社長に必要なコーチングスキル


  ■コーチングとは

   ビジネスの分野で「コーチング」の重要性について取り上げられることが増えてき
   ました。

   社長自らが専門家からコーチングを受けたり、社内全体に手法を導入しようという
   動きも盛んです。

   導入した会社の多くでは社員の自立性やモチベ−ション向上などの成果を上げ
   ています。

   ここでは、社長自身が身につけておきたいコーチングスキルについて解説しま
   す。

   1.答えはつねに相手のなかにある

     コーチングとは、相手の目標達成をサポートするためのコミュニケーション手
     法のひとつです。

     プロ野球には投手コーチや打撃コーチなどがいますが、彼らの本来の仕事は
     すでにプロ選手としての一定の実力をもっている選手たちが、それぞれの特徴
     をいかして最大の成果を出せるようにガイドしていくことにあります。

     特にベテラン選手に対しては細かい技術指導などは行わず、選手自身に問題
     点を気付かせて、答えを見つけるように指導します。

     このようにコーチングにおいては、目標達成に向けた答えは相手のなかにあ
     ると考えます。

     相手がすでにもっている能力・意欲・経験などを引き出して、相手自らが主体
     的に取り組むようにサポートすることがコーチングのおもな目的です。

   2.コーチングとティーチング

     (1)両者の違い

       コーチングと対比される言葉にティーチングがあります。
       ティーチングとはティーチャーが自分の知識や技術などを生徒に教えること
       です。

       コーチングは双方向のコミュニケーションによって成立しますが、ティーチン
       グではティーチャーから生徒への一方的なコミュニケーションとなります。

       また、コーチングでは答えはつねに相手のなかにあると考えますが、ティー
       チングでは答えはつねにティーチャーの側にあります。

       つまり、コーチとティーチャーは役割や立場がまったく違う。

       部下に対しての指導は状況に応じてコーチングとティーチングを使い分け
       る必要があります。

     (2)主体性を育てるコーチング

       たとえば、お客さまとすぐに仲良くなれるのに、最終的な契約の一歩手前で
       いつも止まってしまう営業マンがいる場合、ティーチングであれば上司は
       「もっと商品のメリットが伝わる資料を作成して説明しなさい」といった指示
       (答え)を与えます。

       一方、コーチングでは「契約に向けてほかに何か必要な資料はないか
       な?」という具合に質問を繰り返し、部下自身から答えを引き出します。

       通常はティーチングで指導したほうが、上司も部下も楽ですし、短い時間で
       成果につなげることができます。

       しかし、あえてコーチングを行うことで、部下は自分で考え主体性をもって
       働く習慣が身につきます。

       また、ティーチングですべてに答えをもらっていた頃の「やらされ感」から解
       放されて、よりやる気をもって働けるようになります。

     (3)上司のわからないことにも対応できる

       また、コーチングでは上司が答えをもっていない場合でも、部下に答えを見
       つけさせることが可能になります。

       上司は基本的に自分の過去の経験から答えを見つけますが、部下が抱え
       ている顧客のなかには、上司が接したことがないまったく新しいニーズを
       もっている顧客もいるでしょう。

       すべての答を上司が見つけるのは困難であり、その顧客のことを一番知っ
       ている部下自らが導き出した答えが正しいことも多いのです。

       さらに、専門知識が必要な分野で上司にそれがない場合でも、専門知識の
       ある部下に自ら考えさせることで、答えを引き出すこともできます。

    3.社長にとってのコーチング

     社長のなかには外部の専門家のコーチングを受けて、自分自身の気付きや
     意思決定に役立てている人が多くいます。

     自分がコーチングを受けることで、手法そのものについて学ぶこともできます。

     さらに、一定の経験を積めば、自分自身に対する「セルフコーチング」も可能に
     なります。

     また、社長は経営幹部たちに対してコーチングを行う立場でもあります。

     従来型の業務指示やティーチングによる指導に加えて、コーチングによって彼
     ら自身が答えを見つける習慣を身につけさせることで成長が加速します。

     受け身的な幹部を自発的な幹部へと脱皮させることも可能です。 

     コーチング手法を体系的にきちんと理解するためには、相応の勉強時間が必
     要ですが、「コーチング的な発想」を身につけて、日頃の幹部たちへの対応に
     いかすだけでも、大きな効果が期待できるでしょう。

  □基本となるスキル

   コーチングに必要なスキルのなかでベースとなるのは「傾聴スキル」、「質問スキ
   ル」、「承認スキル」です。話を丁寧に聞いて適切な質問をし、相手をきちんと認め
   ることがコーチングの原則です。

    1.傾聴スキル

     (1)事実だけではなく相手の認識を聞き出す

       傾聴とは、徹底的に相手の話を聞くことです。

       たとえば、普通は部下が仕事上の問題を相談してきた場合に、上司は起
       こっている問題の事実関係を詳細に聞き出し、自らの判断で早急に手を打
       とうとするでしょう。

       短時間での問題解決を優先する場合には仕方ないが、これは傾聴ではあ
       りません。

       コーチングの目的は上司ではなく、部下自身に解決策を考えさせることに
       あります。

       部下には問題の事実関係だけではなく、それに対して部下自身がどのよう
       に感じているかについても話してもらわなければなりません。

       部下は自分のなかにある情報をいったん外に出すことで、情報のもつ意味
       を認識できるようになります。

     (2)自分がきちんと聞いていることをわかってもらう

       また、最後まで黙って耳を傾けるだけでは十分ではない。

       部下が当初話そうとしていた以上の話をするように仕向けることも必要で
       す。

       タイミングよくうなずいたり、相づちを打つなどして、自分が相手の話をきち
       んと聞いていることをわかってもらわなければならない。

       さらに、話の内容だけではなく、声のトーン、表情、しぐさなどから相手の感
       情を読み取ることも重要です。

     (3)日頃からの言動に注意する

       そして、コーチングを行うときだけではなく、日頃から「部下が話しかけやす
       い雰囲気」をつくっておくことも大切です。

       部下は威圧的・拒絶的な印象が強い上司にはそもそも相談しようという気
       になりません。

       つねに笑顔で接し、上司の側からあいさっするなどを心掛けましょう。

    2.質問スキル

     (1)コーチングにおける質問とは

       通常、質問とは「自分が知らないことをわかる」目的で「自分のために」行う
       ものです。
       したがって、自分がわかってしまえば質問はそこで終了になります。

       しかし、コーチングにおける質問はその逆であり、「相手が気付いていない
       ことをわかってもらう」目的で、「相手のために」行うものです。

       したがって、途中で自分がわかったとしても、相手がわかっていなければ質
       問を続けなければなりません。

       そして、質問に対する答えにはきちんと傾聴します。

       <通常の質問>

         ・なぜ、受注に失敗した?

         ・できない理由は何だ?

         ・どうしてもっと早く報告しないんだ?

       
       <コーチングにおける質問の例>

         ・失敗した理由は何だと思う?

         ・おもな障害は何だと思う?

         ・どうすればすぐに報告できると思う?

       このようなスタンスで質問を続けることは、まどろっこしく、面倒に感じます。

       しかし、考える主体はあくまで部下であり、上司は答えをもっていたとしても
       先回りしてそれを示してはならない。

       部下が正しい答えにたどり着くようにサポート役に徹する必要があるので
       す。

       また、質問した後には、相手が十分に考えられるよう、時間をおくことが大
       切です。

       その時間を惜しんで立て続けに問いかけると、質問ではなく「詰問」になっ
       てしまいます。

     (2)オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン

       質問にはオープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの2種類がある。

       オープンクエスチョンとは「この仕事のポイントは何だと思う?」といった自
       由に答えられる質問であり、クローズドクエスチョンとは「関係者との調整が
       一番重要だと思うんだね?」といったイエスかノーの答えを求める質問。

       オープンクエスチョンで相手から考えや気持ちを幅広く聞き、クローズドクエ
       スチョンで重要点を確認するというのが通常の流れです。

       オープンクエスチョンでは、いわゆる「5WIH」(Who:誰、Wha t:何、
       Whe n:いつ、Whe r e:どこ、Why:なぜ、How:どうやって)の疑問詞を
       活用しながら質問を組み立てます。

       これにクローズドクエスチョンを組み合わせた例として、次のような
       質問の流れが考えられます。

    3.承認スキル 

      承認とは相手の存在そのものを認める「存在承認」、さらに、相手の変化や
      結果に気付いてそれを言葉としてきちんと伝える「変化承認」、「成果承認」
      の3つの要素で考えることができます。

     (1)存在承認

       相手の存在を認めるとは当たり前のことのようですが、実はできていない
       場合も多いのです。

       たとえば、挨拶やちょっとした声がけは相手を承認するための大切な行為
       です。

       「あいさつしても上司が返してくれない」、「業務指示以外は一切声をかけて
       くれない」という状況では、部下は自分の存在を認めてもらっているとは感
       じません。

       そんな上司には相談事をしたくない、むしろ相談したら怒られるとさえ思う
       かもしれません。

       日頃からあらゆる機会を捉えて、相手のことを大切に思っていることを伝え
       ておかなければなりません。

     (2)変化承認

       「変化承認」とはいっもとは違う変化を認めることです。

       変化には「遅刻がなくなった」、「ミスが減った」などのプラスの変化もあれ
       ば、「最近元気がない」、「言葉遣いが乱れてきた」などのマイナスの変化も
       あります。

       いずれの変化も日頃から相手に関心をもっていないと気付くことができま
       せん。

       また、気付いたとしても言葉に出さなければ相手にはわかりません。

       プラスでもマイナスでもそれをきちんと伝えることで、相手は「つねに自分の
       ことを気にかけてくれている」という安心感を得ることができます。

     (3)成果承認

       「成果承認」とは相手が成果を上げたときに、それをしっかりと認めることで
       す。

       これは単純に成果を賞賛することとは少しニュアンスが違う。

       たとえば、私たちはなでしこジャパンが2011年ワールドカップで優勝したと
       きにその偉業に対して、賞賛を惜しみませんでした。

       世界最高の場での金メダル獲得について「とにかくすごい」と感じたからで
       す。

       その賞賛が彼女たちの励みになったことは間違いない。

       しかしながら、なでしこジャパンの厳しいトレーニングや節制ぶりを近くで見
       守ってきた監督や関係者たちは、金メダルそのものよりも、むしろそこに至
       るまでの彼女たちの努力に対して、心から「よく頑張った」と感じたことでしょ
       う。

       相手のことを深く理解しているからこそ、たんなる賞賛ではない成果承認が
       できるのです。

       そして、彼女たちの心により響いたのは、賞賛よりも成果承認でしょう。

       このように成果承認で大切なのは、「成果そのものだけではなく、成果を上
       げるために努力した点も十分に理解していること」を言葉で伝えること。

       そのためには「○○の能力がアップした結果だね」、「業務設計が優れていた
       ね」といったプロセスも含めて成果承認することが必要です。

       また、相手によっては、「あなた(YOU)は頑張ったね」という、あなたを主語
       にした言い方(YOUメッセージ)だけではなく、その結果「私(Ⅰ)はこう思っ
       た」という「Ⅰメッセージ」による承認も効果的です。

       たとえば、「君の頑張りは私も心強いよ」という承認の仕方。

       YOUメッセージだけでは、それを相手が素直に受け取らない可能性があっ
       ても、Ⅰメッセージでは「私自身」の気持ちを素直に表現しているため、相
       手に伝わりやすいのです。

  □ステップ

   コーチングは基本的に次のようなステップで行います。

    1.目標の明確化

    2.現状と問題の把握

    3.行動計画

    4.フォローと振り返り

   それぞれのステップで「傾聴」、「質問」、「承認」のスキルを活用します。

   ここでは、ある営業マンに対するコーチングを例にして話を進めてみます。

    1.目標の明確化

      目標の明確化において大切なのは、達成したときの自分の姿をイメージさせ
      ることです。

      たとえば、営業マンの受注目標額を設定する際には、たんに「受注目標300
      万円」で終わらせずに、それを達成したら「営業マン自身がどのような能力を
      獲得しているか」、「その先にどんな道が開けるか」なども意識させます。

      また、目標を部下に考えさせることで、与えられたノルマではなく、自分自身
      で決めた目標と認識することができます。

    2.現状と問題の把握

      現状把握は「客観的事実そのもの」と「客観的事実をどのように認識している
      のか」の2つの視点から行います。

      たとえば、営業マンの受注額が過去3カ月間連続して200万円だった場合、
      その受注額は客観的な事実です。

      問題はこの金額を営業マンがどのように認識しているかです。

      「十分実力を発揮した結果」と満足している人もいるでしょう。

      逆に不満だと思っている人のなかには「まだまだ努力不足」と自責と捉えて
      いる人もいれば、「顧客に恵まれていない」と他責にしている人もいるはずで
      す。

      これらについて十分に話を聞いて、質問を重ねるなかで事実誤認やたんなる
      思い込みを修正していきます。

      そして、目標達成のためにどのような能力アップや業務姿勢改善が必要かを
      気付かせます。

    3.行動計画

      「目標の明確化」と「現状と問題の把握」を踏まえて、目標達成のために実際
      に何をやるのかを明確にしていくステップです。

      ここでも何をやるのかについて相手自身に気付かせます。

      まずは相手にできるだけ多くの選択肢を考えさせます。

      過去の自分の成功体験・失敗体験、周囲の優秀な営業マンの事例、営業関
      連の書籍から仕入れた知識など考える材料はたくさんある。

      また、それらを組み合わせてオリジナルの方法を考えることもできます。

      ある程度明確になってきたら、それを実際の行動レベルに落とし込んでいき
      ます。

      たとえば、「見込み客数を倍にする」ということになったら、「そのために明日
      からどのような行動が必要だと思う?」といった質問で、より具体的にしてい
      きます。

      その際には「アポを何件取る」といった成果ではなく、「アポ取りの電話を何
      件する」といった、やる意思があれば必ず達成可能な行動を重視します。

    4.フォローと振り返り

      実際に行動を起こしているかどうかを確認します。

      もしまだであれば、その障害となっている要因を再度考えさる。

      また、行動している場合には、その結果としてどのようなことが起こったか、
      どのように感じたかについて話を聞きます。

      行動がうまく成果につながっていない場合の失敗要因だけではなく、成果に
      つながった場合の成功要因についても考えさせます。

      場合によっては行動計画の一部見直しも必要になるかもしれない。 

      フォローと振り返りは、相手の行動そのものを確認・修正するだけではなく、
      相手に対して「変化承認」、「成果承認」を与えるためにも重要なステップで
      す。

      必ず実施しましょう。

                      お問合せ・ご質問こちら

                      メルマガ登録(無料)はこちらから

お問合せ・ご相談はこちら

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
054-270-5009

静岡県静岡市のビジネス・ソリューション㈱です。
静岡・愛知県内、東京周辺を中心に中小規模企業の問題解決支援としてマーケティング・業務改善・リスクマネジメント
企業運営に欠かせない3つの仕組みづくりを支援いたします。
経営者にとって重要課題は会社をつぶさないことです。
しかし、毎年1万件以上の中小企業が倒産に見舞われています。
「知っていれば」「対策を講じていれば」倒産せずに済んだはずの企業が数
多くあったことを、私どもは見聞きしております。
少しでも多くの企業が、このような危機に見舞われず、最悪の事態を招く
ことのないよう、私ども専門家集団は事業運営に欠かすことのできない
マーケティング、業務改善、リスクマネジメントについて全力投球で支援
してまいります。

対応エリア
静岡・愛知県内、東京周辺

お気軽に
お問合せください

お電話でのお問合せ・相談予約

054-270-5009

 (コンサルティング部門 直通<柴田>)

新着情報

2024年4月19日
記事:「効率的な仕事の進め方 Ⅱ」更新しました。
2024年4月18日
記事:「メルマガ708号」 更新しました。
2024年4月18日
記事:「保険代理店 法人マーケットの攻略」更新しました。 
2024年4月17日
記事:会社を育てる」更新しました。
2024年4月15日
記事:「タイムマネジメント Ⅱ」 更新しました。
  • 詳細はこちらへ

ビジネス
ソリューション
仕組み構築

住所

〒422-8067
静岡県静岡市駿河区南町
2-26-501