顧客の固定化(ロックイン)戦略

  ■顧客ロックイン戦略

   1.固定客化の重要性

     企業が安定した売上を確保する際には、新親顧客を獲得するか既存顧客との
     関係の強化に着手するかという2つの方策を考える必要があります。

     2つの方策をバランスよく組み合わせ、最適な経営資源の配分を行うことで販
     売促進策の費用対効果が高められますが、マーケテイング戦略における命題
     にしたがえば、企業活動にとってより重要度の高い施策は、既存顧客との関
     係をさらによいものへと変えていく点にあります。

     ここで取り上げる顧客ロックイン戦略は保有する顧客を価値ある企業資産に
     するための考え方であり、

      もっとも重要なのは、顧客が購入せずにはいられない商品やサービスを
      提供する

     ことです。

     しかし実際の企業活動の場において、既存顧客の管理に成功している組織は
     必ずしも多くはありません。

     その理由はどこにあるのでしょうか。

     まず、既存顧客に配慮する戦略を採用するよりも、新規顧客を発掘・獲得する
     活動に面白みを感じるような価値観が組織風土として定着していることが考え
     られます。

     またそれと関連して、社内の報奨制度の不備も指摘できます。

     つまり、新親顧客の獲得に関しては金銭面での報奨制度が用意されていなが
     ら、既存顧客との長期的な関係維持を達成している部分への処遇が十分に
     整備されていないことです。

     そうした制度面の不十分さが、従業員の既存顧客に対する関心を低めていく
     と思われます。

     さらに、新規顧客獲得に向けた活動は予算計上されていても、既存顧客への
     対応を予算として計上していないなど、会計上の問題が含まれるケースも想
     定されます。

     予算計上されていなければ、経費のかかる活動に対する従業員のモチベー
     ションは必然的に低められます。

     図表は、顧客の行動を3分類して示したものです。

     企業が提供する商品やサービスの水準が顧客の期待を下回っていたならば
     顧客は離れていきますが、ほとんどの場合、不満の意思表示をすることなく
     黙ってほかの企業に流れていきます。

     このような状態をなくす企業努力が、新親顧客の獲得よりも重要です。

      究極的には企業へのロイヤルティ、つまり忠誠心が生まれる状態にまで
      顧客を育てていくことが求められます。

     ここで「期待以上」のサービスを提供するには、顧客ロックイン戦略を実践する
     のが有効です。

   2.顧客ロックイン戦略を実践する

     (1)7つの活動領域

       顧客ロックイン戦略は7つの活動領域から構成されます。

       インティマシー・ロックインは、企業や商品への親密さを高める活動をいい
       ます。

       高い専門知識をもつ店員が、顧客との接点において親密さを重要視した販
       売を手がけていくと、リピート購入の比率が高まります。

       紳士服大手で20年以上にわたってトップの成績を堅持する販売員は、顧
       客データを1500人分管理して、より高い顧客満足を追求しています。

       これはインティマシー・ロックインの好事例と判断してよいでしょう。

       「ブランド・ロックイン」は、企業の提供する商品やサービス、あるいは企業 
       自体のイメージ向上に寄与する活動を指します。

       「見えざる経営資源」としてのブランド力を高めるには、市場に提供する品
       質水準を高めながら口コミの効果を求めるとともに、広告などプル戦略※を
       緻密に計画して実施する必要があります。

          ※プル戦略とは、消費者側の需要を引き出し自然とその製品やサービスを
          欲しいと思わせるようにしていくという方法。反対にプッシュ戦略とは、企業
          側から顧客に積極的に製品・サービスをアピールしていき、売り込みによって
          多くの購入を促す方法。


       また、「シリーズ・ロックイン」は取り扱う商品の種類を増やす戦略を意味し
       ます。

       最適な商品の組み合わせ(プロダクト・ミックス)は売上の最大化につなが
       ります。

       続く「コンビニエンス・ロックイン」は、顧客の利便性を高める方策をいいま
       す。

       たとえば、店舗での販売に加え、ウェブサイトを活用した仮想空間上での販
       売環境を整備することは顧客の利便性を高めます。

       「メンバーシップ・ロックイン」は会員制を導入することで、ヘビーユーザーに
       対して特典を与えようとする戦略です。

       航空会社のマイレージサービスが成功事例として知られます。

       これは、自社商品やサービスの売上拡大に貢献の大きい顧客を重点的に
       管理する手法です。

       顧客ロックイン戦略では、すべての顧客を同等の力で管理していく必要は
       なく、むしろ重要度の高い顧客を選別し厚く待遇していくことが求められます。

       「ラーニング・ロックイン」は、学習効果を追求するものです。

       その学習効果には、たとえば「ラーニング・プラス」があります。

       これは顧客が学習効果を重ねることによって、その商品やサービスの消費
       から離れられなくなる現象をいいます。

       パソコンのOS(基本ソフト)でWindowsを使い続ける顧客は、ラーニング・
       ロックインにより固定客となったのは代表的な事例です。

       また「ラーニング・アウトソース」は、商品の選択と利用に関して専門家に完
       全に任せる消費者の行動が該当します。

       最後の「コミュニティ・ロックイン」は、顧客相互に影響を及ぼしあう集団を構
       築する活動です。

       企業がウェブサイトを活用して、顧客が共有できる場を整備することも該当
       しますし、仮想空間ではなく顧客同士がリアルな場でつながるような空間を
       創出することも考えられます。

       企業が固定客を獲得するには、7つのロックインから適宜必要な要素を選
       び出し、強弱をつけた管理が必要となってきます。

       すべてのロックインを採用するのは経営資源の分散・浪費につながり、効
       果的とはいえず、業種や事業の特性により最適なロックイン要素の組み合
       わせは変わってきます。

       最終的には自社にとり最適な販売促進策の組み合わせを決定する必要が
       あります。

     (2)顧客ロックイン戦略の事例

       ここで事例を紹介します。

       健康食品の製造販売を手がけるA社は、顧客ロックイン戦略を採用するこ
       とで固定客の獲得に成功しています。

       顧客のもとに定期的に届く情報誌には商品の紹介に加え、海外で調達す
       る材料の話や社長の経営理念、社員の生の声、愛用者の感想など手作り
       感覚あふれるコンテンツが満載で明るく楽しい雰囲気が十分に表現されて
       います。

       この情報誌を毎回楽しみにしている顧客も多いようであり、インティマシー・
       ロックイン戦略がうまく機能しているといえます。

       同社の商品は世界の食品分野で歴史と伝統のある「モンドセレクション」を
       受賞しています。

       2005年は26商品、2006年は34商品を出品してすべてが受賞しており、
       健康食品業界では最多の受賞件数を誇ります。

       これによってブランドイメージが高められると同時に、親しみやすいテレビ
       CMを放映することで企業そのもののブランドカの向上も実現されます。

       これはブランド・ロックイン戦略です。

       シリーズ・ロックイン戦略への対応も進められています。

       A社の創業時からの中核商品はブルーベリー関連商品です。

       社長自身が目に不自由を感じており、世の中で同じような悩みをもつ人た
       ちのために目によいサプリメントづくりに取り組んできたといいます。

       近年では健康と美に関連する商品を増やしており、顧客の多様化するニー
       ズに全方位的に対応しようとしています。

       さらに、コンビニエンス・ロックイン戦略ではウェブサイトからの購買に極力
       負荷がかからないような配慮がなされ、商品を毎月届けるコースには割引
       価格を提示したり、あるいは一定数以上の注文客に対しておまけをつけた
       りするサービスを導入しています。

       つまり、メンバーシップ・ロックイン戦略をも採用しているということです。

       A社は以上のように、複数のロックイン戦略を組み合わせて実践しています。

       先に触れた情報誌には、「5年間飲み続けでいます」「これからもずっと愛
       用します」「友人にも勧めようと思います」などの顧客の声が毎回紹介され
       ています。

       顧客ロックイン戦略の要は、自社の商品やサービスのない生活が考えられ
       ないような環境を創出することです。

       A社の事例は、顧客ロックイン戦略の有効性を示すものです。

   3.継続的な戦略の見直しを

     顧客ロックイン戦略は、企業が販売促進政策を多面的に検討・実施する際に
     参考となるひとつの物の見方です。

     考え方自体はきわめてシンプルですが、ロックイン戦略の最適な組み合わせ
     を実施し、その成果である収益を丁寧に追っていく必要があります。

     各ロックインの要素に投入する経営資源の量を変動させたときに、売上や利
     益がどのような動きをみせるかを分析しなければなりません。

     そうしてデータを蓄積していくと、さらに洗練度の高い顧客ロックイン戦略が可
     能となります。

     いったん最適な販売促進政策の組み合わせが発見された後も、継続的に見
     直しを実施していく作業が重要です。

     それぞれのロックイン戦略も、時間の経過とともに市場での効力を失っていく
     ケースも想定されるからです。

     そして効果のなくなったロックイン戦略については、別の方策を立案する必要
     があります。

     こうした企業努力は永続的に実施されるわけですが、その取り組みが組織文
     化として定着するような水準にまでなった時点では、おそらく顧客ロックインと
     いう概念そのものを経営陣や社員が改めて意識することもなくなっていること
     でしょう。

     それこそが真の顧客満足経営が実践されている、理想的な組織の状態といえ
     ます。

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