産業医の活用

             

産業医の活用

  ■産業医

   会社にとって、従業員が心身ともに健康で元気に仕事をしてくれることは、何より
   も大事なことです。

   しかし、長時間勤務や過度なストレスが原因でうつ病や生活習慣病にかかる従業
   員の数は増加の一途をたどっています。

   厚生労働省の調査によると、定期健康診断における有所見率は54.1%(平成2
   9年)で、2人に1人以上が何らかの健康上の問題を抱えているという結果となっ
   ています。

   この不況下、収益を上げるために従業員はかなりのストレスにさらされています。

   不眠、うつ病、職場不適応などのメンタル面の不調は、従業員個人の生産性を落
   とすだけでなく、仕事上のミスや労災事故というかたちで職場全体にも大きな影響
   を及ぼします。

   過労死や過労自殺が労災認定されるようになり、会社としての管理責任も厳しく
   問われる時代になりました。

   心身に不調をきたした従業員を早期に発見し、適切に対処するためにも、産業医
   を活用することがますます重要となってきています。

   1.産業医とは

     産業医とは、事業場(※)において従業員が健康で快適な作業環境の下で仕
     事ができるよう、専門的な立場から指導・助言を行う医師のことです。

     メンタルヘルスの領域以外に、労働関係の法律知識や就業規則、就業実態に
     も精通しているのが特徴で、職場で働く人たちの健康を守るために、健康管理
     や職場環境の改善に向けた意見や助言をするアドバイザー的な存在でもあります。

     また、産業医は医師ではありますが、基本的に医療行為は行いません。

     ※事業場とは、工場や事務所、店舗など、一定の場所において関連する組織
      のもとに事業活動を行っているところを指します。

   2.産業医を置くメリット

     産業医を選任することで、大きく分けて2つの効果が期待できます。

     (1)従業員の健康管理

       ・健康に対する従業員の意識が向上し、従業員の心身の健康の保持
        増進を図ることができる

       ・健康診断の受診率が向上する

       ・健康診断後に適切なフォローをすることができる

       ・従業員のメンタルヘルス対策に適切に対応することができる

       ・生活習慣病改善などの指導を受けることができる

       ・長時間労働者への面接指導により健康障害の防止を図ることができる

     (2)職場環境の改善

       ・職場の定期巡視により作業環境の改善が図られ、働きやすい職場になる

       ・高齢化に伴う職場不適応、長期休業療養者の職場復帰などに対応
        することができる

   3.産業医の選任

     労働安全衛生法では、一定規模以上の事業場には産業医を選任することが
     義務づけられています。

     産業医が必要となる規模とは、労働者が常時50人以上いる職場で、同一会
     社の支店などであっても、その支店に50人以上の労働者がいる場合には、本
     社とは別に産業医が必要となります。

     つまり、産業医は、会社ではなく事業場を単位として必要になってきます。

     なお、労働者の数によって必要な産業医の数も変わってきます。

     労働者の数が50〜3,000人までの事業場には産業医を1人以上、3,001人
     以上の事業場には産業医を2人以上選任しなくてはなりません。

     労働者が常時1,000人以上いる事業場、および有害業務に従事する労働者
     が常時500人以上いる事業場においては、専属の産業医を選任する必要が
     あります。

     専属の産業医とは、他の医療機関などで常勤として勤務しておらず、もっぱら
     その事業場での業務に従事する医師のことをいいます。

     産業医を選任した場合には、事業場と医師との間で産業医契約を結ぶだけで
     はなく、「産業医選任報告(様式第3」という所定用紙に、医師免許の写しと
     産業医の資格を証明する書面を添えて、所轄の労働基準監督署長に提出し
     なくてはなりません。

                         産業医を選任している事業所の割合

   4.産業医の職務内容

     産業医の仕事は、従業員の健康を阻害する要因がないかを見回ることや、健
     康診断、健康相談を行うことなどさまざまですが、具体的な職務内容としては、

      ・毎月1回、職場を巡視する(定期巡視)

      ・定期健康診断の結果に基づき、従業員の健康状態をチェックする

      ・必要に応じて、従業員と個別に面談を行い、健康管理指導を行う
       (生活習慣病の改善指導、メンタルケアなど)

      ・過重労働者(月の残業時間が100時間以上の者など)への面接指導を行う

      ・従業員の休職・復職の判断時の面接を行う

      ・健康やメンタルヘルスに関する相談、教育を行う

      ・職場環境の管理・改善のためのアドバイスを行う

      ・従業員の健康障害の原因調査、再発防止のための措置について
       必要な助言をする

      ・衛生委員会に参加する

     などがあげられます。

  □産業医を選任する

   産業医を探すには、次のような方法が一般的です。

   1.産業医の探し方

     (1)地元の医師会に問合わせをする

       地元の医師会に問い合わせをして産業医をお願いする方法です。

       地元の医師会に紹介してもらうため、事業場近くの医師に産業医を依頼で
       きるというメリットがあります。

     (2)定期健康診断の実施機関に依頼する

       定期健康診断や人間ドックで利用している医療機関に依頼する方法です。

       定期健康診断と連動したかたちで保健指導などを受けることができる点が
       メリットです。

     (3)人材紹介業者に依頼する

       人材紹介業者の場合、登録されている医師のなかから条件に合った産業
       医をすぐに紹介してもらえるというメリットがあります。

       人材紹介会社への紹介手数料は、嘱託産業医の場合には報酬月額の2
       〜4カ月分、専属産業医の場合には年俸の10%程度が目安です。

     (4)近隣の病院に当たってみる

       近隣の病院の医師に産業医を依頼する方法です。

       近隣の病院であれば、通院している従業員も多いでしょうし、顔なじみ感も
       あって安心です。

       また、急病人が出たときに頼りになるというメリットもあります。

       上記以外に、健康保険組合や地域産業保健センター(原則、従業員数50
       人未満の事業場を対象とした情報提供機関)に問い合わせてみる方法や、
       親会社や関連会社に産業医がいればその医師に依頼してみる、近隣企業
       の産業医に兼任を依頼してみる、などの方法があります。

       厚生労働省の調査によると、平成28年12月時点の医師の数は約31万
       9000人、平成19年8月時点の産業医の有資格者数は約9万人超(平成
       28年3月)となっており、割合にしておよそ3人に1人の医師が産業医の資
       格をもっている計算になります。      

       産業医の大部分は嘱託で、開業医や勤務医が日常診療の傍らに産業医
       の業務を担っているケースが多くみられます。
         
   2.産業医を選ぶポイント

     産業医を決めるに当たり大事なことは、産業医に対して会社が何を望んでい
     るかを明確にすることです。

      ・おもに職場の定期巡視をお願いしたいのか

      ・従業員のメンタルケアに重点を置きたいのか

      ・安全衛生管理についてのアドバイスがほしいのか

     など、会社が産業医に求めているイメージを明確にしておくことで、契約前の
     面談時により具体的な話をすることが可能となります。

     産業医を選ぶ際のポイントとしては次のようなものがあげられます。

     (1)人柄や雰囲気

       従業員の年齢構成や職場の雰囲気によっても、その事業場に合った産業
       医は変わってきます。

       たとえば、

        ・やる気のある若い医師がよいのか

        ・経験豊富なベテランの医師がよいのか

       など、産業医に対する要望がある場合には、問い合わせの段階で伝えるよ
       うにしましょう。

       なお、よい産業医は従業員が気軽に相談できるような雰囲気づくりを心掛
       けているものです。

       フットワークが軽くて、コミュニケーションの上手な明るい医師が理想です。

     (2)産業医活動に対する考え方

        ・産業医としてどのようなビジョンをもっているのか

        ・安全衛生管理に対する考え方

        ・企業のコストとリスクバランスについての見解

       など、会社の姿勢と産業医のビジョンとがマッチしているかどうかを確認す
       ることが大切です。

       なお、産業医の職務は従業員のプライバシーに大きくかかわるため、守秘
       義務の厳守はいうまでもありません。

     (3)事業場(特に人事担当者や衛生管理者など)との相性

       産業医との直接の窓口となる人事担当者や衛生管理者には、契約前の面
       談時になるべく同席してもらい、顔合わせをしておくのが望ましいでしょう。

       現場からの要望や実際の状況を産業医に伝えることで、どのように協力し
       合えるのかが確認できていれば、契約後に誤解やトラブルが発生するリス
       クを軽減することができます。

     (4)企業の経済活動に対する理解度

       よい産業医は、職場環境の改善策をアドバイスする際、最終的な目標を示
       すとともに、費用対効果なども考慮し、実行可能な提案をしてくれます。

       会社の状況を理解したうえで、最適な見立てができるかどうかも重要な要
       素です。

       従業員の健康や安全に重点をおきつつ、各部署や会社全体のコストとパ
       フォーマンスをも意識した、現実的なアドバイスをしてもらえるのが理想です。

     (5)これまでの産業医としての経歴

       産業医としての経歴を知ることは、(3)(4)の見当をつけるうえでとても重
       要です。

   3.産業医の報酬の目安

     産業医の報酬は、会社の事業内容、事業規模、所在地、依頼する職務の内
     容、訪問回数などによっても変わってきます。

     (社)東京都医師会が公表している、従業員数に応じた1事業場当たりの報酬
     月額の目安は次のとおりですが、地域によっても差があるので、地元の医師
     会に問い合わせてみましょう。

      *有害物質取り扱い事業場は、危険手当として上記報酬の3割を付加する。
      出所:(社)東京都医師会資料(平成17年3月)

    4.契約時の留意点

     労働安全衛生法では、産業医には月1回の職場の巡視が義務づけられてい
     ますが、多くの事業場で守られていないのが現状です。

     こうしたトラブルを防ぐためにも、産業医契約書には巡視の回数を明記するこ
     とが大切です。

     それ以外にも、「担当事業場名」、「業務対象」、「活動内容」などを具体的に明
     記するようにします。

     そのためには、最初の段階でよく話し合い、その内容を契約書に落とし込むこ
     とが重要です。

  □産業医を活用する

   1.職場の定期巡視

     従業員がよりよい仕事をするためには、安全なだけでなく、快適な職場環境を
     つくる必要があります。

     産業医には、

     ・室内の明るさや温度、休憩設備などの環境的な問題

     ・作業手順や作業時間、作業の姿勢や動線など業務そのものに関する問題

     ・上司と部下、同僚との人間関係

     などについて、専門家の立場から多角的にチェックしてもらい、実態を正しく捉
     えたうえで、職場環境の改善につながるアドバイスをしてもらいます。

     労働安全衛生法では、月に1回、産業医による職場の定期巡視を義務づけて
     います。

     定期的に職場を巡視することは、産業医にとって職場環境や職場の雰囲気、
     作業内容を把握するための有益な機会となりますし、従業員にとっても産業医
     の存在を知るきっかけとなり、会社が安全衛生管理に取り組んでいることのア
     ピールにもつながります。

     それ以上に重要なことは、職場における危険要因の早期発見です。

     実際に産業医が職場に出向いてみると、室内の照明が暗かったり、騒音が大
     きかったり、ディスプレイと目の高さが合っていなかったりするほか、工場であ
     れば腰を曲げた無理な姿勢で作業をしていたり、有害な化学物質の保管法が
     誤っていたりするなど、従業員の健康に悪影響を及ぼす恐れのある要素が見
     つかるものです。

     産業医には事業場内のすべての場所を(トイレ、休憩室、食堂なども)巡視し
     てもらい、作業方法や衛生状態が有害であると思われる個所についての指
     摘、および防止策や善後策のアドバイスをしてもらいます。

     巡視は月に1回なので、効率的かつ計画的に実施するためにも、チェックリス
     トを作成してチェック項目ごとに良否の判定と改善ポイントを記録するなどします。

     チェックした項目に対して現場の責任者がきちんと対応したかを確認できるよ
     うにするなど、巡視の機会を有効にいかすよう工夫することが大切です。

   2.定期健康診断の結果に基づき従業員の健康状態をチェック

     労働安全衛生法では、従業員に対して定期健康診断を実施するよう義務づけ
     ていますが、実施すればよいというものではありません。

     事故の防止や生産性の向上といった観点から、有所見者に対して治療を勧告
     したり、就業を制限したりするなど、実施後の対応がより重要だといえます。

     また、定期健康診断の実施後は、産業医に結果をチェックしてもらい、健康診
     断個人票の「医師の意見」欄にコメントを記入してもらうようにします。

     その記入をもって、会社が管理する個人票は法的にも有効となります。

     産業医にとっても、普段なかなか顔を会わせることのない従業員の健康状態
     や事業場全体の傾向を把握するうえで、診断結果のチェックは役に立ちます。

     こうしたチェックをすることで、従業員個別の健康相談、正しい知識を伝えるた
     めの健康教育、職場に応じた安全教育などの実施につながっていくことも期待
     できます。

   3.長時間労働者への面接指導

     会社は、時間外・休日労働時間が月100時間(※)を超え、かつ疲労の蓄積が
     認められる従業員に対しては、脳・心疾患の発症を予防するために、医師によ
     る面接指導を実施しなくてはなりません。

     産業医は、従業員の勤務状況、疲労の蓄積状況、その他心身の状況につい
     て確認をし、従業員本人に必要な指導を行うとともに、面接指導を実施した従
     業員の健康を保持するために必要な措置について会社側に意見を伝えます。

     会社側は、産業医の意見を勘案し、必要が認められる場合には、就業場所の
     変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じる
     ほか、産業医の意見を衛生委員会に報告しなくてはなりません。

       ※月100時間に該当するか否かは基準日を設定して算定します。

   4.従業員の休職・復職の判断時の面接

     メンタル不全や健康障害で休職となった従業員の復職を判断する際には、産
     業医が復職可能かどうかの見極めを行います。

     たとえば、休職中の従業員が、経済的な理由などから早期復職を希望し、病
     気が完治していないにもかかわらず完治したと主治医に申し出て「復職可」の
     診断書を書いてもらい、会社に提出してくることがあります。

     このような場合、主治医の診断書を鵜呑みにしてしまうと、復職してもすぐに休
     職へと逆戻りしてしまったり、かえって病状を悪化させてしまったりするなど、
     従業員にとっても会社にとっても不利益となることが往々にしてあります。

     職場環境に耐え得るレベルまで病状が回復しているかどうかの最終判断は、
     会社の状況を把握しており医学的な判断のできる産業医に委ねましょう。

     なお、産業医は、スムーズな職場復帰をはたすために必要であれば、復職直
     後の業務内容や就業時間の変更、配置転換などについてのアドバイスや調
     整も行います。

   5.衛生委員会への参加

     業種を問わず、労働者が常時50人以上の事業場には衛生委員会の設置が
     義務づけられています。

     月に1度、会議を開くことになっていますが、衛生委員会の活動はついおろそ
     かにされがちです。

     職場における潜在的なリスク要因を見つけだし、それを改善していくために
     は、現場で働く従業員と専門知識をもった産業医がタッグを組むことが大事で
     すが、その有効な場でもある衛生委員会を形骸化させないためにも、産業医
     の訪問日に合わせて衛生委員会を招集するなど、無理のないかたちで運営し
     ていく工夫が必要です。

     なお、議事録などの記録をしっかりと残しておくことで、安全配慮義務違反のリ
     スクを回避することにもつながります。

 

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