物流子会社の設立と経営
 

  ■物流子会社設立のメリット

   メーカーや小売業などが、自社(荷主)で物流子会社を設立するケースはもはや
   珍しくありません。

   中には、日立物流、川鉄物流、キリン物流、東芝物流など、売上高数百億円を超
   える大手企業もあります。

   また、NTTの物流子会社であるNTTロジスコや、三菱商事の物流子会社である
   エム・シー・トランス インターナショナルなど、メーカー以外の商社や情報サービ
   ス会社などが物流子会社を設立するケースもみられます。

   大手企業を中心に物流子会社が設立されている背景には、次のような目的があ
   るものと考えられます。

   (1)物流コストの削減
     物流部門を切り離すことによって、親会社の物流コストの削減を図ることが期
     待できます。

     物流の領域を明確にすることが可能になり、責任を明確にすることもできる。

     そして、物流コストの算定、その変化が容易に分かり、物流管理がしやすくな
     ることが期待できます。

   (2)物流サービスの向上

     分社化によって物流子会社にはコスト意識が芽生え、物流サービスが向上す
     ることが期待されます。

     また、親会社の業務・製品・流通内容を熟知していることから、親会社向けの
     物流サービスについては、どの物流会社よりも良いサービスを提供できる会
     社になる可能性があります。

   (3)親会社の余剰人員の活用

     親会社のスリム化によって生じた余剰人員の受け皿として、また、定年退職
     者、高齢の管理者の受け皿として子会社を位置付けることもできます。

     物流作業は企業内の他部門の作業とは異なるため、別会社にして異なった待
     遇で採用すれば人件費を抑制することもできます。

  □物流子会社の抱える問題点

   メリットが大きい物流子会社ですが、物流子会社、親会社には問題点も存在しま
   す。

   1.物流子会社にとっての問題点

     一般に、物流子会社の経営上の問題点として次のような点が挙げられます。

     (1)コスト面

       ・親会社の料金引き下げ要求により売り上げ、利益が減少する可能性が
        ある

       ・物流子会社自身で戦略的なコスト削減を進めることは難しい

     (2)サービス面

       ・親会社優先の物流サービスとなり、一般荷主の開拓が難しい懸念がある

     (3)労務面

       ・トップの任期が短期間で思い切った改革が進まない

       ・出向者とプロパー社員との確執が発生する可能性がある

       ・出向者が多いと従業員のモラルが下がる可能性がある

       ・物流業に不向きな人材の押し付け人事に発展する可能性がある

       ・パート社員の募集が親企業ほど容易ではない

       ・親方日の丸的な体質になる可能性がある

       ・親企業志向が強く、自発性が欠如する可能性がある

   2.親会社にとっての問題点

     また、親会社側にとっても物流子会社の設立には次のような問題点がある。

     (1)コスト面

       ・物流コスト削減が思ったほど図れない

     (2)サービス面

       ・かえって物流サービスのレベルが低下した

       ・顧客の声が親会社に届きにくくなる

       ・物流協力会社との関係が悪化する可能性がある

     (3)労務面

       ・親会社からの出向者が多く、ビジネスライクな関係がなかなか築けない


   3.親会社と物流子会社が抱える矛盾

     物流子会社と親会社双方の抱える問題点は互いに密接な関係にあります。

     例えば、親会社が物流コストの削減を図るために、物流子会社に対して運送
     料金などの引き下げを要求し、物流子会社がこの要求を受け入れれば、物流
     子会社自身の収益性を悪化させることにつながります。

     つまり、物流子会社は親企業の物流コスト削減に貢献しようとするほど、自ら
     の首を絞めるというジレンマに陥ってしまうのです。

     また、中高年対策として親会社の余剰人員を物流子会社に大量に移籍させた
     場合、親会社にとっては「自社の人件費の圧縮ができる」「ポスト不足を解消
     することができる」というメリットがあります。

     しかし、物流子会社にとっては、人件費負担が大きくなったり、プロパー社員の  
     士気を低下させるなどのデメリットにつながります。

     ほかにも、親会社がほかの会社と合併などをした場合、親会社にとっては有
     益な統合であったとしても、双方(親会社と合併先の会社)が物流子会社を
     持っていた場合には、物流子会社がグループ内に複数存在することになって
     しまいます。

     このように、親会社のメリットが物流子会社のデメリットになるといった矛盾を
     はらんでいるのです。

  □設立における留意点

   ここでは、物流子会社を設立する際の留意点を挙げてみます。

   1.物流子会社設立の目的

     前述したように、親企業が物流子会社に期待するのは「物流コストの削減」「物
     流サービスの向上」「親会社の余剰人員の活用」などです。

     しかし、物流会社を設立する際に、単純にこうした期待イコール設立目的とし
     てしまうと、さまざまな問題が生じることになります。

     そのため、経営多角化の一環として物流子会社を考えることや、物流子会社
     の設立を通じて「関連事業を含めた一元管理をする」「同業会との水平的な共
     同化を図る」「流通段階(卸・小売など)との垂直的な共同化を図る」といった共
     同化を図ることなどを目的の中心に据えることが重要でしょう。

   2.重要なグループ全社の支援

     物流子会社の設立当初は、業務のほぼ100%を親企業およびそのグループ 
     会社から受注に頼ることになります。

     そのため物流子会社の設立に当たっては、親企業を中心としたグループ会社
     全体からの支援を得なければなりません。

     設立目的や取引条件など、後でさまざまなトラブルを起こす原因となるような
     内容については、事前にグループ会社の関係者に周知徹底を図っておく必要
     があります。

   3.事業戦略を立てているか

     設立を目指す物流子会社が将来どのような方向に進むのが望ましいのか、事
     前に事業戦略を立て、「どのような市場を将来狙うのか」「どのような内容の物
     流サービスを行うのか」といった市場や商品について明らかにしていくことが重
     要です。

     例えば市場については、将来「企業グループ物流業務のみ行うのか」「小売・
     卸のどの流通段階まで物流業務を行うのか」「同業他社の物流業務を行うの
     か」「親企業とは異業種企業の物流業務も行うのか」といったことを事前に決
     定しておくべきです。

     また商品については、「将来目指すのは輸送、保管、包装、梱包業務、荷役、
     在庫管理、情報処理、集金回収までも含めた総合物流サービスであるが、設
     立当初は輸送、保管業務を中心とした物流サービスを行う」といったように、将
     来の目指す方向性とその実現段階などを明らかにすべきです。

   4.事業計画の策定

     事業戦略が決定したら、具体的にどのようにその戦略を遂行していくのかとい
     う事業計画を策定しなければなりません。

     まずは、5〜10年間程度の長期計画を策定する必要があるでしょう。

     その長期計画の中では、「自社がどのように物流サービスの総合化を図って
     いくのか」「どのように親企業、グループ会社以外の外部取引先を開拓していく
     のか」「プロパー社員をどの程度に増やしていくのか」といった内容を盛り込む
     べきです。

     この際に留意すべきは、理想は高く掲げながらも、実現可能な計画を中心に
     長期計画を策定していくことです。

  □経営における留意点

   物流子会社の経営に際して物流子会社、親会社双方が留意しなければならない
   点を挙げてみます。

   (1)長期的なビジョンの作成

     ・経営トップを親会社の都合によって頻繁に変えない

     ・社長が変わっても経営ビジョンを変えないようにする

   (2)人材活用策

     ・押し付け人事を排除する

     ・親会社からは出向社員より転籍社員を受け入れる

     ・プロパー社員の登用を図る

     ・物流専門家の育成を図る

   (3)設備計画

     ・物流計画を親会社と子会社双方で立てる

   (4)財務戦略

     ・基本的に物流子会社の経営は独立採算制とする

     ・親会社と物流子会社との取引において料金は世間並みを基本とする

     ・物流子会社から親会社への利益の吸い上げや、親会社からの損失
      補填などをなくす

     ・物流子会社の業績評価、成果配分のルールを明確にする

   (5)コミュニケーション

     ・親企業、グループ企業との太いパイプを持った人材をトップに置く
     ・親会社、子会社間のコミュニケーションの強化を図る

     ・顧客情報を物流会社を通して迅速にキャッチできる体制を整える

   物流子会社設立が単なる余剰人員の活用が主目的であっては決して成果は見
   込めません。

   上記で述べたように、綿密な事業戦略、事業計画を立てることが必要不可欠とな
   ります。

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