M&Aのためのデューデリジェンス
 

  ■デューデリジェンスの進め方

  □出資やM&Aのメリット

   中小企業にとっては人材の高齢化や人材不足といった厳しい経営環境が続いて
   います。

   このままでは、中小企業の存続が危ういものになりかねません。

   そのようななか、中小企業が連携して体質強化し、共に成長していくために「出
   資」や「M&A」といった資本提携が増しています。

   社長のなかには、これらの手法の有効性は理解していながらも、「難しそう」という
   イメージから十分に検討されていない方も多いようです。

   ここでは、出資やM&Aを行うときに必要になるデューデリジェンス(Due Diligence)
   という手法について、解説します。

   1.資金調達としての出資受け入れ

     資金調達の方法として外部からの出資を募る企業が増加しています。

     これまでは資金調達といえば、銀行からの借入による間接金融が中心でした。

     そのおもな理由は、オーナーが100%出資にこだわるケースが多かったためです。

     しかし経営のスピードアップのためにも、また財務体質強化のためにも、外部
     からの出資受け入れは有効な手法です。

     取引先など事業上の関係の深い先であれば、その企業の将来性についても
     日頃の取引から、深く理解できていることが多いでしょう。

     パートナーから出資をしてもらう、あるいは自分が出資するという関係によって
     財務体質が強化され、双方の成長が加速することが期待できます。

   2.究極の出資「M&A」

     また、たんなる出資だけでなく、企業間の本格的な資本提携、買収、合併など
     M&Aもさかんに行われています。

     人口減による国内需要の縮小などによる企業間の競争が激化するなかで、多
     くの企業が競争力をつけるために、事業再編に取り組んでいます。

     その方法は、スケールメリットをいかした経営のための同業他社との事業統合
     や、流通経路を短縮化して、スピーディーに市場へ商品を供給するための川
     上事業と川中事業の統合などさまざまです。

     そして、いずれの場合も事業の選択と集中、経営のスピード化が成功の鍵に
     なっているようです。

     企業間の競争に勝ち残るためには、将来の優良事業に経営資源を集中させ、
     短期間に強化していくことが重要です。

     そして、事業の選択と集中を行っていく方法として、主力部門以外の事業を切
     り離すための部門や子会社の売却が行われています。

     また主力部門を強化するための企業買収も経営スピードを高めるために効果
     があるのです。

   3.中小企業にとってのM&A

     資本提携や合併といった手法は、難しい手段であり、大企業の専売特許のよ
     うに思えますが、中小企業にとっても大変有効です。

     いくつかの企業を統合することによって、これまでの管理コストを削減したり、
     バイイングパワーを高めたり、または、原価の削減を行うことができます。

     大手企業との競争に勝って生き残るために、今後、中小企業間でもますます
     M&Aに対する関心は高まっていくでしょう。

     また、後継者難である企業にとっては、事業承継の方法のひとつとして、日頃
     親しくお付き合いをしている取引先に、事業を買い取ってもらうことも考えられ
     ます。

     オーナー自身の引退後の資産形成と従業員の職の確保のために、会社の買
     収を考える経営者も増えています。

   4.出資のリスク

     企業が出資を検討するきっかけとして、ひとつには、取引先や知り合いから、
     出資の提案を受けることがあげられます。

     もうひとつの方法は、M&Aの仲介会社や金融機関などからよい会社があると
     提案を受けるケースです。

     社長は、常日頃から経営基盤の強化と事業の拡大に関心をもっていますか
     ら、いずれの話であっても、前向きに検討を始めることが多いでしょう。

     特に自社の経営が順調で資金余力もあり、ちょうど事業の拡大を考えている
     企業であれば、なおさらです。

     しかし、いくら魅力的な事業であっても、その企業に何の不安もないなら、出資
     やM&Aの話がくる訳はなく、多くの場合は、何らかの問題を秘めているものです。

     たとえば、業績は順調にみえても過去の事業の失敗や、関連企業が取り組む
     事業での赤字などにより、多くの負債を抱える企業である場合や、大口の取引
     先が倒産して、資金繰りが急激に悪化した企業であることも考えられます。

     なかには、経営者が会社から多額の借入をしている、もしくは競合他社や顧客
     から多額の訴訟を提起されている可能性もあります。

     出資やM&Aは、魅力的な事業戦略である反面、多くのリスクを含んでいるも
     のです。

     これらのリスクは、相手先の経営者や紹介してくれた仲介者から話を聞くだけ
     では、実態をつかむことはできません。

     成功する出資やM&Aを行うためには、これまでの取引で得た情報や相手先
     経営者の人柄などだけで判断することは回避しなければならないのです。

     次項以降では、中小企業の経営者が出資やM&Aを検討する際に必要な基
     礎知識を紹介します。

  □デューデリジェンスとは

   1.デューデリジェンス

     デューデリジェンス(Due Diligence)とは、出資やM&Aなどを行う前の検討
     する段階で、対象となる企業の財務状態や過去の取引に関する契約内容の
     法的リスクなどを精査し、企業価値を調査することです。

     同様の調査に「信用調査」がありますが、デューデリジェンスではそれよりも広
     く、深い調査を行います。

     出資対象となる企業の過去から現在まで、さらには将来にわたって、事業の
     状況や財務、法務、人事、組織、市場環境など多岐にわたる範囲について、
     調査を行います。

     しかし、中小企業が行うデューデリジェンスについては、社内に専門知識を有
     する担当者がいない場合や、出資金額が少額でリスクが比較的小さい場合も
     多いので、デューデリジェンスを行う際の手順や範囲については、都度、どの
     範囲まで行うかを検討することになります。

     また、先方から提出された資料だけでは信頼性が低いと感じる場合は、実際
     に相手先企業の現場に訪問して各帳票類を確認したり、現場の複数の担当
     者から状況を確認するなど、臨機応変な対応が求められます。

   2.デューデリジェンスの目的

     デューデリジェンスの目的はおもに3つの内容に分けることができます。

     (1)企業価値を正しく評価する

       出資を行う際には、出資総額はもとより、1株あたりの株価についても決定
       することになります。

       株価の算定については、現在の時価純資産から株価を求める方法もあれ
       ば、将来価値を反映してDCF※(ディスカウントキャッシュフロー)法を活用
       する場合もあるので、まずは相手先企業の株価算定の方法とその根拠に
       ついて確認をしたうえで、その算出根拠が妥当かどうかを判断します。

        ※企業評価方法のひとつで、将来生み出すと予想されるキャッシュフローを
           現在価 値の合計をもとに企業の評価額を算出する方法。

       未上場企業の場合、貸借対照表上の資産について、減価償却が不十分で
       あったり、不動産の評価額が時価よりかなり高い価格であったりすることも
       多いので注意が必要です。

       またDCFによって将来価値を算出している場合、大抵5年から6年先まで
       の事業計画とキャッシュフローを作成するのですが、思い入れが強いせい
       か、現実からかけ離れた収益見込をもとに算出しているケースが多いの
       で、実現可能性については、詳細に分析・検討する必要があります。

     (2)事業上のシナジー(相乗効果)を確認する

       出資による事業上のシナジーは、シェア拡大、ノウハウの高度化、従業員
       の能力向上などさまざまです。

       したがって、まずは出資の目的を整理し、そのうえでどの程度の効果が得
       られそうかを評価するとよいでしょう。

       またシナジーについて評価を行う場合には、金額で算定することで効果を
       客観的に判断することができます。

       つまり出資を行わずに自社の努力で目的を達成した場合と、出資をして目
       的を達成した場合の価格にどれだけ差があるのかを確認することで、出資
       の経済効果を把握することができます。

       ◎出資目的の分類例

        ①自社が将来、参入を狙う市場や事業について研究開発の一環
         として、先進的な取り組みをしている企業へ出資を行う

        ②自社の事業分野のシェア拡大もしくは商品の構成を増やすことを
         目的に、同業者へ出資を行う

        ③事業範囲を拡大することを目的に、自社の関連事業分野へ出資を
         行う

        ④既存の事業部門の機能・能力が不足している、もしくは将来不足
         することが見込まれる分野を補完することを目的に出資を行う

        ⑤現在取引のある企業との関係強化を目的に、一部出資を行う

     (3)事業を統合する際の注意点・問題点

       たんなる出資の枠を越えて、M&Aにより事業を統合する場合は、企業間
       の相性が合わなかったり、実際の事業方針や設備・システムの統合が困
       難だったら、シナジーは生まれません。

       企業間の主導権争いに発展し、白紙撤回せざるを得なくなることや、統合
       したものの相手先の従業員が次々に退職し、当初見込んでいた事業統合
       のメリットが得られないことも考えられます。

       M&Aを検討する際には、事前に、

        ・どのような問題点が想定されるか

        ・それを回避するには、事前に条件として提示すべきことはないか

        ・想定される課題を回避するための対応策はあるか

       といったことについても十分に分析することが必要です。

   3.調査項目と必要な知識

     大企業がデューデリジェンスを実施する場合には、経営企画、財務・経理、営
     業、製造・商品開発、購買、人事、法務などの各部署から担当者を集め、また
     外部の専門家も招へいしてプロジェクトチームを組成して取り組みます。

     これは、デューデリジェンスが短期間にさまざまな分野からリスクや事業上の
     シナジーを判断しなければならないため、それぞれの専門家に適切な判断を
     求める必要があるからです。

     しかし、中小企業において、それだけの大規模な取り組みはなかなか難しい
     のが実情です。

     したがって、デューデリジェンスを実施する際には、この案件がどのような分野
     にリスクがありそうか、またどのような機能やノウハウを正しく評価すべきかを
     すばやく判断し、必要に応じて専門家の力を借りながら進めていくことが現実
     的でしょう。

     (1)ビジネス分野

       デューデリジェンスにおいてもっとも重要であり、また最初に確認すべき事
       項です。

       ビジネスモデルの構造や事業優位性、競合他社の状況、事業の将来性な
       どをこれまでの取引内容や業績、技術力や顧客情報などから分析し評価し
       ます。

       現時点では、とても業績がよく、業界の評判も高いとしても、将来的に市場
       が縮小する可能性が高い事業分野である場合や、営業構造が取引先に依
       存していて、将来の収益基盤に不安があることも考えられます。

       そのような場合は出資を見送ったほうが無難です。

       ◎デューデリジュンスで確認するおもな項目

        ・会社案内

        ・商品パンフレット
        ・事業内容について説明された資料(業務フローや原価率、支払・
         入金サイトなど)

        ・過去のパブリシティ

        ・市場や競合企業の状況についてわかる資料

        ・顧客、取引先、仕入先などの特徴についてわかる資料

     (2)財務分野

       資産やキャッシュに関する財務分野のほか、会計や税務に関する分野も
       含まれます。

       大手企業の決算は、監査法人による監査が行われ、一定基準の会計処理
       が行われています。

       そのため、厳格な会計基準をもとに決算書が作成されており、内容を確認
       すれば、財務状況については、ある程度判断がつきます。

       しかし、未上場企業の場合は、会計基準が企業によって大きく異なるため、
       決算書をみただけでは、財務の状況を判断するのが難しい場合がほとん
       どです。

       十分な調査をせずに出資を行って、後から多額の損失を計上することに
       なったという話は少なくありません。

       高額な出資を考える場合には、必要な出費と割り切って、専門家に相談を
       するのが望ましいでしょう。

       また、上場をめざしている企業へ出資を行う際には、相手先企業は、監査
       法人もしくは公認会計士による短期監査(ショートレビュー)を受けており、
       上場企業と同水準の会計処理を行う場合の課題についてまとめていること
       が多いので、ショートレビューの報告書を要求するのもよいでしょう。

       ◎デューデリジェンスで確認するおもな資料

        ・税務申告書、決算書および付属明細書(2期分以上)

        ・直近の試算表

        ・固定資産台帳

        ・今後の事業計画(3〜5期分)

        ・資金繰り実績表、資金繰り予定表(各1期分)

        ・借入先一覧およびリース一覧

        ・株価算定根拠資料

        ・資本政策(上場をめざす企業の場合)

     (3)法務分野

       意外とチェックが抜けやすいのがこの分野です。

       重要な契約書や取締役会、株主総会議事録などをもとに決算書に表れな
       い負債や将来のリスクを判断します。

       現在は業績が好調であっても大口取引先との取引期限が定められていた
       り、特許技術を違法に利用していることもあります。

       また、高収益が望める商品開発を行っているものの、収益の大半を成功報
       酬として他社に支払わなければならない契約を締結していることなども考
       えられます。

       したがって、取引内容や契約書の内容が複雑であったり、大きな問題を抱
       えている可能性が高い企業へ出資を検討する場合は、財務分野と同じよう
       に、基本合意契約締結後に弁護士や弁理士に会社へ訪問してもらい、調
       査を実施することが必要です。

       ◎デューデリジェンスで確認するおもな資料

        ・定款

        ・登記簿謄本

        ・株主名簿

        ・重要な契約書

        ・取引で使用している帳票類

        ・事業に必要な特許、商標権、資格、免許など

        ・係争の有無など

     (4)人事分野

       会社を統合する場合はもちろんですが、資本提携後に事業提携を検討して
       いる場合においても人の間題は大切な要素です。

       社員にとって不本意な統合を行った結果、幹部社員が部門ごと独立して
       去っていくことも考えられます。

       また統合によって給与水準が下がるなど待遇面のマイナスがあると、多く
       の社員が退職して競合企業へ転職することもあり得ます。

       相手先の企業の組織風土やキーマンの確認、社員のモチベーション、待遇
       などをデューデリジェンスの段階で確認し、あらかじめ対処方法を考えてお
       くことが必要です。

       ◎デューデリジェンスで確認するおもな資料

        ・経営理念

        ・役員略歴

        ・組織図および人員表

        ・社員の待遇についてわかるもの(就業規則や給与一覧など)

  □デューデリジェンスの手順

   デューデリジェンスの一般的な手順は以下のようになっています。

   ①案件概要の把握

    始めに出資の依頼を受けるときには、企業名や目的など、情報量は少ない
    はずです。

    相手は自社以外の複数の会社へ同時に提案をしている可能性もあります。

    スピーディーに判断しないと、相手の気持ちが変わる場合もありますから、
    与えられた情報から、自社にとってメリットがあるかどうかをすばやく見極め、
    対応することが重要です。

   ②守秘義務契約の締結

    より詳しい情報を得るために、守秘義務契約を締結します。

    相手先企業はM&Aについて自社の経営幹部にも話さずに進めている
    可能性もあるので、指定された先方社員以外からのヒアリングなどは控える。

    同様に出資をする側も社内で情報をオープンにすることなく、限られたメン
    バーだけで進めることが必要です。

   ③担当者の決定

    これまでに確認した情報などから、デューデリジェンスを行うために、最適な
    メンバーを選出します。

    場合によっては、会計士、税理士、弁護士、M&Aアドバイザーなど外部の
    専門家にも参加してもらいましょう。

   ④詳細資料の検討

    デューデリジェンスを続けるために必要な資料をリストアップし、相手先の
    企業へ請求します。

   ⑤デューデリジェンス計画の決定

    相手先企業の希望を確認しながら、どのようなスケジュールで進めるか、
    計画を立てます。

    特に外部の専門家に調査の委託を行う場合には、事前にどの程度のレベル
    で調査をしてもらうのかを話し合います。

   ⑥専門家との契約締結

    必要に応じて、専門家に相談します。

   ⑦要求資料のまとめと依頼

    デューデリジエンスを進めるなかで、さらに確認したいことを質問状にまと
    めたり、追加で必要と思われる資料をリストアップし、相手先の企業へ請求
    します。

   ⑧訪問による現場調査の実施

    必要に応じて、実際に工場や店舗を見学します。

    また本社に訪問し、経理関係の帳票類や契約書、議事録などを確認します。

    従業員や経営幹部へヒアリングを行うこともあります。

   ⑨トップ面談による詳細調整

    企業理念や今後の事業のビジョンを聞きながら、同時に経営者の人柄、
    社風を確認します。

    面談は必要に応じて、何度でも行い、会社への思いが共感できるまで、
    コミュニケーションを深めていくことが、今後の交渉をスムーズに運ぶことに
    つながります。

   ⑩デューデリジェンスのまとめ

    各担当者から、シナジーのほか、相手先企業の問題点や将来のリスク
    要因について報告をうけ、今回のデューデリジェンスの結果をまとめます。

    そして相手先企業から提示されている条件の妥当性、自社としての要望
    事項をまとめます。

   ⑪条件交渉

    株価について希望価額(営業権評価を含む)を提示するほか、その支払
    方法、時期、会社の引き継ぎ方(合併、子会社化など)、経営陣と社員の
    処遇などを話し合います。

    現経営者に顧問として残ってもらうのか、その場合の報酬はどうするかと
    いうこともこの時点である程度、話を決めておきます。

    またM&Aでなく、一部出資を行う場合には、出資総額や役員の派遣の
    有無、業務提携の内容などを話し合い、出資実行の可否について最終
    決定をします。

   ⑫基本合意契約の締結

    出資やM&Aについておおむね合意が得られた場合は、基本合意契約を
    締結し、これまで話し合った内容をまとめ、また今後の交渉の期限を決めます。

    相手先企業が複数の会社とM&Aの交渉を行っている場合は、この時点で
    1社に絞り込んでもらい、独占的に交渉を進めます。

   ⑬買収監査の実施

    監査法人もしくは公認会計士へ買収監査を依頼します。

    費用は折半で支払うことが多いようですが、事前に話し合いで取り決めます。

    通常1週間から10日程度で報告書ができあがります。

    また会計内容とは別に、弁護士へ法務の監査を依頼することもあります。

   ⑭最終条件の決定

    監査内容をもとに、最後に株式の価額、時期、現経営陣や社員の処遇、
    発表時期など詳細条件について決定します。

    現経営者の自宅や車が社宅や社用車となっている場合など、今後、会社
    で保有するのが難しい資産がある場合や、退職金を支払う場合などは、
    この時点で、今後の取り扱いを決めておきます。

    最終的な契約の調印のために、株主総会、取締役会を開催するなど事前
    準備も忘れずに行いましょう。

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