従業員持ち株会 〜未上場会社

従業員持ち株会 〜未上場会社
 

  ■従業員持ち株制度の概要

   従業員持ち株制度とは株式の発行会社が従業員に対する自社株式の取得・
   保有を奨励することで、従業員に自社株式を活用した財産形成手段を提供すると共に、
   会社にとっては安定株主の確保や資本政策の円滑化といった目的をもって運営
   されるものです。

   民法上の組合である「従業員持ち株会」 を作り、会社及び従業員が相互にメリット
   のある制度として未上場会社においても幅広く普及しています。

   ただし、従業員持ち株制度に関する直接的な法体系は整備されていませんので、
   証券取引法及び商法並びに各種税法等関係法令に抵触することがないように留意
   することが必要です。

   従業員持ち株会の円滑な運営の為に日本証券業協会では、 「持ち株制度に関する
   ガイドライン」 を作成し、持ち株制度運営についての指針を示しています。

   従業員持ち株会を設立する場合には同ガイドラインに規定された内容を遵守する
   ことが最も好ましいと考えられます。

   また、同ガイドラインの内容については、日本証券業協会から指導が行われている
   証券会社が熟知しているので、従業員持ち株会の設立及び運営については証券会社
   に相談することをお勧めします。

  □従業員持ち株会の意義

   従業員持ち株会を実施することは実施会社及びその従業員にとって次のような
   メリットがあります。

   従業員持ち株会を設立する場合には、会社及び従業員にとってより多くのメリット
   が生ずるように制度作りを行うべきであり、従業員持ち株会設立の意義を明確に
   認識できることが重要です。

 

   ●会社にとってのメリット     ●従業員にとってのメリット

    1.資金調達の円滑化が図れる    1.無理のない積立で自社株購入可能

    2.株式事務の簡素化が可能     2.自社株による計画的な財産形成

    3.株式売却の受皿としても有効   3.奨励金が支給されれば更に有効

    4.従業員のモラールアップに有効  4.株主として経営参加が可能

    5.円満で安定した雇用関係の確立  5.退職時には円滑に株式売却可能

    6.人材確保に有効         6.税務処理も万全

 

  □従業員持ち株会を設立すべき未上場会社

   未上場会社が従業員持ち株会の設立を検討する場合、その多くが次の幾つかのケースに
   大別されます。

   つまり、次のケースに該当する会社は従業員持ち株会を設立すべき会社であると言える
   でしょう。

   1.株式の上場を目指す会社

    株式上場を指向する会社は、株式上場基準を満たす会社となることが必要であり、
    その為には資本政策に基づく増資を行うことになります。

    未上場段階での増資時には従業員に対してもその割当てを行い、株式上場時における
    創業者利潤の一部を従業員が享受できるようにします。

    ただし、従業員個人に対して割当てを行うと増資の手続きが煩雑になると共に、
    従業員の退職等に伴う株券の社外流出の危険性もある為、従業員持ち株会を設立し、
    これらの問題が生じない対策を構築したうえで、従業員に株式の供給を行うことが
    必要です。

   2.社員株主の存在する会社

    これまでに数多くの未上場会社において社員株主の株式買取りをめぐりその価格の
    問題で訴訟が起こされています。

    社員株主であっても退職すれば社員の立場ではなく株主としての立場で行動し、
    経済合理性に基づいた株価での株式買取りを求めるケースが数多く見受けられ、
    訴訟という形で表面化したものに限らず、水面下ではかなりのトラブルが生じている
    ものと考えられます。

    従業員持ち株会を設立し社員株主の株式を全て持ち株会に組み入れれば、その後の
    株式の取扱いは従業員持ち株会の規約の定めに従うこととなり、株券の社外流出が
    完全に防止できると共に持ち株会退会時(主に退職) における株式の買取方法及び
    その価格についても明確に定められるのでトラブル防止に大きな効果があります。

   3.株主数の多い会社

    株主が多数存在する場合、会社にとっては株式事務の負担が大きく、株主数を減少
    させることが業務の効率化の観点からも必要となります。

    また取引先やOB社員等の社外株主については、取引関係の変化やOB社員の死亡等の
    状況の変化によって会社に対する株式買取りの要求や会社として好ましくない者との
    株式譲渡承認請求が行われることも想定されます。

    したがって、未上場会社においてはできる限り株主数を少なくすることが株主対策上
    重要になります。

    しかし株主数の削減を進めるには株式買取りの受け皿を作る必要があると共に、
    既存の株主が株式を売却することに協力しようと思う株式買取先を作ることが
    必要です。

    従業員持ち株会を設立し従業員持ち株会が株式の買取先となれば、従業員に対する
    福利厚生の増強という大義名分もあり、OB株主の理解が得易く、取引先等社外株主
    にも協力要請を行い易い状況となります。

    更に従業員持ち株会は給与天引で毎月積立を行う為、株式の買取りを常に行える
    状態にあり、売却要請に応じた株主の株式を順次買取ることが可能です。

    また、オーナー等が株式を買取る場合に比べ税務上も安い株価で買取ることができる
    ので株主数の集約を目指す場合、特に効果を発揮します。

   4.事業承継対策を実施する会社

    事業承継対策を考える場合、オーナー経営者の持ち株比率を引き下げることが
    ポイントとなりますが、オーナー保有株式の譲渡先としては従業員持ち株会が
    後継者に次いで好ましい譲渡先と言えます。

    従業員持ち株会に株式を譲渡すれば、株式の社外流出を防げると共に、会社に雇用
    されている者が株式の持分を共有するものであり、経営権に影響を与えるような
    状況は生じないと考えられる為です。

 

  □未上場会社における従業員持ち株会の効果

   1.株主管理上の効果

    (1)株式発行事務の軽減

      会社の資本充実を図る段階で、初期の時点であれば従業員持ち株会を
      活用し従業員に対して幅広く株式を供給することが可能です。

      ・株式の名義が持ち株会理事長となっていること。

      ・株式の議決権は持ち株会の代表者である理事長が代表して行使すること。
       (議決権の不統一行使を妨げない)

      ・配当金を再投資すること。

     以上3つの要件を満たす従業員持ち株会であれば1人株主として取扱われる為、
     会員数(従業員数) に係らず株主数1名としてカウントされますので、増資の
     手続等が簡素化できます。

 

    (2)株主管理の簡素化

      従業員持ち株会を設立した場合、株主名簿上の株主は持ち株会の代表者
      である理事長1名となりますので、株式の名義人を従業員個人名義とする
      よりも株主管理が大幅に簡素化されます。

      特に配当金の支払事務や株主割当増資時の事務管理面でメリットがあります。

 

    (3)株券の社外流出防止に有効

      従業員持ち株会は民法上の組合であり、従業員は入会に際して持ち株会
      規約を承認して入会することになる為、規約に株式の処分の禁止に関する
      規定を盛り込んでおけば原則として株式の引出等を行うことが認められない
      こととなり、従業員の退職等に伴う株券の社外流出防止策として万全です。

 

    (4)株主からの株式買取り組織として有効

      従業員持ち株会を組織し毎月積立を行っていれば株主から株式の売却希望が
      出た場合にも、従業員持ち株会の積立金により円滑に株式の買取りを行えます。

      また、従業員持ち株会の積立金残高がまとまった金額に達した時には、
      株主に従業員持ち株会に対する株式売却依頼を行い株主数の集約を進める
      ことも可能です。

 

   2.事業承継策としての有効性

    オーナー経営者にとって円滑な事業承継を行うことは大変重要なテーマです。

    事業承継のポイントを簡単に言えば、実質的な経営権への影響を与えずにオーナーの
    持ち株比率を低下させることと考えれば良いでしょう。

    従業員持ち株会は株式の議決権不統一行使を行えることが定められた民法上の
    組合組織であり、実質上の株主と言える従業員個人に対しては大量な株式が交付
    されているものではありません。

    したがってオーナー経営者の株式の一部を従業員持ち株会に譲渡しても圧力団体化
    する心配はありません。

    そこでオーナー経営者の持ち株比率を下げる方法としてオーナー所有の株式を
    従業員持ち株会に一部譲渡することが効果的な対策になりますが、従業員持ち株会
    への株式譲渡に際してはオーナー経営者及び後継者にとってのメリットのみを追及
    せずに従業員持ち株会の本質は従業員に対する福利厚生の充実にあることを考慮
    した対応が求められます。

    また、従業員持ち株会は圧力団体化する心配のない団体ですが、経営権を左右する
    ことのない範囲で株式の譲渡を行うことが必要です。

   3.資本政策上の効果

   (1)資本政策と従業員持ち株会

     会社の資本充実を図るには資本政策を確立し、会社の成長に応じて適正な資本
     構成を行うことが必要です。

     一般的な資本参加の順序は会社経営の中枢から会社内部の者、更に社外の関係先
     の順になります。

     具体的には、まずオーナー経営者(親族を含む) が出資額を増大させ、次いで
     他の役員が出資を行い、その後に従業員、更に取引先等の順で出資することに
     なるでしょう。

     未上場会社が資本政策に基き従業員に株式を供給できる機会は限定的であり、
     比較的大量の資金の払込みが必要になります。

     このような状況を想定し幅広い従業員に株式を供給するには、従業員持ち株会を
     設立し計画的に給与天引で積立てを行うことが必要です。

     給与所得者である従業員の収入は限られており、突然多額の株式購入代金の
     払込みを知らされても対応できない者が多数生じる可能性があり、そのような
     事態を回避し従業員が円滑に自社株式を取得できるようにする為にも従業員
     持ち株会の設立は不可欠です。

 

   (2)増資手続の簡素化効果

     資本政策に応じた増資手続を簡素化する為にも従業員持ち株会は大きな役割を
     果たします。

     増資に際しては下表に示した手続きが必要になりますが、1人株主として認め
     られる従業員持ち株会であれば実質的に手続が大幅に簡素化されます。

 

     ●有価証券の募集(売出) に要する提出書類 (関東財務局)

      なお、50名を超える従業員に対して株式の割当てを行っても、要件を
      満たす従業員持ち株会であれば、1億円未満の増資について有価証券通
      知書の提出が不要となります。

 

  □従業員持ち株会発足手続

   従業員持ち株会は民法第667条第1項に定める組合として設立・運営することになるので、
   従業員持ち株会を設立するには以下の手続きが必要となります。

   ◎従業員持ち株会設立手続

    1.発足準備事項

     ・発起人の人選:会社の幹部社員の中から持ち株会に加入し、運営
      主体となる者を発起人として選定します。

     ・規約案の作成:従業員持ち株会の運営ルールとなる持ち株会規約の
      原案を作成します。

     ・理事長印作成:株主名簿への名義届出・銀行口座開設・証券会社等
      持ち株会事務委託先との契約等に使用する印鑑として持ち株会の
      理事長印を
作成します。

 

    2.持ち株会設立手続

     ・発起人会開催:発起人が集り持ち株会の役員となる理事・監事の
      選任を行い、規約案を承認し正式な規約を制定します。      
      これらの手続完了をもって正式に持ち株会が発足することに
なります。

     ・理事会開催:発起人会終了後に理事会を開催し、理事の互選により理事長・
      副理事長を選任します。

     ・銀行口座開設等:理事長が決定したら銀行口座開設を行います。
      また証券会社等に持ち株会の計算事務を委託する場合には事務
      委託会社との契約を交わします。
     

 

    3.会員募集・資金の積立等

     ・会員の募集:従業員持ち株会の規約で定めた会員の範囲に含まれる
      従業員に対して、持ち株会設立の案内を行い、一定の期間を定めて
      会員の募集を行います。

      従業員に対して持ち株会の意義や設立の背影及び持ち株会の内容を
      理解していただくことが必要ですから、説明会開催やパンフレット
      を作成し充分なPRを行うことが必要です。

     ・給与天引:従業員持ち株会への加入申込を行った従業員は給与天引
      で積立てを行うことになりますので、会社は天引の便宜を図る必要が
      あります。
      また、会社が従業員への福利厚生として奨励金を支給することが
      一般的ですが、この場合には、会社が支給する奨励金は福利厚生費
      として損金処理し、従業員に対しては給与所得として処理すること
      になります。

     ・資金の管理:従業員持ち株会に株式が供給されるまでの間については
      会員が積立てた資金を管理することになります。
      積立金の管理は原則として流動性の貯蓄で行うこととされています
      ので、一般的に証券会社の中期国債ファンド等で管理しています。

    以上の内容を確認すれば、未上場会社が従業員持ち株会を実施することの
    必要性と発足手続きに関して理解できるでしょう。


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