信用調査マニュアルの作成

  ■信用調査の重要性

   1.信用調査の必要性

     相手の経営状態を把握せずに取引を開始したり、取引先の経営状況の変化
     を調査せずに当初の条件で取引を継続することは極めてリスクが大きいとい
     えます。

     現在のように、経営環境が日々激変する中で、企業の信用力も刻々と変化す
     るものです。

     従って、企業が取引先管理の一環として継続的な信用調査を行うことは非常
     に重要です。

     継続的な信用調査を行うことで、

      ・貸し倒れの発生を未然に防ぐ

      ・取引先の経営状態を逐一把握できる

     などのメリットを得ることができます。

     また、取引先の経営状況が把握できれば、積極的かつ的を射た営業努力によ
     る売り上げ増進などの販売戦略の展開も可能になります。

     売り上げ増進から取引量の増加につながり、その結果、取引先とより太いパイ
     プを持つことができます。

     このように信用調査は自社、取引先企業の双方の利益向上のために必要不
     可欠なものです。

   2.企業の実情

     企業が信用調査を行う必要性については前述した通りですが、実情として、販
     売部門のノルマ追求などの理由から信用調査の情報が無視されてしまう傾向
     があります。

     近年、企業の従業員評価は年功序列から能力・成果主義へと移り変わりつつ
     あります。

     しかし、能力・成果主義を導入した効果が空回りし、部署の責任者や従業員に
     必要以上のプレッシャーを与えてしまうこともあります。

     例えば、ノルマ達成のために本当に必要な取引先の情報を収集せずに、ある
     いは収集することを後回しにして取引量の確保だけに目を奪われてしまうなど
     の状況です。

     しかし、取引先の信用調査なしに、安定した経営取引や拡販は望みにくいの
     が現実であり、ひいては個々の従業員の成果が思うように上がらないといった
     弊害を招く可能性があります。

     信用調査は企業経営の中で必要不可欠といえるでしょう。

   3.信用調査を応用する

     企業に関する信用調査は、ほとんどの場合が取引先企業あるいは新規取引
     先見込み企業に対して行うものです。

     しかし、対取引先企業ばかりでなく、信用調査の活用方法として「社外からの
     自社に対する評価を確認するために活用する」ことも考えられます。

     自社が社外における自社の信用力を図り、社外ではどのように評価されてい
     るか確認することは、会社経営の見直しや今後の経営方針に非常に役立つ
     はずです。

     信用調査にはいくつかの方法がありますが、このように信用調査を応用する
     場合は、客観的なデータを入手することができるという点で興信所などの外部
     機関を利用して行うほうがより効果的です。

  □信用調査の方法

   1.金融機関調査

     メーンバンクを通じて信用照会を行い、取引先の経理状態などの概要を把握
     します。

     留意すべき点は、金融機関は取引先の悪い点にはあまり触れないことです。

     金融機関の報告の行間を読み、真相を予測することが大切です。

   2.興信所調査

     興信所を利用する場合は費用と時間がかかるため、調査事項を絞って依頼す
     ることがポイントです。

     依頼内容によっては、データの古い回答がされる場合もあるので、報告書作
     成日に注意する必要があります。

     また、利用する興信所の選定に際しては、大手の信用できる調査会社を選ん
     だ方が間違いないでしょう。

   3.同業者調査

     同業者間の情報交換により、取引先への売掛限度や一般的な信用の概要な
     どを知ることができます。

     しかし、同業者からの情報は、

     各業者で取引量や付き合いの年数が異なるなどの理由から評価内容がそれ 
     ぞれ異なるので注意が必要です。

     同業者から得られる情報はトピック的な要素が強く、本当に必要な情報は限ら
     れてきます。

   4.実態調査

     自社の営業担当者などが実際に取引先に出向いて、観察や面接などにより
     営業状況や一般信用などを細かく調査する方法です。実際に見聞きしたうえ
     での細かな調査なので調査内容は信頼できますが、営業担当者と取引先は
     日頃からの付き合いもあるため、先入観が入りやすくなります。

     そのため、客観的な調査を行う前提条件として、担当者の熟練した調査技術
     が要求されることになります。

     また、取引先の営業を妨げたり、心証を害して関係を悪化させないために、調
     査方法を慎重に選ぶ必要があります。

  信用調査の流れ

   信用調査は予備調査と実態調査に大別され、予備調査の結果を踏まえて実態調査を
   行う流れになります。

   予備調査は、取引先の概要を知り、どの程度の実態調査が必要かを調べるため
   の調査です。

   具体的には、前述の金融機関調査、興信所調査、同業者調査などが行われ、調
   査方向を決定した後に実態調査に移ります。

   実態調査は、予備調査で得た情報から、取引先の実情を面接などによって確認 
   する方法です。

   このような2つの調査結果から、売り掛けの限度など取引方針を決定し、実際の 
   営業活動に反映させていきます。

  □信用調査マニュアルの作成

   信用調査の具体的な手法については、経験の浅い営業担当者でも戸惑わずに行え
   るように「マニュアル化」することが必要です。

   作成するマニュアルは、文章よりも各項目のチェックリストによる○×式シート
   などが分かりやすく、調査実施の手間が省けると考えられます。

   マニュアルに盛り込む主な項目は次の4つです。

   1.資料分析・チェック(基礎資料から読みとれる情報のチェック)

     既存の基礎資料から予測される情報のチェックです。

     この調査は過去に行った

      ・金融機関調査や興信所調査、同業者調査

      ・任意協力的に提出される財務諸表、不動産、商業登記簿謄本

     などの定期的な点検のためのものです。

     従って、資料分析チェックは予備的調査といえます。

     資料の分析・チェックは取引先担当者が定期的に行い、そのデータを蓄積して
     おくとよいでしょう。

     具体的なチェック項目は、

     (1)基本事項       

・企業の経営形態 ・営業経歴
・従業員数 ・メーンバンク
・主要得意先 ・主要株主(出資者)
・主要役職員 ・本店、支店、工場、その他事業所の数や所在地

 

     (2)継続事項

        ○不動産登記簿謄本による

         ・所有権の移動  ・第三者の権利設定  ・消滅

       ○商業登記簿謄本による

         ・主要役員  ・資本金  ・支店  ・そのほか営業状況変化

       ○法人税、所得税の申告公示資料による

         ・好況法人  ・高額所得者

   2.信用情報のチェック(営業担当者からの日々の経営、営業情報のチェック)

     営業担当者に、日常の営業活動の中で積極的に取引先の経営、信用情報を
     収集・チェックさせる方法です。

     営業担当者は取引先だけではなく同業者、隣近所などからの情報収集も行う
     とより効果的です。

     具体的なチェック項目は以下の通りです。

     (1)経営概況

        □ 役員構成は創業者グループか、外部者か、生え抜きで固まっているか

        □ 役員の変更が頻繁にあったか、内紛や派閥争いはないか

        □ 株主構成はどうか

        □ 役員兼任とか、融資、取引関係との系列関係はどうか

        □ 取扱品の技術的優位性など特色はあるか

        □ 商品知名度は高いか

        □ 経営管理体制、組織は完全か

        □ 労働組合はあるか、上部団体はどこか

        □ 労使関係は円満か

        □ 社員の勤労意欲は高いか

     (2)営業状況

        □ 新規、多額の設備投資または未経験の分野への進出投資

        □ 新任経営者による営業方針、営業政策の急激な変更

        □ 従業員の目立った異動、増減

        □ 労使関係の対立激化ないし労働争議の発生

        □ 主要売り上げ先の変更、取引状況の急変

        □ 主要仕入先の変更、系列の転換

        □ 主要役職員の更迭、辞任、死亡、事故など

     (3)経営者の経営能力

        □ 人柄

        □ 対外折衝能力、社内管理能力、技術能力のバランスが取れているか
          足りない分野を補う幹部がいるか

        □ 社員から信頼されているか

     (4)財務・経理内容

        □ 主力銀行はどこか。またそこの評価はどうか

        □ 過去3カ年の業績はどうか

        □ 各種経営指標は業界標準と比較してどうか

        □ 過剰設備投資はないか

        □ 物的担保能力はあるか。その利用状況、優先順位はどうか

        □ 経営者並びに役員の資産はどの程度あるか。担保余力はあるか

     (5)資金繰り

        □ 融通手形の発行

        □ 取引先の倒産による多額の焦げ付き、貸し倒れの発生

        □ 金融業者などの高利資金の利用

        □ ほかの債権者の債権保全の状況、取立の強化

     (6)販売・仕入先(特に仕入状況のチェックは大切)

        □ 仕入代金の決済状況はどうか。
          現金払いか、手形払いか、サイトは何日か

        □ 約束した決済条件を守っているか

        □ 適正在庫を維持する仕入れを実施しているか

        □ 仕入価格は非常識的値下げを要求していないか

        □ 優良な仕入先をもっているか。その変更はなかったか

        □ 仕入担当者、または責任者が飲み食いを要求していないか

        □ 換金のための安売りをしていないか

     (7)工事状況

        □ 作業現場の状況は整理・整頓できているか

        □ 現場周辺の人の評判は

        □ 現場監督者や作業員のレベルはどうか

        □ 品質レベルはどうか

        □ 工期は守られているか

        □ コストダウンの工夫はされているか

        □ 協力業者の質と量は、また彼らの評判はどうか

     (8)経営者の私生活

        □ 経営者およびその家族の死亡、事故、病気など

        □ 夫婦間、家庭内の不和、不満、不遇

        □ 趣味、道楽、賭事などへの過度の熱中

        □ 名誉職、公職への過度の執心、熱中

        □ 本業外の投機的事業、相場などへの過分の投資、傾注

        □ 同族役員間の不和

        □ 取引先の倒産による多額の焦げ付き、貸し倒れの発生

        □ 金融業者などの高利資金の利用

        □ ほかの債権者の債権保全の状況

   3.実態観察・チェック(営業管理者の取引先訪問時の企業実態のチェック)

     得意先管理担当者などが取引先訪問時に、経営や営業状態を注意深く観察
     し、その異常をチェックする方法です。

     管理担当者は、店頭や工場内、倉庫内などを詳細にチェックして取引先の経
     営状況を調査します。

     具体的なチェック項目は次の通りです。

     (1)営業状況の変化

        □ 店内、現場における異常な雰囲気

        □ 店舗、工場、倉庫、特に本社事務所、社長私宅などの新築、増築、
          改築、拡張など

        □ 高額な機械装置、高級乗用車、そのほか高額資産の購入とその後の
          利用状況など

        □ 在庫の急激な増減、返品の急増、特定品の異常な荷動き

        □ 自動車、そのほか稼働率の高い営業用資産の買換え状況およびその
          整備状況

        □ 従業員の集団離職、幹部従業員の相次ぐ退社、労働争議の激化など

        □ セールス訪問時における来客、電話などの繁閑度、機械工具などの稼
          働、操業状況、従業員の勤務態度など

        □ 社内の告示、机上や黒板のメモなど

     (2)応対、支払振りの変化

        □ 当社に対する応対、支払態度の急激な変化

        □ 当社以外の仕入先、外注先に対する支払引延しの徴候、支払
          遅延のいい訳

        □ 一部債権者の債権取立て強化の動き、仮差押、仮処分差押、
          強制執行などの法的手続の進行

     (3)代表者および主要役員の変化

        □ 代表者および主要役員の交替
        □ 大口取引先、大口債権者、金融機関の担当者に対する役員などの
          接触状況、応対態度の変化

        □ 来訪客筋の急激な変化、特に本業外および好ましからざる来客の急増

        □ 役員相互の接触、また役員と従業員との接触態度の変化

        □ 趣味、道楽、新規事業、本業外への投資などへの傾注度合

   4.取引・支払状況チェック(事務担当者から記帳、管理情報チェック)

     事務担当者に、取引先ごとの売り上げ、代金回収の記帳・照合、監査事務、代
     金決済状況などをチェックさせる方法です。

     具体的なチェック項目は以下の通りです。

         (1)取引状況の変化

        □ 取引高(取引数量、取引金額、取引商品構成)の急激な増減、変化

        □ 取引条件の変更とその後の取引高変動

        □ 積立金、取引保証金などの急激な増減、リベート保証金などの積立お
          よび取り崩し条件の変更要求

        □ 設備投資、または新規事業進出後の取引情報、支払状況の変化

        □ 取引商品構成の異常な変動など

         (2)買掛支払手段の変化

        □ 現金(小切手)、手形による支払割合の変化

        □ 回し(裏書譲渡)手形の急増、特に直接営業取引がないと思われる
          企業の振出し手形の回し高の増加

        □ 先日付小切手の発行、異常な長期決済手形の振出

        □ 商取引名義人、正常銀行当座取引名義人以外の名義人振出しの
          手形、小切手による支払い

  □チェックリストシステムの具体的手順

   信用調査の具体的な手順は以下のようになります。

   上述の1〜4についての

   第1に、既存資料のチェック

    1.資料の分析・チエック

   を実施します。

   その後、営業・販売管理・事務部門などの合同会議を開いたうえで具体的な取引
   方針を決定します。

   さらに、

    2.信用情報のチェック

    3.取引、支払状況のチェック

   を随時行うことと並行して、得意先管理の責任者は定期的、あるいは必要とされ
   る時に

    4.実態の観察・チェック

   を行います。

   もし、不審な点が感じられれば、その内容を速やかに上司に報告します。

  □信用調査教育の実施

   自社独自の信用調査マニュアルを作成することは、経営の安定を図るだけでなく、
   社員に信用調査の意識を植え付ける意味でも非常に重要です。

   作成した信用調査マニュアルを効率的に活用するために、従業員に信用調査に関
   する教育を行うと効果的です。

   まず管理者には、債権管理などの問題を研修テーマに取り上げ、手続き方法や取引
   先の信用情報の収集や分析方法を修得させます。

   現場の営業担当者には、営業販売教育の中の一環として、その中で信用調査の重要
   性について理解させることが大切です。

   そして、企業経営者は朝礼、社内通達、各部連絡会議、社内報などを利用し、信用
   調査の重要性を社内に周知徹底させる必要があります。

  □明確なルールによって取引を開始する

   新規取引を始める場合のルールを明確にする。

    1.少なくとも相手方の同業者2軒以上に、相手方の評判を聞くこと

    2.出入の卸店、運送店の相手方に対する評判に注意すること

    3.相手方の顧客、近所の人の評判に注意すること

    4.相手方の経営者、仕入係の人柄、ことに誠実性に注意すること

    5.相手方の立地条件、販売方針を調査すること

    6.一流問屋との取引の有無を調査すること

    7.まず見込客の調査を行い、その結果によって売込みを図ること

    8.商談成立の見込みの大きいときは、挨拶と称して、金額に応じ、部長・役員ら
      が同行すること。

      ただし商談成立の実績はすべて担当販売員のものである

    9.取引開始に当たっては、所定の「売買契約書」を作成すること。

      やむを得ない事情がある売買は、受注御礼として部長等同行の上、当社の
      「注文書」による発注を依頼すること


   最後に、

    経営において、

      『100万円の利益を出すことと、100万円の損失を未然に防ぐことは
      同じ価値を持つ』

    ことを常に肝に銘じておくことです。  

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