なぜ人が育たないのか
  

  ■なぜ人が育たないのか

   1.どんな人材を育てたいのか

     経営者の方と話をしていると、ほぼ全員が「我が社ではなかなか人材が育た
     ない」という悩みをもっています。

     しかし、「では、どんな人材を育てたいのですか」という質問をしてみると、それ
     に対して明確な答えを返せる方は多くはありません。

     自社の人材育成を考えるうえで、この「どんな人材を育てるべきか」を明確に
     することが非常に大切です。

     そもそも社員を育成するということは、「仕事ができる人間を育てる」といった単
     純なものではありません。

     もちろんビジネスマンとしてのマナーや対人感受性など、どのような会社で働く
     にせよ最低限必要な能力はあります。

     しかしながら、一般論ではなくあくまで「自社で働く社員」の人材育成を考える
     ときには、当然ながら「自社でどのような力を発揮してもらうか」という視点が欠
     かせません。

     そして、その際には現在の社内の状況からの判断だけではなく、「会社は将来
     的にこうなっていきたいが、そのためにはこんな人材が必要になる。

     だから社員にはいつまでにこんな能力を身につけてほしい」といった長期的な
     視点も必要になります。

     このめざすべき社員像が明確になっていないと、社員は自分の能力をどのよ
     うに伸ばしていけばよいのかわかりません。

      人材育成とは社員に目先の仕事を覚えさせることではなく、
      自社の未来を担ってくれる人間を育てることです。

     「自社に必要な人材とはどんな人材か」、まずこの点を明らかにする必要があ
     ります。

   2.どんな人材に育ちたいのか

     会社として必要な人材像が明確になったら、社員自身に自分がどんな人材に
     育ちたいのかを真剣に考えさせることも大切です。

     たとえば、社員に自分自身の3年後の姿について考えさせます。

     「営業部門のトップになりたい」、「幹部として経営にかかわりたい」などいろい
     ろな理想像が出てくるでしょう。

     それらが会社として必要な人材像と整合性がとれていれば、社員は実現に向
     けて努力していくことになります。

     ここでもっとも大切なのは、

      成長できるかどうかの責任はあくまで社員自身にあると認識させること

     です。

     ずいぶんと突き放したような言い方ですが、社員が「会社が自分を育ててくれ
     る」という意識をもっているうちは、その成長スピードは非常に遅く、また、成長
     できない理由を会社に求めてしまいがちです。

     つまり、社員には日々の業績という「目先の成果」と自分の価値を高める「長
     期的な成長」という2つの責任を認識させる必要があるのです。

     たとえば、3年後に自分の役職や給与がまったく上がっていなくても、それは育
     てなかった会社が悪いのではなく、自ら育とうとしなかった自分が悪いというこ
     とになります。

     このような考え方を納得してもらうには、社員が理想像に向けて育っていくた
     めの万全の支援をする必要があります。

     たとえば、社員の能力開発計画やその進捗度合いについてきめ細かく指導し
     たり、成長のために計画的な人事異動を行うなどの施策が必要です。

     つまり、

      会社として、社長が成長するためにできるだけの仕組みをつくる。
      社長はその仕組みを十分に活用して、自ら主体性をもって成長してほしい

     という姿勢を示すのです。

     現在のビジネスマンは「終身雇用」や「年功序列」といった一昔前の常識がまっ 
     たく通用しなくなっていることを理解しています。

     したがって、自分自身が成長しなくては先がないという意識はすでにもってい
     るはずです。

     この意識を高め、自ら成長に突き進んでいくためのスイッチを押してあげるの 
     です。

     そして、これがうまく機能しはじめると、社員は日々の業務のなかでより困難な
     チャレンジをしたり、また、会社の外で自己啓発に取り組むなど自ら努力する
     ようになるはずです。

     ここまでみてきたように、会社として「どんな人材を育てたいのか」、社員として
     「どんな人材に育ちたいのか」、この2点をできるだけ明確にすることが人材育
     成の出発点です。
   
  □3つの視点で能力向上を考える

   めざすべき人材像が明らかになったら、その人材像がもつべき能力、知識、経験
   などについて考え、獲得していくための計画を立てます。

   前項で「社員は自分自身の成長に責任をもつべき」と述べたとおり、個々の社員
   の育成計画は社員自身に作成させます。

   しかし計画の立て方やできあがった計画の妥当性などについては、きめ細かく指
   導する必要があります。

   また、個々の社員レベルではなく、会社全体としての人材育成計画(3年後にどの
   程度の技術をもった社員を何人育てるなど)は、当然ながら経営者などの経営幹
   部が考えることになります。

   ここでは人材育成を考えるための3つの能力について解説します。

   これらの3つの能力をいつまでにどの程度高めていくかについての長期的な計画
   を策定していくのです。

   1.専門能力

     専門能力とはその名前のとおり、個々の社員の専門分野における業務遂行
     能力のことです。

     たとえば、コンピュータの知識がなければソフト開発ができないように、その業
     務遂行のために必ず身につけておくべき知識、技能を指します。

     当然ながら、会社の業種業態や会社内の部署によっても必要とされる能力は
     変わってきます。

     専門能力はある程度までは社員自身の「勉強」で高めることができます。

     関連書籍を読ませたり、資格取得を促すなど、能力開発に向けた具体的な努
     力を指示しやすい分野です。

     専門分野に関する資格取得をバックアップし、資格保有者には手当を支給し
     ている会社も数多くあります。

     また、勉強してから業務にいかすというよりも、より高度な専門能力が必要な
     業務を与えて、遂行のため社員が自ら勉強せざるを得ないような状況に置くこ
     とも効果的です。

     個々の社員の能力開発目標の例としては、「自分の担当している仕事を3年
     後にはこれくらい高度なものにする」、「現在、先輩社員のアドバイスを受けな
     がら進めている実務を自分ひとりでできるようになる」などが考えられます。

     大切なのは「いつまでにどのレベルまで高めるか」という能力向上の期限と幅
     をはっきりとさせておくことです。

   2.対人能力

     これは他の人と相互理解する能力のことです。

     ここで求められている相互理解とは、日常生活で友人などとうまく付き合って
     いくというレベルのものではありません。

     ビジネスで必要な対人能力とは、相手に影響を与える能力、つまり「あの人の
     言うことは信頼できる」、「あの人が言うのだからそうしよう」と相手に思わせる
     だけの能力のことです。

     具体的には、コミュニケーションカ、部下指導育成力、交渉力などが含まれる。

     たとえば、上司が部下に指示を出す際には、相手に指示内容をきちんと伝え
     るだけでなく、どういう言い方をすれば部下がやる気を出すかということにも配
     慮しなければなりません。

     対人能力を磨くためにはいくつかの専門的な手法もありますが、日頃から「相
     手の話していることをきちんと聞く」、「相手の気持ちを考える」、「相手に関心
     をもつ」といった当たり前のことを意識して行うだけで、その能力は格段に向上
     します。

     また、若手社員には、社内で特に周囲から信頼されている人の行動や考え方
     を学ばせることが効果的です。

     「あの場面で○○さんは、なぜそのような発言や行動をしたのか」といったことを
     学ばせるのです。

     この場合の目標設定は、たとえば、「3年後には○○さんくらいの影響力を発揮
     する」というものが考えられます。

   3.問題解決能力

     これは今起こっている問題の本質は何かを特定し、その解決策を見いだし、実
     際に解決していく能力のことです。

     問題解決の流れをまとめると、おおむね次のようになります。

      ①「目にみえる問題(現象としての問題)の把握」

      ②「問題点の掘り下げ」

      ③「真の問題点の特定」

      ④「侯補となる複数の解決策の設定」

      ⑤「解決策の選択、行動計画などの具体化」

      ⑥「解決策確定」

      ⑦「実行、進捗管理」

     ①から③までが問題の本質を見つけるプロセス、そして、④から⑦までが課題
     を確定し、実際に問題を解決するプロセスです。

     問題解決能力が高い人とは、これらの一連のプロセスを正確かつスピー 
     ディーに考え、実行できる人のことです。

     たとえば、自分の営業成績が落ちているときに、やみくもに営業量を増やすの
     ではなく、まずはその原因を論理的に特定して、解決のための最善策を打ち
     出せるような人は、この能力が高い人ということになります。

     間題点を掘り下げるためには、日々の業務で発生する問題について、「なぜそ
     うなっているのか?」をつねに考え、それを習慣として身につけることが大切で
     す。

     また、一見問題にはみえない出来事についても、「本当にそれでよいのか?」
     という問題意識をつねにもち続けることも重要です。

     具体的な目標設定としては、たとえば、「3年後に自部署で発生する問題につ
     いては、自分自身で本当の原因を突き止め、かつ解決策を提案できるように
     なる」といったものが考えられます。

  幹部社員育成は社長の仕事

   人材育成に関する悩みのなかで特に多いのが、「安心して仕事を任せられる経営
   幹部社員が育たない」というものです。

   これは考えてみれば当然なことで、会社のなかでもっとも困難な意思決定を迫ら
   れる社長と同等レベルの人間が、そう簡単に育つはずはありません。

   幹部社員の育成は社長が「自分自身の重要な仕事」と認識して取り組む必要が
   あります。

   なぜなら、幹部社員として任命されている人たちは、ほかの社員よりもすでに高い
   能力をもっているはずです。

   幹部社員を育てられるのは社長だけなのです。

   そして、この幹部社員の育成が人材育成のなかでもっとも大きな課題といっても
   間違いはありません。

   1.バランス感覚をもった人間を任命する

     幹部候補社員のなかから実際に幹部を任命するときには、まず向き不向きを
     見極めなければなりません。

     幹部社員には経営者の視点が求められます。

     たんに「仕事ができる」だけでは不十分なのです。

     幹部候補社員のなかには、営業、技術など、それぞれの専門分野をもった社
     員も多いでしょう。

     正式に幹部となれば彼らは専門分野の業務遂行だけではなく、会社全体を社
     長と一緒に引っ張っていく存在にならなければなりません。

     それぞれの分野のプロフェッショナルであると同時に、経営者的なバランス感
     覚が求められるのです。

     専門分野のことしか考えられない社員は、残念ながら幹部社員には向いてい
     ません。

     それは本人の能力不足というよりも、適性、不適性の次元の問題であることが
     多いのです。

     たとえば、「自分はこの技術力を発揮するために入社した」という目的意識が
     特に強い社員については、幹部にして現場から距離を置かせると、急に元気
     を失うこともあります。

     本人は経営幹部として活躍したいと思っていても、やはり幹部としては向いて
     いないのです。

     そのような社員は経営幹部としてではなく、あくまで「技術のプロフェッショナ
     ル」に徹して活躍してもらうほうが適任でしょう。

   2.幹部育成のポイント

     実際に幹部候補社員を選定したら、次のようなポイントで育成していきます。

     前述のように幹部社員の育成は大変困難な仕事です。

     粘り強く取り組むことが大切です。

     (1)つねに危機感をもたせる

       社長は事業がうまくいっているときでも、心のなかで「顧客は満足している
       のだろうか」とか「これ以上事業を拡大しても大丈夫だろうか」といったこと
       をつねに自問自答しているはずです。

       残念ながら、このような危機感を社長以外の社員がもち続けることは大変
       難しいことです。

       社長は自分の人生をかけて会社を運営していますが、社員は最悪会社が
       潰れても、次の会社に就職すればすみます。

       それは幹部社員といえども結局は同じことです。

       しかし、だからこそ社長は幹部社員たちに対してつねに危機感をもつよう教
       育しなければなりません。

       危機感をどれだけ幹部社員にもたせることができるかが、幹部教育のすべ
       ての基礎となります。

       この基礎ができなければ、いくら経営知識を教えたり、経営理念を説いても
       十分な効果はありません。

       ではどうやって危機感をもたせるかというと、社長自身が抱いている危機感
       とは何か、幹部社員は一般社員と異なり、すでに経営陣の一角であるこ
       と、会社の維持・存続つまり社員の将来は幹部陣の活躍にかかっているこ
       となどを繰り返し伝えることが基本になります。

       そのうえで会社の将来について、幹部社員に経営者感覚で真剣に考えさ
       せることが重要になります。

       具体的には中期経営計画を策定させるなどが有効でしょう。

     (2)価値観の共有を徹底

       会社は本来、社長の経営理念に賛同した人たちが集まってつくる価値観の
       共有体であるべきです。

       基本的には全社員が仕事に対して同じ価値観をもっていることが必要。

       そのなかでも幹部社員は経営者の価値観を一般社員よりも高いレベルで
       共有していなければならない。

       具体的には幹部社員たちは、たんに「社長はこういう風に考えているんだ
       な」という考え方の理解だけではなく、「だから社長はこのような行動をとっ
       ているんだな」という行動レベルまで理解しておく必要があります。

       幹部社員たちは現場で陣頭指揮をとっているなかで重大なアクシデントが
       起こった場合、社長に相談する時間がなければ、その場で適切な判断を下
       し、措置をとらなければなりません。

       その際に社長の価値観を本当に理解できていれば、「おそらくこのような局
       面では社長はこういう行動に出るだろう」ということが予測できます。

       あたかも社長自身がそこにいるかのように、的確な指示を出し、被害を最
       小限に食い止めたり、ピンチをチャンスに変えることもできるのです。

       幹部社員育成のためには、社長の価値観をその深いレベルまで徹底して
       共有していく必要があります。

       そして、いくつかの困難な場面を想定して、その際に幹部としてどのように
       判断し、行動すべきかということを考えさせます。

       また、個々の幹部社員の成長度合いに応じて、権限委譲を進め、権限内
       のことはたとえ困難な場面に直面しても幹部社員自身に対処させることも
       効果的です。

       最初はいくつかの失敗をするかもしれませんが、実践での失敗から学ぶこ
       とは多いはずです。

       ある程度の失敗は人材への先行投資として割り切ることも必要です。

     (3)戦略を提言させる

       戦略とは自社のめざすべき将来の姿を描き、その姿を実現するためのシナ
       リオを描くことです。

       たとえば、「専門分野で唯一無二の技術を確立し、シェアナンバー1をめざ
       す」というのが「戦略」です。

       会社の方向性を決定づける戦略について最終的に決定するのは社長です
       が、幹部社員にも、戦略について進言させることが大切です。

       戦略を考えるためには社内外の経営環境について自分で必死に考える必
       要があり、結果として経営者感覚が磨かれるからです。

       社長が経営戦略をすべて策定してしまうのではなく、幹部社員がさまざまな
       戦略を社長に進言し、社長がそのなかから最良のものを選択する、あるい
       は進言された戦略を社長が組み合わせて、より優れた戦略を生み出すと
       いう形が理想的です。

       また、現場の最前線で指揮をとっている幹部社員にはさまざまな生の情報
       が入ってきます。

       その多くは個々の現場での個別の情報ですが、ときとして全社に大きな影
       響を与えるような情報も入ってきます。

       たとえば、連続して3社から取引停止の通告を受けたとします。

       3社とも取引額はわずかであり、それ自体は大したダメージではないが、連
       続して取引停止ということは、「たまたま」とは考えにくいでしょう。

       強力なライバルの出現や、自社の商品そのものが世の中に受け入れられ
       なくなってきている可能性もあります。

       幹部社員はそのような「におい」を敏感に感じ取り、戦略の変更あるいは修
       正を進言するという責務を負っています。

       社長は幹部社員たちがそのような役割を果たせるように、自社の強み、顧
       客ニーズ、兢合先など自社の事業が成り立っている仕組みについて常日
       頃から教育しておくと同時に、幹部社員からの進言を歓迎するという姿勢を
       示しておく必要があります。

   3.外部から幹部を採用する場合

     社内での幹部社員育成がうまくいかない場合に、幹部候補を外部から採用す
     ることも考えられます。

     しかし、中小企業に限定していえば、このやり方の成功確率はあまり高くない
     ようです。

     ここまで述べてきたように幹部社員は社長の分身ともいえる社員です。

     社長の価値観などを深いレベルで共有するためには、やはり長い時間がかか
     ります。

     また、古参社員との軋轢などもある程度は覚悟しなければなりません。

     幹部となる人材は時間をかけてもできるだけ社内で育てることを原則とし、や
     むを得ない場合にのみ、補完的に外部からの採用を実施するというやり方が
     好ましいでしょう。

                      お問合せ・ご質問こちら

                      メルマガ登録(無料)はこちらから

 

お問合せ・ご相談はこちら

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
054-270-5009

静岡県静岡市のビジネス・ソリューション㈱です。
静岡・愛知県内、東京周辺を中心に中小規模企業の問題解決支援としてマーケティング・業務改善・リスクマネジメント
企業運営に欠かせない3つの仕組みづくりを支援いたします。
経営者にとって重要課題は会社をつぶさないことです。
しかし、毎年1万件以上の中小企業が倒産に見舞われています。
「知っていれば」「対策を講じていれば」倒産せずに済んだはずの企業が数
多くあったことを、私どもは見聞きしております。
少しでも多くの企業が、このような危機に見舞われず、最悪の事態を招く
ことのないよう、私ども専門家集団は事業運営に欠かすことのできない
マーケティング、業務改善、リスクマネジメントについて全力投球で支援
してまいります。

対応エリア
静岡・愛知県内、東京周辺

お気軽に
お問合せください

お電話でのお問合せ・相談予約

054-270-5009

 (コンサルティング部門 直通<柴田>)

新着情報

2024年4月26日
記事:「保険代理店のプレゼンスキルアップ Ⅰ」 更新しました。
2024年4月25日
記事:「メルマガ709号更新しました。
2024年4月25日
記事:「社内体制の強化なしに会社の存続なし」 更新しました。
2024年4月24日
記事:コストダウンの最終目標」更新しました。 
2024年4月23日
記事:保険代理店業の環境整備 Ⅱ」更新しました。
  • 詳細はこちらへ

ビジネス
ソリューション
仕組み構築

住所

〒422-8067
静岡県静岡市駿河区南町
2-26-501