製造業の経営革新(下請け体制からの脱却)
 

  ■下請体制の変化と経営革新の必要性

   1.下請分業体制の変化

     (1)日本の高度経済成長を支えてきた構造は、製造業における親事業者と下
       請企業とのネットワーク(下請分業体制)でした。

       下請企業は、複数の親事業者をもち、主要な親事業者とは長期にわたって
       取引を行い、所有する資産のうち主要親事業者向けの資産が約半分を占
       め、親事業者の要求によって設備投資や研究活動が行われるなど、親事
       業者による影響を大きく受けてきた。

       下請企業にとっては、仕事量の安定、独自での営業活動が不要、取引に
       関するリスクがない、技術指導が受けられるなどのメリットがありました。

       一方、親事業者側は、生産能力の不足分を外注で補う、外注先の専門的
       な技術や製造設備を活用する、外注先を活用して自社は得意な分野に集
       中するなど、下請企業とのネットワークを上手に利用して自社の強みを特
       化していこうという傾向がみられた。

       このように、長期安定的な取引関係を構築し、ネットワークである下請分業
       体制を、親事業者、下請企業の双方が上手に利用していました。

       しかし、中小製造業を支えてきた下請分業体制に、1980年代以降、大き
       な変化が起こり始めまた。

       「2013年版中小企業白書」によると、中小企業の下請比率は1981年の
       65.5%をピークに減少傾向(製造業で約18.6%、サービス業で
       約9.4%)にあり、この傾向は一部の業種(食料品、化学工業)を除いてほ
       ぼ全業種に共通しています。

       下請比率の低下に関係する大きな要因は、経済のグローバル化や不況が
       長引いたことで、大企業の生産拠点が海外へ移転したことがあげられる。

       また、日本の下請企業は、個々の部品を相互に調整・最適化しながら統合
       し、機能を発揮するように製品づくりを行う技術を得意としているのに対し、
       生産性向上のために、製品を部品ごとに分割、生産し、部品のつなぎ(イン
       ターフェース)の部分を標準規格化することで、単に部品を組み合わせるだ
       けで製品が完成する生産体制が世界的に進んだことも、下請比率の低下
       につながったとみられています。

       部品・半製品メーカーおよび素形材メーカーの状況をみると、10年前と比
       較して、下請取引を行う企業の割合はわずかに増加しているのに対し、各
       企業の売上に占める下請取引の割合は微減している。

       また、近年の傾向として、特定の取引先に売上のほとんどを依存する企業
       の割合が低下し、多数の取引先と薄く広い取引をする企業が増えている。

       これにより、下請企業が取引先より入手できる情報が、より表面的なもの
       や一般的なものとなり、技術開発や成長の方向性をつかみにくくなっている
       と懸念されています。

     (2)必要とされる国内基盤の強化

       大企業を中心に東アジアなどへ生産拠点を移し、生産体制の効率化を
       図ってきたが、近年、並行して国内の生産体制を再び強化する動きがみら
       れるようになった。

       とりわけ、電気・情報通信機械器具の分野では、アジア向けの投資が頭打
       ちとなり、その一方で国内向けの設備投資が持ち直す頼向がみられていま
       す。

       その背景には、最近の国内景気の回復基調により、企業の投資力がつい
       てきているうえに、ものづくりの基盤技術として、国内の中小企業の高い技
       術力が再評価されていることがあるようです。

       安価な海外製品の流入や親事業者の海外進出による受注減少に苦しむ
       中小企業があるなかで、こうした国内での需要に応えていくためには、環境
       の変化に対応し、自立した企業ともて強みを発揮していくことが求められて
       いる。

   2.基盤強化に求められる経営革新

     このような環境の変化に対応して、下請企業の企業活動も変化してきている。

     「2005年版中小企業白書」では、近年の中小製造業のおもな動きとして、輸
     出・輸入・海外直接投資を行う企業の増加、研究開発部門の従業員の増加、 

     デザイン・商品企画、研究開発関連の外部委託の増加をあげています。

     また、自社で生産設備を持たず生産工程をすべて外注する「ファブレス企
     業」、研究開発・試作品開発に特化する「研究開発型企業」、流通ルートを介さ
     ず自社で製造から小売までを一貫して行う「製造小売」など、業態も多様化し
     てきています。

     中小企業庁の調べによると、2005年11月末時点で、中小企業新事業活動促
     進法(旧法は中小企業経営革新支援法)に基づき、都道府県などより経営革
     新計画の承認を受けた計画件数は2万365件となっています。

     2005年3月末時点で承認を受けた企業の業種別割合をみると、製造業が
     43%ともっとも多くなっています。

     承認された中小製造業者の経営革新活動の割合は「新商品の開発又は生
     産」36%、「商品の新たな生産又は販売方式の導入」30%、「役務の新たな
     提供の方式の導入その他の新たな事業活動」20%、「新役務の開発又は提
     供」14%となっています。

     今後も下請体制の変化が進むことが予測されるなか、中小製造業者が自社
     の強みを強化していこうとする様子がうかがえます。

  □経営革新のヒント

   経営革新といった場合、どのようなものが経営革新といえるのでしょうか。

   もっともわかりやすい定義として、中小企業新事業活動促進法に定義されている
   「経営革新」の内容を確認していきましょう。

   中小企業新事業活動促進法では、経営革新として、

    1.新製品の開発又は生産

    2.新役務の開発又は渥供

    3.商品の新たな生産又は販売方式の導入

    4.役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業法動

   という4つを定義しています。

   それでは、これらの経営革新を行うためにはどのような工夫ができるかを考えて
   みましょう。

    1.製品・市場のマトリクスを利用する

      以下は、実際に中小企業経営革新支援法(現法は中小企業新事業活動促
      進法)の承認を受けた会社の事例です。

      金箔などの箔押し業者であったA社は、結婚式に代表されるお祝い物の金
      箔押しの印刷物が売上の中心でした。

      ところが、昨今では結婚式が多様化し、形式にとらわれない人が増えたこと
      や、パソコン印刷の普及に伴い、売上の激減に直面しました。

      そのため経営革新の必要を感じ、新たな市場開拓を決意した。

      現在の市場がなくなるという火急の事態ですので、新たな市場を緊急に開拓
      することが要求されました。

      その際考えたのは、今からまったく新しい製品や技術を開発していくことは資
      金力、人材力から無理があるため、現在もっている「箔押し」の基本技術をい
      かして市場開拓ができないかというものでした。

      現在は「紙」に箔を押しているが、これを別の素材に応用できるかどうかを検
      討し、たどり着いたのが食品への箔押しでした。

      紙のような形状の食品への箔押しを考え、「海苔」への金箔の箔押しが生み
      出されたのです。

      そして、贈答用の海苔や、すしネタに使用する海苔に、金箔で店舗名や広告
      を箔押しした製品を開発し、中小企業経営革新支援法の承認を受けることに
      成功しています。

      このA社の考え方に、経営革新を考えるひとつのヒントがみつかります。

      それは、以前からよく使われている方法で、
      「製品・技術」と「市場」の2つの軸で考えたマトリクスを利用する方法

      これは、縦軸に市場を、横軸に製品・製品・技術をとり、それぞれ既存と新規
      からなる4つのマトリクスを利用する方法です。

      現在もっている「箔押し」という技術を利用して、それを新しい市場に持ち込
      むという市場開拓の手法がA社の新製品開発にいかされています。

      中小製造業の場合、まったく新しい技術とまったく新しい市場からなるマト 
      リクスを狙うのは無理がありますから、A社のように、自社のもっている技術
      や市場をベースに考えることが一般的です。

      さらに、既存と新親の間に「他社は知っているが自社にとっては新規」という
      区分を入れることも役立つはずです。

      他社ではすでに開発されているが、自社はまだ手をつけていない製品分野
      や市場分野ですから、他社の取り組みを参考にすることによって自社にとっ
      ての経営革新が可能で、すでに先行している他社があるのでリスクも少ない
      分野です。

      このマトリクスを頭の中に入れて経営革新を考えることで、自社の資源を無
      理なく活用した経営革新を検討することが可能となります。

    2.顧客を知る

      もうひとつ、自社の新たな経営革新の対象となる顧客を知ることが、経営革
      新を図るうえで重要なポイントとなります。

      新製品を開発していく際に、製造業ではとかく自社の現在の技術に依存して
      考えがちです。

      そのこと自体は、先のマトリクスの考え方のように正攻法といえますが、問題
      は、自社の技術に縛られすぎて顧客がみえていない場合が少なくないという
      ことです。

      新しい製品や事業を考える瞭には、顆客を明確にイメージすることが重要。

      (1)市場細分化        

         新製品を発売する以前に、顧客を絞り込んで、具体的にイメージしておく

        と経営革新計画が立てやすくなります。

        顧客を絞り込む際に使われる基準が、「市場細分化」の基準です。

        すべての人を顧客に想定することはできませんので、自社の開発する製
        品を使ってもらいたい顧客を絞り込んで考えることがポイントです。

        たとえば歯磨きでも、口臭防止を目的に製品を利用する顧客、歯を白くす
        ることを目的にする顧客、磨いたときの爽快感を大切にする顧客など、顧
        客の要望にあわせた製品開発がなされています。

        この 要望=便益によって顧客を区分し、自社の開発した製品の真の顧
        客を絞ることが市場細分化です。

        市場細分化を考える際には、一般に4つの視点が必要です。

        ①「測定可能性」

         新たに開発した製品が対象としている顧客の購買力を予想できるか
         どうかという視点です。
         たとえば、二輪車向けに新たに開発された二輪車用カーナビは、
         すでに販売されている二輪車用のアクセサリーなどの市場から
         購買力が測定可能となります。

       ②「到達可能性」

        自社の新製品のターゲットを、たとえば「シンプルでナチュラルな生活
        を志向する20歳代の女性」と定義したとしても、そのターゲットに接近
        できる方法がなければ絵に描いた餅となってしまいます。
        たとえば、想定したライフスタイルをもつ消費者をおもな購読層にして
        いる雑誌に広告を出すことでターゲットに到達可能になる、といった
        視点から検討してみます。

       ③「維持可能性」

        そのターゲット市場が採算のとれる規模があるかという視点です。
        たとえば、珍しい古着をリサイクルして和装バッグを製造しても、その
        対象となる市場の人口が数十人では採算がとれません。
        自社の生産能力やコストを考慮に入れながら、採算のとれる規模である
        かを確認することが求められます。

       ④「実行可能性」

        自社の想定しているターゲットに対して、マーケティング・プログラムの実
        行が可能であるかどうかという視点です。
        中小製造業者が世界規模の販売網を必要とするマーケティング・プランを
        考えても容易には実行できないため、自社のマーケティング資源を確認し
        ながら、実行可能であるかどうかを検討することが求められます。

      (2)5W1H法

        このような視点から検討して市場細分化がなされたら、その市場をより具
        体的にイメージするために利用できる方法が「5W1H法」です。

        開発した製品が実際にどのように使用きれるかについて、5W1H=「誰
        が、どこで、何を、いつ、なぜ、どのように」使用するかを自問して、顧客の
        姿を明確にしていきます。

        市場細分化によって、ある程度顧客のイメージは決まっているはずです
        ので、それをさらに製品が使用されるシーンに従って具体的に想像するこ
        とで、開発製品のイメージを精巧度の高いものに近づけていきます。

        たとえば、市場細分化で自社の顧客を「40歳代の主婦」と想定していて
        も、都会の主婦の行動と地方都市の主婦の行動は買い物に行く手段(徒
        歩か車か)から違いますし、ニーズも異なってきます。

        「40歳代の主婦」をターゲットとしているといいながら、じつは「大都市に
        住む、40歳代で、子どもが高校生の主婦」だけに必要な製品を開発・製
        造しているケースなどが考えられる。

        このような誤差をなくすためにも、自社の開発・製造する製品がどのよう
        に使用されるかを5W1H法で確認することが有効です。

        5W1H法は、たとえば以下のように利用していきます。

         自社が新たに開発する製品が小型プリンターである場合、
         誰が:ビジネスマン、大学生、高校生、中学生
         どこで:仕事で、学校で、出張時に、遊びで、旅行で
         何を(プリントするのか):PCの内容、携帯電話で撮った画像
         (景色、友達)
         いつ:仕事中、帰宅後、学校で、電車の申
         なぜ:仕事の資料をつくるため、手帳に貼るため、写真シール
             にするため、自分の楽しみのため、シールをつくるため
         どのように:職場のプリンターを使用して出力する、家庭用
                 プリンターを使用して出力する、携帯用プリンター
                 を使用して出力する

        このような選択肢から、たとえば中学生が小型プリンターを使用するシー
        ンをさらに具体的に想定していきます。

         誰が:友達の多い中学生

         どこで:学校の休み時間、電車の申

         何を:携帯電話で撮影した友達の画像

         いつ:その場で

         なぜ:シールをつくるために

         どのように:携帯用小型プリンターで出力する

        このように具体的に想定していくと、たとえば「携帯電話で撮影した画像を

        その場でプリントできる」というニーズが想定されます。

        このニーズに基づいて、さらなる具体的なニーズ(たとえば、色、デザイ
        ン、サイズ、形、価格、重さなど)を明確にしていくことで、新製品の仕様を
        決定していくのです。

     経営革新を推進することが、下請体制の変化に負けない自立した企業となる
     ポイントです。

     自社の経営資源を製品・市場マトリクスで分析し、具体的な顧客を想定した新
     規開発をめざしていきましょう。

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