経営は戦略的思考で
 

  ■戦略的思考を利用する

   1.戦略的思考

     会社の社長や経営幹部の仕事は何でしょうか。

     おそらく「会社を経営すること」という答えが返ってくることでしょう。

     では、「経営する」こととはどのようなことでしょうか。

     社長業の本来の中身はどのような業務なのでしょうか。

     自分は営業が得意だからと営業活動に専念している社長や、管理することが
     得意だからと社員の細かい経費管理まで行なうことに時間を費やす社長など
     も見受けられます。

     しかし、本来の社長業は、会社の理念経営方針を決定して、それを全社員
     で実行していく体制を作り上げること、会社の事業展開を検討して、将来に向
     けてどのような会社を作り上げるかを考える業務であるはずです。

     会社の経営上の目的を効率的に達成するために役立つのが、戦略的思考で
     す。

     「考えるヒント」という感覚で戦略的思考を積極的に利用していくことが、社長
     業の遂行に役立ちます。

     戦略的思考とは、具体的にはどのようなものでしょうか。

     たとえば、次の質問について考えてみてください。

     「現在おかれている会社の環境について考え、その状況を箇条書きで示してく
     ださい」

     この質問にどのように取り組まれるでしょうか。

     周囲の人に意見を聞くという方法もありますし、思いつくままに数えあげるとい
     う方法もあるでしょう。

     もちろん、そのような方法が役に立たないということではありません。

     いろいろな人に意見を聞くことで思わぬ発見があることもあります。

     他人の客観的な分析が、自分では気づかなかった環境について指摘を与えて
     くれることもあるでしょう。

     思いついたままに数えあげることで、無意識に感じていたことが意識に表われ
     てくることもあります。

     しかし、こうした方法は整理された方法ではなく、行き当たりばったりの方法に
     なってしまいがちで、整理された分析は行なわれにくくなります。

     経営環境の分析を行なう場合の戦略的思考のひとつに、自社を取り巻く環境
     を会社の内部環境(人、モノ、カネ、情報など)と外部環境(競合状況、社会状
     況、法律、政治、文化、流行など)に分けて、内部環境の強みと弱み、自社に
     とって有利な外部環境、不利な外部環境を分析する方法が挙げられます。

     この方法を知っているだけでも、先ほどの質問に対して答えを整理することが
     できるでしょう。

     他の例を挙げてみます。

     「お客さまに提供する新しい価値をもった事業を考えてください」という場合、ど
     のように考えるでしょうか。

     これにも戦略的思考方法があります。

     いくつかの方法が提示されていますが、たとえば、「価値を創造する3つの思
     考方法」とでもいうべき方法があります。

     ひとつは、現在ある製品でお客さまが満足していない点に注目する方法です
     (既存の事業をベースに不満足に注目する視点)。

     たとえばソニーの「VAIO」は、パソコンにもデザイン性がほしいという消貴著の
     意見に注目して、デザイン性に重点をおいたパソコンとして開発されました。

     2つ目の視点は、これまで実現できなかった価値を従来の方法と違う手法で実
     現する視点です(新たなビジネスモデルの構築)。

     たとえばパソコンメーカーのデルは、いらないものはほしくない、自分の望むス
     ペックのパソコンがほしいという消費者に、インターネットを通じて顧客の求め
     るスペックのパソコンを直販するという新しいビジネスモデルを構築し、急成長
     を遂げました。

     3つ目の視点は、まったく新しい、価値を創造する方法です(新たな価値蝕造)。

     たとえば宅急便は、国鉄時代には利用者が駅まで荷物を運んでいた荷物輸
     送に、翌日配送で、しかも近くの集配拠点に持ち込めば配達するというまった
     く新しいシステムを作り上げ、新しい価値を創造しました。

     以上の3つの視点が、新しい事業を考える場合の戦略的思考の手段・ヒントと
     なります。

     こうした戦略的思考方法は、今ではさまざまな経営関連の書籍などで紹介さ
     れています。

     自らの解決すべき問題意識を明確にして、それを解決する戦略的思考の方法
     を見つけ出し、それを活用していきます。

   2.戦略的思考を経営戦略に活用

     戦略的思考は、経営戦略のさまざまなステップで活用することができ、社長の
     強い味方となってくれるはずです。

     会社の経営戦略は、環境分析から始まって、自社が力を入れるべき事業を決
     定する成長戦略、成長させる事業に対してどのように限りある経営資源を配
     分していくかを明確にする経営資源配分に関する戦略、各事業で競合他社と
     どのように戦っていくのかを考える競争戦略などの段階があり、それぞれの戦
     略レベルに応じた戦略的思考があります。

     それぞれの段階でどのような戦略的思考が利用できるのかを整理してみま
     しょう。

     最初の段階は、環境分析の段階です。

     この段階の戦略的思考の手段としては、前述した自社を取り巻く環境を内部
     環境と外部環境に分けて分析する方法のほか、顧客、自社、競合の3つの視
     点で分析を行なう「3C分析」(Customer、Company、Competitor分析)な
     どの方法が代表的です。

     環境分析を経て、自社が成長していくために取り組む事業や製品を考える成
     長戦略の段階では、製品と市場の2つを軸にしたマトリクスで分析を行なう「製
     品・市場マトリクス」が代表的な戦略的思考の方法です。

     自社の成長事業・製品が決定された後は、自社のもつ経常資源をいかに有効
     に利用していくかを考える戦略が必要になります。

     これに関しては、大企業が多角化を進めるうえで、自社の経常資源をどのよう
     に投資するかを考えるために、いくつかのフレームワークが提示されている。

     有名なものは、市場成長率と自社の相対的市場占有率という2つの軸を利用
     して、どのポジションにある事業に力を入れるべきか、どの事業を中止するべ
     きかなどを検討するプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)の手法があ
     ります。

     そして、選択した事業・製品で、

      いかに競合他社と競争していくかを考える競争戦略においても、
      いくつかの戦略的思考があります。

     次項では、競争戦略における戦略的思考について解説します。

  □中小企業にとっての競争戦略

   競争戦略に関する戦略的思考には古くからいくつかの方法がありますが、よく利
   用される戦略的思考として、「ポーターの3つの競争戦略」や「市場地位別の競争
   戦略」が挙げられます。

   1.ポーターの3つの競争戦略
     競合他社と比べで自社がどのような強みと弱みをもつかを分析し、コスト面と
     差別化面の2点に注目し、どのような特徴を打ち出していくべきかを考えてい
     きます。

     競合他社に対して、競争優位のタイプ(コスト優位を重視するのか、製品や
     サービスの差別化を重視するのか)、競争戦略のターゲットの広さ(競争優位
     を実現するために、広い業界全体をターゲットにするのか、狭い特定分野を
     ターゲットにするのか)という2つの軸で競争戦略を考えます。

     その結果、

      競争戦略は、「コスト・リーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中化戦略」
      の3パターン(基本戦略)に整理することができます。

     集中化戦略については、さらに「コスト集中」と「差別化集中」に区分することが
     できます。

     大企業の場合、コスト・リーダーシップ戦略(たとえばマクドナルド)か、差別化
     戦略(たとえばソニー)をとることができますが、これらはいずれも経営資源の
     限られた中小企業のとるべき戦略ではありません。

     中小企業のとるべき戦略は、ターゲットを絞った集中化戦略です。

     競合他社と比べて、いかにターゲットを絞るかを戦略の基本に据えるべきで
     す。

     たとえば、本物志向のシャツ作りにこだわり注目を集めているメーカーズシャ
     ツ鎌倉(「天然物」の生地にこだわり、極細糸の80番以上の双糸を使った密度
     の高いステッチで縫製され、天然の高瀬貝使用のボタンなど、特徴あるシャツ
     を提供している)や、天然素材の手作りハンドバッグにこだわり、1998年に日
     本経営品質賞(中小部門)を受賞したイピザ(旧・吉田オリジナル)などの事例
     が参考になります。

   2.市場地位別の競争戦略

     これはF.コトラーの競争戦略で、自社の市場における地位や、競合他社との
     関係に注目した競争戦略です。

     この考え方では、

      企業はその市場地位によって、
      リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーの4つに類型化きれます。
      その類型に応じて、それぞれのとるべき競争戦略を決定していきます。

      (1)リーダー

        リーダーの競争戦略にはいくつかのパターンがありますが、
        第一には、市場シェアの維持と周辺需要の拡大が挙げられます。

        市場内で最大のシェアをもっているという立場がリーダーの強みですか
        ら、この立場を維持しながら市場全体を拡大することを戦略の目標とす
        る。

        周辺市場の拡大によるパイの広がりは、シェアの大きいリーダーにとって
        は優位な展開をもたらします。

        たとえば、市場が日本だけである製品で中国市場への進出も可能になれ
        ば、周辺市場の拡大という視点から、リーダーにとっても中国市場への進
        出は魅力ある戦略になります。

        また、

         非価格競争もリーダーにとって重要です。

        リーダーが価格競争を行なってしまうと市場全体の価格低下につながる
        ため、リーダーにとって価格競争は避けなければなりません。

        したがって、リーダーは新製品の開発やブランドの確立、積極的な広告宣
        伝など、非価格競争で競合企業と戦っていきます。

        第二に、リーダーのとる戦略に、同質化競争という考え方があります。

        リーダー以外の企業が新たな製品を市場に投入したときに、これを模倣
        して同じような製品を市場に投入します。

        こうなると、差別化された製品が同質化され、市場のリーダーにとって有
        利な状況となります。

        たとえば、コーヒー会社が自動販売機向けの缶コーヒーを発売したのに
        対して、飲料メーカーが同じような缶コーヒーを発売し、自動販売機の数
        や従来の販売ルートの強みを活かして、結局は缶コーヒーのシェアをおさ
        えてしまった例や、発泡酒の発売で後発であったビール市場のリーダー
        が、同質の製品を発売してシェアを拡大した例などが挙げられます。

     (2)チャレンジャー

        チャレンジャーは、市場でリーダーと競争できる力をもっている2位、3位
        の企業であり、トップ企業であるリーダーに戦いを挑んでいる挑戦者。

        チャレンジャーの目的も市場シェアの拡大です。

        リーダーの弱みをついたり、自社よりシェアの小さいフォロワーのシェアを
        奪い取ったりする戦略をとります。

        チャレンジャーの基本戦時は、リーダーが真似できない戦略の構築です。

        たとえば、販売チャネルでリーダーとの差別化に成功した例として挙げら
        れるのが、インターネットを利用した直接取引の充実です。

        一般的に、リーダーである企業は販売店契約や販売会社の設立などで
        確固とした販売チャネルを確立していますが、これらのチャネルを大切に
        維持するためには、インターネット取引のような、従来のチャネル構成員
        から批判を招きかねない方法はとりにくくなります。

        チャレンジャーのインターネット・チャネルの構築は、リーダーが真似しに
        くい革新的な方法となりえたのです。

      (3)フォロワー

        フォロワーは、リーダーと争う経営資源のない立場の企業であり、基本的
        な戦略はリーダーやチャレンジャーの模倣です。

        自らは製品や市場の開発に取り組まず、

         リーダーの開発した製品を模倣し、
         経済性を重視しながら後発ならではのメリットを活用し、
         低コストを武器に生存利益の確保を日額に行動します。

        いわば「コバンザメ戦法」ですが、自社の経常資源の制約から、合理的な
        選択の戦略になり得ます。

      (4)ニッチャー

        ニッチャーは、リーダーやチャレンジャーと競合しない特別な領域で、独
        自の地位を築こうとしている企業です。

        細分化した特定の部分市場(セグメント)に特化し、

         その分野の専門企業として、特定顧客をターゲットに、
         一般よりは高価格を維持しながら利益を確保していく戦略です。
         ニッチャーの競争戦略は、中小企業にとって最も適した戦略といえる。

        たとえば、市場に数%程度しかない国産大豆のみ使用した豆菓子のメー
        カー、各地の日本酒に特化した日本酒専門店、アイルランド産のセーター
        であるアランセーターを中心とした品揃えの洋品店、花別の蜂蜜とその紹
        介パンフレットを作成して健康志向で人気の蜂蜜店など、元気のある中
        小企業のとっている戦略です。

        「ポーターの3つの競争戦略」と「市場地位別の競争戦略」を比べてみる
        と、リーダーの戦略はコスト・リーダーシップ戦略に、チャレンジャーの戦
        略は差別化戦略に、そしてニッチャーの戦略は集中化戦略に近いことが
        わかる。

        いずれの戦略をとるにしても、

         自社の競争する領域を明確に定めて集中化できるかどうかが、
         中小企業にとっては重要といえるでしょう。
         競争戦略の決め手は、
         いかに集中できるか、いかに必要でないものを切り捨てられるか、
         にあるのです。

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