雇用調整の進め方

                    

雇用調整の進め方

  ■雇用調整の進め方

   業績悪化などに伴い「雇用調整」を進めざるを得ない企業が増えています。

   しかし、一言で「雇用調整」といっても、採用計画の見直しから整理解雇までその
   態様はさまざまで、従業員やその生活に大きく影響するものもあれば影響の少な
   いものもあります。

   たとえば、残業規制や休日・休暇の増加、中途採用やパートの採用中止などは、
   従業員の立場からすると現在の雇用条件には変化がありませんので、「それほど
   深刻ではない雇用調整」といえます。

   これに対し、希望退職募集、転籍、退職勧奨、整理解雇などは、従業員を企業の
   外に放出する「深刻な雇用調整」です。

   また、配置転換や一時休業は、従業員としての雇用関係は確保されるものの、仕
   事の内容や量が変化したり、貸金が低下したりする「中間的な雇用調整」であると
   考えられます。

    雇用調整は、従業員に対し「影響の小さいもの」からスタートし、
    徐々に「中間的なもの」へと移行し、
    それでも効果がみとめられない場合には「影響の大きいもの」へ、

   というステップを踏む配慮が必要です。

   雇用調整は、どのような方法で行うにしても、人事権や解雇権の濫用、それに対
   する従業員の反発などによってトラブルが発生することが考えられます。

   こうしたことを避けるためにも、きちんとした手順を踏み、慎重に進めていくことが
   不可欠です。

  □雇用調整の流れと方法

   それでは、雇用調整の方法をその流れに合わせて説明していきましょう。

   1.採用内定の取り消し

    採用内定の取り消しは、厳密には雇用調整の手段には含まれません。

    しかし、対象者はもとより、その家族などに対して計り知れない打撃と失望を与
    えるという点においては同様の配慮が必要です。

    内定後の経営の悪化など、やむを得ない場合の内定取り消しは、社会通念上
    認められていますが、やはり慎重に行うべきものです。

    厚生労働省の「新規学校卒業者の採用に関する指針」の「事業主が考慮すべき
    事項」では、「事業主は、やむを得ない事情により、どうしても採用内定取り消し
    または入職時期繰り下げを検討しなければならない場合には、あらかじめ公共
    職業安定所に通知するとともに、公共職業安定所の指導を尊重するものとする。

    (中略)なお、事業主は、採用内定取り消しの対象となった学生・生徒の就職先
    の確保について最大限の努力を行うとともに、採用内定取り消しまたは入職時
    期繰り下げを受けた学生・生徒からの補償などの要求には誠意をもって対応す
    るものとする」と述べられています。

   2.残業規制

    雇用調整の初期の手段として、もっとも広くとられているのが残業規制です。

    日本企業では、「生活残業」という言葉さえあるように、業務の繁閑に関わらず
    従業員が自らの判断で残業を行い、残業手当を得ようとする傾向がありました。

    しかし、残業は業務命令により行うのが本来あるべき姿です。

    従業員にしてみれば、残業手当がなくなることにより月収は減ることになります
    が、厚生労働省は従業員の健康上の配慮にもつながる好ましい手段とみています。

   3.中途採用の削減・停止

    中途採用は、即戦力となる本当に必要な人材を十分に絞り込んだうえで行われ
    ていますが、近年では、雇用調整の一環として中途採用の削減や停止に踏み
    切るケースも多くみられます。

   4.休日の振替、休日、休暇の増加

    休日を振り替えたり夏期休暇などの休日・休暇を増やしたりする措置は、厚生
    労働省が推進する労働時間短縮や労働条件改善の効果を期待することもでき
    るため、一石二鳥の手段といえます。

    しかし、この措置を実施する際には、時短推進や労働条件の整備を目的とした
    継続的なものであるのか、不況対策の臨時的措置であるのかを明確にし、周知
    徹底しておくことが望ましいでしょう。

   5.臨時従業員やパート・アルバイトなど短時間労働者の雇用停止

    臨時従業員やパート・アルバイトなど短時間労働者の雇用の際には雇用期間を
    定めるのが通例であるため、その期間満アとともに雇用関係を停止することに
    問題はありません。

    ただし、労働契約期間を反復更新して雇用してきた臨時従業員やパート・アル
    バイトの雇用を停止(雇い止めの意思表示)する場合、それまで何度も更新を重
    ね、実質的には期間の定めのない契約と異ならない状態であったわけですか
    ら、従業員側の強い反発が予想されます。

    地位保全の申し立てにより裁判となった例もあるため、慎重に行いましょう。

    <ワンポイント知識>

     厚生労働省による「有期労働契約の締結、更新及び雇い止めに関する基準」
     において次の点があげられています。

     ◆雇い止めの予告

       契約締結時に、その契約を更新することを示していた労働契約(1年以上
       継続して雇用している場合に限る)を更新しない場合には、少なくとも契約
       の期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければなりません。

     ◆雇い止めの理由の明示

       雇い止めの予告後に従業員が雇い止めの理由について証明書を請求した
       場合は、遅滞なくこれを交付しなければなりません(雇い止めの後に請求さ
       れた場合も同じです)。

   6.一時帰休

    一時帰休は従業員を一定期間自宅で待機させる制度で、会社の一部門につい
    て実施しているところも多いようです。

    このような休業は、労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由による
    休業」に該当するため、当然平均貸金の100分の60以上の休業手当を支払わ
    なくてはなりません。

    また、従業員としての身分が保証されているため、退職勧奨などに比べて従業
    員の協力を得やすいといえます。

    <ワンポイント知識>

     経済上の理由で、直近3カ月間の生産量または売上高が5%以上減少するな
     ど事業活動の縮小を余儀なくされ、休業や出向を行った場合に、休業手当、
     貸金等の一部が支給される「雇用調整助成金」、「中小企業緊急雇用安定助
     成金」があります。(問い合わせ先:事業所管轄のハローワーク)
 
   7.配置転換・転勤

    業績の悪い部門の従業員を配置転換し、営業利益の増加を追求するという手
    段は多くの企業でとられています。

    配置転換・転勤は、同一企業内において職種、職務内容、勤務場所のいずれか
    またはすべてを長期にわたって変更するものです。

    いずれも労働契約の変更となるため、トラブルに発展しないよう注意が必要です。

    なかでも転勤は、転居を伴う場合、従業員およびその家族などの生活にも大き
    な影響を及ぼすものです。

    「不当な動機・目的による」あるいは「従業員に著しく不利益をもたらす」転勤命
    令は権利の濫用とみなされます。

    また、育児・介護休業法では、事業主に対して、転勤など就業の場所の変更を
    伴う配置をしようとする場合、育児や介護の状況に配慮しなければならない旨を
    定めています。

    したがって、人選には細心の注意をはらう必要があります。

    新しい配置先で即戦力となってこそ、雇用調整における配置転換が意味あるも
    のになります。

    そこで、仕事内容が変わる場合は十分に教育訓練を行うなど配慮が必要です。

   8.出向

    就業規則において「業務上の理由により従業員に対し出向を命じることがある」
    と規定してあれば、企業側は労働契約の範囲内にあるものとして、従業員に出
    向を命じることができます。

    最近の不況下では親会社が生産部門を縮小し、余剰人員を製品の販売会社や
    系列会社へ出向させる例が多いようです。

    出向命令という権利の行使は信義誠実の原則に従ってなされるべきであり、出
    向理由が著しく不合理で社会通念上是認できないとされる場合、その命令は信
    義則違反ないしは権利の濫用とみなされ、無効となります。

    <ワンポイント知識>

     平成20年3月1日から施行された労働契約法では、権利の濫用と認められる
     出向命令は無効であると明記しています。

     出向を命じるにあたっては、出向先の企業の範囲、出向期間や貸金、退職金
     など出向期間中の労働条件に関して、労働者の不利益にならないよう十分に
     配慮することが重要です。
 
   9.転籍

    転籍は出向に類するものではありますが、転籍元会社を退職し、転籍先会社と
    の間に新たに労働契約を締結するものであるため、たとえ、就業規則に明記さ
    れていたとしても、これについては企業側も本人の承諾なくして一方的に命じる
    ことはできません。

   10.勧奨退職・希望退職の募集

     希望退職への応募は完全に本人の自由な判断に任されるものです。

     これに対し勧奨退職は企業側が対象者を特定して行うもので、希望退職の募
     集よりも従業員に与える影響は大きいといえます。

     なお、事業規模の縮小、事業活動の縮小、事業の転換、事業の廃止などに伴
     い、1カ月に30人以上の離職者が出る場合には、企業は最初の離職者が出
     る1カ月前までに再就職援助計画(※)書を作成し、所轄の公共職業安定所長
     の認定を受けなければなりません(雇用対策法第24条)。

     ※再就職援助計画とは、「事業所の現状」「再就職援助計画作成に至る経緯」
      「計画対象労働者の氏名、生年月日、年齢、雇用保険被保険者番号、離職 
      予定日及び再就職援助希望の有無」「再就職 援助のための措置」「労働組
      合等の意見」等を記載した計画です。

   11.整理解雇

     整理解雇は雇用調整の最後の手段であり、勤続年数の少ない者、勤務成績
     の良くない者などを整理基準に基づいて解雇します。

     解雇を行う場合には、解雇しようとする従業員に対して、

      ・少なくとも30日前に解雇の予告(予告日数は、平均賃金を支払うことで短
       縮可能)

      ・予告を行わない場合には平均賃金の30日分以上の解雇予告手当の支払い

     をしなければなりません。

     また、雇用対策法の定めにより、事業規模の縮小などにより労働者を1カ月
     30人以上解雇する場合には、所轄の公共職業安定所に大量解雇変動届を
     提出しなければなりません(年齢要件なし)。

     さらに、高年齢者雇用安定法では、45歳以上65歳未満の者を1カ月に5人以
     上解雇する場合には、多数離職届を提出しなければならないとされています。
     (再就職援助計画の認定の申請をした場合は、大量雇用変動届を提出したも
      のとみなされます。)

     解雇が有効に成立するためには、

      ・整理解雇の経営上の必要性が認められる 

      ・解雇を回避するための努力が尽くされた

      ・労働組合、従業員に対して事情を説明し協議を尽くした

      ・解雇対象者の選定基準および選定が合理的である

      ・解雇の手続きが公正に行われた

     といったことが必要です。

  □実施上の留意点

   計画性のない雇用調整は従業員の反感を買いかねません。

   雇用調整をスムーズに進めるためには以下のポイントに留意し、従業員が雇用
   調整を受け入れやすいムードを社内に浸透させることが重要です。

   1.経営情報の提供

    雇用調整を進めるにあたっては、経営幹部のみならず・一般従業員や労働組合
    にも経営の現状を認識させておくことが必要です。

    したがって、

     1)自社の置かれている経営環境

     2)自社製品の売り上げの実態と今後の見通し

     3)人件費を中心とするコスト構造

    などに関する正確な情報を、従業員や労働組合に対してわかりやすく提供し理
    解を得ることが重要です。

   2.経費削減運動の展開

    経営に関する情報を従業員や労働組合に提供することは危機意識を高めるう
    えで必要ですが、それだけではなく厳しい状況を「肌で知ってもらう」ことが肝心です。

    そのためには、たとえば、

     1)休憩時間などはパソコンなどの電源を必ず切る

     2)社内資料のコピーは裏紙を利用する

     3)備品、文房具などは再利用する

     4)出張時の新幹線のグリーン席の利用をやめる

    などの経費削減運動を展開することが考えられます。

    経費削減運動は自分に直接関係している業務に対する運動であるため、この
    運動が全社的に展開されるにつれ、はじめは強く反対していた従業員も「雇用
    調整は仕方がない」と考えるようになり、社内に雇用調整が受け入れられやす
    いムードが広がります。

   3.労働組合との取り決めは守る

    雇用調整の実施について労働組合と、

     1)雇用調整の内容について事前通知

     2)雇用調整の必要性や内容についての協議と合意

    などの取り決めをしている場合は、その取り決めを守らなければなりません。

   4.人選は公平に

    雇用調整において、「現在の生産状況から考えて、生産部門の従業員を5人ほ
    ど営業に回したほうがよい」などの抽象的なレベルから、「AさんとBさんを配置
    転換する」というような具体的なレベルに入ってくると、人選にあたる管理者や経
    営幹部の個人的な感情や利害が入り込む可能性が高くなります。

    つまり、経営者もしくは担当者が、自分や会社にとって都合が悪いと考える従業
    員だけを雇用調整の対象としたいという思惑が働くことがあるのです。

    その結果、

     1)組合活動に熱心な従業員

     2)日頃から会社や管理職に対して批判的な言動の目立つ従業員

     3)人づきあいの悪い従業員

    といった人材だけを雇用調整の対象とする一方的な人選が行われることにもな
    りかねません。

    しかし、こうした人選は人事権の濫用あるいは不当労働行為として問題となり、
    時には訴訟にまで発展することがありますので注意が必要です。

   5.経営責任を明らかにする

    従業員は、経営者が雇用調整の責任をどのように取るかについて大きな関心を
    もっています。

    経営者が役員報酬のカットやその他の形で雇用調整の責任を明確にすれば、
    従業員も雇用調整に協力的態度を示すようになります。

    弱いものから切っていくような態度では従業員の理解を得ることはできません。

    さらには雇用調整の影響を受けない従業員にも悪影響を及ぼすことになりかね
    ません。

   6.人事・労務制度の改正に伴う就業規則の変更

    労働時間の短縮や定年の延長に伴い就業規則を変更する企業も増えています。

    雇用調整を進めるうえでのトラブルを回避するためには人事・労務制度を徹底
    して見直し、そのうえで就業規則や規定などを変更することが必要です。

    これは、企業に有利なように書きかえるというのではなく、厳しい経営環境にお
    いて企業と従業員双方の不利益をできるかぎり排除するためのものでなくては
    なりません。

    なお、就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、次のことに留意
    が必要です。

     1)変更が、以下の事情などに照らして合理的であること

      ・労働者の受ける不利益の程度

      ・労働条件の変更の必要性

      ・変更後の就業規則の内容の相当性

      ・労働組合等との交渉の状況

     2)労働者に変更後の就業規則を周知させること

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