の過程において医療従事者が当然払うべき業務上の注意義務
   を怠ったことにより、患者の心身に何らかの被害を発生させること。
   作為(ある医療行為等を実施したこと)によるものと、不作為(ある医療行為等
   を実施しなかったこと)によるものの両方のケースがある。
   法理論的には、(1)過失があったこと(注意義務違反)、(2)結果が生じた
   こと(被害の発生)、及び(3)両者に因果関係が存在すること が問題となる。

  (3)インシデント(ヒヤリ・ハット
   医療の過程において、患者に実際の被害は及ぼさなかったが、医療事故につながり
   かねなかった状況のこと。
   “ヒヤリ”としたり、“ハッ”としたりすること。
   医療従事者の過誤、過失の有無を問わない。


 2.インシデント・アクシデントの分類基準
  インシデント及び医療事故の深刻度を明確にするために、医療事故の分類基準を設定する。
  なお、軽易なレベルの事例であっても、患者及び家族に対する心情的な配慮は十分に
  尽くさなくてはならない。


□医療事故防止のための留意点
 医療従事者は、医療事故を防止するために、以下の事項を常に心がけねばならない。
  1. 医療行為は患者の命に関わる業務であることを常に認識すること。
  2. 専門職として、日々、知識の習得に努めるとともに、医療技術の研鑽を積むこと。
  3. チーム医療の一員として、他の医療従事者との連携を徹底すること。
  4. 患者本位の医療を徹底し、常に誠実な応対を行い、判りやすく十分な情報を
    提供すること。
  5. 自己の健康管理に留意すること。
  6. 職場の整理・整頓・清潔を心がけること。


□インシデント・レポート
 1.基本的な考え方
  ○インシデント・レポート制度を創設し、病院のシステムや設備に潜在するエラー発生
   要因を把握し、改善する。
  ○インシデントを起こした、又は目撃した病院職員は、速やかに上司を経由して
   医療事故防止対策委員会へインシデント・レポートを提出するものとする。
  ○インシデント・レポートは、医療事故を防止するためのシステム等の改善にのみ
   使用する。人事評価や処分には使用しない。
  ○インシデント・レポートの対象は、以下のとおり広義に捉えることとする。

   (1)医療行為に関わるもの
    ・患者への説明不足
     (例)手術同意書を書いてもらわずに手術を行った。
    ・人違い
     (例)同姓の患者を取り違えて医療行為を行いそうになった。
    ・診断

    ・処置
     (例)点滴ルート内の空気抜きが不十分だったことに気付いた。
    ・誤薬 等
     (例)錠剤のmg数を間違えて処方したが、服用前に気付いた。

   (2) 患者自身に関わるもの
    ・転倒
    ・転落
    ・私物の紛失 等

   (3)管理に関わるもの
    ・機器、設備の故障
    ・施設管理上の不備 等

   (4)接遇に関するもの
    ・不適切な接遇
    ・苦情 等

   (5)患者の行為に関するもの
    ・無断外泊
    ・無断離院
    ・患者同士のトラブル 等

   (6)食事に関するもの
    ・誤配膳
    ・異物混入 等


 2.様式
  ○インシデント・レポートの提出を促進するために、各病院・各職種は記入しやすい
   様式を工夫する。
  ○インシデント・レポートの統計的分析を行うために、様式には以下の項目を必ず
   設定することとする。

   ・報告者のプロフィール
    (所属(職種)、経験年数( [1] 2年未満、[2] 2年〜5年、[3] 6年
    〜15 年、[4] 16 年以上)

   ・患者のプロフィール(年齢、病名、病状)
   ・インシデント事例の概要(日時、状況)
   ・発生後の対応
   ・今後の改善策についての意見


 3.報告書の取り扱い
  ○インシデント・レポートは、患者のプライバシーを含む情報であり、適切な管理
   を行うことに留意する。
  ○インシデント・レポートについて、統計的に分析評価を行った結果は公表を行う。


□医療事故防止体制
 1.医療事故防止対策委員会
  ○医療事故防止のための院長の諮問機関として、各病院に医療事故防止対策委員会
   を設置する。
  ○医療事故防止対策委員会は、以下の事項を実施する。

   ・医療事故(インシデントを含む。以下、この項において同じ。)防止対策の
    検討及び研究
   ・各病院の医療事故防止マニュアルの作成及び改正
   ・発生した医療事故の分析及び再発防止策の検討
   ・医療事故防止のために行う職員に対する指示の検討
   ・医療事故防止のための啓発、教育及び広報等
   ・その他必要な医療事故対策


 2.リスクマネージャー
  リスクマネージャーは、以下の事項を実施する。
   ・各部門における医療事故防止に対する改善策の検討及び提言
   ・各病院の医療事故防止マニュアルの徹底状況の点検
   ・インシデント・レポートの提出の励行
   ・インシデント・レポートの分析
   ・その他必要な医療事故対策


□医療事故発生時の対応
 1.基本的スタンス
  ○医療事故が発生した場合は、過失の有無に関わらず、患者及び家族等に対して
   誠実な対応を行うことを第一に心がけなければならない。
  ○公共的使命を担う病院として、透明性のある対応を行わなければならない。
  ○特に医療過誤の可能性がある場合は、事実の隠蔽・秘匿に繋がる行為を絶対に
   行わないよう注意する。


 2.非常態勢の構築
  ○緊急時には必要に応じて応援スタッフを呼集できるよう、予め連絡体制を確立し、
   非常訓練を行っておく。
  ○他の病院への転送等は、時期を失せず行えるよう、予め連絡体制を確立しておく。
  ○特に夜間・休日については効率的な連絡網を整備しておく。
   また、責任ある立場の職員については、自宅で連絡を受けてから病院へ到達
   するまでの所要時間を把握しておく。


 3.患者及び家族等への対応
  ○医療事故が発生した場合は、まず患者に対する最善の処置を行うことに全力を尽くす。
  ○初期対応を行ったのち、できるだけ早い段階で、患者及び家族等に対し、発生した
   事実や行った処置等について誠実かつ判りやすく説明を行う。
  ○その後の患者及び家族等への説明は、必要に応じ、できる限り頻回に行う。
  ○患者及び家族等の心情及び身体状態には、十分な配慮を払う。
  ○過失が明らかな場合は、病院全体としての意思を決定した後、患者及び家族等に
   対し誠意を持って説明し、謝罪する。
  ○過失と事故との因果関係が明らかでない場合は、十分な調査検討を行った上で、
   できるだけ早い時期に説明することを約束し、理解を得るよう努力する。
  ○説明を行った時は、 説明者、 説明を受けた人、 同席者、 説明日時、 説明内容、
   質問と回答等を診療録に必ず記載する。


 4.警察への届出
  ○警察への届出が必要な場合は、速やかに所轄警察署へ届出を行う。
   ・医師が死体を検案して異状があると認めた場合(医師法第21条)
   ・医療過誤によって死亡、または重い傷害が発生した場合、またはその疑い
    ある場合
   ・死因が不明の場合
  ○警察への届出等に当たっては、原則として、事前に患者及び家族等へ説明し、
   理解を求める。
   但し、患者及び家族等の同意の有無に関わらず、必要な届出は行わなくては
   ならない。


 5.事実経過の記録
  ○関係する医療従事者は、初期対応が終わった後、できるだけ速やかに集合し、
   事実経過(事故の概要、患者の状況、処置の方法、患者及び家族等に説明した
   内容、説明に対する患者及び家族等の反応等)を正確かつ詳細に整理し、診療録
   に記載する。
   特に緊急時には各自の事実認識が錯綜し混乱するものであるため、早い時期に
   各自の記憶を突き合わせ、事実を確定して記録しておくことが必要である。
   関係者の口裏合わせによる事故隠しと受け取られないよう注意しなければならない。
  ○記録には、事実のみを客観的かつ正確に記載することを心がけ、想像や憶測は
   排除する。
   報告者が直接体験した事実の記載を中心とし、伝聞した事実は「誰からどういう
   言葉で伝えられたか」が判るように記載する。


 6.医療事故報告(アクシデント・レポート)
  ○医療事故が発生した場合、関係する医療従事者は、事実経過の記録に基づいて
   速やかに医療事故報告を作成し、上司を経由して病院長へ提出しなければならない。
  ○事実関係を的確に把握するために、様式には以下の項目を必ず設定することとする。
   ・報告者のプロフィール(氏名、所属(職種)、経験年数)
   ・患者のプロフィール(氏名、年齢、病名、病状、入院年月日)
   ・事故の詳細な状況(日時、状況)
   ・発生後の対応


 7.公表
  ○公共的使命を担う病院として、透明性ある対応を行うため、発生した医療事故
   のうち、因果関係が明らかになった医療過誤については原則として公表を行う。
  ○公表に当たっては、事前に患者及び家族等に説明し、理解を求めるとともに、
   プライバシーの保護に最大限の配慮を行う。


 8.原因の究明
  ○医療事故防止対策委員会は、事故報告書等に基づいて事実経過を把握し、以下の
   事項について評価検討を行う。
    ・事故が発生するに至った原因の究明
    ・組織としての責任体制の検証
    ・今までに講じてきた医療事故防止対策の効果
    ・類似の医療事故事例との比較検討
    ・医療機器メーカー等への改善要求
    ・その他、医療事故の防止に関する事項
  ○医療事故防止対策委員会へは、必要に応じて関係職員を出席させる。
  ○医療事故防止対策委員会は、医療事故の原因を究明した後、必要な再発防止策を
   検討する。
  ○再発防止策は、原則として公表する。公表に際しては、実施時期を明確にする。

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医療・福祉の人材育成と危機管理

病院経営のための教育研修

病院経営のための教育研修

 ■最大コストは最大の資源
  病院経営にとって、設備や技術導入など、医療資源の効率的な運用はきわめて大切です。
  資源とは「人・物・金・(プラス情報)」。
  そして、経費の50%近くを占めるとされる人材(人的資源)の活用は病院経営の
  基本的な課題であり、特に人材を育成する教育研修は病院機能や医療の質向上に影響
  するだけに、どんな場合でも真撃に検討すべき課題です。
  ここでは、そうした医療資源の大きな要素である人材を活かす教育の問題について、
  その仕組みや取り組み方を検証します。

 □教育の前提となる意識改革の必要性 
  現場職員の研修を実践していく場合、単に豊富な研修メニューを整備するだけでは、
  言わば「絵に書いた餅」になってしまうことはしばしば経験されることです。 
  なぜなら、教育研修といえども、ある経営目標を達成していくための事業であり、
  そこには経営層から指導者層、現場職員に至るまで一貫した方針や共通理念が流れて
  いなければなりません。 
  すなわち、病院の経営ベクトルを再認識するという意識改革の中からプログラム
  されていないと、大きな効果は生まれないのです。 
  ここで、教育研修の具体的な仕組みを構築する前に、次のような病院経営の根本的な
  問題点を再評価し、職員、医療スタッフの参画意識を醸成しておくことが必要に
  なります。

  ◎経営理念や経営方針が末端にまで浸透しているか?  
   トップや管理職が病院の経営理念や経営方針を職員に開示しておかないと、
   現場職員と幹部職員との経営意識に乖離が存在し、職員間に将来に対する不安感
   がつきまとい、それが研修意欲を阻害してしまうことになります。
   これは、経営者と職員間の信頼性のありようを考えるうえでも、常に配慮して
   おくべき課題であると思われます。

  ◎指導者に職員の信頼を得て、やる気を起こさせる魅力があるか?  
   部門長クラスや職員教育を任されている管理職が、職員に信頼感を与える魅力を
   もっているか?   
   いくら教育研修の方法論に職員のやる気を起こさせるアイデアがあっても、
   指導者側に教育者としての強いモチベーションや意欲がなければ、職員のやる気は
   生まれません。  
   研修指導者は、そうした指導力によってのみ評価されるものです。

  ◎財務状況をはじめとするあらゆる経営情報が、現場へ開示されているか?  
   医療機関においても、IT技術を駆使した医療情報システムの整備が進展していますが、
   そうした診療情報や経営情報を、経営層から職員へブレイクダウンをしておかないと、
   職員の経営参加意識は高まりません。  
   そして、教育の現場においても職員の上部への信頼感は得られません。  
   経営部門は現場で発生する様々な情報を(たえそれがネガティプな情報であっても)
   適正に開示して、教育を受ける職員の立場を明確にすると共に、就業意識向上に
   役立てるようにする必要があります。

 □職員満足のための教育研修のあり方 
  教育研修では、いずれも経営トップや理事会が承認し、具体的な成果目標のもとに
  職員にも認知された事業計画(予算化されたプロジェクト)として進められなければ
  ならないことは言うまでもありません。 
  また、それぞれの研修において、研修対象や研修形式の多様性を理解し、それぞれを
  教育ニーズに沿ってプログラムしていくことや、適正な予算をどの研修に重きを
  置いて配分していくかなどを明確にしておかなければなりません。

 □教育研修の実施における注意点 
  教育とはそれ自体が目標ではありません。 
  それは、あくまで手段や方法であって、目的はその教育によって病院の健全な経営
  において何を実現するのかを明らかにすることです。 
  そこで、教育研修を実施していく場合、その前提となる「何のために研修が必要なのか」
  という教育ニーズを把握し、そのための最適な方法や手段を選んで前項のような
  研修バリエーションを展開していくべきでしょう。 
  教育ニーズを把握するには、以下のようなステップで現在の環境や目標を分析し、
  それをもとに教育ニーズを把握しておくことが求められます。

  ①外部環境の変化を認識する  
   ここではまず取り組むべきは、医療資源の現状を把握し、地域経済の動
   向、地域医療の実態、病院の診療環境とスタッフの稼動状況などの現状
   認識から教育すべきテーマを開発します。

  ②内部環境の変化を認識する  
   非営利組織であり、社会的貢献を義務付けられている医療機関では、一
   般の企業以上に、経営のための理念構築が必要です。   
   経営理念とは、日常行為における判断基準や行動規範の根拠となるもの
   で、中長期目標などの経営計画の前提ともなるものです。  
   こうした変わらない価値や理念をもとに、組織や体制の仕組み、財務体
   質の強みや弱みを分析し、その変化を明らかにしていく必要があります。

  ③経営計画を明確にする 
   中期計画は、3年〜5年の比較的短期スパンの経営目標を設定するものです。
   そこには戦略的視点よりも、具体的な戦術や数値目標・到達レベルなど
   が示されます。
   長期計画は、地域医療圏の変化や医療制度の変革などに合わせ、医療環
   境の構造変化を捉らえて、10年以上の長期にわたる経営スケジュールを
   設定するものです。
   そうした計画(マニフェスト)を明らかにしておくことが必要です。

  ④人材イメージを明らかにする 
   教育研修おいては、もっとも期待される職員イメージを具体的に明らか
   にしておく必要があります。
   それは、職員それぞれの職能と教育目標を一致させておくことにも繋が
   ります。
   たとえば、管理職研修においては本来の教育指導や職場環境の改善、リ
   スクマネジメントの遂行など、難易度や優先度の高い仕事に従事する職
   員としてイメージするべきです。
   勤怠管理や医薬品管理・備品管理など、いわゆる管理職の日常的で瑣末
   な仕事、たとえばシステム部門や事務部門に移管できるような仕事が真
   っ先にイメージされるようでは、管理者の育成は望むべくもありません。

  ⑤成果配分や評価の基準を周知させておく 
   医療はこれまで医師が主体となって業務を掌握してきました。
   この状況はチーム医療が確立しつつある大きな医療機関では少しずつ改
   善されているようですが、まだまだ一般の医療機関では、チーム医療の
   アウトカムを基本とした成果配分が行われていないのが現状です。
   今後は職域や職制ごとの貢献度評価主義を導入することや、合理的な職
   能資格制度などを再構成するなどして、合目的なルールによって病院独
   自の成果配分の方法を、期待される人材イメージにおける教育の目標に
   組み入れていき、それを研修目的として周知させていくことが大切にな
   ります。

  ⑥研修課題の発見とその優先付けを行う 
   上記の検証を実施したうえで、職員個々の目標達成状況を勘案し、それ
   ぞれの教育課題や教育ニーズを明確にするとともに、教育ニーズの優先
   度を判定していくことが可能になります。

   教育ニーズの優先度については、重要性、緊急性、有効性、実現可能性
   の視点で、教育プログラムの課題や優先順位を考慮し、病院や施設の特
   性、教育予算・スタッフの実力などとの整合性を図りながら、実践して
   いくことが必要です。 

   病院の職員・医療スタッフは有資格者の集団であり、能力開発へのモチ
   べ−ションを常に持っている専門職です。
   しかし、明確な目標が示されないと日常業務に埋没し、士気が低下して
   しまうものでもあります。

   だからこそ、職員の能力開発のプロジェクトやキャリアプランが必要に
   なってくるのです。 
   それらのプランは中長期計画に基づき、病院機能に即した専門特化した
   スタッフ育成となるのか、ジェネラリストを養成して全体としての医療
   レベルに貢献していくのか、個々の病院の実現目標によって、導入の仕
   方が異なってきます。

   また、キャリアの評価システム(職能資格制度や職務基準制度の人事考
   課システムと連動した独自の貢献度評価システムなど)によるバックア
   ップも不可欠であり、さらには独自の能力開発プログラムとの連動も求
   められます。 
   職員に対する能力開発のカギは、病院に限らず社会のどこででも認めら
   れる能力とキャリアを自己啓発できる環境を、全ての職員に提供できる
   かにあります。
   それが最後には自院の医療の質を担保することにも繋がるのです。

 □研修の設計ポイント  
  教育研修の設計に関して、簡単にまとめると次のようになります。  
   ①経営計画(経営ビジョン)と現実問題との差分(または帝離)を教育
    の導入ニーズとする。  
   ②教育のテーマを、外部環境や内部環境そのものではなく、その変化か
    ら抽出する。   
   ③そうした課題に一気に取り組むのではなく、現実的な優先度を考慮し
    て徐々に実践する。  
   ④研修後の個人評価は時間をおかず(鉄は熱いうちに打て)、再教育に
    つなげる。
    アダプテーションに問題があれば、研修プログラム自体の見直しも含
    めて再構築していく。  
   ⑤あくまで、職員のやる気を活かす魅力あるプログラムを指導者自身が
    発見し、組み立てる。  
   ⑥外部の企画会社等が提供する研修プランはあくまで参考にとどめ、教
    育プログラムは、直接、現場の教育ニーズから組み立てる。

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医療・福祉の人材育成と危機管理

歯科医院経営とマーケティング

歯科医院経営とマーケティング


  ■歯科医院の動向

   現在、歯科業界は構造不況業種の一つとされており、業界内の競争が年々激しさを増して
   います。

   歯科医師は毎年約2,000人近く増加し続けていますが、歯科医院の多くが個人事業主であり、
   定年による引退がないので歯科医院は増える一方です。 

   しかし日本の人口は減少傾向であることを考えると、患者数が増えるということは考え
   にくく、増え続ける歯科医師が患者を奪い合うという状態が今後も続くことになります。 

   2017年度の歯科医院の倒産数は20件で、前年度と比較して81.8%の増加となりました。 

   厚生労働省の調査によると、2017年時点では歯科医院の数は68,940件となっています。

   コンビニの店舗数は5万5322軒(日本フランチャイズチェーン協会調査17年12月末)で、
   コンビニの数より多い状況です。 

   平成28(2016)における全国の届出「歯科医師数」は104,533人で、「男」80,189人
   (総数の76.7%)、「女」24,344人(同23.3%)となっています。

   平成28年届出歯科医師数を前回と比べると561人、0.5%増加している。

   また、人口10万対歯科医師数は82.4人で、前回に比べ0.6人増加している。 

   1日当たりの患者数は95年以降減少頼向にある一方、歯科医院数は増加しており、限定された
   マーケットの中で歯科医院が増加し、医院間の競争が激化している状況にあります。

   そのために、各医院では他院との差別化を図ることができるように、

    ・ターゲットとなる患者層の明確化

    ・自由診療の増大

   など、来院者の増加と診療単価アップのための対策に苦慮しています。

  □歯科医院経営のポイント

   歯科医院経常のポイントは、医業収入の拡大、維持という観点から次の2点が考えられます。

    1.患者の獲得と固定化

    2.診療単価の向上

   1.患者の獲得と固定化

    患者の獲得と固定化を図る場合、通常以下のステップに分けて対策が行なわれます。

     a.自院を知ってもらう

     b.再び自院に来院してもらう

     c.他の患者を紹介してもらう 

    a.自院を知ってもらう

     広く地域住民に自院が存在することを知らせると同時に自院に対する好ましいイメージを
     もたせ、来院を促すような広報活動を展開することが必要です。

     ただし、広告宣伝を行なう場合、医療法において、

      ・歯科医師であること

      ・診療科名

      ・名称、電話番号および所在地

      ・歯科医師の氏名 

      ・診療日と診療時間

      ・入院設備の有無

      ・紹介をすることができるほかの病院または診療所の名称

      ・診療録その他の診療に関する諸記録に係る情報を提供することが
       できる旨

      ・その他厚生労働大臣の定める事項

     以外は広告をしてはならないことになっています(*)。

     したがって広告のみで、好ましいイメージをもってもらうような十分な告知活動を行なう
     ことは容易ではありません。

     そこで、 

      来院を促すために、

      イベントの開催(来院患者だけでなく、広く地域住民にアピールする
      イベント)や院内報の発行などを積極的に行なうことも検討きれた
      ほうがよいでしょう。 

      *歯科医院には直接の影響はあまりありませんが、このほかにも「療養型
        病床群の有無」についても広告できるとされています。 

    b.再び自院に来院してもらう

     一度来院した患者の転院を防ぎ、再来院を促すには、患者との間に良好なコミュニ
     ケーション関係を築く必要があります。

     そこで、 

      患者の立場に立った臨機応変の応対を行なうことで、
      患者の安心感と満足度を高めることができるよう、
      スタッフ教育に注力する必要があります。
      また、治療方針、治療手順に関して
      患者に十分納得してもらうように説明することを心がけるようにしましょう。 

     さらに、患者を維持・確保する方法として、リコールを積極的に行なうことも大切
     です。 

      リコールは、患者と継続的にコミュニケーションを図り、
      自院の固定患者となってもらうための有力な手段です。 

     具体的には、治療終了後にハガキを出すことにより、定期健診を促すことになります。

     定期健診が実現することで、歯科医院にとっては患者の固定化が可能となり、また患者に
     とっては虫歯を早期に治療できるというメリットが生じます。

    c.ほかの患者を紹介してもらう

     自院のことをほかの患者に紹介してもらえるまで、患者の固定化を進め、地域の患者は
     確実に自院に吸収するシステムを作り上げることがここでの狙いとなります。

 

      新規患者の大部分は、
      近隣の評判や友人・知人の紹介などによって、
      どの歯科医院に行くかを決めていると考えられますので、
      口コミでの評価を高めることが望まれます。 

     たとえば、自院の親派団体をつくり、そこに所属する患者を確実に自院に吸収するような
     仕組み作りを行なうことが考えられます。

     そのための有効な方法のひとつが、「おやつ教室」「歯周病の予防」「歯のかみあわせと
     健康」などをテーマにした「イベントの開催」です。

     具体的には以下に記すような団体を対象に実施することが考えられます。

      ・保育園、幼稚園、学校

      ・子供会、婦人会、老人会

      ・スポーツクラブ、カルチャーセンター

      ・病医院(一般医科)

      ・一般企業、金融機関

      ・理美容院、エステティックサロン

      ・経営者グループ(JC、ライオンズクラブなど)  

     ただし、「イベント開催」を行なう場合の留意点として、 

      アピールすべき医療技術サービスなどがなければ、
      単なる「客寄せ」として受け取られ、
      逆にイメージダウンとなるリスクがあるということが挙げられます。

   2.診療単価の向上

    競合関係が激化するなかで勝ち残り、収益を拡大していくには、前述した「患者の獲得と
    固定化」を進めると同時に診療単価をアップしていく方法が考えられます。

    診療単価を上げるひとつの方法として、自由診療を増やすことがありますが、この時に
    注意すべきなのは、「保険では診てくれない」という誤った認識を患者に与えないように
    配慮しなければならないという点です。

    そのためにも 

     「保険の枠内では十分な治療ができない」ということを
     患者の納得がいくまで十分に説明することが必要です。

  □歯科医療のマーケティング 

   ラーメン屋さんも天下のアマゾンもお客様がいなければ倒産してしまいます。

   今までは黙っていても患者(お客)さんが来てくれました。

   しかし、少子化・患者ニーズの多様化・医院の増加さらに2002年に予定される抜本的
   医療改革等、歯科医院経営は一般ビジネスと何ら変わらないれっきとしたサ−ビス業です。

   これからの歯科医療経営は大きな節目となり規制緩和が進み、自費治療分野にアメリカ資本
   の導入、国内企業の参入により低価格の自費診療の普及など生き残りをかけた戦国時代の
   到来は必至であります。

   グローバルスタンダードの流入に対応していくためには「ドクター中心の医療」から
   「患者中心の医療」というマーケティング力の強化が急務ではないでしょうか。 

   貴院では下記事項を理解し、対策を講じているでしょか?

    ・うちは最新の技術・設備があるから大丈夫?

    ・「患者」としてではなく「お客」として接しているか?

    ・中断患者の再来院の促進は?

    ・貴院の強みは?

    ・スタッフの育成は?

    ・ドクター中心の医療になっていないか?

    ・患者(お客様)とのコミュニケーション(信頼関係)は?

    ・患者の不満で一番多いのは何?

    ・「おまかせ医療」から「納得の医療」へ

    ・患者のための会報誌は?

    ・貴院の特典は?

    ・院長の意識改革からスタッフの意識改革

    ・貴院に対する患者の不満足は

    ・患者一人ひとりに親切丁寧な治療説明をしていますか

    ・患者(顧客)満足はまずスタッフ満足から

    ・貴院のファンはどれだけいますか

    ・乳児対策は

    ・母子の囲い込みは

    ・治療のアフターケアは

    ・「痒いところに手が届く」経営

    ・患者(顧客)を生涯顧客にしていくための患者教育は

    ・コストをかけずに中断患者の再来院を促進

    ・「歯の治療」から「歯のケア」(ホワイトニングによる白い歯)

    ・貴院でできるテレマーケティングによる増患戦略

    ・患者(顧客)情報のデータベース化がされているか?

    ・DM・インタ−ネット(ホームページ)を活用してますか

    ・診療日時の見直し

    ・往診・患者の会

    ・来院者へのアンケートの活用

    ・院内環境は

    ・治療過程・薬・治療費等の説明が丁寧ですか

    ・インフォームド・コンセント

  □繁盛院の実践具体策 

   繁盛院は患者をお客様と理解し接しています。

   一般のビジネスと同じように患者のニ−ズとウォンツを把握し実践するためのマー
   ケティング力を強化していかなければなりません。

   患者の不満で一番多いのは何かご存知だろうか。

   「何で一回の治療をチョコチョコやって何回も通院させるのか」お金儲けのためにやっている
   のではないかと思っている。

   この治療行為がなぜ必要なのかの説明不足からである。

   また、40代以上の患者は理解し納得しなければ治療を受けたくないないという人が多い。
   (言わないのは遠慮か、我慢してるだけ)

   赤ちゃんのいるお母さんが歯医者さんに来れない理由は、子育てが大変でという理由より、
   歯医者さんに迷惑がかかるという不安からである。

   このように歯科医院内の一人ひとりが患者の立場に成り代わってどうしたら喜ばれ、感謝
   されるかを院内のミーティングで徹底的に討議し、実践していくことが勝ち組みになる
   必須条件です。

  □「名医の条件」

   ある歯科医は治療に来た患者に必ず日曜日に電話をするそうです。

    「その後、歯の具合はいかがですか?」

   たったこれだけのことで、この歯科医院は予約で満杯です。

   技術や設備において、どの歯科医院も大差はありません。

   来院者を「患者」として捉えるのではなく、「お客様」として接することが差別化に繋がる
   事例です。

   残念ながら、私自身はそのような歯科医院に出会ったことはありませんが、もしもそのような
   対応をされたなら、私は一発でファンになります。

   更に、そこで良好な人間関係・信頼性が生まれれば、虫歯が完治していたとしても、たとえば
   歯のクリーニング、あるいはホワイトニングといった、スポットのニーズを顕在化できるかも
   しれません。

   当然、リピーターになるでしょうし、友人にも紹介しますよね。

   ぜひ、あなたも、組織として、このような「仕組み」づくりをしてみてください。

   貴院のサービスをいったん利用したら、二回目以降は、必ず他院ではなく、あなたから
   サービスを受けたくなるはずです。

 

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医療・福祉の人材育成と危機管理

介護施設における危機管理

介護施設における危機管理


  ■介護施設におけるリスクマネジメント

   介護施設におけるサービス提供の基本は、利用者やその家族の安心・安全を確保
   することであり、そのためには、利用者の介護事攻防止と万一事故が発生してし
   まった際の対応までを考慮したリスクマネジメント体制の確立が必要です。

   ここでは、「利用者の安心・安全」に重点を置き、利用者に関するリスクに焦点を当て
   て、介護施設におけるリスクマネジメントについて考えていきます。
  
  1.リスクマネジメントの取り組みの基本 
    リスクマネジメントの取り組みを進めていくには、想定されるリスク(事故など)を
    洗い出し、それがどのような場面で起きやすいのか、これまでに同様のリスクが 
    どれだけの頻度で発生しているのか、それがどのような結果を引き起こしたの
    かを正しく分析・評価することが必要です。

    その上で、リスクの発生や影響を最小限に抑えるために、業務手順書を作成
    し、業務の手順や事故が発生した場合の適切な処理手段を、あらかじめ計画
    し、準備しておくことが求められます。

    こうした取り組みを組織として進めるためには、トップが基本方針を策定、コミッ 
    トメントし、PDCAサイクルにのっとって継続的に改善を図っていくことが有効と
    いえます。

  2.リスクマネジメントの位置付け
    介護施設におけるリスクマネジメントは、利用者の介護事故防止のための個々
    の取り組みに基づいて、リスク(利用者やその家族に被害を与えてしまう事象)
    を把握し直し、これを施設全体としてマネジメントしていく活動と位置付けられま
    す。

    介護施設の中には、「ヒヤリ・ハット報告書」「事故報告書」などの様式を整備し
    たり、各種の委員会(安全管理のための委員会など)を設置したりして、既に事
    故防止に向けた取り組みを行っているところもあります。

    こうした取り組みを個別の報告の場にとどめることなく、より体系的に、職員の 
    教育研修、業務手順書の整備や業務手順の見直し、必要な設備・備品の購入
    などと連動させていくことが求められます。

  3.リスクマネジメントのフレームワーク

    介護施設におけるリスクマネジメントのフレームワークは以下を参考にしてみて
    ください。

    東京都福祉保健局社会福祉施設におけるリスクマネジメントガイドライン

    事故防止のための関連活動であるヒヤリ・ハット報告と事故報告を制度化する
    ことによってリスク特定(発見・把握)を行います。

    リスク特定(発見・把握)で明らかになった具体的なリスクの内容(要因・経過)や
    リスクの影響度については、安全管理のための委員会が分析・評価を行う。

    安全管理のための委員会では、これまで事放には至っていない自施設で発生 
    したヒヤリ・ハット事例や、他の施設の事政事例なども踏まえて、発生すると重
    大な被害を及ぼすことが懸念される事象についてもリスク分析・評価の対象とし
    ます。

    その上で、自施設の実情に合わせて、リスクへの対応方針と具体的な手段を定
    めていきます。

    業務手順書の整備、職員研修、利用者の家族とのコミュニケーションによって、
    リスクコントロールを行います。

  4.利用者と施設のPDCAサイクルを連動させる

    リスクマネジメントの取り組みを介護施設の運営全般に関連させて進めていくに 
    は、個別援助計画に基づく利用者一人ひとりのレベルでのPDCAサイクルと、施
    設レベルのPDCAサイクルを連動させていくことが求められます。

    リスクマネジメント体制の構築は一朝一夕にできるものではありませんが、施設 
    全体としてサービスの質の向上を目指し、PDCAサイクルを通じて、自ら課題を
    発見し、その解決策を見つけ出し、継続的な改善につなげるプロセスを定着さ
    せていくことが重要です。

     PDCA のサイクル
      目標を設定したら、必ず達成状況を検証しなくてはいけません。
       PLAN(目標設定)⇒ DO(実行)⇒ CHECK(検証)⇒ ACTION(目標の修正と実行)

  □事故防止のためのリスクマネジメントのポイント

   1.施設長によるコミットメント
     利用者が安全かつ能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう、介 
     護施設には、リスクマネジメント体制の確立が求められます。

     そのための第一歩は、組織のトップである施設長によるコミットメントです。

     施設長の熱意やビジョン(理念)が無ければ、施設のサービスの質は改善でき
     ず、職員のモチベーションにも大きく影轡を及ぼします。

     施設長は、組織のトップとして、介護福祉の専門家として、利用者の生命や権 
     利を尊重するビジョンや、施設の事故防止に関する基本方針、現場でケアを
     行う職員の指導方針などを、施設内外のステークホルダー(特に、職員および
     利用者やその家族)に対して明示する必要があります。

     特に、施設内に対しては、自分たちが、利用者の生活の質の向上や安心・安
     全の確保のためにどのように対応しようとしているのか、全体像や個別の取り
     組みの狙いなどを繰り返し伝え、職員一人ひとりが事放防止の重要性を理解
     するようにしなければなりません。

   2.報告制度による情報共有
     事故には至らなかったものの肝を冷やしたり、ふとした拍子に危険に気付いた
     りした体験や、人の死傷、物損など実際に被害が発生したような事故につい
     て、「ヒヤリ・ハット報告書」「事故報告書」などの様式を整備し、情報共有する
     ことを制度化します。

     これらの制度を通して報告される事例を分析することは、重大な事故を未然に
     防止するために有効な手段であることから、介護施設以外でも広く導入されて
     います。

     報告制度を定着させ、共有した情報を現場で活用するためには、ヒヤリ・ハット
     や事故の情報が、介護施設におけるサービスやケアの質の向上につながる
     教訓であり、介護施設全体で共有すべきものであるという共通認識を職員に
     浸透させなければなりません。

     そのためには、報告制度の目的は事故防止であり、責任の追及ではないこと
     を職員に理解させ、職員の報告を奨励し、習慣付ける必要があります。

     報告制度が定着すれば、職員に利用者をよく観察する習慣が身に付き、サー
     ビスの質の向上にもつながることが期待できます。

     例えば、利用者の歩き方の癖や特徴、前日眠りが浅かった利用者の感情、行
     動の変化など、事改発生の原因となりそうな事象を観察する視点が明確にな
     るとともに、事改発生の本質的な原因を考えたケア方法の工夫にもつながりま
     す。

     なお、報告制度は忙しい業務の中でも報告しやすいように、それぞれの介護
     施設の特性や考え方に沿った仕組みづくりを心掛ける必要があります。

   3.安全管理のための委員会設置と運営
     安全管理のための委員会(以下「委員会」)は、報告制度を通じて収集された 
     ヒヤリ・ハットや事故の事例などを分析し、対策の検討・決定、施設内への周
     知、定期的な効果の評価などを行う、重要な意思決定機関です。

     委員会では、利用者やその家族からの意見・要望、職員からの改善提案など
     も含めて、情報を一元的に集約します。

     委員会の構成メンバーには、現場の各部門の代表、専門性の異なる多職種、
     機関決定の権限を有する管理者層を含むことが重要です。

     部門、職種、職位などバランスの良いメンバー構成とすることで、偏りがなく現
     場に即した実効性のある対策の議論、活動へとつながることが期待できます。

     また、適切なタイミングで適切な活動が行えるように、委員会および構成メン
     バーのそれぞれの責任と権限の範囲を定めておくことも大切です。

     委員会の目的と役割、構成メンバー、開催頻度などは文書化し、全職員に通
     知します。

     そうすることで、提出した報告書がどのようなプロセスで集約されているかを共
     有することができ、全職員一人ひとりの委員会に対する理解を深め、委員会
     の活動を円滑に進めることにつながります。

     なお、委員会において検討・決定した対策については、現場での実施状況や
     効果を定期的に把握し、必要に応じて見直すようにします。

   4.業務手順書の整備
     介護施設におけるサービスの質を確保するためには、ケアの基本的な部分に 
     ついて、誰が担当しても同じ方法、同じ内容で行われ(業務の標準化)、ケア
     の目的が確実に達成されなければなりません。

     そこで、適切なケアについて標準的な手順を示す業務手順書を整備します。

     業務手順書を整備しておくことで、万一、事故が発生した場合にも、ケアを実
     施した職員の行為を保証し、施設として職員を守ることにもつながります。

     ただし、介護施設では利用者ごとに配慮すべき事項が異なるため、全ての業
     務を手順書で標準化できるわけではありません。

     利用者ごとに配慮すべき事項は、ケアプランや個別援助計画書の中に明記
     し、関係者が共有することが大切です。

     標準的なケア手順と、個々の利用者に合わせた配慮事項を共有することで、
     質の高いケアが実現します。

     また、業務手順書は、内容を更新しなければ徐々に現場の業務やケアの実態
     と釆離(かいり)してしまいます。

     現場で使いやすく、役に立つように、絶えず実態や最新のケアの知見、技術に
     合わせて業務手順書の見直しを行うことが重要です。

   5.介護記録の作成・活用
     ケアの記録を適切に作成し、その内容を時間の流れに沿って確認することに
     より、利用者一人ひとりについて、経過の把握や状態変化に応じた対応、必要
     に応じた個別援助計画の見直しが可能となります。

     そのため、介護記録には、日々の利用者の状態、観察結果や提供するケアの
     内容、実施状況、その他の特記事項や申し送り事項などを漏れなく記録しま
     す。

     万一、事故が発生した場合にも、適切な記録が作成されていれば、それを開
     示することにより提供したサービス内容が適切であったことを示すことができ
     ます。

   6.職員研修
     報告制度を効果的に運用するためにも、ケアの手順を適切かつ確実に実施  
     し、事故を防止するためにも、職員一人ひとりがその背景となる考え方を理解
     し、必要な知識やスキルを正しく確実に習得することが重要です。

     そのために行うのが職員研修です。

     組織全体として、事故の防止や安全の確保、ケアの質の向上に必要となる知
     識、技術、考え方などについて職員が習得すべき内容を明らかにし、その上
     で、研修計画を立てます。

     研修計画には、研修のテーマと習得目標、受講対象、実施時期、スケジュー
     ル、講師、会場、テキストなど具体的な内容を盛り込みます。

     研修の方法としては、外部研修への参加、外部の講師の活用、内部の講師に
     よる研修などがあります。

     また、座学による基本的な知識の解説、事例を基にしたグループワーク、ケア
     の実習など様々な形式があります。

     研修の狙いや期待する効果などに応じて、適切な方法、形式を組み合わせる
     ことが大切です。

     また、受講対象となる職員がなるべく多く参加できるように、業務時間に配慮
     し、利用者や職員の負担にならないスケジュールを設定する必要があります。

     なお、研修を実施したら、その効果や課題を把握して、次の研修計画を検討・
     立案する際の参考とします。

   7.利用者の家族とのコミュニケーション
     日ごろから利用者の家族とのコミュニケーションを円滑にして、信頼関係を構
     築することが重要です。

     利用者の入所時、契約時には、施設での生活やケアの内容について十分に
     イメージできるように利用者やその家族に情報を提供します。

     また、利用者やその家族が望む生活を理解し、その上で施設における生活や
     ケアの方針について、施設担当者と利用者・家族が一緒に考えて決めるよう
     にします。

     介護施設での利用者の生活については、介護施設側から家族に状況を積極
     的に伝えるとともに、家族からの意見や要望、苦情をうまく引き出す工夫も必
     要です。

     例えば、アンケートによって満足度調査を行ったりすることが考えられます。

  □介護施設における介護事故などへの対応

   1.介護事故に対する基本的な考え方
     利用者の介護事故防止に向けた取り組みを進めても、事故の発生を完全に
     防ぐことは困難です。

     介護施設によって提供するサービスは異なりますが、例えば、通所介護施設
     であれば、利用者の送迎(転倒、交通事故)、食事(誤嚥)、入浴(溺水(できす
     い))など、どのサービスにもリスクが潜んでおり、場合によって利用者の生命
     に関わることもあります。

     そこで、介護事故が発生する可能性はゼロではないということを常に念頭に、
     事故の早期発見、早期対応を行い、被害を最小限に抑えることが基本的な考
     え方となります。

   2.介護事故発生時の緊急対応
     介護施設では、事故を発見したときや、自分が事故を起こしてしまったときに
     も、職員は動揺を抑え、落ち着いて迅速かつ的確な対応を行わなければなり
     ません。

     いざというときに備え、あらかじめリスクを想定し、対応を手順書として整備し、
     職員研修によって徹底を図ることが重要です。

      社会福祉施設のリスクアセスメント (厚生労働省)


   3.感染症や食中毒に対する基本的な考え方
     介護施設の利用者は、高齢であったり、障害を持っていたりするため、免疫力
     や抵抗力が一般の人よりも弱く、感染症や食中毒にかかりやすいといわれま
     す。

     介護事故と同様、感染症や食中毒が発生する可能性はゼロではないというこ
     とを常に念頭に置き、原因、感染経路などの情報を備えた上で、衛生管理を
     徹底し、利用者をケアしなければなりません。

     職員自身が感染経路とならないように注意が必要です。

   4.集団感染が発生する可能性の高い主な感染症の例
     介護施設では、集団感染が発生しないように対策を講じる必要があります。

     集団感染が発生する可能性の高い主な感染症の例は次の通りです。

          出所:厚生労働省高齢者介護施設における感染対策マニュアル

 

     感染予防は、病原体を持ち込まない、病原体を持ち出さない、病原体を広げ
     ないことが重要です。

     その基本となるのは「1ケア1手洗い」「ケア前後の手洗い」の徹底です。

     血液や体液、嘔吐物、排せつ物などを扱うときには手袋やマスクの装着が必
     要となります。

     また、必要に応じてゴーグル、エプロン、ガウンなどを着用します。こうした場
     合、一度使用したものを、そのまま次のケアに使用しないことを徹底します。

  □介護施設におけるリスクマネジメントマニュアルの作成

   1.参考資料
     東京都福祉保健局「社会福祉施設におけるリスクマネジメントガイドライン

     厚生労働省「高齢者介護施設における感染対策マニュアル     


   2.報告書様式
     事故報告書様式などについて、各都道府県の福祉担当部局で用意している
     場合があります。

     例えば、大阪府福祉部高齢介護室介護事業者課居宅グループ「事業者様式ライブラリー
     のウェブサイトで利用者へのサービス提供にかかる重要事項説明書などのモデル様式や、
     事業所の運営にかかる資料等を掲載しています。

   3.ヒヤリ・ハット事例
     福祉用具に関する調査研究および開発の推進などを行うテクノエイド協会で
     は、福祉用具に起因する介護事故の防止に向けてヒヤリ・ハットの事例を掲載
     しています。

     テクノエイド協会「福祉用具ヒヤリ・ハット情報

     また、ハートケアグループ(本部:大阪府藤井寺市)では、同業の介護事業者 
     に向けて、介護サービス現場において、同グループが経験したクレーム内容
     や、幸い被害が小さく大事に至らなかったミスなどを「失敗事例」として、また、 
     利用者の相談内容から実際にどのように専門職として対応することで改善す
     ることができたかを「成功事例」として掲載しています。

     ハートケアグループ「介護事業者の方へ 事例集とヒヤリ・ハット


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医療・福祉の人材育成と危機管理

医療機関のコストダウン

医療機関のコストダウン
 

  ■医療機関におけるコストダウン

   病医院を取り巻く経営環境が厳しくなるなかで、

    ・より多くの患者を集めるために資金を投入して院内環境の整備を行なうこと

    ・無駄な経費を減らして効率的な運営を行なうこと

   が病医院に求められています。

   患者サービス向上が重要視されている現在、病医院においては、コストダウンと
   同時に、集患のためにサービスの質を高めることが必要になります。

   病医院のコストのなかで大きな割合を占める項目には、

    ・人件費

    ・材料費

    ・委託費

    ・減価償却費

   があります。

   患者1人あたりの医療従事者数を増加させれば提供できるサービスの質を上げ
   ることはできますが、たんに人員や業務量を増やすのでは人件費の負担が重くな
   るばかりです。

   また、緊急の場合に備えてあらゆる備蓄品を整えておくようにすれば材料費がふ
   くらみ、過剰な在庫を抱えることになりかねません。

   近年では院内の一部業務を外部委託することで患者のアメニティーの充実と人
   員減を図っているところもみられますが、一方で委託費は増大することになります。

   このように、医療機関においてコストダウンの問題を考える場合には、

     その経費を使うことで、どの程度の収益増(患者獲得)につながるか
     という費用対効果のバランスを考えながら検討する必要があります。

  □業務改善によるコストダウン

   医療業は、収入に占める人件費の割合が高い労働集約型の産業です。

   したがって、残業手当やパートタイマーの給与の削減につながる業務の改善は、
   大きなコスト削減効果を期待できます。

   業務の改善を実現するためには、職員のミーティングの場で業務を見直し、次の
   ような視点から無駄を排除するための対策を検討していきます。

    ○不要業務の廃止・省略

     現在の業務の洗い出しを行ない、必要のない業務については、定例業務から
     はずす。 

     ただし、その業務が急に必要となったときは、いつでも要求に応じられるような
     体制だけは整えておく。

    ○簡素化

     定例業務をたえず見直し、短時間でできるよう、業務の簡素化を図る。

    ○OA化の推進

     各種業務にパソコンや一連の事務機器を活用しOA化を図る。

     また、そういった機器を使用して必要情報の共有化を図り連絡・打ち合わせの
     時間を短縮する。

    ○平準化

     1日、1カ月の業務計画を作成し、一時期に業務が集中しないよう、可能な限り
     平準化を行なう。

     どうしても業務が集中してしまう時期には相応の対策(パートの確保など)を検
     討する。

    ○統合化・集約化

     業務の重複がないよう、統合化・集約化を図る。

   ただ、注意しなければならないのは、

    あくまでも無駄な業務は排除するものの、
    患者へのサービスは向上させなければならないという点です。
    効率的に業務を行なうことで生じた時間を
    患者サービスのために振り分けることも大切です。

  ABC分析による在庫管理

   病医院において、人件費の次に医業費用に占める割合の高い項目が材料費、と
   くに医薬品費です。

   そこで、比較的容易に実施できる効果的な在庫管理手法として、ABC分析による
   在庫管理を紹介します。

   1.ABC分析の効果

    A B C分析による在庫管理は、

     ・比較的やりやすく、失敗することが少ない

     ・すでに導入している病医院も多く、効果が確認されている

     ・「小さな努力で大きな成果」を得ることが可能である

    と評価され、医薬品などの材料の在庫費用を圧縮することが可能になります。

    2.ABC分析の方法

     AB C分析の方法は、在庫品をA、B、Cの3つのグループに分け、それぞれに
     応じた管理を行なうことによって管理コストの低減を図るものです。

     具体的な導入の仕方を紹介します。

      (1)全医薬品について、「購入単価×購入数量」によって購入金額を算出する。

      (2)購入金額の多い順に、品目名と購入金額を並べた一覧表を作成する。

      (3)一覧表の上から順に購入金額を合算し、その額が総額の70%を超えた
        ところでやめて、そこまでの品目をAグループとする。

      (4)その次の品目から、上記と同様に合算し、その額が総額の20%になっ
        たところでやめ、そこまでをBグループとする。

      (5)残りの品目をCグループとする(A、B、C各グループの品目の割合は、通
        常、Aが10%、Bが20%、Cが70%程度になる)。

      (6)この分析が終わったら、ABC各グループごとの管理方式を定める。

         Aグループ…品目数は少量だが消費金額の高い医薬品のグループ。
                  Aグループの医薬品については、最低量にまで在庫を
                  圧縮すると同時に、在庫切れを起こさないよう、在庫
                  管理を徹底する。

         Bグループ…中程度の価格の常備医薬品がBグループに属する。
                 Bグループの医薬品については、適正な在庫量や
                 購入のタイミングなどを定めて管理を行なう。

         Cグループ…購入金額は低額だが属する品目数の多いグループ。
                 適正な在庫量の把握、期限切れ品の発生などには
                 留意する必要があるが、AグループやBグループに
                 比べ、 緩やかな管理を行なう。
                 大量購入による値引きを期待することができる。

     以上のことを実行すれば、無駄のない医薬品管理ができ、コストダウンにつな
     げることが可能になります。

  □その他のコストダウン策

   その他の日常業務におけるコストダウンの方法としては、次のようなものがあります。

    ○運搬・歩行のアクションロスをなくす

     ・運搬そのものをなくすよう検討する

     ・運搬業務を簡素化する

    ○パフォーマンスロスをなくす

     ・訓練・指導の徹底により職員の能力向上を図る

     ・誰にでもできる方法に変える

    ○単位別コストを把握する(1人1時間あたりの人件費・1平方メートルあたりの
     スペースコストなど)

    ○院内業務の外注化を検討する

     ・外部委託することで明らかに院内アメニティーが向上するものや人員
      削減につながる業務ほ外注化を検討する。
      その際には事前に費用対効果について十分に検討を行なう

     ・外部委託業者を選定する際には、ほかの病医院から情報を収集する、
      医療関連サービスマーク(*)取得業者を選ぶなど慎重な態度で臨む

      *医療関連サービスマーク

       在宅酸素供給装置(濃)保守点検サービス・滅菌消毒サービス・寝具類
       洗濯サー ビス・患者給食サービス・患者搬送サービス・院内清掃サー
       ビス・検体検査・医療用ガス供給設備保守点検サービスなどを営む
       業者のうち、ある一定の基準を満たしている事業者に対して医療関連
       サービス振興会が交付するマル適マーク

    ○医療機器などの使用状況を確認する

     ・現在、院内にある医療機器が有効に利用されているかどうかを再度確認
      して無駄な機器をなくすようにする。
      あるいは有益な活用法を考える

     ・新たな医療機器を購入する際には、投資額に見合うだけの効果を十分に
      検討してから行なう(リースにする際にも同様の検討が必要)
 

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医療・福祉の人材育成と危機管理

選ばれる医療機関の気配り接遇マナー

選ばれる医療機関の気配り接遇マナー
 

  医療機関に対する患者の不満の原因はさまざまです。

  大別すると、医療そのものに対する不満、人的サービスに対する不満、次に、施設
  アメニティなどの物的サービスに対する不満、などに分けられます。

  また、患者が病院を選ぶ判断基準には、以下のようなものがあります。

   患者が病医院を選ぶ判断基準

    ①家から近く交通が便利(通院アクセス)

    ②医療設備が良い

    ③医療技術(医師の能力)が良い

    ④医師や看護師が親切

    ⑤地域での評判が良い

    ⑥清潔な施設環境

    ⑦信頼できる(話をよく聞く、よく説明する)

    ⑧待ち時間が少ない

    ⑨治療費が安い

    ⑩救急体制が完備

    ⑪駐車スペースが広い

    ⑫食事がおいしい

  これは、都市圏の大病院を対象にアンケート調査を実施したものですが、ここでは
  通院アクセスの問題は別として、医療設備や技術への関心、待ち時間の問題と同
  程度に、応対や接遇に関するもの、つまり、病医院スタッフが親切で、話をよく聞い
  てくれることに対して高い関心を示していることがわかります。

  要するに、患者さんと多く接触する医師やスタッフの対応の仕方そのものが、病院
  選びの大きなファクターとなっているわけで、病院スタッフの患者さんに対する接遇
  の良し悪しは、医療サービス業としての病院経営のあり方として、重要なテーマで
  もあるわけです。

  病医院を訪れる患者さんは、他の業種とは異なり、サービスを享受する消費者とし
  てのお客様ではありません。

  あえて言うなら、不安や迷い、苦痛や悩みを抱え、やむを得ずに訪れてきた弱者です。

  昨今、言われている医療サービスにおける「患者=顧客主義」については、あくま
  でその一面を表しているに過ぎません。

  つまり、医療機関での接遇は、患者さんが一種の弱者であることを認識して、思い
  やりや労わりの心を持ち、きめ細かな気配りを前提として成立しなければなりません。

  すなわち、医療機関での接遇とは、気配りに始まり、気配りに終わるといっても過言 
  ではありません。

  ■接遇や応対のあり方とは

   前述の通り、患者さんへの接遇マナーは、医療機関という特殊性を考慮しても、
   患者サービスの原点と言えるものです。

   次に、その基本的なポイントを挙げてみます。

   1.望ましい接遇マナーあり方

    (1)相手の立場に立って、話を良く聞く。治療への橋渡しをする意味で、相手の 
      話の腰を折ったり、誘導したりしないこと。

    (2)誰にでも平等に共通の応対を心がける。それが結果的に相手に安心感を
      与えることになる。

    (3)敬語はほどほどにする。あまりにもいんぎんな態度は患者さんの気持ちを
      硬化させることになりかねない。

    (4)いつでも変わらない平静な態度を保つ。スタッフの態度が急変すると患者
      さんの不安が増す。

   2.キーワードは3つのS

    (1)いつも笑顔を絶やさない応対「Smile」を絶やさない

    (2)動作は機敏にテキパキと応対する「Speedy」に行動

    (3)いつも誠実な応対を保つ「Sincerity」を心のなかに

  □接遇マナーにおける気配りの具体例

   医療機関では、患者さん以外にも、ご家族や親戚、見舞い客、さらには仕事上の
   関係者など、さまざまな人々が来院し、そこで職員との接触が繰り返されます。

   接遇マナーにおいても、ちょっとした気配りで、コミュニケーションが円滑になります。

   その事情は、医療の現場においても変わりません。

   ここでは、各部門や診療現場における気配りのある接遇のあり方を具体的に列
   挙してみます。

   1.受付での対応

    (1)来院された方には全てこちらから先に声をかけるようにする。

      患者さんのプライバシーを守るため、質問は口頭で行わず問診表を使って行う。

    (2)受付に手間取る場合は、放置しないで事前にその事情を伝えて、了解して
      いただく。

      その後で患者さんを呼ぶときには「お待たせしました」の一声をかける。

    (3)職員同士の私語は慎む。

   2.待合室での対応

    (1)患者さんへの目配りを忘れず、常に一声かけるなどして、患者さんの気持ち
      をやわらげるように努める。

    (2)診察の順番間違いは極力なくし、起こったときは素直に謝罪する。

    (3)待合室の備品(新聞、雑誌等)は整理し、テレビなどの音量にも配慮する。

    (4)待合室は禁煙(又は分煙)とする。

   3.診察室での対応

    (1)医師や看護師は自らの氏名を名乗ってから、診察に入ることを基本とする。

    (2)長時間お待ちになった患者さんだけでなく、全ての方に「お待たせしました」
      の挨拶が必要。

    (3)インフォームドコンセントは判りやすく、できるだけ専門用語は使わないよう
      に、できれば図表などを活用して説明する。

    (4)患者さんへの支持は命令するのではなく、患者さんの自己決定を促すよう
      にしていく。

    (5)スタッフ同士の私語は、診療に関わる事柄以外は一切禁止する。

    (6)説明するときは必ず患者さんの顔と向き合い、患者さんの心の状態も観察
      するようにする。

   4.検査室での対応

    (1)検査に来られた患者さんには、事前に検査の内容を説明し、不安を除くよう
      に努める

    (2)採血や侵襲のある検査の場合などは、手順や苦痛の程度を詳しく説明しておく

    (3)検査が終わった患者さんの状態を観察し、介助が必要な場合は適切に付き
      添い等を手配する。

   5.会計部門での対応

    (1)医療費明細や領収書を必ず発行し、質問があれば丁寧に説明する。

    (2)診療報酬制度が変わったときや、自己負担が変わったときは、その内容を
      その場で説明する。

    (3)「お待たせしました」「お大事に」などの挨拶の基本動作は、ひとりひとりに徹
      底しておくこと。

   6.その他

    (1)院内表示はわかりやすく、色分けなどして、数ヶ所に表示する。

    (2)病院の入り口付近に総合案内を必ず設けておく。

    (3)掲示物等は患者さんの目線の位置に配置し、文字もできるだけ大きくしておく。

    (4)薬袋や診察券などは、用途や診療部門に応じて色分けするなどして、使い
      やすくなるように配慮する。

   上記のような工夫や気配りは、接遇以前の配慮でもあります。

   しかし、患者さんは職員の態度や応対だけでなく、来院して診察を受け、帰るまで 
   のすべての印象から、その病医院の接遇のあり方を判断するわけです。

   経営者は教育だけでなく、医療環境全てが接遇の良さに繋がることを充分に理解
   する必要があります。

  □接遇教育のポイント(良いスタッフの資質や条件)

   最後に接遇マナーの向上を図っていく上で、スタッフに求められる条件(資質)を
   まとめておきます。

   これは、接遇教育を行っていくための目標設定と能力判定の評価項目としても大
   切なポイントでもあります。

   職員やスタッフの接遇の良さは、その場しのぎであってはなりません。

   そのためには継続的な教育研修の徹底により、人材育成を図っていく必要があります。

   その指針として、以下のような活動が日常的に実践されていることが重要になります。

    ①接遇マニュアル等により、院内コミュニケーション・スキルの共有化を
      図っていく。

    ②定期的な教育研修のなかで、接遇や患者対応の問題も改めて評価し、
      再検討していく。

    ③上司や指導者が身をもって規範となり、患者対応の基本動作を周知
      させていく。

    ④ 接遇や患者対応のよい職員への評価(顕彰規定や査定基準)を明確
      にして、職員の意識を啓発していく。
 

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医療・福祉の人材育成と危機管理

社会福祉施設の安全衛生チェック

社会福祉施設の安全衛生チェック

 このチェックリストは、施設の安全衛生管理を進めるにあたって、事業者が取り組むべき
 主要な項目を挙げたものです。
 チェックリストの「いいえ」の項目は、法定の義務に該当する項目もありますので、
 速やかに改善し、対策を講じましょう。

  社会福祉施設
 

医療・福祉の人材育成と危機管理

社会福祉法人の設立

社会福祉法人の設立
 

  ■社会福祉法人の要件

   1.社会福祉事業

    社会福祉事業は、社会福祉を目的とする事業のうち、規制と助成を通じて公明
    かつ適正な実施の確保が図られなければならないものとして、事業内容が法律
    上に列挙されています。

    また、その事業内容は、社会福祉法により、「第一種社会福祉事業」と「第二種
    社会福祉事業」に分かれています(詳細は、「社会福祉六法」をご覧ください)。

    (1)第一種社会福祉事業

      利用者への影響が大きいため、安定した長期経営の必要性が高い事業。

       例:救護施設、児童養護施設、知的障害者福祉ホーム、身体障害者療護施設、
         介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、軽費老人ホームなど

    (2)第二種社会福祉事業

      比較的利用者への影響が小さいため、公的規制が低い事業。

       例:保育施設、適所介護(デイサービス)、訪問介護(ホームヘルプサービス)
         知的障害者デイサービス事業、身体障害者短期入所事業など

   2.社会福祉法人の設立

    社会福祉法人は、福祉という公共性の高い事業を行うことを目的として設立さ
    れるもので、通常の公益法人に比べて規制が厳しくなっています。

    社会福祉法人の設立にあたっては、厚生労働省の定める社会福祉法と合わせ
    て、社会福祉法施行令、社会福祉法施行規則により、以下のような条件を満た
    す必要があります。

    <組織>

     理事は、6名以上(法律では3名以上)※

     監事は、2名以上(法律では1名以上)※

     理事には、社会福祉事業について知識・経験をもつ者、地域の代表者
     および法人の経営する施設の長を参加させること。

     関係行政庁の職員や実際に法人運営に参画できない者を名目的に
     選任することは適当ではなく、親族等の関係にある者の選任についても
     制限されている。 

     なお、入所の要件が地方公共団体の長の措置委託によらない施設を
     経営しようとする場合には、評議員会を設置すること。

      ※社会福祉法で定員の数が定められていますが、平成12年に各都道
        府県知事あてに通知された「社会福祉法人審査基準」では、上記の
        ようにより厳しい条件が提示されています。

    <資産>

     事業を行うのに必要な、4種類の資産を有すること。

      ・基本財産(土地や建物など)

      ・運用財産

      ・公益事業用財産

      ・収益事業用財産

     また、事業のために必要な物件について、施設を経営する法人は、所有権
     を有しているか、国もしくは地方公共団体から貸与または使用許可を受け
     ている必要があります。

     一方、施設を経営しない法人については、原則としてl億円以上(委託費
     などで安定した収入が見込める場合は、所轄庁が認める額)の基本財産
     を有していなければなりません。

    <所轄>

     所轄庁は、都道府県知事または、指定都市もしくは中核市の長でなければ
     いけません。

     しかし、その行う事業が2以上の都道府県の区域にわたったうえで、かつ
     1つの地方厚生局の所管内の場合は、地方厚生局長、2以上の地方厚生
     局にまたがる場合は厚生労働大臣が所轄庁となります。

     法人事務所の所在地と施設の所在地は原則として一致していること。
 
    <補助金>

     建設費や運営費に対して国・地方自治体から補助金を受けることができます。

     補助金については個々の条件によって異なってきますので、画一的な規定
     は作成されていません。

     また公共性が高いという特性上、設立の際には窓口となる都道府県庁等の
     担当課と事前に十分な相談を行ったうえですすめる必要があります。

  □設立手続き

   社会福祉法人の設立は、定款の作成、所轄庁による定款についての認可、設立
   の登記の3つの手続きを完了することによってなされます。

   また、設立の認可を受けたときは、財産目録に記載された財産の移転が終了した
   ことを証明する書類を添えて、所轄庁に報告しなければなりません。

   1.定款の作成

    社会福祉法人の設立にあたってもっとも重要なことは、設立者が法人の根本規
    範である定款を作成することです。

    定款には必ず次の事項を記載することが必要であり、そのいずれを欠いても定
    款は無効となります(これを「必要的記載事項」といいます)。

     一   目的

     二   名称

     三   社会福祉事業の種類

     四   事務所の所在地

     五   役員に関する事項

     六   会議に関する事項

     七   資産に関する事項

     八   会計に関する事項

     九   評議員会をおく場合には、これに関する事項

     十   公益事業を行う場合には、その事業の種類

     十一 収益事業を行う場合には、その事業の種類

     十二 解散に関する事項

     十三 定款の変更に関する事項

     十四 広告の方法

    定款の作成にあたっては、設立当初の役員を具体的に定める必要があります。

    また解散に関する事項のなかに残余財産の帰属者に関する規定を設ける場合
    には、その帰属者は社会福祉法人その他社会福祉事業を行う者のうちから選 
    定されるようにしなければなりません。

    さらに社会福祉法人の設立者が上記の必要的記載事項のうち、二から十四ま
    での事項の全部、または一部を定めないで死亡した場合には、厚生労働大臣
    が、利害関係人の請求により、または職権で、これらの事項を定めなければな
    らないこととされています。

    以上のほか、定款には、所轄庁の認可を受けて所要の事項を定めることができ
    ます(これを「任意的記載事項」といいます)。

    ただし、任意的記載事項も定款に記載された以上、必要的記載事項と効力の差
    がなく、その変更については定款変更の手続きをする必要があります。

   2.認可申請

    (1)定款

      社会福祉法人の定款については、社会福祉法施行規則に定める手続きに
      より、所轄庁の認可を受けなければなりません。

      所轄庁はこの認可の申請があったときは、当該社会福祉法人の資産がその
      目的とする社会福祉事業を行うのに十分であるかどうか、その定款の内容
      および設立の手続きが法令の規定に違反していないかどうかを審査したうえ
      で、当該定款の認可を決定しなければならないとなっています。

    (2)設立認可申請書

      社会福祉法人の定款について所轄庁の認可を受ける際、定款とともに次に
      あげる事項を記載した申請書を所轄庁に提出することが必要となります。

       一 設立者または設立代表者の氏名および住所

       二 法人の名称および主たる事務所の所在地

       三 設立の趣意

       四 役員となるべき者の氏名および各役員となるべき者について、他の役
          員となるべき者のうちに、その者と婚姻関係または三親等以内の親族
          関係にある者がいる場合、その氏名およびその者との続柄

    (3)添付書類

      社会福祉法人の設立認可申請書には、次にあげる書類を添付しなければな
      りません。

      なお、これらの書類以外にも不動産の価格評価書等、必要な書類の提出を
      求められることがあります。

       一 設立当初においてその法人に帰属すべき財産の財産目録(基本財
         産、運用財産、公益事業用財産〈公益を目的とする事業を行う場合に限
         る〉 と収益事業用財産〈その収益を社会福祉事業の経常に充てること
         を目的とする事業を行う場合に限る〉 をそれぞれ区分して記載したも
         の)およびその財産がその法人に確実に帰属することを明らかにするこ
         とができる書類

       二 その法人がその事業を行うために一の財産目録に記載された以外の
         不動産の使用を予定しているときは、その使用の権限がその法人に確
         実に帰属することを明らかにすることができる書類

       三 設立当初の会計年度および次の会計年度における事業計画書および
         これに伴う収支予算書

       四 設立者の履歴書

       五 設立代表者を定めたときは、その権限を証明する書類

       六 役員となるべき者の履歴書および就任承諾書

       七 そのほか所轄庁が必要と認めている書類

   3.設立の登記

    社会福祉法人の定款の認可を受けたときは、その認可のあった日から2週間以
    内に、主たる事務所の所在地において設立の登記をすることが必要です。

    そしてこの登記をすることによって社会福祉法人は設立されたことになります。

    したがって、このときから正式に法人格を取得し、定款に定める目的の範囲内
    において権利を有し、義務を負うことになるのであって、寄付財産もそのときに
    当該法人の所有に帰することになります。

   4.財産移転の報告

    社会福祉法人は、その設立の認可を受けたときは、遅滞なく財産目録記載の財
    産の移転を受けて、その移転を終了した後1カ月以内に、所轄庁にその旨の報
    告をしなければなりません。

    この場合の証明書類としては、次のようなものがあります。

     一 財産目録(設立認可申請の際に添付したものと同一のもの)

     二 登記簿謄本(不動産の寄附申込があった場合)

      三 受渡書の写し(現金等の寄附申込があった場合でその寄附者宛に発行し
       たもの)

     四 残高証明書の写し(現金等の寄附FP込がありそれを銀行等に預け入れた
       場合または信託会社に信託した場合)

     五 その他財産の移転を受けたことを証明する書類

    なお、政府は、社会福祉法人に対して、会計の情報公開を促進することとしています。

    これは、消費者の選択の幅を拡大するとの観点から、社会福祉法人についても
    株式会社並みに会計監査等の一層の普及を図るなどの取り組みです。

    また、社会福祉法人の公益性にかんがみ、収支決算書、事業報告書、監事の
    意見書等は、インターネット上での公開を促進しています。

  □設立の際の留意点

   1.設立までに要する時間

    社会福祉法人設立においては設立準備会発足などの準備段階、関係自治体と
    の事前相談、実際の認可取得、事業のための建物の建築などさまざまなステッ
    プが必要になります。

    そのため通常は設立の検討をはじめてから実際に設立・事業開始するまでに2
    〜3年程度かかることが一般的です。

    すでに記載した必要書類などは自分自身でも作成することは可能ですが、少し
    でも期間を短縮するためには、事務手続きについては行政書士等の専門家に
    任せることも有効です。

    また事務手続きを外部に任せることによって、自分自身は事業内容の精査など
    に集中できるというメリットもあります。

   2.社会福祉法人の設立によるメリット・デメリット

    社会福祉法人を設立すると、行政より、施設整備等のための補助金が受けられ
    たり、税金の免除・控除が適用される等のメリットがあります。

    また、利用者からの信頼を受けやすいといわれています。

    組織構成や資産、設備などが厳しいため、条件をクリアする環境を整えることが 
    難しいといえます。

    また、利用者の生活に大変影響力がある事業を行うため、簡単に廃業をするこ
    とができません。

    事業内容に公共性が高いこともあり、仮に個人資産を提供したとしても、経営を
    主導できるとは限りません。

    また、法人化することにより経理処理等も複雑になり、正確さも要求されます。
 

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医療・福祉の人材育成と危機管理

介護老人保健施設の経営

介護老人保健施設の経営


  ■介護老人保健施設の概要

   1.介護老人保健施設の制度

    老人保健施設(現・介護老人保健施設)はもともと、昭和61年3月の老人保健 
    法の改正により制度化された事業です。

    平成12年度から介護保険制度が導入され、介護保険法によって「介護老人保
    健施設」と位置づけられました。

    つまり介護保険施設の1サービスとして、特別養護老人ホーム等との利用者獲
    得競争を強いられるようになったのです。

    このような背景から、介護老人保健施設の経営状況はますます厳しくなるものと
    予想されています。

    こうした変化に対応するため、個々の施設は利用者の視点に立った質の高い
    サービスを目指し、外部に対してもそれをアピールしていくことが課題となると考
    えられます。

   2.介護老人保健施設のサービス内容 

    介護老人保健施設のサービス内容としては、おもに次のような事項が挙げられます。

    こうしたサービスを提供するために、介護老人保健施設開設にあたっては、設
    備構造や人員配置について基準が定められています。

    <サービス内容>

     ◎入所サービス

      ・離床期または歩行期のリハビリテーション

      ・日常生活活動訓練

      ・体位交換、清拭、食事の世話、入浴の看護・介護サービス

      ・比較的安定した病状に対する診察・投薬・注射・検査・処置等の医療サービス

      ・理髪等個人的な世話、教養娯楽のための催し等の日常生活サービス

     ◎在宅サービス

      ・短期入所療養介護
       看護・介護を行なっている家族の病気、休養等のさまざまな理由により
       家庭における看護・介護の機能が低下した場合に介護が必要な高齢者
       を短期間受け入れ、必要な看護や介護を行なう。

      ・通所リハビリテーション
       昼間の一定時間、介護が必要な高齢者を受け入れ、入浴・食事や
       リハビリテーション、生活訓練を行なう。

  □介護老人保健施設の経営実態

   厚生労働省の「平成29年介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、平成
   29年10月の介護老人保健施設の総数は4,322施設であり、年々増加しています。

  □開設の基準

   1.開設者の基準

    介護老人保健施設は営利を目的としない施設であることから、設置・運営主体
    は市町村、社会福祉法人、医療法人等となっています。

    詳細については次のとおりです。

    【開設者】

     ・国

     ・地方公共団体

     ・医療法人

     ・社会福祉法人

     ・その他厚生労働大臣が定めている者

      日本赤十字社、厚生(医療)農業協同組合連合会、健康保険範合及び
      健康保険組合連合会、共済組合、国民健康保険組合及び国民健康
      保険団休連合会、厚生労働大臣が介護老人保健施設の開設者として
      適当であると認定した団体

     また、開設する際のおもな留意点としては、

      ・都道府県知事の許可を受けて開設すること

      ・一般的に営利目的のために開設する場合は許可が与えられないこと

      ・設置運営基準等に違反した場合は改善命令、必要に応じては許可の
       取り消し等の行政処分を受けること

      ・許可の取り消しに関しては、都道府県医療審議会の意見を聴くことに
       なっていること

     等が挙げられます。

   2.施設および設備に関する基準

    介護老人保健施設の開設にあたり、その規模に関する定めはありませんが、各
    地域の要介護老人の数・特別養護老人ホームの入所定員・病院の病床数等を
    踏まえて、その地域に見込まれる需要を考慮した親模にする必要があります。

    【施設および設備】

     ・療養室

      イ.療養室の定員は、4人以下とすること。

      ロ.入所者1人当たりの床面積は、8平方メートル以上とすること。

      ハ.地階に設けてはならないこと。

      ニ.1以上の出入口を避難上有効な空地、廊下又は広間に直接面して
         設けること。

      ホ.寝台又はこれに代わる設備を備えること。

      ヘ.入所者の身の回り品を保管することができる設備を備えること。

      ト.ナース・コールを設けること。

     ・診察室

     ・機能訓練室

      1平方メートルに入所定員数を乗じて得た面積以上の面積を有し、
      必要な器械・器具を備えること。

     ・談話室

      入所者同士や入所者とその家族が談話を楽しめる広さを有すること。

     ・食堂

      2平方メートルに入所定員数を乗じて得た面積以上の面積を有すること。

     ・浴室

      イ.身体の不自由な老が入浴するのに適したものとすること。

      ロ.ー般浴槽のほか、入浴に介助を必要とする者の入浴に適した特別
        浴槽を設けること。

     ・レクリエーション・ルーム

      レクリエーションを行なうために十分な広さを有し、必要な設備を備えること。

     ・洗面所

      療養室のある階ごとに設けること。

     ・便所

      イ.療養室のある階ごとに設けること。

      ロ.ブザー又はこれに代わる設備を設けるとともに、身体の不自由な
        者が使用するのに適したものとすること。

      ハ.常夜灯を設けること。

     ・サービス・ステーション

     ・調理室

     ・洗濯室又は洗濯場

     ・汚物処理室

    【構造設備の基準】

     ・介護老人保健施設の建物は、建築基準法に競走する耐火建築物と
      すること。

      ただし、療養室その他の入所者の療養生活に充てられる施設を2階
      以上の階及び地階のいずれにも設けていない建物の場合、準耐火
      建築物とすることができる。

     ・療養室等が2階以上の階にある場合は、屋内の直通階段及びエレ
      ベーターをそれぞれ1以上設けること。

     ・療養室等が3階以上の階にある場合は、避難に支障がないように避難
      階段を2以上設けること。

     ・階段には、手すりを設けること。

     ・廊下の構造は、次のとおりとすること。

      イ.幅は、1.8メートル以上とすること。ただし、申廊下の幅は、2.7メートル
        以上とすること。

      ロ.手すりを設けること。

      ハ.常夜灯を設けること。

     ・入所者に対する介護保健施設サービスの提供を適切に行なうために
      必要な設備を備えること。

     ・消火設備その他の非常災害に際して必要な設備を設けること。

   3.スタッフ基準

    介護老人保健施設のスタッフ基準は、利用者の定員数により異なってきます。

    定員数が100人の場合、次のような職員配置を求められます。

    【従業者の員数】

     介護老人保健施設に置くべき医師、看護師、介護支援専門員及び介護その
     他の業務に従事する従業者の員数は、次のとおりとする。

     ・医師

      1人

     ・薬剤師

      介護老人保健施設の実情に応じた適当数

     ・看護職員(看護師、准看護師)又は介護職員

      34人(看護職員10人、介護職員24人)

     ・支援相談員

      1人

     ・理学療法士又は作業療法士

      1人

     ・栄養士

      1人以上

     ・介護支援専門員

      1人以上

     ・調理員、事務員その他の従業者

      介護老人保健施設の実情に応じた適当数

   4.緊急措置に備えて

    介護老人保健施設は、自施設で対応しきれない場合を想定して、

     ・入所者の病状の急変に対応可能な病院(協力病院)を1つ以上選定する

     ・歯科医療に対応できる病医院を定める

    ことが必要とされています。

   5.地域との連携

    開設者の基準の際にも述べたように、介護老人保健施設は開設地の都道府県
    知事の許 可および介護老人保健施設としての指定が必要となります。

    これは、各都道府県における「介護保険事業支援計画」に基づいた施設設置計
    画があるためです。

    したがって、許可を受けるためにも

    都道府県との事前相談で綿密に協議を重ね、指導にしたがって計画を進めるこ
    とがポイントとなります。

    さらに、開設予定地域の高齢者に対する福祉状況を把握するために、

     医師会、社会福祉協議会、近隣の特別養護老人ホーム等の高齢者の
     福祉施設等と連携することで互いの役割分担や協力体制を構築して
     おき、地域全体で効率的な施設の利用及び利用者の適切な受け入れ
     ・送り出しを図っていけるようにする

    ことも重要となります。

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静岡県静岡市のビジネス・ソリューション㈱です。
静岡・愛知県内、東京周辺を中心に中小規模企業の問題解決支援としてマーケティング・業務改善・リスクマネジメント
企業運営に欠かせない3つの仕組みづくりを支援いたします。
経営者にとって重要課題は会社をつぶさないことです。
しかし、毎年1万件以上の中小企業が倒産に見舞われています。
「知っていれば」「対策を講じていれば」倒産せずに済んだはずの企業が数
多くあったことを、私どもは見聞きしております。
少しでも多くの企業が、このような危機に見舞われず、最悪の事態を招く
ことのないよう、私ども専門家集団は事業運営に欠かすことのできない
マーケティング、業務改善、リスクマネジメントについて全力投球で支援
してまいります。

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