緊急時に求められる社長の役割

             

緊急時に求められる社長の役割

  ■事態発生直後に行うべきこと

   企業経営にはさまざまな困難がつきものですが、ときには会社の存続が危ぶま
   れるような緊急事態が発生することがあります。

   特に自然災害などは、何の前触れもなく突然襲ってきます。

   そして、危機的な状況のなかで、どのような対応を取るかによって、社長はその真
   価を問われることになります。

   ここでは、緊急事態のなかで社長が果たすべき役割について説明します。

   1.情報の収集

     大地震などの緊急事態が起こった際に、社長にまず求められるのは現状をで
     きるだけ正確に把握することです。

     特に自社の周辺が直接的な被災地になった場合などは、社員とその家族、取
     引先などの安否確認が優先されます。

     また、周辺地域全般の状況、自社設備の破損状況、自社設備が原因で起こる
     二次災害の可能性、インフラの被害状況なども把握しなければなりません。

     緊急自体発生直後の混乱のなかでは、これらの情報が十分に得られないこと
     もあります。

     特に携帯竜話などは非常につながりにくくなります。

     日頃から、緊急時の社員連絡網の整備や地方自治体などの情報鯨の確認を
     行い、緊急時に向けた訓練を行っておくことが大切です。

   2.情報の発信

     情報を収集するだけではなく社長自らが情報を発信することも大切です。

     まずは社員に対して社長自らの安否、居場所、これから自分が陣頭指揮を
     執っていくこと、指揮の方法などについて発信します。

     また、その時点ですでにわかっている情報があれば併せて伝えます。

     社員たちは緊急事態発生によって大きな不安をもっています。

     社長はこの不安を少しでも和らげるために力強いメッセージと知り得ている情
     報を伝える必要があります。

     特に重要な事項を伝える際には、誰かを介するのではなく、社長自身が自分
     の言葉で直接伝える必要があります。

     また、取引先についても自社の被害状況を伝え、相手の状況を確認します。

     今後の取引に支障が生じそうな事態が起こっているのであれば併せて相談します。

     特に遠方の取引先では事情がわからずに「あの会社はどうなっているのか、
     今後の取引は大丈夫なのか」という不安と疑念を抱いています。

     取引先に対してもできるだけ早い段階で自社の状況を伝えることが大切です。

     さらに周辺地域への二次災害などの恐れがある場合は、速やかに地域住民
     や消防などの防災機関に説明する必要があります。

     危険性を認識しておきながら、説明を怠ると、仮に二次災害が起こらなかった
     場合でも、会社の信頼を大きく損なうことになります。

   3.目前の問題への対応

     緊急事態発生直後には、社長は限られた情報のなかで、次々と起こる目前の
     問題に対応していかなければなりません。

     なかには会社の将来を左右するような重要な意思決定を迫られることもある
     でしょう。

     困難な決断が続きますが、間題を先延ばしすることはさらなる状況悪化につな
     がります。 

     このような状況のなかで正しい決定を行っていくためには、日頃から「何を優
     先するか」という判断基準をもっておくことが大切です。

     たとえば、「従業員の安全を最優先する」という基準はすべての社長に共通し
     ているはずです。

     しかし、「自社事業のなかで最優先して復旧すべき事業は何か」、「自社顧客
     のなかで最優先して対応すべき顧客は誰か」といった基準については、あいま
     いなことが多いものです。

     災害などで大幅に毀損された経営資源のなかではやれることに限りがあります。

     あらかじめ「緊急時には何をどんな順番で行うべきか」という基準をもっていれ
     ば、さまざまな問題に対して、迅速かつ正確な判断が可能になります。

   4.社長の存在感を打ち出す

     また、緊急時でも社長がその役割を十分に果たしていることを、社内外に積極
     的に示すことも必要です。

     社長が自分自身で考えて決断している姿は、従業員や取引先に大きな安心
     感を与えます。

     平常時には自分はあまり前面に出ない経営スタイルを取っている社長であっ
     ても、緊急時には自らが会社を率いている力強さを打ち出すことが大切です。

     逆に緊急対応時に社長の顔が見えない会社は、その対応の巧拙以前に、周
     囲に対して不信感や脆弱な印象を与えてしまいます。

  □復興プロセスで行うべきこと

   1.社長の役割のシフト

     緊急事態発生直後の混乱を乗り切り、さまざまな情報も集まってきたら、社長
     はその役割を「目前の問題への対応」から「会社全体の復興」へと切り替えて
     いきます。

     そのためには社長がそのような業務にシフトできるように環境を整える必要が
     あります。

     具体的には日々発生するさまざまな問題に対して、社長が判断すべき事項と
     それぞれの責任者に任せてもよい事項に切り分けます。

     通常であれば、営業部門、製造部門などの責任者に緊急事態発生前の権限
     と責任を戻すことになります。

     ただし、部門横断的な問題が起こっている場合は、新たにプロジェクトを組成
     し、役員クラスの幹部をリーダーに任命することも必要です。

     社長はこれらのリーダーから密接に報告を受けて、会社の全体像を総合的に
     判断できる状況を整えます。

   2.ビジョンの策定と提示

     目前の重要な問題が沈静化し、問題対応をある程度部下たちに任せられるよ
     うになったら、社長は直ちにビジョン策定に取りかかる必要があります。

     社長自身が今後の自社のあり方を整理するとともに、社員の不安感を払拭す
     るためにも、できるだけ早期にビジョン策定に着手することが大切です。

     ビジョン策定はできるだけ緻密に行う必要がありますが、最初は多少粗いもの
     であっても仕方ありません。

     完成度はともかく、「早期に」何らかのビジョンを示すこと自体に大きな意味が
     あるのです。

     すでに策定済みであれば、再度ビジョンの見直しをすることもいいでしょう。

     早期にビジョンを示して、その後のさまざまな状況変化を踏まえてビジョンをブ
     ラッシュアップしていくというスタンスが求められます。

     ビジョンには、緊急事態発生前の状態に戻すことをゴールとした「復旧ビジョ
     ン」や、復旧にはこだわらずに新たなビジネスモデルを描く「再構築ビジョン」な
     どがあります。

     「復旧型ビジョン」:すでに行ってきたビジネスモデルに戻すことが主眼であり、 
      リスクは比較的小さい

     「再構築型ビジョン」:復旧にこだわらずに新たなビジネスモデルを生み出すこ 
      とが目的。ゼロベースで考えることができる半面、リスクは大きい。

     自社のビジョンを描くうえで、重要になるのが、自社のビジネスモデルの再点
     検です。

     ビジネスモデルとは企業が新たな価値を創出するための連鎖的なプロセスと
     いうことができます。

     一般消費者向け製造業A社を例にして価値連鎖をイメージしたのが次の図です。

     緊急事態発生前にはこのような価値連鎖が上手く機能して、収益を生み出し
     ていました。

     なかでもA社にとってもっとも強みとなっているプロセスは、「C販売・マーケ
     ティング」だとします。

     しかし、A社では災害によっていくつかのプロセスで価値創出の源泉が失われ
     ました。

     その毀損度合いが比較的どれも軽微であれば、まずは「復旧型ビジョン」をつ
     くることが現実的でしょう。

     どの部分をどのような方法で回復していくかという具体的な道筋を示します。

     復旧型ビジョンでは不可能な程ダメージが大きい場合や、これを機に得意分
     野に集中する場合などは、「再構築型ビジョン」も併せて検討します。

     新しいビジネスモデルが軌道に乗るまでには、一時的に売上の大幅減少や資
     金繰りの急速な悪化も懸念されるため、資金面の確保を万全に行うことが必
     要です。

     国や地方自治体などの公的な復興資金の情報も収集し、それらを積極的に活
     用することも検討しましょう。

     上記は、自社の強みである「C販売・マーケティング」に特化し、それ以外のプ
     ロセスからは撤退するというイメージです。

     たとえば、製造業からは撤退し、「他のメーカーからの販売・マーケティングを
     代行する事業」に転身することがあげられます。

     また、自社製品のブランド力が強い場合には、自社が製造元というスタンスは
     崩さずに、C販売・マーケティング以外の一切のプロセスを外注することも考
     えられます。

     ブランド名はそのまま使用し、「ファブレス・物流レス」のメーカーとしての再生
     を図るのです。

     ここまでみてきたように復興期においては、社長自身が緊急事態発生前と発
     生後の自社のビジネスモデルの状況を的確に分析して、今後の自社のビジョ
     ンを描くことが大切です。

     社員に対してはたんに「全社一丸となって頑張ろう」と鼓舞するだけではなく、
     ビジョンに基づいて自社復興の可能性を論理的に説明することが求められます。

     また、復興のために社員にかける負担などについても、きちんと説明しましょう。

     さらに、取引先や銀行などについても説明をし、必要に応じて協力を求めます。

   3.マイルストーンの設定と提示

     復興のためのビジョン実現には長い期間がかかります。

     そこで、ビジョン実現までの大まかなマイルストーンも明らかにする必要があります。

     たとえば、次のように、ビジョン実現までのステップを3段階に分けて、それぞ
     れのステップの主要テーマとゴールイメージを設定することなどが考えられます。

     マイルストーンについてはその進捗状況を確認して、状況に応じてゴールや期
     間の修正などを行うことが必要です。

     また、社員に対しても進捗状況をきちんと伝えることで、復興に向けた勇気と
     自信を与えることができます。

  □緊急時のリーダーシップ・マネジメント

   1.リーダーシップとマネジメント

     会社におけるリーダーシップとは、目標を明確に示し、「今なすべきこと」を部
     下たちに示すことです。

     また、マネジメントとは、今なすべきことを「もっとも効率よく遂行する」ために、
     部下たちに指示を出したりさまざまな調整を行うことです。

     通常の状態であれば、社長はおもにリーダーシップに注力して、マネジメントに
     ついては経営幹部に任せておくことができます。

     社長は解決すべき問題を提示し、それを実際に解決するのは経営幹部たちと
     いう役割分担も可能です。

     しかし、緊急時には時間的余裕はありません。

     指示したことが確実にかつ効率的に遂行されるかどうかもつねに社長自身が
     確認する必要があります。

     緊急時には、社長はリーダーシップとマネジメントの両方を同時に行っていか
     なければなりません。

   2.緊急時のポイント

     緊急時のリーダーシップ・マネジメントの最大の目的は、今すぐ行うべきことを
     できるだけ迅速に部下たちに示し、確実に遂行させることです。

     平時とは違って、決断を先延ばししたり、幹部からの報告をただ待っていると
     いう余裕はありません。

   そのような状況下で適切な対応を行うためには次のような点が必要になるでしょう。

     (1)覚悟を決める

       社長は会社で起こるすべての問題に対する最終的な責任者です。

       たとえそれが災害などの不可抗力でもたらされた問題であっても同じことです。

       まずは問題収束に向けて、すべて社長自身が責任をもって取り組むという
       覚悟を決める必要があります。

       そして、自分が覚悟を決めていることを「胸に秘める」のではなく、部下たち
       にもはっきりと示すことも大切です。

     (2)合理性・冷静さを保つ

       次々と発生する問題に対しても、社長はつねに合理的でなければなりません。

       希望的観測は捨てて、最悪の事態も想定しながら、粛々と意思決定を行っ
       ていく必要があります。

       迅速かつ正確な意思決定のためには専門家の意見を参考にすることも必要です。

       可能であれば社外からも専門家を招へいします。

       社長自身には意味がわからない情報でも、専門家の見識を以ってすれば、
       解決策の大きなヒントが得られることもあります。

       また、どのような困難な状況であっても、つねに冷静さを保つことも大切です。

       周囲に苛立ちの感情をぶつけたり、気弱さから目を潤ませるといったことは
       避けなければなりません。

     (3)公を意識する

       意思決定に当たってできるだけ「公」を意識することも大切です。

       ここでいう公とは「社員」、「取引先」、「地域社会」、「社会全体」などさまざま
       なレベルがあります。

       社長はすべての意思決定を適切に行うことがベストですが、実際には判断
       を誤ることもあり得ます。

       その際にも意思決定があくまで「公」の利益を意識した結果であれば、ミス
       は仕方ないという以外にありません。

       逆にいえば、不透明な状況のなかで判断を下す最後のよりどころは、「公
       であるかどうか」ということになるでしょう。

     (4)指示の遂行状況を自ら確認する

       平時とは違い、部下に対して「報連相(報告・連絡・相談)」のまずさを指導
       している余裕はありません。

       自分が指示した事項については、「部下が確実に遂行したか」、「遂行した
       結果、状況がどうなったのか」について、社長自ら動いて確認する必要が
       あります。

       自分が指示したすべての事項について、指示リストを作って進捗状況を確
       認することも大切です。

     (5)人心を掌握する

       緊急時には社員たちは動揺しています。

       社長が日頃から信頼している経営幹部たちもそれは同じです。

       社長は自らの言動で、社員たちを勇気づけ、モチべ−ションを維持すること
       が必要です。

       危機を乗り切るためには社長自らが動くだけではなく、会社全体の機動
       力、組織力が不可欠です。

       ミスを犯した部下に対しても、厳しく叱責するだけではなく、動機づけのため
       のフォローを必ず行うことが大切です。

       これらのことを踏まえ、自社における緊急課題としてBCP(事業継続計画)
       策定をお勧めします

                                お問合せ・ご質問こちら

                                メルマガ登録(無料)はこちらから