評価制度の見直し
 

  ■人事評価制度全体を確認する

   人事評価制度はすでに多くの会社で導入されています。

   しかしながら制度が十分に機能し、着実な成果を生んでいる会社は少ないよう
   だ。

   なかには人事評価制度導入によってかえって社員の不満が高まり、モラールダウ
   ンにつながっているケースもあります。

   ここでは社長が自社の人事評価制度の現状を確認し、よりよい制度に改善してい
   くためのポイントについて解説します。

   1.真の目的は人材育成

     人事評価制度の目的としてよく取り上げられるのが、「社員の給与を決めるた
     め」、「昇進・昇格の判断基準とするため」といったいわゆる「処遇」に関するも
     のです。

     そして制度を十分に機能させるためには、「より公平でより公正な制度づくりが
     必要」という方向に議論が一足飛びに進んでしまいがちです。

     もちろん公平・公正な評価結果を処遇に反映させることは大切ですが、これ自
     体は目的ではなく「手段」に過ぎません。

     また、公平・公正さを確保するための仕組みのつくり込みは、おもに人事部長
     クラスの仕事であり、社長はもっと高い視点から人事評価制度を捉える必要
     があります。

     人事評価制度の本来の目的は、

       自社の戦略遂行に必要な人材像を明らかにして、社員を計画的・
       効率的に育てる

     ことにあります。

     「公平・公正な処遇」は目的達成の手段として必要になるという位置づけです。

     逆にいえば、仮に社員が100%納得するような処遇がなされていたとしても、
     必要な人材が育っていない(社員全体のレベルが上がっていない、傑出した
     人材が登場しない)のであれば、人事評価制度は十分に機能していないこと
     になります。

     まずは自社の人事評価制度の目的、つまり「どのような人材を、どのように育
     てようとしているのか」という点について確認することが必要です。

     社長自身だけではなく経営幹部陣の認識も聞いてみましょう。

   2.浸透度合いを確認する

     目的に沿った人事評価制度が備わっていたとしても、それが社員に理解され
     ていなければ意味がありません。

     まず、社員に対して「人事評価制度の理解度」についてのアンケートを行う。

     そして多くの場合「制度の存在は知っているが、内容はまったく知らない」と
     いった回答が返ってきます。

     社長としては「朝礼で何度も話した」、「評価制度の基準書を示している」と思っ
     ていても、一般社員レベルにまではなかなか伝わりません。

     次のような点について社員がきちんと理解できているかどうかを確認すること
     が大切です。

      ・人事評価制度の目的は何か

      ・評価制度全体の仕組みはどのようなものか

      ・会社が求めているのはどのような人材か

      ・直属の上司は自分にどのような成果・成長・業務姿勢を期待しているのか

      ・どのような努力をすれば評価が上がるのか

      ・どうやったら給与が上がるのか(評価と給与の連動の仕組み)

     社員の理解が進んでいない場合は、社長自身による再度の説明に加えて、人
     事部長や直属の上司から詳細な説明を行う必要があります。

   3.運用方法を確認する

     制度はきちんと運用されて初めて意味をもちます。

     特に人事評価制度は「人」が「人」を評価するというあいまいさを含んでいるた
     め、運用面には特に留意する必要があります。

     次のような点について確認してみましょう。

     (1)ルールは守られているか

       ・評価のステップ(自己評価、直属の上司による−次評価、役員クラスによ
        る二次評価、社長による最終評価などのステップをきちんと踏んでいる
        か)

       ・評価の時期(四半期ごとなどの決められたサイクルで評価されているか)
       ・目標は期初に設定されているか

     (2)評価項目は明確か

       ・「成果評価」、「能力評価」、「情意評価」などの評価のフレームは明確か

       ・「何をもって成果とするか」など評価項目の定義は明確か

     (3)公平・公正な評価が行われているか

       ・上司は制度の詳細をきちんと理解したうえで評価しているか

       ・個人的な「好き嫌い」によって評価結果が左右されていないか

     (4)十分な動機付けはなされているか

       ・上司は人事評価制度の目的が「人材育成」であることを理解しているか

       ・部下が計画を策定する際に適切なアドバイスを行っているか

       ・評価結果を本人にきちんとフィードバックしているか

     ここまでみてきたように自社の人事評価制度の見直しを検討する際には、まず
     は「本来の目的」、「浸透度合い」、「運用方法」を確認する必要があります。

     社長自身が直接社員に話を聞くなどして、実態を把握することが大切です。

  □それぞれの評価要素を確認する

   人事評価にはさまざまな方法がありますが、ほとんどの会社では「成果評価」、
   「能力評価」、「情意評価」の3つの評価要素を組み合わせて、自社流にアレンジ
   することで対応しています。

   ここではそれぞれの評価要素を確謎する際のポイントについて解説します。

   1.成果評価

     成果評価とはその名のとおり、社員自身が一定期間に生み出した成果に対す
     る評価のことです。

     営業職であれば「受注額」、「売上額」、「粗利額」などがその代表例でしょう。

     評価は実績の大きさ(絶対値)ではなく目標に対する達成率で行うのが基本で
     す。

     たとえば、A課長が「受注目標5000万円、実績4000万円」、B主任は「受注
     目標2000万円、実績3000万円」の場合、金額自体はA課長のほうが高いで
     すが、達成率はA課長80%、B主任150%ですから、B主任のほうが成果評
     価は高くなります。

     あらかじめ目標を立てることで本人は達成までの計画を設計することができま
     すし、会社全件としても年間の業績数字の見込みを把握しやすくなります。

     自社の成果評価について次の点を確認してみましょう。

     (1)初期に妥当な目標が立てられているか

       目標は本人の能力を加味しながら、「努力すれば達成可能な水準(努力し
       なければ達成できない水準)」に設定します。

       たとえば、受注額の目標設定を行う場合、ベテランの営業マンと新人の営
       業マンでは自ずと目標の大きさは異なります。

       目標については上司(評価者)が一方的に「ノルマ」として与えるのではな
       く、部下(被評価者)に自己申告させて、上司と相談しながら決めていくこと
       が大切です。

       これにより部下は自分自身が決めた目標であるという認識をもち、その達
       成に主体的に取り組むことができます。

       また、当然ながら、目標は評価の対象となる期の期初に確定しておく必要
       があります。

     (2)第三者が評価できる目標化

       目標は原則として数値化します。

       たとえば、「顧客満足度の向上」というのはたんなるスローガンであり、その
       ままでは目標といえません。

       顧客満足度の向上によって「継続率を50%アップする」など第三者が客観
       的に評価できるようにすることが大切です。

       スタッフ部門の評価などでは成果を数字にしにくいことがあります。

       その場合は目標が達成されたときの状態をできるだけ具体的に示します。

       たとえば、人事スタッフであれば「新しい人事制度について全社員がその
       有用性を納得している状態」といった目標設定が考えられます。

     (3)自己完結できる目標か

       目標は自分の職務権限の及ぶ範囲で、自己完結できるものでなければな
       りません。

       たとえば、営業マンは顧客との関係強化については自己完結できますが、
       商品の品質そのものの向上については、直接的にコントロールすることは
       できません。

       顧客の意見を基にして製造部門に提言することは必要ですが、品質につい
       て最終的に責任を負うのはあくまで製造部門です。

       目標を自分の権限が及ばない範囲にまで広げると、目標未達成時の言い
       訳になってしまう可能性があります。

   2.能力評価

     能力評価とは、評価時点でその社員が職務遂行に必要な能力をどの程度保
     有しているかという評価です。

     多くの場合、職務遂行能力の高低に応じて「等級基準」を設定し、一人ひとり
     の社員について「職能資格等級」に格付けを行う方法がとられています。

     職能資格等級は役職制度と連動させて、たとえば、「係長になるためには3等
     級以上の格付けが必要」といった運用を行うのが一般的です。

     自社の能力評価について次の点を確認してみましょう。

     (1)評価項目は妥当か

       能力評価の具体的な評価項目には「専門知識」、「技術力」、「企画力」、
       「実行力」、「交渉力」など、その会社にとって重要な能力が複数設定されま
       す。

       必要な評価項目は過不足なく設定されているかどうかをまず確認します。

       さらに何をもって「技術力」というかなど、それぞれの評価項目の定義につ
       いても検証します。

       また、業務遂行に必要な能力については、会社の戦略変更などの内的要
       因や技術革新などの外的要因によっても変化していきます。

       数年前に定めた評価項目やその定義が実情にそぐわなくなっている可能
       性もありますので、定期的なチェックが必要です。

     (2)等級ごとの基準は明確か

       等級基準は自社にとって必要な人材像をレベルごとに明確化したものであ
       り、社員にとっては自分がどのように成長していくかを考えるための道標で
       もあります。

       等級ごとにどのような基準を設定するかが、人事評価制度の根幹にかか
       わる重要事項となります。

       職能資格を定義した基準書には、自社の戦略遂行に必要な能力が難易度
       ごとに並んでいなければなりません。

       たとえば、新入社員は全員1等級からスタートする場合、自分はどのような
       能力をどの程度伸ばせば2等級に上がれるのかが、理解できるように表現
       されている必要があります。

       全体の等級数については、数が多ければ昇級機会が増えることで動機づ
       けしやすくなる半面、基準づくりや評価実務が煩雑になるというデメリットが
       あります。

       会社の規模などによりますが、5〜8段階程度に設定するのが一般的。

     (3)「発揮能力」が対象となっているか

       「能力」の捉え方にはいくつかの種類があります。

       人事評価制度でよく取り上げられるのが、「保有能力」と「発揮能力」の違い
       です。

       保有能力とはおそらく本人がもっているであろうと推測できる能力であり、
       発揮能力とは保有能力のなかで、実際に業務遂行に活用された能力で
       す。

       たとえば、交渉力の評価において、「A君は(実際にやったことはないが)顧
       客と単独交渉できるだろう」というケースと「B君はこれまでに何度も単独交
       渉している」というケースを考えてみましょう。発揮能力ベースではB君のみ
       が評価されますが、保有能力ベースでは両者の差はなくなってしまう。

       人事評価では事実に基づいた客観性が大切ですので、必ず発揮能力ベー
       スで行うことが必要です。

       評価者が「保有能力」と「発揮能力」を混同してしまうと、評価の公平性を欠
       くことになります。

   3.情意評価

     情意評価とは業務に対する行動や姿勢を評価するものです。

     情意評価を行うことによって、成果評価や能力評価が低かった社員に対して
     も、その「頑張り」については評価することができます。

     逆に成果や能力の評価が高い社員に対しても、「協調性」などが欠けていれ
     ば満点にはならないという会社としての評価姿勢を示すことができます。

     情意評価項目の代表例としては、「規律性」、「責任性」、「積極性」、「協調
     性」、「自己啓発度合い」などがあります。

     自社の情意評価について以下の点を確認してみましょう。

     (1)被評価者

       情意評価は、成果評価や能力評価に比べて本人評価と上司評価に差が
       出やすい傾向にあります。

       たとえば、上司からみると「まったく協調性がない」と思える社員でも、本人
       は十分配慮している」と認識していることもあります。

       両者の認識にズレがあるままで評価を確定してしまうことは、部下のモチ
       ベーションや能力向上の観点から大きな問題があります。

       上司は部下本人の主張も十分に聞いたうえで、改めるべき点について
       十分に指導する必要があります。

     (2)評価者の資質に左右されていないか

       情意評価は評価者の資質による差が出やすい評価でもあります。

       たとえば、「行動重視」の上司と「施行重視」の上司とでは、積極性などの評
       価のさじ加減が大きく異なることも考えられます。

       それぞれの評価項目についての定義を評価者の間で統一しておくことが大
       切です。

     (3)たんなるイメージで評価していないか

       部下に対する「イメージ」が評価に影響することもあります。

       たとえば、上司のなかで「A君は優秀である」、「B君は仕事ができない」とい
       うイメージができあがってしまっていると、最初からA君には高めの評価、B
       君には低めの評価をつけてしまいがちです。

       情意評価は評価期間中の被評価者の実際の行動や姿勢といった「事実」
       に基づいて行う必要があります。

     (4)役職者に対する情意評価を重視しているか

       会社によっては役職の高い者に対しては、ほとんど情意評価を行わない 
       ケースもあります。

       その理由は「役職者であれば業務姿勢がよいのは当たり前」、「役職者は
       業務姿勢ではなく成果こそが重要」という考え方によるものです。

       しかし、中小企業においては役職者の情意評価は非常に重要な意味をも
       ちます。

       社員は自分の上司だけではなく、他部門の上司も含めて幹部陣の働きぶ
       りを日常的に目にしています。

       いくら成果を上げていたとしても「欠勤や遅刻が多い」、「あいさつしても返し
       てくれない」といった幹部が高い評価を得ているのでは社員に対して示しが
       つきません。

       高役職者に対しては、より真摯な業務姿勢を要求し、実践度合いをきちん
       と評価することが必要でしょう。

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