勝ち残る競争戦略
 

  農耕民族型の経営

   1.防犯用ミラーで8割のシェアを占める成功企業

     コンビニエンスストアなどでは、万引き防止、防犯用に円形の鏡が設置されて
     います。

     天井の隅に設置されているこの防犯用ミラーで約8割というシェアを占めてい
     るのが、コミーという中小企業の製品です。

     同社は、もともとは店舗の看板やディスプレー製品を扱う看板業でした。

     防犯ミラーの原型は、実は、看板の素材に使用されるアクリル樹脂製の凸面
     鏡にモーターを取り付けて集客用のディスプレーとして製造した「回転ミラック
     ス」でした。

     この集客用のディスプレーを30個も注文したスーパーマーケットがあり、その
     用途を聞いてみると、製造側が意図していた「集客」でなく「万引き防止」に役
     立つというものでした。

     これをヒントに、同社は防犯ミラーに本格的に取り組むことになったのです。

     その後、回転型だけでなく、固定式のミラーや卓上型、さらに形も丸型や角型
     とさまざまな防犯ミラーを製造していきました。

     同社の小宮山社長は、防犯ミラーという狭い市場でいかに生き延びるかを考
     え、独自の考え方を身につけました。

     それは農耕民族型経営という考え方です。

     たとえば、大企業のように、一部のエリートが生き残りをかけて域烈な争いをし
     ながら会社を動かすやり方もあります。

     そこでエリートになれなかった多くの社員は、いわば大企業の歯車的な役割を
     こなしながら、厳しい競争社会を生き延びていきます。

     これが大企業の一般的な狩猟民族型の実態で、動物でいえば弱肉強食の
     「肉食動物」の世界です。

     これに対して、小宮山社長がいう農耕民族型企業とは、競争して相手を食うか
     相手に食われるか、すべてを食い尽くすかという経営とは異なり、いわば自分
     の成長に必要なだけ自然にある草木を育て摂取していく、というような経営です。

     目立った急成長や莫大な利益を手にすることに血眼になるのではなく、自社
     の存在価値をわきまえた、永続性を重視した経営といえます。

     その経営を行なうためのポイントが、競争よりオリジナリティーという考え方です。

   2.競争よりオリジナリティーを重視する考え方

     コミーが防犯ミラーに進出するきっかけとなった「回転ミラックス」の展開におい
     ても、狭い市場で、自社の製品がどのように使用されているのかをしっかりと
     把握していきたいという、地道にオリジナルな市場を守る視点が感じられます。

     同社のホームページには、小宮山社長の次のようなメッセージが掲載されて
     います。

     「日本企業の9割は毎日『競争』で明け暮れていますが、コミーはそのエネル
     ギーを『創造』に使っています。

     コミーのもっている土壌に合った種を蒔き、じっくりと育てます。

     そして『特許』や『販売・製造のノウハウ』というバリアをつくり、外敵を防ぎま
     す」「商品はすべてオリジナル。真似もしないし、真似もされません」。

     そして、自社のことを、「世界のどこにもない商品を創る農耕民族的企業」と称
     しています。

     いたずらに競争に勝つことを目的にするのではなく、自社の強みをしっかりと
     見つめ、その強みを生かす経営を志向している決意がうかがえます。

     農耕民族的な経営とは、競争よりもオリジナリティーの創出を優先し、限られ
     た市場分野でつねに製品の改善や改良を行ないながら、ほかの企業に模倣
     されないオリジナルな製品を創り出し、大企業にとっては参入の魅力が少ない
     分野・市場で強みをしっかりと育てている企業、といえるでしょう。

     また、こうした内容は、コミーの掲げる「私たちは売上の拡大よりも、『出会いの
     喜び』『創る喜び』『信頼の喜び』を味わえる仕事を大切にしています」という言
     葉に表わされています。

     社員の募集に際しても、

      「日本企業の多くは、絶えざる競争の中で生きています。戦いはそれだけでく
      たびれる。そのエネルギーはもっと創造に向けられるはず。これが会社員生
      活で自分を活かせなかった私が選んだ道です。限定された市場で、売上の
      拡大よりもお客様の意見を聞きながら、製品の改良を続けたり、新しい商品
      を生み出す。そのために、各人の個性が十分に発揮でき、じっくり仕事がで
      きる環境を整えてきました。当社では一人ひとりが個性を活かしながら活躍
      してくれています。各人が創造し続ける限り、ビジネスは拡大する。それが私
      の哲学です」(出典:コミ一株式会社)

     というメッセージが、どのような社員を期待しているのか、どのような会社にし
     ていきたいのかを明瞭に示しています。

  □自社の市場を創造する

   1.競争よりも創造を大切にする製品開発

     競争よりも創造を大切にするコミーが、実際にどのような製品を創造してきた
     かをみていきましょう。

     (1)「死角を生かす気配りミラー」

       「回転ミラックス」を防犯用に展開してから、同社は防犯ミラーだけでなく、
       自分以外の人や物の動きをとらえる鏡を開発、死を生に変える願いを込め
       て「死角を生かす気配りミラー」とネーミングして、同製品でも市場を創造し
       ています。

       防犯ミラーのような製品を必要とするのは、防犯上これを必要とするコンビ
       ニエンスストアや一般の店舗だけではありません。

       コミーは、工場や倉庫向けには、物流の搬入車両が接触することを防ぐた
       めに死角を認知できるミラー、百貨店などに向けては、エレベーターの外に
       いる顧客をエレベーターの中から認知して、乗り遅れや安全を確認するた
       めのミラーとして製品化を進めています。

       金融機関のATMに後方確認用ミラーとして設置されている事例もあります。

     (2)航空機の手荷物入れに設置

       さらに、積極的に市場を創造した例としては、航空機の手荷物入れに設置
       された製品の例があります。

       客室乗務員が、歩きながら手荷物入れの内部を確認することができる仕組
       みです。

       この市場は、出張帰りの飛行機のなかで発想され、航空関係者へのPRを
       地道に行なうことで開拓されたものです。

       もともとの防犯ミラーに使用されている材料であるアクリル樹脂は、可燃物
       であるため、そのままでは飛行機の中に設置することはできません。

       そこで、素材に自己消化性のある樹脂やアルミニウムを使用することで耐
       火性をもたせました。

       その後も、実際に飛行機の機内で使用されようになるまで、厳しい航空機
       のスペックを満たす改良と創造が行なわれています。

   2.創造に生き残りをかけた戦略

     同社にとっては、オリジナルであること、他社の模倣もしないし、模倣されない
     ことが重要なポイントであるため、競争でなく、創造に生き残りをかけているこ
     とがわかります。

     「土壌にあった種を蒔きじっくりと育て、特許や販売・製造をノウハウというバリ
     アで外敵を防ぐ」という戦略がすべてです。

     自社の勝ち残れる分野を絞り込んで、その「小さな市場を極める」戦略です。

     そのために、商品はすべてオリジナルで、ユーザーの声にしっかりと耳を傾け
     創造に取り組んでいるのです。

     こうした戦略は、小宮山社長のいう農耕民族的企業の生き方といえます。

     「狩猟民族的」が主流の企業社会においては異例と考えられるかもしれません。

     しかし、農耕民族型の生き方は、同社のように限られた企業だけの得意な生
     き方でしょうか。

     この農耕民族型企業の戦略は、「小さな市場を極める」戦略として、中小企業
     の生き残りに適した戦略なのです。

     この戦略を少し理論的に分析して、農耕民族型企業として生き残るヒントを見
     つけ出していきましょう。

  □中小企業が勝ち残る競争戦略の分析

   1.競争戦略を分析

     競争よりも創造、という草食動物的な経営は、競争を避けるという意味でひと
     つの競争戦略です。

      どのような競争をするかという戦い方を考えることも競争戦略ですが、
      競争をいかに避けて生き残るかということを考えることも、
      また競争戦略のひとつなのです。

     (1)競争における自社の地位に注目した分析

       一般に、競争戦略は2つの視点から分析されます。

       まず1つは、

       競争における自社の地位に注目した分析です。

       すなわち、自社が生存している業界、市場において、「リーダー」であるの
       か、「リーダーを追いかけるチャレンジャー」であるのか、「リーダーの後を
       追うフォロワー」であるのか、あるいは、「競争の少ない隙間市場でミニリー
       ダーを目指すニッチャー」であるのか、という4つの類型で自社を位置づけ
       て戦略を分析・検討していく方法です。

     (2)ターゲットとする市場競争の優位性による分析

       もう1つが、

       ターゲットとする市場について、業界全体の市場をターゲットとしているの
       か、業界のうち特定分野に絞られた市場をターゲットとしているか、という
       「市場の軸」と、競争優位性が他社より安いコストにあるのか、それとも顧
       客から認められる特異性にあるのかという「優位性の軸」を利用して競争戦
       略を分析する方法です。

       ターゲットとする市場は、業界全体と特定分野の2つに、一方、競争優位の
       タイプは、低コスト志向か、顧客から認められる特異性かの2つに区分され
       ます。

       この2×2の4つのマトリクスに競争戦略を位置づけて、分析・検討していく
       方法です。

       4つのマトリクスに位置づけられる戦略は、コストリーダーシップ戦略、差別
       化戦略、および、「コスト集中」と「差別化集中」の2つの集中化戦略です。

       ①コストリーダーシップ戦略

        業界全休をターゲットに、低コスト志向(同業他社よりも安いコストを
        実現すること)で勝ち残る戦略です。

        規模の経済や、操業度を上げる手段がとられ、一般には大企業に
        有利な戦略です。

        半導体メーカーのテキサス・インスツルメンツ社や、カシオ計算機が
        デジタル時計に進出した際に電卓で養ったエレクトロニクス技術を
        応用し、技術開発・生産から販売までの一貫したコストダウン体制を
        組み上げ、安価で正確なデジタル時計を大量に生産することで市場
        を創造した事例があげられます。

       ②差別化戦略

        業界全体をターゲットとして、顧客から認められる特異性を武器に
        した戦略が「差別化戦略」です。

        顧客から、「あの企業はどこか違う」という価値を認めてもらえる
        企業がとっている戦略です。

        その業界の品質リーダーがこの戦略をとっています。

        ブランドという差別化された価値が注目される戦略でもあり、ソニー
        や本田技研工業の戦略を考えるとわかりやすいでしょう。

       ③集中化戦略

        ターゲットを特定分野に絞込む戦略が「集中化戦略」と呼ばれる
        戦略です。

        この戦略は、競争優位の根拠をコストにする「コスト集中」と、顧客
        から認められる価値を意識した「差別化集中」の2つの戦略に分け
        られます。

        コスト集中の戦略としては、たとえば、軽自動車に特化することで、軽自
        動車に関する製造コストを下げて競争に勝ち残っているスズキ自動車、
        差別化集中の戦略としては、顧客を高額所得者に絞り込み、高品質のイ
        メージを顧客から得ているダイナーズカードの例などを考えることができ
        ます。

   2.中小企業に求められる差別化集中戦略

     農耕民族型の経営については、市場の地位で考えれば、たんにニッチャーの
     位置づけとなりますが、ターゲットとする市場と競争の優位性の分析を利用し
     て考えてみると、集中化戦略のうち、差別化集中戦略と位置づけることができ
     ます。

     コミーの戦略は、競争戦略的には特定分野に絞り込み、他社が真似できない
     製品を開発することにより、顧客から開発力のある会社として認めてもらうとい
     う差別化集中の戦略といえるでしょう。

     実は、この差別化集中戦略が、中小企業が成長を図るうえでの優れた戦略と
     なりえるのです。

     「死角を生かす」という視点から、特定分野の市場、たとえば工場の安全確認
     ミラーやエレベーターの乗降確認のためのミラー、ATMののぞき見防止のた
     めの後方確認ミラー、さらには、航空機の手荷物入れ用確認ミラーなどのニー
     ズに注目して、「真似もしない、真似もされない」を目指し、全製品オリジナルと
     いう開発の取り組みは、中小企業が競争を避けながら成長していくための、わ
     かりやすい成功事例といえるでしょう。

     こうした成功事例は、自社の基本戦略を考えるうえで大きなヒントになるので
     はないでしょうか。

     小さな市場を極めて、その市場で顧客から認められる価値を創造していくこと
     ができれば、模倣ではない自社の特定市場を創造し、競争を避けて勝ち残る
     という優れた経営戦略が実現できるはずです。

     他社がやっているから、利益をあげているから、ということではなく、自社が本 
     当にこだわる製品や技術、サービスがどこにあるのかを見つめ、自社が狙う
     べき市場はどこにあるのかを発見することが、実はもっとも大切な基本戦略に
     つながるのです。
 

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