中小企業に求められる福利厚生


  ■福利厚生の定義

   福利厚生とは、賃金など基本的な労働条件とは別に、企業が従業員やその家族の
   福祉の向上を図るために設ける諸制度のことをいいます。

  福利厚生の内容

   福利厚生は、「法定福利」と企業が独自に行う「法定外福利」とに分けられます。

   法定福利は、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労働者災害補償保険の保険料
   などの事業主負担分がその具体的内容になります。

   これら社会・労働保険は、強制加入を原則としており、企業の福利厚生として基本中
   の基本です。

   法定外福利は、原則的には事業主の裁量によって決められるものです。

   その範囲は、住宅取得などの生活援助的なものから、健康や文化・体育など多岐に
   わたります。

   法定外福利はあくまでも事業者側の任意によるものですが、人材の確保・定着や労働
   意欲の醸成など、労務管理のうえで欠くことのできない施策になっています。

   また、従業員が求める福利厚生への要求レベルも多様化・高度化している現在、この
   法定外福利厚生の役割はますます大きくなってきています。

  □今後の福利厚生のあり方

   社会と経済の急速な変化により福利厚生へのニーズが変わってきたことから、その
   あり方を再考する必要が出てきました。

   ここでは最近の福利厚生を取り巻く経営上の環境変化を整理し、今後の福利厚生の
   あり方を探っていきます。

   1.経営環境の変化

     平均寿命の伸びと少子化現象により、わが国は急激な高齢社会に直面してい
     ます。

     一方、経済が成熟化し売上の急拡大が難しくなるなかで、会社の総人件費の
     負担増などが懸念されています。

     さらに、高齢者・女性・パートタイム労働者などの増加による従業員構成の変
     化や、職種、雇用形態の多様化も会社に大きな影響を与えつつあります。

     このようなことを背景に、次に示すように会社側、従業員側の福利厚生への考
     え方も変化しつつあります。

     (1)会社側の変化

       ①これまでの量的拡大一辺倒の経営から、会社の創造性や独創性、社会
         的貢献や文化的活動を重視するなど、価値観に変化が生じている。

       ②人事異動はグループ企業内へと拡大し、また国際化の進展にともない 
         外国への転勤者が増加し、福利厚生の扱い範囲に問題が生じている。

       ③会社の人件費総額(賃金、退職金、社会保険料、福利厚生費)が増加し
         ており、とくに社会保険料の伸びが大きくなっている。

     (2)従業員側の変化

       ①高齢化が急速に進展し、退職後の生活への関心が高まっている。

       ②人々の生活は豊かになり、意識も「モノからココロ」へ移行し、生活のゆと 
         りを強く志向するようになっている。

         その結果、とくに労働時間短縮や余暇への要求が強くなっている。

       ③個人の欲求も多様化し、仕事での自己実現を求める者、家庭・社会での
         生活を重視する者などと分化が進んでいる。

         とくに生涯全体を通じた生活の安定、生きがいの獲得への関心が強く
         なってきている。

   2.福利厚生の基本的な方向性

     このような変化にともない、福利厚生施策についても従来のような画一的なも
     のではなく、それぞれの事情に応じたきめ細かな対応が求められています。

     福利厚生のどこに重点をおくかは、各会社の考え方によっても異なってきます
     が、前述した環境変化を踏まえると次の点を考慮した施策の展開が考えられ
     ます。

     (1)高齢化や業務遂行からくるストレスを考慮した予防重視の「健康づくり」
       高齢化や業務の複雑・高度化にともない、働く人の健康管理が大きな問題
       になっています。

       健康であることが職場生活や個人生活を活性化させることにつながってい
       くため、治療中心の対応ではなく、メンタルヘルスも含めた予防重視の健
       康管理が求められています。

     (2)ゆとり・豊かさ実現のための「土地、住宅関連施策」
       サラリーマンにとって持ち家の取得は(地域差もありますが)大きな関心事
       です。

       国の施策もかかわってくるため、国、企業、個人の調和のとれた、会社とし 
       てどのような支援をどの程度すべきかを検討していきます。

       支援策充実のための具体例として、貸付枠の拡大、利子補給、不動産物
       件の斡旋などがあげられます。

     (3)生涯敦育の視点に立った「自己啓発の支援策」
       人生80年時代を迎え、退職前後の生活の仕方がたいへん重要になってき
       ています。

       会社にも生涯教育の視点に立った自己啓発の支援が求められています。

     (4)少子化、高齢化を背景にした「育児、介護の関連施策」
       少子化と高齢化は表裏の関係にありますが、いずれもわが国の将来にとっ
       て大きな問題になっています。

       育児問題と介護問題については、育児・介護休業法によって制度が整備さ
       れていますが、企業にはこれを補完する形で将来を見据えた対応が求めら
       れています。

     (5)文化、体育、レクリエーション活動、保養所など「余暇活動への援助」
       従業員からは、心身のリフレッシュをするための余暇活動への援助を希望
       する声が大きくなっています。

       これら社会の動き、従業員のニーズを的確にとらえ、自社にとってどのよう 
       な福利厚生が可能であるかを検討し、効率的な施策を実施する必要があり
       ます。

  □中小企業にとっての福利厚生

   中小企業にとっての福利厚生は、どのようにしたらよいのでしょう。

   一般的に中小企業において、賃金などの労働条件を大企業並みに充実させることは
   難しいでしょう。

   このことは福利厚生施策の実施についてもいえることで、大企業との格差が以前から
   指摘されていました。

   しかし、企業の行う福利厚生施策は、従業員に働きがいをもたせ、労働力を有効的に
   活用することを目的としており、ひいてはその企業における労働者の募集、採用、定着
   など、人材の確保にも役立っていきます。

   それだけに、福利厚生施策の拡充は、魅力ある企業をめざす中小企業にとって避け
   ては通れない課題といえます。

   そして、中小企業における福利厚生のあり方として、大企業以上に次のようなことを
   考慮することが大切です。

    ・会社の費用負担を考え、最小のコストで最適の効果を生む施策を考える

    ・多様化する従業員ニーズに対し、優先順位を付けるなど、従業員の最大の満
     足を得られる施策を展開する

    ・大企業にないユニークな施策で従業員や募集対象者にアピールする

    ・利用者が一部に偏らないように、全社員が享受できる施策を考える

   こうした課題に取り組み、中小企業の福利厚生を充実していくには、財務上の限界に
   どう対応するか、従業員がどんな施策を望んでいるかなどを、大企業にもまして考慮
   に入れていかなければなりません。

   そのためには、何を狙って福利厚生施策を実施するかを明確にし、目的をもって取り
   組む必要が出てきます。

   こうしたことを踏まえて中小企業が福利厚生施策の充実をめざすとき、次のような方向
   性が考えられます。

   1.企業福利計画の作成

     福利厚生の改善を進めるためには、場当たり的な施策ではなく、中・長期的な
     視野で計画を立てていくことが重要です。

     その際、計画が企業の経営計画のなかに組み込まれている必要があります。

     とくに、中小企業においては、計画段階で従業員の参画を促し、労使双方の
     相互理解のもとで、少しでも従業員のニーズに応えていく努力が大切だといえ
     ます。

   2.重点化策の推進

     福利厚生には当然コストがかかり、中小企業にとってはかなりの負担になる可
     能性があります。

     これからの福利厚生は限られた原資のなかでいかに従業員のニーズを盛り込
     むかということが大きなポイントになってきます。

     自社における福利厚生の目的を明確にし、それをもっとも充足できる施策への
     重点化を図っていくことが重要です。

     そして、費用対効果の視点からつねに施策を見直していくことが大切です。

   3.自社型の福利厚生

     中小企業は、大企業と比較してより自社の特徴をいかした経営が求められる
     ものです。

     福利厚生の面でも独自性を出した自社型の施策を講じていくことは、人材確
     保面でのアピールや従業員の活性化などにつながります。

     たとえば、斬新なユニフォームを採用したり、自社の敷地にテニスコートなどを
     併設して地域住民にも開放する企業も見受けられます。

   4.外部との共同化・提携、助成

     企業の福利厚生施策は、企業自らの財源負担で実施される場合がほとんど
     ですが、その費用負担を抑える方法として次のようなことが考えられます。

      ・国・地方公共団体、政府機関などから補助金、助成金などを受けて実施

      ・同じ業種や同じ地域の企業が共同で実施

      ・公的福利厚生施設などの利用

      ・会員組織であるリゾート、体育、住宅などの団体の法人会具に加入

  □注目される具体的な福利厚生施策

   中小企業において福利厚生の重要性は増していくばかりです。

   中小企業で福利厚生施策を進める際のポイントは、すでに説明したように「最小の
   費用で従業員ニーズを最大限に満足させる」ことです。

   ここでは、自社に適した福利厚生を検討するうえでの参考となる具体的施策を紹介
   します。

   1.生涯総合福祉ビジョンの作成

     生涯総合福祉ビジョンとは、従業員の個々人の考え方に視点をおき、国や企
     業、従業員自身の自助努力を総合的にとらえたうえで、「福利厚生のあるべき
     姿」を体系的に示したものです(詳しくは次図参照)。

     ビジョンは、国や企業への要求を羅列するものではなく、従業員の自立と参画
     をベースとした施策に重点をおき、従業員自身にライフプランを立てさせ、それ
     を援助していくという形を志向するものにします。

     生涯総合福祉ビジョンのめざすものは、従業員の生涯の安定・安心であり、働
     きがい、生きがいです。

     したがって、ビジョン策定に際しては従業員主体のもと労使相互の理解によっ
     て進めていく必要があります。

     これにより会社側では、従業員のライフステージごとに重点施策の明確化と実   
     施、制度のリストラ、費用の計画的・重点的配分、費用分担の明確化、社会保
     障制度との役割分担・調整などを総合的に考えることができます。

   2.カフェテリアプランの導入

     カフェテリアプランとは、住宅補助、介護、育児、健康づくり、年金への支援な
     ど、複数の福利厚生メニューから、従業員の一定の持ち点の範囲内(ポイント
     制)で必要なものを選択する仕組みの福利厚生施策です。

     米国ではかなり普及しており、日本でも厚生労働省の指導のもと、大手企業を
     中心に制度を導入する企業が登場しています。

     この制度の特徴・メリットとして、次のようなことがあげられます。

     (1)企業側

        ①福利厚生費の総枠を管理しやすい。

              ②画一給付による費用のムダを回避することができる。

        ③制度の実施の際、企業の実情に応じて適切なものから順次メニュー化
                 していくことにより、無理のない導入が可能である。

     (2)従業員側

        ①自分の要求する福利厚生メニューを選ぶことが可能である。

        ②ポイント制により公平感のある福利厚生が受けられる。

     カフェテリアプランの「従業員が施策メニューを選択できる」という考え方は、中
     小企業においては経費の削減と、従業員においてはニーズの充足を満たすこ
     とが可能です。 

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