政府労災保険加入と周辺知識

            

              政府労災加入と周辺知識


  中小企業が労務管理を推進する際に車の両輪となるのが「規程類の整備」と「適切な運
  用」ですが、労務管理を行っていても発生してしまうのが労働災害です。

  労働災害はちょっとした気の緩みなどから発生するもので、完全になくすこと
  は不可能です。

  そこで、万一の備えとして労災保険などの法定の労働保険などに加入することが
  重要です。

  最近は、過労死やパワーハラスメントに関する事案が労働災害として認定されるなど、
  労災保険がカバーする範囲は広がってきており、万一の際は従業員やその家族に
  とって重要な補償となります。

  また、製造業など労働災害の発生率が高い業種の場合は、民間保険会社のいわゆる「法
  定外補償」を活用し、手厚い補償ができるようにするとよいでしょう。

  こうした企業の姿勢は、従業員の企業に対する信頼につながると考えられます。


  ■労災保険

   労災保険制度の内容は、意外と知られていません。

   労災かどうかを認定するのは、国であり
   労働基準監督署であって、会社が認定
   するかどうかではありません。

   政府労災保険は労働者保護のために、
   国が直接、被災労働者やその遺族に対
   して災害補償を行う制度です。

   また、労災保険は労働者のためだけの
   制度ではなく、事業主のための制度でも
   あります。

   事業主には、労働者の業務上のけがや
   病気に対して、一定の補償義務が課され
   ています。

   けがや病気に対する治療費、休業中の所得補償など、その補償内容は労働基準法に定
   められており、これを守らなければ罰則の適用対象となる。

   政府労災保険がこうした補償を肩代わりするしくみとなっているのです。

   もちろん、労災保険はすべての損害をカバーする「万能な保険」ではありませんが、
   小さな負担で大きな補償を得られる制度と言えます。

   政府労災でカバーできない部分を補うのが民間保険会社の任意労災(労災上乗せ)
   保険です。

   労災保険の保険事故には、「業務災害」と「通勤災害」があります。

   なお、私傷病で労務不能となり、給与の支給がなくなってしまった場合には、
   傷病手当金という給付があります。(下記参照)

 □業務災害の認定が下りる場合

   業務災害とは、業務上の負傷、疾病、障害、死亡をいいます。業務災害の認定は、
   「業務起因」と「業務遂行」という2つの要素から判断されます。

    ○業務遂行:労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にあること

    ○業務起因:傷病等とその業務との間に因果関係があること

   業務上の負傷については、次の3つに分けることができます。

   1.事業主の支配・管理下で仕事をしている場合

      所定労働時間内や残業時間中に社内で働いている場合には、特別な事情がない
    限り、業務災害と認められない。

      なお、次の場合には、業務災害とは認められない。

       □労働者が故意に負傷した場合

       □労働者が個人的なけんかなどにより暴行を受けて負傷をした場合

   2.事業主の支配・管理下にあるが仕事をしていない場合

      昼休みや就業時間前後などに会社施設内にはいるが、働いていない場合に負傷
    した時、基本的には、業務災害とは認められないが、施設や設備の欠陥などによ
    り負傷をした場合には、業務災害と認められる。

   3.事業主の支配下にあるが、管理下を離れて仕事をしている場合

      出張や社用での外出など、会社の施設外で仕事をしている場合には、特別な事情
    がない限り、業務災害と認められる。

      ただし、酒に酔って交通事故に遭ったなど積極的な私的行為や恣意的行為があっ
    た場合には、認められない。

  通勤」の適用条件  

   通勤災害とは、通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡をいいます。

     帰りに食事をしたり、一杯飲んだりその行動パターンはさまざまです。

   しかし、こうした私的行為によって発生した災害すべてに、労災保険を適用させる
   わけにはいきません。

   そこで労災保険では、適用対象とする「通勤」の範囲を定めています。

      1) 通勤

     「通勤」とは、社員が仕事をするために

      〇自宅と仕事をする場所(会社、訪問先、現場など)の往復

      〇合理的な経路、方法(一般的に使われる経路、方法)で移動することをいい
       ます。

            ・住居と就業の場所との間の往復

            ・就業の場所から他の就業の場所への移動

            ・単身赴任先住居と帰省先住居の移動など

          なお、業務の性質を有する場合には、一見、通勤のような場合でも、業務災害
       となります。

          例えば、休暇中に緊急呼び出しを受け、会社へ行く途中にけがをした場合
       などは、業務災害扱いとなります。

    2) 逸脱・中断

        労働者が、上述の移動経路を逸脱し、または中断した場合には、逸脱・中断の
        間とその後の移動は「通勤」とはならない。

        帰宅途中に「飲み屋で一杯」となった場合は、通常の通勤経路を外れた時点で
        「通勤」とはならなくなる。

      【通勤災害になるか、ならないかの微妙な場合】

        ・社員が自宅の玄関先の石段を上がるときに、石段が凍っていたため、足を
         すべらせて転倒し、負傷した場合は、自宅敷地内のため通勤災害にならない。

        ・アパートの共用階段でつまずき、転落して負傷した場合、アパートの部屋
         から外に出たら、通勤経路になるため通勤災害になる。

        ・仕事終了後、会社の労働組合の会合に出席し、会合後の帰宅途中でケガを
         した場合は通勤災害となる。(組合活動は仕事と関係している)

        ・仕事の終了後、社内サークル活動をした後、帰宅途中で暴漢に襲われて死
         亡したなどの場合は通勤災害とならない。

          * 組合やサークル活動として残っていた時間が長時間(2時間が目安)
              にならなければ、通勤災害の適用対象になる。

        ただし、労働者が通常、通勤途中で行うような「ちょっとした行為」は、逸脱・
        中断とはならない。

      【ちょっとした行為の具体例】

    ・経路上の近くにある公衆トイレの使用

    ・経路の近にある公園での短休息

    ・経路上の店でのたばこ・雑誌等の購

    ・駅構内での飲料水の立ち飲み


       また、「日常生活上必要な一定の行為」
    については、逸脱・中断の間は通勤とは
       なりませんが、その後の移動は通勤として取り扱われる。

      【日常生活上必要な一定の行為】

    ・日用品の購入その他これに準ずる行為

    ・職業能力開発促進法に規定する公共職業能力開発施設において行わ
     れる職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含
     む)

    ・学校教育法に規定する学校において行われる教育その他これらに準ず
     る教育訓練であって、職業能力の開発向上に資するものを受ける行為

    ・選挙権の行使その他それに準ずる行為

    ・病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ず
     る行為

    ・要介護状態にある配偶者、子、父母並びに同居し、かつ、扶養している
     孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるもの
     に限る)


   3) 合理的な経路および方法

       通勤の定義にある「合理的な経路および方法」とは、移動を行う場合に、一般的
       に労働者が用いると認められる経路と方法をいう。

       通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしても「合理的な経路」
       となる。

    また、道路工事などにより、やむを得ず迂回する場合にも、「合理的な経路」と
    認められる。

      鉄道やバスなどの公共交通機関を利用する場合、自動車、自転車、徒歩など、
    一般的に用いられる交通方法であれば、いつも利用しているかどうかにかか
    わらず「合理的な方法」となる。


  □特別加入制度(一人親方)
   労災保険の適用を受けるのは、「適用事業所」に使用される労働者です。

   適用事業所とは、労働者を一人でも使用する事業所 のことです。

   原則として、労働者ではない事業主や一人親方などは労災保険に加入する
   ことはできません。

   一人親方とは、労働者を使用せずに一人で働く状態にある職人などを指します。

   中小企業の事業主や一人親方は、一般の労働者と同じように現場に出て働くため、
   業務災害など危険性が高いのが現状です。

   そこで、労災保険には特別加入制度が儲けられており、中小企業の事業主や一人
   親方も労災保険に加入できるようになっています。

   特別加入は3種に分かれています。

    1.第1種:中小事業主とその家族従事者が対象

    2.第2種:一人親方と特定作業従事者が対象

    3.第3種:海外派遣者が対象
   
  ■傷病手当金

   従業員の方が私傷病で労務不能となり、給与の支給がなくなってしまった場合、傷病
   手当金という給付があります。

   傷病手当金は、一定の条件を満たした場合に会社でご加入の全国健康保険協会(協
   会けんぽ)や、健康保険組合等から給付されるものですが、今回は協会けんぽで手
   続きをする際の内容でご案内します。

   1)傷病手当金とは
     傷病手当金は、健康保険に入っている従業員の方の病気休業中の生活保
     障を目的として設けられた制度で、病気やけがのために会社を休み、会社か
     ら十分な貸金が受けられない場合に支給されます。

     なお、任意継続被保険者の方は、原則として傷病手当金は支給されません。
     (任意継続被保険者:退職しても元の勤務先の健康保険に、最長で2年間そ
     のまま加入できる制度)

   2)労災が適用される場合
     業務または通勤を原因とする病気やけがについては、労災保険が適用され
     ます。

   3)傷病手当金の支給条件
     1.業務及び通勤途上以外の病気やけがのため労務不能であり、療養のた
       めに休んでいること

     2.連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと

     3.報酬の全部または、一部が支払われていないこと(※)
       (※)一部支払いがある場合は、傷病手当金より少ないときは、その差額を支給

   4)支給される金額

     支給される金額 = 病気やけがで休んだ期間、一日につき、
     標準報酬日額の3分の2に相当する金額

     計算例 …(条件)標準報酬月額18万円、支給日数10日間の場合

      ・標準報酬日額 =18万円 ÷ 30日 = 6千円

      ・支給日額= 6千円 × 2/3 = 4千円

      ・支給額= 4千円 ×10日間= 4万円

   5)支給期間 
     3日間の待期(※)を除き、4日目から支給されます。
     その支給期間は、支給を開始した日から数えて1年6か月(18ヶ月)です。
       (※)病気やけがで休んだ期間のうち、最初の連続した3日間

   6)その他
     協会けんぽに申請するには、医師の証明が必要になります。

     また、上記以外にも細かい条件等があるので、手続きをする際には、支給要
     件、添付書類等をご確認ください。


    一人親方についての詳細はこちら


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過労死等の労災補償と認定基準

          

過労死等の労災補償と認定基準

  厚生労働省では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強い 
  ストレスなどが原因で発病した精神障害の状況について、労災請求件数や、業務
  上疾病と認定し労災保険給付を決定した支給決定件数などを年1 回、取りまとめ
  ています。

  今回は平成28 年6 月に取りまとめられた、「平成27 年度過労死等の労災補償状 
  況(脳・心臓疾患に関する労災補償状況を抜粋)」と、別に厚生労働省が定めてい
  る「脳・心臓疾患の労災認定の基準」についてご紹介します。

  今回の厚生労働省の報告によると、労災補償の請求件数は795 件で、そのうち、
  労災補償の支給決定件数は251 件(内、死亡件数96 件)となっています。

  請求件数については、前年度と比して増加傾向、支給決定件数は減少傾向にあり
  ます。

  ここ5 年間の動向において、総数としては減少傾向にあります。

  年齢別に見てみると、労災補償の支給決定件数は「50〜59 歳」が91 件、「40〜
  49 歳」が80件、「60 歳以上」が38 件の順であり、40 歳〜59 歳のミドルエイジ
  層の労働者の支給決定件数が特に多い結果となりました。

  また、時間外労働時間数別でも、以下のとおり支給決定件数の内訳が発表されて
  います。

   脳・心臓疾患の時間外労働時間数(1 ヵ月平均)別支給決定件数

    ※その他の件数は、認定要件のうち、「異常な出来事への遭遇」または「短期間
      の過重業務」により支給決定された事案の件数。

  このように、労働者に発症した脳・心臓疾患を、日常生活による諸要因や遺伝等要
  因と判別し、労働が主要因であるとして労災認定するための対象となる疾病や基
  準が、厚生労働省より以下のとおり示されています。

   1.対象となる疾病  2.認定要件

  なお、上記に掲げる認定要件のうち、特に業務と疾病の発症との関連性が強いと 
  評価される長時間労働は下記の時間外労働が目安とされています。

  脳・心臓疾患の労災補償の支給決定件数や認定基準をご紹介しましたが、共に長
  時間労働を問題の一要素として捉えています。

  2016年4 月から厚生労働省では、全国の労働基準監督署による重点監督の対
  象を「月80 時間超の残業が疑われるすべての事業場」に拡大するなど、過重労働
  の防止に向けた法規制の執行強化を図っています。

  そのような流れからも、企業は使用者賠償責任のリスクを考慮しつつ、社会的な要
  請といった点も認識しながら、労働時間削減に対する取り組みを考えていく必要が
  あるといえます。