高齢社員のスキルを移転
 

  ■高齢社員のスキル移転

   日本では少子高齢化が急速に進み、続々と高齢社員が定年を迎えている。

   少子高齢化は、労働力人口の減少という形で労働市場にも影響を及ぼしています。

   2006年4月から、定年の延長や継続雇用制度の導入などが法的に義務付けられて
   いるとはいえ、今では高齢社員が一度に大量に退職していっています。

   労働力人口が減少すれば、企業は従業員の生産性を高める必要に迫られます。

   また、問題となっているのが、「高齢社員の定年による大量退職」です。

   この年齢層の人々は、いわゆる団塊の世代として知られ、日本の経済成長を長らく
   支えてきました。

   少子化が進み若年労働力が減少していく中、彼らが長年磨いてきたスキルをより若い
   社員へ伝えていくことは急務といえます。

   高齢社員がもつスキルをうまく移転する方法について考えます。

  □スキル移転のパイプ役

   1.高齢社員の性質

     高度成長期のころは、特に労働力不足でしっかりした教育体制など整っていな
     い企業がほとんどでした。

     当時はいい意味でも悪い意味でも、先輩・後輩や上司・部下といった関係が
     はっきりと分かれており、スキルは「見て学びとるもの」といった風潮が強かっ
     た時代です。

     従って、この時代に育った現在の高齢社員の中には、自分の持っているスキ
     ルを教えるもしくは伝えることを不得意としているという人が珍しくありません。

     また、若手社員を教育する際は「ここまで教えているのに」といった気持ちを抱
     き、イライラすることも少なくないでしょう。

     もちろん、教育が得意で自分のスキルを落とし込むことなど造作もない、といっ
     た高齢社員もいるでしょう。

     しかし、自社が高齢社員の持つスキルをうまく移転する方法を整備するとき、
     高齢社員は教育することが不得意な場合がほとんどであるとした上で、体制
     づくりをしないと、スキルはうまく移転しないでしょう。

     この際、最も重要な役割を担うのが、スキルの移転を助けるパイプ役です。

  □パイプ役のイメージ

   パイプ役のイメージは以下の通りです。

   パイプ役は、高齢社員とスキルの移転先となる社員の間に立って、

    ・高齢社員のスキルに関する情報をヒアリングする

    ・ヒアリングした内容を整理する

    ・移転先社員に必要な部分を教育する

   といった役割を担います。

   その後は、パイプ役が整理した内容に沿って、高齢社員が移転先社員に直接教育を
   行い、スキルを移転していきます。

   こうすることで、

    ・高齢社員が、移転先社員に移転すべき内容を自覚できる

    ・移転先社員が、学ぶべき内容とその概要を知り、習得のスピードが上がる

    ・内容が整理されたことで、高齢社員も移転先社員もスキルの移転・習得を
     仕事としてより深く認識するようになり、責任感が強まる

    ・高齢社員と移転先社員の適度な距離を保つことで、両者が良好な関係を維持
     しやすくなる

    ・上司が、高齢社員とパイプ役からの情報を総合することで、スキル移転の進
     ちょくを把握しやすくなる

   などの効果が期待できます。

   実際にこうした効果が得られるかどうかは、パイプ役の力量にかかっています。

   そのため、パイプ役の人選は極めて重要です。

   パイプ役は、高齢社員と良好な関係を築いてより多くの情報を引き出せるか、得
   た情報をうまく整理できるかがポイントになります。

   従って、一般に以下のような社員がパイプ役としては望ましいでしょう。

    ・高齢社員と同じ立場か上の立場、もしくは高齢社員が認めている社員

    ・コミュニケーション能力が高い社員

    ・仕事を分類し、整理する能力が高い社員

   高齢社員より下の立場の社員をパイプ役にすると、高齢社員に軽くみられたり、
   パイプ役が遠慮がちになり、欲しい情報を得にくくなる可能性があるため、直属の
   上司がパイプ役になるのもよいでしょう。

  □パイプ役の仕事

   1.ヒアリングのアウトプットイメージ

     パイプ役は、ヒアリングによって、高齢社員が持つスキルに関する情報を引き
     出し、それを整理します。

     整理は、

      ・高齢社員の仕事を分類して体系化する

      ・体系化した仕事の項目ごとに注意している点や重要な事例をまとめる

     といった形式で行います。 

   2.スキル情報のヒアリング

     パイプ役は、ただ漫然とヒアリングを行っているだけでは、「必要なことをなか
     なか聞き出せない」「得た情報を整理できない」といった事態に陥ります。

     ヒアリングは、以下の点に注意して実施します。

     (1)高齢社員への意識付け

       まずヒアリングに入る前に、高齢社員へ

         スキルの移転=優先順位の高い仕事

       という意識付けを与えましょう。

       高齢社員はいくら定年が近づいているといっても、ほとんどの場合、自分の
       仕事を持っています。

       さらに高齢社員が、前述のような「スキルは見て学びとるもの」という意識を
       持っていれば、スキルの移転は後回しにされがちです。

       まず、スキルの移転を優先順位の高い仕事として意識付け、きちんと時間
       を作ってヒアリングを行います。

       また、パイプ役が意識付けをしたことで、高齢社員とパイプ役の関係が悪
       化することを避けるためにも、意識付けはパイプ役を選定した上司が行い
       ましょう。

     (2)パイプ役がヒアリングに臨む姿勢

       パイプ役は、とにかく高齢社員に自由に気軽に話してもらうことを心がけま
       しょう。

       雑談なども交え、堅苦しい雰囲気を取り除くことです。

       また、パイプ役は、否定的な意見を口にしないようにしましょう。

       目的はあくまで情報収集です。

       長時間にわたって話が脱線する場合は仕方ありませんが、基本的に話の
       腰は折らず、できるだけ多くの話を聞いて、パイプ役がそれを取捨選択して
       まとめる姿勢で臨みましょう。

       また、パイプ役は高齢社員に対して、常に敬意を払うようにします。

       立場はパイプ役のほうが上かもしれませんが、気持ちよく話してもらうこと
       が大切です。

     (3)ヒアリングの進め方

       まず、高齢社員の仕事の内容をヒアリングします。

       パイプ役は、ヒアリングの前に、高齢社員が業務フローやマニュアルなどを
       持っているかどうかを確認し、あれば事前に目を通しておきます。

       ただ、それらの資料を基に話を進めるのではなく、仕事の内容を整理する
       ための予備知識と考えましょう。

       実際は、パイプ役が高齢社員に1日・1週・1カ月・1年などの期間を区切っ
       て、その間に行っている仕事の内容を聞きます。

       最初から漠然と「どんな仕事をしていますか」と聞くより、高齢社員が自分
       の仕事をイメージしやすくなります。

       パイプ役は、高齢社員から聞いた情報をホワイトボードに書くなどして、本
       人に確認しながら進めることです。

       業務資料がある場合は、聞いた情報と資料の各項目を対比させて確認し
       ていくのもよいでしょう。

       ここで注意したいのは、

        高齢社員の仕事の内容の整理は、あくまでパイプ役が行う

       ということです。

       高齢社員が整理することに集中すると、逆に考えが狭まってしまい、発言
       が滞ってしまいがちです。

       ヒアリングの後、パイプ役は、得た情報を整理して業務体系表にまとめま
       しょう。

       一度にまとめる必要はなく、適宜高齢社員に確認してもらい、何度かヒアリ
       ングを重ねて仕事の内容が網羅できた段階で確定します。

       また、パイプ役は高齢社員が長期間携わっていた仕事、自信があった仕事
       などを中心に、過去の仕事についても内容をヒアリングしてみます。

       高齢社員の過去の仕事の中で、パイプ役がスキルポイント表を作成する価
       値があると判断した場合は、業務体系表を作成します。

       なお、この段階では、関連資料欄は空欄で構いません。

       業務体系表が完成したら、次はスキルポイント表です。

       業務概要は、これまでのヒアリングの内容からパイプ役が作成して、高齢
       社員に確認を取ります。

       スキルポイント表のポイント欄に書く内容は、業務体系表の詳細項目ごと
       に、高齢社員に以下の点を確認して決めます。

        ・失敗したこと

        ・注意していたこと

        ・苦労したこと

        ・うまくいったこと

        ・やってみたかったこと

       重要なのは、高齢社員に話してもらうことです。

       ポイント欄に記載するかどうかは、後にパイプ役が決めればよいことです。

       「複数の業務項目にまたがる」「この業務項目に当てはまるかどうか分から
       ない」と高齢社員が思っている内容も、とにかく話してもらいましょう。

       高齢社員が話しにくいようなら、より大きな業務項目ごとにヒアリングし、後
       に、パイプ役がポイント欄に書くべき内容を選択して、詳細項目ごとに当て
       はめていくのもよいでしょう。 

       また、高齢社員が自身の管理用に作成しているメモや資料など、関連資料
       があればどんどん提出してもらい、必要に応じて業務体系表の関連資料欄
       に記載しましょう。

   3.スキル情報の移転

     業務体系表とスキルポイント表が完成したら、この2つの表を基にして、移転
     先社員を教育していきます。

     教育の主眼は、

      ・高齢社員が行っている仕事の流れと概要を理解させる

      ・高齢社員が多くのスキルを保持していることを理解させる

     ことにあります。

     高齢社員も同席し、業務体系表とスキルポイント表の業務概要の部分を中心
     に、移転先社員に説明しましょう。

     そして、移転先社員が高齢社員と実際に仕事をしながら教育を受けるに当
     たって、常に業務体系表に立ち戻り、いま習っている内容の位置を確認するよ
     う指導します。

     そうすれば、移転先社員の頭の中が整理されて、体系的に効率よくスキルを
     身に付けていくことができるでしょう。

     スキルポイント表のポイントについては、特に移転先社員が感銘を受けそうな
     ものをいくつかピックアップして紹介します。

     そうすることで、移転先社員が、

      ・スキルを身に付けようとする意欲を高める

      ・高齢社員を尊敬する

     ようになることを狙います。

     そして、スキルポイント表に記したポイントや事例は一部であり、今後、高齢社
     員から教わることをどんどん付け加えていくように、移転先社員に伝えましょう。

     これから高齢社員と移転先社員が直接教育に入るに当たって、いつでも気軽
     に相談を受ける旨と「ぜひ頑張ってください」という言葉を添えて、パイプ役の
     仕事はいったん終了です。

     その後は、適宜両者に話しかけて、両者の関係が悪化していないかを確認す
     るとともに、力になれそうなことがあれば手助けするようにします。

  □まとめ

   紹介した手順は、パイプ役の性質や能力によって成果が大きく左右されます。

   パイプ役を選ぶ立場にある上司は、よく資質を見極めて選択しましょう。

   適当な社員がいない場合は、上司自身がパイプ役になることも検討します。

   パイプ役の仕事は、高齢社員の業務経験やスキルによって異なりますが、かなりの
   量になります。

   従って、パイプ役が仕事の内容をヒアリングし、整理するだけでも相当の時間を要す
   るでしょう。

   しかし、高齢社員が退職してしまえば、その長年培ってきたスキルは完全に失われて
   しまいます。

   スキル移転は大変ですが、いま時間をかけることでそのスキルが社内にとどまり、
   新たに活用される可能性が残ります。 

   ただし漫然と行うのではなく、明確な期限を設けましょう。

   これは、パイプ役の仕事だけではなく、高齢社員による移転先社員の直接教育につい
   ても同様です。

   今回紹介したように文字でまとめることができても、特に製造部門の技術やベテラン
   営業マンが自分の経験のなかで独自に身につけてきた感覚など暗黙知と呼ばれる
   「身体で覚える」スキルは、習得するまでにかなりの時間を要します。

   高齢社員が持っているスキル・知識・情報を、会社の財産として共有し、有効活用
   するナレッジマネジメントの導入は必要不可欠です。

   業務体系表を基に、スキル移転に必要な期間を推測するとともに、できるだけ早く
   着手することが肝要です。

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