接客マニュアルの重要性
 

  ■接客力の見直し

   小売店を訪れるお客様には、経済性を追求する消費者としての一面と、安全で快
   適な生活環境を求める生活者としての一面があります。

   お客様が経済性を求めた場合、お客様は家計を中心に考え、地域の小売店の中
   から少しでも安い商品を購入しようとするでしょう。

   一方、生活者としての一面を考慮すると、経済性を求める消費者とは価値観が異
   なります。

   商品の価格だけではなく、多少高価でも、それにより生活が豊かになる、快適に
   なる、楽しくなるものであれば、そこに価値を求めて購入するのです。

   価格を下げても商品が売れないというときには、消費者としての視点だけではな
   く、生活者としての視点での品ぞろえや販売が重要になります。

   その際には、生活の場面を想定して、商品の利便性、快適性、必要性を検討して
   みましょう。

   例えば、実演販売を考えてみてください。

   単に売場に陳列しただけでは売れないようなものでも、使い方を実演することで
   かなり売れるものです。

   便利なものであっても、その便利さがお客様に伝わらなければ購入にはつながり
   ません。

   商品は、単に陳列しているだけでは、なかなか購入につながらないため、商品メ
   リットや利用方法の提案が必要です。

   気付きや発見を手助けするためにはPOPや販売スタッフによる説明が必要になり
   ます。

   特に接客を要する店舗では販売スタッフの育成は不可欠です。

   最低限、商品知識はしっかり身に付けていなければなりません。

   商品Aと商品Bの相違点、それぞれの長所や欠点を十分に把握しておかないと十
   分な商品説明はできません。

   また、例えば服飾関係の店であれば、単品を売るのではなくトータルファッション
   の提案を行うなど、それぞれの業種に合わせた販売技術が必要となります。

   こうした販売技術は、漫然と仕事をしていては身に付くものではありません。

   定期的に講習会や研修会を開くなどして、販売技術のレベルアップを図る必要が
   あります。

   ここでは、販売店において最も基本的なサービスといえる「接客」について改めて
   考えてみます。

  □接客マニュアルの重要性

   1.接客マニュアルとは
     販売スタッフによって、接客内容が大きく変わってしまうのではサービスの質
     が安定しません。

     たとえ接客内容に差が生じたにしても、すべての販売スタッフが、一定以上の
     サービスの提供ができなければなりません。

     接客マニュアル(以下「マニュアル」)は、接客の基本的なルールを統一し、一
     定以上の接客サービスの質を維持するために不可欠です。

     マニュアルについて考える際に、注意しておきたいことはマニュアルの役割で
     す。

     「マニュアルを実践していれば商品は売れるはずだ」と考える人もいるかもしれ
     ませんが、それは違います。

     マニュアルは、商品を売るためのノウハウを示したものではありません。

     販売スタッフの目的が商品を売ることにあるとすると、目的を達成するために
     はマニュアルだけでは不十分であるといえます。

     もちろん、マニュアルに意味がないといっているわけではありません。

     マニュアルをつくり、それを販売スタッフに徹底させることは非常に重要で、意
     味のあることです。

     なぜなら、マニュアルは、お客様を不快にさせないために、販売スタッフが最
     低限取るべき行動を示したものだからです。

     「マニュアルを実践すれば商品が売れる」というわけではありませんが、「マ
     ニュアルを実践できていないと商品は売れない」のです。

   2.マニュアルは各社異なるもの
     「最低限取るべき行動」というと、業種や業態を問わず同じようなものだと考え
     てしまいます。

     しかし、実際には業種や業態によってマニュアルは異なります。

     また、業種や業態が同じであっても、企業によってマニュアルは異なります。

     これは企業によって、「最低限取るべき行動とは何か」という考え方が異なる
     からです。

     例えば、お客様の入店時を例にみてみましょう。

     お客様の入店時には、販売スタッフは「いらっしゃいませ」と声を掛けるのが当
     然のように思えます。

     しかし、ある販売店では、マニュアルに「いらっしゃいませ」という言葉は存在し
     ません。

     これは、お客様にとって店内はいつでも自由に出入りできる空間であるという
     考えによります。

     「いらっしゃいませ」という言葉は「待ってました」とばかりに待ち構えている様
     子が伝わります。

     お客様が身構えるのを防ぐために、「いらっしゃいませ」という言葉は使わず、
     「どうぞご自由にご覧くださいませ」と声を掛けます。

     また、飲食店などでは、お客様に対して「いらっしゃいませ」でなく「お帰りなさ
     いませ」と声を掛ける店もあります。

     これは、お客様には自分の家であるかのようにくつろいでもらいたい、という考
     えによります。

     このように、「いらっしゃいませ」と声を掛けるのが当然と思われがちな入店時
     でさえ、店によって対応が異なっているのです。

     「周囲の店がそうしているから自店もそうする」のではなく、自店のコンセプトに
     適した接客方法を考えなければいけません。

   3.マニュアルは徹底しなければ意味がない

     マニュアルは、販売スタッフに徹底されなければ意味がありません。

     例えば、コンビニエンスストアで800円の買い物をして1000円を払ったとしま
     す。

     その際、
       「1000円からお預かりします」
     という言葉を耳にすることがよくある。

     しかし、実際には
       「1000円をお預かりします」
     とするのが正しい日本語です。

     大手コンビニエンスストアのマニュアルには「○○円からお預かりします」という
     言葉はないそうです。

     それにもかかわらず、「1000円からお預かりします」という言葉がよく使われ
     るのはどういうことでしょうか。

     仮に、
       「1000円から頂戴します」
     とした場合はどうでしょう。

     この場合
       「(1000円をお預かりします。そして、この)1000円から(800円分の
       代金を)頂戴します。(200円のお返しになりますが、少々お待ちください)」
     と、言葉が省略されていることが分かります。

     百貨店などと違ってコンビニエンスストアではスピードが優先されます。

     しかし、スピードが優先される接客の中で、「少しでも手厚いサービスを提供す
     るには、どうしたらよいか」と考えたときに、おのずと口をついて出たのが、   
     「1000円から頂戴します」という言葉だったのではないでしょうか。

     これを聞いたほかのスタッフが、「なんという気の利いた表現だろうか。マニュ 
     アルにはない素敵な表現ではないか」と思い、その表現をまねしたのでしょう。

     しかし、いつの間にか「1000円から頂戴します」と「1000円をお預かりします」
     が一緒になってしまい、「1000円からお預かりします」という意味の分からな
     い言葉になってしまったのです。   

     こんなことなら、マニュアル通りに「1000円をお預かりします」と言ったほうが
     ずっと気が利いています。

  □事前に決めておくべき接客のルール

   1.マニュアルに記すべき項目とは

     前述のように、マニュアルはお客様を不快にさせないために、販売スタッフが
     最低限取るべき行動を示したものです。

     では、お客様を不快にさせないために、マニュアルに記されるべき項目には、
     どのようなものがあるのでしょうか。

     服装や話し方、電話応対の仕方など、実にさまざまな項目が考えられますが、
     ここでは、「第一印象」をポイントに考えてみます。

     第一印象が人間関係に与える影響は非常に大きなものであることは、周知の
     通りです。

     長期的な人間関係であれば、第一印象が悪くても、挽回する機会はあります。

     しかし、小売店の接客では「お客様と接している時間があまり長くない」「販売
     スタッフに悪印象を抱いたお客様は次から別の店を利用する可能性が高い」
     など、挽回の機会がほとんど与えられません。

     そのため、小売店の接客において、第一印象でお客様を不快にさせるというこ
     とは、店にとって非常に大きなマイナスとなります。

     このことを理解した上で、第一印象でお客様を不快にさせないために考えるべ
     きことを、清潔感、話し方、態度という視点からみていきます。

   2.清潔感の維持

     第一印象と聞いて、まず思い浮かべるのは外見のことでしょう。

     販売スタッフは、常に清潔であるよう気を付けておかねばなりません。

     髪の毛、爪、化粧、鼻毛、ヒゲ、服装などの身だしなみを整えます。

     事前に、洋服にはアイロンがかかっているか、靴は磨いてあるか、爪の手入れ
     はできているかをチェックします。

     髪や顔の部分は鏡に向かって身だしなみと笑顔のチェックをします。

     また、空腹のとき、口内が渇いているとき、疲れているとき、ストレスを感じてい
     るときなどは口臭が発生するケースがあります。

     その口臭を知らずに接客するとお客様に不快な思いをさせる恐れがある。

     この場合、接近した接客は禁物です。

     口臭のチェックなど嫌なものですが、口臭は自分では分からないものです。

     お客様に不快な思いをさせないようにするには、販売スタッフ同士でチェックを
     行うことが必要です。

     しかし、生理的な状況はなかなか指摘しにくいものです。

     そのため、一定時間ごとに販売スタッフ同士で口臭のチェックタイムを設ける
     など、チェックをルール化することで販売スタッフ同士がお互いにチェックしや
     すい環境をつくるべきです。

     特別なことをする必要はありません。

     販売スタッフ同士が近づき、
       「定期チェックお願いします」「はい、OKです」
     というようにするだけです。

     もし、問題がある場合には、
       「後でもう一度お願いします」
     とすれば、お客様に不審に思われることもありません。

   3.話し方

     (1)言葉遣い

       言葉遣いも、販売スタッフの印象に大きな影響を与えます。

       お客様と話すときに敬語でないなど、不適切な言葉遣いは、お客様を「ば
       かにしている」ともとらえられかねません。

       言葉は、直接話しているお客様はもちろん、周囲のお客様にも聞こえるた
       め、適切な言葉遣いが必要です。

       接客を行う者が忘れてはならない言葉として、「接客の基本6用語」と呼ば
       れるものがあります(企業の考えによって表現が異なることがあります)。

         1.いらっしゃいませ

         2.かしこまりました

         3.お待たせいたしました(少々お待ちくださいませ)

         4.申し訳ございません(申し訳ございませんでした)

         5.恐れ入ります(恐れ入りますが…)

         6.ありがとうございます(ありがとうございました)

     (2)販売スタッフ同士の会話

       お客様に対して敬語を使うことは当然ですが、販売スタッフ同士の会話で
       あっても敬語を徹底します。

       販売スタッフ同士の呼び方も、「山田」「鈴木」などと呼び捨てにしたり、「山
       ちゃん」「鈴木ちゃん」などとすると耳障りです。

       「山田さん」「鈴木さん」と呼ぶようにしましょう。

       また、店内でお客様に聞かせたくない言葉を使うとき(「トイレに行ってきま
       す」「お昼に行ってきます」など)は、販売スタッフ同士で使う隠語を決めて
       おくと便利です。

       <隠語の例>

        ・トイレ………1分、1時、1番、点検など

        ・休憩…………2分、2時、2番、事務所など

        ・食事…………3分、3時、3番、電池交換など

       お客様に聞かせたくないからといって、小さな声でひそひそ話をすることは
       よいことではありません。

       お客様が「何か悪口でも言っているのではないか」と誤解するかもしれない
       からです。

   4.販売スタッフの態度

     (1)お客様がいないときの態度

       人は人を呼びます。

       店内にお客様がいると、ほかのお客様も入りやすいものです。

       逆に、販売スタッフがお客様の来店を待っている様子が見えては、お客様
       は店に入りにくいものです。

       店内にお客様がいないときには、
        ・陳列棚の整理整頓、商品の補充

        ・ディスプレイのチェック、変更

        ・伝票や書類の整理

       などをします。

       くれぐれも、「腕組みをする」「壁にもたれかかる」「髪の毛をいじる」
       「販売スタッフ同士で私語をする」など、手持ちぶさたな様子をお客様に
       見せてはいけません。

       特に、食品を扱う売場では、髪や顔を手で触れるのは厳禁です。

     (2)お客様との接し方

       お客様の中には、リピーターとなって何度も店に通ってくれる人もいます。

       そうしたお客様とは、何度も顔を合わせているうちに親しくなっていくことも
       あるでしょう。

       しかし、どんなに親しくなっても、販売スタッフは「お客様の買い物をお手伝
       いする立場にある」ということを忘れてはいけません。

       お客様と親しくなるのは悪いことではありませんが、友達に対するようなな
       れなれしい接し方はよくありません。

       また、店に友人や家族の者が来た場合にも、ほかのお客様と同様に敬語
       で接する必要があります。

       よそよそしいと思われるかもしれませんが、売場ではほかのお客様の目も
       あります。

       お客様に対してなれなれしい態度をとっている場面をほかのお客様に見ら
       れては、「この店は客に対して敬意を払っていない」ともとられかねません。

       同様に、上得意のお客様が来店した場合でも、ほかのお客様の前であか
       らさまに接客態度を変えてはいけません。

       「この店は客を差別している」と、ほかのお客様に不快な思いをさせること
       になってしまいます。

     (3)接客の順番(接客中の電話)

       接客は一人ひとり順番に行う必要があります。

       接客の途中でほかのお客様から「すみません」と声を掛けられることがあり
       ますが、この場合、今対応しているお客様の接客を優先し、ほかのお客様
       には、「はい、次にお伺いいたしますので、少々お待ちいただけますでしょう
       か」と声を掛けます。

       もし、別の販売スタッフがすぐに戻ってくるのが分かっている場合、「別の者
       がすぐに参りますので、少々お待ちいただけますでしょうか」と声を掛けま
       す。

       接客中に店の電話が鳴った場合、接客を優先すべきですが、電話のコー
       ル音が響くと、うるさいし、落ち着きません。

       そこで「誠に恐縮ではございますが、電話が鳴っております。

       すぐに戻りますので、少々お待ちいただけますでしょうか」とお客様の了解
       を得てから電話に出ます。

       電話は手短に済ませるようにします。

       長くなるような場合、折り返し電話をする旨を伝えて、すぐにお客様のところ
       へ戻ります。

       例えば、お客様からの電話の場合、「その件につきましてはお調べして、折
       り返しご連絡させていただいてもよろしいでしょうか」といったように対応しま
       す。

       お客様に対して「ほかのお客様の接客中です」などと言ってはいけません。

       また、お客様以外の場合「今、立て込んでいますので、後ほどご連絡いたし
       ます」と伝えます。

       接客中などと言わなくても、「立て込んでいる」と言えば接客中で、手が離
       せない状況であることが伝わります。

   5.基本が大切

     ここまでみてきた項目は、本当に基本的なことばかりです。

     「基本的なことだから、わざわざマニュアル化するまでもない」と思う人もいる 
     かもしれません。

     しかし、基本的であるからこそ、販売スタッフがこれらを怠った場合、お客様は
     不快に感じるのです。

     そして、お客様に不快感を抱かせてしまっては、そのお客様の商品購入の可
     能性は大きく低下します。

     マニュアルは販売機会を失わないためにあるのだということを理解し、ここに
     挙げた項目を参考に、自社のマニュアルについて、もう一度考えてみましょう。


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