コーチングによる人材活用


  ■コーチングの概要

   1.コーチとコーチング

     コーチ(Coach)という言葉が登場したのは1500年代で、馬車という意味があ
     りました。

     その馬車という言葉から、「大切な人をその人が望むところまで送り届ける」と
     いう意味が派生します。

     さらに、1840年代には英国オックスフォード大学で、学生の受験指導をする
     個人教師のことをコーチと呼ぶようになりました。

     われわれになじみの深いスポーツの分野で使われるようになったのは1880
     年代のことで、ボート競技の指導者がコーチと呼ばれていたようです。

     こうした背景をもつコーチという概念から、1980年代のアメリカにおいて、クラ
     イアント(相手)の潜在的な能力を最大限に引き出し、自発的な行動を促進す
     るためのコミュニケーション技術としてのコーチングが生まれました。

     コーチングの基本になるのは、相手の可能性や能力を信頼することです。

     多くの場合、ゴールを達成したり、障害を打開するための答えや能力は相手
     自身がもっています。

     それらの能力を引き出し、相手の自発的な行動を促進することがコーチングで
     あり、そのコーチングを行う人をコーチと呼びます。

     つまり、コーチは相手とコーチング・カンバセーション(普通の会話とは異なる 
     コーチングのための会話)と呼ばれるコミュニケーションを交わすことによって
     相手が実現したいゴールを明確にし、短時間で達成できるようにサポートする
     人のことなのです。

   2.コーチングのポイント

     コーチングの目的が「相手の潜在的な能力を引き出し、自発的な行動を促進
     すること」にあるということは前述しました。

     それでは、そうした相手の行動を促すコーチングのポイントとはどういうものな
     のでしょうか。

     コーチの育成や企業へのコーチング研修で実績のある企業によると、コーチン
     グには100種類ものスキルがあるそうです。

     そして、これらの多くのスキルのべースは、

      ・聞くこと

      ・質問すること

     です。

     つまり、コーチは相手の話を聞き、適切な質問を繰り返すというコーチング・カ
     ンバセーションによって、

      ・相手に新しい視点を与える

      ・相手のなかから答えを引きだす

      ・相手に安心感と自信を与える

      ・相手に未来への夢を抱かせる

      ・相手に自発的な行動を促す

     ことを実現するのです。

     もちろん、相手に場当たり的な質問をしてもこうした効果は望めません。

     相手に気づきや前向きな変化をもたらすような効果的な質問を行うことがコー
     チングの最大のポイントになるのです。

  □ビジネスへの活用

   コーチングの考え方は、コミュニケーションの存在する場、職場や学校、家庭、各
   種サークルなどあらゆる場面で導入されています。

   とりわけ、最近は職場において自分のビジネスにいかしている方が増えているよ
   うです。

   コンサルタント、医師、弁護士、税理士といった専門職の方から、教師、企業経営
   者、管理職など幅広い分野の方がコーチングを活用しています。

   ここでは、とくにコーチングがビジネスの場で活用されるようになった背景や、コー
   チングを導入している企業事例を紹介しましょう。

   1.指示・命令型マネジメントの限界

     これまでの日本の企業でみられたマメネジメントスタイルは、どちらかといえば
     上司による指示・命令型が中心でした。

     このマネジメントスタイルは、上司が正解をもっている場合、つまり過去の成功
     体験がいかせる場合には、ある程度有効に機能しました。

     しかし、1990年代以降の「低成長でありながら変化のスピードが速い」時代に
     は、指示・命令型のマネジメントの有効性に陰りがでてきました。

     なぜなら、必ずしも上司の判断が正解とは限らなくなってしまったからです。

     逆に、過去の成功体験に縛られる上司の判断が間違っているケースが多く
     なったのかもしれません。

     さらに、この指示・命令型マネジメントには、「やらされる」「しなければならな
     い」といった感覚がついて回り、部下の創造的なアイデアや自発的な行動を阻
     害してきた面があります。

     こうした状況のもと、一部の企業経営者や経営幹部が「指示・命令型マネジメ
     ントの限界」に気づき、部下のやる気や能力、アイデアを引き出すスタイルの
     マネジメントを模索するようになりました。

     そこで、多くの企業で導入されるようになったのがコーチングの考え方を取り
     入れた双方向の質問型マネジメントだったのです。

     アメリカでコーチングがビジネス界に積極的に取り入れられるようになったの
     は、同国が不況にあえぎ、過去のマネジメントスタイルが疑問視されるよう
     になった1980年代後半でした。

     こうしてみると、現在の日本でコーチングが注目される理由が分かります。

   2.ビジネスの現場への導入

     コーチングの考え方を用いた質問型のマネジメントは、経営者や部下をもつ管
     理職であれば、誰にでも必要なものです。

     最近では、多くの企業のさまざまな部門でコーチングの手法が導入されるよう
     になっています。

     ここでは、比較的導入されることの多い営業部門においてコーチング手法を用
     いて業績・組織風土の改善に成功した事例を紹介します。

     (1)導入経緯

       建築業のA社では、売上高の低下に苦しんでいました。

       景気の影響もさることながら、営業マンの伸び悩みが売上高低下の大きな
       要因と考えた社長が、コーチの資格をもつコンサルタントに相談したこと
       が、コーチング導入のきっかけとなりました。

     (2)導入の流れ

       A社におけるコーチング手法導入の流れは、以下のようなものでした。

        ①コンサルタントが営業マネージャーに対してコーチングを実施

        ②2カ月目からコンサルタントが営業マネージャーに対しコーチング
          スキルを指導

        ③3カ月目から営業マネージャーが部下に対し、コーチング手法を
          用いたミーティング開始

         ※営業マネージャーと部下とのミーティングにはコンサルタントが同席し、後で
            その内容をテーマとしてコーチングを実施

        ④7カ月目からはコンサルタントの手を離れ、営業マネージャーによる
          質問型のマネジメントが定着

        ⑤10カ月目から他部門での導入開始

     (3)コーチングによる改善の概要

       コーチング導入前のA社における営業マネージャーのマネジメントは、各営
       業マンに対して毎月目標を割り振り、数値の進捗状況をチェックしながら
       日々アプローチ方法やセールストークを指導するというものでした。

       「このA社の営業マネージャーは、少なくとも数値だけしか詰めない古いタイ
       プではなかった。しかし、プレイングマネージャーであるため、すべての営
       業マンに同行する時間がなく、異なる顧客に対してもアドバイス内容が画 
       一的になっていた。営業マンは熱心に顧客訪問を行い、アドバイス通り行
       動しているため、成果につながらなくても仕方ないという空気が強くなって
       いた」のです。

       専門家のコーチングにより、営業マネージャーは自分自身でマネジメントス
       タイルを変えることにしました。

       変更のポイントは次のようなものです。

        ①目標を営業マン自身に決定させる

         →営業マン個々の収入や将来像を想い描かせることでモチベー
          ションが高まり、全員の目標合計はそれまでの全社目標を上回った。
          なお、営業成績によるインセンティプ制度は以前から存在した
          ものを維持し、とくに変更はしなかった。

        ②数値の進捗確認を営業チームで共有する

         →営業マンのアイデアをいかしてボードに進捗数値と活動内容を
          掲示し、お互いの業績や行動状況を共有化した。

        ③営業活動の方法を営業マン自身で考えさせ、決定させる

         →これまでの「こうやってみなさい」という指導から、どうするのかを
          営業マンそれぞれに考えさせるようにした。
          アドバイスするときも、あくまで提案のひとつというスタンスを貫いた。

        ④上記を徹底するためにコーチング手法を取り入れ、営業マンとの
          コミュニケーションを密にする

         →とにかく、営業マネージャーは個々の営業マンの力を信じ、営業
          マンの能力やアイデアを引き出せるようなサポートに徹した。

       このような営業マネージャーのマネジメントスタイルの変化により、営業マン
       も変わっていきました。

       営業マンの言葉を拾ってみると「任されている、信じてもらっているという実
       感がある」「仕事に自信がついた」「やる気が出てきた」「自分のアイデアを
       取り入れてもらえるので頑張ろうと思った」という前向きなものがほとんどで
       した。

     (4)質問事例

       なお、こうした変化を生みだした営業マネージャーが意識して行ったという
       質問の事例をいくつか紹介します。

       ①目標設定のコーチング時

         「C君にとって自分自身の理想の姿って、どういうものだろう」
         「C君が持てる力をすべて出し切ったら、どの程度できるかね」
         「C君にとって達成したときに心から満足できる目標ってどの
         程度だろうね」
         「3年後のC君の○○○という目標を達成するために、今どうするのが
         よいだろう」
         「この目標をやり遂げたときに、C君はどんな状態になっているかな」

       ②営業マンとの個別営業のコーチング時

         「明日の訪問の後、何が実現していれば成功といえるだろうね」
         「このお客さんの状況は、ゴールに対し、あと何%まできている
         んだろうね」
         「この提案をしたとき、お客様はどんなことを考えるだろうね」
         「お客様に確認しておくことは何だろうね」
         「次の営業ステップに進むためには何が必要だろうね」
         「何か必要な資料・ツールはあるかな」
         「お客様が悩んでいることは何だろうね」
         「N君がお客さんだったらどうして欲しい」
         「もしも明日クロージングするとすれば、何が必要だろう」
         「私に何かサポートして欲しいことはあるかい」
         「メンバーに協力を依頼することはないかい」
         「N君の強みをいかすにはどういうアプローチがよいだろうか」
         「今日(今週・今月)のN君の活動は何点だったかな」
         「今日の活動でよかったこと(悪かったこと)は何かな」
         「来週の今頃はどういう状況になっているかな」
         「私と立場が変わったら、N君は私にどういうアドバイスをすると思う」
         「N君ほかにアプローチする方法(準備すること)はないかい」
         「ライバルB社の営業マンは何を考えているだろうね」
         「この提案を実行するときにお客様の障害になるのは何かね」
         「あと、何%頑張れる」

     (5)コーチング導入の効果

       A社の社長によると「まず、営業マネージャーが明るくなり、続いて営業部
       門全体に活気が出てきた。

       そして、半年経った頃から景気は悪化しているにもかかわらず、営業成績
       が上向いてきた。

       何より営業部門の社員の発言が前向きになったことが大きな変化だ」とい
       うことです。

     (6)自社にコーチングを導入する

       ここでは、コーチングという手法の存在を紹介したものにすぎません。

       もう一歩進んで、よりコーチングという考え方について学んでみたいという
       方は、書籍をおすすめします。

       コーチングに関する書籍は現在多数出版されているので、これらの書籍を 
       読んだうえで具体的な導入方法について検討するというステップがよいで
       しょう。

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