休職制度の意義と会社のリスク


  ■休職制度の意義と会社のリスク

   休職制度とは、社員が労務に従事することが不能または不適当な場合に、その社員
   との労働契約関係を維持しながら、一定期間労働を免除または禁止する措置・制度を
   いいます。

   休職制度は労働基準法等で義務付けされたものでなく、あくまで会社が任意に定める
   ものですが、多くの会社は休職制度を導入し、長期雇用を前提とした人材の有効活用
   を進めています。

   加えて、解雇猶予措置として休職制度を利用することにより、労働契約の終了に円滑
   に移行するための手段としても重要になると考えられてきました。

   そのため、休職期間が終了しても職場復帰できない場合は、自然退職または解雇
   になるのが一般的な考えとなっています。

   このように、休職制度は、会社にとってメリットのある制度ではあるものの、一度導入
   すると、不利益変更は簡単には行えなくなるので、その内容については慎重に検討
   する必要があります。

  □休職制度の種類

   1.私傷病休職

     社員が業務外での傷病(いわゆる私傷病)により、休職期間中に復職のめど
     が立たない場合などに、労務への従事を一定期間免除するという制度です。

     私傷病休職期間中に復職ができない場合、通常は自然退職または解雇に移
     行します。

     なお、私傷病休職を行っても治癒することが困難な社員については、私傷病
     休職を行わずに解雇に移行するケースもあります。

   2.自己都合休職

     社員が個人的な理由により一定期間休職する場合の制度です。

     休職の理由としては、海外留学やボランティア活動などが挙げられます。

   3.公職就任による休職

     社員が国会議員や地方議員等の公職に就くことにより、労務への従事ができ
     なくなった場合に、その期間を休職させる制度です。

   4.出向休職

     社員が出向により出向元の労務への従事ができなくなったとき、その出向期
     間につき出向元での労務を免除する制度です。

   5.起訴休職

     社員が刑事事件で起訴された場合で、その事件が裁判所に係属する間は休
     職させる制度です。

     なお、起訴休職を導入するということは、通常裁判が確定するまでは解雇はな
     いといった決め事にもなるので、導入には注意が必要になります。

   6.組合専従休職

     労働組合への便宜供与の一つとして、社員が労働組合の専従職員となる場
     合に、社員としての立場を維持させたまま労務への従事を免除し休職とする
     制度です。

     なお、当該制度を「在籍専従」といいます。

  □私傷病体職制度を導入する際の注意点

   休職規程を設定するかどうか、また設定する場合、その内容は企業側が自由自
   在に改定できる。

   ●対応策

    「1カ月間私傷病で欠勤した場合は、休職を命じる場合があります」とし、休職の
    実施判断をあくまで会社側の権利とします。

    復帰の可能性がないと会社側が判断した場合は、休職ではなく普通解雇として
    対応する選択肢を持つことは重要です。

    休職規程でトラブルになるのが、休職期間中の社会保険料です。

    休職期間中に賃金を一切支払わなかったとしても社会保険料の負担は生じる。

    休職期間中は賃金の支払いがないため、控除することはできません。

    毎月会社に支払ってもらうか、復職時に一括あるいは分割して支払ってもらうか
    など徴収ルールを明確化すべきです。

    現実的には復職時の一括支払は負担が大きいので、定期的な会社への支払に
    なろうかと思います。

    休職事由が再発した場合のルールを明確化します。

    休職制度を悪用して、何度も休職や復職をする社員を存在させないよう、同一
    傷病や同一に近いと思われる傷病での休職は原則として認めないものとする。


   休職制度を一度定めると、それが会社の一般規則になります。

   ですから、休職制度の内容については、会社の文化や規模、休職の目的をきちんと
   理解した上で慎重に検討しなければなりません。

   以下では、企業が「私傷病休職制度」を定める場合の主なポイントと注意点を解説
   していきます。

   1.私傷病休職制度の対象者

     多くの国内の会社は、長期雇用を前提に休職制度を導入しているケースがほ
     とんどです。

     ですから、対象者を「正社員のみに限定する」というのが一般的です。

     しかし、労働契約法第16条では、次のように定められています。

     【労働契約法第16条(解雇)】
      解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められ
      ない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

     こうした環境の中で、現代のように精神疾患の社員が増えている状況に対応
     するためには、正社員だけでなく有期契約社員やパートタイマーといった非正
     規社員にも対象範囲を広げて定義付けを行うことも検討に催するかもしれま
     せん。

   2.私傷病休職制度の期間

     上記、「1 私傷病体職制度の対象者」と同じように、長期雇用を前提としている
     国内の会社においては、解雇の猶予である私傷病休職期間は、勤続年数の
     長ざに応じて休職期間を定めているケースがほとんどです。

     ここで注意したいのは、会社規模に見合った休職期間を設定しているか否か
     です。

     大企業の就業規則のひな型をそのまま使用している中小企業の就業規則
     に、休職期間が3年と記載されていたケースがありました。

     ぎりぎりの人数で業務を行っている中小企業の場合、3年もの間、残りの社員
     で業務を回していくことは非常に困難であり、当然休職者が出た場合は補充
     人員を確保しなければなりません。

     仮にその補充人員が優秀であって、その後に休職者が復職してきた場合で
     も、企業は復職者を簡単に解雇することばできません。

     中小企業の場合に休職期間を設定する際は、人員が欠けたとして、どの程度
     業務を補えるかを中心に考える必要があります。

     派遣社員やパートタイマーを補充人員と考えると、最長でも6カ月程度が限度
     というところではないでしょうか。

   3.私傷病休職期間中の処遇

     休職期間中の賃金については、ノーワークノーペイの原則に従い、原則無給 
     としたほうがよいかもしれません。

     理由としては、有給とした場合に使用者の賃金負担が発生するということに加
     えて、賃金が保障されていると、社員の職場復帰に対する意欲が減退してしま
     うのではないかという懸念があるからです。

     休職期間中については、健康保険から傷病手当金が支給されるため、社員の
     生活の最低限の安定は保たれるのではないでしょうか。

     もちろん、経営者の意向と自社の財務状況によっては、福利厚生の観点で一
     定期間を有給とするのも問題はありません。

   4.私傷病休職期間中の勤続年数の算定

     会社が勤続年数を評価するものとしては、「表彰」「賞与」「退職金」「私傷病休
     職」「年次有給休暇」などが挙げられます。

     では、私傷病休職期間中は勤続年数に含めるべきなのでしょうか。

     そもそも私傷病体職制度とは、企業が社員に対して、長期雇用を前提として一
     定期間治療に専念してもらうことを目的に、恩恵的に与えたものですから、通
     常の大多数の社員との均衡を考えると、「例外に例外はない」という通り、勤続
     年数に算入しないほうがよいと考えます。

     ただし、年次有給休暇については有給付与の対象期間において80%以上の
     出勤率があれば法律上当然に発生する制度であるため、対象期間に80%以
     上の出勤率があるかどうかで判断することになります。

     なお、有給休暇の算定にあたり、勤続年数には休職期間を含みますが、休職
     期間は出勤したことにはなりません。

   5.復職に際しての取り決め

     休職者の復職に際しての手続きの流れをあらかじめ休職規定に取り決めてお
     くことが重要です。

     職場環境における社員の安全配慮義務は使用者側にあるため、復職する社   
     員が本当に問題ないかの確認は慎重に行う必要があります。

     そして、復職の可否を最終的に決定するのは使用者側の人事管理権の行使
     になります。

     具体的には、以下の内容を明記しておく必要があります。

     これにより、休職者との復職にあたっての争いが避けられるわけです。

      ・休職者の主治医による診断書だけでなく、復職の判断には使用者側の
       産業医等の診断書も含めて検討する

      ・最終的な復職可否の判断は会社が決定する

     また、通算規定制度の導入も考えられます。

     これは、休職者が休職期間満了時に復職をしてきて、数カ月以内に再度私傷
     病休職に入るのを防ぐためです。

     そのためには、以下の休職期間通算規定を入れておくことも重要になります。

      休職期間終了後、復職した社鼻が、その後3カ月以内に同様または類似の
      傷病、事由  により再度欠勤をした場合、もしくは、通常の労務提供ができ
      なくなった場合は復職を取り消し直ちに再休職とします。この場合の休職期
      間は復職前の休職期間の残期間とします。

  □私傷病休職に関する具体的な対応

   1.休職発令を行う場合

     最初に休職規定に定められた休職事由に該当するか否かを確認します。

     休職事由に該当しないにもかかわらず休職発令を行った場合、賃金債権を請
     求されるケースがあります。

     こうしたことがないように、休職事由に該当するか否かを確認する時点で社員
     から医師の診断書を提出してもらい、不十分であれば使用者側の産業医等に
     よる診断書も加えて、形式的ではなく実質的に労務が提供できる状態ではな
     いという判断を出した上での休職発令を行います。

   2.休職事由が業務災害であった場合

     私傷病と業務災害とでは法的規制は全く異なるものとなります。

     私傷病の場合は、会社の休職規定に従い処理を行います。

     休職期間中に復職のめどが立たないときは、最終的には自然退職または解
     雇になりますが、業務災害の場合は、業務災害中およびその後30日について
     は解雇ができなくなります。

     そして、業務災害の場合、社員に対して休業補償給付等で賃金の80%が支
     給されます。
     さらに、使用者責任があった場合には、賃金100%までの差額分20%を安全
     配慮義務や注意義務違反により損害賠償請求される可能性も出てきます。

     なお、ここで注意してほしいのは、通勤災害は私傷病災害であるということで
     す。

     通勤災害労災給付の対象にはなりますが、使用者側の損害賠償責任や上
     記解雇制限はなく、就業規則の休職規定の問題となります。

     また、年次有給休暇の出勤率を計算する場合の出勤ともみなぎれません。

     ところで、業務災害については、社員の申請に基づき労働基準監督署が最終
     的に支給決定しますが、労災認定にはとても時間がかかります。

     一方で私傷病の場合は、健康保険から傷病手当金を比較的容易に受給する
     ことができます。

     ですから、業務災害の場合は、とりあえず私傷病扱いにして傷病手当金の申
     請を行い、社員が労災申請を行うというのであれば、使用者側がそれについ
     て把握する事実の証明を正確に行った上で、労働基準監督署に申請を行え
     ばよいでしょう。

     なお、労災認定がされた場合は傷病手当金等の精算が発生するとともに、一
     定期間は解雇制限の規制が適用されますから、休職規定に従い自然退職ま
     たは解雇を行うことができません。

   3.復職における判断

     私傷病が治癒すれば復職可能かどうかの判断を行います。

     これは休職期間中に行うものです。

     「当初は軽易業務に就かせればほどなく通常業務へ復帰できるという回復ぶ
     りである場合には、企業にはそのような配慮を行う義務がある」という判例もあ
     り、ほどなく業務を行える状態であれば、復職を認める必要があるケースが少
     なくないでしょう。

     ただ実際に医師の診断書や休職社員との面談では、ほどなく業務を行えるか
     の判断は難しいケースが多く、やはり復職の可否を判断するために必要な、
     復職可否判断期間を設ける必要があると思います。

     この場合の注意点としては、休職規定に復職可否判断期間を設ける旨と、そ
     の際の賃金等の詳細を合理的範囲内で定めておくことです。

   4.復職可否の立証責任

     復職する能力があることの立証責任は当初は社員にあります。

     つまり、私傷病休職の原因は社員側にあり、それが治癒したという状態を証明
     しなければならないのは、原則としてそれを主張する社員と考えるからです。

     ただし、社員が立証した治癒状態に対して、使用者が反証を行わず、または
     行えずに自然退職や解雇とした場合には当該措置は無効になる可能性が高
     いと考えます。

     この間題は、社員の生活に直接関係するものですから、トラブルが発生する
     ケースが多いです。

     従って、復職不可とする場合は、使用者側は先の復職可否判断期間も含めて
     十分な反証の準備を行う必要があります。

   5.休職者が提出する診断書への対応

     長い間就労不能であった社員が、休職期間満了間際に就労可能の診断書を
     提出してきた場合はどう対処したらよいでしょうか。

     社員の主治医は会社の業務内容を詳しく知っているわけではないので、特に
     精神疾患の場合は、本当の意味で就労可能かどうかを診断するのは難しいと
     思います。

     このような場合は、休職規定に医師への面談を依頼する旨の内容を設けてお
     いて、実際に社員同席で医師との面談を行います。

     何も問題がなければ医師との面談を断る理由はないはずです。

     そこで注意したいのは、医師が最近出している薬の分量を聞くことです。

     処方箋には医師の本音が出るからです。

     薬の情報を産業医などに確認すると、実際にどの程度の症状なのかが分かり
     ます。

     そして一番重要なのが、最終的な判断を行うのは人事管理権の行使が行える
     使用者側です。

     総合的に見て復職できないと判断した場合は、安全配慮義務がある使用者の
     責任として復職不能の判断をしなければなりません。

   6.リハビリ勤務期間

     エールフランス事件の判例では、ほどなく業務を行えるとは健康状態が80%
     程度に回復している状態をいい、80%程度の回復が認められるなら復職をさ
     せなければならないといった内容でした。

     本来、社員が健康なときと同じように労働を提供できないのであれば、先に述
     べたノーワークノーペイの原則が用いられることになります。

     しかし最近の判例では、復職可否の判断で使用者側がどの程度熟慮していた
     かが問われることが多くなってきています。

     そこで、残りの20%を回復させるための「リハビリ勤務期間」という考え方が重
     要となってくるわけです。

     休職期間が満了したから当然に自然退職や解雇とするのではなく、使用者側
     にある一定のリハビリ期間を設ける等の配慮が求められるということになりま
     す。

     そこで、リハビリ勤務を行う際に、治癒したかどうかの判断と治癒した場合の
     復帰手順を示すことが重要になってきます。

     大まかな手順としては「社員の復職可否の判断」「復職できた場合の復職日や
     リハビリ復職時の賃金等」について、「最終的な本復帰の判断方法」「リハビリ
     勤務後の本復帰手順や本復帰困難な場合の処置」などを定める必要がある
     でしょう。

   7.休職制度の不利益変更

     今現在休職規定があり、その内容について変更を行いたいといった場合の対
     処について考えてみたいと思います。

     不利益変更と考えられるものとしては、休職期間の短縮や休職期間中の賃金
     を有給から無給に変えるといったケースがあります。

     今現在、健康で就労中の社員にとっても潜在的な不利益変更にはなります
     が、不利益変更の度合いは社員が現在休職中かどうかによって解釈が全く異
     なります。

     ここで、就業規則の法的な定義として労働契約法第7条は「社員及び使用者
     が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定めら
     れている就業規則を社員に周知させていた場合には、労働契約の内容は、そ
     の就業規則で定める労働条件によるものとする。

     ただし、労働契約において、社員及び使用者が就業規則の内容と異なる労働 
     条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限
     りでない」となっています。

     つまり、通常労働契約は使用者と社員の合意があって成立するものですが、
     労働契約法は就業規則に合理的な労働条件を定めていれば、社員の個別具
     体的な同意がなくともその内容が雇用契約になるということです。

     従って、不利益変更の内容が合理的である必要が求められます。

     そのため、就業規則の不利益変更については、変更に関する合理性の判断
     要素の一つである「社員の被る不利益の程度」を熟慮する必要があります。

     これについては実際に休職中の社員に対しては当てはまる場合がほとんどな
     ので、休職期間や賃金の有無などは旧規定をそのまま適用するなどの対応
     が必要になってくるでしょう。

     休職とは、「ある従業員に職務に従事させることが不能であるかもしくは適当
     でないような事由が生じた場合にその従業員に対し、従業員の地位は現存の
     まま保有させながら執務のみを禁ずる処分とされています。

     このような休職制度を設けるかどうかは任意ですが、この制度を設ける場合に
     は、就業規則に記載すべき事項すなわち、相対的必要記載事項(労働基準法
     第89条第10号)となります。

     したがって、休職の定めをする場合には、休職事、休職期間、休職期間中の
     給与の支払いの有無、また、休職期間満了あるいは休職事由消滅後の復帰
     の際の取扱いなどについて定めておかなければなりません。

 
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