労働時間の管理不足は企業リスクを拡大させる


  近年、成果主義の浸透や非正規従業員(パート労働者など)の増加などを背景に業務
  遂行方法が複雑化し、従業員数が少ない中小企業でも労働時間管理が難しくなって
  きています。

  適切な労働時間管理が行われないと残業は慢性化し、企業、従業員とその家族にとって
  大きなリスクとなることから、労働時間の適正化は緊急課題です。

  ■法定労働時間の管理

   労働基準法(以下、労基法)では、休憩時間を除き労働時間について次のように定め
   ています。

    ・1日の法定労働時間は8時間

    ・1週間の法定労働時間は40時間

   この法定労働時間を基本として、企業は労働者の労働時間を管理していきます。

   (1)1日の法定労働時間

     労基法では、1日の法定労働時間について8時間と定めています。

     ◎労働時間にかかわる範囲
      1日8時間(休憩1時間含む)、週5日勤務の企業の場合

      ○拘束時間
       ・出勤から退勤までの全時間をいい、休憩時間も含まれる

      ○法定労働時間

       ・拘束時聞から休憩時間を除いた時間をいう

       ・この労働時間は使用者の指揮監督のもとにある時間をいう

       ・所定労働時間は法定労働時間の範囲内で定める

      ○所定労働時間

       ・就業規則などで定める所定始業時刻から所定終業時刻までの
        時間のうち休憩時間を除いた時間をいう

      ○休憩時間

       ・拘束時間中ではあるが、勤務からは解放され労働しないことが
        保障されている時間をいう

      ○法定内残業時間

       ・所定労働時間を超えるが法定労働時間内の労働時間(割増貸
        金の支払いは任意)

      ○法定外労働時間

       ・法定労働時間を超える労働時間(割増貸金の支払いが義務づ
        けられる)

   (2)1週間の法定労働時間

     1週間の所定労働時間が40時間以内となるように、各勤務日の所定労働時間
     および勤務日数を定めます。

     一部の業種については、法定労働時間の特例措置が講じられています。

     ◎法定労働時間の特例
      商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業のうち労働者数10人未満の
      一定の事業場については、労働時間の特例措置として、1週44時間、1日8
      時間まで労働させることができることになっています。


  ■休憩時間の管理

   適当な時間で労働を中断するなどし、労働者の心身の疲労を回復させる必要があり
   ます。

   このため、労基法は休憩時間について次のように定めています。

    労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は
    少なくとも1時間の休憩時間を、労働時間の途中に与えなければならない。

   労基法の規定は、あくまで最低の基準で、疲労回復に必要な休憩を労働時間の長さ
   に応じ適宜与えるようにしましょう。

   しかし、長過ぎる休憩時間は拘束時間をいたずらに長くする結果となり好ましくありま
   せん。

   また、休憩時間は労働から離れることが保障されているものである以上、これを労働者
   に自由に利用させなければなりません(休憩時間の自由利用)。


  ■休日の管理

   休日は、労働者にゆとりある生活を与え、労働による心身の疲労を回復させる役割を
   もっています。

   労基法は、
   休日は原則として毎週少なくとも1回は与えなければならないと定めています(週休
   制の原則)。

   これによると、毎週1回の休日を与えていれば、それ以外に国民の祝日を休日にする
   ことや、週休2日制にするといったことは強制されていません。

   また、休日について特定することを要求していません。

   しかしながら、休日の目的からすると、適切な休日数とその特定が望ましく、できるだけ
   就業規則において記すなど、労働者に示すことが必要です。   

   所定の休日にどうしても勤務させる必要がある場合の対応の仕方として、おもに次の
   2つがあげられます。

   (1)休日の振替

     所定の休日にどうしても勤務させる必要がある場合、原則として同一週内で振替日
     を事前に指定することで、労働させることができます(その場合、就業規則に「業務
     上の必要がある場合には休日を振り替えることがある」といった規定を設けておく
     必要があります)。

     こうすることで休日が所定の勤務日に変更され、休日労働させたことにはならなく
     なります。

     したがって、

     休日の振替の場合は割増賃金は発生しません。

   (2)代休

     休日の振替に似たものとして、一般に「代休」と呼ばれる制度があります。

     これは休日労働を行わせた場合に、その代償措置として、事後にある日の労働
     義務を免除するものです。

     ただし、休日労働の事実は消えないので、

     代休の場合は休日労働に対する割増賃金の支払いが必要です。

     なお、代休日を有給とするか無給とするかは就業規則などの定めによります。


  ■時間外労働・休日労働

   労基法では、法定労働時間と週休制の確保を労働条件の最低基準として規定し、
   原則として時間外労働や休日労働を認めていません。

   しかし、

    ・災害の発生その他通常予見されない緊急の場合

    ・業務上の必要から労使協定を締結した場合

   には、一定の条件のもとに、時間外または休日に労働させることが認められています。

   (1)非常災害の場合

     労基法では、災害、緊急、不可抗力など、避けることのできない事由によって、臨時
     に時間外または休日に労働させることが必要となった場合には、その必要限度
     まで労働させることができます。

     この場合には、あらかじめ、所轄労働基準監督署長の許可を受ける必要がありま
     すが、事態急迫の場合は事後に届出を行います。

    (2)労使の協定による場合
      使用者が労働者代表と書面による協定を締結し、これを所轄労働基準監督署
      に届け出た場合には、法定労働時間の規制枠を超えて労働者に時間外労働を
      行わせたり、休日に労働させることができます。

      この書面協定を労基法の条文にちなんで「36協定」と呼んでいます。

      ただし、18歳未満の年少者または妊産婦で請求のあった者については、この
      協定により時間外労働、休日労働とも行わせることはできません。

      季節的な要因などによる「業務量の繁閑の波」を時間外労働で吸収している企業
      もいまだ多いようですが、これは限りある労働時間を効率的に管理していくうえで
      決して望ましいことではないため、時短の促進や労働時間の弾力化(変形労働時
      間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制の導入)などにより、時間外労働を
      削減する方向が望まれています。


  ■有給休暇

   本来の休日以外に取得することができる有給の休暇で、社員等に与えられる権利
   です。

   しかし、業務が忙しい日に有給休暇の申請があった場合、会社には休暇日をずらして
   もらう権利があります。 

     病気と嘘をついて有給休暇を取得しても欠勤扱いにすることはできなません。

     これを防ぐためにも、就業規則等に「住所、家庭関係、経歴その他の会社に 申告すべ
   き事項及び各種届出事項について虚偽の申告を行わないこと」を記載しましょう。

     そして、「所定の手続きを怠ったときには懲戒の対象となる」と明記する。

   (1)有給休暇の日数

     6カ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、有給休暇
     を与えなくてはなりません。

     有給休暇の最低付与日数は、勤続年数に応じて以下のとおりと定められています。

     有給休暇の最低付与日数
   


     パートなど所定労働日数が少ない者に対する有給休暇の付与日数は、以下の
     とおり定められています。 


     所定労働日数が少ない労働者に対する有給休暇の最低付与日数      
   


  ■労働時間管理に関する労基法の改正点

   多くの中小企業は36協定を締結せずに、就業規則の定めだけを根拠に従業員に
   時間外労働などを命じています。

   これは、所轄労働基準監督署の許可を得ずに従業員に時間外労働などを命じている
   危険な状態です。

   仮に従業員がそうした状況を労働基準監督官に申告すれば、その臨検によって是正
   指導が出されるでしょう。

   こうした事態を避けるために、中小企業は早急に36協定を締結しなければなりません。

   また、その際は就業規則も確認し、新たに締結する36協定と矛盾がないようにします。

   36協定と就業規則の整備によって従業員に時間外労働を命じる根拠が整うため、
   少なくとも「所轄労働基準監督署の許可を得ずに従業員に時間外労働を命じている」
   状態を脱することができます。

  □36協定で締結する内容

    1.時間外または休日に労働させる必要のある具体的事由

    2.業務の種類

    3.労働者の数

    4.1日および1日を超える一定期間について延長することができる
     時間または労働させることができる休日

    5.有効期間の定め

    6.1日を超える一定の期間の起算日

   中小企業は上の内容について締結した36協定を「時間外労働・休日労働に関する
   協定届(様式第9号)」とともに所轄労働基準監督署に届け出ます。

   長時間労働を抑制し、労働者の健康を保持しながら、仕事と生活の調和を図ることを
   目的に労基法が改正され、平成22年4月1日から次のとおり施行されました。

  □時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ

   時間外労働を労働者に行わせるには「36協定」が必要ですが、時間外労働ができる
   限度時間が定められています。

   この限度時間を超えて時間外労働を行わせるには「特別条項付き36協定」が必要
   です。

   「特別条項付き36協定」を結ぶ際には、

    (1)限度時間を超えて働かせる一定の期間(1日を超え3カ月以内の期間、1年間)
      ごとに、割増賃金率を定めること

    (2)(1)の割増賃金率について25%を超える率とするよう努めること

    (3)そもそも延長することができる時間数を短くするよう努めること

   が必要になります。

  □月60時間を超える時間外労働の割増率

   月60時間を超える時間外労働については、法定割増賃金率が現行の25%から50%
   に引き上げられます(深夜労働や休日労働の割増賃金率は変わりません)。

   ただし、中小企業については、法定割増賃金率の引き上げは猶予され、施行より3年
   経過後に改めて検討されます。

  □代替休暇制度の導入

   月60時間を超える時間外労働について、労使協定を締結すれば、引き上げ分の割増
   賃金の代わりに代替休暇(有給休暇)の付与をすることができます。

   ただし、労働者が代替休暇を取得した場合でも、従来の25%分の割増賃金の支払い
   は必要です。

  □有給休暇の時間単位付与

   労使協定を締結した場合、1年に5日分を限度として有給休暇を時間単位で与える
   ことができるようになります(分単位など時間未満の単位は認められません)。

  ■労働時間管理に対する経営者と従業員の意識改革

   中小企業が労働時間管理を徹底する際は、タイムカードの設置などによって実際の労働
   時間を正確に把握する一方で、36協定などの規定の整備と労災保険など保険への加入
   によって企業のリスクを軽減します。

   これらを実践した上で具体的な労働時間の適正化策を講じます。

   季節的な業務量の偏りによって定期的に時間外労働が発生しているような場合は変形
   労働時間制の導入が効果的です。

   ただし、現実的にはこのような単純な取り組みで問題が解決できるケースは少なく、
   もっと根深い問題があります。

   時間外労働や休日労働が慢性化している職場では、従業員がはじめから時間外労働や
   休日労働を考慮した労働時間で業務の割り振りを行っていることが少なくありません。

   これは、従業員の希薄な時間管理の意識が時間外労働などの原因になっているケース
   が少なくないということであり、中小企業が労働時間管理を徹底する際はこうした従業員
   の意識改革をしなければなりません。

   その役割を担うのは管理者です。

   経営者は、時間外労働の事前許可制を実施して管理者にそれを徹底させるなど、
   日ごろから厳格に労働時間管理をしなければなりません。

   意識改革が必要なのは従業員だけではなく経営者も同様です。

   時間外労働などを削減すると、全体の労働時間が減る分、企業の生産力や販売力が
   低下します。

   これまで従業員に時間外労働など負担をかけることで実現してきた生産力などが失わ
   れるのです。

   経営者はこの点を想定した上で、前述した従業員の意識改革を推進し、業務効率の
   向上などによって生産力などの低下を最小限に食い止めなければなりません。

   労働時間管理の徹底は会社と従業員に大きな影響を与え、一時、混乱を招くこともあり
   ます。

   それでも労働時間管理の徹底が求められるのは、それが企業が労基法など関係法令を
   順守するためだけでなく、会社が従業員とその家族に果たすべき重要な責任の一つ
   であり、結果として企業と従業員の幸福につながるものだからです。

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