ナレッジマネジメントと暗黙知

         

ナレッジマネジメントの導入と実践 


  ■ナレッジマネジメント(Knowldege) 

   ナレッジマネジメントを簡単に説明すると「個々の社員が持っている知識や情報を、
   会社の財産として共有し、有効活用する」ことです。

   特に現有資産に限りがある中小企業にとって、ナレッジマネジメントの導入は欠かせ
   ない課題でもあります。

   ナレッジマネジメントのナレッジとは知識を意味します。

   そして、知識を前提とするナレッジマネジメントの基本は、企業や社員が持つ知識を
   共有し、有効に活用することです。

   ナレッジマネジメントの基本は普段から行われている知識の共有・活用とほとんど変わり
   ません。

   違いは、知識の発掘、有効な知識の選別、全社的な知識の共有と活用、知識の見直し
   などを体系的に整理していることです。

  □知識・情報の「個人活用」から「共有活用」へ
   ナレッジマネジメントとは、社員個人、社内に存在するさまざまな知識(ナレッジ)や
   情報を組織全体で共有し、有効に活用して経営向上につなげていくことです。 

   大企業に比較して資金や人材などの制約が大きい中小企業にとって、社内の知識や
   情報を最大限に活用することは極めて重要な戦略です。 

   会社には、「優秀な営業マン」、「優秀な管理者」、「優秀な技術者」が少なからず存在
   しており、それぞれの分野において経験で身につけてきた豊富な知識、情報やノウハウ
   を保有しています。

   彼らは自分が直接的に関わっている業務では、その知識や情報をいかんなく発揮し
   ていますが、彼らの知識・情報を会社の共有財産として活用しているところはほんの
   ひと握りに過ぎません。

   優秀な社員の保有する知識・情報は会社共有の資産であり、それらを全社員が活用
   することによって会社全体としての経営向上につなげていくことが重要なのです。

  □「共有」そして「新たな価値を創り出す」へ
   ナレッジマネジメントの第一歩は「知識・情報
   の共有化」にありますが、知識・情報の共有
   化をベースに「新たな価値を創り出す」ことに
   ナレッジマネジメントの本質があります。

   ナレッジマネジメントの事例として、優秀な営
   業マンの知識・情報を活用することを考えて
   みます。

   具体策として、彼らが活用している提案書を
   営業の場面ごと・課題ごとに整理し、「標準
   提案書」として体系化し、広く公開することな 
   どが有効です。

   そのほかの営業マンも標準提案書を参照す
   ることで、自分が担当している営業案件に最
   適な提案書を選び、それをベースに個々の
   具体的な提案書に仕上げていくことができます。

   ナレッジマネジメントではさらに踏み込んだ「新たな価値を創り出す」ことが期待さ
   れます。

   たとえば、新商品の販売などにおいて、いかに優秀な営業マンが集まっても、効率的
   な販売方法がよくわからないケースなどもあるでしょう。

   このように「既存の知識」が社内にまだない場合は、「まだない」ことを明確に意識する
   ことで、営業マン全員でそれを埋めていく取り組みが可能になります。

   また、優秀な営業マンが作った標準提案書をほかの社員が繰り返し活用することで、
   これまで見落とされていた改善点が明らかになり、さらなる高度化につなげていくことも
   考えられます。

   さらに時代の流れなど外部環境の変化によっても、提案書に求められる要件は変わ
   っていきます。

   また、営業の手順セールストーク間接部門における業務なども同様です。

   ナレッジマネジメントではこのような「知識・情報の陳腐化」に対しても、全社員が、
   いち早く対処することをめざします。

   この際には、営業マン以外に技術担当の社員の意見も反映させていくことが重要に
   なります。

   ナレッジマネジメントの実践において、集める知識を、ある程度選別しなければなら
   ない。

   もちろん、そのためにナレッジマネージャーがいるのですが、形式知化しにくい暗黙知
   だけが集まってもナレッジマネージャーがパンクしてしまいます。

   こうした事態を避けるためにも、ナレッジマネジメント導入前の基盤作りの段階で、

    ・どういった知識が欲しいのか
    ・どういった形でまとめて欲しいのか

   をある程度伝えることが大切です。

   ナレッジマネジメントは全社員が知識・情報の共有化を図りながら、新たな価値を創り
   出す活動を積極的に行うことで可能になるといえるでしょう。

  □ナレッジマネジメントの効果
   ナレッジマネジメントを導入することで期待できる第一の効果は、放っておいては表に
   出ることのない社員の知識・情報を、企業の財産として共有、活用できる点です。

   どんな企業にも特別に優れた知識を持つ人材が少なからずいます。

   その人材が成績トップの営業担当者ならば、その営業の秘訣を皆で共有して、全社的
   な営業成績の向上につなげることができます。

  □利用しやすい環境を作る
   ナレッジマネジメントには、集められた知識が分かりやすい区分で整理され、いつでも、
   誰でも、簡単に利用できる環境が必要です。

   紙による文書管理のように、ただ積み重ねられ、時間が経てば倉庫に移動され、いつし
   か黄色くなって捨てられてしまうようでは文書管理にはなりません。

   従って、集められた知識がデータベースに分かりやすく整理されていて、各社員は
   デスクの端末やモバイルからいつでもアクセスして内容を取り出せる環境が理想と
   なります。

   同時に、各社員がいつでもデータベースに知識を登録できる仕組みも欠かせません。

  □導入の手順と留意点 
   ナレッジマネジメントを自社に導入する場合には、以下のような手順で行われます。 

   1. トップによる意思表明
     ナレッジマネジメントは、現場レベルでの通常の業務改善活動などとは異なり、
     全社の経営システムの根幹にかかわるものです。

     このため、導入にあたってはトップ自らが、
      ・どのような目的で
      ・どのような方針・心構えで
      ・どのようなステップで
      ・いつまでにどのような成果をあげるか
      ・社員にどのようなメリットをもたらすか

     といった明確な意思表示を行う必要があります。

     ナレッジマネジメントを導入しても、実際の成果につながるまでには一定の期間が
     かかります。

     特に導入当初はさまざまな業務が発生するため、社員のなかには「導入のための
     新たな負担業務が増えただけ」という拒否反応を示す人が出ることも考えられます。 

     全社一丸となって取り組むためには、社長自らが会議や朝礼の席で、「自社の現
     状の課題を解決し、将来的にも成長し続けるためにはナレッジマネジメント導入が
     不可欠」という強い姿勢を示す必要があります。

   2. ナレッジマネジメントの導入
     ナレッジマネジメント導入のために実際にどのようなシステムが必要になるかを検
     討します。 

     最終的には市販の「グループウエア」と呼ばれるパッケージソフトを導入すること
     が一般的ですが、グループウエア導入にあたっては、「報連相」などの基本的な
     ルールが策定され、かつそれが守られていることなどが前提になります。

     たとえば、「ベテラン営業マンのなかに営業報告書を提出しない人がいる、周囲も
     それを黙認している」といった状況のなかでは、費用と手間をかけてグループウエ
     アを導入しても大きな成果は期待できません。

     まずは社内でどのような情報がどのように流れるべきかを整理することから始め
     る必要があります。

     これは部下から上司への「報告」だけではなく、各社員が過去に関わった業務、
     現在進行中の業務について、上下関係を問わずに共有しておいたほうがよい
     情報は何かという視点で行う必要があります。

     「先輩社員、優秀な営業マンがいかに難攻不落の営業先を攻略したか」といった
     情報は、後輩社員にとっても大いに参考になるはずです。

     初めからグループウエアを導入するのではなく、情報共有のルールとその適切な
     運用が定着するまでは、既存の社内電子メールを活用していくことも一考です。

     そして、グループウエアを導入することが目的化しないことです。

   3. 既存知識、情報の体系化・データベース(DB)化
     社員の保有する知識・情報を体系化し、い
     つでも誰でも利用できる状態にデータDB1.jpgベース
     化することです。 

     社員の間に蓄積されている知識や情報を整
     理するためには、「形式知」と「暗黙知」
     いう考え方について理解しておく必要があり
     ます。
     
   4.暗黙知と形式知の違い
     ナレッジマネジメントの導入を考える際に、
     経営者は知識には「暗黙知」と「形式知」が
     あることを理解しなければなりません。

     「暗黙知」とは、
     知っていても言葉や文章では表現し難い知識で、何の働きかけもしなければ、表
     に出ることはほとんどない知識です。 

     一方、「形式知」とは言葉や文章で表現された知識です。

     一般に「暗黙知」よりも「形式知」のほうが多く利用されており、一説には、「人が
     有する知識のうち80%は暗黙知で、残りの20%が形式知である」といわれてい
     ます。

     つまりは、企業がいくら社員の知識を活用しているといっても、それはわずか20
     %の知識でしかない、ということになります。 

     そこで重要となってくるのは、深く埋もれている「暗黙知」を表に出し、その中から
     有効なものを選別して、それを分かりやすい「形式知」に置き換えて共有、活用で
     きる仕組みを整えることです。

     ベテラン営業マンが自分の経験のなかで独自に身につけてきた感覚などは暗黙知
     ということになります。

     ナレッジマネジメントはPDCAサイクルを繰り返し、

     暗黙知の形式知化⇒ 知識の共有と活用⇒ 知識の習得⇒ 新たな知識の創造
     といったように、さらなる新しい知識の創造サイクルを向上(スパイラル アップ)
     させることです。 

     しかし、そのためにはいくつかの障害があります。 

     (1)形式知とすることへの抵抗感
       ここで問題となるのは、自分の持つ知識を表に出したがらない社員が意外に多
       いという事実です。

       自分だけが知っている優れた知識を持っている社員は、その知識を共有する
       ことを嫌がります。

       良質な知識の共有は会社にとって魅力的である半面、社員は自己の優位性が
       失われることを好まないのです。

       優れた暗黙知をもっている社員は、それを形式知として表に出すことに対して
       抵抗があることが多いということです。

       それはおもに以下のような考えによります。
        ・自分自身が長い間苦労して苦労して手に入れた知識を公開することは、
         組織での自分の優位な存在価値を脅かす可能性がある。

        ・そもそもノウハウやスキルは明文化できるものではなく、長い経験のなか
         で苦労して身につけていくべきものである。 

        ・感覚としてもっている暗黙知を形式知として文章化する作業が面倒である。

       ナレッジマネジメントを推進していくには、これらの抵抗感を払拭することが
       大切になります。

       そこで、実際に知識を共有、活用した取り組みの成功例を示すなどして、ナレ
       ッジマネジメントの効果を分かりやすく伝えることが大切です。

       そして、ナレッジマネジメントの実践において、集める知識を、ある程度選別し
       なければなりません。

       もちろん、そのためにナレッジマネージャーがいるのですが、形式知化しにく
       い暗黙知だけが集まってもナレッジマネージャーがパンクしてしまいます。

       こうした事態を避けるためにも、ナレッジマネジメント導入前の基盤作りの段階
       で、

        ・どういった知識が欲しいのか
        ・どういった形でまとめて欲しいのか

       をある程度伝えることが大切です。

       そして、「ベテラン社員、優秀な営業マンは自分の暗黙知を形式知と
       して発表する責務を負っている」、「その責務を実行した社員に対しては高い
       評価が与えられる」といった認識をもたせることが必要でしょう。

     (2)自分の暗黙知に気づいていない
       優秀な社員は「感覚」で困難な局面を乗り越えることが多いため、「なぜほか
       の社員にできないことが自分にできるのか」という問い対して、うまく説明で
       きないこともあります。 

       「自分の感覚に従っているだけだよ」という答えだけでは、他の社員はそれを
       まねることはできません。

 

       このような場合は、一定の力量をもっている別の社員が、当該社員からさま
       ざまな視点で成功要因をインタビューすることが有効になります。

       たとえば、営業マンであれば、いわゆる「種まき」から大詰めの「クロージン
       グ」までの営業プロセスをそれぞれの段階において、どのようなタイプの顧客
       に対してどのような対策を講じているかといった点を体系的に聞き出してい
       くのです。

       優秀な社員にとっては「当たり前」の感覚で行っていることでも、インタビュー
       によってその当たり前のことをほかの社員はまったくできていないことが明ら
       かになることもあります。

    5. 運用開始・さらなる知識の創出
      社内に存在する知識、情報の体系化・データべース化ができたら、それをもとに
      実際の運用を開始します。

      優秀な社員の知識を参考にするだけではなく、全員参加型で自分の成功体験、
      失敗体験、それぞれの要因分析なども加えることによって、共有する知識の量
      を増やし、質を向上させていきます。

      このような活動を着実に積み重ねることによって、やがて運用当初は誰も考え
      つかなかった、新たな知識の創出も起こるようになります。

      これがナレッジマネジメントの最終的にめざすべき姿です。

    6.ナレッジマネージャーの選抜と教育
      ナレッジマネジメント成功のために欠かせないのは優秀なナレッジマネー
      ジャーの選抜と教育です。   

      ナレッジマネジメントをスムーズに運営していくには、

       ・社員が持つ数多くの知識を集める
       ・集まった知識の中から有効なものを選出する
       ・誰でも利用しやすいようにデータベースに整理する
       ・定期的に知識の棚卸しをして鮮度を保つ

      といった一連の作業が欠かせません。

      ナレッジマネージャーとは、知識の収集、整理、見直しなどを行う人材で、
       ・多分野にわたる大量の知識の中から有効な知識を見つけ出すバランス感覚
        の良さ

       ・有効な知識を即座にデータベースに集積する行動の素早さ

       ・知識、情報を定期的に棚卸しする几帳面さ

       ・大切な知識、情報を社外に漏えいしない信頼性の高さ
      などが求められます。

      ナレッジマネージャーのスキル次第でナレッジマネジメントの導入効果は大きく
      違ってくるため、その選抜は慎重に行わなければなりません。

      経営者は、ナレッジマネージャー候補を積極的に関連のセミナーに参加させる
      など、その教育に努めることが欠かせません。

      社内に適当と思われる人材がいなければ社外の専門家に相談することも考慮
      すべきです。

      ナレッジマネージャーの重要性を理解してください。

      しかし、社内の教育体制は今問題を抱えています。

      それは中小企業の多くが場当たりで無計画な教育が横行していることです。

      その原因に教育担当者の人数と能力の不足が挙げられます。

      厚生労働省「平成26年度能力開発基本調査」においても、全体の75.9%の
      事業所が「人材育成に問題がある」と回答しています。

      この問題を解決しなければ、教育制度の内製化は不可能です。

      
    7.知識提供者に対する評価体制の整備
      ナレッジマネジメントを運営していくうえで意外と難しいのは、知識に対する評価
      です。

      知識を提供した社員の評価方法には、
       ・知識の提供者に対して、昇給などの処遇をする

       ・朝礼や掲示板で提供された知識の素晴らしさを称える

      などがあります。

      実際にナレッジマネジメントの導入に成功している企業では、上記2つの評価を
      併わせて行うことが多いようです。

      分かりやすいのは昇給など賃金での処遇ですが、これを実施するためには透明
      で公平な知識の評価体制の構築が欠かせません。

    8.効果測定、運用面の見直し、新たな計画策定
      ナレッジマネジメント導入から一定期間が経過したら、当初の狙いどおりの効
      果を生んでいるかどうかの効果測定を行い、効果が不十分な場合はその要因
      を分析します。

      その際には最終的な業績向上につながったかどうかだけではなく、そのプロセ
      スでの評価、つまり、 

       ・知識の共有化は進んだか
       ・社員は自分の暗黙知を進んで提供するようになったか
       ・暗黙知の形式知化への変換は進んでいるか
       ・共有されている形式知の利用は進んでいるか
       ・暗黙知と形式知のスパイラルアップは起こっているか

      などについても評価し、運用面全般にわた
      スパイラルアップ1.pngる改善につなげていくことが大切です。

      そして、これらを踏まえたうえで新たな計画
      を策定します。

      集められた知識を定期的に棚卸しすることは
      非常に重要な作業です。

      暗黙知が形式知化すると、一種の情報となっ
      て社員に共有されます。

      その中には、業界動向や他社売上高など数字
      を用いたものもあるでしょう。周知の通り、情報
      は鮮度が命で、これはナレッジマネジメントでも
      変わりません。

      ナレッジマネージャーは、定期的に知識の棚卸しを行い、

       ・利用頻度の高い知識を分かりやすい場所に保管する
       ・古い知識は新しい知識に置き換える
       ・時系列で確認できるようにする

      などを行わなければなりません。

      知識の重要性を測りかねるときは、必要に応じて社長や知識の提供者に相談
      するのもよいでしょう。提供された知識は企業の資産です。

      この資産は、腐らないように大切に保管しなければなりません。

    9.「学習する組織」の醸成 
      ナレッジマネジメントの導入に成功したならば、企業と社員が持つ知識を全
      社的に共有、活用することができるでしょう。

      しかし、ナレッジマネジメント導入の効果はここにとどまりません。

      ナレッジマネジメント導入の第2の効果は
        「学習する組織」の醸成
      です。

      「学習する組織」とは、ナレッジマネジメントを通じてさまざまな知識を知り、そ 
      れを自己の知識として取り込むとともに、そこから新しい知識を創造する集
      団を示します。

      つまり、

        暗黙知の形式知化 ⇒ 知識の共有と活用 ⇒ 知識の習得
        ⇒ 新たな知識の創造

      といったように、知識を中心に絶えることのない連鎖反応を起こしていく集団
      です。

   ナレッジマネジメントは短期間で劇的な成果を生むものではありません。

   しかし、時間をかけて着実に取り組むことで、一時的な業績アップを超えた
   企業の体質強化につながります。

   重要な経営戦略としてトップ自らが粘り強く推進していくことが求められます。
    
  □「暗黙知」と「形式知」
   体験でしか得られない知恵や知識が、仕事の現場にはたくさんあります。

   これらを「暗黙知」という。

   暗黙知の伝承は、職人が親方の背中を見て学ぶとか、先輩の仕事のやり方を盗む
   というように、手取り足取りの指導ではないため、学ぶ者にとっては努力が必要だ。

   従来の日本企業には、暗黙知が組織内で次の世代へと受け継がれる、企業風土や
   企業文化があった。

   暗黙知の自然な共有が、日本企業の強みでもあったのです。

   それを学びやすく、習得しやすく、企業の制度とかシステムというかたちにした知識を
   「形式知」という。

   企業合併や事業統合、リストラなど経営環境が激しく変化する時代、その成果をより
   早く目に見えるものとするためには、暗黙知を積極的に形式知化し、利用しやすくする
   ことが重要であるとされた。

   では、会社内に存在する暗黙知を、すべて形式知化することは可能だろうか。

   結論からいえば、それは不可能です。

   日々の業務が完全にマニュアル化されていたとしても、現実には必ず「不測の事態」
   が起こり得るのです。  

   そのような事態に直面したとき、その業務に精通した社員であれば、マニュアルは
   なくても、適切な対応で業務をこなしていくことができ、なぜそのようなことが起きた
   のかを推理し、そのような事態を予防する対応も考え出すことができるでしょう。

   ひとたび“コト”が起きてしまえば、それに対する対処などは後に文書化して形式知化
   することができる。

   しかし、「不測の事態」に対する対応をその場で考え出すのは、決して形式知化する
   ことができない暗黙知であり、個々の社員が経験を積むことでしか蓄積することが
   できない「知恵」です。

   いかに多くの形式知を集めようとも、体験に根ざした暗黙知が無ければ、その人や
   組織に本当の意味での「生きた知恵」は形成されません。

   このような体験は社員一人ひとりの宝であるのです。

  □「暗黙知」の伝承こそが大きな柱
   近年、過去の試験問題を解く能力に長けてはいても、新たな問題を解決するために、
   推考できる能力が劣っている学生が増えている。

   この問題は何も学生だけの問題ではありません。

   社会人においても同様であって、前例踏襲を主張することはあっても、問題を解決
   するために、新たな挑戦に取り組もうとする者は意外と少ないのです。

   「ことが終わった後で賢くなるのはだれにでも簡単だ」という、諺通りの人間ばかり増え
   てきているのです。

   体験に裏打ちされた暗黙知を、より多く持つ人は華々しい一線を歩くことは少ないで
   しょうが、「生きる知恵」をしっかりと身につけていると感心させられます。

   中小企業は、この「暗黙知」の伝承こそが、人材育成の大きな柱となります。

   黙知の伝承がうまくいくと、社員は、社長の考えや気持ちを理解した上で行動する
   ようになります。

   この様な社員が2人、3人と増えていくと組織が活性化され、会社の目標達成に向け
   全体をリードする。

   おのずと会社は業績を伸ばし、成果が出て、目に見えた数値に表れます。

   暗黙知の伝承がうまくいってない会社では、与えられた仕事だけをする個人プレー
   がほとんどで、上司も年功序列で役が付き、ぬるま湯の職場環境で、前向きに勉強
   することも無く、部下を指導する方法も単調で、業績が落ちても他人事の社員が多く
   なるのです。

   「自分は一生懸命仕事をしているのに給料が低い」、「ボーナスは少ない、休みを増や
   してくれ」、というのが多くの中小企業が遭遇している組織の実態である。 

   貴社には今日に至るまで多くのノウハウが培われてきたはずです。

   しかしそれが「形式知化」されずに、垂れ流し状態になっている中小企業は少なく
   ありません。。

   せっかく自社にある有益情報を活用する仕組みづくりは貴社にとっての優先課題です。
    
  □中小企業のナレッジマネジメント

   1.コンパクトな組織で効果を発揮
     現時点で、ナレッジマネジメントを盛んに導入しているのは大企業ですが、逆
     に組織がコンパクトな中堅・中小企業のほうがナレッジマネジメントになじみや
     すい面もあります。

     ナレッジマネジメントでは、ナレッジマネジメントに理解を示す組織を醸成する
     こと、集められた知識の中で有効なものを形式知化し、それを共有・活用する
     ことによって企業力を高めていきます。

     それを実現するためには、社員が部課の利益にとらわれず、同じ価値観を
     持って企業力強化という目標に向かわなければなりません。

     は、ナレッジマネジメントによって企業力強化を目指す企業の組織を示した
     ものです。

     企業には経理、人事、営業、総務、開発、製造などの部門があり、ナレッジバ
     ンクに集積された知識を活用すると同時に、新たな知識も提供します。

     大企業の場合、本社以外に多くの支店があり、部課組織も複雑であるため、
     一つの目標に向かってナレッジマネジメントを実践することは大変な作業です。

     企業力強化という最終目標は認識していても、

       ・経理は、新商品の開発コストはできるだけ削減したい
       ・人事は、新商品開発にともなう人事異動などをしなければならない
       ・営業は、顧客に売り込みやすい特徴のある製品を開発してほしい
       ・総務は、各部課の意向をできるだけ統一し、書類手続きをシンプルにしたい
       ・開発は、少しでも高性能の製品を開発したい
       ・製造は、在庫を確認しながら効率よく製品を作りたい

     などのように各部の意向がぶつかり合い、その調整は難航します。

     一方、中堅・中小企業の場合は組織がコンパクトで、全社的な意思の疎通が
     図りやすいという利点があります。

     また、社員数が少なくコミュニケーションが容易なため、いつでも、対面で知識
     の有効性を確認し合うことができます。

     全体が見渡しやすい中小企業はナレッジマネジメントに適しているといえるで
     しょう。

   2.中小企業がナレッジマネジメントを導入する意義
     資金など経営資源の量で大企業に劣る中堅・中小企業は、限られた経営資源
     を最大限に活用しなければなりません。

     その経営資源の中に社員が持つ知識、すなわちナレッジがあります。

     ナレッジマネジメントを導入することで、社員が相互に協力し合い、これまで表
     に出ることのなかった新しい知識が企業の資源となって利用できます。

     「三人寄れば文殊の知恵」というわけで、経営資源の小ささをある程度カバー
     することができます。

     一方で、「中小企業にナレッジはない」という人も少なくありません。

     けれども、「今も、自社は活動を続けている」という事実を見逃してはなりません。

     社員は、毎日の積み重ねの中で数え切れないほどのノウハウを確立し、また
     自らの経験とカンにより繰り返し改善を行っています。

     大企業が持つ知識の量には及ばずとも、専門性の面では引けを取らないこと
     も多いのです。

     そして、社員一人ひとりが日常業務の中で確立してきた知識こそが中小企業
     が誇れるナレッジといえ、これに目を向けないのは非常に勿体ない話です。

     また、埋もれていて、放っておいては表に出ることのない知識という経営資源
     を発掘し、それを一つの目標を達成するための手段として共有、活用していく
     ナレッジマネジメントの導入は、「限られた経営資源の最大活用」という中小企
     業の経営手法の原点を振り返る意味でも有益といえるでしょう

 

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高齢社員のスキル移転

                     

高齢社員のスキルを移転

  ■高齢社員のスキル移転

   日本では少子高齢化が急速に進み、続々と高齢社員が定年を迎えている。

   少子高齢化は、労働力人口の減少という形で労働市場にも影響を及ぼしています。

   2006年4月から、定年の延長や継続雇用制度の導入などが法的に義務付けられて
   いるとはいえ、今では高齢社員が一度に大量に退職していっています。

   労働力人口が減少すれば、企業は従業員の生産性を高める必要に迫られます。

   また、問題となっているのが、「高齢社員の定年による大量退職」です。

   この年齢層の人々は、いわゆる団塊の世代として知られ、日本の経済成長を長らく
   支えてきました。

   少子化が進み若年労働力が減少していく中、彼らが長年磨いてきたスキルをより若い
   社員へ伝えていくことは急務といえます。

   高齢社員がもつスキルをうまく移転する方法について考えます。

  □スキル移転のパイプ役
   1.高齢社員の性質
     高度成長期のころは、特に労働力不足でしっかりした教育体制など整っていな
     い企業がほとんどでした。

     当時はいい意味でも悪い意味でも、先輩・後輩や上司・部下といった関係が
     はっきりと分かれており、スキルは「見て学びとるもの」といった風潮が強かっ
     た時代です。

     従って、この時代に育った現在の高齢社員の中には、自分の持っているスキ
     ルを教えるもしくは伝えることを不得意としているという人が珍しくありません。

     また、若手社員を教育する際は「ここまで教えているのに」といった気持ちを抱
     き、イライラすることも少なくないでしょう。

     もちろん、教育が得意で自分のスキルを落とし込むことなど造作もない、といっ
     た高齢社員もいるでしょう。

     しかし、自社が高齢社員の持つスキルをうまく移転する方法を整備するとき、
     高齢社員は教育することが不得意な場合がほとんどであるとした上で、体制
     づくりをしないと、スキルはうまく移転しないでしょう。

     この際、最も重要な役割を担うのが、スキルの移転を助けるパイプ役です。

  □パイプ役のイメージ
   パイプ役のイメージは以下の通りです。

   パイプ役は、高齢社員とスキルの移転先となる社員の間に立って、

    ・高齢社員のスキルに関する情報をヒアリングする
    ・ヒアリングした内容を整理する
    ・移転先社員に必要な部分を教育する

   といった役割を担います。

   その後は、パイプ役が整理した内容に沿って、高齢社員が移転先社員に直接教育を
   行い、スキルを移転していきます。

   こうすることで、
    ・高齢社員が、移転先社員に移転すべき内容を自覚できる
    ・移転先社員が、学ぶべき内容とその概要を知り、習得のスピードが上がる
    ・内容が整理されたことで、高齢社員も移転先社員もスキルの移転・習得を
     仕事としてより深く認識するようになり、責任感が強まる
    ・高齢社員と移転先社員の適度な距離を保つことで、両者が良好な関係を維持
     しやすくなる
    ・上司が、高齢社員とパイプ役からの情報を総合することで、スキル移転の進
     ちょくを把握しやすくなる

   などの効果が期待できます。

   実際にこうした効果が得られるかどうかは、パイプ役の力量にかかっています。

   そのため、パイプ役の人選は極めて重要です。

   パイプ役は、高齢社員と良好な関係を築いてより多くの情報を引き出せるか、得
   た情報をうまく整理できるかがポイントになります。

   従って、一般に以下のような社員がパイプ役としては望ましいでしょう。

    ・高齢社員と同じ立場か上の立場、もしくは高齢社員が認めている社員
    ・コミュニケーション能力が高い社員
    ・仕事を分類し、整理する能力が高い社員

   高齢社員より下の立場の社員をパイプ役にすると、高齢社員に軽くみられたり、
   パイプ役が遠慮がちになり、欲しい情報を得にくくなる可能性があるため、直属の
   上司がパイプ役になるのもよいでしょう。

  □パイプ役の仕事
   1.ヒアリングのアウトプットイメージ
     パイプ役は、ヒアリングによって、高齢社員が持つスキルに関する情報を引き
     出し、それを整理します。

     整理は、
      ・高齢社員の仕事を分類して体系化する
      ・体系化した仕事の項目ごとに注意している点や重要な事例をまとめる

     といった形式で行います。 

   2.スキル情報のヒアリング
     パイプ役は、ただ漫然とヒアリングを行っているだけでは、「必要なことをなか
     なか聞き出せない」「得た情報を整理できない」といった事態に陥ります。

     ヒアリングは、以下の点に注意して実施します。

     (1)高齢社員への意識付け
       まずヒアリングに入る前に、高齢社員へ

         スキルの移転=優先順位の高い仕事

       という意識付けを与えましょう。

       高齢社員はいくら定年が近づいているといっても、ほとんどの場合、自分の
       仕事を持っています。

       さらに高齢社員が、前述のような「スキルは見て学びとるもの」という意識を
       持っていれば、スキルの移転は後回しにされがちです。

       まず、スキルの移転を優先順位の高い仕事として意識付け、きちんと時間
       を作ってヒアリングを行います。

       また、パイプ役が意識付けをしたことで、高齢社員とパイプ役の関係が悪
       化することを避けるためにも、意識付けはパイプ役を選定した上司が行い
       ましょう。

     (2)パイプ役がヒアリングに臨む姿勢
       パイプ役は、とにかく高齢社員に自由に気軽に話してもらうことを心がけま
       しょう。

       雑談なども交え、堅苦しい雰囲気を取り除くことです。

       また、パイプ役は、否定的な意見を口にしないようにしましょう。

       目的はあくまで情報収集です。

       長時間にわたって話が脱線する場合は仕方ありませんが、基本的に話の
       腰は折らず、できるだけ多くの話を聞いて、パイプ役がそれを取捨選択して
       まとめる姿勢で臨みましょう。

       また、パイプ役は高齢社員に対して、常に敬意を払うようにします。

       立場はパイプ役のほうが上かもしれませんが、気持ちよく話してもらうこと
       が大切です。

     (3)ヒアリングの進め方
       まず、高齢社員の仕事の内容をヒアリングします。

       パイプ役は、ヒアリングの前に、高齢社員が業務フローやマニュアルなどを
       持っているかどうかを確認し、あれば事前に目を通しておきます。

       ただ、それらの資料を基に話を進めるのではなく、仕事の内容を整理する
       ための予備知識と考えましょう。

       実際は、パイプ役が高齢社員に1日・1週・1カ月・1年などの期間を区切っ
       て、その間に行っている仕事の内容を聞きます。

       最初から漠然と「どんな仕事をしていますか」と聞くより、高齢社員が自分
       の仕事をイメージしやすくなります。

       パイプ役は、高齢社員から聞いた情報をホワイトボードに書くなどして、本
       人に確認しながら進めることです。

       業務資料がある場合は、聞いた情報と資料の各項目を対比させて確認し
       ていくのもよいでしょう。

       ここで注意したいのは、

        高齢社員の仕事の内容の整理は、あくまでパイプ役が行う

       ということです。

       高齢社員が整理することに集中すると、逆に考えが狭まってしまい、発言
       が滞ってしまいがちです。

       ヒアリングの後、パイプ役は、得た情報を整理して業務体系表にまとめま
       しょう。

       一度にまとめる必要はなく、適宜高齢社員に確認してもらい、何度かヒアリ
       ングを重ねて仕事の内容が網羅できた段階で確定します。

       また、パイプ役は高齢社員が長期間携わっていた仕事、自信があった仕事
       などを中心に、過去の仕事についても内容をヒアリングしてみます。

       高齢社員の過去の仕事の中で、パイプ役がスキルポイント表を作成する価
       値があると判断した場合は、業務体系表を作成します。

       なお、この段階では、関連資料欄は空欄で構いません。

       業務体系表が完成したら、次はスキルポイント表です。

       業務概要は、これまでのヒアリングの内容からパイプ役が作成して、高齢
       社員に確認を取ります。

       スキルポイント表のポイント欄に書く内容は、業務体系表の詳細項目ごと
       に、高齢社員に以下の点を確認して決めます。
        ・失敗したこと
        ・注意していたこと
        ・苦労したこと
        ・うまくいったこと
        ・やってみたかったこと

       重要なのは、高齢社員に話してもらうことです。

       ポイント欄に記載するかどうかは、後にパイプ役が決めればよいことです。

       「複数の業務項目にまたがる」「この業務項目に当てはまるかどうか分から
       ない」と高齢社員が思っている内容も、とにかく話してもらいましょう。

       高齢社員が話しにくいようなら、より大きな業務項目ごとにヒアリングし、後
       に、パイプ役がポイント欄に書くべき内容を選択して、詳細項目ごとに当て
       はめていくのもよいでしょう。 

       また、高齢社員が自身の管理用に作成しているメモや資料など、関連資料
       があればどんどん提出してもらい、必要に応じて業務体系表の関連資料欄
       に記載しましょう。

   3.スキル情報の移転
     業務体系表とスキルポイント表が完成したら、この2つの表を基にして、移転
     先社員を教育していきます。

     教育の主眼は、
      ・高齢社員が行っている仕事の流れと概要を理解させる
      ・高齢社員が多くのスキルを保持していることを理解させる

     ことにあります。

     高齢社員も同席し、業務体系表とスキルポイント表の業務概要の部分を中心
     に、移転先社員に説明しましょう。

     そして、移転先社員が高齢社員と実際に仕事をしながら教育を受けるに当
     たって、常に業務体系表に立ち戻り、いま習っている内容の位置を確認するよ
     う指導します。

     そうすれば、移転先社員の頭の中が整理されて、体系的に効率よくスキルを
     身に付けていくことができるでしょう。

     スキルポイント表のポイントについては、特に移転先社員が感銘を受けそうな
     ものをいくつかピックアップして紹介します。

     そうすることで、移転先社員が、
      ・スキルを身に付けようとする意欲を高める
      ・高齢社員を尊敬する

     ようになることを狙います。

     そして、スキルポイント表に記したポイントや事例は一部であり、今後、高齢社
     員から教わることをどんどん付け加えていくように、移転先社員に伝えましょう。

     これから高齢社員と移転先社員が直接教育に入るに当たって、いつでも気軽
     に相談を受ける旨と「ぜひ頑張ってください」という言葉を添えて、パイプ役の
     仕事はいったん終了です。

     その後は、適宜両者に話しかけて、両者の関係が悪化していないかを確認す
     るとともに、力になれそうなことがあれば手助けするようにします。

  □まとめ
   紹介した手順は、パイプ役の性質や能力によって成果が大きく左右されます。

   パイプ役を選ぶ立場にある上司は、よく資質を見極めて選択しましょう。

   適当な社員がいない場合は、上司自身がパイプ役になることも検討します。

   パイプ役の仕事は、高齢社員の業務経験やスキルによって異なりますが、かなりの
   量になります。

   従って、パイプ役が仕事の内容をヒアリングし、整理するだけでも相当の時間を要す
   るでしょう。

   しかし、高齢社員が退職してしまえば、その長年培ってきたスキルは完全に失われて
   しまいます。

   スキル移転は大変ですが、いま時間をかけることでそのスキルが社内にとどまり、
   新たに活用される可能性が残ります。 

   ただし漫然と行うのではなく、明確な期限を設けましょう。

   これは、パイプ役の仕事だけではなく、高齢社員による移転先社員の直接教育につい
   ても同様です。

   今回紹介したように文字でまとめることができても、特に製造部門の技術やベテラン
   営業マンが自分の経験のなかで独自に身につけてきた感覚など暗黙知と呼ばれる
   「身体で覚える」スキルは、習得するまでにかなりの時間を要します。

   業務体系表を基に、スキル移転に必要な期間を推測するとともに、できるだけ早く
   着手することが肝要です。