M&Aを活用した事業承継
 

  ■多様化する事業承継のかたち

   1.多くの企業で後継者が決まっていない

     高度経済成長期を乗り越えてきた中小企業の社長が高齢に達している一方
     で、承継候補者は不足しています。

     現社長が引退する時期までに適切な後継者がみつからなければ、やむを得
     ず廃業や清算も検討せざるを得なくなります。

     これは現社長だけの問題ではなく、従業員にとっても職を失うことを意味し、さ
     らには取引先や地域社会などに対して悪影響を与えることになります。

     最近では、親族間での承継以外の道として、社内の役員や従業員を後継者に
     選定したり、社外から後継者人材を招き入れて事業を継続する親族外承継が
     増加しています。

     また、身近に承継候補者がいない場合であっても、M&A(Merger and  
     Acquisition:企業の合併および買収)を活用して、会社そのものを譲り渡して
     経営を継続する方法を採用するケースが中小企業においても目立つようにな
     りました。

     2007(平成19)年に(独)中小企業基盤整備機構が実施した
     「事業承継に係る親族外承継に関するアンケート調査」の結果によると、約8
     割の中小企業が事業承継を希望しているにもかかわらず、「後継者が決まっ
     ている」のはわずか15.8%でした。

     後継者が決定していない場合で、どのような事業承継を望んでいるかについ
     ては、「従業員・役員に承継するつもり」がもっとも多く5割弱でしたが、次いで
     「できれば会社を譲渡・売却したい」が「まだ承継について考えていない」ととも
     に2割弱と2位になりました。
   
   2.事業承継対策としてのM&A

     M&Aによる事業承継は、後継者がいない場合であっても、事業を継続するこ
     とができるうえ、売却利益を獲得して経営者の引退後の生活を支えることにも
     つながります。

     前述のアンケート調査では、経営者のM&Aに関する考えについても調査を
     行っています。

     その回答によると、7割以上がM&Aを事業承継上の有効な手段だと考えてい
     るものの、手法や手続きの理解や知識が乏しい、信頼できる相談相手や仲介
     機関がない、相手先企業の情報が少ない、分からないなどの問題を感じてい
     る人も多いようです。

     実際に、M&Aを実行した経営者の実態に関する調査では、回答数24社のう
     ち、63%の企業が「順調に業凄を伸ばしている」と回答し、「事業形態が変
     わった」、「業績が低迷している」などのマイナス面は、わずかでした。

     また、会社を譲渡した後、前社長が「従前の会社の会長、社長」として、従来ど
     おりの業務を行っているケースが38%、「従前の会社の非常勤役員、顧問」が
     21%と、M&Aで事業を引き継いだ後も、何らかの形で経営にかかわっている
     社長が約6割という結果でした。

     会社譲渡を決意したきっかけの1位は、「親族内外の後継者を探したがみつか
     らなかった」が67%であり、M&Aは後継候補者がみつからない場合の次の
     手として利用されていることが分かります。

     また、M&Aの候補先がみつかり、最終的にM&Aを決定する要因としてもっと
     も多いのは、「従業員の雇用の確保ができた」が83%でした。

     中小企業の社長が従業員の雇用に対して優先事項と捉え、従業員の雇用を
     確保し、従前の労働条件が維持されることが確信できたときにM&Aを決意し
     ているようです。

     この調査では、71%の経営者が「非常に満足」、「満足している」と回答して
     います。

     また、M&A後の業績推移について、「順調に伸張している」との回答が63%
     と高くなっています。

     これらの結果から、中小企業にとってもM&Aが効果的な手法であり、今後も
     M&Aが増加する可能性は高いことが予見できます。

  □M&Aを活用して事業を承継する

   1.中小企業にとってのM&Aのメリット

     M&Aの手法とは、第三者へ会社を譲渡する方法のことですが、この方法に
     は、株式譲渡、吸収合併、営業権譲渡など、さまざまな種類があります。

     特に中小企業の事業承継では、株式譲渡がもっとも用いられますが、その理
     由としては、

      ・売り手企業の株主個人に株式売却の対価が直接入るため、創業者
       利益を実現しやすい

      ・売り手企業は子会社として存続するため、社名や従業員雇用の継続
       が可能である

      ・企業文化などが承継されやすい

      ・買い手企業の子会社として十分に機能するまで、前社長が数年間、代表
       権のない取締役や顧問・相談役に就任して橋渡しを行うことができる

      ・売却事務手続きが簡便である

     といった理由があげられます。

     さらに当初から全株を譲渡するのではなく、一定の期間は33%超の株式を保
     有することにより、株主総会での重要な決議事項における拒否権を確保する
     など、経営への影響力を保つというやり方もあります。

     このように、株式譲渡の手法を上手に利用しながら、条件交渉を行うことで、
     自分の会社に対して強い思い入れがある場合でも、友好的に引き継ぐことが
     できます。

   2.M&Aの手続き

     すでに相手先が決まっている場合であっても、M&Aを手掛ける場合、法律や
     税務などの専門知識や条件交渉などのテクニックが必要になるため、M&Aを
     専門とする仲介機関や弁護士を通して交渉を行ったり、税理士、会計士など
     からアドバイスをもらって進めることが一般的です。

     相手先がみつからない場合にも、M&Aの仲介機関に依頼し、相手先を探して
     もらうことができます。

     最近では、金融機関でも紹介をするところが増えています。

     また、商工会議所や(独)中小企業基盤整備機構などの公的機関でも、アドバ
     イスを受けることができます。

     譲渡を検討する中堅・中小企業がM&A先をみつけようとしても、希望の条件
     に合うような企業をみつけるのは、簡単な作業ではありません。

     従業員の雇用継続や取引先との関係、売却価格など売り主に有利な条件で
     M&Aを進めるためには、十分な期間と準備が必要です。

     期間については、最低でも1年以上をめどに、時間をかけて相手先を探すこと
     を心掛けたほうがよいでしょう。

     たとえ候補先が現れても、交渉が進まず断念する可能性もあります。

     仲介機関も1社に限定せず、情報源を広く活用し、自社の企業価値を高める
     ための方策についても意見を求めるようにしましょう。

     売り手企業の精査(デューデリジェンス)では、財務諸表・事業計画・税務申告
     書などをもとに、売り手企業がもたらす将来収益や現在の資産価値を検討し
     て、買収価格を決定します。

     有利な価格で交渉をするためには、企業価値を向上させるための事前準備も
     大切です。

     万一、適切な会計処理が行われておらず、収益力が判断できないとみなされ
     たとき、買い手企業は、買収価格の減額を要求したり交渉の中断を要請する
     かもしれません。

     会計処理に問題がなくても、回収不能な債権があるとき、債務保証などの簿
     外債務があるとき、許認可などの取得・更新に不備があるとき、取引条件など
     が不明で事業の将来性に不安があるとき、なども同様に判断される可能性が
     あります。

     企業価値が正しく評価されるには、相応の準備が必要なのです。

     <自社の企業価値を高めるための取組>

      (1)業績の改善・伸長

      (2)不採算事業からの撤退

      (3)利益の向上

      (4)無駄な経費支出の削減

      (5)事業に不必要な在庫や固定資産の処分(貸借対照表を実態に
        合わせる)

      (6)債務の圧縮

      (7)事業計画に基づいた経営管理体制の構築

      (8)役職員への業務権限委譲

      (9)就業規則、労働契約、賃金規定など従業員の待遇の明文化

     (10)取引先との不利な取引条件の改善、取引条件の明文化

     (11)経営者の個人資産、経費の切り分け※

     (12)オーナー以外の株主の整理(オーナーへの株式の集約化)

      ※たとえば、経営者が自家用車として使用している車であるにも
       かかわらず、帳簿上は、社有車としている場合、自宅を社宅と
       している場合、個人的な理由で使用した経費、オーナーから
       会社への貸付もしくは借入など。

     上記のほか、企業には目に見えないさまざまな「財産」があります。 

     たとえば、企業のブランド価値やイメージ、優良顧客、優れた商品の供給先、
     金融機関や株主との良好な関係、優秀な人材、営業上のノウハウなどがこれ
     に該当します。

     このような強みを見極めて、育てていくことも事前準備として重要です。

  □MBOの可能性

   後継者として事業を引き継がせたい役員や経営幹部がいるにもかかわらず、資
   金的な問題から引き継ぐことを断念するケースもあります。

   サラリーマンである役員には、相応の規模・業績にある企業の株式を買い取るだ
   けの資力はないのが通常です。

   それを解決する手段として、MBO(Management Buy−Out)が注目を集めて
   います。

   MBOとは、会社の経営陣が、事業の継続を前提として、所有者から株式を取得し
   て経営権を取得し、オーナー経営者として独立するためのM&A手法のひとつ。

   MBOには株式取得費用として多額の資金が必要になります。

   株式の買い取り資金は、経営陣が持ち寄る資金のほか、会社自身の財産や会社
   の将来の収益を担保とした、金融機関からの融資や投資会社からの出資によっ
   て補うことも考えられます。

   優れた経営陣のノウハウと実績ある企業の価値を根拠とするならば、金融機関
   やベンチャーキャピタルなどから協力を得ることもそう難しいことではないのです。

   事業承継は社長に課された最後の責務です。

   親族などに円滑な承継ができればそれに越したことはないのですが、そうでない
   場合は、M&Aの活用も視野に入れたさまざまな施策をできるだけ早めに講じて
   いくことが大切です。
 

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