ヒューマンエラー
 

  ■ヒューマンエラーに対応する

   1.ヒューマンエラーとは 

    近年、運輸機関における大事故や、金融機関におけるシステム障害や誤発
    注、医療機関における医療過誤などが社会的な問題となっています。

    これらの事故は、さまざまな要因がそれぞれ複雑に影響し合って発生して
    います。

    しかし、その根底には、ヒューマンエラー(人間の誤認識や誤動作によって
    引き起こされるミス)が存在しています。

    ヒューマンエラーによって引き起こされた事故の例です。

    このように、ヒューマンエラーによる事故はさまざまな分野で起こり得ます。

    企業の社会責任が重要視されている昨今、これらの事故は、「信頼の失墜」
    を招くばかりではなく、「顧客の安全性の損失」「多額の賠償責任の発生」な
    ど、取り返しのつかない大きな損害を顧客や企業に与える恐れがあります。

    また、近年、企業における機械化・IT化の進展により、一人の人間の作業
    により生じる影響力は、従来に比べて非常に大きくなりました。

    これにともない、ヒューマンエラーによって引き起こされる事故および損害の
    規模も増大しています。

    こうした背景から、企業にはヒューマンエラーに対する適切な対応が求めら
    れているのです。

   2.ヒューマンエラーのメカニズム

    (1)必ず発生するヒューマンエラー

      ヒューマンエラーへの対応を検討する上で、常に念頭に置かなくてはな
      らないのは、ヒューマンエラーは必ず発生するということです。

      もちろん、「ヒューマンエラーを起こさない」という意識を持ち、また、さま
      ざまな防止対策を講じることにより、ヒューマンエラーの発生をある程
      度防止することは可能です。

      しかし、人間は必ず何らかのミスを犯すため、ヒューマンエラーの発生
      を完全に防ぐことは不可能です。

      問題とされるべきは、ヒューマンエラーそのものではなく、ヒューマンエ
      ラーによって引き起こされる事故および損害への対応です。

      ヒューマンエラーへの対応としては、

       1.ヒューマンエラーの発生の芽をつみとる

       2.ヒューマンエラーが発生した場合、迅速に検知する

       3.ヒューマンエラーによる事故が発生した場合、迅速に対応する

      という、ヒューマンエラーの発生を想定した対策を講じることこそが重要
      なのです。

    (2)ヒューマンエラーの発生 

      人間の情報処理のプロセスは、

       ・入力のプロセス(情報を自身の中に取り込むプロセス)

       ・媒介のプロセス(取り込んだ情報を判断するプロセス)

       ・出力のプロセス(判断に基づいて行動を決定、実行するプロセス)

      の3つに大別することができます。

      ヒューマンエラーは、このいずれのプロセスにおいても発生する可能性
      があります。

      以下では、それぞれのプロセスにおけるヒューマンエラーについて具体
      的に説明します。

      ◎入力エラー

       情報を入力するプロセスで発生するエラーです。
       「見落とし」「見間違い」「聞き間違い」などにより、情報を正しく
       知覚・認知できないことをいいます。

       例としては、
        ・ 操作中の機器が異常発生を知らせる警告を表示していた
         にもかかわらずそれを見落とし、事故を発生させてしまった

        ・ 設計図中の寸法の数字を見間違えたため、欠陥住宅を建築
         してしまった

        ・ 顧客の見積もり依頼に関する仕様を聞き間違えたため、規格
         に沿わない仕様の見積書を作成してしまった

       などが考えられます。

      ◎媒介エラー

       情報を媒介するプロセスで発生するエラーです。
       「誤った知識」「経験への依存」「思い込み」などにより、情報を
       正しく判断・決定できないことをいいます。

       例としては、
        ・ 新入社員が、商品に関する誤った知識のため、不当に低い
         見積価格を顧客に提示してしまった

        ・ 電車のベテラン運転士が、自身の経験を過信するあまり機器
         の危険表示を軽視し、事故を起こしてしまった

        ・ 「あまり重要ではないだろう」という思い込みにより、顧客から
         のクレームを放置し、結果としてさらに大きなクレームを発生
         させてしまった

       などが考えられます。

      ◎出力エラー

       判断によって決定された行動を出力するプロセスで発生する
       エラーです。
       「やり忘れ」「やり間違い」「勘違い」などにより、計画通りに正しく
       実行できないことをいいます。

       例としては、

        ・ 顧客に依頼されていた調査を行うことを忘れてしまった

        ・ 自動車の運転で、ブレーキとアクセルを誤って操作してしまった

        ・ パッケージがいつも使用している薬剤と似ていたので、中身
         を確認せずに別の薬剤を患者に使用してしまった

       などが考えられます。

       なお、各プロセスにおける一つひとつのエラーが軽微なものであって
       も、一連の情報処理のプロセスの中でそれらが連鎖することにより、
       より大きな事故を発生させる恐れがあります。

   3.ヒューマンエラーへの対応

    (1)情報収集と分析

      ヒューマンエラーへの対応を検討するには、ヒューマンエラーに関する
      情報を収集し、詳しく分析する必要があります。

      ヒューマンエラーへの対応の検討プロセスは図の通りです。

      ヒューマンエラーに関する情報を収集します。

      前述の通り、ヒューマンエラーにはさまざまな種類があります。

      また、複数のヒューマンエラーが相互に関係することにより、さらに新た
      なエラーを発生させるケースもあります。

      こうしたことを判別するために、できるだけ多くの情報(事例)を集める
      ことが重要となります。

      加えて、ヒューマンエラーには至らなかったものの、それにつながる可
      能性があった事例についても収集します。

      建設業界や医療業界では、これらを「ヒヤリ・ハット事例(エラーを起こ
      しそうになって「ひやり」「はっと」した事例)」として関係者全員で情報を
      共有しています。

      これらは、ヒューマンエラーを「芽」の段階でつみとるための非常に重要
      な情報となります。

      次に、これらのヒューマンエラーに関する情報を分析します。

      ヒューマンエラーは、発生するプロセスやその要素、要因により大きく
      異なります。

      従って、分析においては、そのヒューマンエラーが、情報処理の「どの
      時点で」「どのような理由により」発生したのかを詳細に検証し、エラー
      を発生させた本質を突きとめることが重要です。

      それぞれのヒューマンエラーを分析によってタイプ別に分類し、各タイ
      プの特性を勘案して対策を決定します。

      以下は、ヒューマンエラーへの対応として「ヒューマンエラー発生の防
      止」「ヒューマンエラーの検知」「ヒューマンエラーによる事故への対応」
      をまとめました。

    (2)ヒューマンエラー発生の防止

      前述の通り、ヒューマンエラーは「必ず発生するもの」です。

      しかし、さまざまな防止対策を講じることによって、ある程度発生を防止
      することが可能です。

      以下では、各プロセスにおけるヒューマンエラー防止対策を説明しま
      す。

      ◎入力エラー

       入力エラーは、情報を正しく知覚、認知できないエラーです。
       従って、入力エラーへの対応では、情報が正しく入力されているかど
       うかの確認が重要となります。

       具体的な防止対策としては、

        ・ 見落としを防ぐために、機器や周辺状況について指差し確認
         などを行う

        ・ 見間違いを防ぐために、細かい数字や大量の数字などに
         ついては、複数の担当者の間で読み合わせを行う

        ・ 聞き間違いを防ぐために、情報は文書化して伝達する
         (やむを得ず口頭により伝達する場合は、必ず復唱を行う)

       などが考えられます。

      ◎媒介エラー

       媒介エラーは、情報が正しく判断されないエラーです。
       誤った判断は、誤った知識および判断基準の不統一によって行われ
       ます。

      従って、媒介エラーへの対応では、正しい判断を行うための正しい知
      識の教育、および判断基準の統一が重要となります。

      具体的な防止対策としては、

       ・ 機器の操作や業務内容についての正しい知識を教育する

       ・ 判断基準を統一し(マニュアル作成など)、この基準に基づいて判
        断を行う

       ・ 上司によるチェックなど、複数のチェックポイントを設定することに
        より、判断の妥当性を多面的に検討する

      などが考えられます。

      ◎出力エラー

       出力エラーは、行動が実行されない、もしくは行動が正しく実行され
       ないエラーです。
       従って、出力エラーへの対応では、行動が正しく実行されているかど
       うかの確認が重要となります。

       具体的な防止対策としては、

        ・ ToDoリスト(やるべき事柄をまとめたリスト)などを作成し、
         動作のもれを防ぐ

        ・ 落ち着いて、一つずつ作業や操作を行う

        ・ 作業、操作に際しては、目視などによる確認を行う

       などが考えられます。

       なお、出力エラーは、無意識の行動において発生しやすい特性をも
       っています。

       このため、無意識の行動に一定の制約を加えたり負担を軽減するこ
       とも効果的です。

       出力エラー防止対策の一例です。

    (3)ヒューマンエラーの検知

      ヒューマンエラー防止対策によってもヒューマンエラーを防ぐことができ
      なかった場合を想定し、それを検知するための対策を検討します。

      ヒューマンエラーの検知では、確認の機会を多く設け、目標と行為のズ
      レを少なくすることが重要となります。

      従って、具体的な対策としては、

       ・ エラーを発見しやすい仕組みをつくる

       ・ チェックリストを作成する

       ・ 複数の担当者によりダブルチェックを行う

      などが考えられます。

    (4)ヒューマンエラーによる事故への対応

      ヒューマンエラーを防ぐことができず、またそれを検知することができず
      に事故が発生した場合を想定し、これに備えるための対策を検討しま
      す。

      ヒューマンエラーによる事故への対応では、事故による損害の拡大を
      防ぐことが重要となります。

      具体的な対策としては、
       ・ 高所からの転落を想定して、安全ネットなどを張る

       ・ 伝票処理ミスや検品漏れによる目減りを想定して、ロス予算を
        計上する

       ・ 自社の製品により食中毒が発生した場合を想定して、迅速に
        被害者に対応するためのマニュアルを作成する

      などが考えられます。

      このように、ヒューマンエラーへの対応では、

      エラー発生の防止 ⇒ 発生したエラーの検知 ⇒ 発生した事故への対応

      という3つが、それぞれ適正に機能することが重要です。

   4.防止対策の運用上の留意点

    過去に発生したヒューマンエラーによる事故を検証してみると、「決められた
    手順通りに防止対策を実行しなかったため、ヒューマンエラーの発生防止
    や検知ができず、事故による損害を拡大させてしまった」という事例が少なく
    ありません。

    これらの多くは、
     ・ 指差し確認が面倒だったので、「安全と思われる」作業の確認を省略し
      た

     ・ システム上、エラーの警告が出たが、「問題ないと判断して」作業を続
      けた

     ・ 自分で「念入りに確認をした」ので、ダブルチェックをしなかった

    といった担当者の主観的な判断により、防止対策がしっかりと実行されなか
    ったことに起因しています。

    防止対策は、さまざまなプロセスに客観的なチェックポイントを設置すること
    でエラーの発生を防ぎ、またそれを検知することを目的としています。

    このため、担当者の主観的な判断によってこれらのチェックポイントを排除
    してしまっては、防止対策としての機能が全く失われてしまうこととなる。

    従って、防止対策を運用する際に最も重要なのは、いかなる場合でも、防
    止対策で定められている原則・ルールを順守し、実行させる
ことだといえま
    す。

    このためには、社内に「ヒューマンエラー防止対策委員会」といったチェック
    機関を設置し、
決定した原則・ルールが順守、実行されているかを定期的に
    確認する
などの施策が有効です。

    ただし、防止対策が実行されていたとしても、それが事実上形骸化してい
    ては意味がありません。

    例えば、ある機器の操作を行う際に指差し確認が義務付けられているとし
    ます。

    このような場合、長い期間を経るにともない防止対策が形骸化してしまい、
    結果として「表面上では指差し確認を実行していても、実質的には、確認者
    はただ無意識に指を差しているだけで確認していない」ということになってし
    まう恐れがあります

    このため、各人に、

     ・ その行動によって、どのようなヒューマンエラーが起き得るか

     ・ そのヒューマンエラーによって、どのような損害が起き得るか

    ということを十分に理解させ、防止対策を実行する重要性を認識させること
    が必要です。

    このためには、社内の各部署で発生した「ヒヤリ・ハット事例」について検証
    する「ヒヤリ・ハット意見交換会」を定期的に開催するなどして、ヒューマンエ
    ラーについての啓発活動を行うなどの施策が有効です。

    ヒューマンエラーは、もちろん発生させないに越したことはありません。

    しかし、その発生を完全に防ぐことができない以上、「ヒューマンエラーにと
    もなうリスクを、いかに少なくするか」という考え方を持つことが重要だといえ
    るでしょう。

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