コストダウンを考える


  ■コストダウンとは

   企業の業績が下がると、利益を上げる即効薬として「コストを下げろ、コストを削減
   しろ」の大合唱が起こるものです。

   しかし、かけ声だけのコストダウン活動では、大きな成果を期待することはできま
   せん。

   コストダウン活動に取り組むためには、より組織的に、より科学的にねばり強い活
   動を展開していかなければなりません。

    1.コストダウンとは何か 

      企業は利益を上げなければ存続していくことができません。

      利益は「売上−コスト」で計算され、利益を確保しようと企業は売上拡大に奔
      走します。

      しかし、売上があまり上がりそうにないならば、残された道は経費削減(コス
      トダウン)に取り組む以外にはありません。

      このように、コストダウンとは、全社的な総費用(トータルコスト)をターゲット
      にしてその低減を図り、利益を上げることを意味します。

      売上拡大のための方策と同様に、自社の主要課題としてコストダウンに取り
      組む必要があるのです。

    2.コストダウンを行う意義

      今日企業がコストダウン活動を進める意義として、環境変化に適応し競合他
      社との競争優位を確保するという戦略的な観点から、次の3つをあげること
      ができます。

      (1)顧客の価格引き下げ要求への対応

        顧客の価格引き下げ要求に応えつつ、一定の利益を確保し続けるため
        には、継続的なコストダウン活動が必要になる。

      (2)事業分野の整理・統合と重点商品へのシフト化

        目まぐるしく変化する顧客ニーズに対応するためには、不採算製品(分
        野)を整理・統合し、売れる分野や製品に重点を移し、最適な経営資源の
        配分を行う必要があります。

        そこで、不採算分野において再度コストダウン活動を実施し、利益が上が
        らない原因を追及することで、整理・統合に関する意思決定の材料としま
        す。

        逆に、コストダウン活動の展開により、不採算部門に再生の可能性が生
        まれることもあります。

      (3)競合他社に対する差別化商品・サービスの創出

        今日の企業間競争では、たんに価格による差別化を進める戦略には限
        界があります。

        そこで、競合他社と比べて優位な機能をもたせ、それに付随したサービス
        を新たに創出する必要があります。

        そのためには、「コストをかける部分」と「コストダウンを図る部分」とを明
        確にし、各製品に対するコストのかけ方を変えていくことが必要になる。

      このように最近の経営環境を考えると、コストダウン活動を従来にも増して強
      力に進めることが求められています。

    3.コストダウンの成果が上がらない理由

      コストダウン活動に取り組んでいるものの、なかなか成果が上がらないケー
      スも多いものです。

      この理由として次のようなことが考えられます。

       ・経営トップ、部門責任者の理解不足

       ・コストに対する認識の甘さと管理手法の欠如

       ・コストダウン技術の不足

       ・コストダウン技術を適用する範囲とタイミングのミスマッチ

       ・無計画で場当たり的な展開

       ・各部門間の協力体制の不備

       ・責任者の不在と目標設定のあいまいさ

       ・継続的な活動への意欲不足

      これらの問題点を最小限に抑え、コストダウンの成果を確実に出していくた
      めには、コストダウンに対する適切な考え方をもったうえで計画的に進め、つ
      ねに結果をチェックし、それを次のコストダウンにつなげていく必要がある。

  □正しいコストダウンを実現するためには

    ・コストダウン計画をゼロベースから策定し、

    ・その際は、各部門の実情に合わせてコストダウンの対象を決定し、

    ・さらには、各部門におけるコストダウンの負荷の均一化を図る

   ことが基本となります。

   しかしこれだけでは十分ではなく、
    ・全社的なマネジメント体制を整備する一方で、
    ・部門にまたがるコストダウン計画の策定、管理を行い、
    ・コストダウンの実施により偶発的に生じるトラブルなどには適切に対応する
   などが求められます。

   さらに、中長期にわたるマネジメントも欠かすことはできません。

   コストダウンの成果を1年間といった短期間で求めると、無謀なコストダウンをしが
   ちです。

   短期間のコストダウンであっても(短期間のコストダウンだからこそ)成果が上が
   れば、その期の損益計算書には反映されます。

   しかし、次年度にコストアップを招いてしまっては意味がありません。

   成果の反動が生ずるような無謀なコストダウンを防止する意味でも、中長期にわ 
   たるマネジメントが必要です。

  □コストダウンの考え方

   1.コストの考え方

     コストダウンについて考える前に、まずはコストの考え方について確認する必
     要があります。

      コストとは、ある目的を達成する(成果を得る)ために消費された価値、つま
      り、必要になった財貨および用役を貨幣の単位で計算したものである

     と定義できます。

     普段我々は、コストは「かかってしまうもの」と思いがちです。

     しかし、この考え方から、成果を得るためには「いかに最適なコストをかける
     か」という発想に切り替えることが大切です。

     つまり、コストに関する基本的な考え方として
      「コストはかかるもの」ではなく、「コストはかけるもの」
     という視点が必要です。

     そして、「どのような方法、どのようなシステム」を採用するかでコストの大き
     さが異なってきます。

     このようにコストを科学的に分析し、どうしたらもっとも経済的になるかを明確
     にしていくことが、コストダウンを考えるうえで大切なポイントとなります。

     以上のような観点から、コストコントロールとコストリダクションという2つのアプ
     ローチ方法があげられます。

   2.コストコントロール(原価維持活動)

     コストコントロールとは、業務の現実コストに対し、

      ・材料に無駄はないか

      ・人員に無駄はないか

      ・設備に無駄はないか

      ・エネルギーに無駄はないか

     などのコスト統制での無駄の排除によって、コストを低減していくことです。

     コストコントロールでは、従業員に与えられた仕事が計画どおりに遂行できる
     かどうかが問題になります。

     たとえば、

      ・計画(標準)が立てられているか、その計画は適当か

      ・計画(標準)は知らされているか、その知らせ方は適当か

      ・実績は計算されているか、その計算方法は適当か

      ・標準と実績の差を把握しているか、その差のつかみ方は適当か

      ・差を埋める行動はとられているか、その行動は適当か

     といったことが具体的な活動になります。

     計画どおりに仕事が進まないと、計画した標準コストと実質(現実)のコストと
     の間に差が生じます。

     そこで、いくらで作れると計画した標準コストと実質コストとの差、つまり実質ロ
     スをなくすことがコストコントロールの目標になります。

     そして、その差を埋めるためにコストダウン活動を実行することになるのです。

   3.コストリダクション(原価低減活動)

     コストリダクションとは、いわゆる標準コストを引き下げることを意味します。

     現在の標準または予算として決められているコストの大きさは、現在実施して
     いる方法やシステムによって確定されたものです。

     したがって、より経済的な方法やシステムに改善することができれば、現在用
     いられている標準や予算そのものを引き下げることが可能です。

     この活動では、現在の製造方法や販売方法、あるいは管理方法などを変えて
     もよいから、より安価にかつ迅速にできる方法やシステムがないかといった視
     点で考えます。

     つまり、現在もし、最善の方法・システムをとっていないがために、標準コスト
     が高く設定されていたり、機会ロスが生じているのであれば、これを削減する
     活動です。

     この改善のポイントは、現在の標準コストよりさらに低い目標コストを設定する
     ことからはじまります。

   4.コストダウンの考え方(コストコントロールとコストリダクション

     コストダウンを考えるときには、

      実質ロスをなくすためのコストコントロールと、機会ロスを
      排除しようとするコストリダクションとを完全に分けて検討する

     必要があります。

     コストコントロールは、標準(コスト)を正しく決め、標準を守らせ、守られている
     ことを確認する管理のことです。

     一方コストリダクションは、現在の標準コストを決めている要素・要因を見直し
     て、その製品の機能は何であるかを明確にし、その機能を果たすために投入
     している資源を組み替えたり、簡素化したりして改善活動を行っていく管理の
     ことです。 

     このように前者の「標準を守らせるための管理」と後者の「標準を変えるため
     の管理」は、まったく違った管理技術となります。

     したがって、これらを峻別して実施しなければ的確なコストダウンを実現するこ
     とはできません。

     また、2つのコストダウン活動が実施される部門も異なります。

     コストコントロールは、製造部門などの現場(ライン)を中心に実施され、あらか
     じめ設定された標準コストを維持するために、日々の生産活動などを行う。

     これらの活動を通じ、実質コストが標準コストと一致しはじめると、コストリダク
     ションにおいて、標準コストそのものを引き下げる活動を実施することになる。

     コストリダクションは、設計や企画部門(スタッフ)で実施され、目標コストの設
     定からはじまります。

     これらの部門では、標準コストをこの目標コストに近づけるため、製品や工程
     の再設計や新しい方法を生み出すことになります。

     コストダウン活動の基本的な考え方は、

      「コストコントロール → コストリダクション → コストコントロール → コスト
      リダクション」

     という形で、それぞれが適切な部門・タイミングで実行され、

      「実質ロス削減 → 機会ロス排除 → 実質ロス削減 → 機会ロス排除」
     が交互に繰り返されて、大幅なコスト ダウンが図られていくというものです。

  □コストダウンの進め方

   1.コストの体系
     具体的にコストダウンを進めるときに、コスト要素についても理解する必要が
         あります。

     コストを分解すると、

      ・製品を作るという目的を達成するために消費した価値を製造コスト

      ・それを販売する目的で使った価値をマーケテイングコスト(販売コスト)

      ・それを販売し商品を流通させるために消費した価値を物流コスト

      ・さらにこれら製造・販売・物流を効率よく行うために消費した価値を
       管理コスト

     とすることができます。

     さらにコストを費目別に分類すると次のようになります。

     また、これらのコスト以外にも、

      ・機会コスト:取引チャンスを逃すことなどにより発生するコスト

      ・時間コスト:時間をかけすぎてしまうことにより発生するコスト

      ・クレームコスト:顧客からのクレーム対応により発生するコスト

     といった顕在化しにくい目に見えないコストについても、場合によっては認識す
     る必要があります。

   2.コストダウンの手順

     コストダウン活動は、どのような手順で実施していけばよいのでしょうか。

     一般的には次のような手順により、コストダウンの目標を立て、必要部門・担
     当者が責任をもって実行していくことになります。

      <STEP 1>:製品別・部門別・費目別のコスト構成をつかむ

       コスト構成を明らかにすることで、どのようなコストがかかっているかを
       把握します。
       また、これによりコスト意識を担当者に自覚てもらうこともできます。

      <STEP 2>:コスト構成からコスト削減のターゲットを絞る 

       どのコストに削減のターゲットを絞ればよいか検討します。
       このとき、コスト項目のなかの金額の高いもの、コストが最近上昇して
       いるものなどを重点管理項目とします。

      <STEP 3>:コスト要因を分析する

       重点管理コストに対して、コスト発生の要因を分析します。 
       また、どのコストが低減可能で、コストダウンに効果的なのか考えます。

      <STEP 4>:2つのコストダウンの手法でアプローチする

       分析したコスト要因について、「□コストダウンの考え方」で述べた
       コストコントロールとコストリダクションの2つの手法で、どのように
       アプローチしたらよいのかを検討します。

      <STEP 5>:コストダウンの目標を設定する

       アプローチ方法を確定したら、具体的なコストダウンの目標を設定し、
       担当者に割り振り、いつまでに、どのように、どれだけコストダウンを
       図るのかを明示します。

   3.費目ごとのコストダウン

     具体的なコストダウンは、各製品、各部門、各費目別に実行されます。

     それでは、各費目コストについてどのような視点でコストダウンを考えたらよい
     のでしょうか。

     以下に各費目のコストダウン例をあげていきます。

      (1)材料費のコストダウン

        製造現場などで発生する材料費は、材料の消費量に単価を掛けたもの
        で計算されます。

        したがって材料費のコストダウンには、その要素である消費量か単価の
        低減を図る必要があり、次のような対策が考えられます。

        <材料消費量の削減策例>

         ・製品設計段階で部品点数の削減を検討しているか

         ・生産ロットは適切か・過剰な品質(部品の品質が要求性能を
          上回るなど)になっていないか

         ・適切な検収をしているか

        <単価の引き下げ策例>

         ・購買市場の調査に基づく購入先選定は適切か

         ・大量仕入れ、一括購入を検討しているか

         ・支払い条件は適切か

      (2)労務費・製造経費のコストダウン

        製品の生産過程において工場などで支出されるおもな費用は、現場で働
        く従業員の人件費と、工具やエネルギーなどの製造経費。

        これらのコストダウンを進めるには、作業の無駄を省くことと、作業の改善
        を図ることの2つの観点から次のような対策が考えられます。

        <作業の無駄の排除例>

         ・原材料の不足などによる手待ちの削減

         ・道具や設備の故障、トラブルの削減

         ・予定変更の多発の削減

        <作業の改善例>

         ・新設備導入による作業の自動化

         ・作業研究による作業の標準化

         ・工程の短縮や組み合わせによる簡素化

      (3)販売費のコストダウン

        販売費のコストダウンを図るには、マーケティングの基本的な考え方を理
        解する必要があります。

        つまり、顧客のニーズをつかみ、そのニーズを満足させるためにどのよう
        な製品・サービスを、どのような時期・場所で、どのような方法および価格
        帯で提供していけばよいのかという自社に適したマーケティング活動を行
        う必要があります。

        たとえば、高齢者向け製品の販売を考える場合にインターネットを広告媒
        体として活用しても、高齢者のインターネット利用率を考えるとあまり大き
        な効果を期待することはできません。

        そこで、インターネットによる広告が、果たして自社のターゲットに適した
        方法なのかを検討し(実質ロスの削減)、より効果的な広告媒体を模索す
        る(機会ロスの排除)のです。

      (4)管理費のコストダウン

        管理費は、人事、経理、総務などのスタッフ部門で発生する給与や経費
        がおもなものになります。

        ここで発生する費用は、直接売上の拡大に貢献するものではありません
        が、企業を効率よく運営していくには見直す必要のあるコストです。

        しかし日本では、生産現場での合理化は比較的進んでいるものの、これ
        らスタッフ部門を中心とした間接部門(オフィス等)の合理化はあまり進ん
        でいないのが実態のようです。

        したがって、事務の適正化や余剰人員の再配置などを進め、スタッフ部
        門の最適な規模と業務内容を維持することが管理費のコストダウンの主
        眼となります。

   4.トータルコストダウンの仕組みをつくる

     企業のあらゆる活動にはコストがかかります。

     コストダウンを検討するとき、これまで述べてきたように費目ごと、部門ごとに
     直接焦点をあてて改善策を練っていきますが、これも全社的な調整のなかで
     進めなくてはなりません。

     部門同士が敵対関係になると、たとえば、「売れればよいということでどんどん
     値下げする販売部門があるから、我々製造部門のコストダウンも水の泡に 
     なってしまう」という状況になりかねません。

     自部門の利益が他部門の損失にならないようにするためには、

      ・他部門の利益は自部門の利益

      ・他部門の損失は自部門の損失

     といった全社的なトータルコストダウンの仕組みが必要になる。

     トータルコストダウンの仕組みづくりには、強力なトップマネジメントに基づくプ
     ロジェクトチームを結成し、実行していくことが有効になります。

     具体的には次のような手順を踏んでいくことになります。

      <STEP 1>:トップによる組織の革新の提示

       ・利益確保におけるトータルコストダウンの必要性を全社員に徹底

      <STEP 2>:プロジェクトチームの発足

       ・プロジェクトの企画

       ・プロジェクト・マネージャーの任命

       ・各部門のメンバーで構成されるプロジェクトの発足

       ・各部門、各職場のコストダウン目標の設定

      <STEP 3>:トータルコストダウン活動の実行

       ・プロジェクトチーム主導の全社的な活動の実施

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