持株会社 ホールディングカンパニー
 

  ■持株会社経営の流れ

   1.持株会社とは

     持株会社とは、ほかの会社の株式を所有することによって、事業活動を管理
     し、実質的に支配することを目的とする会社のことであり、ホールディングカン
     パニーとも呼ばれています。

     持株会社はその形態によって、「事業持株会社」と「純粋持株会社」の2つの種
     類に分かれます。

     「事業持株会社」は、自ら事業活動を行いながら、他社の株式を保有して事業
     活動を管理・運営している会社です。

     「純粋持株会社」は、自社は事業活動をせず、純粋に他社の株式を保有し、管 
     理・運営することだけを事業の目的とする会社です。

     そのほか、銀行、証券会社、保険会社などの金融機関を傘下にしている持株
     会社のことを特に「金融持株会社」といいます。

   2.法改正による事業再編・体制の整備

     今では一般的となった純粋持株会社ですが、1997年12月の独占禁止法に
     よって純粋持株会社が解禁され、以降、ダイエー、NTT、大和証券、ソニーな
     ど多くの企業でグループ企業を持株会杜制に移行しました。

     戦前、日本の財閥は純粋持株会杜の形態で事業を拡大していましたが、事業
     支配力が過度に高まることを制限するために、独占禁止法により、純粋持株
     会社方式を採用することが禁止されていました。

     しかし、海外の多くの優良企業では、グループ企業を効率的に管理・運営する
     方法として純粋持株会社方式が採用されています。

     そこで、日本においても国際競争力を高め、効率的にグループ企業の経営戦
     略を図れるよう、1997年純粋持株会社を解禁することとなりました。

     またその後も、経営改革のための事業再編への取り組みを促進するために、
     合併法制の合理化、株式交換・移転の制度化、会社分割の制度化など、次々
     と法整備が行われてきました。

     今日では多くの大企業が純粋持株会社制に移行しており、またその流れは中
     小企業にも及んでいます。

     以降、ここでは、この純粋持株会社を持株会社と称して説明します。

  □持株会社制のメリット・デメリット

   1.持株会社制のメリット

     (1)グループ戦略の最適化

       持株会社制へ移行し、各事業活動と距離をおくことで、一部の事業分野に
       肩入れせず、グループ全体の戦略を策定することに専念できます。

       これが持株会社制のもっとも重要な機能といえるでしょう。

       グローバル化の進む現在の経営環境においては、たとえ高収益事業で
       あっても事業の将来性が不安定である場合や、グループ戦略からはずれ
       る事業であれば、全体最適の視点から事業を切り離し、優先事業へ資源を
       集中させなければならないこともあります。

       持株会社は、客観的な立場から、各事業の業績や事業方針、将来性を大
       局的に把握し、グループ全体の経営資渡の最適配分を行い、収益の最大
       化を追求することができるのです。

     (2)経営判断の迅速化

       事業環境が急速に変化する昨今においては、経営判断のスピードが事業
       の成否をわけます。

       組織の規模が大きくなるほど、決裁の階層は多層化され、経営判断のス
       ピードは遅くなるものです。

       各事業会社の事業にかかわる意思決定を、それぞれの子会社の経営陣に
       権限委譲することにより、スピードを要する戦略においてもタイムリーに対
       応することができるようになり、また各事業における経営責任の所在を明
       確にすることができるようになります。

       特にオーナー社長が事業の第一線で活躍している企業の場合、事業規模
       が拡大していっても、すべての決裁権限がオーナーに集中しており、各事
       業分野の環境変化や事業の詳細を把握しないままに経営判断がなされ、
       事業担当役員の権限と責任が不明確になってしまうケースがみられます。

       そのような場合、持株会社経営に切り替えることが、職務分掌や経営責任
       を改めて見直す機会になることもあります。

     (3)事業買収のスピードアップ

       合併の形態で事業買収を行う場合、経営統合する企業間の力関係が表面
       化し、双方のプライドを損なわないよう条件交渉をしなければならず、調整
       に時間がかかります。

       しかし、持株会社を連結器として活用することで、統合する企業同士を同等
       に扱い、双方の立場を配慮した競合が可能になります。

       また、社内ルールや情報システム、労働条件、貸金体系などの社内規程
       等について、いかに統一させるかも大きな課題となります。

       持株会社制度を採用すれば、別会社としてグループに組み入れ、段階的
       に競合していくことで、企業間の混乱や摩擦を緩和させることができます。

     (4)正当な業績評価

       各事業を個々の独立した会社へと分社化することによって、各事業の採算
       が明確になり、各社の経営成績を正しく評価できる環境が整います。

       また成長性のある事業と不採算の事業の区別が明確になります。

       事業再編にあたっては、新たな事業に進出するか、あるいは撤退するかの
       経営判断を早期にすることができます。

       さらに、同一企業では、異なった人事制度や労働条件を採用することは困
       難ですが、持株会社制を採用し、それぞれの事業を別の会社として扱え
       ば、各企業の環境に合わせて、異なった人事制度や労働条件を採用する
       こともできるため、各事業戦略を機動的に立案することが可能になります。

   2.持株会社制のデメリット

     (1)管理業務の負担増

       各社がそれぞれ管理・間接部門等を有し、持株会社へ業績など事業にか
       かわる詳細を報告すると、間接部門が肥大化し、経費が増加する可能性
       があります。

       また、逆に間接部門の負担を軽減するために、報告業務などを簡素化する
       と、経営管理のルールが統一されず、グループ全体で管理業務の効率化
       や情報把握を行うことが難しくなります。

       各社の事業の詳細を把握することができなくなり、グループとしての収益の
       最大化を追求しにくい環境になることもあります。

     (2)コミュニケーションの減少

       各社がそれぞれの社内で取締役会、幹部会などの経営会議を行い、各会
       社間でコミュニケーションを図る機会がなくなると、各社の事業の内容につ
       いてリアルタイムで情報を把握するのが困難になり、事業間のシナジーを
       図ることが少なくなります。

       グループ会社間の情報共有を目的とした経営会議や交流会、情報誌など
       の仕組も必要です。

       また、企業グループを束ねる理念、経営ビジョンを掲げるなど、グループと
       しての経営哲学を確立しないと、グループとしての求心力も低下しかねま
       せん。

     (3)人材の交流が困難

       各社が異なった人事制度や処遇などの労働条件を決定することにより、グ
       ループ間の人材交流を行うことが困難になります。

       各事業の領域を超えたゼネラリストの育成を行うために、別途グループ共
       通の人材交流の制度を整備するなどの工夫が必要です。

     (4)短期的な収益追求

       各社独立採算により事業を運営することを求められるため、各会社とも決
       算期ごとに業績を比較され、評価をされることになります。

       客観的に業績を評価されることにより、各社の実力が正しく評価される反
       面、つねに子会社間で業績を競うため、一時的に収益が悪化するような中
       長期的な投資が行いにくくなります。
   
   3.カンパニー制との違い

     持株会社にせずに、1つの会社内の事業部門に対して権限と責任を強化し、
     各事業の業績を明瞭にして、その結果を経営上の判断資料や指針とする方
     法に、「事業部制」や「カンパニー制」があります。

     いずれも内部組織における制度のため、法的な制限や制約はありません。

     事業部制は、1つの会社にいくつかの事業部を設け、事業部単位で利益が算
     出され、管理会計により、各事業部の損益を明らかにします。

     また、カンパニー制は事業部制を進展・補正させたものですが、最大の違い
     は、バランスシートまで踏み込んで各事業の収益を把握することにあります。

     内部組織ではありますが、社内的に独立法人とみなされ、各カンパニーの資
     本金を設定し、それ以外の必要資金は本社からの借入として、カンパニーごと
     のバランスシートに計上されます。

     設備投資、人事上の決定権限も各カンパニーに与えられ、配当目標も設定し
     ます。

     そのため、持株会社制にかなり近い仕組ですが、実際の独立法人とは異な
     り、会社が倒産するリスクや株主から直接代表訴訟で訴えられるリスクなどが
     あるわけではなく、企業を取り巻くリスクに直接身をおくことにはなりません。

  純粋持株会社の設立形態

   純粋持株会社の設立のための手続きと手備について以下に説明します。

   1.事業再編による分社型持株会社

     特定の事業部門を分社化し、分離・独立させて子会社を作る方法です。

     子会社の設立の方法としては、事業譲渡と会社分割の2つの方法があり、会
     社分割の場合は、さらに既存法人に承継する吸収分割と、法人を新たに設立
     する新設分割の方法があります。

     具体的には、会社の事業部門を各々の事業を担う事業子会社として分社する
     わけですが、分権化を進める事業部制やカンパニー制をすでに導入している
     会社であれば、業務の権限や責任、収益構造についても各事業部の切り分け
     がすでにできているので、純粋持株会社への移行も比較的スムーズにできます。

     しかし、そうでない場合は、まず事業部ごとの収益とコストを明確にし、責任と
     権限についてもルールを定めるなど、段階的に導入を検討したほうが混乱せ
     ずに移行できます。

     また、持株会社本体としては、どの程度本社機能として権限を残すか、どのよ
     うに子会社評価を行うかなどのほか、本社機能のコストをまかなうための資金
     を吸い上げるための仕組みとして、指導料やロイヤルティ、配当などの制度を
     設計します。

     また、資産・負債・資本の分割についても実施します。

   2.合併による統合型持株会社

     合併などによる事業統合として、持株会社を採用する方法です。

     株式会社の移行方法としては、株式交換・株式移転や、会社分割の方法を採
     用するのが一般的です。

     合併までのスケジュールと各社株主に対する持株会社株式の割当比率などを
     決定した後、持株会社の機能・組織や持株会社の人事や権限について話し合
     います。

     情報システムや業務プロセス、人事制度など各社によって制度の異なる内容
     については、どの機能を採用するかについても事前に決定しなければなりま
     せん。

     また、統合により、清算する事業や処分する資産などがある場合は、これも事
     前に方針を決定します。

  □事業承継におけるポイント

   中小企業においても、節税や事業運営のしやすさなど、さまざまな理由からすで
   に多くの会社を運営しているケースがあります。

   しかし、多くの会社を運営しているのと、純粋持株会社を設立してグループ経営を
   行うのとでは経営戦略上大きな違いがあります。

   ここでは、中小企業が持株会社を設立する場合のポイントについて説明します。

   1.株価対策

     多くの会社を運営している場合、各社ごとに株式譲渡のための準備をしなけ
     ればならないので、株価算定や譲渡手続きなどが煩雑になります。

     株価が高くなる企業が含まれている場合には、相続税のための資金調達など
     も考えなければなりません。

     しかし、オーナー社長が持株会社を作り、所有する会社の株式をその持株会
     社を通じて保有するように変更すれば、業績の悪い企業の株価と業績の良い
     企業の株価が相殺されることになります。

     結果として株式の評価額を引き下げることができ、持株会社の株式だけを後
     継者に譲ればよいので手続きが簡単になります。

   2.グループ経営

     すでに多くの会社を経営しているオーナーが後継者へ事業を引き継ぐ場合、
     各社の事業の状況や経営成績、人事評価の方法などを個別に把握するのは
     困難です。

     そこで後継者が運営しやすいようグループ経営の体制を構築し、後継者が各
     社を管理しやすい体制をつくります。

   3.後継者の育成

     オーナーが第一線で活躍しているうちに、後継者育成を行う目的で、子会社の
     運営を後継者に任せるケースもあります。

     実際に社長として会社の経営に携わることによって、社長としての経験を蓄積
     します。

   4.複数の相続人への譲渡

     将来 複数の相続人に会社を任せようとする場合 相続人同士で会社の運営
     方針について意見の衝突が生じるケースもあります。

     そこで将来、それぞれの相続人が独立して会社運営できるよう、相続の準備
     を行う目的で会社を分割しておくこともできます。

   5.機動的な社内ルールの適用

     少人数ながら多くの事業を運営している会社の場合、その業界や職種の特徴
     により、給与の相場や勤務時間などの労務の条件や、業務のプロセスは異
     なってくるものです。

     これまでの事業の経線を知っているオーナーがいる間は、社員が不満を言っ
     ても理解を得ることができますが、若い後継者に対しては 公正・公平な制度
     を構築して、社員の間で不公平感が生しることのないよう労働条件や業務手
     続きなども統一しておくほうが運営がしやすくなります。

     そこで、各部門によって異なる年齢構成や給与体系、勤務時間、休日のとり方
     や事務手続きなど、社内のルールを見直し、また機動的に変更をしたほうかよ
     い事業がある場合は、持株会社化することで統括しやすい体制を整備するこ
     とかできます。
 

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